『ホワイトは、神様と言うものを信じるか?』
ブルーは眠っている。だから、説明するのは俺の役目だ。
『この力は、神様がくれたの?』
ホワイトがジュースを片手に、興奮を声に乗せて言う。
『正直、わからない。ただ、上司の命令で、人間を見守っていると自称する女性がいる事は確かだ。「彼女」は俺達をワクチンと呼ぶ。災害や、エイリアンの来襲と言った「病」に対抗する為のワクチンだ。まず俺達のような一握りの強力な能力者が、ついで多くの弱い能力者が産まれてくる。俺達の子供もまた同じ力を持って生まれてくる。それがワクチンの系譜だ。それを進化させるも退化させるも、正の方向に育てるも負の方向に育てるも、血の系譜を守っていくも途切れさせるも、全ては俺達に任されてる』
ホワイトは、むぅ、と考えた。
『つまり、私達の役目は、変な力を持った子供でも喜んで育ててくれるパートナーを見つけて、エイリアンと戦えって事よ』
ピンクがいうと、ホワイトは笑った。
『やっぱり、神様の為の力なんだ! 僕らは、正義の味方なんだ!』
『それは違う』
俺は、首を振ってジュースを飲んだ。全てを飲み込むように。
『まず、俺達の力は必要が無くなれば廃れていくものだ。俺達の力がいらなくなるか、害になれば、失われていく。俺達は完璧じゃない。そして、未来でエスパーとノーマルの大戦が起きると予知が出てる。ワクチンに過ぎない俺達は、人間自体に敵視されれば消えるしかない存在だ。問題は、エスパーと人間の大戦が、人間に訪れる激動の時代の前に訪れてしまうという事だ』
『つまり、私達はこのままだと、ワクチンとして機能する前に守るべき人間に皆殺しにされてしまうんです。エスパー大戦を避け、あるいは可能な限り遅らせ、「激動の時代」で使い潰され、人類を守って消えるのが私達の使命なんです。基本的に犯罪者ですし、正義の味方なんてものじゃないですよぅ』
イエローがまったりと言う。ホワイトは、目を見開いた。
『そんな! そんなのって悲しすぎる。どうにかならないの? 犯罪者って、どういう事?』
『お前も目の前で見たろ。まず、不法入国だ。それにエイリアンに酷い傷を負わせてる』
『それは正義の為じゃないか!』
俺はきつくホワイトを睨んだ。
『それは危険な考えだ。犯罪は犯罪なんだよ。俺らは悪者だって常に心に刻んどけ。決して忘れるな。そして、だからこそ、能力を悪用するな。俺達は、生まれつき人より簡単に犯罪を犯せちまう体なんだよ。人間に一度敵視されりゃ、滅ぼされるまで一瞬だ。ワクチンの司令塔たる俺達はたったこれしかいないし、これからもそう増えない。俺達が一人でも子孫を残さずに死ぬ事は、そのまま人類が劣勢になる事を決定づける。お前はもう子供じゃない。エスパーであり、これから生まれるヒーラーの一族の始祖でありリーダーなんだよ。お前には、一族を守る義務がある』
『わかんない、わかんないよ、僕』
『レッド、ホワイトを困らせるな。すまない、俺達もどうすればいいかなんてわからない。わからないなりに、もがくしかないんだ。ホワイトには、今日聞いた事をじっくり考えてほしい』
『ブルー、起きたのか』
ブルーは微笑んで言った。
『未来の技術情報をいくつか入手したよ。レッドはいつも通り、この情報を本来の開発者に送って、寄付を募ってくれ。それと、すぐ銀行に行ってくれ。大金が振り込まれてる。この手法で金を稼いでいくのは有効なようだ。これでもうお父さんからお金をせびってもらわなくても良さそうだ。今まで、すまなかった』
『稼いで返すさ。引退すればもう引籠りにならなくて済むからな。これから俺は監視される事になる。そりゃつまり引退できるって事だ。そうだろ?』
