麻帆良についてから一週間が経過した。最初は面倒だと思っていた警備員の研修も、タカミチがちょいちょい稽古を付けてくれるおかげで、とても有意義に感じている。試しに咸卦法を再現してみようとしたところ、暴発して死ぬ思いをしたのには正直凹んだが・・・・・・。男子寮は、たまたま空きがあったため一人部屋を借りることが出来た。おかげ様で、夜中に脱走するのが楽だ。寮では既に何人かの同級生が共同生活をしていて、俺も数人と仲良くなった。思っていた以上に幸先の良い新生活の始まりに、本来なら文句なんて出ようはずもないのだが、しかし・・・・・・誠に遺憾なことが一つだけあった。「僅か一週間で14件・・・・・・小太郎君、これがどれくらいの数字だか分かるかい?」いつものように穏やかな表情のタカミチだが、その額にはぴくぴくと青筋が浮かんでいた。俺は乾いた笑いを浮かべて、彼の逆鱗を逆撫でしないような解答を必死で探っていた。「え、えーと・・・・・・平均より、ちょこっと多い?」「平均をぶっちぎって多いよ」「ですよねー☆」・・・・・・さーせん。タカミチが言ってるのは、ここ一週間で俺が受けた生活指導の回数だったりする。ちなみに内訳は、深夜に寮から脱走したことで3件、他学年の生徒との揉め事で11件だ。まぁ脱走に関しては100%俺が悪い、そこは認めよう。次からはちゃんと見つからないよう転移を使うか、或いは見つかっても大丈夫なよう影分身を置いていくことにしよう。しかし、喧嘩に関しては、情状酌量の余地があると思う。「全部向こうからしかけてきとるんや、全然俺は悪ないやろ?」別に俺は好き好んで喧嘩してる訳じゃない。向こうが勝手に喧嘩を売って来るんだ。やれ目つきが気に入らないだの、やれ中坊の癖に生意気だの、と。そういう時代錯誤と言うか、年齢や体格だけで勝てると思いあがってる連中には灸を据える必要があると思う。「せやから、こう紳士的にな、身の程っちゅうもんを教えたろうと思てな」「・・・・・・紳士は肋骨を2、3本持って行ったりしないよ」「あ、あははは・・・・・・」ま、まぁやり過ぎてしまった感は、否めないかな?け、けど気とか忍術とか狗神とかは一切使ってないんだぜ。 本当だよ!?「まぁ、君の言う通り、喧嘩に関しては全て正当防衛だったと裏付けも取れているからね。大目に見るのは、今回までだよ?」「おお!? さすが、タカミチ! やっぱ話が分かるなぁ」まぁ、脱走に関しては寮のトイレ掃除一カ月+反省文というペナルティが課せられているので、見逃すのはこれまでの喧嘩に関することだけだろうが。次からは、きちんと医者のお世話にならなくて良い程度にボコることにしよう。「ただし、次は相応のペナルティを受けて貰うからね? 出来る限り話し合いで解決するか、無理そうなときは逃げきること。君ならそれくらい簡単だろ?」「むぅ・・・・・・敵前逃亡は性に合わへんなぁ。ちなみに、次喧嘩したらどないなるん?」「そうだね・・・・・・気と忍術、狗神に関して一週間の封印処分と、その上で、第3グラウンドの清掃と、あ、もちろん一人でだよ? あとは、400字詰め原稿用紙5枚以上で反省文の提出ってところが妥当かな?」「うそん」前言撤回。絶対もう喧嘩はしねぇ・・・・・・。その後、俺はタカミチに今週一週間の研修スケジュールが書かれた紙を貰って、女子部の生活指導室を後にした。ん? 何で男子部の生活指導室じゃないかって?何でも、現在俺と刹那のお目付け役がタカミチだから、俺たちへの指導はこの一カ月間に限って全部タカミチがやることになってるんだとか?というわけで、俺は問題を起こすたびにこうして女子部の校舎を訪れてたりする。もうね、周りの女子の視線が痛いこと痛いこと・・・・・・。俺完全に不審者扱いよ?いかにイケメンボディと言っても、TPOを守らないとこういう目に合うということか。一つ身を持って学んだよ・・・・・・。「あれ? コタ君?」「ん?」聞き覚えのある、ふんわりした声に呼び止められて振り返ると、そこにはやっぱり見知った顔がいた。「おう、木乃香か。久しぶりやな」「あはは、前に会ってから、そないに経ってへんよ?」