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No.15007の一覧
[0] 【ゼロ魔習作】海を讃えよ、だがおまえは大地にしっかり立っていろ(現実→ゼロ魔)[カルロ・ゼン](2010/08/05 01:35)
[1] プロローグ1[カルロ・ゼン](2009/12/29 16:28)
[2] 第一話 漂流者ロバート・コクラン (旧第1~第4話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:49)
[3] 第二話 誤解とロバート・コクラン (旧第5話と断章1をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 22:55)
[4] 第三話 ロバート・コクランの俘虜日記 (旧第6話~第11話+断章2をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 23:29)
[5] 第四話 ロバート・コクランの出仕  (旧第12話~第16話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:47)
[6] 第五話 ロバート・コクランと流通改革 (旧第17話~第19話+断章3を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/25 01:53)
[7] 第六話 新領総督ロバート・コクラン (旧第20話~第24話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:14)
[8] 断章4 ゲルマニア改革案 廃棄済み提言第一号「国教会」[カルロ・ゼン](2009/12/30 15:29)
[9] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/25 23:08)
[10] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/27 23:55)
[11] 歴史事象1 第一次トリステイン膺懲戦[カルロ・ゼン](2010/01/08 16:30)
[12] 第九話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記1 (旧第36話~第39話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 00:18)
[13] 第十話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記2 (旧第40話~第43話+断章7を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 23:24)
[14] 第十一話 参事ロバート・コクラン (旧第44話~第49話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/09/17 21:15)
[15] 断章8 とある貴族の優雅な生活及びそれに付随する諸問題[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:30)
[16] 第五十話 参事ロバート・コクラン 謀略戦1[カルロ・ゼン](2010/03/28 19:58)
[17] 第五十一話 参事ロバート・コクラン 謀略戦2[カルロ・ゼン](2010/03/30 17:19)
[18] 第五十二話 参事ロバート・コクラン 謀略戦3[カルロ・ゼン](2010/04/02 14:34)
[19] 第五十三話 参事ロバート・コクラン 謀略戦4[カルロ・ゼン](2010/07/29 00:45)
[20] 第五十四話 参事ロバート・コクラン 謀略戦5[カルロ・ゼン](2010/07/29 13:00)
[21] 第五十五話 参事ロバート・コクラン 謀略戦6[カルロ・ゼン](2010/08/02 18:17)
[22] 第五十六話 参事ロバート・コクラン 謀略戦7[カルロ・ゼン](2010/08/03 18:40)
[23] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝 [カルロ・ゼン](2010/08/04 03:10)
[24] 第五十七話 会議は踊る、されど進まず1[カルロ・ゼン](2010/08/17 05:56)
[25] 第五十八話 会議は踊る、されど進まず2[カルロ・ゼン](2010/08/19 03:05)
[70] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3[カルロ・ゼン](2010/08/19 12:59)
[71] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝2(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/08/28 00:18)
[72] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝3(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/09/01 23:42)
[73] 第六十話 会議は踊る、されど進まず4[カルロ・ゼン](2010/09/04 12:52)
[74] 第六十一話 会議は踊る、されど進まず5[カルロ・ゼン](2010/09/08 00:06)
[75] 第六十二話 会議は踊る、されど進まず6[カルロ・ゼン](2010/09/13 07:03)
[76] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7[カルロ・ゼン](2010/09/14 16:19)
[77] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8[カルロ・ゼン](2010/09/18 03:13)
[78] 第六十五話 会議は踊る、されど進まず9[カルロ・ゼン](2010/09/23 06:43)
[79] 第六十六話 平和と友情への道のり 1[カルロ・ゼン](2010/10/02 07:17)
[80] 第六十七話 平和と友情への道のり 2[カルロ・ゼン](2010/10/03 21:09)
[81] 第六十八話 平和と友情への道のり 3[カルロ・ゼン](2010/10/14 01:29)
[82] 第六十九話 平和と友情への道のり 4[カルロ・ゼン](2010/10/17 23:50)
[83] 第七十話 平和と友情への道のり 5[カルロ・ゼン](2010/11/03 04:02)
[84] 第七十一話 平和と友情への道のり 6[カルロ・ゼン](2010/11/08 02:46)
[85] 第七十二話 平和と友情への道のり 7[カルロ・ゼン](2010/11/14 15:46)
[86] 第七十三話 平和と友情への道のり 8[カルロ・ゼン](2010/11/18 19:45)
[87] 第七十四話 美しき平和 1[カルロ・ゼン](2010/12/16 05:58)
[88] 第七十五話 美しき平和 2[カルロ・ゼン](2011/01/14 22:53)
[89] 第七十六話 美しき平和 3[カルロ・ゼン](2011/01/22 03:25)
[90] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝4(美しき平和 異聞)[カルロ・ゼン](2011/01/29 05:07)
[91] 第七十七話 美しき平和 4[カルロ・ゼン](2011/02/24 21:03)
[92] 第七十八話 美しき平和 5[カルロ・ゼン](2011/03/06 18:45)
[93] 第七十九話 美しき平和 6[カルロ・ゼン](2011/03/16 02:31)
[94] 外伝 とある幕開け前の時代1[カルロ・ゼン](2011/03/24 12:49)
[95] 第八十話 彼女たちの始まり[カルロ・ゼン](2011/04/06 01:43)
[96] 第八十一話 彼女たちの始まり2[カルロ・ゼン](2011/04/11 23:04)
[97] 第八十二話 彼女たちの始まり3[カルロ・ゼン](2011/04/17 23:55)
[98] 第八十三話 彼女たちの始まり4[カルロ・ゼン](2011/04/28 23:45)
[99] 第八十四話 彼女たちの始まり5[カルロ・ゼン](2011/05/08 07:23)
[100] 第八十五話 彼女たちの始まり6[カルロ・ゼン](2011/05/14 20:34)
[101] 第八十六話 彼女たちの始まり7[カルロ・ゼン](2011/05/27 20:39)
[102] 第八十七話 彼女たちの始まり8[カルロ・ゼン](2011/06/03 21:59)
[103] 断章9 レコンキスタ運動時代の考察-ヴァルネーグノートより。[カルロ・ゼン](2011/06/04 01:53)
[104] 第八十八話 宣戦布告なき大戦1[カルロ・ゼン](2011/06/19 12:17)
[105] 第八十九話 宣戦布告なき大戦2[カルロ・ゼン](2011/07/02 23:53)
[106] 第九〇話 宣戦布告なき大戦3[カルロ・ゼン](2011/07/06 20:24)
[107] 第九一話 宣戦布告なき大戦4[カルロ・ゼン](2011/10/17 23:41)
[108] 第九二話 宣戦布告なき大戦5[カルロ・ゼン](2011/11/21 00:18)
[109] 第九三話 宣戦布告なき大戦6[カルロ・ゼン](2013/10/14 17:15)
[110] 第九四話 宣戦布告なき大戦7[カルロ・ゼン](2013/10/17 01:32)
[111] 第九十五話 言葉のチカラ1[カルロ・ゼン](2013/12/12 07:14)
[112] 第九十六話 言葉のチカラ2[カルロ・ゼン](2013/12/17 22:00)
[113] おしらせ[カルロ・ゼン](2013/10/14 13:21)
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[15007] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/25 23:08
{アルブレヒト視点}

「新領総督ロバート・コクラン卿、その統治に際し不手際があると認める。」

余は、一人の参列者として沈痛な表情を浮かべつつ脚本通り劇が進展していることに内心満足している。

ヴィンドボナの宮廷貴族どもが居並ぶ前で壮大にして、無駄極まりない滑稽な茶番劇が繰り広げられていた。
予算の無駄というべきか、時間の浪費というべきか。人生の大半をこういった宮廷陰謀に費やす連中の人生に何と価値の無いことか!
その首魁である余が座る皇帝の席、何と虚飾の栄光に満ちたことか。余は、ただブリミルの血を引いていないがゆえに他の諸王に劣るという。

「亜人討伐においては、辛うじて撃退に成功したことを認める。しかし甚大な被害をもたらし、その備えるべきところを怠り、甚大な火災によってゲルマニアの財貨を喪失至らしめた罪は大きい。」

「もうよい。」

さらに続けようとする者を不機嫌そうに遮り、心にもない沈痛な表情で遺憾をあらわにした口調をとるように努め、悲しみに満ちた声を作る。
まったくもって時間の無駄ということを考えるならば、これほど悲しいこともないので演技に苦労しないのは不幸中の幸いというものだろう。

「余は、汝に新領の調査と開発を命じた。」

居並ぶ貴族どもが余の心痛を察するとばかりに一様に押し黙り、一葉の絵として残せば後世になにがしかを伝えるであろう重い空気が立ち込める。その内心はともかく、この場において余は断罪者として振舞うことが求められている。
可能ならば、ゲルマニアに寄生した狗どもこそ首を刎ね飛ばしたいところであるが、狗は狗で使いようがあるのだから我慢も肝要であるのだろう。自分の安いプライドのために振舞える隣国のアホどもの精神がこの時ばかりは羨ましい。
まあ、知をとるか、連中のようにアホになるかといわれれば前者を選ぶところであるのだから、世界は存外思うようにならないものだ。

「だが、汝は余の命じるところを全うしえず、多くのものを失った。」

さも大げさに噂を流布したおかげで領地経営の経験がない新興貴族が任されていた統治に失敗し、新領では大規模な山火事によって多くの財貨が失われたというのは隣国にまで伝わっている。
メイジでない者に対するある種の排除意識と、宮廷貴族の無聊の慰みとして新興のロバートに対する責任追及の声が上げられ始めるまでにさしたる時間が必要とされなった。なんと、宮廷貴族どもが慰みに飢えていたことよ!

