SIDE Garoumaru......「ガァァァァアアアアアッ!!!!」咆哮とともに繰り出される小太郎の爪を、俺は正確に捌き落とす。腕力はさっきの西洋魔法を使用している時とは比べ物にならず、さして苦でもないその動作。故に俺は、これまでにないほどの退屈を感じていた。「…………ったく。何も考えてねぇケダモノ相手にしたって、何も面白くはねぇっての」…………叩っ斬っちゃおっかなー?って、いかんいかん。腐ってもこいつは身内なんだ。そんなあっさり斬り捨てるのはさすがにマズい。つーか、こいつに恨まれるのは別に構わねぇが、あの女に恨まれるのはマジ勘弁。泣く子と女の涙は苦手だ。それに…………。「ここで殺すにゃ、ちっとばかし惜しい逸材だからな…………」俺の目の前で、理性をなくし暴れる小太郎。僅か2年でここまで俺とやりあえるように成長したこいつなら、そう遠からずして必ず俺と比肩し得る存在になるだろう。…………それは何と甘美で、愉しい事実だろうか。思わず口元を緩めながら、俺はそんなことを考えていた。「とは言ったものの…………このまま戻らねぇんだったら、潔く『処分』してやんのも身内の務めか…………?」このまま放っておけば、間違いなくこいつは、さっき別れた嬢ちゃん達を泣かすだろうしな。そうなるくらいなら、いっそ俺の手で…………。そんな物騒な考えが、一瞬脳裏を掠める。この戦闘を初めて、俺が感じたその躊躇。命懸けの闘いにおいて、敗れるのは隙を見せた者。故に逡巡は一瞬に、俺は刀を握る柄に力を込めた。「悪ぃな。惜しくはあるが、てめぇをほっとく訳にゃいかねぇんだ…………」刀身を黒く染め上げ、再び俺は小太郎へと肉薄する。「ガァッ…………!?」その瞬間、闘争本能しか残されていない筈の小太郎の顔に、一瞬驚愕の色が滲んだ。「…………あばよ、クソガキ」―――――ヒュンッ…………振われる俺の牙顎(アギト)。一瞬にも満たない時間で、それは奴の首を切り落とす…………筈だった。―――――ガキィンッッ!!!!「なっ…………!?」なん……だと……!?あろうことか、小太郎の首筋目がけて放った俺の太刀は、あと僅かというところで、馴染み深い漆黒の防壁に弾かれる。予想だにしていなかった事態に、俺は慌てて大きく後ろへと飛び退いた。「…………冗談だろ? まさか理性を失ってても、器用さは残ってるとかいうオチか…………?」10数年振りに感じた戦慄とともに、そう口にした俺だったが、次の瞬間にはその考えを否定する。何せ…………。「―――――よぉ? 待たせたな?」俺の視線の先、障壁を解いた小太郎の目は、最初と同じ、獣染みた狂気にぎらつく眼光を湛えていたのだから。SIDE Garoumaru OUT......「さぁ、第2ラウンドといこうやないか?」口元に笑みを浮かべながら、俺は呼び出した影斬丸を再び鞘から抜き放つ。漆黒の風となって爆ぜる魔力は、エヴァ(人造霊)の言っていた通り、先程までのそれを大きく上回っていた。なるほど…………俺はこれだけの魔力を八つの尾としてストックしてた訳か。極夜の葬送曲使用時程ではないしても、現在の俺の身体能力はこれまでの比ではないだろう。しかしそれでもまだ、俺の力は奴に遠く及ばない。…………だが、不思議と恐怖なんてものは感じない。その状況下で、俺はなお獣の笑みを浮かべたままだった。さすが同族と言うべきか、こいつとの戦闘は、俺に嫌と言うほど命の取り合いを愉しませてくれる。そしてそれは、恐らく奴も同じなのだろう。理性を取り戻した俺を、呆然と見つめていた牙狼丸は、次の瞬間、声を上げて笑った。「―――――ハハハハハッ!!!! 良いじゃねぇか!? お前、最高だぜ!!!!」一しきり笑い声を上げると、奴は影斬丸を自らの右肩に担ぎ、その構えを解く。そして俺へ向かって、こんな言葉を投げかけて来た。