そんな訳で、早速図書館島地下へと進軍を開始した俺たちバカレンジャー+3。+3ってのは、木乃香、ネギ、俺のことで、残りの図書館探検部であるのどかとパルは地上からのナビゲーションだ。まぁ、俺が参加してること以外は、ほぼ原作と同じように事が運んでると言って良い。…………しかし暗いな。現在俺たちは、図書館島地下階層へと続く隠し通路を歩いているのだが、ぶっちゃけ視界はほぼゼロ。木乃香と夕映のヘッドライトが無ければ、足元すら全く見えない状況だ。一般人と一緒じゃなけりゃ『光よ』の呪文で道を照らせるんだが…………そこまでする程の緊急事態じゃないしね。逆を言えば、ここまで影がくっきり出てる状態は俺にとって好都合だしな。転移魔法使いたい放題、狗神召喚し放題だぜ。「あう~…………く、暗いよぅ、怖いよぅ…………」「何やまき絵? 暗がりダメなんか?」あからさまにビビり倒してるまき絵に、俺は思わずそう尋ねていた。確か原作見たイメージだと、地下図書館では結構生き生きとしてた気が…………ゴーレム(笑)から魔法書奪ったりな。けど、そう言えば桜通りの吸血鬼の噂にビビったりもしてたんだっけ?となると、実はオカルト系が苦手なのかもしれないな。ま「うぅっ、そりゃそーだよー…………暗いのが平気な女の子なんている訳が…………」木「ウチは平気やえ?」(←図書館探検部)夕「私も平気ですね」(←図書館探検部)楓「うむ、拙者も平気でござる」(←忍者)古「私も特に嫌いじゃナイネ」(←暗闇で怖いのは闇打ちくらい)明「まぁ、私も平気かな?」(←あまり幽霊とか信じてない)ネ「ぼ、ボクは男なのでっ」(←性別詐称の魔法使い)ま「…………」全員にそう言われて、凍りつくまき絵。哀愁漂う彼女の背中を見て、俺は思わずその肩にぽんっと手を置いていた。「まぁ、何や…………ふつーの女子は、暗いの怖いんが当然やと思うで?」「こ、コタくぅん…………」そんな俺のフォローに、まき絵は滝のように涙を流すのだった。そうこうしている内に、俺たちは図書館島地下3階へと辿り着いた。確か中学生が本来立ち入りを許可されてるのはこの階層までだったっけ?ということは、その辺の蔵書を取ろうとしたら、何かしらの罠が発動する訳か。俺は試しに、一番近くにあった棚の本へと手を伸ばす。すると…………。―――――カチッ、シュンッ…………ぱしっ蔵書の隙間からいきなり矢が飛び出して来たため、俺は反射的にそれを掴み止めた。「…………予想通りやけど、これは中々洒落になってへんな」しげしげと矢を見つめながら、思わず冷や汗を流す俺。原作じゃ分からなかったけど、これ鏃に毒まで塗ってあるぞ?匂いだけじゃどういうものか判別できないが、恐らくは致死性のもの。一歩間違えば、原作ネギま!はここで完結してた訳か。楓の身体能力に感謝だな。「今の小太郎さんの様子を見て頂ければ分かる通り、この階層からは盗掘者対策の罠が張り巡らされているです。ですので皆さん、決して不用意に行動しないようお願いするです」「「「「「「はーい」」」」」」淡々と注意事項を告げる夕映に、元気良く返事をする一同。…………返事は良いけど、確か原作では度々まき絵とかがトラップに引っかかってたような気がする。バカレンジャーの身体能力なら、俺が手を出さなくても大丈夫だとは思うし、何よりこれが学園長の差し金なら、命の危険を伴うってことはないだろう。とは言え、無用な危険は排除するに限る。そう考えて、俺は右手を遠慮がちに挙げながら、こんなことを提案した。「出発する前に、自分らの護衛に関して、ちょっとネギと相談したいんやけど、良えか?」「それは構わないですが、出来るだけ早めにお願いするです。魔法の本が安置されてると思しき場所まで、往復で4時間は掛かるですから」そんな夕映の言葉に、俺はポケットから携帯を取り出して現在時刻を確認する。