『ね、ねぇ小太郎君? あの人は…………?』頭上から俺(小)を見下ろす兄貴を指差し、呆然と問い掛けて来るネギ。俺はかつての…………未だ俺を裏切っていない兄を見つめ目を細める。…………こんときの俺は、あいつが敵に、お袋たちの仇になるなんて思ってもなかったんだがな。『ちょ、ちょっと小太郎!? 何いきなり黙ってんのよ!?』おっと。いかんいかん。感慨に耽って言葉を失っちまってたか。軽く被りを振ってから、俺は改めて明日菜たちに視線を移す。『スマンスマン。ちょっと懐かしゅうなってもうてな。あいつは犬上半蔵言うてな。俺の父親違いの兄貴や』『えぇっ!? こ、小太郎君、お兄さんがいるんだっ!?』俺の説明に驚きの声を上げるネギ。そう言えば、俺の家族関連の話しって、妖怪の親父が居場所不明ってことと、腹違いの妹がいるってこと以外話したことがなかったっけ?『ちょっと待ちなさいよ? た、確か、かすみんの娘さんって、アンタとお父さんが一緒なのよね? でもあのお兄さんって人は、父親が違うってことは…………』今にも頭から煙を噴き出しそうな勢いで、俺の血縁関係を整理しようとしている明日菜。う~ん、なんて唸りながら、人差し指で眉間をとんとんしながら難しい表情を浮かべている。…………まぁ、一般人からしたら訳の分からない家族構成だよな。『まぁ、その辺の家族関係は気にせんで良えで? とりあえず今は、あいつが俺の兄貴ってことだけ覚えとってくれたら良え。ついでに言っとくと、こん時の俺は自分に妹がおるなんて知れへんかったし、親父とは会うたこともあれへんかった。せやから、家族言えるんは、あの兄貴とお袋だけやってん』『そ、そうなの? ま、まぁあんたがそういうなら、深くは考えないことにするわ…………』これ以上考えると、本当に頭がオーバーヒートしそうだったのだろう。明日菜はうんうんなんて頷きながら思考を中断した様子だった。そんな俺たちを余所に(まぁ、向こうは単純に俺の記憶を再生してるだけなんだから当然なんだが…………)、颯爽と木から地面へと降り立つ兄貴。兄貴は両断された符を拾い上げ、しげしげと見つめると俺(小)を一瞥した。「まぁ及第点やな。けど、小鬼相手にこない手こずってたら先が思いやられるで?」やれやれと、肩を竦めて苦笑いまで浮かべる兄貴に、俺(小)はげんなりと肩を落とす。そんな様子を見つめていた明日菜とネギだったんだが、兄貴の台詞を聞き、はっとしたように顔を見合わせていた。『ね、ねぇ? 今お兄さん『こおに』って言わなかった?』『え、ええ。ボクもそう聞こえましたけど…………』半笑いのような、微妙な表情で見つめ合う2人に、俺は軽く説明をしてやることにする。『聞き間違いやないで? 普通の鬼言うたら身長が3mくらいあって当然や。俺自身5m強のやつと闘うたことあるし、鬼神なんて言われとるやつは数10mあるらしいで?』『す、すうじゅっ!? はぁっ!?』『そ、それって、ちょっとしたビルと同じくらい大きいってこと!?』その瞬間、目を白黒させる2人。いや驚かれるとは思ってたけど、まさかここまで良い反応が返ってくるとは…………。つーか、原作通りにことが進んだら、お前らこれからそういう類の化け物としょっちゅうやり合うことになるからね?『まぁその辺の話はまた今度や。ほれ、良い加減集中して事の成り行きを見とき』そう促された2人は、未だ驚愕が冷めない様子だったが、本来の目的のこともあり仕方なし、といった体であれやこれやと話す俺(小)と兄貴へ視線を戻すのだった。「つか一体いつの間に護符なんて覚えてん? わい、護符の前に自前の障壁張れるよう特訓せえて言わへんかったか?」―――――むぎゅう。