【第一話~流されて旅団~】
俺がこの世界に生まれ落ち早20年。
とうとう俺の伝説が幕を開けるのだ!
何て思っていた時期がありました。
俺は一人酒場で酒をちびちびと飲みながら溜息をついた。
仲間がみつからない。
俺は20歳になると同時に旅団申請を出し、俺がリーダーの旅団を作ることにした。
周りに呆れられ、嘲笑を受けた。
何故ならば俺には実績という物が何一つないからだ。
モンスターがはびこり、未発掘の遺跡、ダンジョンが幾らあるか解らないこの世界で俺は今まで戦闘や発掘、探索とは無縁の生活を送っていた。
雑貨屋でアルバイト、酒場でアルバイト、引っ越し手伝いのアルバイト等々、本当に全くと言ってい良い程そういう世界とは無関係な場所にいたのだ。
だが心の内は違った。
俺は常にその世界で俺がリーダーの旅団を作る事を考えていた。
だからこそそのお金を貯める為にアルバイトに精を出し、必死に金を溜めこみ今日やっとその夢が叶ったのだ。
そんな俺の胸元には白いカードが一枚ぶら下がっている。
冒険者としての俺の経歴や今現在のレベルやランク等が書かれている代物だ。
其処に書かれているのはレベル1という最低レベルのレベルと、ランクEという最低レベルのランクだった。
最低レベルで最低ランクのリーダー。
そんな場所に誰が来ると言うのか?
今までそんな事は一切考えていなかった。
実際俺でも厭だ。
こんな不安が有り余るやつのところに入るなんて。
まぁ何より俺は誰かの下で冒険をしたりするのが一番厭だからそれ以前の問題だが。
「はぁ」
俺はまた溜息を吐いて酒を呑みこんだ。
二時間ほど酒場でちびちびと酒を飲み落ち込んだ俺はとぼとぼと自分の宿屋まで肩を落として歩いていた。
肩を落とし、地面を見ながら歩いていた俺に宿屋に入る直前で声が掛けられた。
「お兄さんこんばんわ! あの、今日はどうしたんですか? いつものお仕事先にいないようでしたけど、それに何か凄く元気がないみたいですよ」
お兄さん、その一言で誰かが解った。
俺が良くやるアルバイト、通称何でも屋。
職員は俺一人。
だからこそ自由に辞めたりしても問題がなかったのだ。
俺はいつも町の広場の噴水前で一人暖簾を出して仕事を探していた。
このお兄さんと呼んでくれる少女、名前をルルと言うのだが、彼女はどうやらあの近くに住んでいるらしく良く俺に話しかけてくれる優しい娘だ。
時々差し入れまでくれる出来た娘でもある。
初めて出会った切っ掛けは、俺自身呆れるほど本気でかと思ったが不良連中に絡まれているところを助けた事からだった。
ルルは結構な箱入りで育てられたらしく世間の事で知らない事が多すぎた。
その日もまた厭な事があってプチ家出に近い感覚で外に出たらしい。
そして追ってくる家の人から逃げている間に路地裏に入り不良に絡まれていたという。
幸い俺はこの町の事なら端から端まで知っている。
この手の仕事をしていたのだ、危ない人達にも知り合いが何人かいるのでそっち界隈の情報も少しは手に入る。
その不良達は幸いにも俺の知っているそっち系の人より立場が弱い人だったらしくその名前を出したらすぐに引っ込んでくれた。
ルルとはそれが切っ掛けで良く話すようになったのだ。
今日は、いつもの場所に俺がいなかったから心配して宿屋まで様子を見に来てくれたらしい。
ルルはいつもそうだ。
仕事でその日は其処にいなかったりした時は大概こうして宿屋前で俺を待っていてくれ、仕事だと解れば安心したように笑ってくれるのだ。
本当に良い娘だよなぁ。
此処までしてくれるなら俺の事が好きなのかも?
