とりあえず、俺の根城が完成して二日が過ぎた。いや、もちろんあてがわれた部屋に、日用品やら家具やらを運び込んだだけですけどね?あてがわれたのは、この屋敷には珍しい洋室で、きちんと鍵も掛かります。素人所見ですが、監視のためのカメラ、盗聴器、探索魔法、結界の類は見当たりません。ちなみに、この二日間、長は何かと世話を焼いてくれました。本当にそっちの気があるんじゃないかと怖くなってきましたとも。長以外にも、何人か呪術協会の人とお話をさせていただきました。あからさまに嫌悪感とか、侮蔑感のこもった目で見られました。半妖だからでしょう。大分イラっとしたのでガン飛ばしておきました。俺がいた村が、つくづく俺に優しい環境だったのだ思い知りました。以上、近況報告でした。え?そんなことより、刹那はどうしたって?まだ会っていませんよ? え? いやいや、こっちも身辺整理とかで忙しかったですし。あ、でも、今日の午後には、長が彼女のところへ連れて行ってくださるのだそうです。もちろん向こうにもその旨は伝えてます。あまり同年代の知り合いがいないため、そうとう刹那ちゃんはテンパッってるのだとか。本当胸キュンです。あ、ちなみに、俺と刹那が同じ年齢だった件について。どうやら、俺が完全にフライングしていたようです。長の娘さんも同い年だと、長が嬉しそうに教えてくれました。このかは既に麻帆良にいるようです。・・・・・・さて、状況報告はこれくらいにして、長がくるまでの行動予定を立てるとしよう。部屋でゆっくりしていても良いのだが、あまりじっとしているのは性に合わない。散歩にでも出かけようか?長から、本山の結界内であれば、好きに行き来して構わないと言われてるしね。3日も安静にしていたせいで、いい加減体もなまってきているし、リハビリがてら散策してこよう。俺は太刀台に飾ってあった父の太刀を手に取り、実に子供らしく、元気いっぱいに部屋を飛び出した。気が付くと、俺は見知らぬ森の中に立ち尽くしていた。「・・・・・・まぁ、ちっとは予想してたけどな」THE 迷子☆マジで有り得ねぇー・・・・・・。とゆーか、本山半端無く広ぇー・・・・・・。いや、興味本位で山道の方に踏み出した俺が悪いんだけどね?しかし、周囲を見渡しても、ここが何処なのか皆目見当も付かないとは、どれだけ遠くに来たんだ?既に道らしい道は姿を消しており、俺の周囲は生い茂った木々によって埋め尽くされていた。本殿の付近なら、狗族クオリティな嗅覚でお香の匂いなんかを辿って戻れるのだが、ここまで山間だとそれも困難だ。さて、本当にどうしたものか・・・・・・。――――――――ヒュンッ「! 刀の風切り音?」確かに聞こえた。聞き間違うはずの無い、太刀や刀特有の、紙を擦る様な風切り音。これまた狗族クオリティの俺の聴覚が聞こえたというのだから間違いない。この音が聞こえる先には必ず人がいるはずだ。刀も太刀も、人間がいなければ振るわれることは無い代物だしな。本山の結界内であることから、悪意ある輩ではないと考えられる。おそらくは神鳴流の剣士が稽古でもしているのだろう。俺は藁にでもすがる思いで、音がした方向へと駆け出していた。生い茂る緑を、掻き分け掻き分け進んでいくと、急に視界が開けた。そこには、お屋敷と同じ建築様式の、広い石畳の空間が広がっており、ここが屋敷の近くであることを伺わせる。良かったぁー・・・・・・無事に戻ってこれましたよ。――――――――チャキッ「!?」安堵したのも束の間。背後から聞こえた金属音、恐らくは、自らの得物を構える音に、俺ははっとなって飛び退いた。空中で姿勢を制御し、相手と対面となるように、振り返りながら着地する。無論、すぐに戦闘に移ることが出来るよう、前傾で両足着地することは忘れない。うん、俺ってば戦士の鑑だね☆・・・・・・なんて、冗談言ってる場合じゃない。俺はすぐさま相対する得物の持ち主を睨み付けた。「!!!!」そして見事に絶句する。そりゃあそうだろう。誰だって同じ状況になったら、似たようなリアクションをとるに違いない。