―――――コンコン中学校の校舎とは思えないほどに重厚な扉を、刹那の白い手が優しくノックする。俺は彼女の半歩後ろに立ち、その様子を眺めていた。というか、想像を絶してでかいんだよ、この校舎・・・・・・。最初は感動してきょろきょろしてたけど、流石に驚き疲れてぐったりですわ。『入ってくれて構わんよ』すぐに内側からそう声が掛った。しゃがれた老人特有の声から、返事をしたのは間違いなくあの人間離れした学園長だろう。・・・・・・実物もあんな風に頭が後ろに尖がってんのか?そんな風に思考を巡らす俺を余所に、刹那はゆっくりと学園長室の扉を開いていく。「失礼します」「うむ、待っておったよ」扉が開いた先、部屋の一番奥にある机に腰掛けた老人は、やはり記憶の通り奇怪な外見をしていた。というか、俺よりよっぽど妖怪臭いわ!! 思わず表情が引き攣ったし!!あれを見て平静でいられるせっちゃんてやっぱり凄いね!!そもそも、あれは本当に人間か? あの後ろに長い頭には、長年詰めこんだ人類の叡智でも詰まってるとでも言うのだろうか?「フォッフォッフォッ、そう堅くならんでも良いぞ。楽にしてくれて構わん」「そ、そらおおきに・・・・・・」どうやら学園長は、俺の引き攣った表情を緊張によるものと勘違いしたらしい。もっとも、俺はそんな繊細なハートなんて持っていない。学園長の傍らには、もう一人お馴染みの顔が立っていて、そのことがまた俺を驚かせていたということもあるが。白いスーツに、年齢不相応に老けた外見。かつて、英雄と謳われたネギの父、サウザンドマスターとともに、魔法世界を駆け抜けた一人。無音券の使い手であり、究極技法、咸卦法を扱う、恐らく麻帆良において最強の一角。高畑・T・タカミチ、その人だった。いや、あんた結構忙しいんじゃなかったか?ネギが来た訳でもないのに、たかだか魔法生徒が来たくらいで狩りだされるような役職じゃないでしょ?しかしながら、その佇まいには感服する。無造作に立っているにもかかわらず、まるで隙がない。だからと言って、好戦的に構えていると言う訳ではない。あたかもそこにいるようで、そうでないような、奇妙な気配の希薄さを感じる。―――――それこそが、咸卦の気を操るために必要な、無念無想の境地に繋がるスタンスだと、この時の俺は知る由もなかった。「桜咲刹那、犬上小太郎両名。関西呪術教会、長の命により、麻帆良に着任いたしました」「よろしゅう頼むわ」「こ、小太郎さん!!」恭しく頭を下げた刹那とは対照的に、片手を軽く上げるだけのノリの軽い挨拶をする俺。流石に刹那が焦っていたが、知ったことか。生前から堅苦しい物言いとか敬語とか苦手なんだよなぁ。部活で先輩からはどやされてたけど、今更直るとは思えないし、直す気もない。そこ、DQNってゆーな。「フォッフォッフォッ、婿殿に聞いておった通りの性格じゃな、小太郎君?」「ん? 何や、おっちゃん、俺のこと何か言うてたんか?」「うむ、元気の良い少年だと言っておったよ。そして・・・・・・どこか、奴に似ておるとも、な」不意に、学園長の表情が、過去を懐かしむような、そんな表情になった。もっとも、それは一瞬のことで、次の瞬間にはいつもの飄々とした、人を食ったような雰囲気を取り戻していたが。「おっちゃんは、俺が誰に似てるて言うてたんや?」「ふむ・・・・・・千の呪文の男を、君は知っておるかな?」「当たり前やろ? おちゃんの親友やったっちゅう、大英雄の話を知らんわけあるかい」というか、それを知らずに今まで裏の社会で過ごしてきたとしたら、俺大分モグリじゃね?「うむ、それもそうじゃの・・・・・・あの悪ガキが大英雄と呼ばれるなぞ、思いもしなかったがのぅ」「・・・・・・なぁ、もしかして俺が似てる誰かいうんは・・・・・・」「ふむ、御察しの通り、千の呪文の男、ナギ・スプリングフィールドのことじゃよ」Σ(゜□゜;)!?