「へぇ……それで小太郎さんは、宮崎さんとデートすることになったと、そう言う訳ですか?」「概ねその通りであります、サー!!」学園祭初日の夕方。遠方からの家族連れが帰宅を開始し、若干閑散とし始めた学園都市の一角。男子高等部の出している即席カフェで、俺たちはまったりと……。「ウチには『兄貴の事がケリつくまで、色恋なんて考えられへんー!!』とか言うてたのになぁ?」「ま、誠に恐縮であります、サー!!」……まったりと過ごせてたら良かったのにね。むしろ殺伐とした雰囲気で、俺は何故か背筋をピンと伸ばし、某海兵隊のような返事を繰り返していた。のどかの急な申し出の後、俺は木乃香と既に到着していた刹那と合流し、事の経緯を説明した。当然、俺の尻尾が危険なので、のどかをお姫様抱っこした件と、木乃香とヤヴァい雰囲気になった件伏せて。結論から言うと、俺はのどかの急な申し出を、いろいろと思案の末承諾してしまったのだ。だって、正直明日の午後は予定もなかったし、断る理由なんて特に無いだろ?で、まぁこれは恐らくハルナ辺りの入れ知恵だろうけど、せっかくだから夕食と、その後に『マホラ・イリュージョン』を見て回ろうって話しになった。原作でネギとのどかが一緒に見てた、光と水のショーアトラクションね。……しかし、これじゃ完全に俺が原作のネギと同じポジションだよな?ネギのフラグバキバキにしてってる気がするけど……仮契約とか大丈夫だろうか?フェイトの様子や、俺のことから考えても、恐らくネギは俺と同じ歳だろうし、恋心なしに女の子が唇を許してくれるとは思えない。原作でネギがあんだけ仮契約出来たのも、彼が子どもだったという理由が大きい気がするし。……まぁ、それは今考えても仕方がないか。原作の一年前ということもあって、世界中による呪い関連の危険はない。恐らく無事に、のどかと楽しい時間が過ごせるはずだとは思う。しかしながら、俺が一番危惧しているのはそこではなく、のどか自身の気持ちだった。原作ではちょいちょい思い切った行動にでる彼女のことだ。学園祭の雰囲気に当てられて、出会って2日の俺にいきなりの告白、とかも十分有り得る。とは言え、俺は今のところそれに応えるつもりはない。ないのだが、別段彼女が嫌いという訳ではないのだ。そこで、女の子的にはそういった場合、どのような対応が望ましいのか、2人に助言を仰ごうと思ったのだが……。事情を説明しただけでこの有様である。刹那が夕凪を持ってなくて本当に良かった。下手をすると、俺の尻尾はとっくに切り落とされていたかも知れない。いるかどうかも分からない神様に、一瞬だが感謝したくなった。「まぁ、約束してもうたもんはしゃあないわ……けど、ホンマにどういうつもりなん? ……ま、まさかのどかに本気で惚れてもうたとか?」縮こまって両手の人差し指をちょんちょんっと付けたり離したり。そんなビクビクした様子で、木乃香がそんなことを尋ねて来た。……うん、常にそういう雰囲気でいてくれると、俺の寿命がもう少し伸びると思うよ?若干禍々しいオーラを放ち始めていた刹那までもが、そ、そうなんですかっ!? なんて身を乗り出してくる。その白い頬っぺたは、興奮した所為か少し赤く染まっていた。「いや、さすがにそれはあれへん。断れへんかったんは、単純に明日は予定があれへんかったからや」「ホンマに!? ホンマのホンマに、のどかに惚れてもうた訳とちゃうやんなっ!!!?」否定の言葉を述べた俺に、木乃香がぐぁっと掴みかからんばかりの勢いでそう聞いてきた。「ちょっ、落ち着けや!? ホンマのホンマ。つか今日会うたばかりやぞ? 良ぉ知らん女のことなんか、そうそう好きになれるかいな」ぶっちゃけていうと、それなりにのどかの事は知ってるし、結構好みだけどね?とはいえ、この世界での俺たちは初対面なので、そう言っておくしかあるまい。「それに、のどかは魔法について何も知れへん。俺が付き合うには、ちょっとばかしハードルが高いわ」今後は関わって行くでしょうけどね。ともあれ、木乃香はそこまで聞いて、ようやくはぁっと肩の力を抜いて、自分の席に座りなおした。