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No.15007の一覧
[0] 【ゼロ魔習作】海を讃えよ、だがおまえは大地にしっかり立っていろ(現実→ゼロ魔)[カルロ・ゼン](2010/08/05 01:35)
[1] プロローグ1[カルロ・ゼン](2009/12/29 16:28)
[2] 第一話 漂流者ロバート・コクラン (旧第1~第4話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:49)
[3] 第二話 誤解とロバート・コクラン (旧第5話と断章1をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 22:55)
[4] 第三話 ロバート・コクランの俘虜日記 (旧第6話~第11話+断章2をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 23:29)
[5] 第四話 ロバート・コクランの出仕  (旧第12話~第16話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:47)
[6] 第五話 ロバート・コクランと流通改革 (旧第17話~第19話+断章3を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/25 01:53)
[7] 第六話 新領総督ロバート・コクラン (旧第20話~第24話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:14)
[8] 断章4 ゲルマニア改革案 廃棄済み提言第一号「国教会」[カルロ・ゼン](2009/12/30 15:29)
[9] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/25 23:08)
[10] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/27 23:55)
[11] 歴史事象1 第一次トリステイン膺懲戦[カルロ・ゼン](2010/01/08 16:30)
[12] 第九話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記1 (旧第36話~第39話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 00:18)
[13] 第十話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記2 (旧第40話~第43話+断章7を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 23:24)
[14] 第十一話 参事ロバート・コクラン (旧第44話~第49話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/09/17 21:15)
[15] 断章8 とある貴族の優雅な生活及びそれに付随する諸問題[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:30)
[16] 第五十話 参事ロバート・コクラン 謀略戦1[カルロ・ゼン](2010/03/28 19:58)
[17] 第五十一話 参事ロバート・コクラン 謀略戦2[カルロ・ゼン](2010/03/30 17:19)
[18] 第五十二話 参事ロバート・コクラン 謀略戦3[カルロ・ゼン](2010/04/02 14:34)
[19] 第五十三話 参事ロバート・コクラン 謀略戦4[カルロ・ゼン](2010/07/29 00:45)
[20] 第五十四話 参事ロバート・コクラン 謀略戦5[カルロ・ゼン](2010/07/29 13:00)
[21] 第五十五話 参事ロバート・コクラン 謀略戦6[カルロ・ゼン](2010/08/02 18:17)
[22] 第五十六話 参事ロバート・コクラン 謀略戦7[カルロ・ゼン](2010/08/03 18:40)
[23] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝 [カルロ・ゼン](2010/08/04 03:10)
[24] 第五十七話 会議は踊る、されど進まず1[カルロ・ゼン](2010/08/17 05:56)
[25] 第五十八話 会議は踊る、されど進まず2[カルロ・ゼン](2010/08/19 03:05)
[70] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3[カルロ・ゼン](2010/08/19 12:59)
[71] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝2(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/08/28 00:18)
[72] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝3(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/09/01 23:42)
[73] 第六十話 会議は踊る、されど進まず4[カルロ・ゼン](2010/09/04 12:52)