現在時刻は午後7時ジャスト…………何事も無ければ問題なく帰れる時間だな。まぁ、何も起こらないとは思えないけど…………。「りょーかい、5分で済ますさかい、ちょっと待っとってくれ」俺はそう言うと、ネギを手招きして呼び、残りのメンバーから少し離れたところへと移動した。「小太郎君? えと、どうしてわざわざみんなから離れたの?」「ああ、ちょっと魔法関連のことで相談がしたくてな」離れてはいるが、一応連中に聞かれないよう、俺は声のボリュームを下げてネギの耳元で囁く。「魔法関連のこと?」「ああ。確認やけど、自分探査系の魔法とか得意か?」確か原作で、占いや小物を動かす魔法みたいな基本魔法は得意中の得意だって言ってたからな。本来、探査の魔法は基本中の基本だし、恐らくこちらのネギも得意なはずなんだが…………。「うん。そういう基本的なやつは一番得意かな?」どうやら俺の予測は正しかったらしい。原作のネギと違い、魔法を封印してない状態でネギはこの図書館島探検に参加しているのだ。ならばそのアドバンテージを生かさない手はない。問題はそれを連中に分からないようどうやって使うかだ。「その魔法って、連中に分からんように使うことは可能なんか?」「そうだね…………普通にしてても精霊の声はボクにしか聞こえないし、念のために軽めの認識阻害をかけておけば大丈夫だと思うよ?」「そりゃ重畳。ほならネギ、自分は先頭を歩いて罠の回避を頼むわ。俺は万が一が起こらんよう、しんがりを護るさかい」「うん、分かったよ」両手で杖をぎゅっと握りしめて、ネギは力強い笑みとともに頷いてくれた。さて、基本的な戦術はこれで良いとして、後はネギ自身の問題だな。この後の運びが原作通りに進められるとすると…………恐らく例のツイスターゲームから、地下図書館での勉強合宿の流れになるはず。学園長としては、何としてもそうなるように仕向けたいところだろう。となると…………やはり俺の排除は最優先されるだろうな。どう転ぶにしても、学園長の計画を実行する上で、俺の存在は余りに邪魔だ。最初のツイスターゲームの時点で、俺がゴーレム(笑)をぶっ飛ばしたら、そこでこの図書館探検は終了だからな。もちろん、それを分かった上で、大人しく退場してやるほど俺もお人好しではない。ないのだが、あの狸爺のことだ、俺の予想を上回るかなり厄介な仕掛けを用意していると見て間違いないだろう。実際にネギ達と引き離されたときのため、彼女に心の準備をさせておく必要がある。俺はそう考えて、再びネギの耳元に顔を近づけた。「良えかネギ、もしもん時のために、自分には2つばかし約束して欲しいことがあんねん」「もしもの時って…………や、やっぱり、この図書館ってそんなに危ないのっ?」俺が余りに真剣な口調で言ったせいか、ネギは若干涙目になりながら、そんな質問を返して来る。苦笑いを浮かべて、俺は彼女を安心させるように言った。「まぁ、万が一んときの保険や。そんなもん使う必要はあれへんとは思うけど、日本の諺で『備えあれば憂いなし』っちゅう言葉があんねん。何事も、慎重にしとくに越したことはあれへんやろ?」「あ…………う、うんっ、そうだよね?」その言葉で幾分か安心したのか、ネギは納得顔で頷いてくれる。その様子に満足して、俺は再びネギにその約束について切り出した。「1つ目は『決して魔法は使わないこと』。もちろん命の危険があるような緊急事態やったら話は別やで? そんときは、何が何でも自分と、他の連中のことを護らなあかん」「うん、分かった。ボクは緊急時以外では『決して魔法を使わない』」俺の言葉を復唱して、しっかりと頷くネギ。それを確認して、俺は2つ目の約束を口にした。