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あなた は 暗い迷宮の中へと足を踏み入れた。
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一瞬奇妙なログを見た気がしたのだが、生憎それは気のせいのようだった。
はて、と思いつつも、先を行くミュレンさんの後へと続く。
洞穴の地面は何かに整備されたかのように平らな道であり、
成程。この洞穴はまさしく自然にできたものではないのだなぁと感じること暫し。
入り口から離れるにつれ、光源は遠くなり、次第に周囲は暗くなっていく。
こんな場所で探索できるものなのかと疑問を抱いた瞬間、
「迷宮の中でも」
足を止めてミュレンさんが言った。
「洞窟型の迷宮には光源がないことが多いです。そういう自体に遭遇しても問題の無いよう、予め光源となるようなものを買っておくといいですよ」
こんな感じに、とミュレンさんが何かボールのようなものを上に放り投げた。
その何かはある一定の位置で空中に留まり、
ぽわっと光を灯した。
「それなんですか?」 俺は尋ねた。
「ランタンです」
ミュレンさんが答えた。
「他にも幾つか光源となるようなものはありますけど。私はこれが一番お奨めかも。ほら、松明と違ってそうそう切れることもないですし」
俺の知ってるランタンとは随分形が違うなぁとそんなことを思いつつ。
「後、迷宮内では常時地図を出しっぱなしにした方がいいですよ。こう見ての通り、何の目印もありませんから」
地図?
「えっと、それはもしやコマンドのことですか? それだと私はまた使えないんですけど……」
「え? あ。あ、あ、あ、あ、ああ!……えっとごめんなさい、えーじさん。すっかり忘れてました」
そう言って、くるりと人差し指を回し、
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ミュレン からトレードの申し込みがありました。
奇妙な砂時計
真っ白な地図
こちらからの提示はありません。この条件で宜しいですか? y/n
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不意にポップアップ。
「えっと。これは?」
俺は戸惑いつつ尋ねた。
「時の砂時計と探索者の地図。……主教様から差額、だそうです。あ、一応これも」
その言葉と同時、
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ミュレン からトレードの申し込みがありました。
時の砂時計
探索者の地図
ランタン
こちらからの提示はありません。この条件で宜しいですか? y/n
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先ほどのは未確定名称であったのか、修正。ついでにもう一つアイテムが追加された。
「『y』」
呟くと同時、ポップアップが消える。
「えっと。それで多分ロックは外れると思いますけれど」
ミュレンさんのその言葉に従い、
「コマンドマップ」
と俺は呟いた。
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% +#####@F##
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一瞬奇妙な記号が見えたが、それは気のせいだったようで。
改めて地図を確認。
―――
|――――――
■ ●●
|――――――
―――
青い囲いの左端に水色の■があり、その青い囲いは僅かに右に伸びており、その途中で緑色の●と黄色の●が連なっている。
この水色の■は入り口か。で、この青いのは探索済みの場所で、この緑●が俺、で、黄色の●がミュレンさんかな。
成程トルネコやシレンのような地図なのだなと、ふと懐かしいゲームのことを思い浮かべること暫し。
残念ながらこれは現実なわけで。
これがVRMMOとかだったら興奮したのになぁと溜息を吐いた。
「コマンドタイム」
さて、もう一つのコマンドを使ってみれば、
▽
■
△
こんな感じの形の砂時計が空中に投影された。
真ん中の砂は大分残っている。おそらく今は昼に入ったばかりと言ったところか。
迷宮生活なんかしてると時間の概念なんてこんなものでもいいのかもなぁ等と思ってみたり。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言った。
「お礼なら主教様に。あ、でもランタンの分は受け取っておきますね」
えへっとくすぐったそうに微笑んだミュレンさんに多少見とれつつ、俺達は再び足を進めた。
迷宮世界
「にしても」
暫く歩いた後、俺は言った。
「モンスターとか出ませんけど、こういうのって普通なんでしょうか」
なんて退屈なところなんだ。
そんなことを思ってしまったのも仕方のないことだと思う。
迷宮の中というものは非常に危険な場所で、歩いていればすぐ様モンスターと遭遇する。そんなことを考えていたのであって。
「真逆」
と、ミュレンさんが言った。
「おそらくこのダンジョンが踏破済みだからでしょうね。踏破されるとモンスターの沸き方は激減しますし。
とは言っても油断は禁物ですよ! 一瞬の油断が命取り。迷宮はそんな場所なんですから」
確かにその通りだとは思うものの、こう何もなくては気が緩むのも仕方のないことであって。
だから、
不意にカチャッと何かスイッチのようなものを踏みつけ、
「え?」
「あ」
そんなミュレンさんの呟きを聞き、
一瞬にして真っ暗になった。
見えるものと言えばポップアップされてる地図と空中に浮かぶ砂時計だけ。
少し焦りつつも地図を見れば、先ほどとは全く違う場所にいることを確認。
階段や青いマップは見えるものの、ミュレンさんを表す黄色の●は見当たらない。
どうやらテレポートの罠にでも引っかかったようだとそんな事を思いつつ、
