男は、新米の神だった。神になれば、世界を創造する事となる。
意気込んで何もない真っ白な空間へと向かい、そして……途方に暮れた。
覚悟してはいたが、いざ真っ白な空間を見ると気後れしてしまうのである。
そこに、かつて信仰していた、そして今は先輩である神が訪れる。
男は礼を尽くして、神を出迎えた。
「ブイアール。苦戦しているようですね」
「は。未熟者でありますれば……神よ、私を導いては頂けないでしょうか」
「もちろんです、ブイアール。所で、初めての世界なのですから、失敗しても仕方ありません。そうですとも。失敗は確実です。失敗を元にして神も成長するのです。そうは思いませんか?」
「と、言いますと……?」
「多重クロスで遊ぶには、多くの世界の協力が必要なのです」
「はあ……。遊び、ですか……」
「それぞれの神が世界一つを差し出しあって遊んでいたのですが、最近マンネリなのです。そもそも、技術の普及の関係上、同じ世界の同じ星で遊べるのは精々5回までなのです。さすがに遊び終わった世界を消去して作り直すなどという非道な真似は出来ませんし」
ここで、ようやく男は嫌な予感を覚えた。
お願い、と神は手を合わせる。
「もちろん、二つ目の世界を創造できるようになるまでのサポートも含めて、全面的に手伝いますから。貴方の世界で、遊ばせて欲しいのです」
新米の自分にまでたかりに来るとは、どれほどの世界を遊び場に変えたのか。とはいえ、何もとっかかりもなくおろおろしていたのは事実である。
「……それで、どうするというのです」
男の言葉に、神は華やぐような笑みを見せた。
そして転生である。
神は美月零として生まれ変わっていた。
零は、ネットサーフィンをして転生物や、トリップ物、VRMMO物を読み漁っていた。
「はぁ……。文字だけで我慢していれば良い物を……」
思わず、零はため息をつく。これを世界を使って実際に再現して遊んでいたというのだから、随分とダイナミックで贅沢な遊びだ。
これからその遊びに付き合わされる事にため息をつく。
しかし、男が生まれ育った世界に比べれば、随分と世界を作る手掛かりがあった。
二つ目の世界を作る時は、今回の事を手掛かりに大切に作って行けばいいだろう。言うまでも無く、初めて作る事になるこの世界は「捨て」である。
既にその世界は、小さく五つに分割されていた。これでは各宇宙に惑星一つしか出来ない。完全に捨てにする世界ゆえの荒業である。もちろん、零だけで出来る事ではないので、先輩神の力も借りた。嬉々として世界を分割する最高神に、危うく零の魂が抜けかけたものだ。
ちなみに零は孤児である。そして、大学生になったある日、突然に遠い親戚の富豪の資産を継ぐ事になった。ここまで神の手の内である。
今度は神が主要な登場人物になるのかと、様々な神が興味津々で見ているのを感じながら、零は再度ため息を吐いた。
大学卒業と同時に、ゲーム会社を立ち上げる。
事務の遠坂計、プランナーの鈴木元、グラフィッカーの田中絵里、シナリオライターの山田文子、サウンドコンポーザー片桐聡、ウェブデザイナーの厚木弘子を雇った。総勢7人の会社である。ダミーの小さな会社のはずなのに、思ったよりも大所帯になってしまい、名前を覚えるのも一苦労である。
「初めに作るゲームの概要は決まっているんだ。元さんには、それを肉付けして、皆を指揮してしっかりとした企画書に上げてほしい。それと、聡くんには悪いけど、基本的にこのゲームはBGMを必要としない。その代り、テーマソングは作るつもりだから。それと、リラックスできてエンドレスで聞いても飽きない音楽を頼む」
そして、零は説明を始める。
かつてない手抜きの世界創造が始まる。