我に返った忍者たちは、協定を結ぶ事にした。
それは決められた場所でしか中忍は魔物創造をしないという事である。
下忍は戦う術を持たないのだ。魔物が来ればひとたまりも無い。
しかし、それも中忍の良心に期待する物でしかない。
必ず下忍を襲わせて遊ぶ者が出るのは自明の理であり、下忍達は言われた通り、中忍から隠れ住みながら生命体を育てるしかなかった。
恐るべき無慈悲な階級の差である。
そこで、毒草のしぼり汁を小人忍者の武器に塗る、木の枝で武器を作るなどの対策を施す者が出始めた。
驚くべき事に、それは効果を上げた。武装した小人忍者も、予想よりずっと戦力になった。
忍農園の隠されたテーマ、生態系サバイバル。それは、今はっきりと彼らの前に出て来ていた。
広大な大地を舞台にした、生態系戦国時代の始まりである。
一方、とんでもない光景を撮ってしまったマスコミはそれはそれで喜んでいた。
伝説のクソゲ―、忍農園に迫ると銘打ち、早速特番を組む。
気を取り直した中忍達は、食事を試してみる事にした。
と言っても、自分の作った動物は食べるのに引け目があるし、他の動物は親の下忍が全力で阻む所存である。その内闘争になるのだろうなぁと思いつつ、仕方なく植物を食べるが、ここでもサバイバルな一面が出た。中忍が毒で死んだのである。
とことんリアル(実際の世界に魂を飛ばしているだけなのだから当然だが)。それが、忍農園だった。
ついでに、攻略本会社などから切実に提携、もしくは月額制をお願いされたので、月額五千円コースを作った。
また、攻略本会社に世界地図を提供してみる。これは非常に喜ばれた。
マスコミの放映で社を訪れる人は一気に増え、下忍惨殺、中忍毒殺事件で【忍農園】俺の草が食われた210回目【伝説のクソゲ―】は、スレが一日で十も消費され、某動画サイトには再度人が押し寄せたのだった。
以下、人々の反応である。
『マジ外道』
『クソゲ―もここまで来ると神の域』
『なんというゲームオーバー』
『というか、こういうゲームだったんだな。プレイヤー同士の争い上等というか』
『あまりの非道さに頭が真っ白になったわ』
『ここで団結して、運営を驚かせるってのもありじゃね?』
『逆にやる気出て来た』
『中忍になったけど、下忍と全然違うよ。武器があるし、強いし。やろうと思えばいくらでも下忍相手に無双できると思う。というか、名前がない事からも、下忍の扱いマジ人間じゃない。手柄を立ててようやく人として認められる感じ。上忍になるとどうなるんだろうな』
『忍びの世界厳しすぎわろた』
そして八月三十一日。夏休みの終わりには、全ての階が埋まっていた。快挙である。
この日、中忍主催で植林祭が行われ、既存の植物を全員で植えた。
そして九月一日には、最速攻略本、忍びの極意が発売された。
売店にも、忍びの書に登録された植物や虫、魚、動物のグッズ、そして忍びの書のレプリカが並ぶ。喫茶店忍び食堂も入れられた。
この頃になると話は外国にも漏れ、外国人がパスポートを持って受付へと並んだ。
そして、ホームページの更新である。
公開された動画には、新米忍者が植物を育て、食われ、動物を育て、餓死され、時には自身が中忍に無礼打ちされ、魔獣に襲われ、知恵を振り絞り、小人忍者を駆使して動物や魔獣を撃退し、ついには名前を得るという経験者にしかわからない感動ストーリーだった。
攻略のヒントを随所にちりばめた作品でもある。他に、漫画なども公開された。
忍びの極意は、バカ売れした。ゲームが出来ない遠方で、せめてと思って買う者が多かったのである。
この頃には、違うベクトルで楽しむ者も出始めた。
森の中のツリーハウスの集落を作るんだと、植林を始める者や、ひたすら既存の生命体を保護し、増やす者が現れたのである。
それもまた、零の思惑の内である。
零の転生したこの世界は、先輩神が苦心して育てた知的好奇心の強い人間の世界だ。
色々と楽しい事を発見してくれるだろう。
攻略本の活躍と、中忍から逃げる為にばらけたことが他の者の作った生命体に食い荒らされる事を減らし、段々と中忍は増え、各地に植物が増えていった。
荒れ地に、段々と緑が増えていくのは、感動的ですらあった。
リアルさは有名になり、学者が生徒を引き連れて実験に訪れたりもしている。
休憩所で会議が開かれる事が日常茶飯事になった。
この参入は多大な貢献を果たした。誰も作らなかった微生物の作成に着手したのである。