マジでか!?そりゃあ、何て光栄な・・・・・・いや、しかしどの辺がだ?俺、あんなに無敵くないよ?それに、ナギには女好き設定とかなかった気がするぞ?アリカ姫一筋だったくない?何て考えを巡らせながら百面相してるうちに、学園長がさくさくと話を次の段階に進めていってしまった。「さて、婿殿からだいたいの事情は聞いていると思うが、二人には有事の際、麻帆良の警備にあたって貰うことになる」「はい、承知しております」「もっとも、君らはまだ小学校を卒業したばかりじゃ。普段は学生として、学園生活を存分に謳歌するんじゃぞ?」「お心遣い、痛み入ります」・・・・・・改めて、せっちゃんすげぇな。いや、俺みたいに一回人生やり直してるってなら、使わないにしても、目上の人に対する口の聞き方を知っていてもさ、不思議じゃ無いじゃん?けどさ、刹那って普通に12歳な訳ですよ。それがあのやり取りって・・・・・・ビビらない?頭悪いとか、本当は嘘じゃね?って思ってしまうが、あれで実は馬鹿レンジャー予備軍なんだよなぁ。「フォッフォッフォッ、刹那君は、小太郎君とは正反対の性格じゃな」「おう。刹那は俺と違うて、出来る娘やからな」何となく、刹那を褒められて胸を張る俺。いや、何か娘が褒められたみたいで嬉しかったんだよ。「さて、君らには入学式までの一ヶ月間、警備員見習いとして研修を受けて貰わなくてはならん」「うげぇっ!? そんな面倒臭いことせなあかんの!?」「小太郎さん・・・・・・いい加減にしないと、尻尾斬り落としますよ?」「・・・・・・な、何でもありませーん・・・・・・」俺の無礼発言連発に、流石のせっちゃんがぶち切れモードだ。俺の耳元で俺にだけ聞こえるように『少し、頭冷やそうか?』とのたまわれた。いや、めちゃくちゃ怖いんですけど!? もう、目のカラーが反転しそうな勢いだぜ!!手合わせのときにその迫力が出せてたら、俺なんかそれだけで縮みあがってましたよ!?と言う訳で、俺はしばらくマナーモード。幻術で見えないとはいえ、12年間付き合ってきた尻尾だ。愛着もある。流石に今更斬り落とされるのは抵抗感がある。っていうか痛いの怖い。「まぁまぁ、刹那君もそれくらいにしといてやりなさい。それはさておき、詳しい話は、このタカミチ君に聞いてくれ」「広域生活指導員の高畑・T・タカミチだ。よろしくね、桜咲君、犬上君」学園長に促されて初めて、タカミチが言葉を発する。こちらもまた、原作通りの飄々とした雰囲気で。「おう、よろしゅうな。えーと・・・・・・タカミチ、でええんか?」原作読んでるときはそういう認識だったからな。下手にボロ出す前に、先手を打っておこう。ただ礼儀知らずなだけ? ほっとけ。「ははっ、他の生徒の前では、きちんと先生を付けて貰えるなら、それで良しとしておこうかな?」おお? 存外簡単に了承されてしまったぞ?聞きしに勝る良い奴だな、タカミチ。まぁ原作でも10歳のネギに名前で呼ばせてたしな。ナギとの生活が長過ぎでフランクなのに慣れちゃってるのかも。そんな俺たちの様子に、刹那は慌てまくりだったが。「し、しかし高畑先生っ」「良いんだよ桜咲君。それに・・・・・・僕も学園長や詠春さんとと同じさ。彼を見ていると、ナギを思い出して懐かしいんだ」そう言って、嬉しそうに顔を綻ばせるタカミチ。んー・・・・・・原作では、目つき以外そんなに小太郎とナギが似てるって印象は無かったんだけどな。まぁ原作の小太郎より俺のアホっぽさが増してるってことかな?・・・・・・全然喜べねぇよ!!(orz伝説の英雄に似てるなんて言われて、悪い気はしないけどね・・・・・・。「詳しい話はまた明日にしよう。長旅で疲れただろう? それぞれに寮の部屋は手配しておいたから、今日はゆっくり休むと良い」荷物はもう届いているはずだからと、タカミチは俺たちにそれぞれ学園から寮までの地図を渡してくれた。