12月24日。それは、ある意味最も人々を惹きつけて止まない特別な日かも知れない。親子の絆を確かめ合う日であり、或いは恋人たちがその愛を確かめ合う日。そして、子どもに夢を与える日であるだろう。今一度言おう、12月24日。そう、今日は史上最も祝福された男の生誕前夜祭。―――――セントクリスマスイヴ、その日だった。無事に終業式を終えた俺は、今日この日のために用意した衣装に袖を通していた。真っ赤な布地で、裾や袖に白いファーをあしらった、とても特徴的なこの衣装。所謂サンタ服という奴だ。「うし、サイズぴったり、問題なしやな?」ネット通販で購入したため、少し不安だったのだが、我ながら、なかなか様になっていると思う。最後の仕上げとばかりに、サンタ帽をかぶると、俺は姿見の前で両手を広げてみた。うん、さすが俺、良く似合っているではないか。「どや? 決まっとるやろ?」「わんっ!!」振り向いて足元で尻尾をバタつかせるチビにそう聞くと、元気良く返事をしてくれた。1月前に拾った時は、体調40㎝程だったチビだが、既にその体調は1mを越えようかという勢いで成長していた。ころころとしていた体形はところどころシャープになり、猟犬のような様相を呈し始めている。そしてその分、魔力も飯も良く喰うこと……。俺の月の出費で、もっとも大きな割合を占めるのは、チビの餌代だったりする。まぁ、そんな余談はさておき、俺は用意していたもう一組の衣装を取り出して、チビに見せることにした。「ほら、自分の分も用意したったで?」「っ!? わんわんっ!!」嬉しそうに一跳ねして、チビはきらきらと目を輝かせた。その様子に満足しながら、俺はいそいそと、チビに衣装を着せてやるのだった。ちなみに用意したのは、サンタには欠かせない相棒、トナカイの衣装だった。と言っても、裾にコゲ茶ファーが付いた茶色のベストに、トナカイの角が付いた耳が出るタイプの帽子なのだが。しかしそれを、待ちきれないとばかりに、尻尾をバタつかせるチビなのだった。「ほれ、出来たで?」「わんっ!!」お礼とばかりに一吠えすると、チビはさっきの俺のように、姿見の前に行って、しげしげと着飾った自分の姿を見つめた。「わんわんっ!!」どうやらお気に召したようだ。嬉しそうにぴょんぴょんとその場で跳ねて、くるくるとチビは回った。え? 俺が何でこんな格好をしてるのかって?そりゃあ、クリスマスイヴにこの格好とくれば、決まっているだろう。俺はこれから、今年中お世話になった人たちにプレゼントを配って回る算段なのだった。麻帆良に来てから、早9ヶ月。今年1年は、この世界に来てから最も密度の濃い年だった。2度に渡る強敵の襲撃に、新天地での新たな生活、そして新たな友たちとの出会い……。俺はいろんな人たちに支えられることで、どうにかこの1年を、無事に乗り切ることが出来そうだ。そして今日はその恩を返すには、うってつけの大イベント。これを逃す手はないだろう、ということで、11月中旬から、俺はさまざまな手段を講じて、一人一人に贈るプレゼントを用意してきた。少しでも喜んでもらえれば良いが……。まぁ、中にはネタみたいなプレゼントも含まれているが、それはそれ、大いに笑って、この聖夜を過ごしてもらえれば吉だろう。俺はプレゼントがつまった、サンタらしい白い大きな袋を抱えて、チビに言った。「そんじゃあトナカイ君、良い子のみんなに、さっそくプレゼント配りに出発や!!」「わんっ!!」俺はさっそく、最初の目的地、麻帆良学園・女子中等部校舎を目指して寮を飛び出して行った。SIDE Takamichi......「ふぅ……」無事に終業式は終えたものの、僕は職員室の机上に積まれた書類の山に頭を抱えていた。やれやれ、世はクリスマス一色だっていうのに、どうやら今年も、僕は味気のないクリスマスを送ることになりそうだ。そんなことに苦笑いを浮かべつつ、僕はとりあえず、一番上にある書類から片付けようと手を伸ばす。……9時までには終わるだろうか? なんて考えながら右手に書類を、左手にコーヒーのカップを持つ。