午前中のシフトを無事終えた俺は、現在昼食がてら女子校エリアは本校女子中等部まで足を伸ばしていた。それにしても、男子部とは比にならないほどの大盛況だな。そりゃあ持て成して貰う側からすると、むさくるしい男より可愛い女の子に持て囃されたいだろうしな。ちなみにあのまま抜けると、逆上したエヴァに何されるか分からなかったので、エヴァの食器を下げたときにタカミチに連絡しておいた。『クラスの出し物サボってる不良幼女がいるので回収してください』ってな。でもって、颯爽と現れたタカミチ(咸卦法状態)に為す術なくドナドナされてく金髪幼女。ザマァミロだ。ってなわけで、俺は安心して女子部校舎をうろついてる。とりあえず最初に霧狐と愛衣のクラスに行こうという算段だ。さっきシフトが終わるってメールが来たし、一緒に学際を回るのも一興だと思って。……しかしまぁ、平穏無事に過ごしたいと思ってるときに、何かしらの騒動に巻き込まれるのが俺クオリティ。―――――ドカァッ「ぶふぉっ!?」「…………ふんっ」――――ドカッ「げふんっ!!!?」何かにぶっ飛ばされてきた見知らぬ男を、とりあえず人のいない方向へ蹴り飛ばす。鬼だぁ? んなもん、俺の前に吹っ飛んできたこいつが悪い。それはさておき、男が飛んできた方向に視線を移すと、何やら小柄な女の子2人と、4、5人の男が険悪な様子で睨み合っていた。……オイオイ勘弁してくれ。このパターンは1年前、亜子達んときに一回やったじゃねぇか?とはいえ、見なかったことにするのも気分が悪い。俺はなるべく事を荒立てたくないなぁ、とからしくないことを考えながら睨み合う両者に近付いて……。「…………」言葉を失った。「……自分ら何してんねん?」「こ、小太郎さん!?」「あ、お兄ちゃんだ」俺を確認するや否や、わーい♪なんて楽しげな声を上げながら俺の胸に飛び込んでくる霧狐。対照的に、事態に付いていけなくなったのか、おろおろと助けを求めるように周囲を見回す愛衣。……何でこう、俺の知り合いは騒ぎの渦中にいたがるんでしょうかね?まるでマーキングするかのように、俺の胸板に顔を擦りつけて来る霧狐の頭にぽんっ、と手を置きながら、俺は状況把握に努めることにした。「……これ、何の騒ぎや? さっき誰かしらんけど、吹っ飛ばされた奴がおったやろ?」「あ、それ霧狐が殴り飛ばした人だ」「……まぁ、予想はしててん」弱っちかったねー、とかにこやかに言う霧狐。……悪気がない分、俺よりよっぽどこいつのが性質悪い気がする。そんな霧狐の様子を見かねたのか、愛衣が慌てた様子で事情を説明してくれた。「き、キリちゃんは悪くないんです。その、私がその人たちに、言い寄られて困ってたから、キリちゃんが助けてくれて……」「そうだよっ。愛衣は嫌がってるのに、無理やり連れてこうとするんだもん。ああいうのチカンって言うんでしょ?」「……とりあえず事情は分かったわ。ついでに、霧狐はナンパと痴漢に対する認識に齟齬があるらしいいうこともな」「ナンパ?」不思議そうに小首を傾げる霧狐を、とりあえず引っぺがして愛衣に預ける。良く見たらこのナンパ男共、どっかで見たことある面だしな。おそらく去年俺が返り討ちにしたバカどもの一味だろう。これなら事を荒立てずに収拾できそうだし、さくっと片づけよう。……もう十分荒立ってるって? それは言わない約束だろjk。しかし、毎度思うが、中等部の生徒ナンパする連中って正気を疑うよな?2-Aの巨乳組ならいざ知らず、霧狐とかギリギリ幼女カテゴリーですよ? 犯罪ですよ? ア●ネス来ちゃうよ?それはさておき、俺は溜息をつきながら、俺たちの様子を見ていたナンパ男たちに振り返った。「ヒッ!? く、黒い狂犬!!!?」俺の目算通り、連中は相手が俺だと分かっただけでビビり倒している。……だったら、前の一回で懲りといてくれ。俺の平穏な生活のためにも。「よぉ、兄ちゃんたち、俺の可愛い妹と可愛い後輩が世話になったみたいやな?」