「ひたっ!? ひはははっ!!!?」ジト目になりながら、俺(小)の頬をぎゅうっと摘まむ兄貴。前に木乃香と話してるときに思い出してたけど、この頃の兄貴って、半ば俺の頬の感触を愉しんでる感があったからな。こっちは良い迷惑だったけども…………まぁ、悪い思い出ではない。少なくともこの時、俺はあいつのことを誰よりも信頼していた。それは違えようのない事実だから。何とか兄貴の手を振りほどいた俺(小)は、赤くなった頬を擦りながら、若干涙目になりつつも兄貴を睨み返す。「せ、せやかてしゃあないやんっ!? 障壁の張り方なんてイマイチ分かれへんし、兄貴の稽古は激しなるし、俺は俺なりに考えてんてっ!!」「だあほ」―――――むぎゅう。「ひははははっ!!!?」抜け出したのも束の間、次の瞬間再び兄貴に頬を摘ままれて悲鳴を上げる俺(小)。「自分なりに考えたってとこは評価したる。けどな? 護符や結界は無限に使えへんやろ? 戦闘中に使いきったらどないすんねん?」摘まんだ俺(小)の頬を離すと、今度は諭すような口調でそう問いかけて来る兄貴。俺(小)は再び頬を擦ると、胸を張ってこう答えた。「使いきる前に敵を倒したらええねん!!」「だあほっ!!!!」―――――むぎゅぎゅう~~~~!!!!「ひははははははっ!!!? は、はにひっ!? ひはいっ!! はひへひはいっ!!!!」さっきよりもかなり強く頬を摘ままれて、必死に兄貴へと痛みを訴える俺(小)。…………この頃の兄貴の攻撃って、予備動作なしで跳んで来るから避けられなかったしなぁ。アレ、痛いんだよなぁ。何だか見てるこっちの頬まで思い出し痛いんだけど…………。頬を摘ままれ涙目で暴れる俺(小)を見つめながら、俺は何となく自分の右頬を擦っていた。『ぷっ…………何か、今の小太郎とは偉い違いね?』『あはっ、そうですね。何だかお兄さんの方がボクらの知ってる小太郎君っぽいかも。さすが兄弟だね?』『…………』微笑ましそうに俺(小)たちを見つめ、そんな言葉を漏らすネギと明日菜。そんな彼女たちに、俺は返す言葉が見つからなかった。何せ、少なくともあそこでじゃれ合ってる俺(小)は、いつか兄のうようになりたいと願っていたが、今の俺は…………。そんな風に、この後2人に見せるであろう光景を思い出して、俺はどうにも言葉を詰まらせてしまっていたのだ。「使い切る前に倒せる相手ばっかとは限らへんやろ? つーか、今のわいでさえ自分の護符くらいなら一撃で全部無効や」「うそん!? さ、30枚くらい用意してんねんでっ!?」俺が何と切り返したものか迷っている内に、再生され続ける俺の記憶。頬を解放された俺(小)が上げた驚きの声に、俺はこの後の事を思い出して、先程とは違う意味で言葉を失っていた。「30枚…………良うもそんだけ用意出来たな? まぁ、思てたより多いけど、そんくらいなら何とかなるわ」「えぇ~~~~? さすがに兄貴、それは見え張り過ぎとちゃうか?」疑いの視線を向ける俺(小)に、兄貴はぴくりと眉を跳ねさせる。「…………良えやろ。そこまで疑うんやったら証拠を見せたるわ。その護符全部大事に持っとけよ?」すっと、俺(小)から離れ、一足一刀ほどの間合いを取る兄貴。そんな兄貴をぽかんと見つめながらも、言われた通りに持っていた護符を、全て胸の辺りで掲げて持つ俺(小)。「障壁貫通の術式…………槍持っとる武神いうたら、メジャーなんは毘沙門天辺りやんな」ぼそぼそと呟きながら、兄は右手の人差指と中指をピンっと伸ばした状態にし、その伸ばした指先で右足のつま先にそっと触れた。そして…………。「オン ヴィラ マンダヤ ソワカ」先程口にした神を代表する真言を唱え、すうっ、と指先で右足を一撫でする。