友人は選ぶべし。一個人の卑近な事例から、国家間の関係まで、すべからく適用できる一般的な原則にして、最も含蓄のある格言であるだろう。例え、どれほど立派な身なりで、教養があろうとも、碌でもない連中と交友があれば、それはその紳士の品格を大いに損なう。国家間の友情は、あくまでも合理的な利害関係の一致がある時にみられるものであるとはいえ、誤った指導者の国家と運命を共にすれば国を傾ける。当然、良識があるものは、交友関係に配慮を欠かさない。で、あるならば、大変芳しくない交友関係を持っているのではないかと世間から疑われている時はいかがすべきか?身を慎み、世評に穏やかに反論を加えつつ、誤解が去るのを待つしかない。「兄弟は選べないが、友人は選べると、聞いていたのだがな。」司令長官室で、ギュンターと肩をすくめながら、ラムをあおるようにして飲み干す。不快極まりないガリアとの交渉。その疲労と不快感を、ラムで押し流しつつ、歎きたくなる感情を抑え込む。「しかし、ガリアは意図的に介入してくるでしょうな。」「さもありなん。信じがたいことに、連中、妥協してきた。」戦場での勝利は、戦術的な勝利と、戦略的な勝利に区別し得る。戦場では勝てても、それが必ずしも戦略的な勝利でないならば、いかがすべきか?「捕虜を、ゲルマニアとガリアの友好関係に基づき、委ねると?」まったく碌でもない声明だ。武装解除し拘束されているオルレアン派からなるという、ガリア側の説明するところの叛乱軍。これは、それなりの数がいる上に、大半は、負傷している。無論、身代金を請求し、それ相応の処置をとることで、上乗せして請求する旨をギュンターが提案してくれたが、どうにも嫌な予感しかしない。「なら、とんでもない意図があるのでしょうな。なにしろ、ガリアとゲルマニア間のありもしない友好関係に基づくものですから。」だろうな、と胸裏でつぶやく。卑劣極まりないとしても、指揮官が処理されていたとすれば、すんなりと理解が幾。有能な士官にとって戦傷が原因で死亡というのはよくある話だ。指揮官先頭の精神は賞賛されてしかるべきだが、時としては、名誉のかけらもない者の名分とされてしまう。「まあ、おかげで近隣国の猜疑心を否応なく刺激することになるのだろうな。」「ガリアとゲルマニアの連帯でありますか?」たちの悪い冗談を聞かせているような気になるが、語っているロバートも、聞かされているギュンターも、世間というものの判断基準がそれほど複雑でない、表層にとらわれがちであるということを判断できる程度には、人生を経験している。「カラム嬢に伝令だ。ゲルマニア北部でガリアが融和的な動向を見せてきかねないと警告を発しておこう。」「それが、よろしいかと思われます。」ここで、ゲルマニア内部での保身を考慮するならば、ガリアとの融和的な動きを見せないこと。猜疑心の強い近隣国以上に、こういった政治的な話題で対抗勢力を削ぎ落そうとしかねないゲルマニア内部の政争が厄介極まりない。例えば、選帝侯らにとって、脅威なのは、中央集権の進むことだろう。その妨害のためにならば、何だってしえる。「しかし、忌々しいことこの上にない。」北部へ書状をしたためるべく、羽ペンを握り、インク壺に浸しながら、忌々しいガリアへの配慮と、内部闘争を言祝がんばかりに待ち構えているであろうゲルマニア内部の敵を思いつつ、ため息もつきたくなると胸中で呟く。「分断し、統治するのは結構だ。だが、我を統治しうる権利を有するのは、我のみ。」帝国を統治し、白人の義務を果たす。それを担ってきた大英帝国は、分割し、統治し、よって安寧と繁栄をもたらしてきた。我らが、分割し、統治するのであって、我らが分割し、統治されるのでは断じてありえない。だが、それは、すでに既定事項として語られてしまっているのだ。「ガリアとゲルマニアが友好関係を築いた?」疑問符を付けつつも、そう語られるとロバートが予想した通り、例えそれがそのように意図して流布された情報であれど、いや、だからこそ、アルビオンは悩まされることとなっていた。「ゲルマニアの説明は?」