当然ながら、忍者達は使い魔一族の住処に殺到した。
物凄い勢いでプロポーズされまくる使い魔族達。
使い魔族達は、戸惑いながらもそれを受け入れていった。
こうして、使い魔族の森には何もいなくなってしまった。
そして、そのまま上忍を呼んで企業会議に雪崩れ込んだ。
既に、気のきいた忍びによって千年の間に朽ちた会議場は再建されてあった。
忍び頭零は、一つ息をついて言う。
「千年の時を生き延びるという大業を成した今、いよいよファンタジーの肝、魔王を作ろうと思う。もちろん、今はまだ魔王という悪意に世界が耐えきれない。しかし、それも直に解決するだろう。という事で、千年の時の流れにより露わになった弱点を解決し、種族強化をする意見を出してほしい。なお、魔王役には米軍にお願いする予定だ。新兵の訓練に使うらしい」
上忍が、はいっと手をあげる。
「それって死人出ますか?」
「もちろん、世界が滅亡する事もありうる。魔王が一般人に倒されないよう、また魔王に世界が滅ぼされないよう、そこら辺は調整して行くつもりだが」
また、上忍が手をあげる。
「魔王が一般人に倒されないようって言いましたね。という事は、魔王は誰が倒すんですか?」
「このゲームをプレイする人間に決まっているだろう」
「つまり、私達で魔王を作り、私達で魔王を倒すというわけですか?」
「そうではない。魔王は運営。勇者はプレイするゲーマーだ。待ち望んでいた普通のRPGだ、嬉しいだろう」
忍び達は沈黙する。心から戦慄し、背中に汗が流れる。
使い魔、現実に召喚出来たよね? 明らかにNPCじゃないよね? しかし、忍び頭に面と向かって指摘するのは怖かった。
すっと上忍が手をあげる。人間国宝の刀剣鍛冶屋だった。
「ドワーフは、ようやく素晴らしい技術を得た所だ。魔王の進軍で失わせてしまうのは、明らかに拙い」
零は、頷く。
「忍び農園という名の通り、ここは養殖場にして、魔王だのなんだのはゲームの二作目で行う予定だった。しかし……」
「しかし?」
「もう一つ世界をプログラムするのが面倒だ。その代り、救済措置は用意する。上忍は、魂保管庫に選ばれし者の魂を保管できる者とする。そうすれば、その魂を使って、滅びた一族の復興をさせる事が出来るわけだ」
「それは素晴らしい案だと思います。しかし、魔王が勝った、つまり魔物が跋扈している状態で一族の数を回復させる事が出来るものでしょうか?」
「わ、私、今のひたすら育てていくゲーム、凄く好きです!」
それに便乗し、彩夏は必死に言い募った。もちろん、カイトを魔王と戦わせる羽目にさせない為であり、自身の作った草花や生物が蹂躙されない為である。
零は、考える様子を見せた。
「むう、やはり養殖場と魔王の場所は別の方がいいか。まあ、間引きはいずれ必要となってくるだろうがな。元影、次の世界の企画は出来ているな?」
「は」
元影は若干顔色を蒼くして答えた。間引き。嫌な響きである。
米軍は、全て承知でこの計画に参入するのだろうか。だとしたら、とても、とても恐ろしい事だ。忍び達は、知らず震えていた。
元影が、印を組んで大陸マップを出す。そして、そのマップについて説明をした。
マップの選択をし、一通りの事を決めた後は、いよいよ種族強化になる。
魔王と戦わなくてはいけないのだから、それ相応の事は出来るようにならなくてはならない。
特に、ドワーフの魔術具作成パッチは重要だ。
会議は、次第に白熱して行った。何せ、ここには魔法の作成も含まれているのである。
今こそ、セキュリティホールを突破する時! とばかりに、熱心に調整を行った。
更に都合のいい事に、早々に使い魔のバグを修正する為の作業に入るからと零が引っ込んだ。もはや止める者も無く、企業の独壇場である。
早々に現実世界でも使えるように目指す呪文の草案を纏め、実験に入った。
その頃、中忍、下忍達は各地に散っていた。
愛用していた実験地に行き、研究を再開した。
各種族の所に行って、不便な事はなかったか聞きとりし、より住みやすい環境を整えなくてはならないからだ。
現実空間の一日は、年を開けてからは、20年と長くなっていた。
それだけあれば、魔法を整えるのに十分である。
そして、ゲーム終了後……。
皆の前、企業の人が緊張して印を結ぶ。
「飛空の術!」
ふわり、と企業の人が浮いた。皆が拍手する。企業が勝利したのだ!
