砕かれた壁の奥からずるりと新たなナーガが入ってくる。
肌は雪のように白く、長い黒髪はビロードのよう。
乳房は先ほどのナーガちゃんよりもつつましいものだが、それはより彼女のスタイルの良さを強調する。
まるで人形みたいだ。そんなことを思う。
彼女は俺たちの姿を確認し、嫣然と微笑んだ。
そのまま静かにこちらへと近づいてくる。
腕は細く、どこに壁を破壊する力があったのだろうと一瞬そんなことを考える。
ズルズルと這う巨大な尾っぽは綺麗なグリーンであり、より彼女の魅力を引き立てていて。
嫣然として彼女は足を進める。
既に剣を伸ばせば届く距離。
誰も動かない。
皆、彼女の美しさに見惚れているのだ。
彼女が止まり、それからゆっくりと静かに手を伸ばす。
その先には、口を開け、ボーっと彼女を見るトーレル。
何かおかしい!
はっと我に返る。
不意にそんな警告めいた衝動に突き動かされ、俺は睡眠薬の入った試験管を取り出すと、すぐさま彼女に向かって投擲した。
*パリン*
試験管が割れ、中身の薬剤が彼女に降りかかった。
迷宮世界
時が動き出したかのようにトーレルがバックステップ。
ドワーフの身体のどこにそんな敏捷さがあったのかとそんなことを思いつつ。
同時、ベレスとルミウスも動き出した。剣を振り上げ、手を伸ばしたまま固まっている彼女を斬らんとする。
が、
彼女の尾っぽが跳ねるように動き、彼ら二人を弾き飛ばした。
効いていない!?
彼女がこちらを見る。先ほどまでの微笑は消え、親の敵と言わんばかりの表情。
俺はたまらず後ずさった。
なんで?今まで効かなかったことはなかったのに。先ほどの子には効いたのに。
そんなことを思いながらも、俺は新たに試験管を取り出し、投げる。
*パリン*
焦りが出たのか、試験管は彼女の前に落ちた。
試験管から睡眠薬がこぼれ、小さな水溜りを作る。
しかし彼女は構うことなくその水溜りに足を進めた。
ここの薬は流石ファンタジーということで、飲んでもかけても効果は発揮される。
だからその薬に触れた彼女は眠っていなければおかしいのだが、薬の効果は発揮されない。
「フォースアロー」
姿には不釣合いなしわがれた声で、彼女が叫ぶ。
同時、空中に紫色の光が生まれ、それは曲線を描きながら、向かってきた。
咄嗟に身を翻す。
が、その光はぐにゃっと曲がり、
「ぎっ!」
そのまま右横腹から背中へと突き抜けた。
転がりながら腹を押さえる。
「エイジ!」
トーレルの声が響く。
声の方向を見れば斧を担ぎながら彼女へと向かっていく姿。
「おおおぉっ!!」
気合と共に真っ二つにせんと振り下ろす!
*ガキン*
「なっ」
だが彼女はその轟雷のようなトーレルの一撃を片手で受け止め、
「んじゃとっ!?」
鞭のように尾っぽをしならせ、ドワーフの短い足を払った。
転倒するトーレル。しかし、彼女はそんな倒れた彼に見向きもせず、俺へと目線を合わせた。
なんでだ。俺、なんかしたか。
そんなことを思いながらごふっと咳。赤いしぶきが飛び散る。
えっ? と脇腹をみれば*どくどく*と血が流れていて。
まずい。
懐に手を入れる。
瞬間、彼女が矢のようにこちらへと向かってくるのが見えた。
咄嗟に右懐から左懐へと手を移し、薬の確認もせぬまま、試験管を投げた。
*パリン*
糞。
咄嗟に投げた試験管は彼女から逸れ、地面に当たり割れた。
既に目と鼻の先。
彼女が腕を振りかぶる。
その右手はあのトーレルの斧さえなんなく受け止めた凶悪な爪。
俺は迎撃せんと鞘を走らせ、そのまま刀を振りぬいた。
「ヤッ!」
最速で振りぬかれた刀は彼女が腕を振りおろすよりも速く、その白い肌へと向かう。
我ながら完璧な一振り。
ざくっという肉の感触を刀を伝え、
そしてわずかに沈み止まった。
そんな。
悲痛な声が心から漏れる。俺の力では彼女に致命的な傷を与えられない。
だが、その一振りは彼女にとっても予想外だったらしい。
彼女は振り上げた腕を降ろさず、その長く太い尾っぽで持って、俺を弾き飛ばした。
*パリン*
と、懐に入れてあった試験管が衝撃で割れる。
しまった!