「2つ目は『もし俺と離れても無茶はせず、そん時自分に出来ることを考えること』。寧ろこっちの方が大事な約束や。自分の性格やと、みんな助けるために、勇んで無茶しそうやからな」「う゛っ…………そ、そんなことない、よ?」自信無さ気に言うネギ。…………こいつ、絶対ヤヴァいときは無茶するつもりだったな。「良う聞け。俺は一応学園長から自分の護衛を依頼されとる身や。とは言え、さすがに自分の傍におれへんかったら護れへん。そんなときに無茶して自分に怪我でもされたら、俺の信用ガタ落ちや」なんて勝手な言い分を、と思うかもしれないが、ネギの場合はこんな風に自分以外の人間の利害を説明した方が納得が早いからな。加えて相手が学園長となると、俺が彼女から引き離されるのはほぼ確定事項。卑怯だとは思うが、ここは手段を選ばずに攻めさせてもらう。しかし、俺のそんな説得に納得がいかないのか、ネギは少し拗ねた表情を浮かべて、なおも反論を続けた。「け、けどさ? もし本当に小太郎君とはぐれて、しかも危ない状態になったら、みんなを護れるのはボクしかいない訳でしょ?」「それは愚問やな。バカレンジャーの身体能力は筋金入りや。特に楓と古菲は学園の魔法生徒並みに…………いや、むしろ並みの魔法生徒より遥かに強いで?」「ま、魔法生徒より!? …………そ、そんな一般人がいるなんて信じられないんだけど?」「とは言え、それが事実や。それと、もしもホンマにそんなヤバい状況になったらな…………」俺はそこで言葉を区切ると、そっとネギの頭に手を置き、優しく笑みを浮かべてこう言った。「俺が必ず自分らを助けに行ったる。例えはぐれとっても、必ず自分らのピンチに駆け付ける。せやから自分は安心して、俺のこと待っとったら良えねん」「…………」そんな俺の表情を見つめて、何故か呆けてしまうネギ。あれ? さすがに今の台詞は臭かったか?それかネギ、実は具合でも悪いとか?良く見ると、少し頬が赤いし…………。そんな風に心配していると、ふいにネギは正気に戻ったのか、はっとした表情を覗かせると、再び先程と同じ拗ねたような表情を浮かべた。「…………小太郎君、前のときははぐらかしてたけど、本当はかなりモテるでしょ?」「は? な、何やねんいきなり!?」予想外のネギの反応に戸惑う俺。つか、今のやりとりの何処に、その質問が飛び出す要素があったよ!?訳が分からず困惑する俺に、ネギははぁ、と重たい溜息を吐くと、苦笑いを浮かべながら顔を上げた。「ともかく、小太郎君の言いたいことは分かったよ。だからボクは『もし小太郎君と離れても無茶はしない。その時自分に出来ることを考える』。それで良い?」「む…………まぁ何かはぐらかされた気がせんこともないけど、分かってくれたんならそれで良いわ」本当、釈然としませんけどね。「あはっ…………拗ねないでよ。もしもの時、ボクは小太郎君のこと信じて待ってるからね?」先程の俺と同じように、優しく笑みを浮かべてそんなことを言い出すネギ。…………この小悪魔さんめ。ネギみたいな可愛い子からそんな風に言われたら、男は黙って頷くしかないだろう。そのことを理不尽に思いながらも、俺はしっかりとネギに頷いて見せるのだった。そんな訳で、ネギの探査能力をフル活用した俺たちは、原作のようにバンバン罠に引っ掛かることもなく休憩所まで辿り着くことが出来た。現在はその休憩所にて、木乃香が用意してくれた弁当を突いている。普段から食べ慣れてるネギの料理も上手いけど、木乃香のこの京風な薄味も中々に乙だよな~。そんな訳で、出がけに大量の肉じゃが(ネギお手製)を平らげていたにも関わらず、がつがつと木乃香の弁当を食す俺なのだった。「けどホンマにネギ君て凄いなぁ? 図書館探検部のウチらでも気付けへんような罠、全部気付いてまうやなんて」「はい。