刹那も同じように、安堵の表情でテーブルに突っ伏している。俺の一挙手一投足はそこまで重要ですか? ……恋する乙女には重要なんだろうな。「し、しかしそれでは、あまりに宮崎さんが可哀そうでは? その……妙に期待を持たせてしまったり……」「あ、やっぱそう思うやんな?」刹那に言われて、頭を抱え込む俺。そうだよなぁ……本気でのどかのことを考えるなら、あそこできちんと断って、のどかに希望を持たせたりしなければ良かったんだ。しかしそこはそれ、女好きな俺の悪い癖というか……あんな可愛い子にデートに誘われて、断れるわけがないと言いますか……。男性諸君ならきっと分かってくれると信じてる。「いや、別にのどかのこと嫌いか、言われたら、そういうわけとちゃうねん。ただ、その……そもそも俺、恋愛感情いうんが良ぉ分からんいうか……」これは結構ガチな話。何回も言ったと思うが、俺は生前、その人生における時間を4剣道、3オタ活動、2勉強、1その他、みたいな割合で割いてきた。ゲームやアニメ・マンガのキャラクターを見て恋焦がれることは多々あったが、実在の人間相手に恋したことなんてゼロ、全くない。つか、そもそも友人だって殆どいなかったし……。……暗い青春を送ってたなぁ、過去の俺よ。と、言う訳で、こと恋愛に関して、俺は経験値ゼロ。このまま村から出てしまうと、2、3匹のスライムにすらタコ殴りにされてしまいそうな雑魚キャラっぷりなのだ。これまで俺が木乃香や刹那、亜子たちの気持ちに気が付けたのは、正直原作知識によって彼女たちの人となりを、俺が良く知っていたから、という理由が大きい。とてもじゃないが、俺の親父のようなスケコマシにはなれそうもなかった。「それでウチらに相談したんや?」「そーゆーことやな」俺が頷くと、木乃香はむむむ、なんて唸りながら顎に手を当てて小さく首を傾げる。もうちょっとお説教モードが続くと思っていただけに、何だか拍子抜けだ。……いや、別にお説教されたいとか思ってないよ? Mじゃないよ?やがて、木乃香はさも名案が浮かんだとばかりに、ぽんっと手を打った。「せやったら、ちょっと練習してみたら良えんとちゃう?」「へ?」素っ頓狂な声で返事した俺に、木乃香はいやに上機嫌な様子で笑みを浮かべた。日暮れ時の男子校エリア。普段ならそろそろ人気がなくなり始める時間だが、今日に限っては話が違う。きらびやかな照明に彩られた通学路には、中等部、高等部、大学部それぞれので店が所狭しと並び、その客で溢れかえっていた。つまりは、大勢の人で賑わっているということだ。これだけの大観衆の中、ただ歩いているとうだけで人目を引くってのはかなり至難の業だ。いや、よっぽど面白い格好してたら話は別だろうけど、今日に限っては、そこら辺にコスプレした連中がわんさかいるからそれも不可能。だからこそ、敢えて言おう。この状況は、どう考えてもおかしいと。周囲の男どもは、今にも血涙を流さんばかりの形相で俺たち…………否、俺を睨みつけている。ともすれば一斉に襲い掛かって来そうな勢いだ。戦闘力的にはカスみたいな連中だろうが、さすがにこれだけ集まれば、その殺気たるや一流の暗殺者並みである。本来なら、こんな不特定多数に恨みを買う様な覚えは、全くと言って良いほどない。ないのだが、ただ今俺が置かれている状況を鑑みると、その殺意の矛先は明白だった。「…………」「…………(////)」終始無言で歩き続ける俺。その左側で、頬を赤らめ気まずそうに付いてくる刹那。その服装は木乃香の提案で、いつもの制服ではなく、貸衣装屋でレンタルした黒を基調としたゴスロリ調の服を着せられていた。最後まで自分には似合わないと言って、着ることを渋っていたが、さすがに木乃香の押しには勝てなかったようだ。ひらひらフリルのスカートが気になるのか、先程から恥ずかしそうに何度も自分の足元を気にしてる。…………敢えて言おう、木乃香グッジョブ。もちろん、そんなことで俺は無言になっている訳ではない。こんなに可愛い格好をした刹那とデートできるなら、周囲からの殺気なんて甘んじて受け止めよう。