―――――ゴォッ「うおわっ!?」―――――ジュッい、いいいい今ちょっと学ランに掠ったぞ!?あっぶねぇ・・・・・・当たりがデカイは威力高いは、何という反則技。しかもノータイムと来たら性質が悪過ぎる。間合いが近いと使えないにしても、あんなんどうしろと?というか、アレか? ハイレベルに行くには、ノータイムの対軍殲滅技法が必須なのか?それこそ咸卦法とか使えないと無理なんじゃねぇか?「上手く凌いだね。なら・・・・・・これはどうかな?」俺と約15mの距離、上着のポケットに手を突っ込んだ状態のタカミチの、咸卦の気がさらに密度を増した。「―――――千条閃鏃無音拳!!」刹那、恐ろしい魔力密度をもった無数の衝撃波が俺に襲いかかった。オイオイオイオイっ!? お前、原作のネギ戦が本気じゃなかったのかよっ!?そんなの原作で見たことねぇぞ!?(※彼は原作27巻までの知識しか持ってません)これは、流石に避け切れないか・・・・・・!?安全地帯なんて、とてもじゃないがありそうにない。ならば・・・・・・。「自分で作るだけやっ!! 影斬丸、咆哮(トオボエ)!!」刀身に圧縮された狗神が、デタラメに暴れ狂う漆黒の暴風と化す。それは、俺に迫る数十の衝撃波の内、幾ばくかを呑みこんで掻き消えた。「っく!!!?」その瞬間に、背後に迫る殺気。俺は慌てて、振り抜いた影斬丸を、遠心力を利用して後方へと薙いだ。―――――ガキィンッ「おっ、と・・・・・・驚いたよ、アレを凌いで、僕の瞬動にも気付くとはね」「驚いてんのはこっちや。なんで刀を裸の拳で防げんねん・・・・・・」一応、狗神の魔力と俺の気で無茶苦茶に強化されてるんですけど?まぁ、ジャック・ラカンも剣が刺さんねーんだけど? なんて言われてたし、武器持ちゃ勝てるなんて世界ではないんだろう。しかし、これだけ接近した以上、居合い拳に連なる大技は使えまい。―――――ここからは、俺のターンだ!!「ふんっ!!」―――――ガキィンッ「よっ・・・・・・」俺の放った袈裟斬りの斬撃を、いとも容易く防ぐタカミチ。もちろん、その程度でこのチャンスを逃すつもりなどなく、俺は立て続けに、必殺の威力を持って斬撃を繰り出した。「はぁぁあああああっ!!!!」―――――ガキィンッガキィンッガキィンッ「よっ、ほっ、はっ・・・・・・はは、なかなか隙を見せてはくれないね」・・・・・・ったく、こっちはこんなに必死だってのに、涼しい顔しやがって。しかし、その余裕の顔には、ここらでご退場願おうか。10度目の斬撃が弾かれた反動をもって、俺は身を翻し、渾身の蹴りをタカミチの腹に見舞った。無論それは、彼にはあっさりと防がれるが、それすらも俺の計算通り。ガードごと、俺は彼を蹴り飛ばした。「うおっ!?」「もろたっ!!」俺はタカミチを追うことはせずに、影斬丸を逆手に握ると、眼下に出来た自身の影に突き立てた。一瞬にして、八方に広がる俺の影。その中には、俺に蹴り飛ばされたタカミチの影すらも含まれていた。「・・・・・・やばっ!?」「もう遅いわ!! 喰らえ・・・・・・狗音斬響、影槍牢獄!!!!」広がった影から、狗神で作り上げた、無数の影槍が突き出る。それは四方八方から、タカミチを貫かんとしていた。「くっ、こんな技まであるとはねっ!?」流石に、タカミチの顔からも、笑顔が消え失せていた。しかし、これを王手とするには、まだ威力が足りない。事実、四方八方からタカミチに繰り出されるそれは、彼の正確な拳によって尽く砕き折られていた。「まぁ、それも予想済みや・・・・・・捕えろ、影槍牢獄!!」「何っ!?」タカミチを中心に円柱状にせり出す一群れの影槍達。これこそが、影槍牢獄の真の使い方。敵を影の牢獄に閉じ込め、一時的にその動きを封じる。