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No.15817の一覧
[0] 【習作】魔術師、還る(銀英伝 逆行)[斗星](2010/01/24 18:13)
[1] プロローグ 『魔術師還る、ただし士官学校に』[斗星](2010/01/27 17:51)
[2] 第一話 『魔術師、いきなり落第危機』[斗星](2010/01/27 17:50)
[3] 第二話 『魔術師、やる気を出す』[斗星](2010/01/27 17:50)
[4] 第三話 『魔術師、大いに悩む』[斗星](2010/01/27 17:49)
[5] 閑話その1 『目覚めよ、ワイドボーン!』[斗星](2010/01/27 17:49)
[6] 第四話 『魔術師、決断の日』[斗星](2010/01/27 17:56)
[7] 第五話 『魔術師、友を巻き込む』[斗星](2010/01/31 11:45)
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[15817] 第二話 『魔術師、やる気を出す』
Name: 斗星◆52051aa0 ID:876a2a6f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/27 17:50
先の歴史を知っていてもままならない事がある。
還ってきたヤンがそれを始めて実感したのはこの瞬間とも言えるであろう。





第二話 『魔術師、やる気を出す』



ヤンは二度目の学校生活をそれなりに楽しんでいた。
元々戦史好きのヤンとしては、それらに関してはなんど講義を受けても楽しいものであったし、
むしろあらかじめ(過去に学んだため)知っている事によって新たな発見をする事や別の角度から捉えることも出来た。

軍事の事を考えずに大好きな歴史を研究する日々。
ヤンはそんな日々がとても幸せであった。
(ちなみにヴァーミリオン後の退役生活は、何だかんだで帝国の動きやフレデリカの事を気にかけていた為に歴史に没頭するとまではいかなかった)

もちろん嫌いな学科は多分にあったが、
そんな物は部下の生死やラインハルトの動向に頭を悩ませる事と比べれば何と言う事はない。




だが、そんな彼の幸せは長くは続かないのであった。

「はぁ、戦略研究科への転科ですか。」

「そうだ。戦史研究科が来年から廃止される事になったのでな。
君にはシミュレーションであのワイドボーンを破った実績があるし、戦略研究科へ入って貰おうと思っている。」

校長室に呼ばれたヤンは、予想通り(と言うか歴史通り)にシトレより転科の通告を受けるのであった。


「わかりました。どうせ今更反対したところでどうにもならなそうですし、つつしんでお受けいたします。」


あっさりと受けるヤンだが、これは以前の経験からどうにもならない事がわかっているため、
今更なにかをするのが労力の無駄だと考えたからである。

また、軍人生活の中でこれ以上の理不尽が多数にあった為に慣れてしまったとも言えよう。
(その原因の何割かは目の前の黒肌の偉丈夫のせいなのは言うまでも無い)

そしてこの態度も若干だが歴史を変える事となる。

「(もっと嫌がるだろうと思っていたが意外だったな。
戦史科にいたとはいえ軍人としての心構えは持っていたと言う事か)」

何故ならシトレがヤンの事をより一層評価する事となるのだから。


・・・

シトレの通告を受けた後に学生寮に帰ったヤンは考え事をしていた。

そしてそれは一つの結論を出す。

「(どうやら私は時間を逆行してしまったようだ。まったく、幽霊になったり逆行したりと非日常的な事は続くものだ)」

正直な話、ヤンは前史での日々が実際にあった事なのか自分が長い夢を見ていたのかの判断がつかずに居た。

何せ前史の学生時代はヤンにとって10年以上前の話であり、
細かい部分などから判断しようにも出来なかったからである。

だが、そんな中で忘れられようも無い事件が起きた。


そう、戦史研究科の廃止である。


父親の死と共にヤンの運命を変える事となる大事件である。
これが無ければあるいはヤンは統合作戦本部の記録統計室で軍人生活の全てを過ごせたのかも知れないのだから。
(ヤン本人の希望であり、本当にそうなっていたかは不明)


これを受けてヤンは自分は逆行したと考えて問題ないと考えた。

それにもし自分が長い夢を見ていたとしても、
この様に未来に起こる事がはっきりと予測できる予知夢だったのならば・・・

「結局時間を逆行したのと同じ事と言うことか・・・あぁ面倒な事になったものだ。」

そう言ってヤンは溜め息をついたが、その瞬間に部屋の入り口の扉が開いたのだった。

「おい、どうしたヤン。不景気な面をしてるぞ?」

入ってきたのはラップであった。

「やぁ、ラップ。どうやら春から君も私も転科させられるそうさ。
 そして私は戦略研究科行きだそうだ。まったく柄でもない。」

ヤンは悩みの元を伝えられるわけも無く、不機嫌であるいかにもな理由を答えておいた。

「あぁ、戦史研究科がつぶれるって話か。
 もっとも他の科に行けるって喜んでる奴らがほとんどの様だけどな。」

「私からすればありがた迷惑ってところさ。」

ラップがそう言うのにも理由がある。
戦略研究科とはかつては730年マフィアの面々も所属していた事がある、
士官学校の中でも特にエリートが集まる科であり、
戦史研究科はまさにその真逆に位置する科である。

シトレも言っていた事だが、戦略研究科に入れない者が他の科に入るのが普通であり、
その流れが逆になる事など士官学校始まって以来ほとんど無かった事なのである。

しかも言っては悪いが落ちこぼれ中の落ちこぼれが集まる戦史研究科からである。


「とりあえずお前の心境はともかくとして、俺も戦略研究科へ転科だってさ、
ジェシカやキャゼルヌ先輩らも喜ぶだろうし、また一緒につるめる事をおめでとうと言っておくよ。」