俺に無遠慮な敵意を振りまく相手、その相手に見覚えがあったのだ。幼い体躯に、病的なまでに白い肌。艶やかな黒髪を、左側で片結びに。意志が強そうな、鋭い双眸で睨みを聞かせ、その体躯に不釣合いな野太刀を構える彼女は紛れも無く、彼女だった。桜咲 刹那。長がその将来を憂える少女は、どういう訳か、今俺に向かって全開の殺気をぶつけてくれていた。なんでさ・・・・・・。いや、確かに神鳴流剣士かな?とか思ったけどさ、彼女だなんて思わなくない?。「・・・・・・貴様、妖の類だな?」呆然としていると、唐突に声を掛けられた。もちろん、えらくドスの利いた低い声です。いや、幼女が無理して低音出してるから、むしろ微笑ましい感じではあったけどね。しかも、なにやら彼女、俺を本山に侵入した妖怪か何かと勘違いしてるらしい。気付いて欲しい。ここが西日本最強の魔法集団の巣窟だということに。英雄クラスの魔法使いでもない限り、その結界は破れないということに。そもそも、俺は妖怪ではないということに。何て、考えてたところで埒が明かない。一先ず、今は誤解を解かないと。何か、刹那の表情がますます険しくなってるし!「誤解や!! 俺は怪しいモンとちゃうっ!!」「怪しい輩は、総じてそう言うのだ!!」「・・・・・・」あるぇー? むしろ事態が悪化したくない?まぁ、確かに自分から怪しい者です、なんて言う奴いないもんね。って、落ち着いてる場合じゃない! 何とかここを切り抜けないと、今にも刹那は切り掛かってきそうな勢いですよ!?「少しでええ! 話を聞いてくれ!」「・・・・・・問答、無用!!」本当に切り掛かってきたーーーーー!!!!!しかも、初太刀から“抜き”“入り”完璧な瞬動術とは、年齢を考えると、誠に恐れいる。反射的に身を屈め、身体を前方へと投げ出した。瞬間、禍々しい凶器が、俺の居た空間を、その空気ごと切り裂いていった。「っち! 遠慮なしかいなっ!!」どうやら、本気で刹那の奴は俺を切り捨てるつもりらしい。躊躇していては、俺は本当に切り殺されるだけだろう。純粋な実力で上回っていても、それを振るわなければ意味が無い。殺意を以って凶器を振るう者と、敵意無く技を躱すだけの者では、後者は嬲り殺しになるだけだ。それを分かっていてなお、俺は戦うことはしたくなかった。彼女が同類(半妖)であるということと、立場の問題からだ。俺はこの本山で監視を受けている存在だ。修行の名目で刀を振るうことが許可された彼女とは違う。俺がここで自らの力を振るうこと、それは最悪、長への反逆の意思と、こじつけ染みた解釈をされる恐れさえある。そんな状況下で、力を振るう覚悟が、今の俺には足りていなかった。こちらの心情を露知らず、刹那は容赦無しに、俺の命を刈り取らんと、無骨な野太刀を振り抜く。「斬空閃!!」圧縮された“気”の刃。濃密な死臭を放って肉薄するそれを、紙一重で躱す。しかし、その俺の動きは相手にとって想定内の“捌き足”。ならば王手を書けるための一手は、その脳裏において、既に顕現している。瞬動にて、俺の右側面へと現れる刹那。その腕から、数十に及ぶ殺戮の剣舞が放たれた。「百烈桜華斬!!」俺の身体を取り囲むようにして放たれる致死の牢獄。退路は絶たれ、俺は為す術も無く切り刻まれるだろう。そしてその瞬間は、その繰り手の名の通り、ほんの“刹那”先に訪れる。だというのに。――――――――ドクン性質の悪い勝負癖が、鎌首を擡げる。――――――――ドクン俺の武人としての本能が、告げる。――――――――ドクン刃を抜け。――――――――ドクン戦う意志を示せ。――――――――ドクン三度目の死の予感。今度は・・・・・・――――――――自らの手で叩っ斬って見せろと。「っらぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」父の牙。その鉄拵の鞘から、無造作に刀身を振り抜く。瞬間、鞘は狗神のような影となって霧散した。問題ない、鏡のように磨き挙げられた刀身は問題なく振り抜かれた。