無論、タカミチ級の相手では、封じられるのは一瞬だが。それでも、俺には十分過ぎる。俺は突き立てていた影斬丸を引き抜くと、有無を言わせず、タカミチに肉薄した。放つのは、俺の技の中で、最も高威力のあの技。無論、前回の付け焼刃みたいなものとは訳が違う、より完成された、漆黒の一閃。いかにタカミチと言えど、流石にこれを喰らえば、まず立ち上がれまい。俺は影斬丸を大上段に構え、本来狗音影装とするはずの狗神を、全て刀身に纏った。銀色の刀身が、漆黒の牙へと姿を変える。同時に、俺は得物を振り下ろしていた。「――――――――――狗音斬響、獣裂牙顎!!!!」「っっ!!!?」タカミチを捉えていた、影の牢獄ごと、俺は全てを斬り裂いた。否・・・・・・斬り裂いた筈だった。衝撃で、土煙が舞い上がり、視界は殆どない状態だったが、そこにタカミチの気配は微塵も感じられない。それ以前に・・・・・・。「・・・・・・手応えが、あれへん?」まったくと言って良い程、俺の刀には、敵を斬ったときの手応えがなかった。瞬動で逃げようにも、影の牢獄のせいで、それは不可能だったはず。いったいどうやって・・・・・・?俺は、いつどこから、攻撃を受けても対応できるよう、柄を握る手に、更に力を込めた。ゆっくりと、土煙が晴れていく。意外にも、タカミチは俺の正面、20m程の地点で笑みを浮かべて立っていた。「いつの間に・・・・・・」「いやぁ、保険はかけておくものだね」そう言ってタカミチは、俺にボロボロになった一枚の紙切れを見せた。「それ、転移符か!?」「まさか使うことになるとは思わ無かったけどね。結構高いんだよ? ・・・・・・さて」「――――――――――そろそろ、終わりにしようか?」―――――――――ぞくっタカミチの顔から、完全に笑みが消えた。高まっていく咸卦の気は、先程の比ではなく、それが全て、ポケットに納められた彼の右拳に収束していく。打たせてはならない、直感的にそう感じた。たかだか20mの距離、瞬動なら一瞬だ。そう思い、両足に気を集中する俺だったが、タカミチ自身、そんなことは百も承知。彼の方が、僅かながら速さで勝っていた。「――――――――七条大槍無音拳」巨大な気の塊が、俺に向かって放たれた。迎撃は、間に合わないっ!?「っ!? 狗尾(イヌノオ)っ!!!!」「―――――遅い」障壁を展開するものの間に合わず、俺は見事に吹っ飛ばされていった。ゴールデンウィークも修行三昧で通過し、五月も半ばになったある日曜日。タカミチが、久しぶりに稽古を付けてくれると持ち出してきた。願ってもないことだったので、俺は二つ返事で了承し今に至る訳だが。「で、どうして貴様らは、当然のように人の別荘を使ってるんだ?」場所は何故かエヴァの別荘たる魔法球の中だった。俺はタカミチにやられた傷を手当てしながら、どうしてこうなったんだったかと考えていた。「うーん・・・・・・俺がタカミチに、全力で闘っても怒られへん場所ってあれへん?って聞いたから?」「何で疑問形だ!? 貴様が元凶ではないか!?」人の休日をなんだと思っている!?っと、エヴァが激昂していたが、小学生の女の子が駄々をこねているようにしか見えず微笑ましかった。「転移符かぁ・・・・・・あんなん予想できる訳あれへんやん、ズルいでタカミチぃ・・・・・・」恨みがましい目で、少し離れて煙草を吹かすタカミチにそう言うと、珍しく冷や汗を浮かべていた。「いや、使わないと僕死んでたからね?」「んなことあれへんやろぉ? せいぜい10分の1死にくらいやったやろぉ?」「・・・・・・小太郎君、人はそれを瀕死って言うんだよ?」知ったことか。麻帆良に来て2カ月。ようやく初めてタカミチに勝てると思ったんだが。まだまだ、未熟ということか。