時刻は午前5時、まだ日も昇りきっていないこの時間。兄貴の襲撃から一夜明けた今日。俺は何故か再び麻帆良中等部女子寮の前にいた。正直、昨日の疲労は抜けきっていないし、ガス欠状態で足取りも怪しい。しかしながら、この機を逃すと、俺は一生後悔してしまいそうだったから。体調の不良なんて、全て気が付かないふりをして、俺はこの場所に立っていた。「……ふわぁあぁ……」朝から何度目になるか分からない欠伸を噛み殺す。余りの魔力切れぶりに、影斬丸の鞘すら、その姿を現してくれなかった。そのため、影斬丸は今日、部屋でお留守番させてる。このイベントが終わったら、エヴァに頼んで別荘で2時間=2日間くらい休ませて貰おう。でないと、本当に身体が持ちそうになかった。「……ぼちぼちやと思うんやけどなぁ……」じいっ、と女子寮の門を見つめる。そういえばさっき、朝刊配達のために出て来た明日菜に、またも変質者呼ばわりをされて泣きそうになった。うん、この辺の問題が終わったら、必要に迫られない限り、女子寮に来るのはしばらく控えようと思うんだ……。俺のガラスのハートは、既に粉々ですぜ?だから早く出てきてくれ……。「……お?」そんなことを考えていた矢先、ようやく目当ての人影が、入口からこちらへと、ゆっくりとした足取りで向かってきた。一度、後ろに立つ女子寮を振り返り、懐かしそうに目を細めながら。彼女は迷いを断ち切るように、さっと、こちらへ踵を返した。……未練たらたらじゃねぇかよ……。そんなに不安なら、悲しいなら、こんなバカなこと思いつかなければ良いのに。もっとも、そんな頭の堅さも、彼女の可愛らしさだと思ってる自分がいるから性質が悪い。それに、そんな風に思っていなければ、俺は今日、こんな場所に立ってなどいない。道端に突っ立てる俺を見つけると、彼女は足を止め、驚いたように目を丸くした。しかし、やがて観念したようで、小さくため息を付くと、先程と同じ歩調でこちらへと歩いてきた。「……おはようございます、小太郎さん」「おはよーさん……こんなとこで会うとは、奇遇やなぁ?」「こんな作為的な奇遇があるものですか……」俺の小粋なジョークに、刹那はがっくりと肩を項垂れさせて答えてくれた。そんな余裕があるってことは、彼女は完全に覚悟を決めてしまったということだろう。それは、とても悲しいことだと、そう思わずには居られなかった。「……行くんか?」俺が真面目な顔でそう言うと、刹那はいつものような凛々しい表情に戻り、はっきりと頷いた。「はい……あの姿を見られた以上、ここに留まる訳にはいきませんから」「そんなん、俺と詠春のおっちゃんかて、その姿は知っとったやんけ?」それでも、彼女は俺たちの前から、姿を消すことはしなかった。何故今更、俺たちの前から姿を消そうとするのか、それが俺には理解できなかった。「それを承知で拾ってくれた長と、私と同じ身の上の小太郎さんでは話が違いますよ」苦笑いを浮かべて、刹那はそう答えた。なるほど、ね……。「私の白い翼は、禍いを呼ぶと忌み嫌われていました……それを、あなたとお嬢様は、綺麗だと言ってくれた。それだけで、私は十分です」そう言った彼女の言葉に、偽りはないのだろう。心から嬉しそうに、愛おしげに、彼女は優しい笑みを浮かべていた。「……木乃香の護衛はどないすんねん? 今後も、あいつが狙われる可能性は十分あるんやぞ?」「そうですね……けれどそれも、あなたになら安心して任せられます」……そんな信頼しきった笑みを向けられたら、こっちは何も言い返せねぇだろうが。やはり、俺では彼女の気持ちを変えることは出来ないらしい。俺は諦めて、大仰に溜息を付くと、右手で後ろ頭を掻きながら言った。「……だ、そうやで?」「?」疑問の顔を浮かべる刹那を余所に、俺の後ろからすっと、1つの人影が姿を現した。「お、お嬢様っ!? い、いつの間に!? ……まさか、小太郎さん!?」「俺が陰陽術使えるん、忘れたとは言わせへんで?」木乃香の背に貼っていた、認識阻害の符をべりっと剥いで、俺は悪戯っぽい笑みを浮かべた。