ひゅんっ俺の頭蓋を打ち抜かんと迫る竹刀を、寸でのところで払う。そのまま距離をつめてくる相手を、真正面から受け止め、相手の速度が無に帰すその瞬間、全霊をもって押し返した。案の定、たたらを踏んで体勢を崩した相手に、俺は内心で唇を吊り上げた。貰った、と、そう確信した。敵を押し返した際に、振り抜いた両の腕は、既に己の頭上高く掲げられている。無論、己の得物たる3尺9寸の竹刀と共に。相手が体勢を立て直すより数瞬早く、俺は自らの得物を、今度は敵の脳天目掛けて振り下ろす。しかし、相手とて素人ではない。俺が振り下ろした得物を防がんと、不安定な体勢のまま頭上へと振り抜かれる敵の得物。だがしかし、それすらも想定の範疇。今度は実際に、唇が釣り上がった。その“返し”を待っていた!!無造作に振り抜かれる迎撃は、それ故に、全力の一合。つまり、二の太刀を無視した、ただ一の太刀のみの剣戟。ならば道理、その一撃を抑えれば、この打ち合いの雌雄は決する。振り下ろした自らの両の腕を、敵の得物と衝突する寸前、右へと軌道をずらす。正面に振り下ろされる一撃が、斜面に振り下ろされる一撃へと姿を変える。その瞬間、敵もこちらの狙いを看破したことだろう。しかし、既に遅い。俺の得物が捕らえたのは、敵が無造作に振り上げた両腕の下。がら空きになった“胴”。迎撃のため、重心を固定した敵は、もはやその一撃をかわす術を持たない。吸い込まれるようにして、俺が放った一撃は、敵の右腹部へと直撃した。ぱぁんっ「どぉおおおおおおおおおおっっ!!」右腹部へ振り下ろした竹刀を、敵の“胴”に当て、打ち抜く“逆胴”。往々にして、正当でないとされるこの技を、しかしこの瞬間、俺は正当とされる形で打ち放った。“体”を左へと裁き、地を這わせるように、両の足を擦って、敵の攻撃範囲外へと“間合い”を取る。決して“気”と“眼”は敵から逸らさぬまま。俺の“残心”を見届けると同時に、3人の審判が一斉に、赤い旗を振り上げた。「胴有り!!」俺は改心の笑みを浮かべ、自らの勝利を噛み締めた。部活でかいた汗を、シャワーで流すと、俺はすぐに道場を飛び出した。目指すのは駅前の本屋。そう、俺は今日、この瞬間ばかりを夢に描いて生き抜いてきた。発売日には已むに已まれぬ事情から、泣く泣くあきらめた「ネギま!」の28巻。昨日が小遣い日だった俺は、それを購入するため、目下爆走しているのだった。え?俺が何者かだって? 特別重要な気はしないのだが、答えておかないと話が進みそうに無いから、手短に答えておくYO☆大島 孝太 18歳 市内の公立進学校3年 特技 剣道 一応去年は県大会の決勝まで粘った。趣味 自宅警備。以上、俺スペックでした。ん? 最初のシリアスなバトル展開は何? さぁ? 筆者がいきなりこんな電波だったりメタ発言満載だと、読者に引かれるんじゃないかって、ビビッてたんじゃない?と、そんなわけで、日々文武両道に励む俺だが、決して譲れぬものが一つ。もう皆さん分かっているとは思うが、俺はオタクなのであった!!(ばばん!!)え? そんな自慢げにいうことじゃない? うん、分かってる。ちょっと言ってみたかっただけ。一応部活で必死にやって来た身分だし、中二病とか邪気眼設定はありません。・・・・・・好きだけどもね!!まぁ、そんな俺が目下、激ハマリしているのが、さっきも言った「ネギま!」だ。さっきも言った通り、中二病や邪気眼大好き人の俺は、ああ言った学園ラブコメと、シリアスバトルの同居にめちゃくちゃ弱いのだ。生まれ変わったら「ネギま!」の世界の住人になりたいくらいに!しばしば二次創作だと、「ネギま!」の世界に転生してしまった主人公は、ネギと距離を置いて死亡フラグを回避する選択をしているけど、俺は違うね!むしろ積極的に関わって、一緒にネギたちと成長していくことを選ぶね!!命の危険? そんなものくそ喰らえだ。 人生は楽しまなきゃ損だろ? 命すら、そのための道具だと思ってる俺にとって、死亡フラグは避けるものじゃなくて、正面からへし折るものなのだ!もちろん、自分の考え方が若さ故の無鉄砲さだって言うのも分かっているし、平穏に生きられることがどれだけ尊いだってことも分かってる。それでも、俺はそのぬるま湯に漬かったみたいな生き方に否を唱えたいのだ。それは俺に流れる武人としての血によるものなのか、単純に、俺がガキだからなのか、どちらの理由によるものかは分からない。それでも、俺は自身を練磨して、命を削りあう生き方をしている「ネギま!」の登場人物達に共感を覚え、そして共に歩みたいと思う。ま、全て妄想に過ぎず、それを実現する術なんて、この世には存在しないのだが。駅前に出るために、俺は視界に飛び込んできた交差点を、走り抜けようと更に速度を上げた。信号も確認。よし、青信号。一気に横断歩道を駆け抜けようと道路に飛び出し、俺の意識は闇に飲み込まれた。信号を無視して真横から突っ込んできた大型トラック。その無慈悲な走る凶器によって、俺の短い生涯は、一瞬で幕を閉じたのだ。「おんぎゃあああああああああっ!!!!!!!!!!!!!(ってなんじゃそりゃああああああああああああ!!!!!!!!!!)」あまりの超展開に、思わず俺は叫んでいた。いや、叫んだつもりだった。だというのに、俺の口から飛び出したのは、まるで言葉になっていない、ただの泣き声だった。それどころか、四肢に力も入らないし、五感の全てがぼんやりしている。今まで感じたことのない感覚に、俺は再び困惑する。ここはどこだ? 俺はいったいどうなった?鈍くはなっているものの、感覚があるところを見ると、どうやら生きてはいるらしい。しかしながら、以前として自分の置かれている状況は見えてこない。迷走する思考の渦に埋没しようとしていると、不意に何かに包みこまれた。温かく、優しく、懐かしい。 そんな温もりに抱かれたせいか、急激に睡魔が押し寄せてきた。それに抗う術を、今の俺は持っておらず、数秒とせずに、俺の意識は再び闇に落ちて行った。この時の俺は知る由もなかった。自らの願いが、思ってもみなかった形で実現していたということに・・・・・・。皆さん、こんばんわ、初めまして、お久しぶりです。さくらいらくさと申します。まず、まえがきから、ここまで読んでくださった皆様方に心からのお礼を申し上げたいと思います。さて、今回の作品、多くの方が思われたことと思います。「ドコがネギまSSなんだよ!?」と、そう突っ込まれたに違いありません。まことにその通りでございます。作者の力量不足により、ネギま的展開は次話よりとなっております。こんな作者に、もうしばらく付き合ってくださると言う心優しい皆様、是非、次話のあとがきで、またお会いしましょう。草々