「汝の忠勤は認める。が、汝のもたらした害は見過ごせない。」

こ奴のもたらした害など、ここに居並ぶ貴族のものに比べれば不問に処すべき軽微なものにすぎないのだが。弾劾している連中は、自分が弾劾されうるということを念頭に置いているのだろうか?
狗の心配を余がせねばならないほど頭の無い連中なのか、それとも考え方がまったく我々とは異なるのか。まあ、群れた馬鹿どもはさすがに、愚者だけに何をしでかすかわからないので脅威ではあるのだが。

「汝を解任する。その顔も余は見たくはない気分だ。汝を追放刑に処す。」

「閣下の御慈悲に感謝いたします。」

そういうなり、完璧なしぐさでロバートは衆人環視の中を退出していく。脚本を書いた本人としては、合格点をつけて良い出来だったと自負している。
ここまで良い主演を演じることができたのは、良い助演があればこそだが。筋書きを提案してきただけあって演技も合格点をつけれるといってよい。


{ロバート視点}

宮中の一角にある小部屋で私は、つい先ほどまでの茶番劇を演じていた共犯者たちと共に、今後の計画について再度の確認を行っていた。計画は緻密であるにこしたことはないが、柔軟性が多いに越したことはない。そして、最も重要なのは打ち合わせの徹底による意思疎通の確保である。

「これで自由に他国を視察することが可能になりました。感謝を。」

ゲルマニアの役人、それも広大な直轄領を統括している人間が他国を訪問するのは多くの制約事項に縛られる。だが、それが失敗を犯して追放された貴族崩れとなると国境を超える障壁は大幅に減少する。なにしろ、公式には平民に等しい上に、そのような貴族崩れなど腐るほどいるのだ。貴族ならば縛られるさまざまなこの世の面倒事も、貴族崩れは逆に関係がない。

「かまわぬ。もとより、ロマリアの坊主どもに頭を下げて助けを求める名分が必要だったのだ。これほど派手に噂を煽れば他国にも鳴り響こう。」

すでに、多くの噂が世間には流布されている。大抵の認識はゲルマニアの新領の総督が失政を犯し追放されたというものに留まるが、他国の反応はそれぞれ異なっていた。
浮遊大陸であるがために材木資源が乏しいアルビオンは、今後の材木価格の高騰するのではないかとの危惧を内々に伝えてきた。
ある程度の援助ならば応じられるために、材木の確保とフネの整備を確実なものとし食糧の輸入路を確実にしたいという意思がにじみ出ている。先の見える人間が多いらしい。あるいは常に、その問題に悩まされているからというべきか。

ガリアからは一通りの慰みと大量の密偵が送られてきている。大半は捕えられているはずだが、かなりの腕利きが複数潜り込んできているためすべてを把握できてはいない。
おそらく、あの無能王はこちらの意図にを把握していか、すぐに把握するであろうと予想されている。
トリステインは、ゲルマニアの不幸を公然と喜ぶ有様である。一応、枢機卿からはこの事態を遺憾に思い、ゲルマニアの災害に同情する旨が伝えられたが。
ロマリアは表立っては被災者に同情する旨を告知し、援助するとしているが実態は事前の打ち合わせ通りの取引を行い利益を得るつもりであるようだ。
宗教庁内部でも様々な駆け引きが行われているようだが、少なくともゲルマニアに損になる事態は確認されていない。

「では、私もこのような事態を招いたことを悔いて、巡礼の旅に出ることにいたします。一応、アウグスブルク商会とムーダを連絡先として使う予定ではありますが最悪独断専行もあり得ることをご了承ください。」

誰と交渉するべきか?枢機卿の派閥一つとっても、接触対象を見極め損ねると厄介事を惹き起こしかねない。
その交渉に際して、ロバートは完全な信認を必要としている。交渉の鉄則事項は、交渉する価値がある交渉相手と見なされることだ。
独断専行を認められ、自由に行動できる交渉相手と、本国の意向をいちいち伺う交渉相手は全く意味が異なる。後者ならばわざわざそのような使者と交渉するのではなく、決定権をもった人間と交渉すれば良いからだ。

「構わん。前非を悔い、汝がロマリアで司祭らに救いを求めようとそれは汝の私財で行わる贖罪であるからな。エルフどもへの接触にしたところで聖地への巡礼の一環であるならば不可避と認めてやる。」

また、各種情報収集のための捜索も、国家に属する一個人が行うのと、国家に属していた一個人が行うのでは全く事情が異なる。
ロマリアにお向き、懺悔を行った人間が宗教的情熱から聖地へと旅立つ。途中で、砂漠を越えられずに帰還したところで誰もそれをとがめることはできない。
まして、それが公職を追放されたことにされている人間であるならばその行動の責任は公的にはゲルマニアに帰するものではないのだ。

「しかし、実際にエルフはこちらに接触してくるかどうかが気がかりです。連中はガリア寄りではないかとも危惧されています。」

この巡礼の目的にはエルフとの接触もある。詳細は聞かれていない。何を持ち帰ってくるつもりかと期待はされている。だが、捜査の結果、何もないやもしれないし、あるいはこちらを驚かせるものがあるかも結局こればかりは行ってみなければ判明しない。
だが、専権事項として処理することが認められていることは大きい。

「そこは、最終的にはわからん。だが、汝の調査だ。人の誘致に成功すればそこいらの成果は問わない。」

「ありがとうございます。さっそく、旅支度にかかります。」


{フッガー視点}

フネの停泊地に呼び出された私にコクラン卿は憔悴した表情を浮かべながら疲れ果てた声をかけてきた。まるで、都落ちだ。いや、厳密に解釈するならば確かに追放される身なのだが、いかにもという感じがしすぎる。
大半の貴族は、自身の威儀にかなり偏執的なまでにこだわるものだが。

「すまないが、フネを手配してもらいたい。」

それだけに、フネの手配を頼むときの憔悴した表情が、まるで仮面であるように思えてならない。感情を表しているはずの顔がまるで、のっぺりとしたそう見えるべく演じているように見えてならないのだ。
あえて、類を求めれば同情を集めようとする詐欺師のそれだ。

「それは、構いませんが行先はどちらになされますか?」

つい先ほど、ゲルマニアよりの追放令を浴びたコクラン卿は国法の定めにより国外へと退去しなくてはならない。その一報がもたらされたときいくつかの商会は動揺を見せていた。良くあるように新興貴族が失敗したのか?
だが、私の密偵は新領での亜人盗伐や統治は成果を上げてきていることを報告してきている。
複数の密偵からもたらされるものはコクラン卿が意図的に森を焼き、亜人の南進を妨害するとともに、森からあぶりだされた亜人を一方的に嬲ったという流されている噂とは正反対のものであった。

継続して調べさせていると、焼き払った跡地にバルフォン商会が斡旋した農業技術者達が現地入りして耕作地として開発しているという。
意図的に失敗の噂が流されているのではないか?そもそも北方の事件がヴィンドボナで噂になるまでにあまりタイムラグがない。なさすぎるといってもよい。
情報を意図的に封じ込めようとして失敗し漏れ聞こえてくるという形ではなく、ごく自然に流れてきているのだ。
それが、私の中にある推論として固まったのはコクラン卿の部下たちがおとなしいとの報告がもたらされた時だ。子飼いの部下が黙っているというのは、ありえない。
おそらく、これはアルブレヒト三世とコクラン卿のやらせなのだろう。目的は予想がつかないが、国外で何かを行うことまでは考えられる。

「ロマリアだよ。今回のことは、いささか堪えてね。贖罪を兼ねて巡礼に出ようかと考えている。」

「それは、災難であらせられましたな。もちろん、喜んでお送りいたします。」

この人が罪の意識で贖罪の旅に出るということを信じるとでも思われたのだろうか?これほど、あからさまに国外に出るために演技をされると何を求められているかは考えずとも目の間に答えがぶら下がっているようなものだ。
コクラン卿が敬虔なブリミル教徒であると信じるくらいならば、私の商売敵が聖人と信じる方が容易だ。並みの貴族でさえ、没落したら復権を求めるというのだ。
新興貴族でも特に、総督にまで出世した人間が、そもそもこの程度のことで気落ちするなどあり得ない。メイジの方々は、魔法を使えない貴族は所詮成り上がりと油断されているようだが。

「コクラン卿が傷心のところに心ない言葉も多いかと思います。微力ではりますが、コクラン卿のお心を伝え、皆様の誤解が解けるように致したいと思います。」

「おお、感謝の念をそなたに!」

聞き耳を立てている者たちへ聞こえるように大げさに感激した風に声を上げると、コクラン卿は事情を知る者には白々しく、事情を知らぬ者には単純に見える人物を演じつつ、アウグスブルク商会の用意したフネに護衛と共に乗りこんでいく。
それを見送り、私はこの噂を広めるべくウィンドボナの騒々しい雀たちへそれとなくこのことを漏らす用意に取り掛かった。まあ、私が何を話そうと、コクラン卿が喋ったことは敬虔なブリミル教徒として賞賛されることのみだ。
大多数の人間がそれを目撃している以上、噂はいっきに広がらざるを得ないだろう。肝心なのは、誰の口からどの印象で語られるかだ。
私もこの機会に、付き合うべき人間を見極めることにしよう。



