【第二話~PTメンバーは少女と〇〇〇!?~】
ルルに元気とやる気を分けて貰ってから一週間、いつものようにギルドに仲間募集の為に行くと、ひどくざわざわと騒がしい空気になっていた。
俺は何事かとも思ったが、まずは第一にギルドの親父に募集をかけていた仲間が誰か来ていないかを尋ねてみる事にした。
「お、おお。 お前さんようやく来たか! もう聞いたか? あの聖少女様が冒険者登録したんだぞ!」
俺が話を振る前にギルドの親父は勝手に話し始めた。
毎日毎日押し掛けているせいか顔見知りになり、意外と気があったので仲良くなったのだ。
いつも何気に馬鹿にしたような事を言いながらも俺の事を心配してくれるような良い親父だ。
にしても聖少女。
教会の秘蔵娘だ。
この世界、聖の名前を貰えるものは全部で三人。
一人は聖イレード。
教会の一番上の立場にいる齢200歳を超える爺さんだ。
二人目が聖ドルート。
元は教会の一員だったのだが一人の女性に惚れ込みそのままそいつのもとで今も暮らしているらしい。
今現在の消息は不明。
そして三人目が聖少女だ。
聖少女、何故三人目のこの娘だけが名前じゃないのかというと、この少女が聖の称号を得たのが齢14歳の頃だったからだ。
伝説の聖の称号の初代聖女が12歳でその名を得たのに続き歴代二番目に低い年齢でその称号を得たおかげで聖女繋がりで聖少女と呼ばれるようになったのだ。
因みに聖の称号をもらうには甦生の魔法であるリバイブが使える事が条件になる。
勿論それだけではなく、僧侶としての技量が一定以上であることが認められてその上でようやく認められる称号なのだ。
未だかつてこの聖の称号を持った冒険者はギルドが出来てから二人、この聖少女で三人目だ。
成程。
それならあのざわつきも頷けるというものだ。
まぁ俺には全く関係のない事なんだけどな。
「そりゃすげぇ。 でもまぁ今の俺にとって一番大事なのは仲間の募集に変化があったかどうかなんだよな。 それでどうだ?」
俺が尋ねると親父は呆れたように笑いながら「まぁお前さんにとっちゃそっちの方が大事か」と言われた後「残念ながら変わらずだ」と言われた。
俺は溜息をつきながら「そうか」と答えてちらっとざわめいてる奴らの方を見た後に親父に「また明日くるわ」と伝えてギルドを後にした。
聖少女かぁ。
そんな娘がもし旅団とか作れば俺みたいな悩みはないんだろうな。
羨ましい、気がしないでもないが正直勘弁したいな俺には。
下手したら変な連中が仲間になるかも知れない可能性なんて俺には我慢できん。
ある意味有名過ぎるのも考えものなのかねぇ。
俺は一人そんな事を考えながら歩いていると、パタパタと俺に向かって走ってくる足音が聞こえた。
何事かと思い振り返ると、僧侶用の装備に身を固めたルルが俺に向かって走ってきていた。
「おにいさ~ん! 待って、待ってください~!」
俺がルルに気づいた事にルルも気づいたらしくそう大声を出してきた。
だが俺はそんな事よりルルの格好が気になっていた。
僧侶用装備。
つまり冒険者が着る装備品だ。
一般人が間違っても着るようなものではない。
という事はルルが冒険者登録をした?
どういう事だ?
「はぁはぁはぁはぁ。 ようやく見つけました! あっ、お兄さんこんにちわ!」
ルルはいつものように可愛らしい笑みを浮かべながらそう言って俺に挨拶をしてきた。
「あ、ああ、こんにちわ。 えっと、ルルその格好」
俺がそう尋ねると嬉しそうに微笑みながら「似合ってますか?」と聞いてきた。
俺が素直に頷くと嬉しそうに「良かったです!」と笑い「私も冒険者として登録したんです!」と言い出した。
予想はしていたがそれでも驚いた。
思わず何故かを聞くと前々から外の世界に興味があったからだと答えた。
興味があったけど一人だと怖いし、外に出る勇気もなかったけど今回俺が旅団を作った事を切っ掛けに自分も頑張ってみようと思ったらしい。
「そ、それでお兄さん。 あ、あのですね、相談なんですけど。 本当に、本当にもし良かったらで良いんですけど私をお兄さんの旅団のメンバーに加えてもらえませんか!」
俺が一人ルルの冒険者登録の現実を認めようとしている時にいきなりそんな事を言われた。
え?
なんだって?
ルルが俺の旅団に入りたい?