「…………ここ10数年で、今日程驚かされた日はねぇ。まさかあの状態から自力で意識を取り戻すたぁ…………本当に大した奴だよ」これまでの闘気に満ち満ちたものではない、どこか嬉しそうな笑みを浮かべて言う牙狼丸。…………正確に言うと、自力で戻れた訳じゃないんだが、それを言うのは何となく悔しいので黙っておこう。「さて…………そんじゃお望み通り、第2ラウンドといこうか? だがその前に…………」―――――ガシンッ…………そう言って、奴はあろうことか、自らの刀を地面へと突き立てた。どういうつもりだ…………?その不可解な行動に、警戒心を強める俺。そんな俺の心中もいざ知らず、奴は表情を獣染みた笑みに戻すと、こんなことを言い出した。「どうせなら、さっきの西洋魔法で来い。詠唱の間は黙って見ててやるからよ」「何やて…………?」本当にどういうつもりだ?奴の言葉に、俺は一層警戒心を強める。先程、10秒足らずとはいえ、一時は自身を圧倒した技を敢えて使えだなんて…………。加えて、完全に魔物と化した今の俺なら、あれを少なくとも1分は持続して使える。獣化してるとはいえ、まさかあの状態の俺ですら、こいつには遠く及ばないとでもいうつもりか?しかし、奴が続けた言葉は俺の予想を大きく裏切ったものだった。「何を不思議そうな面してやがる? 考えてみろ? もし立場が逆だったら、てめぇも同じことを言ったんじゃねぇか?」「!? …………なるほど、そりゃ道理やな」そうだった。こいつは俺と同じ戦闘狂。ならば敢えて不利な条件を自らに課す理由なんて一つしかない。奴はただ…………。―――――強者との闘いだけを求めている。その結論に至った俺は、警戒心を湧き上がる闘争心へと変えていた。そして俺は極夜の葬送曲を使用するため、奴と同じように影斬丸を地面に突き立て、空いた右手を顔へと翳す。しかし牙狼丸は、今まさに詠唱を始めんとしていた俺に、再び言葉をかけて来た。「もっとも、今回は別の理由もあるんだが…………」そう言って奴は詠唱を始めようとしていた俺に、奴はすっと自らの左腕を上げ、脇腹を見せる。「っっ!?」その光景を目にして、俺は声を失っていた。何故なら、奴の左脇腹、俺が付けた傷口から、徐々に奴を構成している魔素が霧散し始めていたのだから。「てめぇにやられた傷だけなら大したことなかったんだけどよ。久々に獣化したもんだから、燃費がわりぃの忘れてたぜ。やっぱ借りモンの身体じゃダメだわ」本当に残念そうに口にする牙狼丸。…………とゆーか燃費悪いって…………ま、まさかこいつ、以前の俺みたく感覚だけで獣化使ってんのか?どんだけ底なしの体力してんだよっ!!!?あんまりな事実を突き付けられて、俺はさっきとは別の意味で言葉を失った。呆然とする俺を余所に、牙狼丸は刀を引き抜くと、俺へと突き付けて仕切り直すかのようにこう宣言する。「見ての通り、俺の身体はもって数十秒。どうせならとことん闘り合いてぇだろ? まぁ決着はつかねぇだろうが、そんなもんは二の次だ。何せ俺は…………」―――――愉しけりゃあ、それで良い。その瞬間、膨れ上がる奴の闘気。以前と同様、まるで俺の四肢を噛み千切らんばかりの禍々しさを孕んだそれ。その渦中に居ながら、俺が感じたのは以前のような恐怖ではなく、ただただ強敵と闘り合える歓びだった。「…………確かに。こうなってもうたら、決着なんてどうでも良え…………!!」―――――バッ!!!!俺は再び右手で顔を覆うと、全身の神経を研ぎ澄まし、自らに持てる魔力、全てを賭して詠唱を始めた。「―――――ガル・ガロウ・ガラン・ガロウ・ガルルガ!! 契約により、我従え冥府の王!!」高まる魔力に呼応して、俺の影から殺到する無数の影精。百や二百じゃない、数千にも及ぶ影の群れが、この空間に呼び出される。「―――――来たれ、極光切り裂く、深淵より昏き闇!!」