書類の一行目に目を通しながら、僕はコーヒーを口に含んだ。ちなみにこのカップ、結構前から使っていたものなので、そろそろ買い替え時かと思っている。後で自分のクリスマスプレゼント用に買って帰ろうかな?そんなことを思いつつ、二口目を口に含む。そんなとき。「失礼しゃーーーすっ!!」「わんわんっ!!」「ぶぅっ!!!?」女子部の校舎に似つかわしくない、元気の良い男子の声と、これまた元気の良い犬の鳴き声が響き渡った。い、今の声は、まさかっ!?「こ、小太郎君っ!? こ、ここは女子部の校舎で、一応男子は立ち入り禁止なんだけど……?」あとペットの動向も禁止だよ?「お、タカミ……やのうた、高畑センセ、ちょうどおってくれて助かったわ」そんな僕の台詞は全く気にせずに、彼は僕の姿を見つけると、嬉しそうに笑みを浮かべて近寄ってきた。良く見ると、彼の格好はいつもの学ランではなく、これでもかというほどのサンタクロース姿だったりする。傍らにいる彼の使い魔は、それに合わせてトナカイの格好をしていた。ひ、非常に微笑ましくはあるけど、良く校門をくぐれたな……。まぁ、彼らのことだ、瞬動術やゲートで守衛さんを上手にかわして来たのだろう。近付いてきた彼に、一応僕は教師としてもう一度注意を促した。「小太郎君、ここは女子部の校舎なんだから、みだりに許可なく侵入されると困るんだけど? それにペットの連れ込みも禁止だ」しかし予想通りと言うべきか、彼は全く悪びれた様子もなく、にっ、と健康そうな白い歯を覗かせて笑った。「んな堅いこと言いっこなしや。なんてったって、今日はクリスマスイヴなんやからな!!」「わんわんっ!!」彼の言葉に、使い魔のチビくんがそうだそうだとばかりに元気良く吠えた。……そう言う問題じゃないんだけどなぁ?しかしここに来たということは、僕に用事があってのことだろう。一体何だろう? 特別呼び出したりした覚えはないけど……。あとプレゼントをねだられても困るな。残念ながら彼に用意したプレゼントなんてないし。そう思っていると、彼はごそごそと持っていた大きな袋をあさって、中から二つの包みを取り出した。「ほい、タカミ……高畑センセの分や、メリークリスマス!!」「ぼ、僕にプレゼントかい?」「おう!! 日頃世話になっとる感謝の気持ちや!!」「わんっ!!」目を白黒させながら、僕は小太郎君が差し出した長方形の長い包みと立方体をした小さな方の包みの両方を受け取った。お、驚いたな……それに、これはなかなか嬉しい。今年も味気ないクリスマスを覚悟していただけに、その感動は一塩だった。僕は柄にもなく教員という立場を忘れて、彼に尋ねていた。「開けてみても良いかな?」「おう。つか、タカミチには否が応にもここで開けてもらわんとあかんねん」「?」彼の言い回しの意味は分からなかったけど、僕はさっそく、大きいほうの包みから丁寧に包装を剥いでいった。「これは……煙草かい? 良く僕の吸ってる銘柄を知ってたね?」「ああ、明日菜に聞いたら一発やったで?」なるほどね。長い包みの方には、一ダース分のMalboroのボックスが入っていた。ちょうどストックも切れていたことだし、これは助かるな。「いやぁ、ちょうど良かったよ。ストックが切れてたからね。ありがとう、小太郎君」「いえいえ、もう一個の方も開けてぇな?」「うん、そうさせてもらおうかな」同じように、もう一つの包みも開けていく、するとその中にはケースに入ったマグカップが入っていた。ケースから取り出して見てみると、カップの側面には、高畑・T・タカミチの略だろう青い文字で『TTT』と記されている。こんな模様だったということはないだろうから、わざわざオーダーメイドで作ってくれたのかな?芸が細かいというか、マメというか……。何はともあれ、こちらもちょうど買い替え時だと思っていたし、タイミングが良いことこの上ない。僕は心から、もう一度小太郎君にお礼を言った。「本当にありがとう小太郎君、ここ数年で、一番嬉しいクリスマスだった気がするよ」「喜んでもらえたようでなによりや……ところで、1つ頼みごとがあんねん……」「頼みごと?」