「あ、あの。 やっぱり駄目でしょうか?」
泣きそうになりながら俺を見つめる。
「ま、まさか駄目なんて言う訳ないだろう! ルルなら大歓迎だよ!」
と気づけばそう答えていた。
いや、だって良く考えてもらいたい。
可愛らしい少女と見まごう娘に涙目で見つめられて迫られたら断れるわけがないだろう?
答えた後やっちまったと思ったのは気のせいだ。
「あ、ありがとうございます! 私精一杯がんばります!」
嬉しそうに俺に笑いかけてくるルルを見て、悪くないと思ってしまった時点でもう駄目だ。
俺の中で完璧にルルも仲間のポジションに迎える準備が出来てしまったらしい。
初めての仲間が出来ました。
見た目14歳くらいの少女です。
こ、後悔なんてないさ!
何て、実際問題初めての仲間だ。
じわじわとその事を実感してくると嬉しさがこみあげてくる。
「ルル。 俺みたいな新米冒険者がリーダーだと迷惑ばかりかもしれないが、一緒に頑張ろうな! これから宜しく頼むな!」
俺もそう言ってルルに笑いかける。
その後二人で少し遅めの昼食を食べに広間まで行くと、其処でギルドの騒ぎ以上の騒ぎが起きていた。
俺とルルは何事かと思ってその騒ぎの中心に向かって歩いて行った。
「あらん? 私がオカマだからって何か問題があるのかしら?」
小柄な少女チックな男がそんな事を言い出した。
俺とルルは思わず顔を見合わせてそのオカマ発言をした男を見た。
見た目本当にただの少女にしか見えない。
顔立ちはルルより大人びているが小顔で整っている。
目は釣り目で青色の眼をしている。
髪型もまた黒い髪のポニーテールで身長が155センチ程だろう。
体系はルルより一回り大きくした感じだが、ルルが小さすぎる感じなので本当に普通の少女と変わりない程度だ。
後ろから見ても前から見ても言われなければオカマだと気付かないだろう。
「あるに決まってんだろうが! 俺はお前が女だと思ったから声をかけたんだよ! だってのによりによってオカマかよ! 畜生。 オカマなんてこの世に存在する価値なんてねぇんだよ!」
どうやらもう一人の男がナンパ目的であのオカマに声をかけたらしい。
だが実際話してみて相手がオカマだという事に気づき逆切れしているという事か。
周りの連中もそれに気がついたのか少しずつ馬鹿らしいという感じで離れて行った。
オカマは相も変わらず余裕そうに微笑んでる。
本当にオカマなのか?
そう疑問に思うほど少女にしか見えなかった。
「貴方から声をかけてきたのに私が怒られる意味が解らないわ。 結局私にどうしてほしいのかしら?」
オカマはそう言ってナンパしてきたらしい男を見つめる。
男は「うるせぇうるせぇうるせぇ!」と叫ぶといきなり剣を抜きだした。
思わず俺は「はぁ?」と声を出していた。
あいつは馬鹿か?
勝手に勘違いして逆切れしてその挙句に剣まで出しやがったぞ。
胸元のカードを見る限り冒険者であるのは間違いないが完璧にキチガイだろうあれは。
にしても目の前でこんな現状になっているのにそのまま黙っている訳にもいかねぇよなぁ。
本当に厄介事ってのは何でなくならないもんなのかねぇ。
「おいおい、たかがナンパ失敗したくらいで剣なんてだすんじゃねぇよ屑野郎」
あれ?
俺今相手を刺激してますか?
おいおい、幾ら苛立ってたからってもう少し穏便に対処しようぜ俺。
「あん? 何だ手前ぇ! そのオカマの仲間かよ!」
そうだとも違うとも答える前に男が剣で斬りかかってきた。
「あっぶねぇなこら!」
なんとか躱す事に成功したが危なかった。
後ろのオカマに視線を向けると少し驚いたように俺を見ている。
「あんたも今のうちに逃げろって。 俺だっていつまでもつか解らんし、明らかに俺よりレベル上だから早くな」
俺はそういうと男に向かってまた馬鹿にしたような発言をしてオカマから離れる。
男は完璧に頭に血が上っているらしくオカマの事等忘れたように俺に向かって斬りかかってくる。
周りではざわざわとまた騒ぎになっているのでもう少しすれば警備員か冒険者が来て抑え込んでくれるだろう。
俺はそれまで必死に避けていれば良いだけだ。
と思っていたのもつかの間で男はいきなり剣を振るのをやめると魔法の詠唱を始めた。
おいおい、本気かよ!
あいつ魔力持ちなのかよ!
聞いてねぇ、見た目完璧に剣士なんだから剣だけ振ってろよ!
「あーもう、何であんたもまだ逃げてないんだよ! ルル!」
ルルは最初にいた場所から動かず、無表情で今も詠唱をしている男を見つめている。
ルルの無表情なんて初めて見たが、何か底知れぬ恐怖を感じるぞ。
って、そんな事を考えている場合じゃねぇ!