問題はその刹那と、俺を挟んで反対側にいる御人だ。「~~~~♪」終始言葉を発さない…………否、発せない俺たちとは対照的に、鼻歌交じりで歩く木乃香。その服装は、刹那が来ている服と同じデザインのゴスロリ服だが、色は白を基調としたものになっている。本人曰く、せっちゃんとおそろいがええ、だそうな。…………誠に眼福である。そして当然のように、そんな木乃香の服装も、決して俺が沈黙している理由ではない。問題なのは、その木乃香の行動だった。「やっぱ、デートいうたら、腕組むんは基本やんな♪」俺を見上げて、嬉しそうに言う木乃香。そう。ただ今俺の右腕は、木乃香によってがっちり抱き込まれているのだ。先程から、ひかえめだが柔らかい木乃香さんの双丘の感触がふにふにと押し付けられて、いろいろとヤヴァイ感じ。周囲からぶつけられる殺気の大半は、こんな嬉s…………ゲフンゲフン。恥ずかしい状況の俺に対するものである。うん、確かにね。デートの予行練習をするっていう木乃香の提案は承服したよ?けどさ、こんな針のむしろに突っ込まれるとは思わなかったわけよ。つか、刹那も付いて来てる時点で、どう考えてもデートとは言えなくね?そんな考えが溜息となって口から零れる。その瞬間、ふと足を止めて、木乃香が俺のことを見上げた。「…………コタくん、うちとせっちゃんやと不満なん?」「ぜっ、全然そんなことあれへんっ!!」…………毎度思うけど、木乃香のうるうる上目遣いは反則だと思います。アレを前にして、なお立ち向かう気力が残ってるやつは人間じゃねぇよ。今更ながら、ネギクラス最強キャラって、実は木乃香なんじゃないかと思う。「ホンマに? コタくん、さっきからずっとだんまりやから、もしかしてあんまり楽しないんやないかなぁって思って…………」「あー…………最初から自分らと学祭回るつもりやったし、楽しんではおんねん。ただ、その…………人前で腕組むんは、ちょお…………ハズいやん?」左手で頬を掻きながらそう言うと、木乃香は面白く無さそうに口を尖らせた。「むー…………せっかくのデートなんやから、腕くらい組むんは当然やえ?」「せやかて、なぁ?」俺は視線を刹那に向けて助けを求める。「は、はい…………そ、そのお嬢様、正直この格好だけでも恥ずかしいですし、これ以上人目を引くようなことは、その…………」「せっちゃんかて、ホンマはコタくんと腕組んで歩きたいんとちゃうん?」「っっ!? そそそそそ、そんなことは、あ、ああ、ありません、よ?」刹那さーん? メチャクチャ動揺してませんかー?「みんなお祭りに夢中でウチらのことなんか気にしてへんよ。せやから、せっちゃんもほら、ぎゅ~~~~ってしてみぃ?」言いながら、腕により一層力を込める木乃香。当然のように、彼女の胸がより一層強く押し付けられる。同時に、周囲から向けられてる異様な殺気の密度が倍増した。…………もうどうにでもしてくれ。「ほらほら、せっちゃん。ぎゅ~~~~っ…………」「う、ううっ…………」嬉しそうに俺の腕を抱き締めながら、尚も刹那を追い詰める木乃香。刹那は耳まで真っ赤にして、俺の左手の木乃香の顔を交互に見つめて…………。「…………や、やはり私にはムリですっっ!!!!」そう言って、そっぽを向いてしまった。「むー…………せっちゃんと一緒が良かったんに…………」残念そうに呟く木乃香には悪いが、俺は内心ほっと胸を撫で下ろしていた。これ以上、腰かけたむしろ針を増やしたくはないしな。「ほな行こか? はよせんと、出店閉まってまうえ?」気を取り直すように言って、木乃香はさっきと同様、ぐいぐいと俺の腕を引っ張って歩き始める木乃香。俺はそれに引きずられるようにして、再び歩き始めた。そっぽを向いていた刹那も、慌てて俺の左側に駆け寄って来る。こうなったら、一刻も早くこの男子校エリアを抜けて、カップルが大勢いる世界樹広場周辺に向かうしかない。そう思って歩調を早めようとした俺の左手に、すっと誰かの手が重ねられて、俺は思わず息を飲んだ。「せ、刹那さん?」驚いて左側を見ると、相変わらず耳まで真っ赤にした刹那が、いっぱいいっぱいな様子で俺の左手を握っていた。