「先行した龍騎士隊より伝令。“ワレ異常ヲ認メズ。”」アルビオン王国本国艦隊、第二戦隊、旗艦アーク・ロワイヤル。その名も音に聞こえたハルケギニアきっての戦列艦であり、既存の戦列艦としては最大級を誇る。そのアーク・ロワイヤル艦橋は、居並ぶ高級士官たちの緊張した精神状態を反映してか実戦そのものの張り詰めた緊張に包まれていた。「これで、空域の安全は、一応は確保されたというわけですな。」「いや、対地偵察次第だ。ピケット艦の報告あるまで、三種戦闘配置を維持。」アルビオン王国国王陛下の護衛としてトリステイン方面へ進出してきた第二戦隊。彼らは、全艦砲口を命令あり次第いつでも開けるようにしつつ、敵地襲撃巡行さながらに名目上の友好地域上空を通過中であった。「ピケット艦、ホレーションより急報!平穏なれども、波高し。」「波高し?間違いないな!?」「間違いありません!」平穏なれど、つまりは現在のところは敵意無し。されどはっきりと戦備を整えつつあるという前衛の報告は、歴戦の彼らをしてじりじりと恐ろしい焦燥感と危惧を感じずにはおられなくするものである。なにしろ、第二戦隊は、戦列艦4隻を含めた重戦列戦隊ではあるものの、本国艦隊のごく一部に過ぎない。「次発の龍騎士隊は予定を繰り上げて発進させろ。それに反応があれば、反転する。」「全艦対龍騎士戦闘を想定せよ。」「第二種戦闘配置!」艦橋で矢継ぎ早に出される指示を、伝声管や伝令が手際よく艦内へと伝達し、急速に戦備を整える。「よろしいですな?」本当に可能であれば、今すぐにでも全力で反転したい。そう言わんばかりの表情をしながらも居合わせるトリステイン・アルビオンのお偉方にクルーの意見を代表して提督がお伺いを立てる。この巡行の目的は完全に達せられた。灰色かと思い、確かめるべく派遣されてきたが、真黒い外の何物でもないことが明らかにわかる。「状況が状況ですからな。致し方ありますまい。」「陛下は御帰りになられたのだ。多少の危険を冒してでも、進むべきではないのかね?」当然、お偉いさんという偉い荷物を抱え込んでいる艦隊にとっては少しも嬉しいとは言えない事態だ。なにしろ、彼らは、状況が黒ければ、それに対応するように王都から指示されている。つまり、渦中に飛び込む必要があり、そのお乗り物はありがたくも光栄なことに彼ら第二戦隊となる。「レコンキスタ、でありましたか。連中と本気で交渉なされるおつもりですか?」「交渉?まさか!」面白い事を聞いた。そう言わんばかりに笑いだす法衣貴族に思わず、顔を顰めつつ艦長が一応の礼節を保ったまま、気が狂っているならブリッジから叩きだしてやろうと決意を固めて問いかける。「いかがされました?」「艦長、言葉の通じない獣相手に交渉できるのかね?」」その事を察したか、我関せずと我が道をゆくのか。彼は、実に愉快な事を提言されていると言わんばかりに、盛大に笑顔を浮かべてくる。いっそ優しいとすら言えるような微笑みを浮かべ、慈父が愛しい子どもに問いかけるような問いかけに一瞬怯んだのだろうが、艦長はそれでも、平静を保った。「無理でしょうな。」言葉の通じない亜人は、ことごとく討伐の対象である。まあ、エルフのように言葉が話せても不倶戴天の敵というものが存在するとはいえ、言葉も通じないような連中はそもそも問題にならないのは言うまでもない。「そうだろうともさ。だから、我々はせいぜい交渉のまねごとに付き合って差し上げて、えさでも放り投げてやるだけではないか。」「よろしいのですか?飼いならせない獣は、殺すほかに使い道は無いはずでありますが。」使い魔のように契約で飼いならすなり、龍騎士の龍のように有益に飼いならせるならば、餌を与える価値もある。だが、下手に亜人の群れの前に餌を投じるのは、自殺行為であるか、そうでなくとも基本的には無益極まりない。「いや、実にその通りなのだよ。私としても、そうしたいのは山々なのだ。」