正直、驚愕です。一体どこでそのような技術を?」感嘆の言葉を零す木乃香に、質問を投げかけて来る夕映。さすがにそのリアクションは予想済みだったのか、ネギはいつものようにテンパることもなく、笑顔でそれに答えた。「イギリスにいるときにちょっと特殊な訓練を積んでいたことがあって。そのおかげでこういう危険予知は得意なんですよ」「ほらね? 私が言った通りネギに来てもらって良かったでしょ?」「うんうん。ぶっちゃけ、ネギ君いなかったら、私何回も罠に掛かってたと思うよ」まるで自分の事を褒められたみたいな得意顔で胸を張る明日菜に、それに対してしきりに頷くまき絵。…………そのせいで俺は痛めなくて良い頭を痛めてる訳ですがね。「それに引き換え…………ある意味ネギより頼りにしてた誰かさんは、ここまで全くの役立たずだったわね?」意地が悪い笑みを浮かべて俺に視線を向けて来る明日菜。言いたいことは分からないでもないが、そもそもテスト勉強に力を入れずにこんなことしてる明日菜にだけは言われたくない。「うっさいわ。つか、力技じゃどうにもなれへんことで俺を頼るんが間違いやねん」「あははー、コタくん拗ねとるー」「にんにん。確かに小太郎殿は、危険予知よりも力技向きでござるからな」「コタローの腕前はかなりのモノアルからネ」指を差して笑う木乃香に、フォローを入れてくれる武闘派2人。…………今度2人には飯でも奢ってやろう。そんな感じでしばらく談笑していた俺たちだったのだが、その途中でふとネギが俺の傍まで来て、小声でこんなことを尋ねて来た。「…………ねぇ? 気付いてる?」「…………ああ、俺ら以外に4つ。内2つはかなりバカデカい魔力がこの地下図書館中にいてるな」真剣な声音で、ネギにそう答える俺。そう、先程から感じている妙な胸騒ぎ。ネギも感じ取ったそれは、紛れもなく俺たち以外の何者かが発する魔力の気配だった。それにしても…………4つってことは、やはり学園長のやつ、俺を排除するために何かしらの仕掛けを用意しやがったな?4つの内3つは一体何の魔力かが検討が付く。恐らくはアルと学園長、そして俺たちの目的であるメルキセデクの書が発するものだろう。しかし後1つは一体何だ?しかもそのもう1つの魔力は、この階層に来てその濃度を増している。つまりそう遠くない場所に、この異様な魔力を放っている何者かが居ると言う訳だ。「1つは明日菜さんたちの言う魔法の本だとしても、残りの3つは一体…………?」「さぁな。けど、もしかすると…………俺が掛けた保険、使わなあかんかも知れへんな」そんな風に俺たちが小声で話していると、その様子に気が付いたのか明日菜がすっと近付いて来た。「…………何? 何かマズいことでもあったの?」俺たちが真剣な表情を浮かべていたからだろう、心配そうにそう尋ねて来る明日菜。ネギと顔を見合わせて、俺たちは彼女にここに来て感じている魔力に関して説明を始めた。「…………そ、それじゃ、本当に魔法の本があるのね!?」一しきり説明を聞いて、明るい表情でそんなことを言い出す明日菜。俺は溜息を吐きながら、再び彼女にことの重大さを説明することにした。「喜ぶんは早いで? 魔法書の他に3つ。しかも内2つはかなりデカい魔力が居てる。もしかしたら、魔法書の番人かも知れへん」「げっ…………で、でもさ? あんたって一応学園最強の魔法使いの1人なんでしょ? もし本当にその番人がいたとしても、小太郎がやっつけてくれれば良いじゃない?」さらっととんでも無いことを言い出す明日菜に、俺は再び溜息を吐いた。というか、目先の欲に目がくらみ過ぎワロタ。「そない簡単に言うてくれるなや。それにそん中の1つはかなりヤバイ感じがしとんねん…………」この階層に入ってから感じている魔力。