何に驚いて固まっているのか解らないオカマとルルを抱きしめ、庇うように覆いかぶさる。
次の瞬間俺の背後で炎が上がった。
「ぐぅぅぅ!?」
俺の背中を焼く炎。
痛てぇ。
滅茶苦茶痛てぇ。
でも未だなんとか生きているところをみると相手の魔法はかなりレベルの低い物らしい。
にわか仕込みの魔法って所だろう。
だが、レベル1の俺には致命傷だ。
もうすでに身動きが取れないどころか今にも意識が飛びそうだ。
炎がおさまったのを確認するまでは何とか意識を保っていられたが俺の限界はそれまでだった。
最後に泣きそうな表情で俺を見つめるルルと驚いた表情で固まったままのオカマの表情を見て、二人に怪我がない事を確認してから意識を失った。
ユルサナイ。
私のお兄さんに傷を負わせたあいつはユルサナイ。
「癒せ、すべての傷を。 一片の負傷もなく完璧に!」
私のその言葉と共にお兄さんの背中が光に包まれる。
白いその光は癒しの光。
フルヒール。
ダメージを全て完治させる治癒魔法だ。
お兄さんの背中の火傷は予想以上にひどい。
お兄さんのレベルが1だからだ。
相手のレベルは少なくとも10以上はあるだろう。
炎の魔法の中級を会得していることから20はあってもおかしくない。
だが威力があまりにも低いことから適性は低いのだろう。
それでもレベル1のお兄さんにとっちゃ致命傷、下手したら死んでいてもおかしくない。
ユルサナイ。
私がゆらりと立ち上がると、気づけばお兄さんが庇ったオカマの男の人も立ち上がっていた。
その人はお兄さんの事を驚いたような表情で見つめた後、嬉しそうに笑ってきっっと男の方を睨みつけた。
「貴方、よくもまぁ無関係なこの人みたいな良い男を気づ付けたわね。 許さないわよ?」
この人見る目はありますね。
お兄さんの事を良い男何て、本当に良く解っています。
「私のお兄さんを傷つけた報い、簡単に死ねるオモウナヨ」
少し理性が抑えきれないがお兄さんは気を失っているし問題ないよね?
隣のオカマの男の人が少し驚いたように私を見ているがお兄さんに気づかれなければ問題ない。
「う、うるせぇ! オカマと餓鬼が何粋がってやがる、死にやがれ!」
それと共に先ほどと同じ詠唱を唱え始める。
「我が望みし相手に苦痛を」
私は小さな声でそれだけを唱える。
私が唱えたのは受けるダメージが三倍になるウィーク。
続いて反射するリフレクトを唱えようとしたところで隣のオカマの男が詠唱している事に気がついた。
「炎よ我が手に」
それだけの詠唱で相手の男がはなってきた炎の魔法がオカマの男の目の前でたち消えた。
「なっ!?」
男は驚愕の表情でその様子を見つめている。
私も少なからず驚いた。
オカマの男が行ったのは魔法の強制解除。
余程の実力差があっても早々出来るような事ではない。
ましてや弱めるだけではなく完璧に消し去るなんてどれだけの腕前なのか想像すらできないレベルだ。
その上、このオカマの男はそれを一息の詠唱で行ってしまっているのだから驚きもひと押しだろう。
「燃えなさい、死なない程度に」
その言葉と共に男の体が炎に包まれる。
二階建ての建物よりさらに高い炎の柱。
上級炎の魔法のブレイズ。
私の魔法の効果と合わせて完璧に致命傷の攻撃なはずなのに男はそれでも生きていた。
全身やけどで生きているの不思議な状態でもそれでもまだ生きている。
私のウィークを織り込んだ上でこのオカマの男はぎりぎり男が生きられる範囲で威力を抑えたのだろう。
本気でこのオカマの男がどんな存在なのか解らなくなってきた。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんの大事な人を傷つけちゃってごめんなさいね。 でもあんな屑を殺したところで私にもお嬢ちゃんにも其処の良い男にも傷がつくだけよ。 あれで十分。 もぅ二度とまともに話す事も出来ないかもしれないけどね」
オカマの男はそう言って私に微笑んだ。
その後お兄さんを背中に担いで私についてくるように言って歩き始めた。
向かった先はギルド。
「親父さん、少し二階の部屋をお借りしても良いかしら?」
オカマの男はギルドに入ると、ギルドのマスターにそう声をかけて階段を上って行った。
お兄さんは何気にギルドのマスターとも知り合いだったらしく、気絶しているお兄さんを見てギルドのマスターも心配そうに声をかけてきたが、私が直しましたと言うと安心したように「そうか」とだけ答えて許可をくれました。
