俺が近衛の屋敷で暮らすようになってから、およそ4年の月日が過ぎた。光陰矢の如し、とは言ったものである。俺のこの4年間は、まさに瞬く間に・・・・・・って、何? 時間描写をはしょるための言い訳にしか聞こえないって?仕方ないじゃん? このまま刹那以外のヒロインがまったく登場しないまま話数重ねるとさ、ヒロイン固定しちゃって痛いことになりますよ?きっと読者の皆さんだって、他の可愛い娘ちゃんの登場を心待ちにしているはずさ!!と、言う訳で、ここ4年間の話はおいおい語っていく方向で勘弁してください。特筆すべきことがほとんど起こらなかったというのも理由の一つですけどね。刹那のお師匠さんが途中で違う人になったとか、俺の稽古に時折長が付き合ってくれたとか、その程度だ。他に大きなイベントはなかったはずだ。うん、俺の記憶上には存在しないね。話を戻そうか。そういう訳で、この4年間はさしたる問題もなく過ぎていった。俺と刹那は、先の約束通り、月に2~3回程度の手合わせを重ねながら、着実に武人としての腕を上げてきたつもりだ。親父の太刀に関しては、抜くと身体能力が飛躍的に向上するってこと以外分からないままだったが、剣を振るうことによる最大のメリットは他にあった。神鳴流の技を、いくつか使えるようになったのだ。もちろん、刹那が使う完全な神鳴流と比べれば完成度は劣るものの、斬空閃や斬鉄閃といった単純明快な技なら、ほぼトレースできるほどになった。これは剣士としては、かなりのアドバンテージとなると俺は確信している。原作のように我流で技を磨き続けると、いずれその極地に辿り付けたとしても、それは大きく遠回りしてしまうことが常だ。対して、一本でも筋が通った流派を体得することは、武の高みを目指すにおいて、絶対の優位となる。それ故に、俺はこの神鳴流の剣技を、刹那との手合わせを重ねるごとにより正当のそれに近づけようと画策していた。その事実に気が付いた刹那が、少し拗ねたように頬を膨らませていたことに悶えたのは、俺と皆の秘密だぜ!!無論、剣以外にも鍛えては来たが、それは追々ということで、披露するその瞬間まで楽しみにしておいてほしい。次に、身体的な変化についてだが、これはこれで驚きの連続だった。現在12歳となった、俺こと犬上小太郎の肉体は、まさにパーフェクトと言って差し障りない完成度を誇っていた。身体能力がどうこうとかではなく、外見が素晴らしいのだ。ジュニアアイドルも裸足で逃げ出すレベルですよ。これは流石に予想以上だった。年齢詐称薬の下りで、将来結構なイケメンになることは予測できたが、ここまでとは思っていなかった。決して自画自賛だとは思わないで頂きたい。身長はおよそ160cmで現在なおも成長中である。あ、ちなみに小太郎のトレードマークともチャームポイントとも言えるあの犬耳ですが・・・・・・消しました。いや、もちろん物理的にではないよ? 痛いじゃん? 長に幻術の初歩を教えてもらって、それを応用して普通の耳に見えるようにしています。おかげさまで、今の俺はただのロン毛な中学生にしか見えません。つーか、成長してしまってるせいで、最早小太郎とは別の生き物に見えなくも無いね。今更ながらに思う。小太郎になれて本当に良かった。こんなにイケメンなルックスがあれば、女の子口説き放題じゃね?なんて、マジで企んでしまうもの。まぁ、正直なところ、特に目当ての女性がいる訳でも、不特定多数とよろしく楽しむつもりもございませんが。生前はどうだったのか・・・・・・聞くなよ。剣道がそこそこ強い以外、ただのオタクだった俺に彼女なんて出来ると思うか?なんてことを、考えならがら、ふと気が付く。俺、今後どんな風に原作に関わっていくんだ?この屋敷で暮らし始めたこととか、年齢が違うこととか、親父の太刀とかのせいで、完全に原作とは違う世界のようには感じていたけれども。この世界が“ネギま!”の世界であることは紛れもない事実だ。サウザンドマスター“ナギ・スプリングフィールド”の存在と、20年前の大戦についての記録も確認した。その全てが、俺の記憶にある“ネギま!”の世界の流れと完全に合致していたことからも、間違いないといえるだろう。つまり、俺、というイレギュラーを除けば、この世界は凡そ、俺の知る通りの歴史を辿っていく可能性がある。もちろん、その逆も然りだが、だからと言って何もしないことの理由にはならない。それに、俺は誓ったのだ。刹那を、その彼女が守りたいと思うものを、守り抜いてみせる、と。