1学期の一大イベント、麻帆良祭から3週間後。夏休みを目前に控え、同級生が浮かれている間も、俺は相も変わらず修行に明け暮れていた。とは言え、一向に俺の封印が解ける様子はなく、体術の腕と気の出力が悪戯に向上していくばかり。いや、それはそれで別に悪いことじゃないんだけどね。最近では刹那との手合わせでも3回に1回くらいなら勝てるようになってきたし。…………ただ、それと同時に霧狐が同じくらいの割合で俺に勝つようになって来て焦ってるんだが。もっとも、エヴァによると封印自体はいつ解けてもおかしくない状態まで緩んでるんだとか。いつか説明した通り、無作為に放たれる魔力は得てして暴走しやすい。そのため俺に掛けられた封印も、その魔力を放出するに相応しい時と場所を選ぶんだとか。つまるところ、後はきっかけ次第で俺の封印は解けて、九尾の魔力というチートパワーアップを図ることが出来るということ。それを聞いて大喜びした俺だったのだが…………。春休みの九尾事件以来、驚くほど平和な学園都市麻帆良。そんな状況で、大規模な魔力を放出するに相応しい出来事なんて起こる筈もなく、俺は目下封印を解けずにいる。無論、平和ってものは勝ち得るより維持する方が難しいものであり、それが続いているという状況が何よりだってことは俺も理解している。だからこそ、この現状を苦痛とは思わない。そういう訳で、俺の封印が解けるのは少なくとも3年になってから。つまるところ、ネギま! で言うところの、本格的なバトルもの展開が始まってからになるだろう。そんな風に思い始めていた。そんな状況下で、ついに先日待ちに待った夏休みが到来。それを利用して刹那と木乃香は京都に里帰りする予定だ。俺も一緒にと誘われたのだが、霧狐とその母親、九条親子のこともあったので、今年は遠慮しておいた。あの2人は故郷に帰りたくても帰れない。そんな2人を残して近衛の本山に俺だけ戻るのは少し気が引けたのだ。そう言う訳で、俺は今年の夏休みも、麻帆良で修業を積みながら生活することにした。麻帆良を後にする刹那と木乃香。霧狐と2人それを見送っていたとき、俺は夢にも思わなかった。この3日後に、まさかあんな事件に巻き込まれることになるなんて…………。―――――ザーーーー…………刹那と木乃香が京都へ帰郷してから3日後。7月も残すところ1週間だと言うのに、今日は朝から梅雨に逆戻りしたかのような大雨だった。雨は嫌いだ。前のときから好きではなかったが、この世界に来てなおさら嫌いになった。他人より効きすぎる耳と鼻が、雨の匂いと音を一際大きく俺に伝える。…………あーあ、早く止まねぇかな?「すみません小太郎さん。こんな日に巡回付き合わせちゃって…………」俺の隣を歩いていた愛衣が、傘から俺を覗き込むようにして申し訳なさそうな声でそう言った。「別に構へんよ。後輩の面倒見るんも、先輩の務めやさかい」「そう言って貰えると、何だか少し気が楽になります」小さく笑みを浮かべて、愛衣は再び周囲に気を配りながら歩き出した。時刻は午後7時。現在俺たちは、学園の巡回の真っ最中。本来愛衣の指導役である高音が、夏休みを利用して本国に戻っているため、俺は臨時で彼女の代役を務めている。もっとも巡回は元々愛衣と高音の担当だった女子校エリアを中心としたものなので、俺は殆ど愛衣に連れられて歩いてるだけのようなものだが。そうこうしてる内に、通学路の途中にある公園にさしかかり、俺たちは連れだってその中に入って行った。耳と澄ませ、鼻を鳴らす。人の気配も匂いも感じられなかった。「まぁ、さすがにこんな日に遊んどるバカはおらんわな…………」「それはそうですよ」溜息交じりに呟く俺に、愛衣は苦笑いを浮かべて答える。