[74] 第六十一話 会議は踊る、されど進まず5[カルロ・ゼン](2010/09/08 00:06)
[75] 第六十二話 会議は踊る、されど進まず6[カルロ・ゼン](2010/09/13 07:03)
[76] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7[カルロ・ゼン](2010/09/14 16:19)
[77] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8[カルロ・ゼン](2010/09/18 03:13)
[78] 第六十五話 会議は踊る、されど進まず9[カルロ・ゼン](2010/09/23 06:43)
[79] 第六十六話 平和と友情への道のり 1[カルロ・ゼン](2010/10/02 07:17)
[80] 第六十七話 平和と友情への道のり 2[カルロ・ゼン](2010/10/03 21:09)
[81] 第六十八話 平和と友情への道のり 3[カルロ・ゼン](2010/10/14 01:29)
[82] 第六十九話 平和と友情への道のり 4[カルロ・ゼン](2010/10/17 23:50)
[83] 第七十話 平和と友情への道のり 5[カルロ・ゼン](2010/11/03 04:02)
[84] 第七十一話 平和と友情への道のり 6[カルロ・ゼン](2010/11/08 02:46)
[85] 第七十二話 平和と友情への道のり 7[カルロ・ゼン](2010/11/14 15:46)
[86] 第七十三話 平和と友情への道のり 8[カルロ・ゼン](2010/11/18 19:45)
[87] 第七十四話 美しき平和 1[カルロ・ゼン](2010/12/16 05:58)
[88] 第七十五話 美しき平和 2[カルロ・ゼン](2011/01/14 22:53)
[89] 第七十六話 美しき平和 3[カルロ・ゼン](2011/01/22 03:25)
[90] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝4(美しき平和 異聞)[カルロ・ゼン](2011/01/29 05:07)
[91] 第七十七話 美しき平和 4[カルロ・ゼン](2011/02/24 21:03)
[92] 第七十八話 美しき平和 5[カルロ・ゼン](2011/03/06 18:45)
[93] 第七十九話 美しき平和 6[カルロ・ゼン](2011/03/16 02:31)
[94] 外伝 とある幕開け前の時代1[カルロ・ゼン](2011/03/24 12:49)
[95] 第八十話 彼女たちの始まり[カルロ・ゼン](2011/04/06 01:43)
[96] 第八十一話 彼女たちの始まり2[カルロ・ゼン](2011/04/11 23:04)
[97] 第八十二話 彼女たちの始まり3[カルロ・ゼン](2011/04/17 23:55)
[98] 第八十三話 彼女たちの始まり4[カルロ・ゼン](2011/04/28 23:45)
[99] 第八十四話 彼女たちの始まり5[カルロ・ゼン](2011/05/08 07:23)
[100] 第八十五話 彼女たちの始まり6[カルロ・ゼン](2011/05/14 20:34)
[101] 第八十六話 彼女たちの始まり7[カルロ・ゼン](2011/05/27 20:39)
[102] 第八十七話 彼女たちの始まり8[カルロ・ゼン](2011/06/03 21:59)
[103] 断章9 レコンキスタ運動時代の考察-ヴァルネーグノートより。[カルロ・ゼン](2011/06/04 01:53)
[104] 第八十八話 宣戦布告なき大戦1[カルロ・ゼン](2011/06/19 12:17)
[105] 第八十九話 宣戦布告なき大戦2[カルロ・ゼン](2011/07/02 23:53)
[106] 第九〇話 宣戦布告なき大戦3[カルロ・ゼン](2011/07/06 20:24)
[107] 第九一話 宣戦布告なき大戦4[カルロ・ゼン](2011/10/17 23:41)
[108] 第九二話 宣戦布告なき大戦5[カルロ・ゼン](2011/11/21 00:18)
[109] 第九三話 宣戦布告なき大戦6[カルロ・ゼン](2013/10/14 17:15)
[110] 第九四話 宣戦布告なき大戦7[カルロ・ゼン](2013/10/17 01:32)
[111] 第九十五話 言葉のチカラ1[カルロ・ゼン](2013/12/12 07:14)
[112] 第九十六話 言葉のチカラ2[カルロ・ゼン](2013/12/17 22:00)
[113] おしらせ[カルロ・ゼン](2013/10/14 13:21)
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[15007] 外伝 とある幕開け前の時代1
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/24 12:49
アルビオンは空の王国である。
言い換えれば、陸からは絶対不可侵にして、極めて防衛が容易。
なにしろ、アルビオンの空は彼らの庭なのだ。
よそ者の遠征軍は、まず遠征用に大量の陸兵を満載し、現地調達(たいていの場合は、略奪を意味する)で賄いきれないとみなされた物資を嫌々搭載した軍用のフネを引き連れ延々空を飛んで待ちかまえているアルビオンの精鋭と戦うのだから、これで楽に勝てるという考えがどうかしているだろう。

