―あぁ、中学の頃から人生をやり直したいな―
僕の名前は三藤 大樹(みとう ひろき)
大学卒業を控えるしがない学生だ。
もし、空が自由に飛べたら
もし、不思議な世界に旅立てたら
―もし、人生をやり直せたら―
ベッドの中で、そんな一度は誰しも考える戯言を独り呟いた僕は眠りの世界へと落ちていった。
ジリリリリリッ!
けたたましい音で目覚ましが鳴る
小学校から大学生である現在まで、母さんのいない家庭で育った僕を支えてくれている戦友だ。
「んぁふぅ。もう朝かぁ」
起き上がり、眠をこすりながら目覚ましへと手を伸ばす。
10年間続けてきた、朝の神聖な儀式である。
ベッドから立ち上がり、身体を伸ばす。
関節の鳴る音が身体に響き、妙な爽快感を覚える。
そして、顔を洗おうと洗面所へ向かおうとした時、初めて僕は異変に気付いた。
ここは、ボクの部屋じゃない。
一気に脳が覚醒する。部屋の隅には、かつて絶大な人気を誇ったニンテンドー64とテレビ、机の上には中学校のカバン、そして姿見には、昔のボクが僕を見つめていた。
なんだ夢か。自分自身の夢の中でそれを自覚することを明晰夢というらしい。
初めての体験だが、中々リアルに感じるものだ。
眠る前に「中学校の頃に戻りたい」と考えたせいだろうか。
カレンダーを見てみる。4月1日 今日は入学式の日だ。
良くできた夢だな。まぁ、夢の中で皆と出会うのも悪くないな。
高校に進学してから段々と疎遠になりつつある、かつての友人たちに想いを馳せる。
時計を見ればそろそろ中学校に行く準備を始める時間だ。
自分の部屋がある二階からリビングのある一階へと降りる。
「おぉ、やっと起きてきたか。おはよう大樹」
若かった頃の父親がそこにいた。
僕の出産と引き換えに命を落とした母に代わり、男手一つで僕を育てた父が
家庭と仕事を並行し、心労で倒れ無くなった父が
優しく強かった父がそこにいた。
失ったはずの親子の時間を夢にまで見てしまうとは、僕は思った以上にストレスを感じていたようだ。
「おはよう。父さん」
僕は父に返事をすると、かつての特等席 つまり、父の向かいの席へ腰掛けた。
「今日から中学生だな。父さんは仕事があって入学式には行けないが、夜は一緒にご飯でも食べに行こうか。」
父は一瞬 寂しそうな眼を僕に向け、笑顔で僕に提案した。
「本当に!?じゃあ、今日はすぐに帰ってくるよ。」
せめて、夢の中でくらい父を安心させたかった僕は最大級の笑顔でそう言った。
「あぁ。楽しみにしておきなさい。おっと、そろそろ会社に行く時間だ。大樹も支度して遅刻しないようにしないとダメだぞ。」
流し台に食器を運ぶ父の言葉に、僕は時計に目を向ける。
そろそろ登校する時間だ。
初めまして青波と申します。
初投稿作品です。
拙い文章ですが、暖かく見守っていただけたら幸いです。