「小太郎さんは、雨がお嫌いみたいですね」「まぁな。多分霧狐も嫌いなんとちゃうか?」「ええ。さすがにご兄妹ですね。今日は朝から部屋に閉じこもってます。『髪が跳ねるー!! 雨音で耳が痛いー!!』って」「…………」…………まぁ、確かに俺より霧狐の方が動物的な雰囲気はあるしね。「そういう自分も、雨はあんま好きやないやろ?」「まぁそうですけど…………どうしてそう思われたんですか?」「いや、だって自分、炎使いやん?」「そんな安直な…………」俺の言葉に、愛衣は再び苦笑いを浮かべた。そんな風に軽口を叩き合いながら、巡回は大きな問題もなく終了するかのように思えた。しかしエリア外輪部に来て、その期待が大きく裏切られたことに俺は気が付く。「…………この匂いは…………」「? 小太郎さん? どうかされましたか?」急に足を止めた俺に、愛衣が不思議そうに問い掛ける。…………今の彼女の実力じゃ、巻き込むのは危険か。俺はすぐにいつも笑みを顔に貼りつけた。「いんや、ちょっと旨そうな匂いがしてん。こんな雨でもどこかしらで屋台出しとる酔狂者がおるらしい」「そうなんですか? (すんすん)…………全然分かりません」可愛らしく鼻を鳴らす愛衣だったが、目当ての匂い分からずしゅんと肩を落とすばかりだった。しかしそれも当然だろう。俺が言ったことは全て口から出まかせなのだから。「さて、巡回はここで終了で良かったやんな?」「え? あ、はい。一通りの見回りは終わりました。後は報告書を学園長に提出するだけです」…………と、いうことは、俺がここで愛衣と離れても何も問題はないってことだ。「ほんなら、そっちは自分に任せたわ」「えぇっ!? 報告書、私一人で書くんですかっ!?」「俺、そーゆー形式的なん苦手やねん」「う、嘘ですよぉ!! この前学園長が『小太郎くんの報告書は要点が明瞭で分かりやすい』って褒めてましたもんっ!!」「…………」あの狸ジジイ、余計なことを…………。「まぁ、サボりたいときもあるがな。そん代わり、今度何か甘いもんでも奢ったるさかい、な?」「むぅ~…………わ、分かりました。もともと今日は私が付き合わせちゃった訳ですし。そ、その代わり、今度絶対奢ってくださいよ?」「おう。ほんならまたな」愛衣が学園へと戻って行くのを見送って、俺は彼女とは反対側に駆け出していた。さっき僅かだが確かに感じたあの匂い。雨に掻き消されて希薄になっていたが間違いない、あれは…………。―――――人間の血の匂いだ。少なくとも2人。そしてその内一方は、かなりの深手を負ってると見える。この雨の中、俺の鼻にその匂いが嗅ぎ分けられる程だからな。恐らくは派手にやり合ってる奴らがいる。原作の時間軸に合流するまで、もう厄介事は起きないだろうなんて高を括った矢先にこれだ。全く、今度の人生は退屈しないように出来てるもんだ。俺は差していた傘をかなぐり捨てて、匂いが強くなる方へと足を速めていた。SIDE ???......「ハァッハァッ…………」右脇腹の傷を抑えながら、拙者は木に背を預けその足を止めた。無論、警戒は緩めない。否、緩めることが出来ないと言った方が正しいでござろう…………。何せ襲撃者は、この雨音に身を顰め、今なお拙者を狙っている訳でござるから。「ハァッ…………ハァッ…………ま、まさか、こんなところで同業者に出会うとは…………」少しばかり平和ボケしていたのかも知れん。自嘲気に笑みを浮かべて、拙者はぼんやりとそんなことを考えていた。―――――バシャッ「っっ!?」不意に響いた水音に、拙者は反射的に体勢を整えた。姿こそ見せていないが、敵は迷わず拙者の急所目がけて苦無を投げつけてきたほど。つまりそれは、明確な殺意があっての襲撃。