それはあたかも俺たちを…………否、俺を手招きしているかのような、そんな不思議な感覚を感じさせている。これが学園長の仕掛けた罠だとしたら…………本当に俺を仕留められる、そうでなくても足止めすることくらいは出来る存在が待ち構えていると見て間違いない。どちらにしても、一筋縄で行くとは思えなかった。「さっきから何を3人でヒソヒソ話してるのー?」「「「!?」」」はっとして後ろを振り向くと、いつの間に近付いて来ていたのか、にんまりと含みのある笑みを浮かべたまき絵がそこに居た。…………このパターンも久々だな。内緒話に熱中し過ぎていたのと、例の気配に神経を尖らせていたせいで彼女の接近に気が付かなかったんだろうが、不覚だ。が、本当に不覚だったのは、もう一つの方の気配に気が付かなかったことだった。「―――――何やコタくん、いつの間にか明日菜とえらい仲良くなっとるなぁ? 何かあったんけ?」「…………」図書館島の入口で見せたのと同じ、般若オーラを纏った木乃香が、まき絵とは反対側からにゅっと顔を出す。…………ジーザス、俺何も悪いことしてなくね?「ご、誤解よ木乃香!! ご、護衛を頼んだの私だし、ちょっとこれからのことを相談してただけだってば!!」おおう!?どうしたというのだ!?今のは明日菜にしてはかなり良く出来たフォローじゃないか!?思わず感嘆の溜息をもらした俺だったのだが、般若オーラを纏った木乃香さんは、あろうことかそんな一見完璧に見える言い訳にさえ、言葉の矢を放つ。「…………そもそも、それが不思議やったんよ。何で明日菜、いきなしコタくんに護衛たのもー言い出したん? それに、ウチもまだ会うたことあれへんかったネギ君とも、随分仲良うなっとるみたいやし…………3人とも、ウチらに何か隠し事とかしてへん?」「「「っっ!?」」」ある意味真に迫った木乃香のその質問に、俺たちは3人して口から心臓が飛び出しそうだった。…………ま、ままま、マズイ!?こ、ここは確実に乗り切らないと、ネギの件について疑われでもしたら大事だ!!俺は必死で脳を回転させ、この場を乗り切る言い訳を考える。何か、何か手は…………ってそうだ!!!!暗闇に差した一筋の光明。俺は間髪入れずに、その案を実行に移した。「あ、あ~…………ま、まぁ確かに隠し事はしてんねんけど…………」「っっ…………!!!?」俺がそう言った瞬間、ぶわっと高まる木乃香の怒気。…………お、おおおおお落ち着けブラザー!? これは計算通り、計算通りなんだ!!そう必死に自分へと言い聞かせながら、俺はさらに言葉を続けた。「じ、自分らも知っとると思うけど、明日菜って『あの人』んことが好きやろ?」「へ? …………う、うん。確かに、明日菜が『あの人』んこと好きなんは、みんな知っとると思うえ?」虚を突かれたのか、一気に霧散する木乃香の怒気。ちなみに、敢えて名前を伏せたのは明日菜のプライバシー保護のためだ。そこ、無駄って言わない。よしよしよしよーし!! ここまでくればもう一歩だ!!俺は木乃香の勢いがなくなったのを良いことに、捲くし立てるように言い訳を口にした。「せやんな? ほんでな、実はネギは『あの人』と昔からの知り合いやねん。で、それを知った俺が、ネギのことを明日菜に紹介したって、ほんで仲良くなったと…………そう言う訳や。な? 2人とも?」そしてダメ押ししてもらうために、2人に話題を振る俺。俺の考えをおおよそ理解したのか、2人はすぐさまぶんぶんと首を縦に振ってくれた。「そ、そそそそーなのよっ!! ネギってば『あの人』と仲が良くてさ~!!」「そ、そそそそーなんですっ!! い、今も、『あの人』のことを話してたから、ちょっと小声になってただけなんです!!」「「あは、あははっ!!」」