外務省の役人が頭痛をこらえるような表情で、参列者を見渡し、ため息をついてから、ぼそりと答える。「片思いされて困惑しているとのこと。」「ですが、世間はそう見ませんぞ。」無能王が、ガリアを統治できているのはなぜか?という疑問がある。そこに、ゴシップが生まれる余地が有りすぎるほどにある。ここに、有能なガリア王弟が粛清されたのはなぜか?という疑念と、ゲルマニアという要素をかき混ぜれば、一つのもっともらしい解答が出来上がる。曰く、ゲルマニアの主敵はどこか?言うまでもなく、(自意識過剰なトリステインを例外とすると)、ガリアであることは衆目一致する。では、ゲルマニアにとって、長大な国境で隣接する強力な隣国はどのような存在であることが望ましいか?ということを考えてみると、おもしろいことになる。ガリアとの友好関係が望ましいのは言うまでもない。だが、ガリアが強大な国家でないに越したこともないのだ。さて、この前置きで議論を進めよう。ジョゼフ王は魔法の使えない、無能な王子であった。オルレアン公は、自他ともに認める魔法の天才である。ジョゼフ王は、人形遊びに戯れる狂人であるという。オルレアン公は人品共に優れると万人が認めた。さて、ガリアにとって望ましい王とは、誰だろうか?そして、ゲルマニアにとって望ましくない王とは、誰になるだろうか?という疑問には、純粋な知的好奇心の発露以上に、奇妙な疑念がわき起こる。曰く、ジョゼフの即位を望むのは誰か?ガリア国内の貴族ではない。ガリアの平民でもない。だが、ゲルマニアにとっては、最良の選択肢とみられる。さて、ここでひとつ思い出してもらいたいのは、皇帝アルブレヒト三世という政治的な怪物である。かれは、自国の政争慣れした継承権保有者をことごとく無力化するに至っている。その彼にとって、搦め手から、若い王子を追い落とす策は簡単ではないだろうか?ジョゼフが、王位を欲した時、彼の味方足りえたのはアルブレヒト三世のみではないだろうか?つまり、秘密裏に両者が手を結ぶということもありえたのではないか。それまで、その協力関係は隠されてきたが、国内のオルレアン派が蜂起した時、ジョゼフ王にゲルマニアは味方したばかりか、オルレアン派と直接交戦しているではないか。聞けば、その功績を讃えて、ゲルマニアの指揮官を叙勲までしているという。やはり、繋がりがあったのではないのか。そう、人々は囁かざるを得ないだろう。思えば、トリステインをゲルマニアが抑えた際に、最も隣国としてストップをかけうる立場にあったガリアは沈黙を保っていた。それを不可思議に思う人びとも少なくなかったが、これで説明がつくのではないか。世間で、そのように意図的に意識が誘導され始めている。当然のこととして、ガリア王は、無能王と程遠いと認識できる人物以下では、この噂に惑わされるだけだろう。「トリステイン王党派は?」無能な集団、その筆頭格を占有する面々が、アルビオン内部には転がり込んできている。それらを料理し、アルビオンにとって最適な結果を導き出そうと欲してはいるが、なかなかにしぶとい抵抗が現在までのところは、主として少数の例外的にまともな面々から行われてきてはいた。「いやはや、醜いものです。ごく例外的な最初に付き従ったものを例外とすれば、あとは、無能が喰いつめて王党派の衣をまとっているようなものですよ。」だが、王党派ここにあり、と示すことは、人を良くも悪くも引きつけるということだ。当然のこととして、望ましい有能な人材を招く以上に、碌でもない無能な自称忠勇の士が有象無象に集まってくることになる。「ふむ、組織として我々にとっては健全になりつつある。」当然、まともな貴族達が、王党派を制御しきれなくなるのも時間の問題となってくる。まともな眼があれば、ガリアとゲルマニアに挟まれてなどいないトリステインの独立を維持するのは、困難ではあるが、絶望以外の選択肢もあるだろう。だが、まるで八方ふさがりのような時に、アルビオンから手が伸ばされれば、耐えられない。耐えられるはずもない。「見通しが甘いのでは?