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No.15007の一覧
[0] 【ゼロ魔習作】海を讃えよ、だがおまえは大地にしっかり立っていろ(現実→ゼロ魔)[カルロ・ゼン](2010/08/05 01:35)
[1] プロローグ1[カルロ・ゼン](2009/12/29 16:28)
[2] 第一話 漂流者ロバート・コクラン (旧第1~第4話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:49)
[3] 第二話 誤解とロバート・コクラン (旧第5話と断章1をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 22:55)
[4] 第三話 ロバート・コクランの俘虜日記 (旧第6話~第11話+断章2をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 23:29)
[5] 第四話 ロバート・コクランの出仕  (旧第12話~第16話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:47)
[6] 第五話 ロバート・コクランと流通改革 (旧第17話~第19話+断章3を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/25 01:53)
[7] 第六話 新領総督ロバート・コクラン (旧第20話~第24話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:14)
[8] 断章4 ゲルマニア改革案 廃棄済み提言第一号「国教会」[カルロ・ゼン](2009/12/30 15:29)
[9] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/25 23:08)
[10] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/27 23:55)
[11] 歴史事象1 第一次トリステイン膺懲戦[カルロ・ゼン](2010/01/08 16:30)
[12] 第九話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記1 (旧第36話~第39話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 00:18)
[13] 第十話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記2 (旧第40話~第43話+断章7を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 23:24)
[14] 第十一話 参事ロバート・コクラン (旧第44話~第49話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/09/17 21:15)
[15] 断章8 とある貴族の優雅な生活及びそれに付随する諸問題[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:30)
[16] 第五十話 参事ロバート・コクラン 謀略戦1[カルロ・ゼン](2010/03/28 19:58)
[17] 第五十一話 参事ロバート・コクラン 謀略戦2[カルロ・ゼン](2010/03/30 17:19)
[18] 第五十二話 参事ロバート・コクラン 謀略戦3[カルロ・ゼン](2010/04/02 14:34)
[19] 第五十三話 参事ロバート・コクラン 謀略戦4[カルロ・ゼン](2010/07/29 00:45)
[20] 第五十四話 参事ロバート・コクラン 謀略戦5[カルロ・ゼン](2010/07/29 13:00)
[21] 第五十五話 参事ロバート・コクラン 謀略戦6[カルロ・ゼン](2010/08/02 18:17)
[22] 第五十六話 参事ロバート・コクラン 謀略戦7[カルロ・ゼン](2010/08/03 18:40)
[23] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝 [カルロ・ゼン](2010/08/04 03:10)
[24] 第五十七話 会議は踊る、されど進まず1[カルロ・ゼン](2010/08/17 05:56)
[25] 第五十八話 会議は踊る、されど進まず2[カルロ・ゼン](2010/08/19 03:05)
[70] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3[カルロ・ゼン](2010/08/19 12:59)
[71] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝2(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/08/28 00:18)
[72] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝3(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/09/01 23:42)