{ロバート視点}

ロマリア連合皇国は「光の国」と呼ばれている。始祖の教えを守り、信仰に満ち溢れた地上の楽園!内実は、貧困層対策に頭を悩ませる裕福な宗教家にとっての楽園であるが。
その、ロマリア連合皇国は海岸に面する地域が多いため、海路を経由して複数の難民が流入していることが確認されている。トリステイン王国からの貧困層がその中にかなりの割合で混ざっていることは間違いない。
一度、ロマリアを経由することでトリステインからの人口引き抜きは極めて容易に行えるであろう。
最も、どの枢機卿の派閥に接触して利害調整を行うかという問題はあるのだが。最近の情勢は、だんだんときな臭くなっているだけに何を選択するか一つとっても、先々のことまで慎重に考えなくてはならない。

まさに急を要するというわけでもないが、最近ではきな臭い動きがアルビオン・トリステインの両国で立ち込め始めているとアウグスブルク商会から忠告されているのが、最も頭の痛い問題だ。
いわく、聖地奪還だの、貴族連合だの。まだ、直接の火種と言うわけではないようだがこの手の運動は明らかに人為的に何者かが火をつけたと考えざるをえない。
特に、アルビオン・トリステインという距離がある国家で同時期に報告されているのは間違いなく人為的なものだ。疑わしいのはガリアであるが、ロマリアの歴史を考えるとロマリアを除外するのも危険すぎる。
ガリアの目的が不明であるため推測を重ねざるを得ないことに対して、ロマリアは聖地奪還の妄執にとらわれているといっても過言ではない。
程度問題ではあるものの、どちらも信用できないことに関してのみは、疑う余地がないのがありがたいというべきか。
どちらにしても、結構なことだ。聖地奪回を支持する意見が広がれば広がるほどロマリア経由での人の流れるルートは不可侵とならざるを得ない。
まあ、その不可侵のルートをどこの派閥が抑えるかという問題はあるのだが、どちらにしても、今回はそれが不都合ではない。

ロマリアに巡礼に行く人間を宗教的情熱に直面した王国政府が阻止するのは暴動か革命の執行書にサインするようなものと言える。
宗教的な情熱を封じ込める先にあるのは、救いのない暴動か宗教戦争だ。さすがに、そこまではいかないにしても、あの鳥とか骨とか言われる切れ者は、それに気がつかないはずもない。
よしんば、気がついても止められなかったとしてもさして問題ない。
少しばかり視点を変えて、聖地回復運動については第四次十字軍のヴェネツィア共和国の役割をこの世界で演じることができればと考えてしまう。
落とすべきコンスタンティノープル程の戦略上の目標が存在しないのが残念極まりないが。ガリアにでも向けるべきだろうか?考えてく価値のある問題だ。

私自身は、さして謀才に恵まれてとは思わないが解答を知っていればそれなりの模倣と改良によってできないこともないわけではない。なにより、純粋にスポーツと戦争には全力で臨みたい。できることはすべからく実行しておくべきだろう。
この世界について知れば知るほど、流れ着いた土地がゲルマニアであることについて神へ感謝したくなる。辛うじて、合理的な思考を可能としている国情がなければ今頃錯乱した人間か異教徒として火あぶりにされていてもおかしくなかった。
そもそも、世に出て才を発揮することも不可能だろう。

宗教改革に直面し対抗宗教改革に乗り出したローマ教会と異なり、このロマリア宗教庁は火あぶりによる問答無用の行為に及んでいる。救いがたい汚物どもと言える。
だが、それでも使えるならば使うことにしよう。現状では聖地奪還を諦めていないように思われる。聖地奪還のため盛大な浪費をしてくれればやがては、衰退してくれるだろう。
しかし、この地にある建築物の壮麗さは見事なものだ。よほど手間暇をかけなければ維持しえないような華麗な庭園と見事な聖堂が立ち並んでいる。「光の国」とはこれに関しては言い得たものだろう。
フランスのマジノ線と同じで外見だけは一級品のようだ。そして歴史的な発見といわざる得ないだろうが、根性はエスカルゴどもにすら劣るかもしれない。
とはいえ、エスカルゴや、共産主義者と同じ空気を吸うことは、耐えがたい苦痛であるが、致死的ではないのだ。この街は、瘴気に満ち溢れている。

「ロバート・コクランと申します。バーレンハルム枢機卿に懺悔をしたく参りました。」

到着するなり、そうそうある程度の目安として仲介能力に優れた枢機卿の根拠とする教会堂へと顔を出すことにする。
誰と接触するかを考えるときに、蝙蝠は役に立つのだ。どことでもある程度の意思交換ができるのだから。

「罪の告白をなさりたいのですか?」

入口の坊主から敬意をもって声をかけられる。一目で高級な衣類とわかる服をまとっているだけで、ここの教会堂ではにこやかに歓迎されるのだ。周りの貧しい身なりに彼が見向きもしないということが雄弁に事態を物語ってくれる。
まわりの貧民が足を踏み入れられないような明確な壁がそこには厳然としてあるのだ。

「はい。私の前非を悔い私財を信仰を同じくする人々のためにお使いいただけるようにお願いに参上いたしました。」

私が、そういうと男は顔に喜色を浮かべて何度もうなずく。ここまで露骨な男が宗教家であるというのだから救われるものも救われまい。

「それは、素晴らしい心がけです。枢機卿もお喜びになられるでしょう。」

「ああ、ありがとうございます。始祖ブリミルに貴方のような方におあいできたことを感謝いたします。お近づきになれた記念にこちらをお納めいただけなでしょうか。」

「いや、私は信仰に身を捧げるもの。俗世のご配慮は無用に願いたいものです。」

ああ、だろうよ。収賄は、この世界において普遍的にみられる現象でありながらも宗教家にとって外聞を憚ることであるのだから言葉上では断るのも良く知られている。
まったく会話するだけで、耐えられない瘴気を吸いこまされているようだ。塹壕戦でガスを流されていた陸軍兵士とも今なら語り合えるかもしれない。

「こ、これは言葉が足りないようで御不快にさせてしまったようで申し訳ない。信仰を同じくする人々のためにご活用いただきたいと願えばこその寄付をお願いしたいだけなのです。」

「おお、そうでしたか。いやはや。信仰に身を捧げるものとしてはこのように厳しいことを言わねばならないこともありますが、ご理解いただけたようだ。」

ここの枢機卿とやらも程度が知れるというものだ。まあ、ほどほどに情報を得られるであろう。お互いに、損得勘定で取引を行えるという意味において蝙蝠のような枢機卿は貴重な価値を持っている。


{トリステイン貴族視点}

「何故、枢機卿はあの成り上がりどもに下手に出ようとするのだ!」

メイジですらない平民に貴族の地位を与える成り上がりどもの集まりであるゲルマニアに対して、我々トリステイン貴族が真の貴族としての精神を教えてやるべきではないのか。

「所詮、やつは鳥の骨だ。誇りも知らぬ腰ぬけだ。」

杖にかけて王家に忠誠を誓っている我らトリステイン貴族を何と心得ることか。高貴な者の精神を理解できない坊主上がりはこれだから、面倒なのだ。

「忌々しいことに、ゲルマニアは糾弾に白々しい解答をよこすばかりだ。そもそも、成り上がりの分際でこちらと対等な気になってつけ上がっている。」

次第に激昂していく若い同輩たちを横目に見つつ、その思いをくみ取らない王家に対して私は憤りを覚えざるを得ない。
誇りを知らない王家との噂が口さがない平民にまで流れていると知らされた時は激昂したものだがこれでは真実を語っているとしか思えない。
我らの杖は、なんのために忠誠を誓ったのかわからないではないか。

「諸卿よ、落ち着かれよ。この問題はまず王家が不甲斐ないからこそゲルマニアに侮られたと言えるのではないか?」

思わず、その言葉に首肯してしまいたくなる自分がいる。王家はその役目を果たしていない。特に、辺境貴族らは王家の無作為にいら立ちを隠せないでいる。
表立っての批判は、ある程度自重してきたが、貴族大半の意向がこちらと同じであるならば、恐れることもさほどない。いや、むしろ声を上げるべき時でさえある。

「その通りだ!」

「貴族の誇りを何と考えている!」

「貴族のことは、貴族で決めるべきだ。腰ぬけの王家などから何故我ら貴族の誇りを持つものが平民のごとく指示を仰がねばならない?」

「このことは、王家に我々の誇りにかけて掛け合うべき問題だ!」

「王家におかれては、恐れ多いことではあるが過ちを認め、過ちを改めるべきだ!」

そう、王家は、我らの誇りを尊重するべきなのだ。忌々しい鳥の骨が実権を握っていることを容認している今の王家は明らかに間違っている。
有為の貴族達が集まり、行動すればトリステインの栄光が再び取り戻される日も近い。今、まさに行動が必要とされている。

「私も、賛成だ!!」


{ミミ視点}

「サー・ヘンリ・ボーウッドがお見えになられました。」

ネポスの言葉で我に返った私は、積み上げられている未決済の書類をさりげなく机の隅に寄せてせめてもの抵抗を試みる。
執務室が整っているかどうかと言われると極めて不本意な現状にあるが、うまいこと自由の身を得た元上司の分まで職務を代行させられているのだから仕方ないはずだ。
貴族令嬢として維持すべき様式からすれば、どのみち軍務に従事しているということや、行政を担っているということはあまりほめられないのだから今さらと開き直る。