さて、後は彼女に任せよう。俺が何を言ったところで、木乃香ほど刹那の心を揺さぶることは出来ない。だから俺の出番はここまで、あとはことの成行きをそっと見守るだけだ。……もちろん、それでもダメなときは実力行使させてもらうけどな?「……せっちゃん」「っっ……お嬢様……っ、長い間、本当にお世話に」―――――ふわっ……「……え?」別れの言葉を告げようとした刹那を遮るように、木乃香は優しく彼女の首元に抱き付いていた。事態が飲み込めず、目を白黒させている刹那に、木乃香は蚊の鳴くような、小さな声で呟いた。「……いややえ?」「え?」「……せっちゃんに会えんようになるなんて、ウチはいややえ?」今にも泣き出しそうな……いや、俺から表情が見えないだけで、既に木乃香は泣いていたのかもしれない。そんな切実な声で、木乃香はそう、刹那の耳元で告げていた。「……この、ちゃん……」「せっかくまた会えたんにっ、またいろいろ話せるようになったんにっ……もう会えへんなんて、そんな寂しいの、絶対にいややっ……」慟哭のように響く、木乃香の言葉に、ついには刹那の瞳も潤み始めていた。抑えていた木乃香への思いが、彼女の傍に有りたいという願いが、一族の掟と彼女の中で激しくせめぎ合っているのだろう。震える声で、刹那は木乃香にもう一度、別れを告げようとしていた。「……っ、しかし、あの姿を見られては、私は、あなたの傍にはっ……」「関係あれへんっ……せっちゃんが、どんな姿やっても、ウチはせっちゃんのこと、大好きやえ?」「っっ!!!?」見開かれた刹那の黒い双眸から、大粒の涙が零れ落ちた。ずっと独りで闘ってきた彼女に、初めて人の温もりを教えてくれた、心優しい少女。そんな木乃香は、今もまた、刹那の心を、孤独から救おうとしていた。「……ええの? ……ウチ、このちゃんの傍におっても、ええの?」「……当たり前や……せっちゃん、ずっと、ウチと一緒におってくれる?」「っっ!? ……っ、うん……うんっ!!」堰を切ったように、刹那の目からは止めどなく涙が零れ落ちて来た。手にしていた荷物も、かなぐり捨てて、刹那は、木乃香の背へと手を伸ばし、彼女の身体をしっかりと抱き締めていた。……どうやら、これで一安心かな?俺は、互いを抱きしめ、子どものように泣きじゃくる二人の少女の姿を見て、心の底から、満足の笑みを浮かべた。さて、邪魔者はこれで退散するとしますかね?俺は二人に気付かれないよう、そっと踵を返して、女子寮を後にするのだった。で、女子寮を後にした俺は、当初の予定通り、ふてぶてしくもエヴァのログハウスを訪れていた。「……こんな朝っぱらから、どういうつもりだ、この駄犬?」寝込みに押しかけられて、家主たるエヴァ様はたいそうご立腹です。まぁ、満月も過ぎた今の彼女だと、魔力が使えないために、そんな恐ろしいことはない。せいぜい寝起きが悪い小学生にしか見えなかった。「まぁまぁ、そう怒らんといてぇな? 男子寮に戻って寝ても良かったんやけど、どうせなら魔力の濃いエヴァの別荘のが回復早いやん?」「知るか!! 普段の授業よりも早い時間に押しかけおって!! やはり、その腐った性根、叩き直してやる必要があるようだな……」「小太郎さん、目玉焼きは片面焼きと両面焼き、どちらがお好みでしょうか?」「あ、俺片面焼きで。黄身はやぁらかい方が好きやねん」「かしこまりました」「人の話を聞けーーーーーっ!!!!」完全にエヴァの迫力満点な台詞をスルーして、俺は茶々丸にそう答えた。さすがに無視されたエヴァは、ばんっばんっ、とテーブルを涙目で叩いていた。「こらこら、テーブルを叩くんはお行儀が悪いんやで?」「やかましいっ!! 誰のせいだと思っている!? 大体、何を当然のように朝飯までたかっているんだ!?」「いや~……良ぉ考えたら俺、昨日の朝飯以降何も食うてへんねん」木乃香を連れて麻帆良中を飛び回った挙句に、兄貴の襲撃にあったからな。正直空腹なんて忘れてましたとも。