そのような者が、わざわざ拙者に分かるよう、音を立てて現れたのでござる。止めを刺すつもりでのことに相違ない。とは言え、拙者とて甲賀の中忍。そうやすやすと死んでやるつもりはござらん。服に忍ばせていた苦無を手に、いつでも闘えるよう身構える。しかし敵は、攻撃をしかけて来る気配を見せなかった。「…………私の襲撃に気付かず手傷を負わされるなんて、平和ボケが過ぎるんじゃない? 甲賀の中忍がこの程度なんて、里の行く末も見えたわね」「…………ハァッ、ハァッ、こ、これは、手厳しいでござる、な」いつでも拙者を殺せるという意思表示か、それとも何かの意図があってか、襲撃者は止めを刺すどころか、降りしきる雨の中、拙者の前に姿を現した。現れたのは、拙者とそう歳の変わらない少女。背は恐らく160程度。艶やかな黒髪は肩口で切り揃えられた尼削ぎ。服装は槐の忍装束に、顔の下半分を覆う鋼鉄製の仮面…………あれは、甲賀の忍装束!?な、何故同郷の者が拙者を襲う!?思わず声を失った拙者を見て、襲撃者は呆れたように溜息を吐いた。「はぁ…………まだ気付かないの? あなたを狙う人間なんて、この世界には数えるほどしかいないでしょうに…………」「ま、まさか!? そなたは…………!?」「そう。ようやく気付いたのね…………」仮面に隠れた表情は読めなかったが、恐らくその襲撃者は笑ったのだろう。僅かに覗く双眸は、静かに細められていた。ゆっくりと彼女はその右手を仮面に伸ばし、そっとそれを外し素顔をさらす。露わになったその顔は、拙者が良く知っているものだった。「やはり、そなたでござったか…………紅葉」「…………驚かないのね? いつかこうなるって、最初からそう思ってたのかしら?」面白く無さそうに襲撃者…………紅葉は拙者に問い掛ける。「どうで、ござろうな? …………しかしそなたであれば、拙者を襲う理由にも、得心がいく…………」傷の痛みと出血のせいで、呼吸すらままならなくなりながら、拙者はその答えを絞り出した。そう…………我が父と私は、彼女に怨まれて当然のことをした。それを正当化するつもりも、それから逃げるつもりも毛頭ござらん。故に、拙者がここで討たれるのも已む無し。それが天命であったのだろうと諦めがつく。しかし、1つ得心がいかないことがあった。「…………最期に1つだけ、教えてはくれぬ、か…………?」「…………何かしら?」「4年前に里を去ったそなたが、何故これほどの実力を?」彼女に修行を付けていた彼女の父は、8年前に他界している。いかに己で研鑽を積んだとて、先程拙者に手傷を負わせた紅葉の手腕は、あまりに洗練され過ぎていた。己の間合いに拙者を捉え、なお拙者にそれを気取らせぬ忍びの法…………幼くして里を去った彼女に、それだけの実力を付ける術があろうはずもない。「ああ、そのこと? 簡単なことよ。あなたを殺して、私はのうのうとこの麻帆良で生きてつもりなんてない。だからあなたを殺せれば、その後この身がどうなろうと関係ないの。だから…………」仮面を持っているのと反対側、左の手を装束の襟に伸ばす紅葉。その襟元が開かれたとき、拙者は再び言葉を失った。「私には、手段を選ぶ必要が無かった。だから外法に手を染めることも迷う必要なんてなかったの」「…………」大きく開かれた紅葉の胸元、その左胸には…………。―――――生き物のように脈を打つ、一枚の不気味な符が張り付いていた。命を引き換えに力を得る外法。彼女は拙者に復讐するために、自らの身を差し出したのでござるか…………。こんなことを言えた義理ではござらんが、しかしこれは…………。「そなたの父上は、そんなことを…………」「―――――黙りなさい」私の台詞を厳しく遮った紅葉。