「サー・ヘンリ・ボーウッド、ようこそお越しくださいました。お初お目にかかります。マリア・クリスティーネ・フォン・カラムです。」

「これはご丁寧なごあいさつ。恐れ入るばかりです。」

社交的な会話をこなしている時間が私には惜しい。
早く終わらないかしら。

「お忙しい身にわざわざご足労いただき、恐縮の念に堪えません。本日は、なんでも木材についてのお話だと伺いましたが、よろしければさっそく本題をお伺いしたく思うのですが。」

「おお、これはありがたい。フネのマストに適した木材が産出されると聞いて参ったのです。マストに適したものが見つからず、なかなか苦労しておりまして。」

言葉を飾らない軍人と言うのは本当に素晴らしいわ。空軍士官が皆こうだというならば、軍人をすべて空軍士官に取り換えたいくらい。

「お恥ずかしいことに、私はあまりそのことに関して存じておりません。もしも、私の無礼をお許しいただけるのでしたら木材に関して管理させているものをご紹介させていただけないでしょうか?」

「結構です。こちらからお願いしようと思っておりました。」

アルビオン貴族、というよりも空軍士官の評価を心内で上方に修正しつつ、ミミはすばやく面倒事をギュンターのところへ回すように手配する。木材の管理は、当然ながら専門家に一任すべきだ。
大規模な“火災”でそれなりの森が焼失したとはいえ、今ならば亜人も駆逐されている。多少の危険があるとはいえ、良質なフネ用の木材を北方から調達するには適しているだろう。
冬の寒さにサー・ヘンリ・ボーウッドならば慣れているであろうしあとは専門家同士でよろしくやってくださるはず。

ともかく、今は冬越えの支度にかからなくては。


{ロバート視点}

情報は力であり、宗教庁はその存在によって自然と情報を各地から集められる恵まれた情報網を有している。この、情報網は受け身ではあるかもしれないが各地についての情報を得るためには極めて有効なものとなるであろう。
なにより組織的なネットワークだ。しかも、国境に関係なく各地に張り巡らされている。情報収集にしてみれば全くもって理想的な環境と言うしかない。

そして、ロマリア宗教庁は、派閥によって程度の差があるにしても一様に聖地奪回を名目上は悲願としている。
実際に軍を派遣するかどうかというところになるとまったく利害関係の問題になる部分もあるが、少なくとも聖地奪還に向けての功績は派閥の利益となると判断するのは間違いない。
当然、こちらは積極的に聖地を抑えているエルフ達に関する情報を収集しているであろうし、往来にも網を張っているはずだ。
ここまでは、理知的に分析するまでもなく自明のことであるが問題はこれからだ。どうやって、流れている情報を拾うか?それが問題だ。
私の護衛は手だれであれども10名。新領で私が個人的に雇い入れた従者ということになっている。実際には、ギュンターが腕利きを選抜したメイジたちなのだが。実力はともかく、情報収集に努めるにはそれほど多くない。
何より、私は情報収集など専門にしたことがない。与えられたカードの活用ならいざ知らず、カードの収集に乗り出すには経験があまりにも足りない。ここは慎重に行かざるを得ない。実質的に敵地での情報収集と変わらないのだ。

「アヒム、テーオは当分、こちらになじめるように心掛けろ。ネリーは孤児院を廻れ。」

「ミスタ・コクランはいかがされますか?」

護衛の長であるニコラウスが今後の行動について相談に応じてくれたので部下たちの前でも、それなりには振舞えている。彼には感謝せねばならない。

「残りの者と宿に向かい、当分は参拝に努める。まずは歩き回るつもりだ。」

ロマリアには外国からの巡礼者向けにいくつか大きな宿がある。概ね、評価の高い所であれば治安の問題もない。巡礼者を迎えるという名目で、豪華な宿があるのだ。

「わかりました。」



しばらく、ロマリアに滞在していてわかったことがある。孤児が異様に多い。それも、すべからく母親に先立たれるか、捨てられた者たちが。
街を歩いていると、物乞いやすりを働こうとする子供を目にするがそれらは孤児が多いと耳にすることができた。
笑うべきか、嘆くべきか微妙なところであるかもしれないが彼らについては一種の口にできない真実というものがある。公然の秘密というやつだ。
宿で早めの夕食を頼む際に、この街の住人なら何か知っているのではないかと彼らの存在について尋ねようとすると宿の主人がそれとなく口を憚る真相を耳打ちしてくれた。
まあ、こちらも察してたのだから、ある種確認に近い作業だ。

「司祭様たちの私生児であります。外聞が悪いので子を孕むと手の付いた女たちは追い出されその子供たちが路上にあふれているのです。」

あたりをはばかりつつも、重大な機密を漏らしているのではなく、ご政道批判といった程度で、世慣れた店主がこちらの疑問に答えてくれる。

「しかし、それだけであのような多くの孤児がすべてそうだというわけでもないだろう?」

「やもしれませぬ。ですが、捨て子の多くはそのような身の上です。あまり外聞の良くないこと故、この話題に触れるのはお気を付けください。」

だが、今彼からもたらされた情報ついて少しばかり気になるところがある。後ほど、ニコラウスが戻り次第彼の意見を参考にしてみよう。
そう思っていると、この手の忠告を幾度もおこなっているらしい。主人はそれだけ言うとすぐに話題を切り替えお勧めのワインについて語りだした。

「ああ、お客様には当店秘蔵のタルブ産のワインなどいかがでしょうか?トリステイン王国から苦労して手に入れた逸品ですよ。」

そういうと、彼はウェイターが持ってきたワインをこちらに差し出す。確かに、ワインの名産として有名なタルブ産のワインだ。
これ一本でさえ、この宿の近くからは聖堂騎士団によって追い払われた貧者たちにしてみれば一生口にすることもないような代物だ。

「トリステイン王国からか?良く手に入ったものだな。確か、賊が跋扈し買い付けいに行くのも困難だと商人たちが嘆いていたはずだが。」

取りあえず、代金を払いつつ、ワインの風味を楽しむ態を装うことにする。まあ、実際にワイン自体は良い品であるし、嫌いではない。

「その通りなのですが、幸いにも良いつてがありまして。」

「ほお、話のタネに聞いても構わないかね?私も良いワインを得るためにはいろいろと商人達に注文を付けたが、なかなかうまくいかなかったのだ」

というよりも、私個人に限らず大半の人間が、トリステイン産の物産を入手しようとしてもかなりの困難に直面する。流通の悪化は劇的なまで拡大し、かなりの富裕層の嗜好にもある程度の制約を及ぼすほどの影響を持ち始めている。
金で解決しようにも、本当にものが流れないほどなのだ。

「アルビオンへのフネがかなり纏まった数で送られておりまして、当然空賊に備えて武装しているものが多い。その商人達に帰路に調達してもらっているのです」

まとまった数のフネがアルビオンへ行く?ロマリア連合皇国は輸入超過であり、アルビオンが必要とする物資を纏まった数のフネを必要とするほど輸出する余剰はないはずだが。気にかかるのでこれも後で調べてみるべきだろう。
だがさしあたって今は、この世界のワインでも楽しむことにしよう。
ブリミルがこのように華美に奉られることを望んでいたかどうかを考えながら、金さえ払えれば何でも手に入るという「光の国」で主人が進めてくるタルブ産の高級ワインを楽しむのはそのこと自体が滑稽でならない。
シニシズムは知識人のダンディズムである。
大抵の事象には風刺の一つ二つすぐに思いつくつもりであったがだが、存在自体が矛盾したソドムの街には冷笑する気もわき起こらない。素直に腐っていると評すべきかもしれないが、ウィットの聞いた表現ができないのは少しつまらないものだ。


{ロバート視点}

タルブ産のワインを楽しみ、自室に戻った私はある種の疑念をゆっくりと考えてみることにした。何故、この世界はブリミル教に対してこれほどまでに帰依しているのであろうか?聖地奪還運動にしても砂漠のオアシス地帯から得られる収益など限定的に留まるはずだ。
砂漠を越えた先に何があるにしても、それは交易によって利益を生み出さないものなのであろうか?
純粋な信仰であるというが、この現状を見ていると宗教的熱情とは無縁のはずであるの高位のものも聖地奪還を望んでいるという。
採算を度外視して行動する連中ではないはずだが今一つ理解できないでいる。枢機卿らの派閥があるにしても、やはりある程度聖地にこだわるのだ。
この世界について調査していく過程で随分と、大まかな部分に関しては私の飛ばされた世界と似ているような物事がわかっている。人間がいて、多少違うにしても植物も共通している。
月が二つということには少々驚いたが、月という存在が理解できる範疇にあったからこそ驚けたともいえる。
本質的に私は、この世界について類似したものを知っていると前提して行動してきてはいないだろうか?過去から学べるものは強いが、差異に注目すべきでもある。
この世界にいて、信仰は大きな権威を有している。それらに関連していくつか、再構築することも検討したが影響が未知数であるため現段階では行うつもりはない。

