一晩明けて妙にすっきりした俺は、早速手に入れたアイテムの効果を確かめるため、近場のダンジョンへ行ってみることにした。
勿論、一人でいくのは不安だが、初心者用の1階程度なら大丈夫だと思ったからであって。
そこで準備中に攻撃用の薬が尽きそうだと気づいたのだった。
なお薬の概要は麻痺薬1、睡眠薬2、傷薬4、毒治療薬6。これが全てである。
「そういえば換金も済ませないとなぁ」
とは言うものの、換金できそうなアイテムはほとんどが雀の涙のようなもので。
うーむ、と手に嵌めた銀の指輪とガラスのナイフを見つめること暫し。
確かめてから!とそんなことを思いながら、タウンマップを動かし、宿近くの薬屋を見つける。
身支度をして、向かうことにした。
* * *
『毒薬60G』
『麻痺薬50G』
『睡眠薬60G』
『火炎瓶80G』
『硫酸170G』
―――高すぎる。
最初にその薬屋に入って思ったのはそんなことだった。
「ちょっと待てよ。なんでこれがこんなに高いんだ?」
暴利である。特にドルーグの信仰を得ている俺にはその薬の相場がわかるのであって。
勿論、わかるのは売却価格、つまり仕入れ値ではあるのだが、流石に仕入れ値1Gとか高くても10Gはいかないアイテムを10倍以上で売るのはと文句も言いたくなる。
「うちは適正だよ」
「適正?これが?」
なおも問い詰めると、薬屋の販売員はふぅ、と溜息を吐いて、
「そうとも。大体こんな危ないもの、なんだって欲しがるんですか?
勿論、お客さんが真っ当に生きていることはわかりますがね」
そう言って、ひし型にカットされた透明な石を俺に見せた。
その石は薬屋の手から宙に浮かんでおり、微かに輝きを放っている。
某RPGゲームのクリスタルのようだと思いつつ。
なんだろう、と鑑定を発動。
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それ は ☆アライメント判断石であることが完全に判明した。
それは特殊な宝石だ。
それは対象者のアライメントを判断できる。
もし店で売れば 400G ぐらいになるだろう
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ああ、成程。これが前にルーエルが言っていたやつなのだな、と思うこと暫し。
もしかしてこれ、カルマが低いとまともに店で買い物することすらできなくなるんじゃないか。と少々恐々したりして。
「そんなの迷宮で使うに決まってるじゃないか」
俺がそう答えると、薬屋はちょっと驚いたような顔をして、
「探索者?お嬢さんが?」
「そうだよ」
「やめとけやめとけ。あんな物騒なところにいくもんじゃないよ。そりゃ薬があれば多少はなんとかなるでしょうが……うーむ一つぐらい…いや、」
薬屋は少し考え込むようにして、
「……いや、やっぱ駄目だな。お嬢さん、傷薬とかなら適正な値段です。そいつを買っていったらどうです?」
『傷薬8G』
『毒治療薬12G』
こっちもちょっと高いが、確かに暴利というわけでもないなと頷く。って、
「やっぱ暴利なんじゃないですか」
「おっと、口が滑った」
苦笑する販売員を苦々しげに睨みつつ、
「もういいです。コマンドタウンマップ」
地図を開き、
「むくれないでくださいよ、お嬢さん。ここではどの店も全部この価格です。この都市の管理者がそう決めていますからね」
その言葉に、えっ、と俺は地図から薬屋に目を移す。
「お嬢さんが本当に探索者だって言うならまず*ギルド*に入ってからです。
そうすれば本当の適正価格で入手できますよ。もっとも……」
彼は俺をじろじろと見て、
「やっぱ真っ当に生きるべきだと思いますけどね」
余計なお世話だ、と思いつつ、他の薬屋に行ってはみたものの、最初の薬屋とまったく同じ値段であって。
ぶっちゃけ買うのも癪だったので、ご飯の用意を済ませて、地図を見ながら近場の迷宮に向かうことにした。
かっぽかっぽと馬のロシナンテの手綱を握りながら荷馬車に揺られること暫し。
そういやあの時はルミウスが―――なんてことを考えると暗くなるので何も考えないことにする。
それにしても大人しい馬だ。ロシナンテを見てそう思う。
しかし主人が変わったら何か反応があるのではと思うのだけど、特に変化はない気がする。
馬が止まる。目的地に着いたのだ。
馬から降りて、迷宮へと向かう。
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ここ は 初めの洞窟です。
この迷宮 は 既に踏破済みです。それでも構いませんか?