「そもそも、貴様の闘い方は中途半端なんだよ。浅く広く技術を拾い過ぎだ」「あ、やっぱりそうなんか?」薄々は感じていたが、人に指摘されると凹むな。ざっと使える技術を上げてみると、体術、忍術、神鳴流、我流剣術、陰陽術、あとは多少の影に関する魔法。戦術的には剣術、体術に偏ってはいるが、どれも極端に突き詰めたということはない。やっぱその辺りが、俺の成長の妨げになっているってとことか。「私に言わせれば、魔に属する者としての利点を完全に潰している。強大な魔力と人外の身体能力をもっと前面に押し出せば良いだろうに」「それなんやけどな・・・・・・俺、実は狗神以外の魔力の操り方が良ぉ分からへんねん」「は?」お、エヴァの目が点になった。こういうきょとんとしてるエヴァは新鮮で可愛い・・・・・・じゃなくて、それって、やっぱりそれくらい有り得ないことなのか?けど、原作の小太郎だって、肉弾戦一辺倒だったではないか。そんな魔法チックな技を使っていたイメージはなかったんだけど・・・・・・やっぱり魔族ってそういうのが使えて然りなのだろうか?「前に咸卦法を試して失敗したのもそれだろうね。圧倒的に気の方が出力が大きかったんだろう」「そうなんか?」「・・・・・・こ、この駄犬め。それでは半妖の血が宝の持ち腐れではないかっ!?」「そ、そこまで酷いんか!?」ま、まぁ、原作でも『闇の魔法』の下りで『魔族の強大な魔力量が云々』とか言ってたしな・・・・・・。妖怪の血を引く以上、膨大な魔力を使えないのは宝の持ち腐れということだろう。そう言えば、原作で妖怪化したときの刹那の技は、やたら派手なもの多かった気がするしな。さしずめ、今の俺の状態は、修学旅行編直後のネギや木乃香と同じく、ただでかいだけの魔力タンクってことか・・・・・・。獣化より狗音影装を多用してるのも、コスト対効果の観点からだしな。使って見て気が付いたが、獣化はあれでガンガン気を消耗してくから、効果とコストが全く釣り合わないんだよな・・・・・・。「うーん・・・・・・魔法でも習ったらええんかな?」「貴様な・・・・・・人の話を聞いていたか!? これ以上他の方面に手を出してどうする!?」「いや、一概にそうとも言えないよ? 狗神に良く似ている、影や闇に関する魔法なら、もしかすると彼の魔力運用効率上昇に有用かもしれないしね」「む・・・・・・それも、一利あるか・・・・・・」あー、そう言えばそんな感じはあるな。原作でも、カゲタロウの使ってた技は、狗神に良く似てたし。狗神と影精って近いもののような気がするしな。そもそも、今回使った影槍牢獄は、そこに着想を得たものだ。「ふむ、闇属性か・・・・・・どうだ小太郎? 貴様がどうしてもと、地に這いつくばって懇願するのであれば、この私が直々に指導してやることもやぶさかじゃないが?」「いや、それは遠慮しとくわ」「ぎゃふんっ!?」せっかくのエヴァの申し出だったが、俺はそれを光の速さを持って断った。俺の答えを予想だにしてなかったのだろう、エヴァが珍妙な声を上げてずっこけていた。「ななな何でだっ!? 私のどこが不満だっ!? 腐っても不死の魔法使い、悪しき音信、禍音の使徒などと恐れられた大魔法使いだぞっ!!!?」余程あっさり断られたのが気に障ったのか、俺の学ランの詰襟をがっくんがっくん揺さぶるエヴァ。その姿は、ナギに自分のものになることを拒否された時を彷彿とさせた。600年以上も生きてる割に、本当に不測の事態に弱いよなぁ・・・・・・。「それは分かってんけど・・・・・・俺、改まって人に物を教わるん苦手やねん」もちろんこれは建前で、実際はエヴァに鍛えられると、最終的な出力向上のため『闇の魔法に』辿り着く可能性があるからだった。