とか思ったけどないよな。
こんな良い娘が俺の事好きとか夢見過ぎだって突っ込まれるか。
いつもなら俺の様子とかを見て安心したような表情で「お疲れ様です! お帰りなさい」とか言ってくれるのだが、今日は俺が落ち込んでいたせいか心配そうに俺を見つめている。
ルルは身長が150センチ程の小さな少女だ。
最初見た時は正直12歳から14歳くらいだと思った。
実際聞いてみると17歳だという。
非常に驚いた。
流石にそのときはルルに拗ねられ、機嫌を直してもらうのに少し時間がかかったものだった。
綺麗な腰下近くまでの緑掛かった黒いストレートの髪。
それと同じ色の垂れ目がちの優しい瞳。
顔立ちは俺が最初其れほどまでに幼く見える程童顔で可愛らしい。
俺はルルに何でもないよと伝えながらお礼を言って宿屋に入った。
だがルルはそんな俺の言葉が信じられなかったらしく俺に続いて宿屋に入ってきた。
初めてじゃないので宿屋のおじさんもルルを見て「いらっしゃい」と優しい笑顔で迎えてくれる。
そして俺はそんな宿屋のおじさんにまで「大丈夫かい? 何かあったのかい?」と心配された。
ああ、申し訳ない。
皆優しい良い人ばかりだ。
俺はあいまいに何でもないですと答えながら部屋に戻った。
部屋の中でルルと二人になる。
無言でじぃっと俺を見つめてくるルル。
ああ、無理。
そんな可愛らしく心配そうな目で見られたら黙っている事なんて出来るわけがありません。
「本当に何でもない事なんだ。 前に話しただろう? 俺が旅団を作ってリーダとなるのが夢だって。 今日やっとその資金が貯まったから旅団を作る事に成功したんだ。 だけど全く考えてなかった。 俺自身が最低レベルで最低ランクの冒険者として始めるという事に。 そりゃそうだよな、そんな奴の所に誰が好き好んで来るのかって話さ。 結局誰一人来るところか笑われて、蔑まれてそのまま帰ってきたんだ。 本当に馬鹿だよなぁ俺」
俺がそう言うとルルは少し悲しそうな表情をした後「そんな事は無いです!」と話し始めた。
「お兄さんは良い人です! そんな馬鹿にする人達の事気にする事ないですよ! 確かにお兄さんは冒険者になったばかりで何も実績がないかもしれません。 それでも誰もがそれで馬鹿にする人達ばかりじゃないと思います。 諦めずに探せばきっと仲間だって見つかります! 絶対です、お兄さんに仲間がみつからない何て絶対ありません、神様だってそう言います! だからせっかく叶えた夢なんです、諦めたりしないで頑張ってください!」
何処までも真っ直ぐに真剣に俺を目を見ながらそう言ってくれるルル。
正直な話、諦めかけていた俺にはとても嬉しい言葉だった。
同情から言っている言葉、そういうのではなくルルは本気でそう思ってくれている、それはルルを見れば解る。
一人でも、そう思ってくれる人がいるだけで今の俺は救われた気分だった。
何より、気づけばいつの間にか泣いていたらしくルルがあわあわと慌てながらどうしたものかと混乱している姿に自然と笑みがこぼれた。
そうだよな、こんな事くらいでせっかく叶った夢を諦める何てそれこそ馬鹿だよな。
「ルル、ありがとう。 本当にありがとうな。 ルルの言葉凄く嬉しかった」
正直セクハラになるかもと思ったが、この時の俺はその行動を抑える事が出来なかった。
気づけばルルを抱きしめながらそう言っていた。
「はぅぁ! ひ!ひえ! わらしのほうこそうれひいでふ!」
正直俺には何て言っているか聞こえなかったが拒否されなかった事にほっとした。
真っ赤になりながら今にも湯気が出そうなルルにまた笑いが漏れた。
あまりにも男性慣れしていないみたいだ。
いきなり抱きつかれれば普通は怒って殴られてもおかしくない。
拒否されず受け入れられても普通此処まで赤くなったりはしないだろう。
俺はそんなルルを見つめながらもう一度ありがとうと礼を言って頭をなでた。
最初の頃は頭をなでたりするのは失礼かと思っていたのだが、前に一度あまりにもちょうどよい場所に頭があり、その行動から我慢できずになでてしまった事があった。
その時厭がるところか少し嬉しそうに表情をほころばせてくれたから、それ以来何かと結構頭をなでたりすることが多くなった。
俺はその日、ルルのおかげで新たに決意を固める事が出来、明日からもまた頑張ろうと決めたのだった。
お兄さんがいない。
私はいつものように教会から抜け出していつもお兄さんが暖簾を立てている広場まで歩いてきた。
だというのに今日はお兄さんがいない。
仕事中かな?