この世界の歴史を研究して驚いた。六〇〇〇年の歴史がある世界において技術の進歩は遅々としたものであり魔法が発達するなど独自の進歩があるにしてもいびつである。
だが、一番の問題は六〇〇〇年の歴史を持ちながらも依然として中世の技術基盤にあることではない。六〇〇〇年にも及ぶ伝統を誇っておりながらもブリミル教は始祖ブリミルに関連する情報があまりにも少ないのだ。
中世ヨーロッパにおいてさえ、イエスや聖書の研究がおこなわれていた。
あの忌々しいローマ教会によるものが大半であるが、それでもいくつかの研究がおこなわれ、世紀の偽書が暴露されるなどある種の自浄作用はあるものだった。

ブリミル教会もローマ教会同様にして、弟子によって設立されている。だが、ブリミルの弟子に関しては初代の教皇以外伝承されているのものはあまりにも少ない。
さらに、ロマリア宗教庁はスペインの異端審問官と比較しても後者が色あせるようなことをやってのけているという。詳細は不明だが、異端と認定した村を丸ごと焼き払うなどの所業を現地の軍と行ったようだ。
アルビジョア十字軍に近い性質と言わざるを得ない。その点、我が祖国は距離の壁によってローマ教会からの影響を限定的にとどめられていたがそれでも悪弊はあった。政治に干渉しすぎる教会は望ましくない。
そもそも、聖地奪還という目的に対してそれを成し遂げる必要があるということですべてが解決するのは理解できない。聖地を奪還せよというが、それはそもそも誰の意思だ?
アブラハムのように大切なものを犠牲に捧げよと命じられて、悩まないというのは理解に苦しむものだ。
幼少期の教育か?鉤十字どもや、忌々しい共産主義者のプロパガンダ教育を信じ込んでいれば多少はあり得るが、雄弁で持っても鉛を金にかえることはできないはずだ。
共産主義者や鉤十字どもは、幻想を信奉しているかもしれないが、良い迷惑というものだ。

幾度かの聖地への派兵が行われているが、成果は一度たりとも上げられていない。まだ、十字軍のほうが見込みがあると思えるような実績だ。この世界における宗教の存在理由は何なのだ。
わからないが、この世界が全体としては思考停止になりがちなことは判明している。六〇〇〇年の作り上げた変わりのない世界は大きな影響をもたらしている。その、根幹にあるものを理解し調べてみたいものだ。

だが、思索にふけるのもある程度、一段落してからだろう。すでに、いくつか処理すべき課題ができつつある。
端的に言うと、政治的に中立を指向し、聖地奪還よりも現世での救済を重視するこの瘴気漂う世界における変わり種との交渉である。


{パウロス視点}

「ゲルマニアから参りました。ロバート・コクランと申します。このたびは、施設の見学をお願いしにまいりました。」

「ようこそ、お越しくださいました。当院の院長をロマリア宗教庁より拝命しておりますパウロスと申します。その見学・・ですか?」

「ええ、できれば子供たちの生活や学び舎を拝見させていただきたく思うのですが。」

身なりのいい来訪者が、私が院長を務めさせていただいている孤児院に厄介事以外を持ち込んだことは記憶にない。清貧を旨とすべき理念は、もはや空洞化している。
宗教庁は、迷えるものを救うどころか、私のもとに多くの私生児をもたらしているのが現状だ。
この男は、メイジでも貴族でもないものが着ることのできる最上級のものを身にまとっている。つまりは、経済的な理由ではなく没落した貴族なのだ。なにがしかの問題があったのだろうか?
聖職者としては、それで彼を差別したり、偏見で見るのは避けたいのだが経験則からして、面倒事の気がする。
厄介事を持ち込むか、これから引き起こすのだろう。できることならば、子供たちを巻き込まないでほしいのだが。

「その、失礼ながら理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「純粋に、知りたいと思ったのです。正直に告白しますと、動機の大半は好奇心によるものです。いくばくかの義務感を伴うものであることは否定しませんが。」

うん?この男の言動はこれまでの来訪者のそれとは少し違う。好奇心で孤児院をのぞこうという姿勢は好ましいものではないにせよ、まだましな部類の来訪者らしい。
奴隷や、玩具を探しに孤児院に来る面々に比べれば、格段に良い部類の来訪者といってもよい。

「そうですか、立ち話もなんですのでよろしければ私の部屋にでもどうでしょう。」

「ああ、構いませんか?」

「何のおもてなしもできませんが、それでよろしければ。」

院長室に案内し、一応来客用にと用意してあったの椅子をすすめる。本来ならば、ここでお茶でも出すべきなのだろうが切り詰めて運営している院には茶葉などはおろか、燃料用の薪さえ十分には足りていない。
客を迎える身としては悲しいことだが、子供たちの一食を優先すべき身でもあるのだ。富貴を極めつつある高貴な身分の人間には、嫌われてしまうが。

「申し訳ないのですが、歓待したくともできない事情を察していただけないでしょうか。」

男の反応は、やや申し訳なさげに手にしていた木箱を差し出すことだった。よろしければ、と言われて受け取り開けてみると中にはワインと思しきものが入っている。
気を使ったのか、単純に聖職者という分類で、他のものと同一視されたのかは分からないが、ぶしつけな来訪者の類ではないのだろう。

「ああ、お心はありがたいのですが聖職者としてアルコール類は遠慮させていただけないでしょうか?」

「これは、私がゲルマニアから持ち込んだ果実の飲料です。お酒とは別のものです。手ぶらで参るのもどうかと思いまして。」

果実の飲料。確かに、葡萄酒は、ブドウの飲料であり、ブドウそのものは禁止された食べ物ではない。
全く残念なことに、聖職者の大半はアルコールでないと称しつつワインを愛飲しているのが実態だ。
厄介なのは、出されたワインを拒絶することがどういう印象を相手に持たすかということをさすがに、聖職者として経験を積んでいる以上知らないわけにはいかないということだ。
貴様の出すものなど飲めないというメッセージを発するわけにもいかない。

「それでしたら。」

そう言いつつ、差し出された瓶を受け取ると棚から木製のコップを二つ取り出し、来客の前に差し出す。気乗りしないが、彼の酒を飲まないわけにはいかないのだろう。
そう思っていたが、私の考えは良い意味で裏切られた。

「ああ、失礼。これは、水で割って飲むものでして。」

そう言うと、机の上に置いてある水差しをとると適量と混ぜ合わせ、私の分を差し出す。少し、ワインに近い飲み方かもしれないが確かに果実の匂いがする。
いやいや馴染まされていたアルコールの風味もそこにはない。むしろ、自然な甘さがそこには含まれている気がする。

「おお、なかなか美味ですね。」

思わず、笑みを浮かべてしまう。そう、アルコールが入っていないならば子供たちに飲ませてあげられるのだ。甘いものを彼らに上げられるとは。
今度の祝祭日にでも、できるだけの用意をしてあげよう。虚無の日にでもおやつとして出すのも良いかもしれない。

「いやはや、ロマリアの方にそう言っていただけると自信が出ますな。今度、ゲルマニアのアウグスブルク商会が売りだす予定の商品でして。よその国の人からも評価していただければこれに勝ることはありません。」

うれしそうに笑うと男は周りを見渡して、さりげなく扉に目を何度か向けて私のほうを見る。
まるで、そっちを見てほしいといわんばかりの動作に気がつき、お客の前で失礼かとは思ったが扉のほうに振り返ってみる。

「こら!お客様がいらしているときは勝手に覗いてはいけないとあれほど言ってあるでしょう!」

思わず、私は声をあげてしまった。物珍しさと好奇心につられたのだろう、子供たちが扉の陰からこちらを覗きこんでいるではないか。
まあ、子どもというのは、悪意に敏感だ。近づいてこれるような来客で良かったというべきだろうが、この来客がこれまでのそれと違うからといって、覗き見ることはほめられたことではない。
だがまずは、無礼を詫びなくては、と思ったときにはもう男が立ち上がると手にコップを持ち、子供たちへと歩み寄っていた。
そして、しゃがみこんで一番手じかにいる男の子にそれを差し出し、受け取らせると私のほうを見て気にしていないといわんばかりに子供たちを中に入れるように促した。

「まあ、子供のしたことですから。彼らも一緒にどうですか?」


{ロバート視点}

ニコラウスに相談し、いくつかの孤児院の中から比較的まともな人物が運営していると思しき孤児院に訪問することにした。
予想通り、ロマリアの数多くの腐敗した孤児院の中からまともなものを見つけるのはかなりの労力を必要としたものの、その労力に見合った成果があったと言える。
護衛のうち幾人かは、そのような孤児院が見つからないことに今晩のワインを賭けていたが、どうなることやら。
初老の院長は、理知的であり、かつ身にまとっている服も粗末なものだ。なにより、途中で見かけた子供たちが院長ではなく、私にしか怯える視線を向けてこなかった。
子供と言うものは、なかなか鋭いところがあるとシシリアが私に教えてくれている。まあ、すぐに懐かれたようだが、彼らのお目当ては私ではなく持参したブドウのジュースだろう。
何にしても、孤児院を運営しているこの人物は、その人間性において善良なのだろう。
差し出した、果実の飲料も私が注いだ分以上は口にしようとしない。子供たちのために取っていると考えるべきだろうか。
清貧の中にある心がけとしては素晴らしいモノがある。孤児院にいる子供たちは、程度の差こそあれども影があるのかもしれないが、彼はできることをしようと努力している。
彼ならば、政治に積極的に関与しようと欲するタイプの宗教家と間逆であるといってよい。
そして、ゲルマニアはそのような人材を欲している。そのような人間であるからこそ引き抜くのは困難であるといわざるを得ないが、説得の価値もある。
彼に、案内されて子供たちと共に施設を歩いた。清潔ではあるがやはり貧しいようだ。予算は大量に組まれているはずだが、途中で何重にも抜かれているというのは間違いないらしい。
(少なくとも、しぶしぶゲルマニアが払っている教会税だけで、相当な額なのだ。)
生まれてきた、子供に罪はないと彼は言う。同意しよう。彼は、キリスト教徒とは異なるが尊敬できる宗教家である。善き人であるのだろう。