[73] 第六十話 会議は踊る、されど進まず4[カルロ・ゼン](2010/09/04 12:52)
[74] 第六十一話 会議は踊る、されど進まず5[カルロ・ゼン](2010/09/08 00:06)
[75] 第六十二話 会議は踊る、されど進まず6[カルロ・ゼン](2010/09/13 07:03)
[76] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7[カルロ・ゼン](2010/09/14 16:19)
[77] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8[カルロ・ゼン](2010/09/18 03:13)
[78] 第六十五話 会議は踊る、されど進まず9[カルロ・ゼン](2010/09/23 06:43)
[79] 第六十六話 平和と友情への道のり 1[カルロ・ゼン](2010/10/02 07:17)
[80] 第六十七話 平和と友情への道のり 2[カルロ・ゼン](2010/10/03 21:09)
[81] 第六十八話 平和と友情への道のり 3[カルロ・ゼン](2010/10/14 01:29)
[82] 第六十九話 平和と友情への道のり 4[カルロ・ゼン](2010/10/17 23:50)
[83] 第七十話 平和と友情への道のり 5[カルロ・ゼン](2010/11/03 04:02)
[84] 第七十一話 平和と友情への道のり 6[カルロ・ゼン](2010/11/08 02:46)
[85] 第七十二話 平和と友情への道のり 7[カルロ・ゼン](2010/11/14 15:46)
[86] 第七十三話 平和と友情への道のり 8[カルロ・ゼン](2010/11/18 19:45)
[87] 第七十四話 美しき平和 1[カルロ・ゼン](2010/12/16 05:58)
[88] 第七十五話 美しき平和 2[カルロ・ゼン](2011/01/14 22:53)
[89] 第七十六話 美しき平和 3[カルロ・ゼン](2011/01/22 03:25)
[90] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝4(美しき平和 異聞)[カルロ・ゼン](2011/01/29 05:07)
[91] 第七十七話 美しき平和 4[カルロ・ゼン](2011/02/24 21:03)
[92] 第七十八話 美しき平和 5[カルロ・ゼン](2011/03/06 18:45)
[93] 第七十九話 美しき平和 6[カルロ・ゼン](2011/03/16 02:31)
[94] 外伝 とある幕開け前の時代1[カルロ・ゼン](2011/03/24 12:49)
[95] 第八十話 彼女たちの始まり[カルロ・ゼン](2011/04/06 01:43)
[96] 第八十一話 彼女たちの始まり2[カルロ・ゼン](2011/04/11 23:04)
[97] 第八十二話 彼女たちの始まり3[カルロ・ゼン](2011/04/17 23:55)
[98] 第八十三話 彼女たちの始まり4[カルロ・ゼン](2011/04/28 23:45)
[99] 第八十四話 彼女たちの始まり5[カルロ・ゼン](2011/05/08 07:23)
[100] 第八十五話 彼女たちの始まり6[カルロ・ゼン](2011/05/14 20:34)
[101] 第八十六話 彼女たちの始まり7[カルロ・ゼン](2011/05/27 20:39)
[102] 第八十七話 彼女たちの始まり8[カルロ・ゼン](2011/06/03 21:59)
[103] 断章9 レコンキスタ運動時代の考察-ヴァルネーグノートより。[カルロ・ゼン](2011/06/04 01:53)
[104] 第八十八話 宣戦布告なき大戦1[カルロ・ゼン](2011/06/19 12:17)
[105] 第八十九話 宣戦布告なき大戦2[カルロ・ゼン](2011/07/02 23:53)
[106] 第九〇話 宣戦布告なき大戦3[カルロ・ゼン](2011/07/06 20:24)
[107] 第九一話 宣戦布告なき大戦4[カルロ・ゼン](2011/10/17 23:41)
[108] 第九二話 宣戦布告なき大戦5[カルロ・ゼン](2011/11/21 00:18)
[109] 第九三話 宣戦布告なき大戦6[カルロ・ゼン](2013/10/14 17:15)
[110] 第九四話 宣戦布告なき大戦7[カルロ・ゼン](2013/10/17 01:32)
[111] 第九十五話 言葉のチカラ1[カルロ・ゼン](2013/12/12 07:14)
[112] 第九十六話 言葉のチカラ2[カルロ・ゼン](2013/12/17 22:00)
[113] おしらせ[カルロ・ゼン](2013/10/14 13:21)
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[15007] 第六十七話 平和と友情への道のり 2
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/03 21:09
愛と平和の物語は、騎士物語と同じく、人々に好まれる。それは、確かに、高尚な物語であるとされるからであるが・・・、諸君。実態について理解し、なおかつ是を首肯することを耐えうる精神を持ちえたならば、申告したまえ。外交官・指揮官・情報機関、何れにでも私の権限で推薦しよう。