たったそれだけの動作で、兄の右足には相当な量の魔力が収束していた。先程俺が広げた魔法陣同様、兄貴の右足はうすぼんやりとした輝きを放っている。『ね、ねぇ小太郎君。あれってさっき小太郎君が使ってたのと同じ…………』『ああ。神霊との契約型術式やな。ネギは東洋系の神仏にはあんま詳しくあれへんやろうから付けたしとくけど、あれかなり上位の武神と契約してんねんで?』『う、うわぁ…………お、陰陽師ってめちゃくちゃだね…………』…………断っておくが、むちゃくちゃなのは陰陽師全般ではなく兄貴です。「ほな行くで小太郎? 準備は良えか?」「おう!! いつでも来ぃ!!」問い掛ける兄に対して意気揚々と答える俺(小)。あまりに浅はかなかつての自分を見て、俺は今すぐ過去に戻ってこいつの頭を殴ってやりたくなった。…………兄貴の足に収束してる魔力でヤバさに気付けよ。俺がそんなことを考えた、まさに次の瞬間。「せぇいっ!!!!」―――――パパパパパッ!!渾身の力で放たれる兄貴の蹴り。そして、断続して響く機関銃の発射音に似た音。無論、それは俺(小)の護符によって貼られた障壁が連続して砕けていく音だ。音が響いたのは僅か1秒にも満たぬ時間。しかしそれだけの時間で、俺(小)の持つ護符はその全てが弾け飛んでいた。『す、凄い!! あれだけの障壁が一瞬で…………!!』俺の隣で感嘆の声を上げるネギ。しかし次の瞬間。「あ」「へ?」あまりに場にそぐわない兄貴の間の抜けた声。そしてそれに対して発せられた俺の疑問の声。その直後…………。―――――ごきゃんっ!!!!「ぎゃひんっっ!!!!!?」兄貴の蹴りによって、見事に顎を打ち抜かれた俺(小)は、まるで空き缶のように明後日の方角へと吹き飛ばされて行くのだった。合掌。『『ちょ、ちょっとーーーーーっ!!!?』』傍らに居た2人が、今のとんでも衝撃映像にそんな悲鳴を上げる。その瞬間、俺たちが見えていた光景は何もない暗闇に支配されるのだった。まぁ、当の本人が意識を失ったんだから、記憶の再生が止まるのは当然っちゃ当然だわな…………。『ちょっと小太郎!? これどういうことよっ!? いきなり森の中にいると思ったら、今度は真っ暗になっちゃったじゃない!?』『いや、何度も言うたやん。これは俺の記憶やって。兄貴の蹴りで俺が気ぃ失うてもうたから、一旦再生が止まってもうただけや』慌てて尋ねて来る明日菜に、あくまでも冷静にそう返す俺。表面には出していないが、先程の頬と同様、さっきから痛くもないはずの顎が何となく痛い。…………追想ってこんな痛い感じのモンだったんだな。まぁ、場面選んで無いってのも問題なんだろうけど。『ちっと待っとき。すぐに次の場面になるさかい』俺が2人に断ったその直後。辺り一面黒一色だった風景が、伝統的な木造建築へと姿を変えた。『わ、わっ!?』『あ、アスナさんってば…………』そのことに驚きの声を上げ、きょろきょろと周囲を見回す明日菜。そんな彼女を、ネギは苦笑いを浮かべて見つめるばかりだった。昔ながら、と言うべきか、いかにも片田舎の一軒家という風情な内葬を持つこの建物。言うまでも無く俺がかつて暮らしていた家だ。土間はもちろん、囲炉裏まである徹底した田舎建築。つか、築何十年ですかっていうギネス級な建物だったりする。目を移すと居間には気を失っている俺(小)が寝かされていて、そんな俺(小)の顎に治癒魔法をかける若い女性と、心配そうに覗き込む兄貴の姿があった。『小太郎、あの女の人って…………』俺に魔法を掛けている女性を指差して、明日菜が尋ねて来る。その問いに、俺はすぐには答えず、一端明日菜から視線を移して女性を見つめる。水干に緋袴という、一見神職につく女性とも見受けられる服装に、腰ほどまで伸びた長い黒髪。