いやいや、この一週間、タカミチと男子寮の連中にしかあってない俺からすると、木乃香みたいな可愛い女の子との会話は物凄く希少なのよ。本当めちゃくちゃ久しぶりに女の子と話した気がするもの。刹那とさえ、時間が合わなくて会ってないしなぁ・・・・・・。嬉しそうに俺へ向かって、とてとて駆け寄ってくる姿に、引き攣っていた俺の胃が癒されていくのを感じる。ああ、女の子って、本当にイイモノですね・・・・・・。それに、この前会った時より幾分元気そうだし。刹那のことに関して、彼女なりに気持ちの整理が付いたってことかな?「今日はどしたん? 女子部の校舎って、基本的に男子禁制なんとちゃうんっけ?」「あー・・・・・・話すと長なるというか、複雑というか・・・・・・」「???」返答に窮する。魔法絡みのことを隠して、タカミチが俺の指導員になってることを説明するのは難しいしなぁ。うーむ・・・・・・ここは単純にタカミチに用事があった、ってことでOKなのではなかろうか?そう思って返事をしようとした矢先のこと。「あんた、木乃香に何してんのよっ!?」「へ?」―――――リィンッ俺と木乃香の間に、彼女を庇うようにして割り込んだのは一人の少女だった。鈴の髪飾りが、風に揺られて甲高い音を奏でる。特徴的な二つ結びの髪に、これまた特徴的なオッドアイ。木乃香が牡丹だとするなら、まるで向日葵のような印象を受ける、快活そうなその人物。この世界において、間違いなく最重要人物の一人であろう彼女。それが俺と、神楽坂 明日菜の出逢いだった。「あ、明日菜?」「大丈夫、木乃香? こいつに変なことされてない?」「オイ。ちょお待てやコラ」行き成り人を痴漢扱いですか!?むしろ話しかけたの木乃香の方ですよ?そんな俺の言葉に、まるでゴミ見るかのような視線でこちらを振り返る明日菜。このアマ・・・・・・可愛ければ何でも許されると思うなよぉ!!しかしここで怒るのも大人げないしな。ここは笑って彼女の間違いを正してあげようではないか。「白昼堂々、女子部の校舎に忍び込む変態と、話すことなんて何もないわ!!」「(ぴくっ)・・・・・・おいコラ、誰が変態やて?」「あんた以外に誰がいるってのよ!?」こ、このガキ・・・・・・。人が黙ってりゃあ好き放題に。俺だって好きで白い視線を浴びてる訳とちゃうわぁっ!!!!「女子部の校舎は男子禁制!! 初等部の子でも知ってるわよ!!」「止むに止まれん事情があったとは考えん訳かい」「心にやましいことがあるから、そうやって言い訳が出るんでしょ!?」「ちったぁ、人の話を聞けや!!」「だから、変態と話すことなんてないって言ってるでしょ!!」ぬおおお・・・・・・!!明日菜め、勘違いとは言え、ここまでこの俺を虚仮にするとわ!!ゆ、許せん・・・・・・女の子だし、穏便に済ませてあーげよっ☆なーんて思っていたがもうヤメだ!!かくなる上はこの拳で黙らせてくれるわ!!「明日菜、明日菜っ」鬼の形相を開始した俺を余所に、木乃香は慌てた様子で明日菜の袖を、くいくい、と引っ張っていた。「こ、木乃香? 待ってて、すぐにこの変態を追っ払うから!!」「ちゃ、ちゃうんよ。その人変態さんとちゃう。むしろ良い人なんよぉ!」「へ?」木乃香に説明されて、きょとんとなった明日菜は、油の切れた玩具のような挙動で、こちらを一瞥した。「え、ええと・・・・・・(ちらっ)」「・・・・・・あぁん?(ギロッ)」「怖っ!? ちょっと木乃香ぁ!? あれやっぱ完全に悪役じゃない!? あんた絶対騙されてるって!!」「だ、誰が悪役やとぉ!?」そら、あんだけ変態変態連呼されりゃあこんな顔にもなるわっ!!自分の言ったことを棚に上げて、好き放題言ってんじゃないよ!!「そら、あんだけ変態さん呼ばわりされたら、誰だって怒るえ? 明日菜、ちゃんとごめんなさいせなあかんよ?」「え!? あ、う・・・・・・ええと、その、な、何か、早とちりしてたみたいで、その、ごめんなさいっ」そう言って、明日菜は意外に素直に頭を下げて来た。へぇ、存外素直なところもあるみたいだな。間違いを間違いだと認めるのは、結構難しいことだと思うけど。