よしんば、陸にたどり着けたとしてもだ。
補給も増援も、そのためのフネは絶えず襲撃される事を覚悟せねばならない。
万が一、撤退するとなったとして、どうやって撤退すればよいだろうか。増援も補給もまともに届かないような不利な状況下で、撤退のための船団が無事に到着すると期待するのはあまりにも夢見がちだ。国内の余剰戦力や不平貴族らを消耗させるために送り込むのでもない限り、遠征は元が取れるとは考えられないだろう。

そんなアルビオンだからこそ、空軍の重要性は突出している。

これは、どこを歩いている子供でも知っているような単純極まりない真理だ。

だから、アルビオン人は本能的に自国の空軍力に対する挑戦は絶対に看過し得ない。彼らがガリアを警戒する根底にあるものは、過去にガリアが始めた対アルビオン戦を想定した両用艦隊の整備が大きな割合を占めている。だから、アルビオンはトリステインとゲルマニアという壁を欲した。

そして、ゲルマニアという壁は、確かに得難い同盟国である。アルビオンとの良好な通商関係。ガリアに対する共通の警戒心。何よりも、未開拓地を数多く所有し、領土欲がアルビオンに向かないばかりか、アルビオンの欲する木材を供給し得る能力。

故に、ゲルマニアが想定したように、アルビオンは確かにゲルマニアとの友好を欲してはいた。ただ、それは、両立というには余りにも脆いとしても、トリステインというもう一つの天秤が存在してこその前提である。アルビオンは老練な国家であった。彼らは知っている。永遠の同盟国も敵国も存在しないことを。

無論、敵を自ら作るつもりはなかった。だが、彼らは経験則から今や、片方が崩れ落ち、もう片方は壁というには、少々アルビオンにとって許容できない程に固いことを知悉し、懸念する。アルビオンの盾は歓迎できよう。だが、いつその壁がアルビオンを封じ込める壁と転じないと保証できるのか?

繰り返すが、アルビオンには、積極的にゲルマニアという同盟国を敵に回す意志はない。だが、近年のゲルマニア空軍が劇的に拡大されていることに対して、無配慮に歓迎できるわけもないのだ。一部とはいえ、アルビオンが長らく主敵と想定していた両用艦隊を撃破できるまでに、ゲルマニア空軍は錬度を向上させ、あまつさえ戦闘艦の配置も進んでいる。

なにより、これまで団結しているとは大凡形容しがたかったゲルマニア内部の政治情勢が、やや中央の意志を反映する形で進みつつあった。これは、外からの侵攻に対処するには十分であったゲルマニアのシステムが、外への侵攻にも適応し得る可能性を示唆するものである。

矛先が、アルビオンに向くとは思えない。

だが、矛先を向けられるようになる可能性は存在する。

何より、ゲルマニアの空軍は今なお空軍力の増強に著しく傾注している。先のトリステイン及びガリアとの交戦から得た戦訓を踏まえての措置であるのは間違いない。そして、今は良いだろう。同盟国がより強固になるのだから。

しかし、長期的に見てみれば、強すぎる同盟国というのは、少々考えものだ。

さて、どうしたものかと彼らは考える。

そう、あくまでも、彼らアルビオン王政府はゲルマニアの同盟者ではあるのだ。

だから、自らゲルマニアに敵対する意志はない。

だが、アルビオン人がどのようにこの事態を考えるかという点に関してもよく知っている。なにしろ、自分と同じような懸念を抱くのが、教育を受け、物事を良く知っている貴族の条件なのだから。

そして、彼らは、アルビオン人ではあっても、アルビオンという国家に属しているわけではなく、つまり、ゲルマニアを同盟国としていないということも、良く理解している。その上で、誰かが囁けば、どうなるか。

まあ、これ以上は、ゲルマニアの内政問題である。

ゲルマニアという国家を尊重し、その内政問題に口を挟むような無礼な真似を礼儀正しく善良な友好国としてアルビオンが為すわけにはいかないだろう。なにより、同盟国なのだから、彼らがどのように処理するにしてもだ。信頼して黙っておくことこそ、真の同盟関係と言える。

故に、アルビオンは沈黙することにした。名目上、完全な善意と、敬意によりて。



トリステインとは何であったかと言えば、メイジの多い水の国である。狭い国土、低い国力をメイジの力量によって補ってきたと言える国家なのだ。歴史的に見た場合、抑え込もうとした大公国に経済的にかなりの部分を侵食され、あまつさえ見下していたゲルマニアの台頭によって駆逐された国家であるが、国の崩壊がそのままメイジの消滅を意味するものではない。