どこかの馬鹿が触手系の魔物を作り、中忍達の討伐隊が編成されて討伐が終わるまで一八歳未満使用禁止の看板が掲げられた事もあった。
そして一ヶ月後の十月一日。
再度、十八歳未満禁止の看板がビルの入口に掛けられる。
忍農園ではそれなりに動物が闊歩するようになり、魔物がちらほらと見られるようになっており、そんな中で、上忍の任命式が行われた。
森を作り、その森を伐採して作った村の広場で、零は微笑む。ここまでしてもらえたという事は、非常に都合がいい。
上忍は丁度十名だった。
大なり小なり、生態系を作って見せた猛者達である。人気のない場所でコツコツ作っていたサラリーマン、攻略本会社の社員、学者、その顔触れは様々だ。
「まどろみの時間は終わり、目覚めの時が訪れる」
零が厳かに告げる。
「この世界は、今この瞬間から動き出すだろう。今日、ここで十名の同僚を迎える事に喜びを感じている」
そうして、零が手を差し出した。
「さあ、受け取るがいい……」
創造の書・上級と葉隠れの術、白紙の巻き物と白い反物を受け取る。
「上忍は一つ自分専用の術を作る事が許される。上忍は自分固有の姿と衣装、性別を得る事が出来る。男でも女でも両性具有でも無性でも構わない。ただし、承認を得ることが必要だ。それと、性別導入に伴い、忍び農園は大人以外立ち入り禁止となる。申請は忍び頭である私を呼ぶように。姿と性別は次回の会議までに決めておいてくれ。次回会議は十一月一日夜十時。場所はここ。テーマは種族の創造だ。実装は十二月一日からとなる。会議場所を作るのは新米上忍の君達の仕事だ! 必要な道具の申請は他の先輩上忍を呼ぶといい。それと、人族が生存できる環境を十二月一日までに整えて置くように。ニンニン!」
零が消えると、またしても残された忍者たちは呆然とした。
「人族を、作る……!?」
「やはり、来ましたか。知的生命体の創造が」
「性別を作るに伴い子供を排除って、セックスありなのか?」
「外見作るって言ってもなぁ……。どうしようか……」
「エルフ作ってハーレムってあり?」
「時間加速入っているから、すぐにおばあちゃんだぞ」
そんなこんなでその場は解散する。
考えなければならない事、準備しなければならない事が沢山あった。
一方、ブイアール社では。
「次回ゲームの企画をスタートさせるんですね、社長!」
元が笑顔で問いかける。社員達の間で歓声が上がった。あまり手の掛からない(掛ける気もない)忍農園よりも、新しいゲームに気が向いていた。零が色々と次のゲームの準備を始めているのを目ざとく見つけて、大盛り上がりである。忍農園は、全てユーザーがやってくれるため、特にやる事がないのだ。
「ああ、いや、まだ検討中の段階だ。それに、出てくる生物は全て忍農園で作成された物となる。ゲームがリアルだから、生態系丸ごと作らないと破綻するらしい」
「適当に調節できないんですか」
絵里の質問に、零は首を振った。
「出来ないから、先に忍農園を作ったんだろう人族が上手くいったら、魔法パッチを当てる。新ゲームをスタートさせるとしたら、その後、訓練した人族を移住させ、大陸に生物をばら撒いて時間を進め、新ゲームがスタートする事になる」
「じゃあ、普通のRPGみたいなのは、出来ないんですね」
文子の確認に、頷く零。
「一応、小人忍者のようなNPCは設置出来るし、全ての生き物をNPCにしてしまうという手もあるが、そちらの方が面倒だそうだ。まあ、企画書が出来たら目を通すくらいはしてもいい」
元はガッツポーズをとる。既にやる気だ。彼とて、クソゲ―クソゲ―言われて気にしていたのである。
「新入社員や提携案はどうします?」
計の言葉に、零は首を振る。
「新入社員はいらんだろう。今でも暇なんだから。提携か……。そうだな、軌道に乗ってきたし……。うーん。とりあえず案を持って来て」
「社長、暇です。VRMMOのゲームが作るの難しいなら、普通のゲームも作りませんか? 俺、密かにプログラムも勉強してるんですよ!」
その言葉に、社員達が我も我もと手を上げた。社員達も、暇な間何もしなかったわけではないのである。
「あー、パソコンゲームで関連ゲームをちょろっと作ってみるか」
幸い、零もプログラムの勉強をしていた。そんなこんなでブイアールは至って気軽に忍農園の関連商品を作る事にしたのである。
そんな事も知らず、人族を作るのだと、掛け込みで上忍になる人間が着々と増えていた……。