「ああ、そのカップを持って笑てる自分を写メらせて欲しいねんけど……」「僕を? ま、まぁ、それくらいならお安い御用だけど……」一体何故?疑問符を浮かべる僕に、小太郎君は、まぁ良えから良えから、と、手際良く携帯のカメラを準備していく。仕方ないので、僕は言われた通り、マグカップの取っ手を握って掲げると、ぎこちなくではあったけど、笑顔を浮かべた。「ほな撮るでー? 3、2、1……」―――――カシャ携帯からシャッター音が響く、どうやら撮影は終了したようだ。「……よし! おおきに、おかげで良え絵が取れたわ」「あ、ああ、それは何よりだよ……ところで、その写真は何に……」―――――ガラッ「コラァっ!!!? そこの男子生徒っ!! 何をしている!!!?」僕が尋ねようとした瞬間、職員室のドアが行き良い良く開かれ、新田先生の喝が飛んだ。「やばっ!? 逃げるでチビ!! そんじゃ、タカミチ、またなっ!!」「わんわんっ!!」そう言い残すと、小太郎君は、チビくんと一緒に職員室の窓を開け放ち、そこから外へと身を躍らせていった。……ここ、一応3階なんだけどな。まぁ、彼らにとってそれは些末な問題だろう。大きな袋だったし、世話になったことへの感謝だと彼は言っていたから、これからお世話になった人たちのところを回って行くに違いない。本当に義理堅いというか、マメな少年だ。そんなところは、ナギには全然似てない。むしろナギは少し見習った方が良い気がするくらいだね。「……さて、気合入れて、仕事を終わらせるとしようか?」先程より幾分も明るい気持ちで、僕は書類の山へと向き直った。SIDE Takamichi OUT......最大の難関を無事クリアしたことに安堵しながら、俺とチビは女子部校舎を後にするのだった。タカミチの場合、捕まえたくても捕まらないときが多いからな。年末だし、出張はそんなにないとは思っていたが、どうにか捕まってくれて助かった。これであっちのプレゼントも無事に成り立つしな。さて、お次は女子寮に向かうかな?お祭り好きなネギクラスのメンバーたちだ、多分クリスマスパーティとかやってるだろうし。上手くいけば、プレゼントの大半を捌くことが出来るだろう。「ほんなら、次の場所に向かうで? 着いてこれるな?」「わんっ!!」俺の質問に、チビは当たり前だぜ!!とばかりに力強く答えてくれた。よし、それじゃさっそく……。そう思って駆け出そうとした矢先。女子部の校門出たところに、ちょうど見覚えのある4人組を見つけることが出来た。これはグッドタイミング。俺は笑みを浮かべながら、彼女たちへと向かって走って行った。SIDE Ako......「ほ、ホンマに大丈夫やろか……?」いつものように自信のない声でウチはそう呟いてた。今夜はクリスマスイヴやし、この日のために1カ月も前から準備してきた。けど、いざ渡すとなると……や、やっぱ不安や。「大丈夫だよ。凄く良く出来てると思う」アキラが不安がるウチに、優しく笑ってそう言うてくれる。うぅ……そうやろか?い、一応精一杯頑張ったつもりやけど……小太郎君、受け取ってくれるやろか?「だいじょぶだいじょぶ!! このゆーな様が教えてあげたんだから、小太郎もこれでイチコロだにゃー!!」そう言って、これの作り方を教えてくれたゆーなが、胸を張ってそう勇気づけてくれた。……意外やけど、ゆーな、ホンマこういうん得意なんよねぇ……。おかげ今日に間に合うたわけやし、教えてくれたゆーなのためにも、やっぱ頑張って渡さなあかんよなぁ……。「けど、みんなひどいなぁ……教えてくれたら、私も頑張ったのにぃ」拗ねたように唇を尖らせて、まきえがそんなことを言うた。12月初めに新体操の大会が控えてたまきえには、このことを知らせてへんかったから、まだそれを根に持っとるみたい。やっぱ、悪いことしてもうたかな?「いや、まきえの場合、教えても上手に出来ないでしょ? 新体操以外、かなりぶきっちょじゃん?」