そう考えた私はお兄さんに会えなかった事にがっかりしながら教会に戻る事にした。
お兄さんがいないのならばわざわざ教会から抜け出す必要等ないのだから。
とりあえず今日もいつものように頑張って、その後お兄さんを宿屋の前で待っていよう。
私はそう考えて教会に戻って行った。
夜、私は宿屋の前でお兄さんを待っていた。
いつもより全然遅い時間。
少し心配になってきた。
何かあったのだろうか?
お兄さんは結構危ない事をする事がある。
今なら解るが、初めて私を助けてくれた時もかなり危険な状態だった。
私を囲んだ五人の危ない人達は皆魔力持ちの上、剣まで持っていた。
つまりかなりのレベルの冒険者か傭兵だ。
だというのにお兄さんはさっと私とその危ない人達の間に体を割り込ませて話し始めた。
偶然お兄さんが知っていた人がその人達より立場が上の人だから良かったものの、一歩間違えればお兄さんはあの時死んでいた。
この世界、死ぬなんて事は珍しくも何もない。
些細なケンカ一つで死ぬ可能性だってあるのだ。
ましてやそれが魔力持ちや冒険者、傭兵ならばなおさらだ。
その時の私はそんな事を知らなかった。
それでも颯爽と助けてくれたお兄さんがカッコ良いと思った。
それ以来だろう、私がお兄さんにたびたび会いに行くようになったのは。
最初は助けてくれたお礼と、お兄さんが絵本とかで読んだヒーローに近い感覚があったからだった。
でもそれがだんだんと好きという感情に変わるのに時間はかからなかった。
私は教会から抜け出しているせいかよくよく厄介事に絡まれる事が多い。
そのたびにお兄さんが私を助けてくれた。
不良達にかまれる事も何度もあったし、教会からの追手に追われて捕まりそうになったことも何度もあった。
正直お兄さんにとって私は厄介事でしかなかったと思う。
だというのに時には仕事中にも関わらず私の事をいつも助けてくれたのだ。
私が自業自得でそんな目にあっているというのに、終わった後はいつも笑いながら「怖かっただろう? もう大丈夫だ」と言って私の頭をなでたりしてくれた。
凄く安心して、思わず泣いてしまった事だって何度もある。
ああ、正直恥ずかしい思い出だけど凄く良い思い出でもある。
だからこそ何かに巻き込まれたのじゃないかと心配になるのだ。
仕事で見かけない日はいつも心配で仕方ない。
だからいつも宿屋前でいつも通り帰ってくるお兄さんを見るまで安心できないのだ。
今日はそんないつもより一段と帰りが遅いようだ。
中の宿屋のおじさんに聞いてみてもまだ帰ってきていない楊で、宿屋のおじさんも少し心配しているようだった。
私がいよいよ何かあったのかと考え始めた時、お兄さんがひどく肩を落として地面を見ながら帰ってきたのが見えた。
どうしたのだろうか?
見た感じで怪我等は無いようだけど、いつもと違うのは解る。
何せ私がすぐ横にいるのに気付かずに宿屋に入ろうとしたのだ。
普段ならかなり距離があるところから私がいる事に気づいて急いで近寄ってきてくれる。
いつもなら「ごめんね、今日も待っていてくれたんだ、ありがとう」と言ってほほ笑んでくれる。
だというのに今日のお兄さんは今にも死にそうなほど落ち込んだ様子で宿に入ろうとしていた。
だから今日は私から声をかけたのだ。
夜だからこんばんわ。
其れから話し始めたのだが、お兄さんはやっぱり元気がない。
いつもみたいにありがとうとは言ってくれたが、いつもみたいに少し雑談したりすることもなくそのまま宿屋の中に入ってしまった。
本当に何があったんだろう?