ゲルマニアによって東半分とトリスタニアという経済の中心地を奪われ、アルビオンに飼われる形となったメイジの数は、爵位持ちや軍属らも含めると膨大な数に膨れ上がる事となった。もちろん、人口に占める割合が多いとはいえ、元々の人口が乏しい以上、上限はゲルマニアやガリアに比較すれば劣る。

だが、彼らには守るべきものがない。

高等法院のリッシュモン卿のように、華麗な政治芸をやってのけ、今なお駐トリスタニア全権代表代行権限相当等という胡散臭い肩書と、ゲルマニアによる保護という実質上の権力を有している貴族はごく少数だ。

役得の多い官職からは悉く追われるか、借財を取りたてるべく立ちあがった大公国にほぼ役得を絞り取られ、体面を維持するために大公国にさらに借りるか、先祖代々の秘宝を売り払うという悲惨さである。領地は、東半分が吹き飛び、さらに、戦役中にはなりふり構わない王家がかなり大鉈を振るって集金していたために、財務次卿に絞り取られた状態であった。

なによりも、王家に名目だけ忠誠を誓っていればよかった状況が吹き飛んでしまっている。何もせずとも、先祖代々の官職が約束していた利権は、少数の例外を除いてアルビオンとゲルマニアが認めるはずもない。法衣貴族らは、給料の支払いはおろか、身分の保証すら怪しくなっている。

西半分の貴族はまだ状況がましであるといえども、領土はアルビオン王家の保証と承認を受けたものではない。封建的契約は、あくまでもトリステイン王家との間にあるものであるのだから、アルビオンと結ぶ時に、どれほど足元を見られることだろうか。

弱体なトリステイン王家と異なり、アルビオン王室は権威と実力を兼ね備えているのだ。アルビオン貴族らと利権を争う以前に、生き残ることをまずは心配しなくてはならない。仮に、狭いトリステインで伯爵であったとしよう。トリステインの基準で軍役義務を課せられ、宮廷や職責上の役得と領土の上がりでまずまずの生活を送れたとしても、アルビオンの基準で軍役義務を課せられ、更になんら役得が無くなるとすればどうか。

アルビオンの官職とて、トリステイン同様に、世襲が多い以上、割り込むのは至難の業だ。辛うじて、志願という形で龍騎士隊が編成される運びとなったが、龍騎士たれるような練達したメイジでもないかぎり、その道を選ぶこともできない。

無論、トリステインのメイジといえども軍事的に見た場合戦力としての価値を有してはいる。だから、軍事義務以上の奉職で、稼ぐことも可能だろう。だが、アルビオンは財政規律を重視する傾向が強く、トリステイン西部獲得による増収分以上に軍の規模を拡大することは検討すらしていない。

つまり、トリステインに存在していた貴族のうち、ゲルマニア影響圏に残るリッシュモン卿らのような一派か、残らざるを得ない公爵家のような一派を除いた全トリステイン貴族のパイは、半分以下。残された彼らは、生き残るためには。それをもぎ取りあうような状況しか残されてはいないように見えていた。

不満?ルサンチマン?
この状況でたまらない方がどうかしている。

加えて、治安機構が全面的に崩壊しており、空賊・山賊が跳躍跋扈するような状況において、平民らといえども、その生活は安寧とは程遠いというのが実態である。もちろん、元々楽ではない事は言うまでもないだろう。加えて、困窮した貴族らは何とか絞り取らんと欲する。

必然的に行き着く先は、大量の流民である。それも、過去に類を見ないような。

一部は、ガリアやゲルマニアへと流れてゆく。特に、開拓が盛んなゲルマニアは辺境部での人手不足から、一定以上の許容余地があるがために受入も比較的前向きではあった。

だが、それは、平民の中でも特に恵まれている一定以上の知識を持つ技術職や、少なくとも、開拓し、収穫ができるまで援助がなくとも自活できるような集団に限っての話である。

言ってしまえば、ゲルマニアに来て欲しいと思われているのは、貧しい援助を必要とする流民ではない。普通の平民を対象に考えれば、歓迎される候補は豊かな自作農が筆頭であり、せめて小作人であっても数年分の備蓄がある家族であるか、もしくは村組織ごと丸ごと移って互助できる組織があるような場合に限られる。