報告では使いようのない代物ばかりだ。」だが、家名を維持するということ以上に、妙に誇り高い連中を扱うには、こちらがとにかく歩み寄らねばならない。はっきりと言えば、労力の割に合わないという印象すらあるのだ。「トリステインの情勢は?」その点をみれば、王党派からは王女のみを抜き出し、現地に残留している貴族らと渡りをつける方が、結果的には事態が容易に解決するのでは?という意見がアルビオンでは一定の支持を集めるに至っている。「ゲルマニアが上手くやりました。一番面倒な公爵家が、周囲から孤立しています。ここで、我々が手を差し伸べれば、事態は決定打になるでしょうな。」武力をもった、有力な貴族が国家の藩屏として健在である時は、厄介だろう。だが、その藩屏をして、周囲から孤立させてしまえば、料理を行うのは決して難しいことでもない。ゲルマニアにとっても、アルビオンにとっても主体として、トリステインという要素を極力削ぎたい以上、ここでは協力を惜しむ理由もないところだ。「では、リッシュモン卿の上に、トリステイン王室の宰相か、摂政の地位でも用意致しますか?」「摂政は望ましくない。ここは、宰相の地位を正式に用意すべきでしょうな。これでリッシュモン卿の力を抑制しつつ、相互に反目させられる。」「奴は、したたかですぞ。これ幸いと、公爵を使いつぶしかねない。」適度にゲルマニア、アルビオンとの矢面に公爵を立たせて、対外的な厄介事を押し付けた挙句に、梯子をはずすなり、後ろから刺すなり、トリステイン貴族ならばこの程度は誰でもやりかねない。だが、リッシュモン卿は、確信的に、やるだろう。「それならば、それはそれで結構ではありませんか。」だが、それはそれで、アルビオンにとっては特に問題があるという事態でもない。強力な抵抗勢力が排除される。これだけみれば、これといって併合に障害あるわけでもないのだ。各国の影響圏を侵害するような事態にでも至らない限りにおいて、この事態は別段、問題視すべき要素ではない。「大公国は?」その点において、大公国の動向は、影響圏の問題に少なからず関わってくるだけに少々手を焼かざるを得ないものがある。なにしろ、彼の国は、独立国なのだ、外交的には。そして、講和条約上、善意の仲介者としてのアルビオンはその立場を尊重するという制約が課せられている。別段、大公国に親愛の念を抱いているわけでもないが、対外政策上、容易にその立場を侵害するような行動を表だって、取るわけにはいかない。「ゲルマニアに権益交渉を行っているとか。」「さてさて、取りあえずは、我々にとって障害はない、と見てよいのか?」ゲルマニアとの権益交渉は、あくまでも一つのステップ。だが、逆に言うならば、ゲルマニアが自国で大公国に認めた以上の権益を、アルビオンが用意する必要もまたない。つまり、一定程度の落とし所が模索されている以上、この問題については、取りあえずは注目しておくだけで良い。「概ねは問題ないだろう。では、本題に入ることにする。」だが、アルビオンの中枢で緊急の課題となっているのは、全くの純粋な内政上の要請である。すなわち、内部の敵の存在である。貴族、それは、最も誇り高き王権の守護者であると共に、最も身近で、恐るべき敵になりうる存在であるのだ。「諸君、内戦の萌芽がみられる。おそらく、このままでは、乱に我々は直面することとなるだろう。」「内戦?まさか!」王位継承戦争ならば、一般的に理解しやすいだろう。だが、アルビオンには正式な王太子がいる上に、競合するような王族も存在しない。さらに言うならば、アルビオンを悩まして来たゲルマニアのような外部からの干渉による国内の不安定化も、それほど問題ではない。だが、事の本質は、いつもとは少しばかり異なっている。「北部の貴族に不平不満がたまっている。なまじ南部貴族が弱体化している分、歯止めがかからん。」「法衣貴族だけでは、抑えられないと?」名分がないのだから、法衣貴族らがそれとなく抑えられるのではないだろうか?なにしろ、王家に反逆するにしても、名分なくただただ、貴族が乱をおこすということは、容易にありえることではない。