「ミスタ・パウロス。貴方は、子供たちを救済されている。子供たちは貴方の存在によって救われているでしょう。」

「私は、微力をつくすのみですよ。ミスタ・コクラン」

「ですが、あまりにも現状はひどい。ロマリアにおいて貴方の守るべき子供たちに居場所は与えられない。彼らには多くの支援が必要です。」

私生児や孤児などは、ロマリアの暗部だ。多くの聖職者は彼らの存在を認めたらがらない。建前でこそ平等であっても孤児院の出身であるというだけでロマリアでは働く機会も絶望的に乏しくなるという。
まあ、暗部に引きずり込まれて、どこぞで倒れるかもわからないような仕事ならばあるだろうが。そういう仕事をこなす駒ならば、ロマリアではいくらでも需要があるのだ。
なにせ、生還をさほど期待せずに大量の密偵をエルフの砂漠に突入させたり、ガリアに潜入させようとしているのだから。
供給が追い付かなくなれば、狂信者に加えて、経済的に弱い立場の人間が投入されるのは、時間の問題でしかない。

「何がおっしゃりたいのでしょうか?」

「これは、個人的な願望になりますが、ミスタのような方にはぜひゲルマニアにいらしていただきたいのです。」

宗教家と戦争をする気はない。少なくとも、私は十字軍ではないのだ。蛮族を相当することには良心が耐えられても、信仰を弾圧する勇気はない。
狂信的な連中と、果てしのない宗教戦争をやれるほど愚者ではないのだ。だから、宗教家とやっていかないといけないのであるならば、せめてまともな宗教家と手を握りたいと願って何が悪かろうか。

「ゲルマニアにですか?しかし、私は多くの子達を見捨てることなどできませんよ。」

「子供たちと一緒に移動されればよろしいのです。」

「・・・そこまで援助していただけると?いったい何を考えているのでしょうか。」

子供のことを考えられて、かつ頭の回転も問題はない。うってつけの人材をロマリアは良いところに投げ捨てているものだ。
これほどの人材がこの程度に地位と権限に甘んじているということが、ロマリア宗教庁の人材の豊富さを物語るものか、腐敗を物語るかは興味深い味わいがある。
まあ、貴腐という概念があり、本来の意味からは逸脱するが、ロマリアは腐っても高貴な恵みを私に下さっていると感謝すべきかもしれない。

「詳細は申し上げられませんが、私は帝政ゲルマニアで以前官職にありました。その任地は辺境でありましたが、開発の途上であり多くの人々を受け入れております。今後もその用に発展していくと聞き及んでおります。」

「つまり、その地にならば受け入れることが可能であると?」

「以前の同僚より、ロマリアに向かうならばこちらに良い方を紹介していただきたいとも頼まれておりました。向こうも喜んでお迎えするかと。」

「しかし、それは司祭として求められているということではないでしょうか?」

「私どもとしては、信徒の義務として困窮している同胞を救う施設もまた当然のこととして整備したく思っています。」

なかなか、腰が重たいのは仕方のないことだ。慎重であることは美徳ではあるが説得する際には不便でもある。こちらとしても、説明できる限りの事情は話、双方が納得できるようにしたいものだ。



{アルブレヒト三世視点}

「先立って、余はトリステインに対して事態に関連して釈明の使者を出すように命じたが、その件はその後どうなっておるか?」

呼び出したラムド伯に、余は尋ねる。以前からちらほらとは噂になっている反ゲルマニアを唱えるトリステイン貴族の増加は極めて煩わしい。弱い犬ほど虚勢を張ってよく吠えるものだ。
いちいち、構っておくのも面倒でしかないが、こちらに吠えてくるものだからうるさくて仕方がない。しつけのなっていない犬は喉をつぶしでもしないと黙れないのだろうか?
マザリーニ枢機卿に王国としての意向を確認する使者を出しているが、この様子ではまともな対応は期待できないかもしれないと危惧し始める必要がある。
トリスタニアのアホどもは、部屋の装飾物としては空間の無駄であり、政治家としてはこの上なく優秀な問題作成能力を有している。

「どうも雲行きが怪しいです。入ってくる情報では、なかなか、苦しいようです。」

アホどものアホさ加減に耐えさせるために昇進させらたラムド伯は、情勢の悪化にうんざりした表情を隠そうともしていない。

「枢機卿はロマリア出身で貴族からはうとまれています。冷静な貴族も、この状況下では同様です」

むしろ、ロマリア出身でありながら私心をもたずに王家に忠誠を誓っているような行動を取っている鳥の骨が珍物なのではないだろうか?
よほど人材に恵まれていないトリスタニア中枢にあれほどの宰相格の人間がいることそのものが不思議でならない。
あの鳥の骨がいるためか、辛うじて財政が維持できている上に、曲がりなりも政治を行えているからだ。

「死に体のトリステインは、やはり立ち直れないか。」

しかし、死んだものを生きているように取り繕うにも限度があったということだろう。
もはや、才覚の問題というよりもよって立つ基盤に欠陥があるといわざるを得ない。
まあ、鳥の骨の上司にあたる王族が有能であれば少しは事態も違ったのであろうがこればかりは、ヤツの不幸だろう。

「抑えきれないのか?」

「扱いに苦慮しているようです。一部の貴族がかなり強硬な姿勢を見せているとの報告もあります。」

国力差を知っているのだろうか?連中に破滅願望があるといっても何も、わが国で破滅してくれなくてもよいであろうに。
せいぜい、自分達で杖をつきつけ合って自分たち自身で吹き飛べばいいのに全くはた迷惑な隣国だ。

「ところで、ロマリアで行っている例の交渉はどうなっている?」

「取引相手が恥ずかしがってなかなか出てこずに、こちらから出向かざるを得ないとか。ただ、いろいろと準備不足であることは否めないのでまずは下調べから取り掛かるそうです。」

エルフとの接触を希望していたが、砂漠の壁は大きくロマリアの手も想像以上に長い。諜報網に引っ掛かることは避けたいという報告も以前にゲルマニアの領事経由で届けられている。
あのエルフと交渉が成立するかどうかは未知数であるが、少なくとも会話が可能であるということは、意思疎通を試みるだけの価値もあるだろう。
そう思い、許可したがまず交渉を始めるための相手を見つけることから始めるとなれば難渋するのもいたしかたない。

「本命の取引はうまくいっているのであろうな?」

むしろ、本命である帝室の財源にロマリアの坊主を寄生させない方が重要度は高い。
もちろん、労働力は欲しいが、しかし面倒事がついてくるのは歓迎できないのだ。

「それは、問題なさそうです。ムーダのほうに船団をロマリアに回すよう要望されています。宗教庁からちょっかいを出される前に、掘り出し物の聖職者を見つけたのでこれに教会を与えてしまってほしいとの付記もあります。」

「ロマリアにからまともな坊主を見つけただと?本当ならば、偉業ではないか。」

まったくもって面白い。ロマリアにまともな坊主が存在していたことと、それを発見したことを考えれば、文字通りブリミル教の奇跡ではないか。

「最後になりますが、ハルデンベルグ侯爵がアルビオンとの合同訓練について承認を求められております。」

「目的は?」

「空賊対策のようです。ハルデンベルグ侯爵は練度を向上させるためにもアルビオンとの訓練は有効であると。」

アルビオンとの合同演習。確かに、悪くはないがこの手の行動で同盟とみなされるのはいささか厄介かもしれない。合同演習を行うほど緊密な関係と見なされるのは同盟国かそれに近いと見なされかねない。
アルビオン自体を敵に回すつもりはないが、アルビオンと運命を共にするほどにはなれない。

「卿の見解を聞こう」

「断るよりは、一部でも派遣すべきかと。」

「理由は?」

外交の担当者がこういった事例に賛成するのは珍しいように思えるが、まあ例外がないわけではない。
厄介事を避けたがると思っていたが、ラムド伯はむしろ断るほうが面倒だと考えているようだ。

「やはり、アルビオンの空軍をじかに調べられる機会は逃すべきではないかと。」

ふむ、軍事面で正面から戦ってもアルビオン空軍に敗れるとは思わないが、しかし個別の技量で劣っているだけに質的改善のきっかけとはなるかも知れぬ。
加えて、アルビオン空軍の実力を把握できるならばそれに越したことはないだろう。

「外交上の問題も、空賊対策に近隣国が一致して取り組んでいるとの姿勢を示すことである程度までならば問題はありません。」

確かに、その通りともいえるが近隣国と言えども被害に遭っているトリステイン王国抜きでやるのは対外的に名分が厄介にならないのか?
あの、プライドならばエルフすら越えるような隣国があるので少々気になる。

「また、隣国との関係をアルビオン側も意識していたようで、トリステインを誘ったものの断られているそうです。」

「何故だ?」

ある意味で、軍を精鋭に育てられる上に他国の実力を測る良い機会のはずだが。まして、空の国「アルビオン」の軍だ。
戦時に負けるとは思えないが、しかしその質が他を圧倒するのは認めざるを得ないところなのだ。
それを連中が断るという理由が見つからないが、なにか我々が知らない事実でもあるのだろうか?