しかし思い出してしまった今とあっては堪ったものではない。さっきから俺の胃袋は断続的に、激しい自己主張を繰り返していた。「それこそ知ったことか!! 勝手に餓死してしまうがいい!!」「そんなつれへんこと言うなや。俺らの仲やんけ?」「き、気持ち悪いこと言うんじゃない!! だいたい、どんな仲だと言うのだ!?」「ほら、命を救い合うた仲?」「だから何で疑問系だ!? そっ、それに昨日の一件は、借りを返しただけだと何度も……」「お待たせしました。朝食になります」「おおっ、美味そうやなぁ~」「……だからっ、人の話を聞けーーーーーーーーーー!!!!!!」早朝のログハウスに、エヴァのそんな叫びが虚しく響き渡った。茶々丸が用意してくれた朝食を、これまた遠慮なく平らげた俺は、予告通り、エヴァの別荘へと入らせてもらった。おして、有無を言わせずベッドへと直行。上着を脱ぎ捨てて、勢い良くダイブした。―――――ぼふっ「うっわー……めっさふかふかやー……」しかも良い香りがする。エヴァは殆ど使ってないみたいなこと言ってたけど、この匂いは多分彼女の香りだな。何度か使っただけかもしれないが、俺の狗族クオリティな嗅覚は誤魔化せない。つまり、俺は今まさにエヴァの温もりに包まれてるわけだな!!……これではただの変態ではないか……。アホらしいことを考えるのは止めにして、俺はごろんと寝返りを打つと、襲い来る睡魔に身を委ねることにした。「…………」「……ふんっ」―――――どすっ「ぐふぉっ!?」な、なななななな何だっ!?兄貴の奇襲か!?突然腹部に痛烈な重みを持って圧し掛かってきた物体に目をやる。するとそこには、何故か不機嫌そうに俺の腹に鎮座するエヴァさんがいた。「……え、エヴァはん? そこで何をしてはるんですか?」「……ふん、人の話を聞かぬ愚か者に、少し灸を据えてやろうと思っただけだ」そ、それにしたって、この報復はあんまりだ。さっき食った朝食が飛び出すかと思いましたよ!?しかし、俺はそれ以上言い返すことはできなかった。何故なら、俺から見えるエヴァの横顔は、どこか寂しそうというか、苦しそうに見えてしまったから。「……小太郎」「何や?」俺と目を合わせないままに、エヴァが俺の名を呼ぶ。最近気付いたことだが、彼女は重要な話をする時に限って、俺のことを名前で呼ぶ癖がある。だから今回も、俺か、彼女にとって、何かしら重みを持った話をするつもりなのだろう。俺はいつものように茶化すことはせず、黙って彼女の言葉を待った。「ジジィから、今回の事の顛末を聞いた。……昨夜の襲撃者は、貴様の兄だったそうだな?」「……ああ」そう肯定した俺を、やはり振りかえることはせずに、彼女は淡々と話を続けた。「貴様が私の護衛をした際に、私は貴様のことを『英雄願望の凝り固まったような、救いようの無いガキ』だと思っていた。不幸など、逆境など知らぬ甘ちゃんだとな」「そら、えらい評価を貰ったもんやな……」ちょっとは予想してたけど、その評価にはさすがに泣きそうだぞ?「……しかしその実は違ったのだろう? 貴様は全ての仲間を喪い、最も信頼を寄せていた人間に裏切られ、たった独りになったはずだ」「まぁ、そうやな……」あの惨劇の光景を、地獄と表現するくらいには、俺は自分の置かれた境遇を悲観していた。そして、そこから逃げ出すために、前へと踏み出すために、力を求めた。「だというのに、何故貴様は光に生きる? また裏切られるかもしれないと、恐怖を抱かずにいられる? 復讐のためでなく、何故護るための力を望める?」「…………」恐らく、彼女は自身の境遇と俺の境遇を重ねているのだろう。確か彼女は10歳の誕生日の朝、全てを喪った。俺が全てを喪った8つの時と同じように、とある人間の裏切りによって。そして魔道に堕ち、他者を傷つけながらしか、生きられなかった彼女の半生。千の呪文の男、ナギ・スプリングフィールドと出逢い、人の温もりを知るまで、彼女にとって他者は全て、敵に違いなかったのだから。