「そ、そんなことないもん!!」茶化すように言うたゆーなに、まきえが顔を真っ赤にしてそう言い返してた。……確かに、まきえぶきっちょやし、教えてても出来ひんかった気がするな。はぁ……けどホンマどないしよ……?「渡すってことは、コタ君に連絡しないといけないよね?」あっけらかんと、まきえが今ウチを一番苦しめていることを口にした。そう、小太郎君にこれを渡すためには、彼に電話をせんとあかんねん。けど、ウチはどうしても、通話ボタンを押すことが出来ひんかった。「こうしとる間に、小太郎君が他の予定を入れてもうてたら……ど、どないしよーっ!?」「お、落ち着きなよ亜子。大丈夫、プレゼントを渡したいって言えば、きっと小太郎君は受け取りに来てくれると思うよ?」「そーそー。小太郎のことだし、女の子がプレゼントくれるって言ったら、喜んで飛んでくるって」「コタ君てそんなに女好きだっけ? まぁ、とにかく、亜子、連絡してみたらどうかな?」口々に、三人がウチのことを励ましてくれる。……うん、せやな。やっぱり、ちゃんと勇気出して渡そう。この日のために頑張ってきたんやもん!!そう思って、携帯を取り出そうとした。その瞬間……。「おーいっ!! 亜子にまき絵にアキラに、えーと、ファザコンの人ーっ!!!!」「誰がファザコンの人だっ!!!?」後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえて来て、からかわれたゆーなが顔を真っ赤にして言い返していた。う、うそっ!? ま、まだ電話してへんのにっ!!!?予想外の出来事に、ウチの心臓が口から飛び出しそうなくらいに暴れ出してた。振り返ると、近づいてくるのは、やっぱり小太郎君やった。「いやーちょうど良えところにおってくれたわ」「わんわんっ!!」駆け寄って来てくれた小太郎君の傍には、トナカイの格好をした黒い犬がおった。小太郎君のペットなんかな?「おいコタロー、誰がファザコンだって?」「自分以外におれへんやんけ? それより、ちょうど良かったわ、自分らに渡したいものがあってん」「さらっと流すなーーーーっ!!」怒ったままのゆーなを余所に、小太郎君は持っていた大きな白い袋をごそごそとあさり始めた。と、というか、小太郎君の格好サンタクロースやんっ!?ま、まさか渡したいものて、もしかして……!?すぐに目当ての物は見つかったみたいで、小太郎君は得意げにそれを取り出してくれた。「ほい、メリークリスマス。良い子にしてた自分らにコタクロースがプレゼントや」「わんわんっ!!」ほっ、ホンマにっ!?小太郎君が取り出したのは4体の可愛らしいぬいぐるみやった。プレゼント用にしてくれたんか、4体はそれぞれ首に色の違ったリボンが結ばれてた。1つ目は黒い犬で首には赤いリボンが巻かれて、2つ目は三毛猫で首には青いリボンが巻かれてる。3体目はピンクのリボンが巻かれた白クマで、最後はクリスマスやからか、黄色いリボンが巻かれたトナカイやった。どれも可愛いかったけど、一体どれが誰用のプレゼントなんやろ?「え? え? わ、私ももらって良いのっ?」まきえが目を白黒させながら小太郎君に聞いてる。小太郎君は、いつも通りの格好の良い笑みを浮かべて頷いてた。「おう!! ただ、好きな動物とか分からへんかったから、この場で好きなのを選んでもらお思てな」な、なるほど、それで包装が首のリボンだけやったんや。ど、どないしよ? 貰えるなんて思ってへんかってんから、どれを貰てもめちゃくちゃ嬉しいけど……。ウチが一番気になってたんは、最初に出て来た黒い犬のぬいぐるみやった。その……何となく、小太郎君っぽい気がするやん?け、けど、それをいきなし主張すんのも、図々しい気がするし……。小太郎君にそんな女やって思われたないし、やっぱここは涙を呑んで余りもんにしとこう!!そう思て、ウチはみんなを促した。「み、みんなから選んで良えよ? う、ウチは余りもので良えからっ……(ちらっ)」そうは言うたものの、ついつい視線は黒い犬に向いてまう。