黒髪は襟足のところで符によって括られていて、有事の際に使用する予備の魔力を溜めている。やや釣り目気味な切れ長な双眸で、魔法をかける対象である俺(小)をじっと見つめるその姿には慈愛が溢れている。記憶の中に、今も鮮明に残るその姿を、改めて目蓋に焼き付けながら、俺はようやく、彼女の名を口にした。『犬上 千代。察しの通り、俺のお袋や』俺がそう告げたのと同時、お袋は治療を終えたのか、すっと俺(小)の顎に翳していた手を退ける。そして次の瞬間、身じろぎしながら俺(小)がゆっくりと目を覚ました。「あたたた…………ん? あ、あれ? 母ちゃん!? 帰ってきてたんか!?」目を覚ました途端、視界にお袋の姿を認めて飛び上がる俺(小)。そんな俺に、お袋と兄貴は呆れたように溜息を零した。「な? お母んの言うて通り、何も心配いらへんかったやろ?」「ああ。心配して損したわ」挙句の果てに、2人して溜息までつきだす始末。さすがの俺(小)も、これには頬を膨らませて抗議の声を上げた。「な、何やねん2人とも!! さすがに俺かて顎をあんだけ思っくそ蹴られたら怪我くらいするで!?」「それはそうやけど…………ウチとあん人の子やし、そうそう大事になることはあれへんて。自分のお父ん、鬼神の魔力砲の直撃喰ろうてもピンピンしててんで?」「はぁ!? 俺の親父どないな化けモンやねん!?」「はははっ!! さ、さすがは狗族の長やんな?」親父の事を懐かしそうに語るお袋に、驚嘆の声を零す俺。そんな俺の様子を可笑しそうに笑う兄貴。そこには、普通の家庭となんら変わりない、穏やで優しい空気が存在していた。『…………何か、幸せそうね。小太郎』『…………ええ。ボクも何だか、ウェールズのお姉ちゃんに会いたくなっちゃいました』俺(小)の一家団欒の様子を目の当たりにして、微笑ましそうにはにかむネギと明日菜。…………この分なら、俺が見せたかったもの、伝えたかったものは十分伝わっただろう。そう確信した俺は、右の指をパチンと鳴らして、記憶の再生をそこで打ち切った。『『!?』』先程と同じ、闇に包まれた世界を見回して、驚愕の表情を浮かべるネギと明日菜。彼女たちは俺の方へと振り返り、しきりに首を傾げていた。『え、ええと、どうして記憶の再生を止めたの?』『そうよ!! まだ肝心な部分を見てないんじゃないの? とゆーか、魔法のこと考えなかったら、どこにでも有りそうな家族風景だったって言うか…………』『それで良いんや』『『???』』明日菜の言葉を拾い上げた俺に、再び顔いっぱいに疑問符を浮かべる2人。そんな2人に、俺は真剣な表情を作ってこう話を切り出した。『今明日菜が言うた通り、俺は魔法のことや、親父が人間やあれへんことを覗けば、普通のありきたりな、せやけど幸せな暮らしをしててん』仕事で家を空けることは多かったが、まるで包み込むような優しさで見守ってくれていたお袋。口も性格も悪く、何かと大人げはないが、それでも俺のためにと、自分の稽古の時間を割いてまで鍛えてくれた兄。そんな2人の家族を持ち、俺は不自由でも、みたされた暮らしを送っていた。しかし…………。『あの幸せな空気が、たった数時間で壊されて、しかも二度と戻って来ぃひんかった言うたら、自分らはどう思う?』『『!!!?』』俺の言葉に、2人は暗闇の中、はっきりと目を見開いた。そう、俺が伝えたかったこと、それは『俺はあくまでも、幸せな生活の中にいた』という事実。そんな幸せな家庭の中に、ただ一つ『魔法』というファクターがあっただけで、俺の生活はその姿を一変させてしまった。悪戯に不安や恐怖を煽るつもりは無いが、それでも俺はどうしても2人にそのリスクを知っていて欲しかったのだ。