身体は宙を舞い、そのまま壁へとぶち当たった。
「痛っ」
おもわず声。
何が割れた、焦りながら懐に手を入れた。
懐に入れていた攻撃用の試験管は4本。
それが無事だというのを確認。同時にじわんじわんという痛みが急速に引いていく。
これは運がいい、と思いつつも、さてどうするかと試験管を取り出した。
試験管に入った薬の色はにごった緑。
それは毒薬であるというのを確認し、今だ目標に定められてる彼女に向かって投擲する。
*パリン*
投げつけられた試験管を彼女がその凶暴な爪で打ち払う。
しかし、中身に影響を及ぼすことはなく、そのまま彼女を濡らした。
「ピャッ!」
しわがれた声で彼女が鳴く。
「ピギャアッ!」
反応は顕著だった。その液体を流さんと、左手で肌をこすり、尾っぽの先はピチピチと跳ね、おっぱいがぶるんぶるん揺れた。
効いた!
「よしっ」
「エージさんナイス!」
復帰したルミウスが薬に気を取られている彼女の背中へと走りこむ。
そしてそのまま突き出された剣は特に妨害されることなく、腰から腹へと突き刺さった。
ぱくぱくと彼女の口が開く。
やったか!?
そんなことを思った瞬間、彼女の尾っぽが跳ね、ルミウスを跳ね上げる。
「フォースアロー」
今だ空中に跳ね上げられているルミウスへと追撃の魔法の矢が飛んでいく。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ!糞アマァァァァァ!!」
同時、ベレスの剣が彼女の太く長い尾を断ち斬った。
悲鳴もあげず、彼女はぐるりと回転し、左手でバックナックル。
その細腕から繰り出された一撃はまるで赤子のようにベレスの巨体を吹き飛ばした。
「ウオオオオオッ!」
同時、トーレルが獣のような吠え声をあげ、突進する。
その声に彼女が振り返る。
既にトーレルは3歩の距離。彼女は弱弱しく受け止めんとその腕を上げる。
さっきと同じ結果になるのでは、と俺が思った瞬間、トーレルが跳んだ。
「オオオオオオッッ!!」
そのまま裂帛の気合と共に斧を振り下ろす!
彼女の爪と、トーレルの斧が触れた。
しかし先ほどとは違い、斧の勢いは止まらず、彼女の腕を弾き飛ばし、左肩を割り、背骨を割り、勢い止まらず両断した。
信じられない! という顔で彼女は何事か呟くと、そのまま崩れ落ちた。
青い蒸気が彼女の身体から噴き出し始める。
「オオオオッ!」
トーレルが勝鬨をあげた。
「よっしゃああ!」
ベレスが剣を突き上げる。
「勝った?」
俺は呟き、不意に腰の力が抜け、へたり込んだ。
「ルミウス!」
ベレスが叫ぶ。
はっと首を巡らせれば、ルミウスは苦痛をこらえるように顔をゆがめており、肩膝をつきながら腹を押さえている。
しかし出血はおさえられるものではなく、更にどくどくと血が湧き流れ出ているのが見えた。
慌てて、活を入れて立ち上がり、小走りで向かいながら傷薬を取り出す。
キャップを抜き、そのまま振り掛けた。
「大丈夫!?」
「いや、なかなかきっついね」
そして破願した。
「でも勝てた」
「おう。勝ちだ。勝ったぞ。俺たちの勝ちだ」
「そうじゃ!わし達の勝ちじゃ!」
トーレルがそう言い放った瞬間、フラッシュのような光がたかれた。
慌てて首を巡らす。
先ほど、肩から両断された彼女―――それと入れ替わるように豪華な箱がいつの間にか鎮座されていた。
後書き
とりあえず一段落!
お楽しみはこれからだね!
流石に連日更新きつくなってきたかもなので次回はちょっと日にち置くかも
ちなみに今回のサブタイトルをおっぱいにしようかと一瞬思ったのは私と君だけの秘密だぞ!