「成り上がりのゲルマニアとは共に訓練するに及ばずとのことです。」

「自国に割と好意的に接しているアルビオンに言う理由がそれか?いつものことにせよ、時代錯誤の愚か者どもの集まりだな。」

安定した航路の確保、アルビオンの至上命題である。そのアルビオンにとってみれば地上の友好国や隣国が戦争するよりは、平和であるにこしたことはない。
当然のこととして、トリステインとゲルマニアの関係が安定しているほうが彼らにとってみれば国益に可能のだろうから、一応気を使ってきてくれている。
それを、高慢なプライドで蹴り飛ばせるトリスタニア中枢の神経が余には理解できなかった。

伝統的な友好国が、なぜ友好国でいてくれるか忘れているほどの間抜けがいるとは知らなかった。
裏をかかれている可能性も考慮すべきかもしれないが。まあ、相手はロマリアやガリアの怪物ではなく、トリステインの愚者どもだ。
侮りは危険だが、過大評価するには当たらないだろう。

{ロバート視点}

「まったく、砂漠越えに必要な物資の調達すら見通しが立たないとは。」

テントや馬車はある程度簡単に入手できるようであるものの、駱駝や地図等は到底入手が困難な水準であった。
一応、陸路でなく空路として砂漠を横断する選択肢もあるものの、遮蔽物が何一つとしてない砂漠上空をフネで移動するのは目立ちすぎる。

「商人への監視は異常ですな。場違いな工芸品の流出が懸念されるとしても、ここまで徹底するとは。」

ある程度のところまでエルフの居住地域に関連して情報収集には成功している者の、ロマリア宗教庁の暗部は想像を絶する深さであるようだ。というか、これ以上踏み込むのは危険すぎる。
まだ、浅い部分を軽くなでたような調査でこれだ。どれだけ危ないのかと疑いたくなるが、それほどの規模なのだ。

「むしろ、私としてはロマリア外にある場違いな工芸品がどこから来たのか気になるがね。」

どこから流れてきたのだろうかということを考えるときに二つの可能性がある。
ロマリアから流出したのか、それとも私のようにどこかに偶然流れ着いたのか。
前者ならばそのルートを発見できれば得られる成果は果てしないモノがあるものの、おそらくは後者だろう。

秘蹟探索部という機密の塊のような部署は「場違いな工芸品」を探すためだけに大量の密偵を砂漠へと送り込んでいる。
成功や、生還の確率は果てしなく低いが、物量で問題をねじ伏せている。
「砂漠は、ロマリア密偵で舗装されている」調査していて頭に浮かんだのは死屍累々にも構わず大量に投入されている密偵だ。
砂漠越えは当然陸路を使うしか秘密裏に行えないが、陸路にすら密偵が潜んでいる可能性があると指摘されては慎重にならざるを得ない。
そのように、幾重にも諜報に力を入れている組織が、その成果を流出させるとは、希望的観測にもほどがあるだろう。
忌々しい限りではあるが、現状では種を播くにとどめるしかない。
そろそろ、追放令を金で贖うという形でゲルマニアに帰還する予定日にも近い。成果がない以上、この地に継続的に活動させる人間を残して戻らねばならないだろう。

「ミスタ・ニコラウス。この地に留まってもう少し探ってほしい。任せられるであろうか?」

彼自身は、情報の取りまとめ役としてさほど顔を知られていないということと、要領を得ているために万一の際にもある程度の希望が持てる。
なにより、面倒事を避けつつ情報を収集するという神経を使う仕事だ。余人には代わりが務まりにくい。本当は、本国で活用したい人材ではあるのだが、いたしかたない。

「問題ありませんよ。まあ、面倒事ではありますが、さほどの荒事も必要ありませんし、うまくやって見せます。」

「よろしく頼む。だが、宗教庁の連中にだけはくれぐれも注意してほしい。」


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ザ・あとがき

結構他国に留学したりと自由と言えば自由かもしれない世界でも、案外お偉いさんとかが行き来するのは不自由だったりするかもしれないと。

そこで、今回は亜人討伐の際の火計が、ゲルマニアに損害をもたらしたということにして追放された形にしてみました。

言うならば、彼は公務についていないゲルマニアと関係ない人。

最近暗躍してるの誰よ?お前んとこの人間じゃないの?
           ↓
(´・ω・`)@<いやいや、ウチとは関係ありませんよ。誰ですそれ?

ザ・裏工作を目指して頑張ります。


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説明的な何か。またの名を補足

ご指摘があったのでちょっと補足をば。

アルビオンの面積には限界があるので、当然自国内の木材獲得にも限界があると想定しております。これが、(広大な未開発の土地を)もつものと(限界がある)持たないものの差です!

戦前の日本海軍と米海軍の油の使い方的な何かをお考えください。
ある種絶望的な差?

今回参考にしたのは、実際の英国海軍が木材供給を東欧やロシア方面にかなり依存していて、造船事情が変化するまで木材獲得に心血を注いでいたという歴史的な現象です。

英国海軍も強大な海軍を維持するために多方面からの木材調達に勤しまなくてはなりませんでした。今でこそ、木材をめぐって深刻な利権対立と言われてもピンと来ないかもしれませんが重要な戦略物資だったのです。

今でいうところのレアメタルとかに匹敵する重要なものです。

たとえば、自国内の木材を可能な限り保護するためにもできるだけ使わない(伐採しないことが)望ましいです。アルビオンが厳密にどの植生に分類されるかはちょっとわからないのですが、すくすくと木が生長するとも思えないので使わないに越さないのです。

たとえば艦船のマストとして30メートルの物を作るためにはそれなりの長さの木を必要とします。そんなに簡単には育たない。メイジ使っても限界はあるので、浪費厳禁は当然のこととしても節約は使用量を減らせるだけで、増やせるわけではないという現実があります。

そして、アルビオンは強力な空軍の編成のために備蓄し保護している木材を簡単に浪費することはできません。予備がなくなってしまうので。

だから、アルビオンとしては代替調達先として期待しているので、木材供給してくれるなら援助するよと申し出てくれるのではないかなと思って表現してみました。


\(-_\)(/_-)/それはともかく。つ小ネタ

うん、新大陸に独立されて本格的に木材涙目の英国海軍の悲哀をアルビオンには経験してほしかった。いくらやりくりしてもどうにもならない絶望的な持つものの差を思い知ってほしい。

たぶん、今の戦力でアルビオン艦隊とゲルマニア艦隊が戦えばアルビオン艦隊が勝てると思うんだ。でも、きっとその時アルビオン艦隊の諸君には文字通り「ピュロスの勝利」というものをかみしめてもらうつもりなんだ。

すまないね。人口と資源が多いので、うちは艦隊再建がその気になればたぶん、そちらの資源が枯渇するまでお付き合いできるんだ。ああ、罵ってくれて構わないよ。

その間に、以前に倍する戦力をぶつける用意をするから。

でも、ちょっと考えてほしいんだ。
お互いに、得るもののない戦争なんてするべきかな?
だから、拳を振り上げる前に冷静に計算してほしい。
僕らはきっと良いお友達になれると思うんだ。

だからさ、得るもののない戦争なんてやめて一緒に他の所から分捕ろうよ?分け前は五分で構わない。近くに良い狩り場があるんだ。ああ、ガリア君ももちろん仲間はずれにはしないよ。

みんなで分割しようよ。
そうすればみんな幸せになれるんだ!

※気がついたらネタに走ってしまっていました。ポーランド分割とか列強の倫理はどこかが壊れていると思います。でもそんなことのできるEU3やvicが大好きだ!


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権力、宗教とか?

( ゚∀゚)o彡°アクトン!アクトン!

Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.(「権力は腐敗する、専制的権力は徹底的に腐敗する」)

貴腐ワインと言うので腐ったものも使いようと腐らせ方次第だと思います。使い道次第ということで、とりあえず腐敗している宗教家とも仲良くなります。

とりあえず、ゲルマニアではお客さまは神様ですの精神で行こうと思います。市場なってくれる限りは良いお付き合いをの精神のことです。
(≒経済的な植民地?or良い商売先)

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地中海は、ローマの物。少なくとも、ローマ教会のものではなかったんだ!
(なにをいまさら。)

異教徒と取引するのは難しいものです。

地中海世界において、イスラム教徒と取引しようとするイタリア都市国家の大半は、ローマ教皇の目を盗んだり偽装したりしなくてはなりませんでした。今回は、ロマリアの目を盗むための下準備に終わったということで。

考えてみると、砂漠に密偵をたくさん送りこんで場違いな工芸品を回収しようとするならば、いっそ普通に貿易すればいいのにと思います。
まあ、ロマリアもいろいろあるのでしょう。





断章5 ネポスの人材狩り紀行

{アルブレヒト三世視点}

「人手が足りない?」

ごく単純に事務的な嘆願を行ってきたのは、北部新領から派遣されてきた行政官である。
言わんとするところが分からなくもないが、だからと言って嘆願書をあちらこちらに提出する暇があるのなら仕事にかかるべきではないのか?
人材の採用に関しては一任してあるものだから、現地で不足している人数を確保すれば良い話だ。
何故ヴィンドボナに嘆願する必要がある?
余が訝しがっているのであろうことを察したのだろう。使者として派遣されてきたネポスと名乗る若い男は言葉を継ぎ足した。

「はい、ゲルマニア新領の開発が進展するにつれて行政府の要処理案件増加に処理能力が追いつかないのであります。」

「余は、現地の人材に関して登用は自由に行ってよいと言っておいたはずだが。」

「無論、現地でも人手を募ってはおりますが、それでも不足しているのであります。どうか、ウィンドボナから応援を頂けないでありましょうか?」

まあ、事務的な仕事を行うためにはある程度の教育を受けたものでないと使い物にならないだけに辺境部で人材を確保するのはある程度の困難が伴うのは理解できる。
だが、それはどこも同じだ。

「希望は理解できなくもないが、そうそう人手に余りがあるわけでもないのだ。軍を退役したものを何人かすでに派遣したばかりでもある。」

「しかし閣下、現状では到底足りないのです。」

はて?予想外にも、この若い嘆願者は引き下がる様子がない。ここまでくらいついてくるほどに人材が不足しているとの報告は派遣してある監察共からは入ってきていないが。
連絡が途絶えがちということと併せて不審なことでもある。さすがに定時連絡は付いているが、詳細な報告が滞っているのは危険な兆候かもしれない。これは調べておくべきか?