……うぅ、お願いやから、最後まで残ったって~~~~!!そんなことを祈りながら、ウチは皆がぬいぐるみを選ぶのを待ってた。「え、ええと……あ、そだ!! はいっ、はいっ!! 私、この黒い犬が良いなっ!!」「っっ!?」まきえがそう言い出して、思わず声が出そうになってもうたけど、どうにかそれを飲み込んだ。うぅ……やっぱりウチはダメな子やなぁ……最初から、ちゃんと欲しいて言うとけば、貰えたかも知れんのに……。「なるほど、そういうことか……そんじゃ、はいっ!! 私もその黒い犬が良い!!」「ゆ、ゆーなもっ!?」あわわわ……な、何でそんなに黒い犬人気なん!?や、やっぱ小太郎君に似てる気がするからっ!?そう思って慌ててると、ついにはアキラまでがおずおずと手を挙げた。「それじゃあ、私も」そう言うて、アキラはウチにぱちっ、とウィンクをしてくれた。え? あ、何? これ、そういうことなん?な、何や、皆にウチが犬のぬいぐるみを欲しがってたんはバレバレやったんかぁ……ウチは心の中で皆に感謝しつつ、覚悟を決めて手を挙げた。「は、はいっ!! う、ウチもっ!!」「「「どうぞどうぞ」」」「ぷっ、何やねんその小芝居は?」そんなウチらの様子を見て、小太郎君が楽しそうに笑た。あーうー……め、めっちゃハズいっ!!結局、黒い犬のぬいぐるみはウチが、三毛猫はゆーなが、トナカイはまきえが、白クマはアキラが貰うことになった。ぬいぐるみを手に取ると、ウチは不思議なことに気が付いて、思わずそれを口にしてもうた。「甘い、香りがする……?」ぬいぐるみから、かすかにやけど、何や気分が落ち着くような、そんな香りがしてた。ウチの言葉に、皆ぬいぐるみに顔を近づけて匂いを嗅ぎ始める。「ほ、ホントだぁっ!? 何でっ!?」「あ、でもこの匂い、何か落ち着くかもー……」「本当だ。凄い落ち着く感じがする」上から、まきえ、ゆーな、アキラの順に、皆そう言うて、ほにゃっとした笑顔になってもうてた。え、ええと、何でやろ?ウチが不思議がってると、小太郎君は悪戯っぽく笑って、その理由を教えてくれた。「実は中に発酵させたハーブが入ってんねん。今流行りのアロマセラピーやな。4人は運動部やさかい、それでちょっとでも疲れを癒して貰お思て」な、なるほど、それで甘い香りがして、皆が癒されてたんや……。……小太郎君、やっぱ凄いなぁ。優しゅうて、オマケに格好も良えし、プレゼントの選び方にまで、それが表れてるもん……。「いやーこれは癒されるよ……コタ君、ありがとね」「まぁ、あんたにしちゃ、良く気が回ってたんじゃない? ありがと、大事に使うね」「うん、本当。凄い落ち着く……ありがとう、小太郎君」3人が嬉しそうにそれぞれ小太郎君にお礼を言う。そ、そうや、ちゃんとお礼せんとあかんやんなっ!?ウチは3人にちょっと遅れて、頭をぺこっと下げた。「あ、ありがとうございますっ!!」「ははっ、どういたしまして、喜んでもらえたみたいで、こっちも嬉しいわ」そんなウチらに、小太郎君は満足そうに笑てくれた。……うぅ、やっぱ格好良えよぉ……。そ、それに引き換え、ウチなんて、見た目も性格も地味で、用意したプレゼントまでありきたりやし……。あ、あかん!? やっぱこれ渡すんはハズいっ!?けど、ちゃんと渡さんと、教えてくれたゆーなと、付き合うてくれたアキラに悪いし……ど、どないしたら……。ウチが迷ってると、ゆーながそれに気付いてくれたんか、さっきのアキラみたいにウィンクしてくれた。へ? な、何? 今度はどーゆーこと?そう思ってゆーなを見てると、鞄から小さな包みを取り出して、小太郎君に差し出した。ゆーなが何も言わずに差し出したもんやから、小太郎君は目を白黒させてた。「へ? 何や? もしかして、俺に?」「そ……まぁ、私は誰かさんのついでなんだけど、良い物もらっちゃったし、用意しといて正解だったかにゃ?」「誰かさん?」「そっ。ね、亜子?」そう言うて、ゆーなはウチに話を振ってくれた。さっきの合図はそういう意味やったんか……。ウチは心の中で、もう一度ゆーなにお礼を言うて、鞄の中から用意してた包みを取り出した。