ロバート・コクラン辺境伯
「外交史-圧力形成に関する備考」講演録



ココから下
愛を語るばかっぷる?が出てきます。アレルギー・心的障害など様々な脅威が存在することをここに申し添えておきますが、それでも構わないという方は会話部分をごらんください。愛とかそういうのどうでもいいよと思われる方は、会話を読み飛ばすことをお勧めいたします。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~














{ワルド視点}

「ジャン、ごめんなさい。それを持ってくださるかしら。」

「構わないよ。ああ、確か子どもたちが、果汁の飲料を飲みたがっていたね。ついでに買っていこうか?」

ヒゲは、剃り落とされた。帽子は、今頃孤児たちの玩具入れにでもされているだろう。髪はバッサリと切り落とされ、彼女いわく、多少若返って見えるので相方として連れて歩くにはまあ、妥協可能な範疇とのことらしい。おかげで、仮面で顔を覆って密やかに徘徊していたダンドナルドシティを、白昼散策することができているとはいえ、いささか、やはり含むところもある。

「あら、ごめんなさいジャン。でも、大丈夫?」

「もちろんだとも。馬の荷に積めば、ある程度は余裕もあるし、君と子どもたちの笑顔を見たいと思ってはいけないかね?」

無害であると認識されろ。与えられた役割を演じるのは、実に不快極まりない部分があるのは、事実だが、これで、勤めが、果たせるというのであれば、耐えねばなるまい。実に不愉快だからと言って、耐え難いからと言って、任務を放棄することは許されない。

「ああ!ジャン!」

大げさに感動したように彼女が私に抱きついてくる。少々演技が大袈裟な事と、人目をそれなりに引くようにしているとはいえ、赤面せざるを得ないと、やはり恥を知る心が叫んでいる。

「尾行は?」
「耳にする限りではいない。少なくとも、敵意は感じられない。」

愛をささやいているように、はみかみを浮かべながら、抱きついてきた女の耳元でささやく。平和な往来の道端で、若い男女が抱き合って愛を呟く。微笑ましい光景として、認識されることこそあれども、後々まで、記憶に留められ、警戒される理由とはなりえないはずだ。なにより、堂々としていれば、さほど疑われるものでもないのだ。

「そうだわ。ジャン、あなたの好きなハーブティーを近くの教会で作っているのよ。よければ、いくらか分けていただけないか、お話を伺うのはどうかしら。」

「それは、良い。ぜひそうしよう。」

ここにロマリアから出向してきたパウロス師の一派は清貧を旨とするか、少なくともロマリアの人間であるかどうか、疑わざるを得ないような人間が多い。善良なる信徒を装って、他愛もない告解を行ってもよいし、或いは、この聖地への思いに、なにがしかの答えを与えてくれるかもしれない。

「待っていてくれ。すぐに支払いを済ませてくるよ。」

ダンドナルドシティの物価は、風石集積庫を吹き飛ばしていたため、物流に影響があり、一時的には高騰する兆しを見せていたものの、現状では安定し、下降しつつある。無論、カバー工作に活用するという点からは、孤児院の運営が安定するという点では歓迎すべきなのだろうが、トリステイン側の抗戦意志表明という点ではいささか不十分であった。

「恋人ですか?」

「はははっ、恥ずかしいことを言わせないでくれ。」

気を利かせたのだろう、商会の若い人間が、それとなく花束か、ブローチでもいかがですか?と問いかけてくる。ちらちらとこちらのことをうかがっている視線からして、微笑ましいと見る物か、最もがめついものでも、こうして気のきいたプレゼントの推奨に留まっているのは良いことだ。

「ああ、彼女を待たせるわけにもいかない。これで足りるかな?」

「もちろんですとも。こちらは、おまけしておきますよ!ぜひ、今後の贈り物でごひいきを。」

渡されたのは、ごくごく平凡なご婦人用の化粧品だ。まあ、いくばくかの葛藤はあるものの、孤児院では調達するべき物資ではなくとも、ご婦人は喜ぶだろう。そういう意味では、この店の店員は実に気が聞いていると言える。