もちろん、技術を持った鍛冶師や、貴重な食材を調理できる料理人などは、どこからでも引く手あまただろう。其れなりに錬度と規律が高いことで有名な『本物の傭兵』も、辺境で対亜人という観点からは、需要がある。

つまり、開拓地では、確かに人手が欲しい。だが、人というのはゴーレムと異なり、食事を必要とする。平民は、比較的辛抱強いとはいえ、さすがに粥と水だけでは、物事をやっていけないだろう。それこそ、餓死させることが目的の監獄でもない限り、これで良しと言える統治者はまともではない。そして、飢えた人間というのは、生きるために何でもやるものだ。

ゲルマニアは辺境開拓の経験が実に豊富である。つまり、過去の経験から、どのような開拓者が失敗し、どのような種類の人間を受け入れるべきかが分かっているのだ。その中でも、飢えた流民というのは、最悪の分類に入れられている。受け入れなど、普通は考えない。考えるとしても、よほどの状況でなければありえない。

それによればだ、援助を必要とする開拓者まで受け入れるのは、よほど大規模な開拓で、上が積極的に援助を惜しまないような条件によってのみ成功し得るとうことである。その時も、援助を必要とする開拓者を受け入れることは目的ではなく、やむを得ずに行う選択肢という意味合いが強い。

例えば、亜人の出没するような辺境最前線付近での屯田や、新規に叙爵された辺境貴族が、自らの領土を切り開く時にやむを得ずと言った場合である。

そうでもなければ、良くてスラム街の形成。普通の場合はまず疫病の流行によって自活できる真っ当な労働力まで削ぐばかりか、辺境では貴重な知識や技術を持つ平民まで損なう。これだけでも、辺境統治の頭痛であるのに、この手の流入人口は犯罪の温床であるばかりか、最悪の場合は暴動をおこし、ようやく軌道に乗りつつあった開墾事業を頓挫させかねない。

というか、スラム街の形成で、諸問題を将来的に恒常的に招きかねない。なにしろ、まともな住居に居住できず、違法に滞在している連中である。生きていくために仕方がないとこれを容認した瞬間、諸問題の発生に頭を悩ませる事にならざるをえない。だから、否応なく追い返すか、住みつくのを防止するのが一般的となる。

だれが、喜んで災いをもたらす連中を受け入れるだろうか。

だから、辺境開拓で食いつなぐことを考えた流民は、すげなく拒絶される事となる。それは、ゲルマニアにとって何も難しいことではない。なにしろ、貧しい蓄えなどないような流民だ。どうやって、辺境まで赴くのだろうか?

一番、確実なルートであるムーダに乗船する資金はないだろう。物流の改善とはいえ、フネの運賃は相応の額である。まして、ムーダは国の意向を受けているのだ。胡散臭いと判断すれば、多少金額を吹っかけて、そこで乗船希望を跳ね飛ばすくらいは、やっている。

二番目が乗合馬車だが、これとて安いモノではない。そして、乗合馬車でゲルマニア全土を横断するのは宿泊や食事を考えると、大半の連中は半分もいけないうちに身動きが取れなくなるだろう。そうなれば、不逞の輩として衛士に追い立てられるのが行きつく先の運命となる。必然的に、賊化し、討伐対象となるか、どことも知れぬところに堕ちてゆくかだ。

後考えうる数少ないまともな選択肢の中で可能性があるものは、何とか町や村で働きながら、とびとびに辺境を目指す方法だ。歩いていく分には、金はかからない。食料と水さえあれば、まあ時間はかかるが歩いていけるだろう。当然、健康で其れなりの体力があれば、何とかという条件が付くがやれないこともない。そして、健康な若者ならば、たどり着いて、受け入れられることもあるだろう。

だが、そもそも健康な若者ならば傭兵やその他の移民団に受け入れられる可能性の方が高いのだ。そして、健康な若者というのは、栄養状態の良い自作農の子供や、最低限の商売をやっているような連中や、軍人の子供に限定されるのがハルケギニアの一般的な栄養事情である。

さて、飢えた彼らはどうすべきだろうか?

