俺はコミュ症である。重度のコミュ症である。
いいじゃない、コミュ症でも。誰にも迷惑はかけていない……はず。
世の中にはコミュ症なりにつける職があるのだ。
俺は俺なりに、精一杯に生きていた。
……はずだったのに。
「何これ」
目の前にはステータス画面。
ポイント数は一万で、ゲームのように容姿や、力や、魔力や、スキルや、出現場所など沢山の物が表示されていた。
どうやら、全ての選択肢はスライド式で、これを左や右に操作して「ステータス」とやらを決めるらしい。
俺は、出現場所にふと目をつける。
【元いた場所に戻る:一万ポイント】
そうか、元の場所に戻れるのか。俺は安心して、目線をスライドした。
【魔物溢れる前人未踏の地:マイナス10万ポイント】
無言で一番左の前人未踏の地にスライドさせる。ちなみに真ん中あたりは王都とか。
前人未踏の地。つまり誰もいないと言う事である。コミュ症の俺には天国のような場所だ。魔物と言うささやかな障害があるようだが、人生にはそれぐらいの人生のスパイスも必要なのではないだろうか。
何か胸躍る響きだし。魔物、魔物、ああ魔物。
【美貌】
これはマイナス一万ポイントの人間に見えないレベルの不細工でいいだろ。誰にも会わないんだし、日常生活に不具合が出るわけでもないみたいだし。
【言語】
これも必要ないない。日本語が奪われる事はないみたいだし。マイナス5000ポイントか。
【家】
これか。城なんかいらんいらん。しかもなにか家作るスキル他にあるみたいだし。なしなし。マイナス一万、と。
最初、ポイントが充分にあるか心配だったが(何せ魔物の闊歩する場所で暮らすのだ)、欲しい物が全部とれてしまった。能力だけではない。物資からなにからなにまで、本当に全てだ。
迷うことなく実行ボタンを押す。夢ならば問題はないし、現実ならば人のいない世界へ!
そして、俺は深い深い森の中に降り立った。
俺の周りには、透明な膜。
転移して十分だけ守ってくれると言うのだ。
俺はそれに感謝しつつ、強い結界を張る。スキルは問題なく発動した。
わかる、わかるぞ! 昔から学んでいたかの如く結界術がわかる!
広範囲から魔物を追い出した(と思われる)俺は、早速家と畑を作りだしたのだった。
野宿をしながら、一か月ほど作業したろうか。
立派な家と畑を見て、俺は非常に満足した。
俺はコミュ症だけど、怠けものではないのである。
おまけで鍛冶能力も得ているから、いろんな剣を作ったり服を作ったりもできる。
材料だが、ドワーフの守護神というスキルで、敷地内の大岩からランダムで鉱石が手に入るのだよ。そもそも来る時物資貰ったし。
もちろん、戦闘能力も取ってはいるが、俺は戦闘はしない。魔物が宝箱同然って知っててもしない。
知っているか? 戦闘ってなぁ……魔物さんとの、コミュニケーションなんだぜ……?
絶対無理である。
そもそも剥ぎ取りが無理。家畜も養ってはいるが、食肉にはせず、卵と乳のみ貰っている。生きてる物をお肉にするなんて絶対無理。物資の中にお肉あるしね。
俺は遠くから生温かい目で見守っています。壺にジャム作って餌やりぐらいはしてやります。
結界は畑を内包出来る程度には広いが、それでも結界の外を見る事が出来る程度には狭いのだ。
外の世界をウォッチングしているだけでも、以外と飽きない。
具体的に言うと魔物さん格好良いです。
雄たけびを上げる様とか、激しく戦い合う姿とか。さすが魔境です。
壺の物をモフモフと食べる魔物さんも可愛いです。
だからね、見えないの。必死に結界の外から声をあげる人間ぽい奴の集団なんか見えないんだよぉぉぉぉぉぉ!
前人未踏って言ったろ? 誰も来ないはずだろ!?
頑張れよ、もっと頑張れよ! お前ならできる、前人未踏! なに人間の侵入を許してるんだよ、一体何? 何なの!? 前人未踏の意気地なしぃっ!
そんな俺の問いかけに答えたのか、今まさに人間どもは排除されんとしていた。
具体的に言うと手負いの獣が物凄い勢いで襲ってきました……。
戦々恐々とウォッチングを続ける俺。
これでこいつら見捨てて死なれても、俺のせいじゃないよね! 俺のせいじゃないよね? 俺のせいじゃないよね……。でも、良心って時々理屈が通じない反応をする。反抗期なのかもしれない。
えーと、鎧の女の人がぐったりしていて、鎧の男の人二人が応戦していて、魔法使いっぽい男の人がしゃがみ込んでます。あ、剣折れた。そして鎧の人がぶつかって壺割れた。
魔法使いの男の人がそれに気付いて、中のジャムを口に入れます。
勢い込んで食べてます。
鎧の女の人にも食べさせてます。
なんか叫んでるけど全然わからん。
あ、魔術師が反撃した。苦労して魔物を倒すと、はぎとりを始めました。
グロイです。凄くグロイです。
それと何か壺の物食べてる。
雨が入るわ動物が食べるわしてた壺ですよ、それ。
人として何か悲しい気分になって来たので、食事と替えの剣、屋根位は貸してやる事にしました。
お盆に食事、テント(寝袋・結界込み)、剣。それらをゴーレムに持たせ、結界の外に押し出させる。
準備している間に、魔術師が結界に何かしてた。
結界に入りこもうとしていたらしい。なんという堂々たる不法侵入。
冒険者(?)こぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。
俺は窓に半分顔を覗かせ、そんな様子を伺った。
冒険者たちは食事やジャムを採集すると、自分の携帯食料を食べ始めた。
……凄く……可愛くないです……。
しかし、テントと剣は持ち、何か声をあげているが、当然の如く言葉なんてわからない。
なおも魔術師が結界に何かしようとするので、ゴーレムに威嚇させる。
食らえ! 荒ぶる鷹のポーズ!
その後もしばらく何かしていたが、とにかく彼らは去って行った。
ふぅ、物騒な世の中になったもんである。
後、彼らが帰った時に綺麗な紅い石を置いて言った。
お礼か。とても綺麗なので、貰っておいてやろう。