だからこそ、あえて核心であるあの日…………元服を迎えた兄貴が、村を焼き払った忌まわしい記憶をすぐにみせず、こうしてかつて幸せだった日々の記憶を見せた。しかしここから先は…………魔法を知る彼女たちでさえ、決してしることのない世界になる。『もっかいだけ確認や。こっから先、見せる光景はかなりグロいもん…………いや、言い繕うんは卑怯やんな? はっきり言うてしまえば、人死にも出てるような光景や。それでも、自分らにはこっから先、俺の記憶を覗く覚悟があるか?』『『…………(ゴクッ)』』『死』という言葉の重みを受け止め、生唾を呑み込む少女2人。ここで引き下がる方が、きっと彼女たちにとって幸せな選択なのかもしれない。それでも俺は、この先彼女たちが首を横に振ることはないであろうと、そんな確信めいた予感がしていた。…………遥か彼方にある父の背を追うことを、きっとネギは止められない。…………そして明日菜もまた、自らの知らぬ理不尽を、見て見ぬ振りなど出来ようはずがない。そんな彼女たちだからこそ、俺は敢えて、自らの記憶を見せようと思ったのだから。やがて、彼女たちはお互いの顔を見合わせると、真剣な表情を浮かべて俺へと向き直った。『小太郎君』まず最初最初に口を開いたのはネギ。俺を見上げ、真っ直ぐにこちらの目を見据えながら、彼女はまるで選ぶように、ぽつりぽつりと己の心を言葉にする。『正直、今ボクが考えてるのは、覚悟、なんて大層なものじゃないと思う。きっと子供染みた、ただ知りたいって好奇心なのかも知れない。けど…………』そこで一端言葉を区切ると、ネギは両目をゆっくりと閉じ、そして息を吸う。『ボクはやっぱり、小太郎君の過去を知りたい。小太郎君は日本で出来た初めての友達だし。それに…………ボクは強くなりたい。強くならなくちゃいけない理由がある。きっとそれは、小太郎君も同じだと思うから。小太郎君がそんなにも強くなれた理由を知りたいんだ』再び目を開いた彼女は、はっきりと己の心を口にした。『私も、大体ネギとおんなじかな?』ネギの言葉を待っていたように、彼女の後に続けて、今度は明日菜がそう口を開く。『私も正直、覚悟とか、そう言うのは良く分かんない。けどさ、癪だし認めたくないけど、やっぱあんたのことは友達だって思っちゃってんのよねぇ…………』自嘲気に笑みを浮かべながら、そんなことを口にする明日菜。しかし次の瞬間には、先程と同じ真摯な顔へと戻っていた。そして…………。『友達のことは、そりゃ知りたいわよ。特にあんたみたいに、普段から何考えてるか分かんないような奴のはなおさら。ましてやそれが、命に関わるようなことならね。だから小太郎。私に…………』『ボクに…………』『『―――――君(あんた)の過去を、見せて』』重なった2人の少女の声は真剣そのもので、その言葉を、肯定を予測していた筈の俺でさえ、思わず息を呑んでしまった。…………示し合わせてた訳でもないだろうに、やっぱ血筋のせいかね?阿吽の呼吸とも言うべき2人のやり取りに、俺は小さく笑みを浮かべた。『自分らみたいな美人にそこまで言われたら、さすがに断れへんな…………良えやろ。俺の過去、お前らに見せたる』そして答えるは了承の言葉。2人の言葉は、決して覚悟と呼べるものではなかったかが、それでも俺へ向けられた絆のような感情は、しっかりと感じられたから。ならば、信頼に対し信頼で返すのが漢気というものだろう。『じゃあ行くで? 俺の過去、俺が力を求めたその切っ掛けの日に』―――――パチンッ…………。先程記憶の再生を止めた時と同様に、右の指をスナップさせる俺。その瞬間。―――――世界は紅蓮の炎に埋め尽くされた。