そして次の瞬間、呼び出された影精達は俺の身体目がけて収束を始める。荒れ狂う魔力の奔流。それに飲み込まれぬよう、俺は自らの四肢にありったけの力を込めた。「―――――我が身を喰らいて、彼の者を噛み砕け!!」俺を取り囲み、漆黒の竜巻となっていた影の群れ。それは徐々にだが、俺の身体を覆う、何よりも堅牢な鎧と化していく。そして次の瞬間、俺は最後の一節を口ずさむように告げた。「―――――極夜の葬送曲!!!!」その直後、嘘のように霧散する影の竜巻。完成した鎧は、未だ安定した形状ではないものの、それでもこれまでで最大の密度を持って顕現した。突き立てていた影斬丸を引き抜き、俺は奴へとその切っ先を掲げる。それに応えるように、牙狼丸は自らの得物を高々と掲げた。「…………行くで、狗族長とやら。俺に詠唱させたこと、骨の髄まで後悔させたる!!!!」「…………来いよ、狂犬とやら。そのふざけた自信ごと、きっちり返り打ちにしてやんよ!!!!」互いに咆哮した瞬間、俺たちは同時に、漆黒の軌跡を描き敵へと疾駆する。―――――ガキィンッッッ!!!!「「はっっ!!!!」」状況は最初とほぼ同じでありながら、火花を散らし交叉する剣戟は、それをはるかに上回る、圧倒的な美しさを湛えていた。―――――最後の戦闘、その火蓋が切り落とされて、数十秒が経過した。―――――ガキィンッッッッ!!!!「なっ…………!?」牙狼丸の放った剣戟に、俺の影斬丸は大きく弾かれ、くるくると弧を描きながらはるか後方へと弾き飛ばされていく。加えて、衝撃を殺し切れなかった俺の身体は、大きく仰け反りながら倒れそうになっていた。「殺ったぜ…………小太郎!!!!」―――――ヒュウンッッ!!!!そしてその隙目がけ、間髪入れずに振われる奴の牙顎。しかし…………それを甘んじて受ける俺じゃない!!!!「うらぁぁぁあああっっ!!!!」咆哮とともに、倒れそうになっていた姿勢から俺は、右手を地へと付いて、無理やりに奴の右腕目がけて蹴りを放っていた。―――――ベキンッ!!!!「んなっ!? その体勢からっ!!!?」鈍い音を立てて砕ける牙狼丸の右腕。さすがに物理的に破砕されては、奴も刀を握ってはいられなかったのだろう。振り抜こうとしていた勢いを殺せず、奴の手から離れた影斬丸・数打は明後日の方向へと飛ばされていった。「ちぃっ…………!!」溜まらず、大きく飛び退く牙狼丸。しかし、その後退は体勢を立て直すためのものではない。その確信があった俺は、体勢を立て直すと同時、両足に力を込めていた。「「―――――縮地、无疆!!!!」俺の予測通り、全く同じタイミングで、弾丸のように飛び出してくる牙狼丸。互いの距離が零になるまで、無論一瞬と時間はかからなかった。そして…………。「「―――――うぉぉぉぉぁぁぁぁあああああっ!!!!」」―――――ゴキンッ!!!!鈍い音ともに、俺の右拳、そして奴の左拳は、互いの顔面へとめり込んだ。その衝撃で、10数mを転がっていく俺たち。どれだけ魔力で身体を強化していようと、さすがに顎へともろに入った一撃。俺たちは2人とも、すぐには立ち上がることが出来なかった。「ぜぇっ…………ぜぇっ…………」「はぁっ…………はぁっ…………」静まり返った地下迷宮に、互いの息遣いだけがやたらと響く。たかだか1分足らずの攻防で、俺たちは嘘のような魔力と、そして体力を消耗していた。しかし不思議と疲労感はない。むしろ心地良くさえあるこの感覚に、俺は身を委ねるようにしてゆっくりと目を閉ざした。「…………こんな愉しい喧嘩、生まれて初めてやったかもしらん」だからと言う訳ではないが、起き上がれないままに、口元には笑顔すら浮かべて、俺はそう呟いていた。答えなんて期待していなかった、本当に自然と零れただけの呟き。しかし、そんな俺の呟きに、離れた場所から応える声があった。「…………奇遇だな。