「え、えと、これ……つ、つまらんものですけどっ」「あ、亜子もかいな? おおきに、プレゼント渡そとは思てたけど、まさか自分が貰えるとは思てへんかったわ」小太郎君はそう言うて、嬉しそうに笑みを浮かべながらウチのプレゼントを受けってくれた。……よ、良かったぁ……ゆーなのおかげで、何とか無事にプレゼントを渡すことが出来たわ。今度改めて、ゆーなには何かお礼せんとあかんな。そんなことを思てると、アキラも自分の鞄からウチのより少し小さな包みを取り出して、小太郎君に渡してた。「はい、これは私から。祐奈と一緒で亜子のついでに作ったんだけど」「おおきに。……って作った? え、ええと、中身見ても良え?」アキラの言葉に目を白黒させながら、小太郎君はおずおずとそんなことを尋ねて来た。ゆーなはそれに笑顔で頷いて、アキラも同じように頷いた。それを確認した小太郎君の視線が、ぱちっとウチの視線とぶつかった。は、はよ返事せんとっ!?ウチは頭突きでもするみたいに、首をがっくんがっくん振った。そんなウチに、小太郎君は苦笑いを浮かべながら、最初に貰たゆーなの包みから開いた。「これ、ニット帽?」出て来たのは丁寧に編み込まれた黒いニット帽やった。ウチに編み方を教えてくれただけあって、ゆーなの作ったニット帽の出来栄えはぴか一やったりする。……あ、あれの後に見られるんは、何や不利な気がする。「しかもこれ手作りなんか? へぇ、祐奈にも意外と女らしいとこがあるんやな?」「一言余計だってのっ!!」「ははっ、スマンスマン。ホンマおおきに。ありがたく使わせてもらうわ」小太郎君は、笑顔でゆーなにお礼を言うと、続いてウチのあげた袋を開いていく。ちゃ、ちゃんと喜んで貰えるやろか?どきどきしながら待っていると、それを取り出した小太郎君は、ゆーなのニット帽を見た時より、驚いた顔をした。「これ、セーターやんけ!? はぁ~~……亜子、これ結構時間かけたんとちゃうんか?」「ゆ、ゆーなに教えてもろたから、そんなに掛かってへんよ?」嘘や。1カ月も前から準備してたとは、口が裂けても言えへん。ゆーなやアキラは、初めてにしては上出来やって褒めてくれたけど、やっぱりゆーなや器用なアキラとは違て、ウチの編んだセーターは不細工やったし……。ウチが小太郎君にあげたんは、ゆーなのニット帽と同じ、黒い毛糸で編んだセーターやった。左の胸に、白い毛糸で『K・I』てイニシャルを入れるんは、かなり苦労した。小太郎君はそれをまじまじと見つめると、さっきゆーなに言うたときみたいに、にっ、と嬉しそうに笑うてくれた。「おおきに。こりゃ今年の冬は暖かく過ごせそうやで」「っ!? ほ、ホンマにっ!? よ、良かったぁ~~~~……」どうやら、小太郎君はウチのプレゼントを喜んでくれたみたいやった。うぅ、頑張ってホンマに良かった……。やっぱり、今度ゆーなとアキラ、それに励ましてくれたまきえには、あらためてお礼せんと。小太郎君が浮かべた笑顔は、ウチにとって、今年一番のプレゼントやった。最後に、小太郎君は、アキラに渡された包みを開けて、さっきみたいに目を白黒させた。「マフラーか? これは白いんやんな?」「うん、亜子がイニシャル用に使った毛糸の余りで作ってみたんだ。帽子とセーターが黒だったし、合わせやすいと思って。どうかな?」「おう、これなら二人がくれたんと一緒に使えるわ。おおきに、アキラ」「ふふっ、どうしたしまして。こっちこそ、ぬいぐるみ、大切にするね」そんな風に小太郎君は、アキラと談笑して、さっそくアキラのマフラーを首に巻いていた。え!? な、何でアキラのマフラーだけ!?ま、まさか小太郎君、アキラのことを……!?う、ウチらのぬいぐるみは、アキラのついでやったん!?そう思て、ウチは顔から血の気が引いて行った。せやけど、ウチの考えは間違うてたみたい。すぐに小太郎君は、申し訳なさそうな顔で、ウチとゆーなに謝った。