そしてこの世界が、俺の知る限りの歴史を刻むと言うのであれば、俺は今後彼女に降りかかるであろう苦難を、知っている。それから彼女を守るため、どう動くべきか、何をすべきかを、俺は知っているはずだ。しかしながら、それは俺がいなかった“歴史”。だからこそ迷う。俺は何をすべきなのか、と。・・・・・・結局、今考えていても仕方が無いことなのだろう。俺はそこで強制的に思考を打ち切った。大体、刹那以外の原作メンバーに出会う前から、あれこれ考えていても埒なんて明かない。原作開始まで、残りおよそ2年。その間に、自身の身の振り方について何らかの答えを出そう。そう決意して、俺は目下の作業を再開することにした。え? 何をしてるかって? 俺のやっている作業を一言で表すなら・・・・・・そうだな、“ストーキング”という言葉がしっくりくるかもしれない。コラそこ!!ゴミを見るような目で俺を見るんじゃない!!これにはちゃんとした事情があるのだ。今日は、刹那と前もって取り決めた“手合わせ”の日だった。なので朝食を終えてからしばらくして、俺は彼女の部屋に声を掛けに行ったのだが、生憎と彼女は不在だった。屋敷の中の心当たりを隈なく探したのだが、彼女はどこにもいなかった。そんな様子を見かけた女中さんが、彼女が裏山の森へと入って行くのを見かけた、と教えてくれたので、目下捜索中、と言うのが現状だ。え?全然ストーキングじゃないって?・・・・・・いや、その追跡方法に問題があるのだ。いつぞや話した通り、俺の五感は、まさに犬のそれと同等なのだ。前回は確か、聴覚が鋭いということを話したが、犬が鋭いのは、何も聴覚ばかりではない。その嗅覚も、人間が及びもしないほど、広範囲の匂いを嗅ぎ分けることが出来る優れものなのだ。・・・・・・察しが良い方はもうお気づきだろう。鬼のように広い屋敷の裏山を、ただ闇雲に人一人を探して彷徨う馬鹿はいない。つまり俺は、刹那の“匂い”を頼りに、彼女を探している訳だ。もちろん、汗臭さとか、そういった類のものではない。いかにも女の子らしい、独特の甘い香りとでも表現すればいいだろうか。ともかく、そういった類の香りだ。刹那に限っていえば、半妖独特の血が混ざった、不思議な匂いもするため、非常に追跡しやすいしな。お分かり頂けただろうか。これを“ストーキング”と言わずになんと呼ぶ。自分で選んだ手段だとはいえ、流石に悲しくなってくるな。・・・・・・だって便利なんだもん。そんな訳で、俺は刹那の姿を求めて、このだだっ広い森を駆け抜けていた。瞬動使ったり、木と木の間を跳躍したりと、やりたい放題に走っているため、普通に移動するよりは、遥かに早い動きはしていたが。それでも、人一人を見つけ出すには、屋敷の裏山は余りに広大過ぎた。ちょっと心が折れてしまいそうだった。そもそも、探しに行く必要があったのだろうか? 今まで、刹那がこの“手合わせ”の約束を違えたことなどない。ならば、彼女の方が俺に声を掛けてくれるまで、部屋で待機していた方が得策だったのではないだろうか?大体、あの刹那が勝負事の前にわざわざ出かけるような用事だぞ? そっとしておいてやるのが友情ってもんでしょう?などとも考えたが、結局のところ、ここまできて引き返せる訳も無いので、ひたすら森の中を彷徨い続ける俺なのだった。刹那の匂いが強くなるほう強くなるほうへと、木から木へと飛び移る俺。うーん、ナイス忍者だ。わざわざ木の上から探しているのは、普通に道が無いからという理由と、上からの方が視界が広くなっているから。大分近づいてきているはずなのだが、一向に刹那の姿は見つからなかった。何本目か分からないが、一際大きな木の枝に飛び移った際、背の低い木々に覆われて死角になっている箇所を見つけた。匂いの強さから、この周辺に刹那がいることは間違いないので、俺は仕方なくその茂みへと飛び降りた。一瞬の葉が擦れる音とともに、視界が開ける。瞬間、俺は驚愕した。水の“匂い”には気が付いていたが、まさか、こんな光景が広がっていたとは、流石に予想していなかった。そこには、特別大きいと言うわけではないが、綺麗な湖、いやこの大きさなら池と表現したほうがいいだろう、が広がっていた。水はそこが見えるほどに透き通っていて、一目でこの池の水が清浄であることが分かる。4年間この本山で暮らしていながら、こんな素晴らしい光景を知らずに生きてきたとは、不覚だな。おっと、余りの景観美に本来の目的を忘れるところだった。池の周辺を見渡してみたが、やはり刹那の姿はない。やはり匂いはかなり近い地点から感じるというのに。俺は溜め息を軽くついて踵を返し・・・・・・再び声を失った。