「そ、そのっ…………こ、これはあくまで小太郎さんの練習のためでっ!! け、決して私が手をつなぎたかったとか、そういうわけではっ…………」しどろもどろになりながら、一生懸命にそんな言い訳をする刹那。その仕草が恐ろしく可愛らしくて、何と言うか…………胸がきゅんきゅんします。「あはっ、せっちゃん意地っ張りさんやな♪」「ち、ちがっ!? ち、違いますからっ!!!!」「…………」楽しそうにからかう木乃香と、必死になって言い繕う刹那。そんな二人の様子を見てると、何だかこっちまで楽しくなってきてしまう。こんなに可愛い女の子二人に挟まれて学園祭を回れるんだ、多少の居心地の悪さくらい、甘んじて受け止めるべきなのかも知れない。そんな風に思えて来て、俺はようやく口元に笑みを浮かべるのだった。予行練習その1・世界樹前広場、大学部クレープ屋台「ん~~~~っ♪ ほっぺがとろけてしまいそうや~♪」「ふふっ、お嬢様。いくらなんでも大袈裟ですよ」「そんなことあれへんよぉ? ね、コタくんも食べてみて」「どれどれ、ぱくっ…………へぇ、甘過ぎるかと思ってんけど、結構いけるもんやな」「あ。コタくんコタくんっ。ちょお屈んでぇな」「? こうか?」「…………(ぺろっ)」「っっ!!!?」「お、おおおおおおおお嬢様っ!!!? 一体何をっ…………!?」「コタくん、ほっぺにクリーム付いてたえ?」「せ、せやかて舐め取らんでも…………」「だってウチ、右手はクレープ持っとるし、左手はコタくんと腕組んでるんやもん」「組んどる方の腕を放せば…………」「えぇー…………ウチと腕組むん、そんなにヤなん…………?(うるうる)」「…………何でもありません」ちなみに、左手も刹那によってしっかりホールドされたままでした。予行練習その2・聖ウルスラ女子高等学校、2-Dお化け屋敷「結構怖いって、クラスの子たちが話してたんやけど…………何や、二人は全然平気やったみたいやね?」「そりゃあ…………」「まぁ…………」「「半分は本物の妖怪やから(ですから)」」「あっ…………!!」予行演習その3・麻帆良工科大学、即席ゲームセンター「麻帆良祭限定プリクラ…………工科大の連中、こんなもんまで作ってるんかいな…………」「ほらほらっ、せっちゃんもはよぉ入らんと」「や、やはり、私はっ!! こ、このような格好をしている写真を残すのはちょっと…………」「今更何言うとんねん。似合ってて可愛いやん、そのカッコ」「か、かわっ!!!?」「つか、刹那はもとが良えんやから、普段からもっと女の子らしい格好すれば良えのに…………」「~~~~っっ…………!!(////)」「むー…………コタくん、せっちゃんのこと褒めてばっかや。ウチかて色違いのおんなし服着とるんに…………」「あ、あー、いや、それはそのっ。こ、木乃香は普段から女の子らしい服着とるやろ? けど刹那は普段制服ばっかの着たきりスズメやから、こう、ギャップ萌え~言うか、な?」「「ぎゃぷもえ???」」「…………スマン、ただの妄言や。忘れてくれ」予行演習その4・???「ちぃっ!! よりによって今夜が満月やったなんてっ…………!!」「こ、コタくんっ!? な、なんで逃げるんっ!?」「追っかけられとるからやっ!!!!」「待たんかこの駄犬っ!!!! その皮剥ぎとって剥製にしてやるっ!!!!」「こ、小太郎さん、エヴァンジェリンさんにいったい何をしたんですかっ!?」「…………当番サボってたんをタカミチにチクったった」「なっ…………!? 何でそんな恐ろしいことをっ!?」「ちょっとした出来心や!! 反省はしてるっ!! けど後悔はしてへんっ!!!!」「開き直ってる場合ですかっ!!!?」「コタくんっ、せっちゃんっ!? エヴァちゃんが何か投げたえっ!?」「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!! 来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹けよ常夜の…………」「ちょwwwおまwww それは街中で使って良えもんとちゃうやろっ!!!?」