実に同感であると、全身で同意を示しつつ、顔を顰めるという器用なことをやりながら、彼は実に忌々しげに肩をすくめる。そうすることで、あたかも不本意極まりないのだと示しているのだとすれば、明日路頭に迷うことになったとしても、即座に役者としてやっていけるだろう。「ただ、何も我がアルビオンが処刑の役目を独りで背負う事はあるまい。」「なるほど。我が国には、頼りになる同盟国がありますからな。」帝政ゲルマニアは実に厄介だが、それでも同盟国である。それも、格段に優れた軍事力を保持し、それらが豊富な実戦経験を持ちそろえたという同盟国として実にえ難い戦力である。故に、理屈の上では、アルビオンが単独で問題を処理できないであれば、ゲルマニアの力を上手く使う必要がある。と、理屈をこねまわしている理論屋ならではの理屈で持って彼らは、アルビオンの王政府を動かした。「私としては甚だ不本意だが、今のアルビオンは戦争よりも政争で手がいっぱいだ。ならば、他を頼るほかにあるまい。」なによりも、アルビオン王室をしてこのような方針を決定させ得たのはひとえに国内情勢によるものである。アルビオンは、未だ外征はおろか、防衛戦すら危ぶまれるほどに国内情勢が不穏なのだ。先日、ゲルマニアの北部に大量亡命した旧モード大公派の動向が急激に不穏化して以来、国内の問題は急速に悪化し、今や問題が表面化する寸前となった。はっきりと言えば、アルビオンは、外のことに関心を割く余力がほとんどない。「せいぜい、同盟国に期待するとしようではないか。」故に、彼らは、同盟国であるゲルマニアに期待する。そう。ゲルマニアが、同盟国であるアルビオンに期待するのと同様に。ギュンターと頭を痛めながらも辛うじて、ロバートは必要な戦力の抽出計算と、増援の見通しを立案していた。何を選択し、何を捨てるかが難しいとはいえ、基本的に選択肢があるだけましというものだと、歎きながら。「では、ムーダを戦力と為すと?」「正確には護衛艦と護衛要員をだ。」手にしたカップが空いたために、従兵に手配するように指示を出すと、ロバートは資料の中から、航路防衛についている部隊のリストを抜き出し、該当する部分を指さす。軽コルベットを主体としたムーダの護衛部隊は対艦戦闘能力こそ、劣る。だが、人員を運ぶ点から多数の傭兵や、護衛用の龍騎士も少数とはいえ搭載しているため、フネの戦力こそ乏しくとも、鎮圧戦に使う分には十分に戦力と見なせる。「政治的にも、中央の色が強い。動員になんら問題はないはずだ。」ムーダという国営の運送船団は、その成立過程からして明らかに中央の意向を濃厚に反映した組織だろう。さらに言えば、比較的中央の統制に服している空軍の中でも、ムーダの護衛部隊はヴィンドボナ派閥で完全に固められ、物流を掌握すべく図られてきた。当然、ロバートにとっては使いやすい部隊と言える。なにより、北部全域での指揮権上、最も抵抗なく動員し得るのだ。「しかし、それとて戦力としては不完全であります。」だが、その戦力はギュンターが危惧するように、完璧ではない。いや、護衛戦力としては十分以上の水準を保っているが、純粋に目的が違う用途に使うには、いささか数が足りないのだ。「わかっている。だから、辺境諸候を部分的に動員せざるを得ん。」「動員されるので?」「せざるをえまい。」その事を考えれば、周辺の諸候軍に頼らざるを得ない。そのことは自明だが、ギュンターにしてみれば、過剰なほどに彼のボスは諸候軍の動員を忌避している。何しろ、つい先ほどまで、対亜人の前線から戦力抽出を本気で検討するほどだったのだ。無論、其れが不可能であると認め、適切な次善の策を模索しているという点でボスの能力に彼が疑問を呈するわけではない。だが、その点が彼には引っ掛かって仕方がなかった。「だとすれば、全面動員ではなくてよろしいのですか。」政治的に中央の統制に服したがらない諸候を率いるのだ。部分動員では、公平性を欠くではないか?或いは、全面動員をかけたほうが、まだましではないのか。