600年もの回り道を経て、ようやく光へと一歩踏み出した彼女には、一度も闇に、復讐という修羅の道に堕ちず、尚も光に生きる俺は不可解極まりない存在に映ったに違いない。俺はどう答えたものかと、思案を巡らせていた。確かに、俺は一歩間違えば、俺は彼女のように、他者を傷つけながら生きる道を選んでいただろう。しかし、それを是とせず、光に生きることが出来たのは、やはり仲間の存在があったからに他ならない。「信頼に足る人間に、俺はすぐ出会えたからな……」「信頼に、足る人間だと? ……それすらも詭弁だ。どんなに美辞麗句を繕おうと、その裏の顔があるのでは、と何故恐れずにいられた?」それは、原作知識によるところが多いだろう。確かに彼女の言う通り、それだけの裏切りにあった直後に、初対面の人間を信頼することなんて出来はしない。特に俺たちのように、その時の年齢が幼ければ幼いほど。しかし俺は、その時既に、20過ぎの精神年齢を持ち、出会う人々の人柄をおおよそ知っていた。だからこそ、長を信頼し、刹那とともに強くなる道を選べた。とは言え、それをどうやって彼女に説明したものかな……。「……ええとな、これはある男の話なんやけど、何なら聞き流してくれても構わへん」「……言ってみろ」「……そいつは、自分の名誉と快楽だけに生きて、人付き合いなんてなおざり。結局最後は事故であっけなく死んでもうた」そう、それは他でもない、俺自身の話だ。この世界に生まれ出でるまで、周囲のことなど気に掛けず、自身の楽しみのためだけに生きた、しょうもない男の末路。生まれ変わったことで、失念しがちだったが、その短い生涯を振り返り、俺が感じたのはどうしようもない後悔だった。「きっとな、見渡したら、そいつに手を差し伸べてくれる奴なんて、仰山おったはずや。せやけど、そいつはそんなん気付かんと、自分のことばかりを見てた」「…………」「死んでから、そいつは後悔すんねん『俺は孤独なまま、こうして死んでいくんやな』って」そして望む。二度目の生があるのならば、次こそは仲間とともに歩む人生をと。そしてそれを手にした俺は、図らずも、その誓いの通り、かつて願った通りに生きる道を選んでいた。「俺はそんな風に後悔したないねん……差し伸べられてる手があるなら、それに気付かへんなんて、悲しすぎるやろ?」「差し伸べられてる、手か……」エヴァは、静かに目を閉じて、何か考えごとをしているようだった。恐らくは崖から落ちそうになった彼女を、優しく繋ぎとめた、赤毛の魔法使いの、その頼もしい手の温もりを思い出しているのだろう。しばらくして目を開けたエヴァは、高慢な笑みとともに、ようやく俺を振り返って言った。「ふん……バカだバカだと思っていたが、どうやら貴様は底なしのバカだったようだな」「くぅおら金髪幼女、どういう意味やそれは!?」「誰が金髪幼女か!!!! ふんっ……まぁ良い。そのままの意味だ。どん底を経験し、尚も人の温もりを求める、この性善説信望主義者め」「む……別に悪かないやろ? こんな時代や、そんなバカも一人二人は必要やで?」どっかの誰かに抱き付いて泣いてる、白い羽根の剣士とかな。それに、エヴァだって、それを望んだから、こうしてここで学生生活をしているはずだ。全く持って、人のことを言えた義理ではない癖に。「ふんっ、自分で言うことか? ……さて、興が削がれた。どの道私も1日はここから出られん。少し寝る」「いや、こっちは最初からそのつもりやってんけど?」邪魔したのはあなた様ではございませんか……。エヴァはぴょん、と俺の腹から飛び降りて、こちらを振り返ることなく言った。「それと、今後この別荘が使いたいなら勝手にしろ。毎度毎度、昼寝の邪魔をされたら堪ったものじゃないからな」「マジでか!? そらおおきに。ホンマ助かるわぁ」願ってもなかった申し出に、俺は思わず上半身を起こして喜んだ。「か、勘違いするなよ? 