まぁそれだけ木乃香を信用してるってことか。何はともあれ、向こうが勘違いに気付いてくれたなら、そう目くじらを立てることもないだろう。「・・・・・・はぁ。分かってくれたなら別に構わへんよ。売り言葉に買い言葉で、こっちも熱くなってもうたからな」「あははっ。コタ君、ヤーさんみたいな顔してたで」「うそん。やっぱそんなに目つき悪いんか、俺・・・・・・」正直凹むわぁ・・・・・・。やっぱりやたらそういう人種に絡まれるのも、それが原因だろうか?次からは出来る限り笑顔でいるよう心がけよう。「木乃香、こい・・・・・・この人とどういう関係?」おい、今一瞬こいつって言いかけなかったか?あーそう言えば、原作で「チャラチャラした男は嫌い」って言ってたような・・・・・・。そう考えると、今の俺の外見は、まさに彼女の嫌いなチャラチャラした男になるわけだし、目の敵にもしたくなるか。髪はのばし放題だし、学ランの前ボタンは全開。おまけにシャツもガラものだしな。ふむ、イケメンな見かけがこんな風に災いすることもあるんだな。勉強になったぜ。「うん。犬上 小太郎君。コタ君、こっちは神楽坂 明日菜。ウチのルームメイトやえ」「よろしゅうな」「あ、こちらこそ。で、木乃香いつの間に男子と仲良くなったのよ? 関西弁だし、向こうにいたときの知り合いとか?」おお、明日菜の奴、まだ俺のこと警戒してんな。それだけ木乃香のことを大事にしてるってことか?友達思いだな。さっきの言い合いで急降下だった明日菜株が急上昇中だ。「ううん。知り合うたんは、一週間くらい前やよ」「木乃香のお父んに向こうで世話になっとったさかい、こっちに来たら挨拶くらいしとこ、って思っててん。そしたらたまたま、こっちに来たその日に会うてな」「そうだったんだ。私てっきり・・・・・・」「てっきり何や?(にこり)」「な、何でもありまっせーん・・・・・・」そんなに俺は悪人面か?まぁ、初登場時は敵役だったし、そういう外見というか、オーラが滲み出てるのかもな。中身はこんなナイスガイだというのに!!「それで、結局コタ君は何で女子部に来てたん?」「そ、そうよ!! 本当なら女子部は男子禁制でしょ!?」「まぁ、神楽坂の言う通りなんやけど・・・・・・タカミチに用事があってん」そりゃあ女の子は好きだけど、白い目で見られると分かっててわざわざ女子部に堂々と入ったりはしない。それこそ、本気でピーピングするなら、狗神やら幻術やら使って隠密行動で来るわ。「タカミチて・・・・・・高畑先生のこと?」「ああ、そうや・・・・・・って、しもた。他の生徒の前では、先生てつけろ言われてたんや」本人いないし大丈夫だとは思うけど。「た、高畑先生を呼び捨て!? アンタ、高畑先生と一体どういう関係よ!?」「別に、ただの生徒と先生やで? ちょっと訳あって専属指導員みたいになってもうてるけど、入学式までのことやさかい」つかみかかってきそうな勢いの明日菜に、俺は淡々と事実を告げる。というか明日菜さん、タカミチのことになると目の色変わり過ぎ、ワロタ。「じゃ、じゃあ、なんで呼び捨てなんてしてるのよ!?」「本人がそれでええっちゅうんやから、別にええやろ? 他の生徒の前ではちゃんと先生て呼んでるし」「そういう問題じゃないでしょう!?」「明日菜、少し落ち着かんと。コタ君も困っとるえ?」「え? あ・・・・・・ご、ごめん」木乃香にたしなめられて、しゅんとしてしまう明日菜。何か犬っぽくて可愛いかも。まんまワン子の俺に言われたくは無かろうが。「別に構へん。強いて言うなら、俺が高畑センセの友達に似てるから、っちゅうのが呼び捨てを許可してくれた理由みたいやで?」「そ、そうなの? 高畑先生に、あんたみたいな友達が・・・・・・想像できないわ」「そうけ? 結構性格が正反対の方が、仲が良くなるもんやとウチは思うけどな?」君と明日菜とかね。「ほんなら、コタ君はもう帰るとこなん?」「そうやな。自分らも帰るとこ?」「そうよ。今日は制服の採寸があったんだけど、もう終わっちゃったしね」あー、女子は結構面倒臭いんだよな。バストとかウエストとかメジャーでぐるぐる測られるの。