ニヤリ、と最早お馴染みとなりつつある悪役スマイルで語りかける俺。男たちは最早失禁寸前だろう。「あ、ああ、あんたの妹だなんて知らなかったんだっ!!」「そ、そうだって!! ちょ、ちょっと可愛いかったから、こう、祭の案内でもしてもらおうかなぁ、なんて!!」「……ちょっとやと?」「「「「メチャクチャ可愛いであります、サー!!!!」」」」若干殺気を込めて俺が聞き返すと、無事な男たち4人はびっ、と背筋を伸ばして敬礼した。……いかん。これ結構楽しいぞ。「まぁ、それは良えわ。妹たちが世話になったみたいやし、ここは兄としては何やお礼せんとなぁ?」「め、めめめめ滅相もない!?」「まぁ、遠慮することあれへんって。さぁ…………」べきん、と拳を鳴らす。爽やかな笑みを浮かべて、俺は男たちにこう告げた。「―――――どこの骨から持ってかれたいんや?」瞬間、まるで幽霊でも見たかのように悲鳴を上げながら、男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。「……とまぁ、これが正しいナンパ撃退方法や」「それ、実践できるのは小太郎さんだけだと思います……」したり顔で言った俺に、愛衣はげんなりした様子でそう突っ込むのだった。あの後、適当にギャラリーを蹴散らして、俺は兼ねての予定通り愛衣と霧狐を連れて2-Aの中華喫茶「花・花(ほあほあ)」に向かうことにした。「ほ、本当に私もご一緒して良いんですか?」俺の右腕にぶら下がってご満悦な様子の霧狐とは対照的に、愛衣はおどおどした様子で俺にそう尋ねて来た。「構へんよ。つか、誘っとんの俺やし。後輩と飯食うんは別におかしなことやあれへんやろ?」「そ、それは、そうなのですが……や、やっぱり恐れ多くて……」「恐れ多い?」愛衣の言葉に、いつかの高音の様子を思い出して嫌な予感がする。まさか、と思いながら尋ねると、愛衣は俺について色んなところから聞いていたらしいことを教えてくれた。「入学早々、東洋の名のある妖怪を撃退したり、伝説上最強に類される酒呑童子を倒したり……今年の春休みには、復活した九尾の狐を吸収してしまうなんて……男子中等部の犬上 小太郎さんと言えば、魔法生徒の中でも知らない人なんていないんですよ?」「……まぁ、字面だけ聞きゃあそんな感じやな」しかもその全てが事実だし。いや、絶対どこかしら尾びれ背びれは付いてるだろうけどな。しかし……デジャヴを感じるな。高音も最初似たようなこと言ってたし、本当に俺について回る噂って碌なのがねぇな。まぁ、高音に関しては、操影術の稽古付けて貰ってたこともあって、そういう噂による誤解は解けて……「そ、それにお姉さまも『魔法生徒としても、人間としても小太郎さんは見習うべき素晴らしい人』と、とても褒めてましたし!!」「…………」前言撤回。全く誤解解けてねぇし、寧ろ悪化してるじゃねぇか!?どういうことだよ!?言葉を失う俺を余所に、身内が褒められて嬉しかったのか、霧狐は自慢げに、お兄ちゃんは凄いんだよ? とか言ってるし。「ですから、そんなマンガの主人公みたいな人とと、こうしてお話をしてるだけで夢みたいなのに。キリちゃんと一緒に稽古を付けさせてもらったり、ご飯まで誘って頂けるなんて、ちょっと恐れ多いと言うか……」本当に緊張しているらしい。おどおどとした様子で、そう告げる愛衣。こりゃ、完全に最初の高音と同じで、犬上 小太郎ヒーロー説が浸透しきってんな。原作でもナギや紅き翼のことについて詳しかったりしたし、結構ミーハーっぽかったもんな。「あんな? 俺はあくまで自分らとおんなし魔法生徒の一人や。ついでに言うなら、そのお姉さまからすると俺は魔法の弟子で、立場的にはますます、自分と変われへん。そんな畏まる必要なんてあれへんからな?」とりあえず、愛衣の中のイメージを払拭したい俺は一気にそう捲くし立てた。愛衣はというと、そんな俺の剣幕にビビったのか、目を白黒させてる。