「本当は、この場で全部試着してみたいんやけど、さすがにここで脱ぐんは勇気いるさかい、堪忍してや」「まぁ、帽子も既にサンタ帽被ってるしね」「そゆこと、寮に帰ってから、ゆっくり試着させてもらうわ」……な、何や、そういうことか……。あ、焦ったぁ~~~~。ウチがほっと、胸を撫で下ろすと、楽しそうに談笑する三人にを見て、まきえが残念そうに呟いた。「いいなぁ。やっぱり私も用意しておけば良かったよぉ」「うっ……ご、ゴメンなまきえ?」やっぱ、まきえだけ誘わんかったんは、可哀いそうやったな。うん、申し訳ないことしてもうた……今更どうにも出来ひんけど、ウチはそう言って、まきえに謝った。「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃないよ? ゴメンね、亜子、気にしにないで。ただ、コタ君に貰いっぱなしだと申し訳ないって話で……」「ああ、それこそそんなん気にせんといてや。俺はプレゼント目当てでしてるわけやないからな、その気持ちだけで十分や」申し訳なさそうに言ったまきえに、小太郎君がやさしい笑みを浮かべて言うた。やっぱ、優しいな小太郎君。ウチらとなんて、数えるくらいしか会うてへんのに、きちんとプレゼントまで用意してくれて。お返しなんか、全く期待してへんかったんやろう、ウチらのプレゼント受け取ったときは、ホンマに驚いた顔してたし……。……や、やっぱ、ウチなんかが好きになるには、良い男過ぎやと思う。春休みに、不良に絡まれてたウチら。それを助けに入ってくれた小太郎君。最初はそれだけで、昔話の中の王子様みたいやと思った。けど、それだけやなかった……。小太郎君は喧嘩を禁止されてたにも関わらず、ウチが付き飛ばされた時に、本気で怒って、突き飛ばした不良にこう言うてくれたんや。『この世で一番大事にせなあかんもんって何か知っとるか?……それはな……可愛い女の子や』……お、思い出しただけでも、胸がきゅんてなってまう!?男の人に、可愛いなんて言われたのは、生れて初めてやった。けどそんときは小太郎君のこと、格好良えなぁ、くらいにしか思てへんかった。ウチとは全然違う、そんな人、好きになるなんて身の程知らずや、ってそう思ってた。けど夏休みに、一緒に川へ泳ぎに行ったとき、ウチは知ってしもうた。小太郎君の胸に刻まれた、大きな十字の傷跡のことを。ウチの背中には、ずっと前から付いてる大きな傷跡がある。こんなん知られたら、きっと男の人は、ウチのこと気味悪がる、気持ち悪がられてまう、そう思ってた。けど小太郎君は違うた。自分の傷をウチらに見せて、それを何でもないことのように笑うてた。それを見て、この人なら、ウチの傷を、ウチのこと分かってくれるんやないか、ってそう思った。それで、緊張で倒れそうになりながら傷を見せたウチに、小太郎君は優しい笑みを浮かべて言うてくれたんや。『ありがとな。俺のために勇気出してくれて』もう幸せ過ぎて、死んでしまいそうやった。それにウチは、小太郎君のためやない、自分のために勇気を出してたんやと思う。きっと小太郎君も、それは分かってたはずやのに、そう言って、ウチの頭を撫でてくれた。そんときの、小太郎君の優しい手の感触が、ウチはずっと忘れられへん。小太郎君のことを、思い出しただけで、考えただけで、胸が切なさで締め付けられる。ウチはいつの間にか、こんなにも、小太郎君のことを好きになってもうてた。いつも地味で、目立たへんくて、とことん脇役やったウチやけど、これだけは、この恋だけは、脇役のまんまで終わりたくはなかった。せやから、ゆーなとアキラに相談して、頑張ってセーターを編んで、少しでも小太郎君にアピールしようと思ったんやけど……。……やっぱウチ、ダメダメやな、小太郎君、格好良過ぎや。そんな風に肩落としていると、まきえが鞄をごそごそと漁り始めた。何やろ? プレゼントなんて用意してへんて言うてたのに……。まきえが鞄から取り出したのは、少し長めの赤いリボンだった。「うーん……何か今すぐ渡せそうなものないかなぁって思ったんだけど、今はこれくらいしか持ってなかったよ」「ほ、本当気にせんで良えって。