「すまないね。彼女に喜んでもらえたら、考えるよ!」

ブロックサインで、意思疎通をしておくべきだろうか?しかし、ロングビルと名乗る彼女の経験が正しければ、逆にダンドナルドシティでは、そうしたサインで疑われるか、勘付かれる可能性が高まるので、逆効果だとも知らされている。ええい、ままよ。

「愛しい君へと、カードをもらえるかな?」

土メイジであっても、一定の距離があるというわけでもないのだ。こちらの会話内容に聞き耳を立てていることは間違いないだろうし、そこで包装を行おうとしている店員の行動からこちらの意図も察してくれるはずだ。恋人と認識されること。警備の兵士から、無害な片割れだと認識されること。近隣に展開している封鎖線の解除まで、潜伏し、事態を見極めること。

「こちらになります。では、ご武運を。」

ご武運をか。実に皮肉な、応援ではないか。ダンドナルドどころか、ゲルマニア北部辺境を震撼させた自分が、このように恋路について、一介の商会店員から激励を受けている。どころか、それに対して、にこやかに、うれしげに、そして誇らしげに対応しなくてはいけないのだ。

「始祖の加護あらんことを。感謝する。」

そう呟き、さりげなく、贈り物を手に入れて、喜びを隠せない。そういう態で、平和な街並みを闊歩する。そう、少なくとも、この街は平和だ。穏やかですらある。目前では、善き人々が、日々の生計を立てているのだろう。活気ある街並みは、ようやく、トリステインの脅威から、解放されたと喜びを隠していない。警戒に当たっているはずの、ダンドナルドシティの衛兵や歩兵隊の緊張感も、眼に見えて緩み始めている。なにしろ、すでに、討伐隊が、全滅させたのではないかとの楽観的な観測と、よしんば離脱されていても、すでに力尽きているのではないか?そういった観点から、掃討は主として戦場付近に限定され、街では日常に回帰している。

「すまない。待たせてしまった。」

「そんなこと無いわよ。さあ、行きましょう?」

腕をからめてくるが、油断なく、カバーしあう態勢をそれとなく維持する。片手に荷物を抱え、もう片方に恋人を抱えていれば、戦うことには不向きだろうが、こちらはある意味で、片手に荷物を抱えているが、捨てて、手をほどいて魔法を詠唱するまでさほどの手間と時間を必要とするものでもない。本当に、まさしく真のメイジ足らんと欲しての行動であったのだが、今ではゲルマニアの地をはいずり回ることに使われている。

「そうだね。パウロス師にお目通りを願わなくては。」

ロマリアからの情報でも良い。ルイズの、僕の可愛い婚約者は今無事にしているのだろうか?あの子は、気が強いようでさびしがり屋だ。構って上げることができればよいのだが、現状ではそれもおぼつかない。捕虜交換があればよいのだが、戦争は我々が圧倒的に不利な情勢下だ。捕虜交換を要請することそのものが、困難かもしれない。さすがに、ルイズの実家は身代金を支払えないことは無いだろうが・・・。

「おっと、そうであった。」

ルイズの所在がどこにあるかは不明だが、それはさほど深刻な問題ではない。仮にも公爵家に連なる可愛い彼女が、害される危険性は乏しい。だが、厄介なことにあの子はまだ幼く、従者も付き従えない状況で、一人で物事をやれるだろうか?まだ、子供なのだ、あの子は。

「ジャン?」

「いや、パウロス師の教会にも確か子どもたちがいたと思ってね。」

子供たちは、いろいろなものから、ある程度守られていなくてはならないのだろう。一人で立ち上がり、自分の足で歩けるようになるまでは、責任を持って、外に世界との緩衝材足りえる何かが求められる。パウロス師のところにいる子供たちとて、その例外ではない。善き師に、よき教え。私のように、母を・・・いや、私の自業自得か。

「ああ、焼き菓子でも持っていこうかしら。」

「君が作るのかい?」

子供であることを、疎ましく思う。愛情を注がれることを理解できないか、何かに気を取られ、理解できないでいた。聖地を。ひたすらに聖地を。なぜこうまでも、渇望しつつ、母は追い詰められていたのだろうか?聖地に赴けば、何か解答があるのだろうか?母は、何を作り上げて、私という子供を守ろうとしていたのだろうか。あまり、普段意識しない部分が、仮面をかぶって演技をしていると、どうしても内面で見えてきて仕方がない。