男子みたいにSMLと丈だけ合わせりゃ良いってもんじゃないし。確か、タイも好きなのを選べるんだよな?お洒落にこだわってる奴からすると、遊びがあって良いんだろうが、俺には理解できん。「ねえコタ君。この暇やったりするん?」「ん? まぁ暇といえば、暇やな」今週分の食料の買い出しに、と思ってたけど。それは別に明日でも構わないだろ。「せやったら、ウチらと一緒に買い物行かへん? 向こうでのせっちゃんのこととか、いろいろ聞かせて欲しいし」「別に俺は構へんけど、明す・・・・・・神楽坂はそれでええんか?」あっぶねぇ! 今、明日菜って言いそうになってた!気取られてなきゃいいけど・・・・・・それはさておき、木乃香や明日菜みたいな可愛い女の子を、両手に花状態で買い物なんて、まるで夢のようではないか。むしろお金を払っても良いレベルですぜ!!もっとも、明日菜がそれを良しとしてくれるかは微妙ですがね。「明日菜で良いわよ。噛みそうでしょ? 私の苗字。 木乃香が良いなら、良いんじゃない?」しっかり気取られてたー☆けど、予想に反して動向が許可されたぜ!!今日の俺は何てついてるんだ!!「ただし・・・・・・妙なこと考えたら、お星様にしてやるから、覚悟しときなさい」・・・・・・OH、魔王が見えたぜ。くわばらくわばら。 明日菜の前では、必要以上に木乃香に近づかないようにしておこう。障壁とか狗神とかガチで抜いてダイレクトダメージは流石にきつい。「ほな、行こか?」明日菜の了承が得られると、木乃香は嬉しそうにはにかんで、俺と明日菜の手をそれぞれにとって引っ張った。この世界に来て、二番目に握った女の子の手は、俺が想像してた通り、柔らかくて、とても温かだった。「ちょ、ちょっと、木乃香! そんなに引っ張んないでってば!」「あはは、意外と明日菜の方が木乃香に振り回されとるんやな?」「ほらほら、二人とも早ぉ行かなお店しまってまうえ?」楽しそうな、木乃香の笑みを見てると、それだけで満ち足りた気持ちになって来るから不思議だ。さて、木乃香のご機嫌を損なわないよう、急ぐとしますかね。そう思った矢先。『わんっわんっ!! わんっわんっ!!』「お? メールや」俺の携帯が鳴った。ちなみに料金は、屋敷にいた時に作った俺の口座から引き落とされてる。あ、そこに入ってる金は、もちろん長から依頼された仕事料ですよ。「着メロが犬の鳴き声って、あんた・・・・・・」「あはは、コタ君、名前に犬って入ってるもんな」「ま、まぁそういうことにしといてくれ」俺自身が半分犬なんですとは、言えないしね。おもむろに携帯を開くとそこには見知った名前が表示されていた。『桜咲 刹那』「何やろ? 手合わせの約束はまだ先やったはずやけど・・・・・・」そう思ってメールを開くと、そこには一言だけ、簡潔な文章が刻まれていた。『お嬢様に手を出したら・・・・・・分かってますね?』「どっ、どこや!? どこから見とるんやっ!?」慌てて周囲を見回す俺。そもそも何故俺が木乃香たちと一緒だとバレたっ!?というか、いくら気配を消すのが上手くても、俺の嗅覚には引っかかるはずなのに!!あのバカ、一体どんだけ遠くからお嬢様を見守ってるんだよっ!?「こ、コタ君どないしたん!?」「ちょっと!? 一体何があったのよ!?」「わ、分からん・・・・・・一体どこにおるんや・・・・・・!?」木乃香たちとの買い物に浮かれ気分だった俺は一転、恐怖のどん底に落とされた気分だった。・・・・・・せっちゃん、マジパねぇっす・・・・・・あとがきなんとか日付をまたがずに更新できたんDAZE☆そして最近せっちゃんがオチ担当と化しつつある・・・・・・いや、せっちゃん好きだよ?そして感想板でのせっちゃん人気に吹いた。みんなせっちゃん好き過ぎだろwwwご安心を、せっちゃんの本領発揮はこれからなんDAZE☆あ、あと明日菜出た。続々と女の子が書けてすげぇ楽しい。ちゃんと特徴がつかめてるか不安だけどな!!違和感があったら感想版で教えてね☆さぁ、明日もちゃんと更新できるかにゃ?が、がんばるんDAZE☆それじゃあみんなっ、おやすみー☆ノシ