無論、暗殺という手がないわけではないが、それは名分がないことを認めるようなものだ。「そもそも、名分がありえないでしょう。」ガリアで、有力な一派であったオルレアン派がなすすべもなく粛清されたのも、旗がなかったからだ。オルレアン公という旗印がなければ、あれほどに支持を集め、強力であった一派ですら、抑え込まれるのだ。「抑えられるだろうが、当分は内が混乱する。下手をすれば、ガリアやロマリアに付け込まれかねない。」厄介極まりないことに、名目だけでもゲルマニアが大人しくなれども、ガリアやロマリアは依然として健在だ。これまで以上に、うるさい存在になってくるやもしれない程である。なにより、頭が痛いのは、ロマリアの正統主義だ。あるべき、始祖の作りたもうた秩序に回帰せよなどと叫ぶ連中がいる以上、アルビオン悲願の大陸進出にもけちが付きかねない。「特に、ロマリアは厄介だ。」「例の件がありますからな。」正確な情報は一切公表されていない。だが、知る者は知っているのだ。なにしろ、兵を差し向け、事を解決しようと試みたのだから、当事者が存在しないわけがない。「処理が完遂したとの報告がないが、その後の経過は?」だが、いつまでたっても肝心の報告がこない。曲がりなりにも、相手はメイジを圧倒するエルフだ。当然、抵抗し、こちらの手を逃れたということは可能性としては考えられる。平民の兵すらも選別し、精鋭を投入したつもりであったが、相手はエルフを含んでいた。当然、激しい抵抗の報告があることも覚悟していたつもりだった。だが、肝心の報告すら上がってこないとはどういうことだ。「行方がつかめておりません。」調べてみれば、この件を担当していた部隊が、忽然と命令系統から下されていた命令を遂行しないばかりか、包囲網を解除していた。急遽、捜索を開始してみたものの、結果は望ましいものではない。「ようやく、掴んだ乏しい情報では、ゲルマニアに亡命したとの未確認のものが一件。」一応、成果らしきものは上がって来ている。だが、それはゲルマニアに亡命したという事実であれば、アルビオンにとって頭痛どころか、致命傷になりかねないような大規模な爆弾のような情報である。「・・・なんだと?出所は?」思わず、うめき声が上がるような室内で、ようやく確認の声がかけられる。そこには、そうであってほしくないという願望と、忌々しい事柄の真偽を見極めたいという欲求が限りなく入り混じっている。「ゲルマニアのムーダからです。」淡々と出所が明かされるが、それは良くも悪くも期待にそぐうものであり、同時に、難しい判断を迫れる情報でもあった。ゲルマニアのムーダ!ゲルマニア国営の船団ならば、確かに、アルビオン南部に寄港している。なにより、アルビオンが殺すコストが高すぎる一方で、放置しておくコストも高いような面々を、事実上の国外退去に使うという意味合いを見出していた、代物だ。当然、そこに潜り込まれれば、国外に悠々と脱出される。「輸送船団か、可能性としてはありえるだろうが・・・。裏付けを取れ。ただちにだ。」だが、しかしだ。ありえないのだ。曲がりなりにも、まともな政治的な判断力のある人間が、理性的に判断するならば、エルフなど匿わない。せいぜい、捕えてアルビオンに牽制をかけることはありえても、その情報をまったく隠蔽するなど無意味極まりないことはしないはずだ。そして、仮にこちらに敵意を有していると仮定しても、良くも悪くも、ゲルマニアのロバート・コクラン卿という貴族は、信頼できる敵であるのだ。そして、少なくとも現状では、敵ではないはずなのだ。だとすれば、その意図がわからない。「しかし、ゲルマニアが匿っていると?」「ありえん。連中がそこまで、無能だとも思えない。」疑問の余地なく、化け物が蠢くのが国家外交の基本なのだ。アルビオン、ゲルマニア、そのどちらといえども、無能とは程遠い。当然、必要のないことはしない。「では、アルビオンとゲルマニア双方の眼を掻い潜れると?エルフですよ?」だからこそ、疑問がわく。