ならば技も理なく、叩きつけられる全ての斬撃を叩き落すまで。 上払い、下払い、横薙ぎ、袈裟、逆袈裟、ありとあらゆる角度、速度を持って。二閃、払い損ねた。「っつぅっ!?」右頬、左肩を、それぞれ掠めるが、それは致命傷には成り得ない。技の特性上、この局面にて追撃は無い。ならば、と、俺は瞬動術で大きく飛び退き、間合いを取る。「っは!!?」取ろうとして、唖然とした。 ・・・・・・・あろうことか、俺の身体は飛び過ぎたのだ。想定していた距離のおよそ2倍。言葉にすればただ二文字だが、武人として、その認識の齟齬は有り得ないのだ。これには、流石の刹那も呆けたようにこちらを見て立ち尽くしていた。一体何が、と周囲を確認しようとして気付く、俺の周囲を漆黒の風が覆っていることに。おそらくは、これが父の牙、その能力なのだろう。詳しいことはさておき、これは俺の“体捌き”を補助する、そういうもののようだ。ならばやはり、何も問題ない。いつもより身体がキレ過ぎる。それに何の不都合があるだろうか。今度はしっかりと、両の手で柄を握り、中段にてその剣先を相手の咽を貫く形に突きつける。その気迫に、刹那が一瞬身じろいだ。それは、およそ9年ぶりに取った、正当たる正眼の構えだった。加えて、転生して初めて、太刀を振るっているというのに、どういうわけか、柄の握りは妙に俺に馴染む。どうやら、俺は戦士である前に、武人である前に、何処までも剣士だったようだ。気が付けば、これだけ極限で命を凌ぎあっているにも関わらず、俺の口元には、笑みが浮かんでいた。それもそのはず。俺は、この命の削り合いを、心の底から愉しんでいた。初めて感じた戦いの張り詰めた空気が、剣と剣とが交叉する甲高い太刀音が、風を切り頬を撫でる刃風が、俺を倒さんと突き刺さる敵の眼光が、全てが、心地よかった。「・・・・・・俺も、たいがい変態やな」自らを嘲って、俺はその剣線を敵の咽下からから右後方へと構えなおす。所謂“脇構え”の姿勢にて、全身に纏った“気”を高めた。対して、刹那は俺に呼応するかのように、八相の構えに携えた野太刀に纏う“気”の密度を高めていく。どういうわけか、いつのまにか、彼女の唇も両端が釣り上がっていた。「ようやくその気になったか・・・・・・しかし、この一撃で全て終わらせる」やはり、彼女も武を志す者。強敵との出会いに、心踊らぬ謂れは無いようだ。だからこそ、改心の笑みを浮かべて、俺は答える。勝つのはこの、俺だ、と。「やってみぃや。俺は負けへん。絶対に負けへん!!」地面を掴む両足を、強く強く踏みしめた。決着は一瞬でつく。どちらからとも無く、瞬動を以って疾走し・・・・・・「そこまでです、小太郎くん」「いい加減にしとき、刹那」人智を超えた二つの力によって意識を刈り取られた。・・・・・・テラチートwwwマジキチwwww・・・・・・いや、本格的にね。皆さん、こんばんわ、初めまして、お久しぶりです。さくらいらくさと申します。まず、まえがきから、ここまで読んでくださった皆様方に心からのお礼を申し上げたいと思います。前回のあとがきにて、更新はしばらく遅れると書いたのですが、皆様より予想以上に感想を頂き、勢い余って連日投稿となりました。明日は午前5時起床のため、非常に強行軍となっておりますwwwさて、ようやく女の子の原作キャラが登場したと言うのに、いきなりバトルパートに突入、恐らく多くの方が思われたことと思います。「こいつ、何が書きたいんだよ?www」と、そう思わずにいられなかったに違いありません。そろそろ、作者にも分からなくなって参りました。赤松先生の描く、魅力的なキャラクターの個性を作者が制御できていないことが、敗因であると分析しております。少しずつでも改善し、皆様により良い作品が遅れれば、と愚考する次第であります。さて、感想掲示板におきましては、皆様の感想、ご意見、ご要望、ご質問を随時受け付けております。皆様からのお便り、心よりお待ち申し上げております。それではまた、次回のあとがきにてお会いできること、心より祈っております。草々