しまった……逆効果だったか?「んー……良く分かんないけど。お兄ちゃんは、愛衣ともっと仲良くしたいんだよね?」不意に、今まで俺の右腕にぶら下がって遊んでいたキリが、そんなことを聞いてきた。「まぁ、ニュアンス的には合うてるわな」「あ、やっぱり? それで、愛衣はお兄ちゃんのこと嫌いなのかな?」「そ、そんなっ!? と、とんでもないです!! 寧ろ憧れてるくらいでっ!!」急に話を振られた愛衣は、顔を真っ赤にしながら、手をわたわたと振ってそう答える。それに満足したのか、霧狐はにこっ、と可愛らしい笑みを浮かべて言った。「じゃあ一緒にお昼ご飯食べに行こうよ? キリも愛衣とお兄ちゃんが仲良くしてくれた方が嬉しいし。愛衣はキリに初めてできた同い年の友達だもん」ね? とダメ押すような霧狐の微笑みを向けられて、一瞬たじろぐ愛衣。しかしながら、それで観念したのか、耳まで真っ赤にして。「あうあう~……そ、それじゃあ、い、一緒に行かせてもらうね?」と、しどろもどろになりながらも頷いたのだった。霧狐さんマジパネェっス……。ちょっとしたトラブルには見舞われたが、俺たちは予定通り、2-Aの中華喫茶「花・花(ほあほあ)」に辿り着いた。予想通りというか、かなりの長蛇の列だったが、それもスムーズに進み、ついに俺たちに順番が回って来る。「ファンイン!! ようこそ2-A中華喫茶『花・花』へ……って、小太郎じゃん!?」元気良く出迎えてくれたチャイナドレスの女生徒は、俺の顔を見て驚いた顔をした。髪形がいつもと違うので一瞬気付かなかったが、良く見ると見覚えのある顔だと気付く。「祐奈かいな? へぇ……馬子にも衣装とは言ったもんやな」「それさ、微妙に褒めてないよね?」ジト目で俺を睨みつける祐奈。口ではああ言ったものの、祐奈の格好はかなり……こう、ぐっと来るものがあった。いつものサイドアップテールは両側でシニョンの中に纏められていて、彼女が着ているチャイナドレスに絶妙にマッチしている。しかもこのチャイナ服、なんとミニ丈である。人によっちゃあ邪道だ何だと騒がれそうだが、そこからすらりと伸びた祐奈の脚線美が惜しげもなく披露されていて……何と言うか、実にけしからん仕様だ。「ええぞ、もっとやれ」「? 何をやるのさ?」「スマン、何かそう言わなあかん気がしてん」「???」突然意味不明な言葉を口走った俺に、祐奈は不思議そうに首を傾げていた。「あーコタ君だー♪」入口のところで立ち往生してると、俺を見つけたまき絵がぱたぱたと元気良くこっちに駆け寄って来る。そして当然のように、まき絵もチャイナドレス。まき絵はシニョンこそしていないが、着ている服は祐奈と同じ仕様のもの。さすがは新体操部と言うべきか、細くしなやかな両足はそのキャラクターとは裏腹に実に煽情的で……男に生まれて来たことを、思わず何かに感謝したくなる。麻帆良祭、万・歳……。「いらっしゃい。来てくれたんだね。そっちの一年の子はコタ君の友達?」俺の後ろにいる霧狐と愛衣を目ざとく見つけて、まき絵はにこにこと問い掛けて来る。無論、人見知りが激しい霧狐と、大人しい愛衣はそんなまき絵の勢いに押されて、さっと俺の背中に隠れてしまうのだった。俺は苦笑いを浮かべながら、まき絵と祐奈に二人のことを紹介する。「俺の妹とそのルームメイトやねん」「へ? 小太郎、妹いたの? けど前に兄ちゃんが一人だけとか言ってなかったっけ?」「まぁ、いろいろあってん。霧狐、愛衣、自己紹介したり」俺に促されると、2人はおっかなびっくりという様子だったが、俺の背から出て来て、それぞれぺこりと頭を下げた。「さ、佐倉 愛衣です。よ、よろしくお願いします」「く、九条 霧狐です……」愛衣の方はともかく、霧狐の奴はかなり戦々恐々な様子。さっき絡んできた男を問答無用で殴り飛ばした勇猛さはどこへやらだ。それはさておき、2人に自己紹介されたまき絵と祐奈は、さらに疑問符を浮かべまくっていた。