「残念。今日は、評判のお店で買っていきましょう。おいしいと評判の店があるのよ。」

「なるほど。では、君の手料理は帰るまでの、お楽しみとしておかなくてはね。」

「ジャンったら。もう。」



{ロバート視点}

「アルビオンの意向は?」

はてはて、冬眠中のクマを叩き起こし、脅して、狩りたてることになるのか、それともトリステインという小熊を慮って、撃たずに見逃すのか。平和的な、穏便な解決ができればそれに越したことはないのだが。まあ、狐狩りができていないことを思えば、クマ狩りでもやっても構わないのだが。だが、さすがに、撃つべき時期と禁猟期くらいの区別はつくというものだ。

「早期の平和回復と、そのための講和を強く希求するとの回答でありました。」

居並ぶ関係者は、眼に見えて安堵する。それは、そうだろう。一時期相手の動向が理解できないという外交官にとって、最も精神の胆力と忍耐心が問われる事態におかれていたのだから。まあ、予想されている回答であるだけに、安堵もひとしきりというところだ。絶対に、感情を外面に出したいとも思わないが。

「結構ではありませぬか。先方も講和を望む。我らとしても、さしたる利益も見込めないこのような戦争、早期に終戦させてしかるべきだ。」

「物資と資金、それに兵の無駄遣いですからな。講和すべきでしょうな。」

実のところ、得られる物が無い戦争に、まるで、逐次投入のように戦力を取られてしまうのは、ガリアの長い手で踊らされているかのような懸念が絶えない。ロマリアの腐臭もそこかしこに漂ってくる。エスカルゴは、救い難い精神であったが、アフリカでの会遇は、それほど不幸な事件ではなかった。エスカルゴにすら劣る連中では、相手として精神の健全さに差しさわりがある。

「先方の意向は?どこまで飲むと?」

「確かに。妥協の余地はあるのかね?」

「基本的に、原案に忠実な形でと。」

原案に忠実な形?大変結構な外交的な言い回しではないか。忠実であったことなどないだろうし、原案とは何だ?誰の作成した原案だ?回答する意思は、何を言わんといしているのか、我らに説明するところまで為そうという意思は、乏しいということであるのだろうか?

「ふむ、原案か・・・。」

居並ぶ関係者の表情も心持悪化する。原案とは何か?そのような物、自分の方にとって最も都合のよいように解釈された都合のよい文章の塊にきまっている。もしも、そうでないならば、晩のワインを一本かけてもよい。なんならば、とっておきのワインを賭けてもよいくらいだ。

「結構だ。確かに、原案に忠実に行こう。」

「ラムド伯!?」

ほう、強硬策か。悪くない提案だ。相手が迷っているときは、多少強引でもアプローチを仕掛けて、積極的な行動に出ることそのものは、悪くない。ラムド伯のアプローチは、おそらく少々強引でも、成功しえるだろう。

「アルビオンは、回答したのだ。原案と。つまり、我々は自由に、原案から選べばよい。」

「どういうことでしょうか、コクラン卿?」

簡単なことではないか。原案をと回答したのだ。我々の原案を飲ませれば良いだけのことだ。飲みたくないならば、銃剣と軍艦で持って、飲めるように押し込むまでのこと。無粋極まりなく、紳士の道からは程遠いという他にないが、紳士を相手としていない以上、やむを得ないと嘆くほかないだろう。

「いや、喜ばしいことだ。遂に、アルビオンも平和を希求し、我らの提案を、原案に、忠実な形で、受け入れようということではないか。」

平和を希求。原案に忠実。実にすばらしい。我々にしてみれば、この上なく楽しい展開だ。なにせ、本来では、まず講和会議の会場設定から手間取っていたものが、ここではトントンと調子よく進んでいく。愉快というべきだろう。少なくとも、私にしてみれば、喜ぶほかない状況だ。