そのままでは、餓死するのみだ。
ゲルマニアの経験則通り、生きるためには何でもやって、生存の努力を行わざるを得ない。




さて、この悲惨なトリステインと異なり、ロマリアは光輝が溢れんばかりに繁栄を謳歌することが可能であった。『光の国』とはよく言ったものであるが、腐敗だろうが、汚職だろうが、金の光で満ち溢れていることには変わりがないだろう。

そして、建造物に美術的価値を持つものが多いことから、ロマリアの町並みは少なくとも表面上は壮麗極まりない。そこに、経済上の潤いがもたらされることは、確かにロマリアをして光の国たらしめる。

まず、ガリアという地理上の障壁が、トリステインの流民を吸収し得た。対ロマリア懐柔政策から、一定量の流民や貧困層を敢えてゲルマニアの辺境部が吸収していたために、これまで嫌々とはいえ、拠出していた貧困層向けの金も随分と削減することが可能であった。

ばかりか、新たなポストをゲルマニアが創出し、うるさ型を追い出したことによってロマリアの聖職者らは一般的には自由になったように感じられる状況である。なにより、派閥抗争に勤しむ枢機卿らにとって、有力な一派であったマザリーニ派が失墜したことに加えて、枢機卿にまでは至らないものの、無視するには危険な一派が国外に出ていったのだ。

それも、ポストが増えるという形であるのだから、歓迎こそすれども、誰も損をしないように考えられているのだから不満が出るはずもない。むしろ、喜び勇んで、この状況を真っ先に堪能しているのが大半である。

この事を、快く思わないものはほんの一部だろう。例えば虚無や、始祖のことを原理的に追及し、探究するロマリアの暗部に身を浸しているような本物の狂信者を除けば。故に、彼らロマリア枢機卿団を筆頭としてロマリア坊主にとって現状はさほど不満を抱くべきような状況でもない。なにより、ゲルマニアの経済的発展とアルビオン・ガリア間の流通事情改善は、従来よりも安価に物資がロマリアにもたらされる事を意味する。

やや、安全保障上の懸念であった両用艦隊はゲルマニアとの衝突で摩耗し、懸念していたガリア王室の動向も、無能王が統治しているとあらば、さほど警戒を必要するものでもないように一般には思われている。なにしろ、人形遊びに興じるような無能な王だ。戦争どころか、国内を安定させるのが、限界だろう。一般の予想はこうならざるを得ない。

それらの事情から、経済は発展し、残っている貧しい階級にもそれなりに経済上の恩恵がもたらされ始めた。当然、治安も劇的に改善する。従来が酷過ぎたと言えば、其れまでではあるが、状況の改善は、巡礼を安全なものとし、巡礼者を増大させうるのだ。

つまり、信仰は高まり、なにより重要な事に、巡礼者が落としていく寄付金は莫大な額に膨れ上がる。聖職者は、経済学でいうところの消費行為に勤しむ余裕が生じる。ここに至れば、良質なサイクルが形成されたといってよいだろう。

つまりは、人々が安心して、経済上の営みを行い、発展する事が可能な状況ということだ。それだけに、彼らは、繁栄を謳歌する事が可能なだけの条件を十分以上に満たしていると言えた。

献金が増大し、物価が安定し、権力への監視が弱まり、あまつさえ隣国である意味で圧迫を覚えざるを得ないガリアは、まるで気力がない。対外的に策謀を試み、陰謀をめぐらすことは、おもしろい選択肢であるだろう。なにより、彼らは自分達の影響力がここしばらくでは、かつてないほどに上昇しているように感じているのだ。

これからは、再びロマリアが大きな影響力を行使するために行動するとしても、その結果はかなり良好なものが期待できるように思えてならないのだから。



さて、ここで全く無力化されたと称されるガリアを語ろう。

実は、この時代、ガリアは何ら記述すべきことがない。

一部の歴史家は、この時代は、記述することすら行う必要がないと考えるほどに、大きな出来事は何もなかったのだ。唯一の事象は、無能王即位前後の出来事を記述するのみで、その後は本当に、何もないのだ。

一部の叛乱が唯一の騒乱であり、それも友好関係にあったとされるゲルマニアが協力してくれたことによって、なんら問題沙汰となることもなかった。少なくとも、ガリアではそう信じられている。