「やかましいっ!!!! 貴様が大人しく捕まらんからだっ!!!! 氷漬けにして粉々に砕いてやるっ!!!!」「さっきより物騒なこと言うてるしっ!!」 「喰らえっ!!!! 闇の吹雪っっ!!!!」「ぎーーーーーにゃーーーーーっっ…………!!!?」予行練習その5・学祭門下「ぜぇっ……ぜぇっ…………」な、何とか撒いたか…………?まさか日暮れ時にもエヴァの魔力が有効だとは思わなかった。重要なのは満月が出てるかどうからしい。一つ身を持って学んだぜ。「はぁっ……はぁっ…………え、エヴァちゃんて、怒ったらあんな怖かったんやね…………」肩で息をしながらも、木乃香は楽しそうに笑みを浮かべてそんなことを言った。「ま、まさか街中であんな魔法を使って来られるとは思いませんでした…………彼女だけは、敵に回したくはないですね…………」俺たち同様、大きく息をつきながら、刹那までもが苦笑い交じりそう言った。全く、とんだ予行練習になったもんだ…………。「せっかく二人に付き合うてもろたんに、何やどたばたしてもうてスマンかったな」「そんなこと、別に謝らんで良えのんに。それに…………」そう言って木乃香はぎゅっ、と俺の右腕に抱き付いて来た。「…………まだ、デートは終わってへんよ?」「はい?」その言葉の意味を、俺が木乃香に問いかけようとしたその瞬間だった。―――――ヒューーーーー…………ドォンッ…………「!! …………もうそんな時間かいな?」麻帆良の空に、大輪の花が咲いたのは。「なるほど。デートの締めにこれを見たかったわけやんな」さすがは女の子と言うべきか、確かに締めくくりにこの花火は、とてもロマンチックで相応しいと思う。感嘆の溜息を零した俺に、木乃香はしてやったりという表情を浮かべて見せた。「ふふっ…………けどな? ホンマはこれで終わりとちゃうんよ? なっ? せっちゃん」「お、お嬢様っ…………そ、そのぅ、ほ、本当にするんですか?」「ウチはせっちゃんと一緒が良えんやけどなー…………」「う、ううっ…………わ、分かりました。覚悟を決めますっ」顔を見合わせて、こそこそとそんな会話をする二人を、俺は呆然と見つめる。「え、ええと? 二人ともいったい何の話をして…………」「そぉれっ♪(ぐいっ)」「~~~~っ!!(////)(ぐいっ)」「うおっ…………!!!?」何だ何だっ!?二人に一体何の話をしてるのか聞こうとした俺は、急に両方の腕を引っ張られていた。思わぬ奇襲攻撃に、堪らず前へとつんのめる俺。そして次の瞬間。――――――――――ちゅっ…………両頬にやぁらかい感触を感じた。「…………へ?」い、今のって、もしかして…………!?呆然自失になりながら、油の切れた玩具のような動きで二人の顔を除く俺。木乃香はいつも通りのほにゃっとした笑みを浮かべているが、頬を少しだけ赤く染めている。刹那は耳まで真っ赤にして俯き、恥ずかしそうにスカートのすそをきゅっ、と握りしめていた。「えへへ…………やっぱり、デートの最後にはロマンチックなキス、やんな?」「~~~~っっ…………!!(////)」や、やられた…………。得意げに言ってのける木乃香と、ますます顔を赤くした刹那に、俺は何も言い返すことが出来ない。それどころか、指先一つ動かすことが出来なくなってしまっていた。「え、ええと…………そ、そろそろ一日目の打ち上げが始まってまうから、ウチらは帰るな? こ、コタくんも、気を付けて帰るんやえっ?」言いたいことだけ言って、木乃香はさっと人ごみの中へと走り去って行ってしまう。「お、お嬢様っ!? お待ちくださいっ!!!!」慌てて刹那もその後を追い駆けて行ってしまった。残された俺は一人、棒立ちになって人ごみに消えていく二人の姿を見送ることしか出来ないでいる。…………どうやら、俺は親父のようになれる日は、一生掛かっても訪れそうにない。「…………女の子の唇て、あんなやぁらかいもんやったんやなぁ…………」未だ夢見心地な気分のまま、俺はぽつり、とそんな言葉を零すのだった。