どうせなら、自分の知恵と努力と発想力でそれを越えたいし、何より、考える楽しみがなくなる。そういう理由から、俺はもとより誰かに師事する気はなかった。「それに闇属性の魔法より、操影術のんが俺の狗神に近いからな。どうせならそれを使える奴から技術を盗みたいねん」「ぐ、ぐぬぬぬぬ・・・・・・ま、まぁ貴様がそういうのならば仕方あるまい」「はははっ、フラれてしまったねエヴァ」「なっ!? ななな何を血迷ったことをほざいている!!!?」タカミチのそんなからかいの言葉に、顔を真っ赤に目を吊り上げて噛みつくエヴァ。ナギとの過去をネギに知られたときもそうだったけど、意外と自分に降りかかってくる恋愛系の話に弱いのかな?・・・・・・これは格好のからかい材料を手に入れてしまった(ニヤリ)。こないだの花粉症の話じゃないが、エヴァは意外とからかいがあって楽しいということが判明してしまったからな。ただあんまりやり過ぎると、ガチで十年間氷漬けの刑とかに処されそうだから、引き際が肝心ではありますが。「それはさておき、小太郎君。今、ちょうど女子部の3年にそういう類の魔法を使える生徒がいるんだけど、彼女に頼んでみようか? 年齢が近ければ改まった雰囲気にもならないだろうし」「マジでか? それは、願ったり叶ったりやけど・・・・・・」大丈夫か? 魔法生徒の中には、魔族のハーフに悪印象を持ってる奴もいるって話だろ?そう思って思案顔になっていると、タカミチはいつものように飄々とした表情で笑った。「君の心配も無理はないけど、君なら問題ないと思うけどね?」「どういう意味や、それ?」「さてね・・・・・・」俺が問いかけても、タカミチは曖昧に答えを濁すばかりで、決して教えてはくれなかった。別荘の中で一泊して、俺はエヴァのログハウスを後にすることになった。操影術の件に関しては、タカミチが後日また連絡をくれるそうだが・・・・・・本当に大丈夫だろうか?まぁ、なるようにしかならないだろう、ということで、俺は思考をその辺りで打ち切っていた。ちなみに、別荘の中でタカミチより負った傷は、一晩で全開している。狗族ボディ様々だぜ。「それじゃ、タカミチ、エヴァ、おおきに」「ああ、気を付けて帰るんだよ?」「貴様、愛称で呼ぶなとあれほど・・・・・・もう、いい。さっさと消え失せろ」タカミチはそんな心配の言葉と笑顔で、エヴァは諦めたような溜息でそれぞれ俺に手を振ってくれた。俺は足早に男子寮への道を帰ることにした。・・・・・・・・・・「それにしても・・・・・・残念だったね、エヴァ?」「・・・・・・何の話だ?」「小太郎君に、魔法を教えられなくて」「なっ!? 何を言っている!? む、むしろ面倒が増えなくてほっとしてるところだっ!!!!」「そうかい? ・・・・・・まぁ、彼は本当に良くナギに似ているからね、君が目を掛けるのも無理はない」「オイ? 人の話を聞いていたか? そんなんじゃないと言っているだろう!?」「ははっ、そんなに照れなくても良いじゃないか? きっとナギも喜ぶと思うよ?」「何がだっ!?」「エヴァが人並みに恋をしてくれて」「@*$#&%=~~~~~!!!? だだだだだ誰が恋などするかっ!!!? トチ狂ったことをほざくんじゃないっ!!!!」「大丈夫さ、年齢や種族なんて些細な問題だと僕は思うよ?」「オイ、違うからな? 違うからな!?」「はははっ・・・・・・」「その微笑ましいものを見るような笑みを今すぐ止めんかぁっ!!!!!!」あとがき新章、麻帆良修行編、始動。へ? 女の子分増やすんじゃなかったのかって?エヴァにゃんが出とるやろうもん!!!!(ぉしばらくは今回のような軽いノリの話が続くことになるかと思われますvでわでわ、また次回vノシ