一体どこにいるのだ?死んでいるならば、それはそれでかまわない。だが、国外に出ているかどうかも定かでないというのは、全く望ましいものではない。北部貴族らの動向と合わせて、実に頭を悩ませる問題であるのだ。「人間に擬態できる可能性は、どうでしょうか。」ふと、思いついた提言が、議論の俎上に挙げられる。魔法には、変身し、擬態するものもないわけではない。むろん、相応に貴重なマジックアイテムや、高度な魔法であるのは言うまでにないにしても、エルフの力量なのだ。可能性として、排除し得る物ではない。「エルフが、そのような事をすると思うか?」「連中が、しないということも、考えられますまい。」確かに、と一同は思わざるを得ない。エルフとは、彼らにとってでさえ異物なのだ。思考が、合理的であるかどうかといったところではなく、人間に紛れ込むかどうかなどというエルフの価値観に関する知見など、持ちうるはずもなかった。当然、可能性として検討すべきことがらである。「では、どうしろというのだ!最悪、ただの王位継承者として名乗り出られては、名分が・・・。」一人の言葉に、もう一人が、劇的な反応を示した。手にしていたカップをほとんど滑り落とすようにして、机に置き、思わず、序列も礼儀も忘れて、叫ぶように問いかけてしまう。「まさか、北部貴族がそれを!?」名分なき反逆を行うのは、難しい。貴族は、なんだかんだと名分を欲する生き物でもあるのだ。あの、リッシュモンでさえ自分は忠臣であるという態で持って、クーデターを起こしているのだ。実際の行動がどうであれ、名分を欲する連中にとってみれば、これは一つの大きな名分たりえる。モード大公は、第二位の継承権を有していた。情報が正しければ、その子供なのだ。すさまじく、厄介というほかにない。「では、ゲルマニアに逃げ込んだというのは、偽装?」もしも、そうであるならば、ゲルマニアはこのような爆弾を抱え込む余裕があるとは思えない。策謀好きだとしても、当然引きどころを弁えていることは、長年の付き合いがいろいろな意味であるアルビオンは知っている。ならば、眼を外にそらすためであると考えればどうか。「あるいは、欺瞞情報のどちらかやもしれん。」ゲルマニアには、不信感が確かに有る。ガリアとの関係を疑わされていることもあり、この疑念は間違いなく、ゲルマニアに亡命したのではないかとの、憶測を招くには十分だろう。だが、視点を変えてみれば、これほど疑わしい情報もないのだ。「ワルド子爵と言いましたか、確か魔法衛士隊の精鋭をしても、最終的にゲルマニアの監視に捕捉されている。」アルビオンまで、トリステイン王党派が亡命してくる過程において、恐ろしく強力な風のメイジが護衛として付いてきた。あのゲルマニア艦隊の追撃すら振り切ってだ。そのメイジが、一矢報いんとゲルマニアで暴れ回ったが、やはり、最終的には封じ込められたらしく、それからの情報が一切聞こえてこない。げに、ゲルマニアの手と眼の良さを物語っているというほかにないだろう。訓練され、ひたすらに軍務に従事していたスクウェアが、これだ。エルフといえども、そうそう監視を掻い潜れるとは思わない。「・・・そのことを思えば、国内に潜伏していると考えるべきやもしれませぬな。」そもそも、一部の部隊が、包囲を解いたところからして、理解ができないでいた。だが、士官に、もしも、もしもだ。内通者がいれば、命令書を握りつぶしていたらどうか。まったくの無抵抗というわけでもなく、それなりの損害が出ていることを思えば、混乱に付け込まれた可能性は排除できない。「国内の掃討、今すぐに始めるほかにありますまい。」アルビオンが懸命に国内の掃討を行うのは、さながら必死の狩りたてに類似しているだろう。だが、狩りたてる、という一事において宗教が異端を血眼になって捜すことにまさるものもない。同時に、聖遺物を求めるという事においても、狂信者はおどろくべき熱意と、その偏執的な知性で持って成し遂げうる。その、狂信者をして、苦悩に陥れるという点において、始祖の作った世界の秩序は、彼らの主観であるにしても、大いに乱れていた。