言い換えれば、しごく平穏であった。

歴史家の共通理解としては、無能王は、『良く統治し、国内に混乱をもたらさなかった稀なる無能王である』と称されるほどに、国内を平穏に統治していたとすら言える。

奇妙なまでに、平穏であった。

故に、政治学ではこの時代を断じて無視し得ないのである。



そして、友好国とガリアから称されたゲルマニアの記録は、ひたすらガリアを罵倒している。もちろん、表面でこそ言葉を選んではいるが、私的な記録や、通信は明らかに敵意を隠していない。

『あの薄汚い手長の影を叩き潰せないのか』
ロバート・コクラン辺境伯、艦隊演習中の一言

『奴に比べれば、余とて清廉潔白である。』
アルブレヒト三世、近臣の記録による

『ガリア!ガリア!ガリア!いつも、貴様らか!』
ゲルマニア外交担当者、非公開の場での発言

『やむを得ない誤射は、ガリア方面に行うように。』
ゲルマニア空軍、統合演習時に指揮官通達に付随事項として。

『諸君よりの、ガリア産ワインに関する不満への解答。ラベルに腐臭がするとはいえ、中身は問題ないので腐臭は我慢するように。』
ゲルマニア艦隊司令部、兵站部非公式通達


それは、憎悪と形容せざるを得ない程のものであり、ぬぐいがたいほどの敵対心を暴発させなかったゲルマニアの国家理性という物のおぞましさを暗に物語るほどである。彼らは、ゲルマニアという国家は、はっきりと仮想敵をガリアと想定していた。

そこまで憎いガリアに対して、自ら先制して攻撃を行うという愚行が議論されなかっただけ彼の国の合理主義は徹底しているとも言えるだろう。例え、その前提条件が絶対にガリアが何か仕掛けてくるという確信が彼らにあり、機会あれば叩きのめさんと欲していたとしてもだ。

経済的には辺境部の開拓に傾注し、国内は選帝侯らに代表される有力貴族との抗争があるとはいえ、ゲルマニアという国家は、国家理性として対ガリアを最優先とせざるを得ない程、ガリアの脅威を自覚していた。そして、攻め込む愚を悟り、油断なく防備を固める。この歴史上の賢明さは特筆に値する。例え、それが今日では議論を呼ぶ方針であったとしてもだ。

歴史的に見た場合、隣接する強大な二国家が平和裏に共存する困難は、なかなか興味深い課題ではある。それを、解決すべく取り組むのも実に結構ではあるものの、ゲルマニア軍部にとっては、少なくともそれは畑違いの仕事であった。

諸候軍からなるために、反中央色の傾向が強い陸軍はともかくとして、最初に組織的に接敵せざるを得ない空軍は、紛れもないほどに対ガリアを意識せざるを得ないという事情もあり、ゲルマニアの軍事的主軸は、常に対ガリア方面に配置されていた。

特に、再編が進みつつある空軍は、アルビオンという同盟国とトリステインという一つの厄介事を処理できたためにさらに、辺境配置を推し進める一方で、対ガリア戦を意識した配置を行うことができるほどに、状況は改善しているかに思えていた。

トリステイン方面に従軍した貴族らへの恩賞問題をやや財政上の課題として抱えてはいるものの、ゲルマニアは、その程度で傾くほどには脆弱ではない。むしろ、大公国やアルビオンからむしり取れると財務官僚は睨み、その皮算用すらはじき出す状況である。

トリステイン貴族らににらみを利かせるのは、当該方面の辺境伯らで十分であると判断し、戦力上の余裕を捻出。ひたすら戦技訓練に勤しむゲルマニア軍の練度は、極めて高水準にあり、経済も順調に発展。

ゲルマニア経済は、順調に拡大基調にあり、フロンティアの効果も絶大である。辺境を開拓すべし。商会の発展に邁進すべし。金儲け次第では、魔法の使えない平民ですら貴族になることも夢ではない。なにより、チャンスがあるのだ。ゲルマニアの平民は、他国の平民と違い、夢を見て昇り詰める努力に期待できる。

統治階級にとっても、ヴィンドボナと積極的に対峙し、政治的権力をもぎ取ろうとする有力諸侯でもない限り、状況はさほど難しくない。やや課題であった人口問題も、不足分は、トリステイン流民から選べる状況なのだ。