「・・・・・・」「っ!?」俺の視線の先には、多分俺と同じ理由で完全に硬直しきっている刹那が居た。いや、普通にそこにいるだけだったらね、俺だって思考がフリーズしたりなんかしませんよ。多分刹那だって、平時であるなら、俺が飛び降りてきた時点で声を掛けてくれたはずだ。それが、今の今まで完全に硬直するほどに衝撃を受ける事態が、今目の前で繰り広げられていた。あー、つまり・・・・・・刹那は純白の双翼を広げた上に、何故か下着しか纏っていない状態だったのだ。いや、マジで眼福です。・・・・・・ではなくて!!ど、ど、どうしよう!? 普通に裸見ちゃった♪だけならまだしもっ!! この4年間で一度も見せてもらえなかった羽を見てしまったとなるとまずくない!?原作でも、このかたちに見られた後「掟が~!!」とか言って刹那は皆の前から姿を消そうとしていたし!!も、もしかして・・・・・・俺はこの4年間で積み上げてきたものを一瞬のうちにぶち壊してしまったんじゃあ・・・・・・?だって、何か今にも泣いてしまいそうなんですよ!? あの刹那が!!っていうか、いい加減目をそらせよ俺!!いつまでもジロジロ見てちゃ余計まずいだろうが!!・・・・・・っ! だ、ダメだ。刹那から目をそらすことができない。白磁のような、白く透き通った肌に、未発達で起伏の少ない肢体。水浴びをしていたのか、肩に掛かった黒髪は濡れいて、酷く艶かしい。驚きに高潮した頬は、いつもより朱を帯びていて、歳相応に愛らしい。漆黒の相貌は、イミテーションだと分かっていても美しく、今にも溢れそうなほどに涙を湛えていた。それらを覆うように広げられた、一対の白い翼。まるで完成された芸術品のような彼女の姿に、俺は目をそらすどころかまつ毛一つ動かすことが出来なかった。だというのに、この口はいらんことだけは言えるらしい。「・・・・・・天使、みたいやな・・・・・・」本当にぽろっと、呼吸するくらい自然にそう零していた。修学旅行でのこのかの気持ちが理解できた。これは、反則染みて美しい。「っっっ~~~~~~~!!!!!!!!?」瞬間、顔を真っ赤に染めた刹那によって投合される石ころ。気すら纏ってないそのただの石ころは、これまた障壁の一つもはってない俺の眉間を直撃、俺の意識は暗転した。・・・・・・まぁ、アレだ、刹那の裸を見た代金がこれだっていうなら、おつりが来るくらいだしね。皆さん、こんばんわ、お久しぶりです。さくらいらくさです。まず、まえがきから、ここまで読んでくださった皆様方に心からのお礼を申し上げたいと思います。なお、この作品は1/19の投稿後に一度編集されています、ご了承ください。今回の作品、余りの台詞の少なさに、作者自身戸惑いを覚えております。この5時間目につきましては、主人公の今後の方針やこれまでを振り返るための、総集編、あるいは次話への中継ぎ的な存在と思って頂ければ幸いです。しかしながら、最後の最後でお約束展開。皆様こう思ったことでしょう。「作者、せっちゃんの裸書きたかっただけだろwww」と、そう思わずにいられなかったに違いありません。そうですけど、何か?後悔?ちょっとしてます・・・・・・。反省?いえ、余り。赤松作品の面白い点は、惜しみないラブコメ的展開、最近で言う『ToLOVEる』キャラクター達が可愛らしいことにある、と、作者は声高に主張して回りたいのです。さて、感想掲示板にて、私が文末につける『草々』に関して、しばしばご指摘を受けるので、この場をお借りして弁解など述べさせて頂きたいと思います。まず、『草々』は接頭句とセットで、手紙等のかしこまった文章の文末に用いられること、実は作者、重々承知しておりました。その上で、お約束好きな作者は、文末に何かしら、自分のお約束的な閉めの言葉を用意したく、悩んだ末に思い浮かんだ言葉が『草々』でした。ですので、初めから、形式どおりの運用法を無視した上での言葉遊び程度のつもりで使用していたのですが、どうやら皆様のお目汚しになってしまったご様子。やはり、接頭語とセットで用いる、或いは、別の終了句をしたほうがよろしいのでしょうか?よろしければ、次話までの間、皆様の忌憚のないご意見をお聞かせいただけると幸いです。さて、感想掲示板におきましては、皆様の感想、ご意見、ご要望、ご質問を随時受け付けております。皆様からのお便り、心よりお待ち申し上げております。それではまた、次回のあとがきにてお会いできること、心より祈っております。草々・・・・・・やはり、違和感がありますかね?www