「それじゃ開けるよ」
ルミウスが鎮座された大きな宝箱に手をかけた。
箱には装飾がしてあり、金の模様が描かれている。その豪華さは中に入ってるものをいっそう期待させるものであって。
箱は特に音も立てずに*パカリ*と開いた。
トーレルが覗き込むようにつま先立った。
「どうだ?」 ベレスの声も若干興奮しているように聞こえた。
箱の中には銀白色の塊と、先が針のように尖った透明な短剣、蛇の皮のような模様が表面に張られた丸い盾、
それに加え幾つかの金貨が入ってるのが見て取れた。
「おお」
トーレルが感嘆めいた吐息を漏らす。
ルミウスは空中になにやら指を滑らせると、不意に手元から皮袋が出現。
その皮袋に金貨を入れ始めた。
「全部で43Gですね。この前のより20Gも多いです」
「おお。ってぇことはこれらのアイテムも期待できそうだな」
ベレスが愉しげに言った。
「前回は何が出たの?」
「弓と矢ですね。前回の主は弓使いだったもので。あっちもこっちほどじゃないにしろ苦労はしたんですが」
「その話なら町出る前に話しといたぜ。な」
頷くと、何故か俺のほうに手を差し出した。
差し出された手には銀白色のリングが乗せられている。
受け取りつつもはて、と頭を捻ること暫し。
「売り飛ばした箱の中身なんざどうでもいいわい」
トーレルが興奮したような声で続けた。
「そんなことよりも早くこの鉱石を鑑定してくれんか?」
「今回は鑑定屋どもに儲けを差っ引かれなくてすみますね」
「えーじちゃん頼むぜ」
ああ、そうだったと自分の技能を思い出し、
「鑑定」
では指輪から、とスキルを発動させた。
迷宮世界
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アイテムの正体を看破できなかった。より上位の鑑定、もしくは再びスキルを実行する必要がある
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初っ端から躓きつつも、他のアイテムは無事鑑定することができた。
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それ は 玉鋼 であることが完全に判明した。
腕の良い鍛冶屋なら質の良い武器を作ることができる。
もし店で売れば 247G ぐらいになるだろう
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それ は ☆転生せし皮の丸型盾『獣のような皇女』[2,5]であることが完全に判明した。
丸い盾だ
それは蛇の皮で作られている
それはDVを2あげ、PVを5上昇させる
それは筋力を維持する
それは体力を維持する
それは感覚を維持する
それは魅力を維持する
それは射撃の理解を深める*
それは心眼の理解を深める**
それは幸運を4上昇させる
もし店で売れば 612G ぐらいになるだろう
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それ は ☆透き通ったリターニングスローナイフ『エンジェルモメント』(1d20)(11)であることが完全に判明した。
投擲用の短剣だ
それは硝子で作られている
それは炎では燃えない
それは投げた後手元に戻る(100%)
それは武器として扱うことができる(1d20 貫通 15%)
それは攻撃修正に11を加え、ダメージを0増加させる
それは電撃属性の追加ダメージを与える***
それは魅力を維持する
それは裁縫の技能を下げる***
それは音への耐性を授ける**
それは速度を4上昇させる
もし店で売れば 3257G ぐらいになるだろう
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3257G!?