もちろん、魑魅魍魎が跳躍跋扈するのが、ゲルマニア政界である。油断は、即命取りになるために、政治上の配慮は常に必要不可欠だろう。なにより、辺境諸候らが動員に応じる、応じないで相当の政治的配慮を必要とするように、中央集権派と分権を求める有力諸侯派の政治的抗争はかなり激しいモノだ。

国営のムーダからして、本来は通商上の諸権益を付随する構想が存在したものの、各種利権のバランス上、運送船団という形式に留めるという政治的な配慮を必要とした事や、平民の中でも経済的に成功している商会はある程度政治に関わらざるを得ないという点からも、この国の政治が如何に油断ならないかを示唆している。

だが、ゲルマニアの政争は、基本的には統治階級内部の闘争であり、一般の平民にはさほどの影響も及ぼさない。何しろ、ゲルマニアは、広大な面積を誇る。はっきり言えば、広すぎる。だから、地方を抑え込めないのではないかと素人は誤解するが、それは全く逆なのだ。

ヴィンドボナという中枢を抑えられねば、なにもできないのだ。経済力・人口・そして空軍という軍事的資源。そして、なによりも、情報がヴィンドボナに集中しているのだ。故に、政争の中心地はヴィンドボナの利権という点に関わってこざるを得ない。

まして、地方の多くは未開地域。亜人と対峙しつつ、討伐軍と戦争をしたいほど、ゲルマニア貴族らはギャンブル好きでもないようである。無論、奔放なゲルマニア貴族が、この事を考えてもみなかったということまでは、保証の限りではないが。

かくして、権力を欲する者たちは数多く、かつ内部で政争に勤しんでいるとしても、ゲルマニアという国家を欲するのであり、他者への臣従を望むものではないゲルマニア貴族らは、基本的に対外的になびくように見せかけることこそ多くとも、歴史的には外部からの干渉を排斥して、ゲルマニアという国家を形成してきている。

彼らは、実に巧妙なのだ。
例えば、ガリアに対峙する番犬として皇帝を置いても良いと考えられる程度には。

そして、皇帝が番犬たりえないのならば、交代すればよいと。
番犬以上になりたいと欲すれば抑え込もうと。

もちろん、皇帝側とて其れは百も承知している。

だから、政争が絶えず、この方面に関する限りゲルマニアは新興の国家にもかかわらず成熟しているとみなされてきた。もちろん、合理的利害の観点から物事を考えるという新興国特有の癖はあったが。

故に、ゲルマニア政府は、今後一層の対ガリア政策を推進し得ると判断する。

少なくとも、ガリアが問題であり、国内での政争に関わらず、これは意識せざるを得ないというコンセンサスはあったのだから。

そう、判断できる情勢であり、ゲルマニアは合理的な国家の常として、合理的ということを信用していたのだから。


ハルケギニア政治学における諸外国の基本的な状況と思考に関する考察。
『ハルケギニア史一考』より。

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あとがき
状況をまとめてみたものになります。

ちょっと、頭の整理を兼ねて、各国情勢を。
・アルビオン:国家に永遠の敵も味方もないのだ。
文句あっかbyパーマストン

・ガリア:パクス・ガリア
まったく問題がないのだ。

・ロマリア:ああ、宗教的権威万歳
十字軍、始めますか?

・ゲルマニア:国家理性万歳
くたばれガリア。できれば、ロマリアもろとも消えてくれ。

なんか忘れていると思ったら、
クルデンホルフ大公国を忘れるところだった。

めんどいので以下大公国。
・大公国:ヴィネツィア目指して商権拡大
ゲルマニア、あそことは経済的に良いお友達になれるかも。

なんか、他にもあった気がしますが、取りあえず現状これで。


うん、話は変わるけれども、考えれば考えるほど、メイジの在り方にこだわる某公爵家の末娘さんとか、政治向きじゃないよね。

平民の無力化かつ支配の確立以前に、暴動起こされそうな気がする。

アンアン・テレジア化計画のためにも、信頼できる武官や女官に、外交官とか必要だけど、正直ワルドくらいしか適合するのが今のとこ思いつかない・・・。

無理やりアニエスあたりに頑張ってもらうべき?
でも、手柄すらないのにどうやって出番を?

というのが、アンアン・テレジア化計画の蹉跌です。

頑張って解決できるように前向きに検討中。


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