『……本当にすまない』
ブルーは深く頭を下げる。
『気にするなよ。さあ、難しい話はここまでだ。食べて飲もうぜ。ホワイト、俺達は拷問でもされた時の為に互いの素性は聞かない事にしてる。でも、互いの国の事を教え合うのは構わないはずだ。俺、アメリカでどんな勉強しているのかが知りたい』
『レッド、まっじめー! あたし、どんな食べ物があるか知りたい!』
『アメリカのハンバーガーを食べてみたいですぅ。今度、奢ってくれません? 私達からも、お菓子を奢りますから』
『……試着』
グリーンがスーツを差し出す。
俺達は、気持ちを切り替えて大いに楽しんだ。
その翌日、夢追トンネルが山崩れにあった。
即座に俺達は廃屋に集まり、寝ぼけ眼のホワイトをグリーンが連れてきた。
俺達はスーツ姿に着替えると、グリーンにトンネル内に飛ばして貰った。
ひんやりとしたトンネルに降り立つと、トンネル内で玉突き事故が起きていた。
『ホワイトさん。私が皆さんをお助けしますので、治癒をして回って下さい』
『は、はい!』
イエローが確固たる足取りで車へと向かう。その後をホワイトがついて行った。
俺も二人を追う。
「カラーレンジャーだ!」
「カラーレンジャーが来てくれたぞ!」
人々が騒ぎ出す。携帯でパシャパシャと撮られる。
グリーンは元気そうな人から片っ端からトンネルの外へと連れて行った。
俺は、燃える火の粉を片っ端から消して行った。
イエローが、軽く手を振ると、車のドアが吹っ飛ぶ。
その後、イエローは何かを押し広げる動作をした。つぶれた車内が広がっていく。
「レッドさん、お願いします」
つぶれた車内には、当然人がいる。女の人だった。足が、なんというか、うん、潰れていた。
俺は、怪我人を見ないようにしながら、抱き上げて外へと移動させた。
仮にも医者になりたいっていうんだから慣れないと、と思うんだけど、どうも俺は他人の怪我が怖い。盾担当みたいなもんだし、俺自身の怪我は割と平気なんだが……。ああ、今回も無関係ではいられない予感。
『あ……ああ……酷い……酷いよ……。治って、治って……』
ホワイトがおろおろと怪我人を抱きしめる。その傷が、徐々に癒えていく。
「この飛び出た骨は中に戻した方がいいでしょうね。レッドー!」
「よ……よよよ、よし、任せろ」
数年一緒にいりゃ、名前は知らなくとも夢はばれる。よって、医者志望の俺は応急処置担当だったりするのだ。
俺は骨を元の位置に戻し、ホワイトがそれを癒した。
「お前、絶対医者行けよ! 絶対だからな!」
「は、はい……あの、ありがとうございます、えっと、ホワイト……さん? センキュー」
『ど、どういたしまして』
ホワイトが、答える。
「カラーレンジャー! お願い、この子を早く外に出して。頭が、頭が……」
頭を怪我した子を抱いたお母さんが走ってくる。ホワイトがそれを迎えた。
「グリーン! 生き埋めになっている人がいるみたい。なんとか移動できない? 位置情報は送るから。早いとこ済ませて、反対側も見ないと……」
ピンクが行き止まりの所で叫んだ。
グリーンが、そちらに走っていく。
イエローが次の車を開けた。
こんな時、いや、ぶっちゃけ俺の能力はエイリアンをぶっ倒す時にしか使えない。俺は大人しくお伴をした。
その時、トンネルの反対側の方からマイクとカメラ、ライトを持った数名のグループがやって来た。
「あ! なんと、カラーレンジャーです! カラーレンジャーが救助活動に来ています! しかも、一人増えています! レッドの服が変わっていますね。何かあったのでしょうか?早速インタビューに行きたいと思います」