その左手には、いつのまにか1本の苦無が握られていた。「あなたに父を語られたくない。あなたにそんな資格はない。不愉快なのよ。あなたの何もかもが…………」「もみ、じ…………」最早拙者のどのような言葉も、彼女には届きはしない。それを悟った拙者は、覚悟を決め、ゆっくりと両の目を閉じた。「往生際が良いのね? それも忍の信念かしら? …………だとしたら本当に、不愉快よ」そんな大層なものではない。ただ…………拙者の命一つでそなたの無念が少しでも晴れると言うなら、この短い人生にも僅かな意味があった。そう思っただけでござるよ。しかしその言葉を紡ぐ資格を、既に拙者は持っていなかった。故に拙者は、ただ黙して自らの死を待つ。彼女によって下される断罪を、拙者は甘んじて受ける義務がある。そう思っていた。「それじゃあね、楓。…………安心なさい。私もすぐに逝くから」―――――ヒュンッ…………大気の震えで、紅葉が苦無を放る気配が伝わった。彼女の腕ならば、放たれた苦無は寸分違わず、拙者の心の蔵を貫くでござろう。しかし…………。―――――ガキィンッその一撃が、拙者に届くことはなかった。「っっ!? 誰っ!?」そこに、予期していなかった乱入者が現れたことによって。「―――――よぉ? パーティ会場はここで合うとるか?」未だ降り止まぬ豪雨の中、その男は不敵にも笑みを浮かべてそう告げた。SIDE ??? OUT......「よぉ? パーティ会場はここで合うとるか?」苦無を弾いた俺は、場にそぐわぬ笑みを浮かべながらそう尋ねた。背後には木に背中を預け、息も絶え絶えになっている麻帆良本校女子中等部の生徒。長身に糸目が特徴的な甲賀の中忍、長瀬 楓の姿があった。俺が知る魔法世界におけるネギパーティの中でも、屈指の実力を持つ彼女。その彼女にここまでの深手を負わせるなんて、このくの一只者じゃない。愛衣を連れて来なくて正解だったと思う反面、1人出来たことを迂闊だったと後悔する自分が居た。しかし懺悔は後だ。今はこの状況を打破することが最優先。楓の傷は一見してそれが致命傷だと分かるほどに深い。手当てが遅れれば命に関わるだろう。だから俺は、相手がどんな化け物だろうと、速やかにそいつを退け、楓を安全かつ手当の可能な場所まで運ぶ必要がある。考えてる暇なんてなかった。「…………麻帆良の生徒? 驚いたわ。普通の学校じゃないとは思っていたけど、私たち以外にもこんな変わった人間がいたなんて」楓と対峙していたくの一は、右手にしていた仮面で顔を覆いながら、そんな言葉を投げかけて来た。…………麻帆良の魔法生徒について知らない?ということは、やっぱりこいつは楓と同じ忍者ってことか?もっとも、相手が誰であろうが、今は関係ない。この女の危険性を、楓の傷の重篤さを理解しながらなお、俺は湧きあがる高揚感を抑えられずにいた。数か月ぶりの強敵との出逢いに、封印されている狗族の血が騒ぐのを感じる。「まぁあんたの言う通り、俺ははみ出し者や。はみ出し者同士、仲良くしようや?」告げた俺の顔には、ハッタリではない。正真正銘の笑みが浮かんでいた。「…………ただの通りすがりなら、そこを退きなさい。無関係な人間を巻き込むつもりはないわ」しかし女が告げた言葉は、予想外にもただの勧告だった。学園都市でこんな襲撃を敢行するような奴だ、余程の戦闘狂、或いは殺しのプロかと思ったんだが…………意外に話の通じる人間か?とはいえ、彼女の要求は到底呑めるものではない。俺は再び笑みを浮かべながら、女に応えた。「袖擦れ合うも多少の縁ってな、見てしまった以上助けるんが仁義っちゅうもんや。日本人は判官贔屓やとも言うしな」「…………不愉快な男ね。余程死に急ぎたいのかしら?」