やけくそ気味で作り笑いを浮かべる2人。…………自分でそう仕向けといて何だけど、これじゃまるでタカミチが某闇の魔法使いみたいだな。「何や、そういうことやったんやぁ。え、えと…………ご、ごめんな明日菜。大事な相談の邪魔してもうて」「わ、私も…………が、頑張ってね、明日菜。恋に歳の差は関係ないって良く言うし!!」そして俺の目論見通り、完全に勘違いして明日菜に謝り、励ましの言葉を投げかける木乃香とまき絵。「あ、あははー。あ、ありがとー、2人とも…………(がくっ)」そんな2人の様子に、明日菜は作り笑いを浮かべながらも、その直後憔悴し切った表情で肩を落とすのだった。…………南無阿弥陀仏(チーン)。そんなやり取りを終えて、俺たちは再び、目的の書物が安置されているとされる場所を目指して、探索を再開した。そして辿り着いたのは、原作でも印象に良く残っている、本棚の上にある通路だった。かなり深い所まで俺たちはやって来ていたらしく、そびえたつ本棚は、その接地面がどうなっているのか見えないほどだった。「これは…………さすがにここまで来ると、最早人外魔境の様相ですね」眼下を見下ろし、そんなことを呟く夕映。その言葉とは裏腹に、その表情には未知との遭遇に対する好奇心か、笑みが浮かんでいた。「死ぬっ!! 落ちたら死んじゃうよコレっ!?」そんな夕映とは対照的に、ぺたんと本棚へたり込みながら、そんな泣き言を零すまき絵。まぁこの面子の中じゃ、今のところ一番一般人してるし当然だな。「まぁ確かに危ないわよねー…………というか、こんなとこにある本、一体誰が読むのよ?」苦笑いを浮かべてまき絵を助け起こしながら、明日菜はそんな当然の疑問を口にする。…………まぁ、某大魔法使いさんくらいじゃないでしょうか?そんな感じで、断崖絶壁のように続く本棚の上を戦々恐々としながら進む俺たち。夕映とネギの先導の下、比較的安全かつスムーズに進んでいる一行だったのだが…………。「っ!? だ、誰かいるですっ!?」「「「「「「「!?」」」」」」」先頭を歩いていた夕映の一言で、全員の表情に緊張が走る。暗くて良く見えないが、確かに夕映が指差した本棚の上には、何者かが悠々と立っていた。こいつが、俺の感じていた魔力の正体か?そう考えた矢先だった…………。―――――ゾクゥッ「――――――――――っ!!!?」その瞬間、俺は無意識の内に瞬動術を使い、先頭にいたネギの前へとその身を躍らせていた。…………この感覚、間違いない。まるでここが戦場であるかのような、そんな錯覚を覚えるような禍々しい闘気。この闘気を、俺は確かに知っている。しかし、どうして奴がこんなところに…………!?困惑する俺を余所に、この闘気を放った人物は、足場の悪い本棚を悠然とこちらに向かって歩き始める。俺は一般人の目があることも忘れて、ゲートから影斬丸を呼び出した。―――――ガタガタガタガタッ「っ!? …………やっぱりか」先程俺が感じた既視感。それが間違いでないことを証明するかのように、がたがたと震える影斬丸。「こ、小太郎さんっ!? い、一体どこから刀なんて!? と、というより、それはホンモノなのですかっ!?」俺が行った一連の行動に驚き、思わずよろける夕映。その瞬間、彼女のヘッドライトがぶれて、近付いて来る人影を闇の中へと映し出した。180を超える長身に、黒の着流し。深紅で染め抜かれた黒の羽織。そして背中程に伸びた漆黒の長髪に、頭頂部に生える獣の耳。そいつはその瞬間、ぎらついた愉悦と闘志の光を目に宿し、獣染みた笑みを浮かべた。「――――――――――よぉ? 久しぶりだな、クソガキ」―――――2年前、エヴァの命を狙った狗族。以前相対した時よりも、遥かに濃密な魔力を放ちながら、奴はそう口にしたのだった。