俺もちょうどおんなじことを考えてたとこだ」恐らくは俺と同様、虚空に向けて放たれたであろうその言葉。しかしそれは、どこか嬉しそうな響きとともに、俺の耳へと確かに届いた。「…………俺たち妖怪はよ、戦さえありゃどこでも闘って、そんでバカみたいな寿命に反して、あっけなく死んでく。傭兵や賞金稼ぎ、ひょっとすると奴隷以下のクズみてぇな生きモンだ」「…………」独白のように続けられる牙狼丸の、実に奴らしくないそんな言葉。しかし俺は、黙ってそれに耳を傾けていた。まるで、奴が俺に何か大切なことを伝えようとしているような、そんな気がしてならなかったから。「だからよ。俺たちは普通『次』なんてこたぁ言わねぇ。言ったとしても、そりゃただの社交辞令で、本当に次があるなんざ思っちゃいねぇんだ。けどよ…………」そこでふと、言葉を途切れさせた牙狼丸。思わず目を開いた俺だったが、視界に入って来るのは、高過ぎて何も見えない、地下迷宮の天井だけ。しかし俺には、奴が今、どんな表情を浮かべているのか、手に取るように分かった。「―――――小太郎。『次』にてめぇと闘るときゃ、今度こそ生身の体で闘りてぇもんだな」屈託のない少年のような笑みを浮かべてそう言う牙狼丸の表情が。だから俺も、同じように笑って、奴の言葉にこう応える。「―――――ほんなら『次』までに、何が何でもこの魔法を完成させとかなあかんな」そして、こんな灰色の決着ではなく、必ず俺の勝利であんたとの喧嘩に勝手見せる。そんな決意を込めながら、俺はそんな言葉を口にしていた。「はっ…………上等だクソガキ。生身の俺は、これよりはるかにタフだぜ?」「それこそ上等やクソ妖怪。俺かて、今日よりはるかに強ぉなっとたるからな?」そう悪態を付き合って、俺たちは互いに、どちらからともなく声を上げて笑った。一体、どれだけの間そんな風に笑っていただろう。地下である筈のこの空間に、突如として風を感じた。そしてそれど同時に、あれだけ圧倒的な存在感を放っていた奴の気配が、少しずつ薄れていくのを感じる。未だ起き上がれない状態ではあったが、俺は牙狼丸に残された時間が殆どないことを、確かに感じ取っていた。「ははっ…………俺も歳食う訳だぜ。あの女との間に出来たガキが、こんなにデカくなってんだからな…………」「は? お、おい、今自分なんて…………!?」牙狼丸の放った言葉に、俺は一瞬自分の耳を疑いながら、思わず身体を起こす。しかし、その視線の先で、牙狼丸は完全に、光る小さな粒子となって、その姿を消していた。『―――――じゃあな、バカ息子。次にてめぇと闘れんのを、愉しみにしてるぜ』最後にそんな台詞を残すと、残っていた粒子もろとも、奴の気配は完全に地下迷宮から消える。…………よりによって言い逃げすることはないだろ。最後まであんまりなあの男の態度に、俺は溜息を付きながら、ぽつりとこんな言葉を呟いていた。「…………こっちこそ。愉しみにしとるで? クソ親父…………」そうして俺は、奴に認められたという喜びと、胸を張って奴を父親と呼べる誇らしさを噛み締めながら、誰もいなくなった地下迷宮で一人、静かに微笑みを浮かべた。「さて、結構時間食ってもうたし、さっさとネギ達と合流せなな」俺が暴走してた時間がどれくらいか分からないため大凡ではあるが、俺は奴と3時間余りは闘っていただろう。原作通りに学園長の陰謀が進行していたとすれば、恐らく今頃ネギ達は地底図書室で休んでる頃合いだ。万が一、ネギが抱きつき癖を発揮して、隣に寝てる誰かの布団に潜り込もうものならば…………。それでネギがフルボッコになるくらいなら構わない(←何気に酷い)。もし、もしもだ。それでネギの性別が、女だとバレようものなら…………。『…………せっちゃん? ゴー♪』『委細承知!!!!』―――――ヒュンッ!!!!『Noooooooo~~~~~~~~~~!!!?』