一瞬ジェシカという言葉を聞いて、ヤンは眉をひそめる。
前史においての目の前の彼と彼女の悲劇が頭をよぎったからだ。

「まぁジェシカはともかく、キャゼルヌ先輩が喜ぶのには同意だけどね、
『社会とは得てして厳しいものだ、社会に出る前に気づけてよかったじゃないか』とか言うんじゃないか?」

「まったくだ。」

そう、ヤンはラップと軽口を叩きつつも心の内では別のことを考えるのであった。

「(はぁ、アレが本当に起きる未来だとするのならどうしたものかね・・・)」


・・・

その日の夜中、ヤンはラップを起こさないように気を利かせつつ考え事をしていた。

「(はぁ、本当にアレがただの夢だったのならばどれだけ楽だっただろうか・・・)」

ヤンの希望は今も昔も変わらず、戦争とはかけ離れた世界でゆったりと歴史書でも読んで過ごす生活であり、
戦争の中で武勲をあげて英雄となる事など欠片も考えた事が無い。

正直言ってアレがただの夢だったのならば、
もう少しマシな人生を歩ませろとは思うがそれで済ませる問題である。

しかしながらどうだ?

この現実は自分を夢の中と同じく英雄への道を歩ませようとする。
英雄になる気などないヤンにとって見れば、まさに大きなお世話でしかない事である。


それに戦史研究科の廃止はある一つの変えがたい事実を示している。

「自由惑星同盟の経済は危ない・・・か。」

そう、戦史科の廃止は士官学校に戦史研究科などを置いておく余裕が無いからであり、
ひいてはその元となる同盟軍、
更に言えば同盟自体の経済状況に問題があるという事である。

前史において同盟経済は緩やかに終焉へと歩みを続けていたが、
その一歩はすでにこの時期にあったのだと考えさせられた。

「もしこのまま戦争が続けばどちらにせよ同盟経済は破綻するか。」



そしてここまで考えて



ヤンがもっとも考えたくなかった事が



あえて考えないでいた事実が頭を過ぎる。




「帝国にラインハルト・フォン・ローエングラムが現われる・・・か。」

決して自分で望んだ事ではないが、
ヤンの存在がラインハルトの覇業を妨げる一因になっていたのは代えがたき事実である。

あるいは自分がイゼルローンを落とさなければ、
アムリッツァの様な暴挙に出ないのではないかとも考えたが、
ヤンはその考えを即座に首を振って否定した。



ここで一つ仮定の話をしよう。

もしもヤンが同盟軍に存在しなかった(居たとしても前史ほどの地位に居なかった)場合の話である。

まずは第四次ティアマト会戦になるが、前史以上にラインハルトに翻弄される可能性があり、
下手をするとこの時点でパエッタとボロディン、更にウランフまでが戦死する事になる。

次にアスターテ会戦だが、パストーレとムーアは元よりであるが、新たにもう一個艦隊がここで犠牲になる可能性がある。

ヤンによるイゼルローンの攻略がない為にアムリッツァでの損失は無くなるかも知れないが、
政権の維持を目的としてイゼルローンへの出兵が決定した挙句に最大で三個艦隊程度がやられる可能性はある。

ここまでで最悪の結果を仮定し、九個艦隊と有能な提督の多くを同盟は失う事となり、
同盟経済も悪化の一途をたどる。

そして皇帝の崩御を切欠とする帝国の政権争いが起こり、
同盟では救国軍事会議のクーデターが起こる。
(ヤンの居ない同盟を甘く見て、何も手を打たない可能性も若干あるが)

このクーデターは可否に限らず同盟の力を大きく削ぎ取り、
そして門閥貴族を倒して万全の体制のラインハルトがイゼルローン回廊から攻めて来る。
(その場合イゼルローン要塞がリップシュタット連合軍に使用されて破壊される可能性もあるが、
ガイエスブルグ要塞を移動させれば結局同じ事である)

この際に同盟に残された戦力は精々三個艦隊程度と予測され、
ラインハルトの陣営にはヤンへの牽制で派遣されたロイエンタールらも加わる。

はっきり言ってしまえばヤンが居ようが居まいが関係なく同盟は滅びる。
それも『より早い時期に』だ。


「一体全体わたしにどうしろと言うのさ・・・」

先ほども言ったがヤンの望みは英雄になる事等ではない。
自分と、そして目に入る大切な人たちの幸せであり、
それは現在では知り合っている筈の無い、
彼にとって大切な二人の幸せも含まれているのである。

「ユリアン・・・フレデリカ・・・」

幽霊となった自分が見た最後の記憶。


『何と言われても構いませんよ、成功さえすればね。』


ユリアンは私を捨ててヤンの意思を継ぐことを選び、


『あなた、見ていて下さいますね?』


フレデリカは未来を捨ててヤンの理想に殉じる道を選んだ。


最後まで見届ける事は適わなかったが、
自分の死を切欠に辛い道を歩ませる事となる二人の事を、
ヤンは決して見捨てる事は出来ないのである。


「未来を変える・・・ねぇ。」

そう呟いたヤンの瞳は、かつて無いほどにやる気に満ちていた。

---------------
後書き
感想で指摘されている方も居ましたが、
同盟の勝利に必要なものの一つにヤンのやる気は欠かせません。
ラインハルトほどの覇気を見せろとは言いませんが、
少なくとも自分の身を守るために地位を上げることを考える程度には。

逆行のタイミングが死亡直後で無かったのは、
この辺を不自然にしない為の打算だったり(爆)

あとヤンとラップが寮で同室なのは独自設定です。
今後も原作に描写されていない部分に関してはご都合主義発動で捏造される可能性がありますが、
あらかじめご了承下さい。

追記
指摘がありましたので一部内容を修正いたしました。
ラップがヤンと同じ戦史科だって忘れてた・・・


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