「え、えーと、小太郎。どっちが妹さんだって?」「ん? ああ、こっちや、霧狐の方」祐奈に聞かれて、俺は未だにカチコチの霧狐の頭にぽん、と手を置いた。「ねーコタ君、どうして兄妹なのに名字が違うの?」「ば、バカまき絵!? どうしてそういう聞きにくいことをっ……!?」あー、それで不思議そうな顔してた訳ね。何か普通に妹として受け入れてたもんだから、最近気にしてなかったけど、俺たち腹違いだし名字が違うんだった。で、祐奈はそこに複雑な家庭の事情があると勘違いしたから、まき絵を諌めて……。「世の中にはそーゆー特殊な性癖な人もいるんだから!!」「ってちょっと待てぇいっ!?」誰が特殊性癖の持ち主やねん!?勘違いするにしてもかなり最低なベクトルの勘違いしてんじゃねぇよっ!?「だ、だって、そんないたいけな一年生捕まえて『お兄ちゃん大好き?』とか言わせて、い、いかがわしいことさせてんでしょ!?」「いかがわしいんは自分の頭ん中や!!」思わず叫んだ俺に、状況が飲み込めていないのか、霧狐と愛衣、まき絵は不思議そうに首を傾げていた。うん、君たちはそのまま、純粋なまま大きくなってください。「じゃ、じゃあ何で名字が違うのさ?」「腹違いやねん。俺と霧狐は、違う母親から生まれてきてん」「えっ……そ、その、ごめん……」俺が事実をありのままに告げると、祐奈はしゅんとしてしまった。まぁ、それがこれを聞いた時の普通の反応だよな。俺としては、親父は妖怪だし特に気にしてないんだけども。ともかく、このまま祐奈にしゅんとされてると気まずいので、俺は彼女を励ますことにした。ぽんっ、と祐奈の頭に手を置いてよしよしと撫でてやる。「まぁ気にすんなや。そんな複雑な事情がある訳とちゃうし。ただちょっと……俺の親父が女ったらしやったいうだけの話でな」にっ、と笑顔を浮かべて祐奈に言う。これで祐奈が笑顔を取り戻してくれる……というのが、俺の目論見だった訳だが。何故か祐奈は、呆れたような、何とも言えない視線で俺の事を見つめていた。「あー……うん、あんたの父親だし、何となく納得」「確かに、コタ君のお父さんなら……納得だよね」「はい、間違いなく小太郎さんはお父さん似ですね」「え? え???」祐奈と同じような視線を俺に向けて、まき絵どころか愛衣まで口々にそう言った。唯一状況がつかめないのか、霧狐だけが不思議そうに首を傾げていたが。あれ? 祐奈が元気になったのは俺の計画通りなのに、何か泣きそうだぞ?まぁ、いろいろと誤解もあった訳ですが、とりあえず俺たちは席について、しっかり料理も平らげたところである。あのさつき直伝と言うだけあって、出された飲茶は味も量もかなりのハイクオリティだった。それはさておき、何と言うか……壮観だな2-A。1年間通っていて、今日初めて潜入した訳だが、見渡すと必ず原作で一度ならず見た顔が居る訳よ。これはかなり眼福……もとい、感動的な光景だ。残念ながら、木乃香や刹那、明日菜といった普段から絡みの多い連中は軒並み現在当番から外れてていませんがね。しかし今、俺の興味はそんな感動を更に越えた、とある人物に注がれていたりする。絶妙に俺と視線が合わないように動いているみたいだが、残念、俺には嗅覚という武器がある。その程度で気が付かない訳はないのだ。無愛想に食器を下げるしかしていない小柄な一人のウェイトレス。その正体に気が付いた俺は、ニヤリと口元に浮かぶ笑みを抑えられなかった。こうなると止まらないのが俺の悪戯心。こんな好機めったにないからな。ここは弄り倒させて貰おう。「おーい、そこのウェイトレスさーん?」「…………」聞こえていない訳などないのに、完全に俺の声を無視する小柄なウェイトレス。「あっれー? 聞こえてへんのかいな? そこの小柄でSっ気の強そうなウェイトレスさーん?」「だ、誰が性悪な金髪幼女だこの駄犬めぇぇぇっ!!!?」「…………誰もそこまで言うてへんがな」しかもやっぱしっかり聞こえてたんじゃねぇか。