こいつはもう本当に良い奴だな。男の俺から見てもいい男だぜ。明日菜の親父趣味を差し引いたって惚れてまうやろ。「重ね重ね、お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えて、今日はこれにて失礼しようかと思いますが」「ふむ、それがよかろうて。刹那君はそうでもないが、小太郎君は寮までそれなりに距離があるからの。くれぐれも迷子にならぬようにの」「あははっ、小学生じゃあるまいし、そんな心配いらへんて」そう言いながら、こっちの世界じゃ既に2回ほど迷子になってますがね・・・・・・。「それでは、失礼します。明日からしばらくご面倒をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いします。学園長、高畑先生」そう言って、刹那は再び、恭しく頭を下げた。なので、俺もそれに習って、今度はきちんとお辞儀をしておく。うん、尻尾とお別れはマジ勘弁。「よろしゅうお願いします」「フォッフォッ、まるで調教師と訓練犬のようじゃな」殊勝な俺の様子に、学園長がそんな冗談を零すと、刹那は何を想像したのか、いつぞやのように顔を真っ赤にしてわたわたしていた。「ちょ、調教師なんて、そそそそそそんなつもりわっ!?」「まぁ、俺がワン子っちゅうのは間違いやないわな・・・・・・」「ははっ、自分で言ってたら世話ないね、小太郎君」「こ、小太郎さんっ!!」「おお怖っ。尻尾斬られたらかなわんから、俺はさっさと退散するわ」そう冗談めかして、俺は学園長室から小走りで出て行った。もちろん、すぐに刹那も出て来たので、俺は彼女を待ってから、一緒に昇降口へと向かった。そして、その道中、案の上彼女に苦言を呈される俺なのでした。「まったく・・・・・・小太郎さんと一緒に目上の人の前に出ると、本当に心臓に悪い」「あははっ、まぁええやん? ちゃんと相手は選んでやっとるで?」「そういう問題じゃありません!!」前に長も言ってたけど、刹那は硬すぎるんだよなぁ。それこそ好きな男でも出来れば少しは砕けてくれそうな気がするが、原作でネギとそんな雰囲気になってる節はなかったしな。まぁ今回はネギも俺同様、同い年になってる可能性もあるし、刹那の性格軟化はそれにお任せする方向で行こう。今の刹那も、からかい甲斐があって楽しいしな。昇降口で靴を履き替えて、俺たちはそれぞれ寮へと向かおうとする。そのときだった。「・・・・・・せっちゃん?」不意に、刹那を呼び止める声が聞こえたのは。いや、もちろん人が接近していることは気が付いていた。けれど、それが知り合いだとは、俺はもちろん、刹那だって思っていなかったのだろう。俺と同じように、慌てて声がした方を振り返っている。そして、その彼女の表情が驚愕に凍りつく。そこにいたのは、紛れもなく、彼女が誰よりも大切だと思っていた存在。刹那が、力を渇望した理由そのものだったのだから。「やっぱり・・・・・・せっちゃんや!」ふんわりとした口調と、暖かくなり始めた風になびく、漆黒の髪。一見して可憐だと、そんな印象を抱かせる少女。俺も見覚えがあるその姿は、そう、間違える筈もない。近衛 木乃香、その人だった。まるで刹那の胸中を表す様に、春風と木々がざわめきを醸し出していた。あとがきど、どうにか今日中に書けたんだぜっ・・・・・・。何故か友人に拉致されて、バイクの荷台に揺られて5時間半。お尻が痛い。あとあさりの味噌汁おいしかったでつ(・ω・)しかし・・・・・久しぶりにまともに話を書いた気がする。相変わらず、本編は進行してないけどね・・・・・・。と、いうわけで、麻帆良編スタートです。あと刹那以外の女の子出た!!このちゃん待ってたよこのちゃん!!中途半端に引いたこと?うん、今は反省してるんDAZE☆と、言うわけで、また次回なんDAZE☆ノシ