その日、公式サイトに、致命的バグが増えたから、良い子も悪い子も魔法を使わないでね☆ と記された。
その日、【忍び農園】俺の草が食われた520回目【お主も悪よのう】での話題の中心は、無論魔法と魔王パッチの事であった。
『人殺ししたかも、って思いが一瞬で吹っ飛ぶ計画だったな』
『米軍は鬼』
『米軍関係者だけど、俺ら聞いてないから。使い魔が現実に召喚できるとか、一切聞いてないから。今大騒ぎだよ』
『米軍としてはどうなの? NPCの自由の為に立ちあがったりするの?』
『そういう話も出ると思う。さすがに実在しているかもしれない人間を訓練の為に虐殺ってのは……。人権問題は必ず出る』
『ブイアールはゲームってスタンスを貫いているんだよな……』
『なぁ、この世界も電脳世界って可能性は無いのかな?』
『怖い事いうなよ』
『忍び頭って神様? 宇宙人? 悪魔?』
『怖いからそこら辺はあまり突っ込まない方がいいぞ』
『そんな事より新たに使えるようになった魔法を満喫しようぜ』
『おまいら、絶対に悪用するなよ。ブイアールが倒産以前に、忍び頭を怒らせるとか怖すぎるから』
『わかってるよ。上忍しか使えないってあれだろ。わざと見逃してくれたって事だろ』
『話は変わるけど、パッチ適用と説得でエロボ族がMS族に戻った。安堵で涙出た』
『ザクさん乙』
『ザクさん乙』
『ザクさん乙』
そんな会話が続く。
その日の夕方、日本の首相は、空飛ぶ人間のニュースを見て、超能力って本当にあったんだねぇと頷きながら、三時のおやつを食べていた。
一方、米軍は米軍で、未知の存在に頭を抱えていた。
「これが報告書、これが使い魔です」
真夜中に収集された議会。夜を徹して戻って来た米兵が、議会に報告する。
試しに米兵が使い魔を出し入れすると、ざわめきが場を支配する。
「我が軍が魔王軍になるとの事だが、どういう事かね?」
「以前からの軍事利用の要請はしていました。人殺しに慣れさせるための訓練に限って許可する、方法は追って沙汰すると言われていました」
「魔王軍となり、無辜の民を虐殺すると?」
「……使い魔のAIテストを。彼らが『人』か否か。それが問題だ。プログラムを物質化する超技術という可能性も無くはない」
「仮に彼らが本当に生きているとしたら、こんな……こんな……奴隷よりも酷いではないですか! ただの遊びで産み! 育て! 虐殺を行い! 勇者を気取ってみせるなど!」
「そして彼らがプログラムだとするなら……あれは莫大な利益を産みますな。我がチームが、原始時代から現代クラスまで超スピードで文明を発達させる実験を行っております」
「うむ。とにかく、あのゲームが現実、もしくはそれに準ずる環境というのはわかった。あれは異星か異世界か、電子世界か……。至急、確認しよう。魔王軍になる為の準備段階と行って、器具を持ちこませるのもありだな。事実、医師団はそれをしている」
「神よ……どうか、我らと新たに産まれし命達をお見守りください」
もちろん、神は熱心に見守っていた。キラキラした瞳で。