私はただ、底抜けのバカが、どんな場所に辿り着くのか、興味が湧いただけだ」「ははっ……そんなん最初から言うてるやろ? ……俺は千の呪文の男すら越えて、世界で一番強なったるってな」照れくさそうに言うエヴァの背中に、俺はいつもの獣染みた笑みを浮かべてそう投げかけた。最後までこちらを振り返ってはくれなかったが、恐らく似たような力強い笑みを浮かべてくれていたに違いない。強者としての風格が、その小さな背中から、ひしひしと伝わってきた。手をひらひらと振って出て行ったエヴァを見送り、俺はぽん、っと再びベッドに身体を預けた。今回の闘いで、俺はまだ、あの男に届いていないことが判明した。回復した暁には、今まで以上に腕を磨かないと、俺はいつまでも奴に届かないままだ。ぐっ、と握り拳を付き上げて、俺は今一度誓った。他者も己も、護り抜く力を手に入れることを。神の悪戯が与えてくれた、このかけがえのない絆を、今度こそ護り抜いて見せることを……。【オマケ:コタ……ま?~はぁとふるこのせつ劇場~】「はれ? そう言えばコタ君どこ行ったん?」「そっ、そう言えば、いつのまにか姿が見えませんね?」「あっちゃあ……まだせっちゃんのこと教えてくれたお礼言うてへんかったのに……」「携帯で呼び出してみましょうか? まだ、近くにいるかもしれませんし」「あ、うん、せやな!!」―――――『おかけになった電話は、現在電波の届かないところに……』「あ、あかん、圏外や……」「学園都市の中で圏外になるような場所なんて……ま、まさかっ!?」「せっちゃん、どうしたん? 顔色が青いえ?」「え、エヴァンジェリンさんの、別荘?」「へ? エヴァちゃん、別荘とか持ってるん?」「え、ええ、ただ1度入ると1時間単位でしか出て来れません」「へぇ、でも1時間くらいやったら何も心配せんでも……」「外での1時間は、別荘内での1日に換算されます……ともすれば、小太郎さんは、エヴァンジェリンさんと丸1日二人きりに……」「せっちゃん、今すぐ行こか?」「へ? え? えぇっ!?」「何しとるん? コタ君がエヴァちゃんに取られてまうで?」「なっ!? おおおおお嬢様っ!? ななななな何でそのことをっ!?」「あ、やっぱりコタ君のこと好きなんや?(にんまり)」「なぁっ!?(は、ハメられた!?)」「んー……けど、せやったら、やっぱウチ、せっちゃんに謝らなあかんわ……」「え? い、いったい何をですか?」「うん……ウチも、その……コタ君のこと、好きになってもうた(てれっ)」「へ? ……えぇぇぇぇぇぇぇええええええっ!!!!!!」「わっ!? せ、せっちゃん、大きい声は近所迷惑やで?」「も、申し訳ありません……って、このちゃんっ、その、小太郎はんのこと、好きて……え? ええ!?」「せっちゃん、落ち着いて、はいっ、深呼吸、深呼吸……」「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」「落ち着いた?」「は、はい……で、ですが、その……木乃香お嬢様、小太郎さんのどこに……?」「そっ、そんなん、わざわざ言わんでも、せっちゃんかて分かってるやろ?」「……えぇ、それは、まぁ……」「「あの優しさと笑顔は反則ですよねぇ(やんなぁ)……」」「んー……けどなぁ、ウチ、せっちゃんとコタ君取り合うて、喧嘩とかしたないなぁ……」「そ、それは私もっ! その、お嬢様とそんな、どろどろした関係には……」「やっぱ、アレしかあれへんかなぁ?」「あ、アレとは?」「……せっちゃん、日本には妻妾同衾て、素晴らしい言葉があってな」「そっ、そんな爛れた解決方法はいかがなものかと!?」「けど、コタ君鈍感やから、二人で協力でもせぇへんと、絶対振り向いてくれへんよ?」「そ、それはまぁ、確かに……」「やろ? せやから……これからは、一緒に頑張ろな?(にこっ)」「う……うぅ……はい、その……よろしくお願いします……(かぁぁぁっ)」「よし! そうと決まれば、早速エヴァちゃんの魔の手から、コタ君を救い出すでー!!」「お、お待ちください!! 木乃香お嬢様ーーーーーっ!!」――――――――――小太郎が安眠できる瞬間は遠い。