女の人がマイクを持って向かってくる。
『ホワイト、子供が気になるのはわかるけど、こっちの男の人の方が重傷!』
『わかった!』
イエローとホワイトは、レジャーに来ていたらしい父子の治療に移っていた。
「わ、私はいいですから、子供を……」
「駄目よ。子供は大丈夫。そうよね、レッド」
俺はざっと傷を見て言う。
「ああ、少なくとも死ぬ事は無い。あんたの方が重傷だ」
そこへ、ピンクが叫んで手を振りまわす。
『ホワイト! 急いで、こっちの人が虫の息!』
「レッド、あの車何か煙出てるぞ、爆発しない様に、炎を押さえつけておいてくれ」
グリーンに言われ、俺は慌てて火を押さえた。イエローが人の救出に走る。
どう見ても忙しくてそれどころではなかった。
さすがにそこに切り込む馬鹿な真似はせず、その代りにマスコミは余すことなく俺達の活動を記録した。俺達はそれを放っておいた。
ホワイトの事はいずれ救助者の口から洩れる事だし、いい事をしている姿を報道されるのは決してマイナスではない。
五時間ほどしただろうか、ようやく要救助者をマスコミ以外全員救う事が出来た。
ホワイトはもう既に立つ事も出来ないほど、疲労している。
「よし、次はあんた達だ」
「待って下さい! 貴方達の正体は何なんですか!? メンバーが増えたようですが、一体……」
グリーンが無言でマスコミを纏めて抱きしめた。
すると、マスコミの人達が消えて、俺達は息をついた。
『大丈夫か、ホワイト?』
『大丈夫じゃ、ない……くらくらする……お腹減った……』
「あ、グリーンも外でダウンした」
「なにーっ!? どうやって出るんだよ!」
ピンクの言葉に、俺は叫ぶ。
「グリーンが回復するまで、出れないんじゃない? 今レスキュー隊にご飯分けてもらってご飯タイムみたい。私達もご飯タイムにしましょ。こんなにいっぱい車があるんだもの。どれか一つに食べ物くらい入ってるわよ。皆も、命を助けてくれた私達にごはんを奢る位、許してくれるはずよ。マスコミの車が狙い目ね」
ピンクはいつも逞しい。ホワイトには何か食べさせないと本気でやばそうなので、俺もピンクの案に便乗する事にした。
狙い通り、マスコミの車には旨そうな弁当がたくさんあった。
俺とピンクはそれを持ってホワイトとイエローの所に行く。
ESP能力をフルに使った二人は飢え切っていた。たくさんあった弁当が、三つ四つと二人の腹に消えていく。ピンクもお弁当を二つ平らげ、全員が腹いっぱいになったのを確認して、俺は余ったおにぎりを一つ食べた。ふん、俺だって能力を大量に使った日はたくさん食料をまわして貰えるんだからな!
そして、無事そうな車に寝そべって俺達は仮眠した。こんな時くらい、高そうな車で寝てもいいよな?
俺が熟睡していると、呼び声が聞こえた。
「レッド。レッド。トンネル開通しちゃったみたいよ?」
「グリーンの野郎……」
土砂の上の方から光が差しており、開通したトンネルと、レスキュー隊の横で、グリーンがこちらを拝む手振りをした。
そして、俺達はグリーンの手に手を重ね、廃ビルへ移動する。もちろん、ホワイトを送る仕事付きだ。ホワイトを送って戻ってくると、グリーンは死んだように眠った。
さすがに、マスコミのいる所じゃ、休憩は出来ても睡眠は出来ねぇよなぁ。
さあ、家に帰って二度寝するとしますか。
朝、俺が家に帰ると、黒服黒メガネの怖いおっさんが玄関で茶を啜っていた。
ガッデム、今日来てるんなら今日来てるって言ってくれよ、ブルー。
しかも、見ていた番組はついさっきの救出劇。
さあ、戦いの始まりだ。