「虚無は見つからない。ガリアは無能王がゲルマニアに接近している。」虚無は存在する。その前提を疑わないならば、始祖の築き上げた秩序が崩壊することは、その探索の糸口がさらに失われ、聖地から遠ざかることを意味する。同時に、ガリアが始祖の恩寵厚き魔法を碌に使えない無能王に統治されていることは、望ましくない傾向であるように彼らには思えてならない。政治的に、ジョゼフが無能で無いことは、認めよう。しかし、それは、彼らにとっては、無価値なのだ。始祖の恩寵なき者など、語るべくもない。それは、やっかいな、排除すべき汚点でしかない。「トリステイン王家も、ガリア王家も虚無が見つからず、アルビオンに至ってはエルフとの通敵の噂すらある。秩序が乱れ過ぎている。」いまさらのことを言ってどうする?その一言を発することもできずに、一同は沈黙せざるをえなくなる。始祖由来の伝統と格式を誇った王室のうち、健在なのはガリアとアルビオンのみ。しかし、両者は望ましい姿とは程遠い。だが、そこに一石が投じられる。異端審査を担う、原理主義を信奉する一人が、原理主義ゆえに許される解釈を口にしたのだ。「いや、文献を紐解けば、エルフが敵であるかどうかは、この際重要ではない。」「卿は!?なにを、仰るのか!!」若い司教が、信じられない裏切りにであったかのように絶叫する。エルフを倒し、聖地を奪還すべし。それこそが、彼らの使命にして、崇高なる義務であり、大いなる喜びが約束された契約なのだ。それを、こともあろうに、エルフが敵であるか、どうでもよいと?「エルフであろうと、エルフを殺すのであれば、構わんではないか。」「気でも狂われたか!エルフが我らに味方するとでも言うのか!」話にならない、そう言わんばかりの面々に、彼は教会淡々と、答える。ごく、ごく限られた部署に密かに蓄積されている虚無の歴史を思い出すように促し、一つの故事を思い出させる。「始祖は、エルフを使いつぶしたもうた。」始祖の使い魔にはいくつかの謎がある。だが、意図的に姿を描かれない使い魔もいるのだ。そして、そのルーンの一部は、通常のルーンと異なり、使い魔を死に至らしめるものすら有ると噂される。何故か?もしも、もしもだ。エルフを使役するものであれば、理屈が叶うのではないかと、かねがねから、ごくごく限られた範疇では、語られてきている。「・・・アルビオンのエルフをそのように使えと仰せになるか?」「思い出すがいい。ガリアもエルフと通敵の疑いがある。アルビオンよりも、どちらの罪が重いか思い出すがよい。」人の武器となり、エルフを殺す道具と、エルフと結び、人に対峙するガリア。どちらが、有るべき姿から程遠いだろうか?この明確な疑念に、幾人かがすぐに同意する。「簡単だ。我々は、罪なきゲルマニア、アルビオンをして、異端ガリアを討つ。基本方針は変わらぬ。」虚無が見つかるまでに、なすべきことを為そう。それは、ガリアを討つことだ。あるべき姿から外れたもの同士を戦わせ、すりつぶし、新たに秩序の復興をロマリアが担えば良い。それを考えれば、方針は既定のものと変わることがないだろう。「異議はないな?では、各自、それを踏まえて、事をなすように。」~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~あとがきエロ中年様にご指摘ただき、多少修正しました。ご教授いただきありがとうございます。全部できていませんが(-_-;)たぶん、ジョゼフはガリアの兵士なんてどうでもいいかなーとおもっている傾向があると思います。じゃなきゃ火石なんて使わないかと。Q:1980年代の冷戦を平和というでしょうか?A:すくなくとも、影響圏の侵害は比較的穏便だったと思うのですが。平和と友情と言いますが、国家の友情なんてそんなものではないでしょうか?某パラドげー風に歴史を表示すると賢明にも"イギリスには永遠の同盟国もなければ、永遠の敵対国もない。あるのは永遠の利害関係者のみ"と、パーマストン卿は仰せあそばされました。