二階の部屋のベッドにお兄さんを寝かせるとオカマの男が「本当に良い男ねぇ」とつぶやいて私を見つめた。
「はい! お兄さんは本当に良い人です。 だから貴方がどれだけ強くても渡しませんよ」
私はそう言ってお兄さんの前に立ちふさがる。
オカマの男の目を見れば、正直少しお兄さんの事が気になっているのが解ったからだ。
「ふふふ。 大丈夫、お嬢ちゃんの良い人をとったりはしないわ。 私はねぇ見ているだけで良いの。 私が好きだと思える人が幸せになるのをね。 にしても、オカマと知った上で助けてもらったのは初めてだったわ。 案外こういうの嬉しいものね」
そう言って微笑んだ。
その雰囲気からこの人は本当にそういう人なんだろうという事を感じた。
何故だか私はこの人の事が気にいってしまった。
何よりお兄さんを私の良い人と言ってくれた事が高得点だ。
良い目をしている。
私のお兄さんに手を出さないと言うし、それを何故か信じられる。
気づけば私は警戒していたのが嘘のようにそのオカマの男と話していた。
「あっ! すいません、いまさら何ですが私はルル。 ルル=エリシャです」
しばらく話していて未だ自己紹介をしていない事に気付いた私は慌ててそう言った。
オカマの男も「そういえばまだだったわね」と言って続いてくれた。
「私はココール=ノイスよ。 よろしくね」
私達はお互いによろしくと挨拶しあいながら話を続けた。
そろそろお兄さんが目を覚ましそうだと感じた頃、私は思い切ってココールさんに旅団に所属しているのかを尋ねてみた。
「私は何処にも所属してないわよ。 何故かオカマと解ると敬遠されて結局ね。 それに私自身好きでもない人の所にいるなんて事が嫌いなのよ」
ココールさんの返答を聞いてとりあえずホッと安心の一息が洩れた。
そして改めてココールさんを見つめながらお願いをしてみた。
「あの! もしよかったらお兄さんの旅団に入ってもらえませんか? 今私とお兄さんの二人しかいないんです。 お兄さんはさっきのを見て解ったと思いますが低レベルの冒険者です。 というよりもついこの間冒険者になったばかりで旅団もつい最近たち上げたばかりなんです。 ココールさんみたいな冒険者に頼むのは」
私は此処まで言ってココールさんに止められた。
「ルルちゃん。 其処まで卑下した言い方をする必要はないわよ。 それに私なんて其れほど大した冒険者じゃないわ。 少しだけ運が良かっただけよ。 それに私はルルちゃんもそれにこの良い男の事も凄く気に入っているの。 だからもし誘ってくれるなら喜んで入らせてもらうわ」
そう言って微笑んでくれた。
「でもまずはこの良い男の許可がないとどうしようもないでしょう?」
と言ってきたので私は自信を持って「大丈夫です!」と言い切った。
だってお兄さんだから。
「お兄さんは絶対に断ったりなんてしないですよ。 オカマとかそういう事で差別したりする人じゃないです! 何よりきっとココールさんみたいな強い人が仲間になって凄く喜んでくれます!」
私がそういうと、ココールさんは私とお兄さんを見つめて「信頼しているのね」と言ってきた。
私は「勿論です!」と胸を張って答えた。
その後、私のお兄さんとの出会いや、お兄さんがどういう人なのかを話しているうちにお兄さんが目を覚ました。
説明すると突然の事で驚いていたようだが、やはり私の思った通りでお兄さんはココールさんが仲間に入る事を喜んでくれた。
うん。
やっぱり私のお兄さんは良い人だよね!
目が覚めると其処には先ほど助けたオカマの男とルルが楽しそうにおしゃべりをしていた。
そしてそのオカマの男ココールと言うらしいが旅団に入ってくれるという。
あまりにも突然の事で驚いてしまったが仲間が増えるのは嬉しい事だ。
オカマだろうがなんだろうが正直関係ない。
俺に襲いかかってこないのであれば関係ない。
だから万事OKだろう。
何よりココールは高レベルの冒険者だった。
レベルが95と滅茶苦茶高い上、ランクがSの冒険者でもある。
そんな人が仲間になってくれるのだ嬉しくないわけがない。
俺が仲間が増えた事を喜ぶと、ココールは嬉しそうに笑いながら「これから宜しくね」と言った後ルルを見て「言ったとおりだったわね」と言っていた。
ルルもまた「勿論ですよ!」と嬉しそうに微笑んでいた。
どういうことだろうか?
でも、二人とも嬉しそうに微笑んでいることから悪い事ではないだろう。
ならば良い。
とにかく今は新しい仲間が増えた事を喜ぼう。
俺は改めて二人によろしく頼むと言ってこれからの事を話し始めた。