第一、リボンなんて貰ても、俺男やし、どないして使えば良えねん?」さすがに冷や汗を浮かべながら、小太郎君は苦笑いを浮かべた。けどまきえは、どうしても何かお返しがしたいみたいで、しばらく考え込んでいた。「……あっ、そだ! コタ君、コタ君、ちょっと右の小指貸して!!」「小指? 別に構へんけど……」何か思いついたらしい、まきえは小太郎君の差し出した右手の小指に、くるっ、と用意した赤いリボンを巻きつけた。さ、流石の手際や……と、いうか、ぶきっちょなんに、リボンって名前が付いた瞬間器用になるなんて、まきえどんだけ新体操に命賭けてるん!?次にまきえは、残った方のリボンの先を、自分の左手の小指に、これまた器用に結び付けた。こ、これはもしかしてっ!?「運命の赤い糸ならぬ、運命の赤いリボン!! ……なんちゃって♪」「……いや、こんな使い方はせぇへんよ……」嬉しそうに言うたまきえに、小太郎君は、相変わらず苦笑いを浮かべてた。け、けどまきえ……いきなり運命の赤いリボンやなんてっ!? ももも、もしかしてっ、まきえも実は小太郎くんのことっ……!?ど、どないしよっ!?まきえ、頭は悪いけど、明るいし、スタイル良えし、可愛いし……う、ウチみたいな地味人間に勝ち目あれへんやん!?そんなふうに焦ってると、小太郎君が、ウチにとって絶望的な一言を言うた。「まぁ、まき絵みたな可愛い子と結ばれてる言うんは、光栄やけどな?」「へ、へぇっ!?」「「「!!!?」」」いつも以上に大人びた表情で、格好良え笑みを浮かべる小太郎君。そ、その表情にどきっとしてもうて、直接笑顔を向けられたまきえだけやのうて、アキラもゆーなも、ウチまで言葉が出て来ぃひんやった。け、けど……それって、小太郎君もまきえのこと……まんざらでも、ない?……そ、そんな……それやったら、ウチは……。「ん? あ、亜子どないしたんや!? 顔真っ青やで!?」「え!? ああっ!? し、しまったっ!?」「バカまきえっ!! どうしてそういうことするかなっ!?」「あ、亜子落ち着いてっ!! まきえは冗談でやってただけだよ!?」みんながいろいろウチに言うてたけど、もうウチの耳には届けへんかった。あ、あかん……ウチの恋、終わったわ……。せめて涙は見せまいと、ウチは思いっきり踵を返して、駅とは反対側に向かうて走り出してたた。「おっ、お幸せにーーーーーっ!!!!」さよなら、ウチの恋…………。SIDE Ako OUT......「おっ、お幸せにーーーーーっ!!!!」そんなことを叫びながら、亜子は駅とは全く反対の方へと走り去ってしまった。い、一体どうしたんだ?あとチビ、嬉しそうに追いかける準備しない。「何でよりによってそういう冗談言うのっ!?」「だ、だって思いついちゃったんだもん……」「と、とにかく亜子を早く追いかけないとっ!!」アキラにそう言われると、二人はしっかりそれに頷いた。慌ててまき絵が、自分の指に結んでいた方のリボンを解くと、俺にぱっとそれを手渡す。「お、おいっ、これ渡されても、俺にはどうしようも……」「ゴメンねコタ君、ちょっと亜子を追いかけなきゃだからっ!! プレゼントありがとーーーーっ!!」言うが早いが、まき絵は亜子の走って行った方へと駆け出して行った。続いてアキラも、俺に軽く会釈して、申し訳なさそうにそれを追い駆けて行く。最後に祐奈が、むすっ、とした表情で、俺に言った。「……せっかくプレゼントは良い感じだったのに、この朴念仁っ!!!!」「はぁっ!? そりゃ一体どういう意味やっ!?」「自分で考えろっ!!!!」そう怒鳴ってから、べーっと舌を出す祐奈。結局、答えは教えてもらえないまま、祐奈も三人を追い駆けて走り去って行ってしまった。取り残された俺に、やはりチビが追いかけたそうに、目を輝かせているのだった。「追いかけたらあかんで?」「くぅん……」俺にそう言われて、残念そうに、チビは耳を項垂れさせた。それにしても……。「……一体、何やったんやろうな?」「あーう?」俺たちは1人と1匹、ひたすら首を傾げるばかりだった。