なにしろ、部分動員とは、特定の諸候に助力を求めるようなものだ。言い換えれば、口の軽い雀に特定の諸候へ依存していると受け取られかねない。「応じんよ。」それは、ロバートとて考えていないわけではない。むしろ、考えた末の部分動員である。「はっ?」「選帝侯らの息がかかった諸侯は全面動員を拒むということだ。」そもそも、帝政ゲルマニアの弱点は国力の割に、纏まりが弱く、ガリアに比較して常に国土の割に実力で劣っているという点である。だが、言い換えれば、その分諸候らの権限は強い。中央集権を恐るべき手腕でいつの間にか成し遂げつつあるガリアと異なり、ゲルマニアで中央集権を為すには、この諸候らの抵抗を粉砕し、ひれ伏させる必要がある。だが、大人しく屈服するほど諸候は牙を抜かれているわけではない。当然、隙あらばこちらの網を喰い破ろうとするだろう。「・・・それほど、我らは目の敵にされていると?」「ご名答。邪魔なのだろうな。まあ、お互い様故に、我らは極めて同じ事を考えているということになるのだろうな。」だからこそ、全面動員という形で踏み絵を迫ることは、政治的に危険すぎるどころか悪手だ。向こうが積極的に敵対することを選択していない以上、こちらから敵対するように仕向けるのは、エスカルゴが迂闊にも宣戦布告してくるのを待ち望んでいるビスマルクでもない限りやるべきではないし、やれるものではない。今の均衡を崩すことは、とんでもない事態を惹き起こすことがほぼ確実なのだ。「故に、個人的な友誼による形で、処理する。」「個人的な友好関係でありますか?」ロバートは、軍人である。先立っては北部諸候らと共同でトリステイン方面に従軍し、ある程度以上の戦功とそれに伴う恩賞を従軍した諸候らと分かち合っている。身も蓋もなく言えば、稼がせた。つまり、近隣の諸候にしてみれば、隣人として付き合っていて損の無い相手だ。なにより、近隣の諸候にしてみれば、アルビオン系貴族らが暴動を起こせば問題が波及しかねないこともあり、比較的動員に応じてくれる確率は高い。「辺境諸公は助け合わねばならない。そういうではないか。」もともと、辺境諸公はお互いに兵力の融通を行い、亜人討伐戦はもとより、警戒線の構築や通商にかけても其れなりに関係が深い。北部新領は、やや中央集権の観点からダンドナルドに強力な戦力と経済的基盤が整備されてはいるものの、やはり周辺諸侯との関係を適当に処理できる物でもないために、隣人として助け合うには困らない程度の関係は構築している。「まあ、もちろん遠方の貴族らが援助してくれるに越したことはないがな。」無論、頼りすぎるということは望ましくない。何より、兵力は多いに越したことは無いのだ。当然、近隣の有力な貴族で、協力的な家門には支援を要請するべきだろうし、ヴィンドボナにも可能であれば支援を要請しておくべきではある。「では、カラム嬢の御実家でも頼られますか?」「政治的には悪くはないが、遠すぎる。」信頼はできる。だが、あまりにも時間がかかりすぎる選択肢だ。当然、事が終わった後に、支援を要請し、経済的な援助を求めるのは良いだろうが、即応性が求められる今となっては、むしろ時間が惜しい。「確かに、時間との戦いにならざるを得ませんな。」ギュンターとロバートは一つの共通点を持つ。それは、彼らが共に非メイジという点であり、同時にフネと船に乗り組んできたということである。要するに、彼らは船頭が多くなる事を嫌う。そして、なによりも、今手元にあるもので何とかやりくりする現実的な習慣が身についている。なにしろ、洋上でものが足りないと嘆いたところで、足りないものは決して湧き出てくるものではないからだ。「まあ、実際には各員の伝手を頼るしかあるまい。」その意味で、北部新領に近隣から奉職しているメイジらの実家や、関係者らは支援要請先としては当然有望である。なにしろ、一門の人員を帝政ゲルマニアの中央集権推進派が統治する北部で奉職させることを認めている面々だ。