その金額は現在の俺の全財産の10倍であって。
売れば1年間は何もしなくても暮らせるなぁとか思ってみたり。
試しに投げてみると、地面に突き刺さった瞬間手元に現れる。
成程、これは面白い。
「おお、これが玉鋼か!」
歓喜してるトーレルを横目に、俺は口を開く。
「あの……」
ん?と鑑定し終わった3つの品を眺めていたルミウスが顔をあげる。
「私、これ欲しいかも?」
要求したのは勿論、透明の短剣だ。
硝子でできているという素材は壊れるのではないかと思いがちだが、そこはファンタジー。
先ほど穴が開いたこの法衣も既に穴は塞がっている。
なお、当然のことだがこのナイフの値段は告げていない。
「いいよ」
即答である。
「やった!ありがとっ!」
おもわずガッツポーズ。
「エージさんのスタイルにもあってると思うしね。でも……」
ん?と首を傾げる。
「ちょっと投げさせてくれる?」
どこかきらきらした眼差し。
ちょっと笑って俺が差し出すと、ありがとっと受け取った。
「なぁ。リーダー。それでこれどうするよ」
掲げたのは蛇の盾である。
貴重な品であることは確かなのだが、俺は刀、トーレルは斧、そしてベレスとルミウスは両手剣と、盾を使う人がいないのであって。
「やっぱ売るしかないかな」
「勿体無いきもすんだけどなぁ。えーじ、これいくらよ」
「612Gだって」
おお、と息を呑む二人。
「売ろうぜ」
「そうだね」
二人はコクリと頷き、そのままルミウスはバックパックへと盾を仕舞う。
「そういや、さっきの指輪は?」
ああ、そうだ。ナイフに興奮しちゃって忘れてた。
慌ててポケットに入れてた銀白色のリングを取り出し、
「鑑定」
スキルを発動しようとして、
ズキリ、と頭に痛み。
咄嗟に頭を抑える。
「エージさん!?」
「どうしたえーじ」
「いえ、なんでも」
そう応えて、再び指輪を見つめ、
「鑑定」
ズキリ、と再び頭に痛み。
くらっと眩暈が起き、
「おい、えーじどうした!?」
崩れ落ちる前にベレスに抱きとめられる。
「なんじゃ、何がどうした?」
トーレルが慌ててこちらにやってくるのが見える。
「いえ、鑑定を発動しようとしたら」
不意に眩暈が起こったわけなのだが。
「もしかすると……」
何やらルミウスが呟き、
「前にこういったことはありました?」
「頭痛のこと?特に……あ、いや、」
そういやグラフーインの魔方陣を読もうとしたときにそんなことがあったような。
「その時、鑑定スキルを沢山使用していませんでしたか?」
……!
そういや、そうだった。だとするとこの痛みは鑑定スキルを多用しすぎた弊害なのかもしれない。
俺が頷くと、ルミウスは「やっぱりね」とドヤ顔。
「それならその指輪はエージさんが預かっててください。ゆっくり休んだ後によろしくお願いします。
……そういうわけで今日はもう鑑定スキルは使わないように」
成程なぁ。やっぱ便利なだけじゃないよな。
そんなことを思いつつも、
「ありがとう、もう大丈夫。離していいよ」
「遠慮すんな、えーじ。ほら、肩貸してやるよ」
そう言いながら、もにゅもにゅと胸を揉んで来るベレス。
「ちょっとやめろよ」
そう言ったものの、ベレスは手を離さない。
流石になんていうか苛立ってきて、
「離せって言ってんだ!この豚!」
ちょっと怒鳴りながら足でベレスの足を踏みつけると、
「いって」
ようやく笑いながらベレスが俺の身体から手を離した。
「ったく口が悪いよな、お前」
「誰のせいだと思ってるんだ誰の」
そんな俺の言葉にベレスは肩を竦めて応じた。
ったく。
でもなんか憎めないんだよなぁ。
そんなことを思いつつ。
* * *
帰り道のダンジョン地図埋めは中止となった。
当たり前のことではあるが、踏破したことで一刻も早く休みたいという感情が沸いたのであって。
ちなみに言いだしっぺのルミウスもそうしよう、と満場一致ですぐ戻ることとなった。
「それにウーズの階とか歩き回りたくねーしなー」
そりゃまったくだと頷きつつ、一度ウーズに遭遇した後三階から二階へ。
そして二階に着いたとき、うん?とベレスが小さく呟いた。
見れば豚鼻をひくひくさせており、
「どうしたの?」
「いや、なんか……」
要領を得ない答えだなと思いつつも、そのまま足を進める。
二階と三階の階段はちょっと遠い。
部屋を二つ抜ける必要があるのだ。
ちょっと疲れてきたなと思いつつ、一つ目の部屋のドアを開ける。
「みゃー」
鳴き声。
見れば白い猫が二匹、部屋の真ん中で毛づくろいをしているのが見て取れた。
「あー成程」
ルミウスが得心したように頷いた。
「猫が居たんじゃな」
トーレルも頷く。
「どういうこと?」
俺が尋ねると、
「ほら、この階MOBが出てこなかったでしょ。それはつまり……」
「こいつらが狩ってたんじゃろうなぁ」
ちちちっとトーレルが舌を鳴らすと、
「うみみゃ?」
と二匹の白い猫が寄ってくる。
「おお」
この二人の反応から察するに、猫は友好的な動物なのかもしれない。
そんなことを思いつつちょっと大丈夫かなと思ったのは、今までダンジョン内であったものは動物も含めて敵対的であったからで。
トーレルの手へ擦り寄ってきた猫へ、俺も人差し指を出すと、猫が*すんすん*と匂いを嗅ぎ、そのまま擦り寄ってくる。
かわえええ!