私は心配でたまらなくなり、思わずお兄さんに続いて宿屋の中に入って行った。
宿屋のおじさんもお兄さんの様子を見てひどく心配したように声をかけたが、やはりお兄さんは何でもないですと言って部屋に戻ってしまった。
私は宿屋のおじさんに頷いてお兄さんに続いて部屋に入った。
しばらくの間、お兄さんは黙ったまま俯いていたが、少ししてからぽつぽつと事情を話してくれた。
お兄さんが仲良くなってからいつも話していた夢。
旅団を作ってリーダーになる。
一週間に三回はいつも言っていたお兄さんの夢。
その夢を話している時のお兄さんは一段と良い笑顔を浮かべて話すのでその旅に顔を赤くしたものだ。
そんなお兄さんの夢が叶ったらしい。
正直なところ旅団なんて危ない物にはなって欲しくなかった。
お兄さんが落ち込んで諦め掛かっているのは私には良く解る。
というよりも誰でも解るだろう。
諦めてもらうなら今がチャンスだった。
だけど私にはそれは出来なかった。
お兄さんが今まで話していて本当にこの旅団を作りたがっていたのを知っているから。
こんな悲しい表情をしているのを見ていたくなかったからだ。
何よりお兄さんを馬鹿にするなんて許せない。
そいつらには絶対に神の裁きが下るだろう。
むしろ私が下す。
お兄さんを此処までした報いをウケサセテヤル。
……いけない、今はお兄さんが元気になってくれるように私が頑張らないと!
ただ、どうしたらお兄さんが元気になってくれるか解らなかったのでとにかく私の思った事をそのまま言う事にした。
そしたら嬉しそうに「ありがとう」と言ってその後泣き出してしまった。
え!
え?
えぇぇぇぇ!?
ど、どうしたらよいのこれ!?
何でお兄さん泣いちゃったの?
私何か悪い事したの?
どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。
私が混乱しながらあたふたとしていると、お兄さんがクスリと笑ってもう一度「ありがとう」と言ってくれた。
ほっとしたのもつかの間で、気づけばお兄さんに抱きつかれていた。
あsdfghjkl!?
な、な、なぁぁぁぁぁ!
お兄さん意外と良い匂い。
暖かいし見た目より逞しい。
って、ふぁあぁぁぁぁぁ!
だ、だきつかれて、抱きつかれてる!?
それより私いま何を考えていたの!?
ふぁ、ふぁ、嬉しい、どうしよう。
そんな感じでおそらく今まで生きていて一番嬉しくて動揺しているときにお兄さんがぽつりと私の耳元でつぶやいた。
「ルル、ありがとう。 本当にありがとうな。 ルルの言葉凄く嬉しかった」
きゃぁぁぁぁぁ!?
そんな耳元でお兄さんの声を聞いたら私がおかしくなります。
むしろ私の方が嬉しいです。
もうこのまま死んでも良いです!
そんな調子で言葉にならない言葉をお兄さんに返したが多分聞こえていない。
だって私自身何ていったか聞き取れないほどふぁふぁした言葉だったから。
少ししてお兄さんが離れていくのが解り、思わず離れたくないと思った。
だけどこれ以上は本当に私の理性が飛びそうだったので我慢してそのまま離れる事になった。
これでも教会では色々と抱きしめたりすることが多々あるのだ。
慣れているつもりだったが、相手がお兄さんになるだけで此処までとは、流石お兄さん。
私は顔が真っ赤なまま俯いているとお兄さんがまた笑った。
思わず少しほほを膨らませてお兄さんを睨んだが、本当に嬉しそうに笑っているお兄さんを見て気づけばお兄さんと一緒に私も笑っていた。
そんな傍ら一つの事を胸に誓った。
私がお兄さんの夢の手助けになってみせる、そう誓ったのだ。
お兄さんが仲間が出来ないというのであれば私が一番の仲間になって見せよう。
全ては明日。
明日手続きをしなくては何も始まりはしない。
今そんな事を言ったところでお兄さんは信じてくれないだろう。
だから全て手続きをしてお兄さんを驚かしてやろう。
楽しみに待っていてほしいです、お兄さん。
私がお兄さんの夢の手助けを絶対にしますから。
そうすれば私はお兄さんと離れ離れにならなくても良くなります。
一生一緒にいられますよお兄さん。
そう、一生一緒に、ふふふふふふ。
楽しみですねお兄さん。