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ちょっと気になって俺は振り返ったが、ロシナンテはじっとそこに佇んでいる。
やっぱり奇妙だと思いながら、俺は洞窟の中へと入り込んだ。
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あなた は 暗い迷宮の中へと足を踏み入れた。
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迷宮世界
暗くて中は何も見えない。
俺はバックパックからランタンを取り出し、上に軽く放り投げる。
ほうら明るくなった。
そんなことを思いながら足を進め、程なくして階段を発見。
踏破済みだからなのか敵に出会うことはなかった。
勿論、目ぼしいアイテムも見つけることはできなかったが、
「鑑定」
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それ は いい感じのほうきであることが完全に判明した。
それは掃除道具だ。
もし店で売れば 1Gと34S ぐらいになるだろう。
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こういう多少の雑貨は落ちているのだった。
回収し、敵も見当たらないのでそのまま階段を降りる。
そのまま二階を探索。
相変わらず敵は見当たらない―――と、そこで地面を蹴るような音が耳に届いた。
ん、と見れば一匹のわんこ。
それが牙を剥き出しながらこちらへと駆け寄ってくる。
「えいっ」
ちょっと怖かったので、そのままナイフを投擲。
しかしナイフはわんこから外れ、地面へと突き刺さる。
ちっと心の中で舌打ちするものの、すぐ様手元にナイフが出現。再度投擲する。
「ギャンッ」
悲鳴を上げるわんこ。見事命中したナイフは一瞬スパーク。
――よしっ!
わんこはびくびくと身体を震わせ、足が止まる。
おお。
これが雷属性かと感心しつつも、既に新たなナイフが手に握られており、そのまま三投目。
再度命中したナイフが再びスパークすると、*シュー*と蒸気が噴出し始めた。
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☆透き通ったリターニングスローナイフ『エンジェルモメント』(1d20)(11)
投擲用の短剣だ
それは硝子で作られている
それは炎では燃えない
それは投げた後手元に戻る(100%)
それは武器として扱うことができる(1d20 貫通 15%)
それは攻撃修正に11を加え、ダメージを0増加させる
それは電撃属性の追加ダメージを与える***
それは魅力を維持する
それは裁縫の技能を下げる***
それは音への耐性を授ける**
それは速度を4上昇させる
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俺はナイフを見ながら微笑んだ。
これは強いかもしれない。
* * *
さて。
再び下への階段を発見。敵はさっきの野犬以降、現れない。
「も、もう一階ぐらいなら」
どこかで、まだいけるは危ない、というフレーズが思い出されたものの、気にせず降りることにする。
勿論、指輪をまだ試してもいないし、踏破済みということでボスが現れないという安心要素もある。
ちょっと猫娘のことを考えたが、あんな運の悪いことは続けて起こることはない、その筈だ。
ぶっちゃけ不安で心細くなったものの、ええいと気を引き締める。
*ザリッ*
砂を噛む音。
見れば剣を構えた小人――靴を履いてるからホビットではない――がこちらへと走り込んで来るのが見えた。
右手をかざし、指輪へと意識を向ける。
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☆シルバーリングフォースアロー『影に潜む一家』
指にはめる輪だ
それは白銀で作られている
それは炎では燃えない
それは魔法フォースアローを秘めている(1h1)[最大3発]
それは運勢を維持する
それは旅の熟練をあげる*
それは体力回復を強化する**
それは暗黒の耐性を授ける**
それは呪いの言葉から保護する*
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指輪をはめた人差し指が熱くなってくるのを感じる。
「フォースアロー」
瞬間、人差し指から何かエネルギーのようなものが飛び出すのを感じた。
紫色の光が迸り、光は一直線に小人へと向かっていく。
「ぶばっ」
命中した瞬間、奇妙な声を小人があげた。
光はその小人の身体を突き抜けると、そのまま地面に当たり、消滅する。
小人は仰向けに倒れた。そして*シュー*と蒸気。
「おおおおお」
テンション上がった。
なんと言っても最初に見た魔法はあの黒髪のナーガさんが初めてなのだ。
そしてその魔法を自分が使っているというのはなんとも感慨深いものがあって。
「よし!」
俺は再び獲物を探すことにした。
今宵の俺は血に飢えている。
三層目は一層、二層と違い、敵がまだ結構残っていた。
段々とナイフ投げのコツのようなものを掴み、指輪の魔法にテンションを上げる。
手に入れた装備の強さを堪能しつつ、うろつき回ること暫し。
三層目は結構探索不足だったのか、それなりの防具を見つけることができた。
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鉄の軽鎧 [2,10]
軽い鎧だ
それは鉄で出来ている
それは炎では燃えない
それは火炎への耐性を授ける*
それはDVを2あげ、PVを10上昇させる
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いやまぁぶっちゃけ使わないんだけど。
流石に今着ている『さようなら現世』の銘からは離れたくはあるのだが。
とりあえず幾つかの使えない武具やガラクタ。それに貴重な麻痺薬を回収し、再び階段。
「も、もう一階ぐらいなら」
そう一人ごち。とは言え、不安も流石に大きくなってきて。
「よし!」
俺は階段を見つめ、
「おうちに帰ろう」
そのままくるりと身を翻し、入り口へと戻ることにした。
後書き
もう一層進んでたら面白い展開になりそうだったんだけどえーじ(サイコロ)が嫌がるので仕方ないね。
次で二章は終了の予定です。
追伸:名も無き@は呟いた「こんなに難しかったかなぁ……」