明確な殺意を持って、女の双眸がすっと細められる。しかしそれは一瞬のこと。戦闘になるという俺の予感を裏切って、女は滾っていた殺気を嘘のように霧散させていた。「…………いいわ。この場は見逃してあげる。けれど次に会ったとき、まだ私の邪魔をするようなら…………その不愉快な女と一緒に、あなたも始末するわ」そう言い残し、女は降り続く雨に溶け込むようにして姿を消した。拍子抜けだが、幸いだったと言うべきか。もし本当に戦闘になっていれば、楓を助けられる確率は、限りなく0だっただろう。そして女が獲物を前に立ち去ったのは、俺と楓の2人を合わせても、いつだって消せるという自信の表れ。己の無力さに、俺は歯痒さを感じずには居られなかった。…………って、今はそんなことより、やるべきことがあるだろ。俺は先程背を預けていた木の下で、完全にへたりこんでしまった楓に駆け寄った。「自分、大丈夫か? 待っとき、すぐ病院に運んで…………」「す、すまぬが、病院はご勘弁を…………素性が、知れる訳には、いかぬ、ゆえ…………」俺が抱え上げようとすると、左手を上げてそう制する楓。しかし彼女の出血量は、そう悠長なことを言ってられるようなものではなかった。…………どこか彼女の素性を知られず、治療を受けさせることができる場所は…………あ。そこまで考えて、俺は今自分がどこに居るのかをようやく思い出すのだった。「…………貴様、私のログハウスを診療所か駆け込み寺と勘違いしていないか?」こめかみに青筋を浮かび上がらせながら、御立腹の様子でエヴァは呟いた。女子校エリアの外れといえば、エヴァのログハウスのすぐ近所。というわけで、俺は致命傷を負った楓を慌ててここに運びこんだ訳だ。「まぁそう目くじら立てんといてぇな? 困ったときはお互い様やろ?」「ほぉ? では目下、駄犬に困らされているこの私は誰が助けてくれるのだろうな?」物凄い形相で睨みつけてくるエヴァに、俺はただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。とは言いつつも、きちんと楓の手当てをしてくれる辺り、やっぱエヴァはお人好しだよね。「いや~驚いたでござる。まさか本当に魔法使いなどという存在がいようとは」ソファーに横になった状態で、楓は飄々とした声でそんなことを呟いた。すでに傷は塞がっていて、安静にしていれば数時間で完全に回復するとのこと。さすが不死の魔法使いということか。封印されていても、その魔法薬の効能は折り紙つきである。「ふん…………貴様の方こそ、ただの能天気な女子中学生ではないと思っていたが、まさか甲賀忍者とはな」「ははっ、そうでござったな。改めて、助けて頂いたこと、礼を申し上げるでござる。犬上殿、エヴァンジェリン殿」さすがにまだ身体は起こせないのだろう、横になったまま楓は俺たちにそう言った。「礼なんて構へんよ。さっきも言うたけど、困ったときはお互い様や。それより、落ち着いたんなら事情を聞かせてもえるか?」先程の女は、必ずもう一度楓を殺しに来る。そうなる前に、事の顛末くらいは把握しておきたかった。俺の言葉に、楓はしばらく押し黙った後、覚悟を決めたのか、こんな語り出しで話を始めた。「…………あい分かった。されどお二方とも、この話は他言無用でお願いしたい」「他人の事情を言いふらす趣味はない。変な勘ぐりせずさっさと話せ」そんなエヴァの態度に苦笑いを浮かべながらも、言ってることには同意なので、俺は楓に頷いて見せた。それで安心したのか、楓は小さく笑みを浮かべて、話を続ける。「―――――あの者の名は、弥刀 紅葉(みと もみじ)。拙者の幼馴染であり、かつて抜け忍となり殺された、父の親友の娘でござる」