「さっそく、それらを前提として交渉に赴かなくては。」

「ラムド伯には及ばずながら、お助けしますぞ。」

大方は、時間稼ぎと条件闘争を主とした、抵抗だろう。或いは、講和条約反対派との折衝に手間取っているかのどちらか。前の方であるならば、叩き潰し、後ろの方であるならば、相手の足もとが固まる前に、押し通るほうが望ましいだろう。困難は予想されるといえども、道は辛うじて見えつつある。これで、長かった無益な戦争も集結し、私の自身の研究にあてることが可能な時間も増えることが期待される。まさしく、平和とはすばらしく、心の底から希求したくなるものだ。

「諸君、平和だ!望んだ、終戦だ!さあ、もう一仕事しようではないか!」

鉤十字どもを湧かせるつもりはない。故に、殴り返されることのない程度に、物事を処理してしまえばよいだろう。



{ネポス視点}

「あら、ジャンたら。」

「そう言ってくれるなよ、可愛い君。」

道端で、仲良くやっていると思しき面々の能天気さと、平穏な日常を喜ぶべきか、それとも与えられている任務の重さを嘆くべきか。実に嘆かわしいくらいに難しい問題ではあるが、遣らねばならぬことがあまりにも多い。

「決済事項が山積みになっていく・・・。」

先日、会議に先立って突き付けられたのは、掃討戦や封鎖線の維持によって、大半の業務がそちらを優先した結果として山のように積み上げられていた書類によって、会議するおぼつかないという実に望ましくない知らせであった。

「新型大砲の鋳造依頼、歩兵隊の装備一式の発注は終わった。」

歩きながら、手帳のメモ書きという名の、分厚い一覧を一つ、また一つと処理していくが、はっきり言って冗談ではないくらいに多い。最初は、まあ、風石の補充と、アルビオン亡命貴族らの動向調査だった。これは、まあいい。しかし、アルビオン亡命貴族らの動向といわれても、いちゃついているか、そろそろ赦免がないだろうかと期待する程度で、不信の動きなど見受けられない。

「歩いた限りでは、治安も平穏。愛を囁くことができる程度に安定、と。」

焼き菓子を露店で買う。食べた限りでは、なかなかに美味。だが、むしろ、価格が低下してきていることと、安定してこうしたものが出回っているという事実の方が大きい。風石を吹き飛ばされたものの、一応風石の備蓄量は水準にまでは回復している上に、穀物を中心として食料品は安定的に供給されていることが、現場で確認できる。なにより、趣向品がそれなりに落ち着いた値で販売されているということは、要求されている市内の物価調査に概ね回復と記載して良いだろう。

「さて、次は、と。」

武器屋の価格を確認せよ?馬を取り扱う商会を廻り、需要を確認せよ?アウグスブルク商会に依頼してある商品の販売動向を確認せよ?などなどいろいろか。実にせわしないが、まあ幸いなことにこの区画に集中しているので、比較的楽だろう。

「すまない、ダンドナルドシティの公務である。主人はおるか。」

「貴族さま?いったい、どのような・・」

「ああ、よい。大したことではない。一般的な武器の価格調査だ。こちらの書類に記入してほしい。午後に来る時までに、書いておくように。」

カラム嬢が、コクラン卿から指示されたというところによれば、武器価格は、戦争の特需で儲けようとして大量に生産されているものの、商人達が終戦も間近だと判断していれば、つまり、平和となるため、平民向けの武器が売れなくなると判断していれば、価格が下がっているはずなので、市場調査を行うことで、連中の読みを把握したいということらしい。本当に、細かいところまで、情報を求めるお方だ。

「ああ、ミスタ・ネポス。こんなところでお会いするとは。」

声をかけられて振り返ると、行政官の同僚が同じような調査で歩いていたのだろう。こちらに気がついて声をかけてくれた。お互いに、疲れているのだろう。私は、先ほどの焼き菓子を一袋さしだし、代わりに彼はそこで買い求めたらしい果汁飲料をこちらに差し入れてくれる。