こちらの内情を知りたいという思惑などもあるにはあるだろうが、少なくとも、ある程度こちらに肩入れているのは間違いない。なにより、近いのだ。時間が大きな要素を占める時、この事は絶対に無視し得ない。「だが、個人的には、本当に軍を動員せずに済ませられないかとの思いがある。」「平和的な解決でありますか?」「最小限の武力行使と言い換えてもよい。扇動者を捕えられれば良いのだが。」少し頭を働かせれば、絶対におかしいのだ。何故、アルビオン貴族が、今蜂起する必要がある?モード大公派と言えば聞こえは良いが、国家の庇護なき武力集団というのがせいぜいの実態だ。それを、ゲルマニアが様々な思惑があって一時的にせよ、受け入れているのが現実なのだ。抑圧されていると亡命貴族らが本気で陰謀論を信じ込むには、少々利害関係が乏しすぎる。アルビオンに帰れば、狩りたてられる連中が、ここで監視下にあるとして蜂起するには、少々動機が弱すぎるだろう。「また、例のガリアの長い手でありますか?」当然、考えれば考えるほど、とある国家の長い手を想像せざるを得ない。彼らにしてみれば、今更ながら、なんとも長いことだと忌々しい限りを歎かざるを得ない程だ。アルビオンといい、トリステインといい、ガリアはどこまで手を伸ばしているのだろうか?本当にその勤勉さには休養を勧告してしかるべき水準だ。「ありえないと言えるかね?」だからこそ、もしやガリアでは?とロバートは勘ぐり、ギュンターが常識的な見解としてガリアだろうか?と提示したことがありえない筈もないだろうと、示唆する。「・・・断言致しかねます。」「そうだろうよ。まったく、ハルケギニアとはガリアの遊び場だったのかね?」アカども以上に、我が物顔でガリアが掻き乱してくるとは、本当にメイジ至上主義に囚われない優秀な国王がこれほど厄介だとは!全く、ガリアの無能王とやら、可能であれば一度その顔を見てみたいものだとロバートなど本気で思っている。「北部新領では、かなり厳重な防諜体制を構築したはずでありますが。」「ギュンター、上官を馬鹿にしているなら止めておくことだ。」ロバートにしてみれば、本業は情報士官などではなく海軍士官だ。情報戦など、一般的な知識以上には知りえていないし、多少の素地があろうとも、本業の連中と渡り合えると自惚れるほどに間抜けでもない。あくまでも、他よりは多少ましという程度の防諜ではガリアに面倒が増えたと思わせる程度の効果しか期待できないと諦観する程度には現実が見えている。「それにしても全く、人の庭に手を入れるとは無粋極まる連中だ。」「現実に、扇動者を捕まえられるでありましょうか?」疑問としてあるのは、扇動者の有無と、その確保がし得るかということにある。仮に扇動者を発見し得たところで何事もなく鎮圧し、取り押さえられると考えるのは、あまりにも楽観的に過ぎる見解だ。「捕まえるのだ。そうしなければ、やっと終わった戦争を、またしなくてはならないのだぞ!」だが、戦争に等しい鎮圧戦を行うより、よほどましでもある。だからこそ、断じて、これは火種を早期に消さねばならないのだ。ゲルマニアの内政事情以上に、拡大させてしまえば様々なところから、いらぬ介入を受けることにもなりかねない。そうなれば、事の厄介さは急速に跳ね上がっていくだろう。そうでなくとも、厄介なのだ。これ以上の問題は、できれば避けたい。「最悪には備えつつ、扇動者を穏便にとらえよと?なんという無理難題を・・・。」「なに、部下を限界まで酷使するのが、提督の特権なのだよ。」部下を酷使する。その点に関して、コクラン卿に勝らずとも劣らぬことを彼の留守居役は行動によって証明してきた。少なくとも、彼女が勤勉であることを疑う属僚はいないものの、同時に限界まで能力を酷使することも骨身にしみて実体験済みである「ミスタ・ネポス!」そんな評判の女傑に呼び出されるのだ。