「あいわかった。こちらでも善後策を練るとしよう。その方らでも随時手当せよ。」

「ありがとうございます。」


{ネポス視点}

「困った。どこで、人を集めればよいのだろうか。」

頭を抱えつつ、ウィンドボナにある宿へと僕はトボトボと足を向けている。久しぶりの休暇を上司であるミス・カラムより頂いたと思いきや、厄介なおまけが付いていた。

“行政府の人手不足を解消するために、人材を狩り集めてきなさい”

もちろん、あの地獄のような書類の山から解放されるとあらば喜び勇んで人手を募るところだが、ことはそう簡単ではない。新領にかなりの数の役人を引っ張って行ったため、新規に採用するには時間がかかるうえに、どこも余裕がある訳でもない。
当然、乏しいパイを巡って激烈な競争である。負傷し、引退せざるを得ない傭兵などで読み書きができるものをギルドから優先的に引き受ける契約をコクラン卿が結んでくださっていなければ今頃書類に殺されているかもしれない。
業務に卓越して熟練しているはずの役人が沈むほどの業務量など、初めて見た思いだ。

「はあ、商会をめぐってみますか。何人かでも回してもらえればよいのだけれど・・・。」

予算にはある程度の額が用意されているとはいえ、必要量を調達できるだろうか?確保できねば、帰還した時待っている一人当たりの業務量が致死的な量に至りかねない。


{フッガー視点}

「人手不足、でありますか?」

「ええ、そうです。何人かまたご紹介いただけないでしょうか。」

新領の慢性的な人手不足は有名だ。すでに、ウィンドボナにあるほとんどの商会に対して人材がいないかとの問い合わせが行われている。最初のころは気楽にこちらとしても引き受けられていたものの、現在では余所からの依頼もあり簡単にはいかない。
今は、完全に人手が不足しており、有能な人材は囲い込まれる傾向にある。

「そうですね、ご希望はどのようなものでありましょうか?」

「メイジならば大歓迎。読み書きと一通りの計算ができるならば何でも構わないのでご紹介いただきたい。」

と、言われても簡単に紹介できるような者にはいろいろと問題があるか高額すぎるかのどちらかしか残っていないのだが。
さすがに、信頼できないものを大量に紹介したとなると、商売上よろしくない問題に発展しかねない。信頼は重要なのだ。

「はい、ですがさすがに適当なことをして人材をお勧めすることはできません。」

「いや、使えるかどうかの判断はこちらで行う。」

はあ、断りすぎるのも問題か。あまり、使い道がないような人材で無難な選択肢がないわけではないが、そう代替選択肢があるわけでもないのでまた人材を探さねばならないだろう。

「魔法学校を卒業されたばかりの方でよければ何人かはご紹介できるかと。ただ、確実ではありませんが・・・。」

メイジとしてはさほど優秀ではなく、進路を確保できていないようなものでもある程度の教育は受けているので、数には入れられる。とは言え、これらはそれほど多くもない。

「結構です。今すぐにお願いいたします」

うーん、どこかに大量に余っていないものであろうか?読み書きができると言うとそれなりに教育を受けているものか、ギルドに属しているものなどに限定されてしまう。
せっかくこうして多くの買い手がいるのだから何とか見つけられれば大きな利益になるのだが。


{ネポス視点}

数件の商会をめぐって獲得できたのはドットのメイジが三人。目標まではまだ到底およばない。正直なところ、さらってでも働かせたい気分になってきます。
しかし、人材不足はどこも同じようで、何人か同業者に遭遇し、お互いの苦労を理解しつつも譲れない一線を感じるところです。
なぜなら。他の面々はまだ余力があるのに対してこちらは絶望的なまでに追い詰められているからです。

「どこかに、ただで使える人材が落ちていないものですかね・・。」

そう言いつつ、僕は疲れ果てた体でベッドにもぐりこむと明日もウィンドボナの商会をあちらこちらめぐるために早めに休むことにする。
できるだけ人を集めて帰らないとミス・カラムに焼かれるかもしれない。そんな、滑稽なことも本気で不安になってくるような切迫した顔で人材を集めるように命じられたのだから気が重い。
果てしなく、気が重い。少しばかりの休暇につられて引き受けるのではなかった。
ムーダの方に頼み込んで募集の告知を各地で実行していると言うが採用に至るような応募は今一つだ。やはり、何とかしてここで人を集めなくては本当に書類の山に殺されかねない。


{アルブレヒト三世視点}

少し前に、気になったため調査を命じていたことにようやく報告が行われたが余は不覚にも、その報告の内容が一瞬理解できないでいた。

「つまり、あまりにも多忙であったために詳細な報告書を送ることができないでいたと?」

「はい、派遣した監察要員の大半は過労で当分使い物になりそうにもありません」

確認のために派遣した監察官が、妙に面談を強く希望するものだからと目通りをこのような時間に行うことにしたのだが・・。
急ぎの用件ということで妙に緊張したが、叛乱やその類ではないようである。

「では、人手不足は間違いないのか?」

「間違いありません。危うく、同僚に捕まって書類に殺されかけるところでありました。」

「・・・そこまでか?」

一応、密偵たちは中央派遣の人間や、派遣された役人の元同僚や友人というものに偽装して査察を行っている。
当然、名目上とはいえ派遣された役人の、同僚であれば仕事を手伝うのは当然のこととなってしまう。
機密維持や内部の秘密を維持しようと、領主などであれば断ることもあり得るが、直轄領の総督であれば彼もまた皇帝の役人にすぎないのだ。
そういう意味で、融通がきくことが逆に監察官の負担となっているとは驚くべき事態だ。

「辛うじて逃げ出してまいりました。できれば、早めに人を派遣すべきかと」


{ネポス視点}

道を歩いている商人たちをさらって役人にしたいという衝動をこらえつつ僕は、一つの名案を抱えて閣下へと拝謁の申請を行う。正直に言ってこの腹案がなければ手当たり次第に人手を確保していたかもしれない。
あっさりと許可され、驚きつつも幸運に感謝しさっそく中へと向かいます。

「つまり、読み書きができるかメイジである囚人から軽微な犯罪による者をことごとく、新領によこせというわけか。」

「はい。土木作業などの基本的なことでしたらそれらを使うだけでもかなりの進展が期待できます。これでしたら、各所に迷惑をかけることもございません。」

ある程度の能力があれば多少の事務作業を必要とする程度の仕事ならば任せてしまえる上に、メイジであれば大半のことをやれる。土系統であれば完璧なまでに建築に適合する。水系統であるならばさっそく開発に従事させよう。
風系統ならば、野戦に駆り立てて、とにかく亜人と遊んでももらえる。火系統は、土の補助にも討伐の補助にも使える。とにかく、メイジはできることが多い。

「しかし、囚人だぞ?」

もちろん、あまりにも問題がある者を使う気にはなれない。それは結果的に仕事を増やすだけだからだ。後始末と本来の仕事で仕事量が二倍になるのを望むのは本意とするところではないからだ。
おまけに、そんなことをしては、同僚に殺されるか、責任を取ってその仕事を行わされ、結果的に死に至るかの二択しかない。おそらくは後者だと思われるが。

「公金の横領などならばともかく、酒場で騒ぎを起こした程度のものでしたら使い道はあるかと。」

「だが、それらは通常罰金程度で釈放されるではないか。」

「ですので、罰金を払えないで数日拘留されるものをこちらに回していただきたいのです。」

酩酊し、意識が戻る前にこちらで強制拘束してしまえばよいのだ。裕福な貴族のメイジであれば面倒事になるかもしれないが、裕福な貴族のメイジはまず牢屋にいないから問題ない。
むしろ、いればそのことが問題だ。ある程度、貧しい者ならば職を与えられることに対して感謝するか、まあ受け入れるだろう。こちらはなりふり構っていられない。

使えるものならば、何だってかまわない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

新規に獲得した植民地での問題は?
       ↓
人手不足と、合わせて役人不足
       ↓ 
足りないならば人狩りだよね

を背景でやってもらいました。
書類を処理できる人材は中央集権化が進み官僚制が整備されるなかでも貴重なものだったりします。

新領ではもう、役人にメイジかそうでないかの区別なく人を集めております。


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