今日の精神的疲れがこの一瞬で癒えていくのを感じた。
「珍しいな」
「何が?」
「ダンジョン内の動物はヒューマンにはあんま慣れないはずなんじゃが」
んん?と首を傾げつつ、見れば、確かにルミウスが触ろうとすると避けるように逃げているのがわかる。
「おい。トーレルのおっさんもえーじも猫なんかに構ってないで早く出ようぜ」
「わかったわかった。元気でな」
トーレルがそう告げると、
言葉がわかったのかどうか、「にゃおん」と鳴いて、離れていく。
ちょっと名残惜しつつも、「またね」と告げると、白猫は「みゃ」と同様に返してくれた。
二つ目の部屋へと向かう。
どうにもベレスの様子がおかしいなぁとそんなことを思いつつ、二つ目の扉を開けようとして、
「あああああっ!や、やめろっ!た、y、助け、」
不意にそんな悲鳴。
顔を見合わせる。
先ほどの癒しが一瞬で消え、気が引き締まる。
静かにドアを開ける。
そこには大型の鎌を持った何かが立っている。
地面は真っ赤な水。
その足元では首を切断された死体があって。
咄嗟に俺は左懐に手を入れる。
「うみみゃ?」
その人物が猫のような鳴き声を鳴らし、こちらを向いた。
はっとそこで気づく。人間にはない獣耳と尻尾。
猫!猫だ!猫娘だ!
「あら、こんにちわ」
少女のような涼やかな声。
猫と人間の中間のような、そんな顔。
身体は肉感的で、よくよくみれば大きな二つの胸の下に、もう二つほど一回り小さくなった丸い膨らみがあるのが見てとれた。
アタゴオルというより、楽園少年の猫様に似てるとかそんなことを考える。
しかし、話しかけてきたということはダンジョン内のモンスターではないのかもしれない。
そんなことを思いつつも、下へと目線を移せばその死体は消えていない。つまり、冒険者と思われるものであって。
「ちょっと来るのが遅かったみたいです」
そう言って、はにかんだ。
そのはにかみは素晴らしく、おもわず俺は心のシャッターを切る。
「そりゃ残念だったな」
ベレスが答えた。
「踏破されたダンジョンなんざ長居するもんじゃねぇ。じゃまたな」
そう言って、通り過ぎようとする。
ベレスにしては珍しい反応だと思いつつも、もうちょっと話したかったなと思いながら後に続く。
「そうじゃな」
トーレルも頷き、後に続く。その反応もどこか硬いように感じた。
なんてことはない。二人とも彼女を警戒しているのだと気づく。
まぁ死体とか転がっているし!
「あ、ちょっと待ってくださいよ」
彼女が呼び止めた。
「ここであったのも何かの縁です。我が神フリージアはそういうのを大切にするんですよ?」
少女がそう告げると、ルミウスがばっと振り返り、呟く。
「フリージア?悪意の……種子?」
不意にポップアップ。
「あら、神様のことご存知でしたか」
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逃げて!
今すぐ逃げるのです!えーじ!
その娘はかの悪名高きPK専門のBET者、《鮮血》のフリージアのプレイヤーです!
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えっ、と思った瞬間、猫娘は既にルミウスの近くまで翔けており、
「ではその血肉、我が神フリージアに捧げなさい!」
振るわれた大鎌の一閃は、容易くルミウスの右腕を斬り飛ばした。
後書き
こんにちわ!死ね!
ということで変愚ではなんどもお世話になったフリージアさんをリスペクトして一つ。
そういやなんか最近気づいたんですが、8年ぶりに更新されてましたね。
この話考えてた3年前はもう更新ないだろうなとかそんな風に考えてたなとか懐かしむこと暫し。
この小説一段落したら久々にやりたいなぁとか思ってもみたり。