属僚達から、屠殺場へ赴く家畜を見送るような目線に見送られて出てきた哀れな一官吏に対して、彼女は実に良い事を思いついたと言わんばかりに微笑みすら浮かべた。「ミス・カラム。何事でしょうか?」「卿は、受入担当。顔も効きましょう?」きっと碌でもない事に違いないと思いつつ訊ねた結果は、実に単純明快に嫌な予感を保証し得るものであった。アルビオン貴族らの受け入れに、確かに彼も関与していた。ちなみに、そのことも、この目の前で微笑みを浮かべていらっしゃる上司が決定したことである。「・・・ええ、受入担当ではありますが。」誇り高い高位貴族らの受入に苦労し、この運命は無いだろうと思いつつ、彼は諦めの入り混じった解答を口にする。他に何を口にしえようか?何しろ、相手は自分が受入担当に携わっていたことを知り、ついでにいくつかの疑惑案件の処理に失敗したことを知っているのだ。その関連性を突かれて失点を拡大しないためには、ここで唯々諾々と聞くほかにない。「結構!ええ、話が進んで結構です。」「その、何をお望みで?」だが、この情勢下で上司が望む事と言えば本当に厄介なことしかない。そうでもない限り、多忙極まる彼女が呼び出してくるはずもないではないか、と誰だってわかる道理だ。そして、この場合、予想は実に的確極まりなかった。「彼らと交渉をしましょう!」彼女にとって、時間を稼ぐことは職務上何よりも優先されてしかるべきである。何しろ、手元戦力が乏しく、上位の上司が大急ぎでこちらに急行している情勢下において最も有効なのは時間を稼ぐことなのだ。そして古今東西時間を稼ぐ上で、交渉は尤も有効な手段の一つである。その発想は、なんら間違ったものではない。「私が、でありますか?」その使者に赴くものでもない限り、という但し書きがつくが。何事も、自身が当事者とならない限り正論は、実にすばらしいが、それが自分に関わってくるとなるといくら正論とはいえ、なかなか飲み干すのは困難だ。「まさか、そこまではお願いできませんわ。さすがに。」「では何を?」多少なりともましであってくれればよいなと思いつつ、ネポスはきっと交渉の使者に勝らずとも劣らないどうしようもないぐらい嫌な任務を課せられるということに、賭けがあるなら全財産を賭けても良いくらいに覚悟を決めていた。きっと、碌でもないことに違いないからだ。「いえ、まず話を聞こうかと思いまして。」物事を交渉する際に、相手側の話を聞くのは実に必要不可欠である。それもまた間違いのない事実だ。交渉するにも、拒絶するにもまずは、声明を聞き、対応を検討しなくてはならないのだから間違ってはいないだろう。時間を稼ぐことも可能であるのだから、方針として、ゲルマニア北部全体の利益もよく考えられているとコクラン卿も評価なさるだろう。なにより、交渉という形式で無いだけに、独断専行の誹りを受けることもない。「ええ、大変結構ですな。」だが、いくら言葉を飾ったところで要するに、話を聞きに行かねばならないということだ。先方がこちらに赴いて、大いに要求を論じたてることをしでもしない限り、こちらから行かねば相手の主張を聞くことすらおぼつかない。当然、そのためには誰かが話を聞きに行く必要がある。「ですから、卿にはお手数ながら、御話を聞いてきてほしいのですよ。」「・・・本気でありますか?」「ええ、もちろん。」それを、一般には、使節というのでは?と思いつつ、何故私が?という疑念と反論を込めた問いかけに、彼女は実に素敵な微笑みを浮かべると、力強く頷いてその意志の所在を明らかにする労を惜しまなかった。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~あとがき地震に日本は慣れていると思っていましたが、やはり自然の恐ろしさを改めて思わざるを得ませんでした。直接お手伝いできることはないのですが、募金等できることをしよう…と考えているところです。こんなSSですが、みなさんの娯楽となって喜んでいただければと思っています。