その日も俺は麻帆良学園女子中等部の食堂で日替わり定食を食べていた。
サバ味噌こそ至高にして究極のオカズだよな、なんて考えながらご飯をお代わりする。
そんな風に昼食を満喫していると、食堂備え付けのTVから『アメリカが―――に武力攻撃を開始』というニュースが。
ああ、そういや前世でもあったね。詳しい時期までは覚えてなかったけど。
当時の俺も今と似たような年齢だったと思う。
Prrrrrr!
そんなある種の電波思考を打ち払うかのようにポケットの携帯電話がなる。
食事中だってのに。
相手は………『あの人』か。
「もしもし」
『俺だ、ブッシュはどうやら俺達とやる気らしい…』
電話の主は予想通り、『機関』での上司にして同僚である『ファイナル・エージェント』。
そして『食堂の男』の異名を持つ、我が恩人だった。この人が普段は大学生だということは『機関』でも俺しか知らない。
多分、俺と同じように学生食堂で飯を食いながらニュースを見たんだな。
それから『それが世界の選択か…』とか寂しそうに呟いてから電話を掛けてきたんだろう…。
その光景が自然に頭に浮かぶようになった自分に絶望する。
「…完全に私たちに対する裏切りですよね。向こうも覚悟の上なのでしょう。
なら、私たちがやることは決まっています」
すらすらとこんな会話ができるという事実に更に絶望した。
『あぁ、わかってる。あいつなりの考えだな。ラ・ヨダソウ・スティアーナ(別れの合い言葉)』
「ラ・ヨダソウ・スティアーナ(超小声)」
合言葉と同時に電話が切れる。
…電話を切ると同時に、寂しそうに飯を食い始める『あの人』の姿が脳裏に浮かんだ。
うん。『あの人』は聴こえるように電話することで周りの人に脅威を与えてるつもりなんだろうけど――――ぶっちゃけ、変人と思われているだけだろう。
『あの人』がどこの大学に通っているのかは知らないが、『ぼっち』であろうことは想像に難くない。
ちなみに、俺は周りに聴こえないように細心の注意を払っていたから何の問題もない。
●中二病は卒業したはずなのに…
トラックに『必殺!転生地獄巡りーッ!』『ギャーっ!』ってされたら赤ん坊になっていた。前世は大学生。ようやっと中二病を卒業した(と思っていた)男の子だった。
転生後の名前は「伊集院 光(いじゅういん ひかる)」。しかも女。
さらに両親は典型的なパチンカスで、よく虐待された。
この時点で少し香ばしい気配がしていたなあ、と今では思う。
そして五歳のある日、俺は両親を殺した。前世で授業中にノートに書いていたような能力に目覚め、何故かいきなり『殺したら死ぬのか』試したくなった。
俗にいう殺人衝動とか殺人願望みたいなやつ。
しかも罪悪感を全然感じないところとかが……なんか、アレですよね。
殺人に対する忌避感よりも、『中二臭い設定』の自分への呆れの方が強かった。
それで両親を殺して呆然としている所に、当時まだガキだった『ファイナル・エージェント』がやってきて俺を『カノッサ機関』に勧誘してきた。
『カノッサ機関』とは『邪気眼使い』や『飛龍族』等の暴走した能力者たちに対抗するために六千年前に設立された組織で、今となっては世界を裏から操る力を持っているらしい。
しかも『機関』には幾つかの名前があり、表向きはマイクロソフト社と呼ばれている。
最近は『ドヴァ帝国』やら『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』やらの動向を探っているとのこと。
この説明を聞いて、赤面した顔を手で押さえながら「ああああああああ!」と叫び、床をゴロゴロ転がった俺は悪くない。心の古傷が開いただけだ。
『ファイナル・エージェント』が「能力が覚醒した反動か…」とか呟いたせいで余計に(ry
結局、俺は『カノッサ機関』のエージェントになった。『カノッサ機関』は下部組織こそあるものの、基本的には12人のエージェントからなる組織なので、俺は普通に幹部である。
コードナンバーはNo.1で、『ファイナル・エージェント』の側近。能力名は『P.A.R(神上)』と名付けられた。
能力だけならば『ファイナル・エージェント』を上回る、とか言われてまた床をゴロゴロ転がった。
『機関』の幹部になったおかげで、一応は普通の生活ができているのには感謝しているけどね。
少年院とか孤児院に行くのよりは良かったと思う。
頭抱えてベッドに飛び込みたくなる設定だが、俺は既に『普通』の社会オンリーで暮らすことはできないだろうし。
そして俺は今、麻帆良学園女子中等部に通っている(正確には『ファイナル・エージェント』に「通わされている」)。
……うん、『ネギま』ですね、前世でマガジンで連載してた漫画の。
内容詳しく知らんけどね。たしか……学園ラブコメだったはず。
そんなラブコメ世界で『仕事』と称して中二病バトルをやってる俺って……。
俺と同じくエージェントである『影羅』と一緒に、最強クラスの邪気眼使いである『暗黒丸』を倒した時の話なんて身悶え物である。
今日も自称『飛龍族の王』とかその側近の『炎龍』とか『雷龍』をさらっとぶっ殺してきた。基本的に『〜龍族』系は人間のことなんてゴミくらいにしか思ってないので、殺したとしても元から感じない罪悪感が逆にマイナス、つまり良いことしてる気分になる。
そんな風にたまに昂る衝動を仕事で解消してから寮の部屋に戻り、ベッドの枕に顔を押し付けて足をバタバタさせ、ルームメート(長谷川千雨さん)に文句を言われるのが俺の日常である。
……クラスにいる『魔眼』の龍宮さんと、『機関』のロストナンバーである『エターナルフォースブリザード使い』のマクダウェルさんが最近の悩みの種。
『ファイナル・エージェント』に報告するべきだろうか?
<続くと相手は死ぬ>
くっ!もうここまで機関の手が!