『壁の中に居る』状態にならなくてよかったとほっとすること暫し。流石にそんな凶悪なテレポは無いと信じたいが。
とりあえずランタンをバックパックの中から取り出す。
奇妙なことにドラちゃんよろしく、整理した後のバックパックからは『あれ』を取り出そうと思うだけでそれを取り出すことが出来るようになったのだった。
こうして触ってみるとランタンはつるっとしていてガラスの球体の様な感触で。
とりあえずポンと上に放り投げ、光を求める。
うおっ眩し。
真っ暗の中で突如光が生まれたせいか、一瞬目が眩んだ。
目を閉じ、光を馴染ませ瞳を開ける。気のせいか、ミュレンさんのランタンの光よりも明るい気がしなくもない。
そこで自身の能力を思い出し、ああ成程と頷き、
「ゴァァァァァァァァッ」
と、そんな唸り声を聞いた。
ハッとしてその声の方向へと振り向く。
そこに居たのは二足歩行の奇妙な小柄の生き物だった。
全身緑色の肌。よくよく見れば鱗のようなもので覆われており、それ自体は町で見たリザードマンに多少似ているかもしれない。
耳は俺と同じところから生えているものの随分と長い。顔自体もひょろりと長く、頭だけならまるで犬のようにも見える。
その姿は何処か愛嬌があるもので。
「グゥゥゥゥゥ」
と、唸る。
こちらを見つめ、背中を丸め、僅かに唾液がこぼれる。
愛嬌があるとは言ってもそんな仕草はどこか怖さを感じさせるもので。俺は少し後ろへと後ずさりしてしまった。
「グフ」
と、そんな俺を見てその生き物は笑い、こちらへと歩き出す。
「待て。落ち着こう。まず大事なのは話し合うことだ」
後ずさりをしながら宥めるようにその生き物へと言ったが、
「グルァ」
生憎通じていない様で、その生き物は牙を剥き出し、速度をあげ、こちらへと向かってくる。
「糞」
俺は一声上げ、剣の柄へと手をかけた。
噛みつき、引き裂かんとばかりに剥き出しにされた牙と爪。
その生き物が飛び掛るように俺へと走る。既に剣を抜いている暇はない。
ならば、と俺はそのまま、
「ヤッ!」
と胴を斬り払うように剣を抜く。
随分と年月は空いていたものの、咄嗟に上手くいった自分の居合いに忘れないものだとどこか心の片隅で思うこと数瞬。
ざくりと剣がその生き物の腹へと達し、
その生き物の勢いに負け、ぐるりと自身の身体が回り、その力に右手だけでは耐え切れず、剣はそのまま右手から離れてしまった。
「ギャイン」
と、犬のような悲鳴をその生き物があげる。
カラン、と剣が落ちる音。
しかしその一撃は致命傷とまではいかなかったらしく、その生き物は爛々とした瞳で俺を見つめてくる。
手元には武器がない。不味い、と俺はローブの胸元に手を入れ、咄嗟に試験管に入った毒薬を取り出し、投擲。
試験管は*ガシャン*と音をたて、そのままモンスターの斜め横へと落ちた。
俺の馬鹿。
そいつの後方にある銅の剣を見ながら、俺は回るように後ずさる。
どうにかしてあそこまでいけないものか。
カチャリ、と何かが踵に当たる。
おもわず目線をずらす。
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青銅の剣が落ちている。
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しめた、と俺はその剣を拾う。
それを好機と見たか、単に背を屈めたことで弱くなったと感じたのか、
「グルゥアゥアアアアアア」
と、強い叫び声をあげ、その生き物が再び向かってきた。
一瞬その声に寒気を覚えたが、俺は心を落ち着かせ、剣を正眼に構える。
自身の剣先が緊張で震えるのが見える。落ち着け落ち着け落ち着け。緊張を抑え、揺れを留める。
敵が間合いに入、
「突きぃぃぃぃぃぃっ!」
そのまま相手の喉元へと剣を突き出した。
ズニュッと柔らかな何かを突き通すようなその気色悪い感覚を感じ、
コヒュッコヒュッと、突き刺さった喉から吐息を漏らす奇妙な生き物を見て、
まるで悪夢でも見ているかのよう。そんなことを思い、
「はっ」
と俺は吐息を漏らした。
次の瞬間その生き物は砂のように崩れ、空中へと溶けていく。
*カラン*と音を立てて、何かが落ちた。
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金属の腕輪が落ちている。
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それを拾い、乱れる吐息を抑え、胸の中を巡る気色悪さを抑えつつ、「鑑定」と呟く。
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それ は 銅の腕輪 であることが完全に判明した。
銅の腕輪 [0,1]
それは銅で出来ている
それは酸では錆びない
それはDVを0あげ、PVを1上昇させる
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少しは足しになるらしいと俺は腕輪を身につけ、銅の剣を取りに行く。
青銅の剣を地面に置き、銅の剣を取ろうとして、
あれ?
奇妙な違和感。
青銅の剣を置こうと手を離したのだが、それは手にくっ付いたかのように離れない。
「真逆」
俺は焦りつつ呟いた。
「鑑定」
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それ は 呪われた青銅の剣 であることが完全に判明した。
呪われた青銅の剣(2d5+1)
それは青銅で出来ている
それは酸では錆びない
それは呪われている
それは(2d5+1)のダメージを与える(貫通率5%)
それは習得を3下げる
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「嘘だろ」
そんな俺の焦った声はむなしく洞窟に響いた。
後書き
間違って書いたの一回消しちゃったい><
2013 4.18
今更ながら地図が抜けてたの気がついたので追加しておきますね