「調査の方は?」

「概ね堅調だよ。この果汁飲料は、やはり人気があるようだ。おかげで、税収が増えて、計算が面倒だと嬉しい悲鳴を財務の連中は叫んでいる。」

「こちらは、それほど嬉しい悲鳴を聞けるような知らせは無いな。」

焼き菓子は、子供から大人まで好まれるものではあっても、残念ながら、それほど大量に消費されるものではない。何かを食べるときには、選択肢がたくさんあるのだ。果汁飲料にとって、ワイン・水・お茶といった競合相手に比べて、焼き菓子には相手とすべきものが果てしなく多い。

「ふむ、だがこの焼き菓子はおいしいな。」

「ああ、砂糖が本格的に供給され始めているようだ。良質な物が供給されている。」

「仕事ばかりしていると、外回りも悪くないものだ。」

羽ペンにインクを滴らせて、山のような書類を決裁する。一番過酷な部門は、書類の紙を調達する部門と、予算を管理する財務の部門だろう。次から次に、滞りを見せていた支出の請求と、しぶしぶ集められた税収の報告とを比較しながら、各部門の請求になんとか応じようと獅子奮迅の働きを行っていると聞く。つみあがった書類の山で、窓が遮られてしまい、日の当らぬ魔窟とまで言われるあの部門には近づきたくないものだ。

「講和会議も近く纏まるという。ようやく、落ち着いてくるのではないだろうか。」

「そうだと良いのだが。いずれにせよ、自分のできることをするとしよう。」

立ち話を切り上げ、しばしの休息をうちきると、仕事に戻ることにする。なにしろ、遣らねばならない仕事は、多い上に、帰りが遅いと、その間に溜まってきた仕事を押し付けられている危険性が低くないのだ。決済が一番早い人間は、どうやっているのかが、本当に不思議でならないのだが自分の仕事を終えて、定刻までに逃げ出すようにして帰ることもできている。だが、仕事が遅ければ、捕まって別の仕事をさせられる。特に、怖いのは夜だ。

「そうだな、できるだけ苦労は分かち合いたいものだ。」

「だが、ミス・カラムとだけはお断りさ。」

なにしろ、コクラン卿から一心に業務を丸投げされているのだ。分かち合おうと思ったら、自身がつぶされてしまうか、それとも倒れてしまうかのどちらかだ。それは、さすがにごめんこうむりたいと思う。なにせ、アルビオン貴族の動向調査がようやく終わり、不明だったある貴族かわからない不審な亡命者は少なくとも、ゲルマニア北部周辺には見当たらないとの結論が出されているのだ。トリステインの襲撃部隊残党の捜索も兼ねて徹底的な捜索が行われているのだから、ほぼ確実だ。そう言うわけだから、できるだけ気持ちよく仕事ができる環境を死守したいものだ。変な特命を授けられてはかなわない。

「ああ、例の調査の件は、大変だったな。」

「まったくだ。あの森林地帯を切り拓いてでも捜索せよなどと命じられた時は、思わず倒れるかと思った。」

その意味においては、トリステイン襲撃部隊掃討作戦はありがたかった。文字通り、徹底的な捜索が行われた結果として、最終的には、どうにかこうにか結論が出せる程度には、徹底した捜索が行えたのであるから。

「さて、仕事だ。私は、商会を廻るが、卿はどうする予定で?」

「これから、村々への駅馬車調査だ。駅が多くて少々辟易しているがね。」

それは、大変だろう。まあ、仕方ない。こういう平穏な仕事の方が、戦場で警戒心をぴんと張り詰めるよりはましなのだから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

ハートフルを盛り込みました。

私見ですが、髭を剃って、髪をざっくりとカットすれば、ワルドはもっと若々しく見えるじゃないかと。むしろ、別人かも。

後は、アルビオンの王族カップルとかも検討するべきかと思っておりますが・・・。


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