俺の声に耐えきれなくなったらしく、その金髪幼女……エヴァは顔を真っ赤にしながら、がぁっと噛みつかんばかりの勢いで俺たちテーブルへ詰め寄って来た。その剣幕に、愛衣が、ひぃっ!? や、闇の福音っ!!!? とか悲鳴を上げてるのは、まぁ御愛嬌と言うことで。しかし……さすがはタカミチ……あの金髪幼女を連行しただけではなく、見事にこの格好をさせるとは。エヴァは他の女の子たち同様、ミニ丈のチャイナドレスに身を包んでいた。長い髪は先程の祐奈同様、両方でシニョンに纏められているが、髪の量が多いためか、一束がそのシニョンから飛び出していた。逆にそれがエヴァの外見相応の可愛らしさを演出していて、非常に微笑ましい。しかも彼女がその格好を恥ずかしがって、ドレスの裾をきゅっ、とか握っちゃってるもんだからもう……これはいっそロリコンでもいいや、ってなるわ。「き、貴様がタカミチなんぞをけしかけたせいで私は……私はぁぁぁああっ!!!!」「そんなんクラスの出しもんサボってた自分のせいやんけ、自業自得で因果応報や」ついでに言うと、エヴァのチャイナ服姿が見れて実に俺得です。あー、やっぱエヴァはからかうとおもろいなぁ。―――――ブチッ「……ぶちっ?」何かが切れる音と共に、壮絶に嫌な予感を感じた俺は、恐る恐るエヴァの顔を覗きこんだ。「ふ、ふふっ……ははっ、ハーッハッハッハッ!!!!」いきなり高笑いを上げたエヴァにドン引く俺と霧狐。愛衣に至っては泡吹いて気絶してた。つか、周囲の客も何事かとこちらを注目しちゃってるし。「え、エヴァが壊れてもうた!?」「誰が壊れるか!! ……ふっ、あのタカミチに言われたからと言って、こんなところで大人しく給仕をするなんて、そもそも私の柄じゃなかったんだ……」ギンッ、とこちらを射抜くような眼力で、俺を睨みつけるエヴァ。……あ、ヤッベ、完全にご乱心だわ。俺は手早く財布から千円札を3枚取り出して霧狐に渡した。「へ? お、お兄ちゃんコレ、どうしたら良いの?」「ここの支払い頼むわ。余ったら愛衣と何か上手いもんでも食うてくれ。お兄ちゃんは今から明日を守る旅に出ます」「へ? へ???」 不思議そうに首を傾げる霧狐。うん、霧狐、君はそのまま、人間の汚れを知らずにすくすく育つんだよ?と、その瞬間殺気を感じて、思わず俺は椅子から飛び退いていた。―――――カラァンッその瞬間、ばらばらに割れる俺の椅子。え、エヴァの奴、今完全に糸で切り刻みましたよね!?つか、動きを封じるだけじゃなくてそんなことまで出来たんだ!?あ、人間は気で強化されてるから切れないとか?って、冷静に分析してる場合じゃねぇ!!「先程の執事喫茶での件と、ここで受けた私の屈辱……貴様の首を取って晴らさせてもらうとしよう」ドス黒いオーラを全開にして、ニタリ、と心臓の弱い方々は腹の底から震えそうな笑みを浮かべるエヴァ。……ちょっとやり過ぎたかな?まぁ、今反省しても仕方ないけどねっ!!俺は人前にも関わらず、瞬動を使って窓際まで移動。躊躇いもなく窓を開け放ってそっから跳び下りるのだった。「な!? ま、待たんかこの駄犬っ!!!!」「はっ、待てと言われて待つバカがどこの世界におるんや?」魔法も使えず空も飛べないエヴァではさすがにここまでは追って来れまい。本当なら、霧狐&愛衣の炎の新入生コンビとゆっくり麻帆良祭を回りたかったんだけど、ここはほとぼりが冷めるまで一人でうろうろするしかないよなぁ。とかなんとか考えている内に、無事俺は地面に着地成功。こんなとき、本当気とか魔力って便利だと思う。が、俺は失念していた。ネギと違って、俺は認識阻害なんて便利なもんが使えないってことを。つまり、今3階から飛び降りた俺の姿を、バッチリ目撃してる人がいたりしたら……。「そ、空から人が……きゅうっ……」俺の着地地点にたまたまいたその女の子は、跳び下りて来た俺を見て卒倒してしまうのだった。……俺には一時の休息すら許されないんですかね?