「…………(がくがくがくがくっ)」刹那の手によって、ばっさり両断される自分の姿を思い浮かべて、俺は思わず身震いした。…………何としてもそれだけは防がねば。最悪俺がネギの隣に割り込んで、ホモ疑惑を立てられようが構わない。今は何としても、ネギの正体だけは隠さないと…………!!ん? いつかバレること?良いんだよ。それまでにゃ何かしら言い訳考えとくから!!…………全く良い案が浮かばねぇんだけどな。そんなことを考えながら、俺が立ち上がろうとした、まさにその時だった。―――――ズキンッ…………「ぐぅっ…………!?」全身に走った鈍痛に、俺は思わず、前のめりになりながら地面へと崩れ落ちた。…………やっぱ、こっちも限界だった訳ね。いくら完全に魔獣化して、一時的に身体が回復していたとはいえ、さすがにあの短時間で極夜の葬送曲を連続使用したのが響いているらしい。1度目のときとは違い、今度はどれだけ力を込めようとしても、俺は指一本さえ動かすことが出来なかった。「くっ…………こんなとこでっ、寝とる場合やあれへんのにっ…………!!」早くネギ達と合流しないと、俺の危険が危ない!!(←混乱中)こうなったら、転移魔法を使ってでもネギ達のところへ。そう思って、ゲートを開こうとした俺だったが、恐らく魔力を肉体の回復に当てているのだろう。ゲートは愚か狗神さえも召喚出来ない有様だった。じょ、冗談じゃないっ!!!!もしネギの正体がバレたら、さすがに殺されるってのは言い過ぎだとしても、木乃香と刹那に何をされるか分かったもんじゃないんだ!!這ってでも、地底図書館に行かないと…………。しかし、無情にもそんな俺を急激な睡魔が襲う。恐らくはこれも、肉体を回復させるため、無意識に身体が睡眠を欲しているのだろう。本来抗うべきではないその欲求。しかし今この瞬間、俺はその睡魔に身を委ねる訳にはいかなかった。必死で襲い来る睡魔に抵抗する俺。そんな時だった。―――――フッ…………「っ!!!?」突如として、何者かが俺の傍らに現れたのは。その気配が良く知っているものだと気付いて、俺は思わず彼の名を叫ぶ。「あ、アルっっ!!!!」そこに現れたのは、この地下迷宮の管理を任された大魔法使い、アルビレオ・イマその人だった。「よもやあの牙狼丸をあそこまで追い詰めるなんて…………小太郎さん、あなたには本当に驚かされっぱなしですよ」本当に楽しげな声色でそう言うと、アルは俺の傍らにすっと肩膝を付く。そして彼は、動けない俺の頭に、その手を翳した。…………おいちょっと待て!! 一体何する気だ!?ま、まさかっ…………!?「ちょっ、まっ…………!?」アルの意図に気が付き、思わず声を上げようとする俺。しかし、そんな俺の意図をどう解釈したのか、アルは穏やかな声色のまま、こんなことを言った。「その身体でなお、仲間の心配ですか? ふふっ、お優しいですね。心配なさらずとも、ネギ君達に危険はありません」違ぇからっ!!!?心配してるのはネギ達じゃなくて、俺自身の安全だからっ!!!?しかし、極度に疲弊しきったこの状況では、そんな言葉を声にすることすらままならない。ま、マズい。このままじゃ…………!!そんな俺の悪寒を体現するかのように、アルはこんな言葉を口にした。「ですので、今は安心しておやすみ下さい。今のあなたなら1日もあれば、元通りの体力に戻るでしょうから…………」そして次の瞬間、ふわっと温かい魔力が込められるアルの右手。て、てめぇっ!! やっぱ、無理やり俺を眠らせる気だろっ!?普通に状況を考えればありがたいことだけど、今の俺にはありがた迷惑ですからっ!!!!急激に勢いをます眠気。何とかそれに抗おうと、必死で神経を集中させようと努力する。しかし極度の肉体疲労+アルの魔法というコンボに勝てるはずもない。ゆっくりと俺の意識は闇に呑まれて行くのだった。