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No.15007の一覧
[0] 【ゼロ魔習作】海を讃えよ、だがおまえは大地にしっかり立っていろ(現実→ゼロ魔)[カルロ・ゼン](2010/08/05 01:35)
[1] プロローグ1[カルロ・ゼン](2009/12/29 16:28)
[2] 第一話 漂流者ロバート・コクラン (旧第1~第4話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:49)
[3] 第二話 誤解とロバート・コクラン (旧第5話と断章1をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 22:55)
[4] 第三話 ロバート・コクランの俘虜日記 (旧第6話~第11話+断章2をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 23:29)
[5] 第四話 ロバート・コクランの出仕  (旧第12話~第16話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:47)
[6] 第五話 ロバート・コクランと流通改革 (旧第17話~第19話+断章3を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/25 01:53)
[7] 第六話 新領総督ロバート・コクラン (旧第20話~第24話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:14)
[8] 断章4 ゲルマニア改革案 廃棄済み提言第一号「国教会」[カルロ・ゼン](2009/12/30 15:29)
[9] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/25 23:08)
[10] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/27 23:55)
[11] 歴史事象1 第一次トリステイン膺懲戦[カルロ・ゼン](2010/01/08 16:30)
[12] 第九話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記1 (旧第36話~第39話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 00:18)
[13] 第十話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記2 (旧第40話~第43話+断章7を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 23:24)
[14] 第十一話 参事ロバート・コクラン (旧第44話~第49話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/09/17 21:15)
[15] 断章8 とある貴族の優雅な生活及びそれに付随する諸問題[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:30)
[16] 第五十話 参事ロバート・コクラン 謀略戦1[カルロ・ゼン](2010/03/28 19:58)
[17] 第五十一話 参事ロバート・コクラン 謀略戦2[カルロ・ゼン](2010/03/30 17:19)
[18] 第五十二話 参事ロバート・コクラン 謀略戦3[カルロ・ゼン](2010/04/02 14:34)
[19] 第五十三話 参事ロバート・コクラン 謀略戦4[カルロ・ゼン](2010/07/29 00:45)
[20] 第五十四話 参事ロバート・コクラン 謀略戦5[カルロ・ゼン](2010/07/29 13:00)
[21] 第五十五話 参事ロバート・コクラン 謀略戦6[カルロ・ゼン](2010/08/02 18:17)
[22] 第五十六話 参事ロバート・コクラン 謀略戦7[カルロ・ゼン](2010/08/03 18:40)
[23] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝 [カルロ・ゼン](2010/08/04 03:10)
[24] 第五十七話 会議は踊る、されど進まず1[カルロ・ゼン](2010/08/17 05:56)
[25] 第五十八話 会議は踊る、されど進まず2[カルロ・ゼン](2010/08/19 03:05)
[70] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3[カルロ・ゼン](2010/08/19 12:59)
[71] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝2(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/08/28 00:18)
[72] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝3(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/09/01 23:42)
[73] 第六十話 会議は踊る、されど進まず4[カルロ・ゼン](2010/09/04 12:52)
[74] 第六十一話 会議は踊る、されど進まず5[カルロ・ゼン](2010/09/08 00:06)
[75] 第六十二話 会議は踊る、されど進まず6[カルロ・ゼン](2010/09/13 07:03)
[76] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7[カルロ・ゼン](2010/09/14 16:19)
[77] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8[カルロ・ゼン](2010/09/18 03:13)
[78] 第六十五話 会議は踊る、されど進まず9[カルロ・ゼン](2010/09/23 06:43)
[79] 第六十六話 平和と友情への道のり 1[カルロ・ゼン](2010/10/02 07:17)
[80] 第六十七話 平和と友情への道のり 2[カルロ・ゼン](2010/10/03 21:09)
[81] 第六十八話 平和と友情への道のり 3[カルロ・ゼン](2010/10/14 01:29)
[82] 第六十九話 平和と友情への道のり 4[カルロ・ゼン](2010/10/17 23:50)
[83] 第七十話 平和と友情への道のり 5[カルロ・ゼン](2010/11/03 04:02)
[84] 第七十一話 平和と友情への道のり 6[カルロ・ゼン](2010/11/08 02:46)
[85] 第七十二話 平和と友情への道のり 7[カルロ・ゼン](2010/11/14 15:46)
[86] 第七十三話 平和と友情への道のり 8[カルロ・ゼン](2010/11/18 19:45)
[87] 第七十四話 美しき平和 1[カルロ・ゼン](2010/12/16 05:58)
[88] 第七十五話 美しき平和 2[カルロ・ゼン](2011/01/14 22:53)
[89] 第七十六話 美しき平和 3[カルロ・ゼン](2011/01/22 03:25)
[90] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝4(美しき平和 異聞)[カルロ・ゼン](2011/01/29 05:07)
[91] 第七十七話 美しき平和 4[カルロ・ゼン](2011/02/24 21:03)
[92] 第七十八話 美しき平和 5[カルロ・ゼン](2011/03/06 18:45)
[93] 第七十九話 美しき平和 6[カルロ・ゼン](2011/03/16 02:31)
[94] 外伝 とある幕開け前の時代1[カルロ・ゼン](2011/03/24 12:49)
[95] 第八十話 彼女たちの始まり[カルロ・ゼン](2011/04/06 01:43)
[96] 第八十一話 彼女たちの始まり2[カルロ・ゼン](2011/04/11 23:04)
[97] 第八十二話 彼女たちの始まり3[カルロ・ゼン](2011/04/17 23:55)
[98] 第八十三話 彼女たちの始まり4[カルロ・ゼン](2011/04/28 23:45)
[99] 第八十四話 彼女たちの始まり5[カルロ・ゼン](2011/05/08 07:23)
[100] 第八十五話 彼女たちの始まり6[カルロ・ゼン](2011/05/14 20:34)
[101] 第八十六話 彼女たちの始まり7[カルロ・ゼン](2011/05/27 20:39)
[102] 第八十七話 彼女たちの始まり8[カルロ・ゼン](2011/06/03 21:59)
[103] 断章9 レコンキスタ運動時代の考察-ヴァルネーグノートより。[カルロ・ゼン](2011/06/04 01:53)
[104] 第八十八話 宣戦布告なき大戦1[カルロ・ゼン](2011/06/19 12:17)
[105] 第八十九話 宣戦布告なき大戦2[カルロ・ゼン](2011/07/02 23:53)
[106] 第九〇話 宣戦布告なき大戦3[カルロ・ゼン](2011/07/06 20:24)
[107] 第九一話 宣戦布告なき大戦4[カルロ・ゼン](2011/10/17 23:41)
[108] 第九二話 宣戦布告なき大戦5[カルロ・ゼン](2011/11/21 00:18)
[109] 第九三話 宣戦布告なき大戦6[カルロ・ゼン](2013/10/14 17:15)
[110] 第九四話 宣戦布告なき大戦7[カルロ・ゼン](2013/10/17 01:32)
[111] 第九十五話 言葉のチカラ1[カルロ・ゼン](2013/12/12 07:14)
[112] 第九十六話 言葉のチカラ2[カルロ・ゼン](2013/12/17 22:00)
[113] おしらせ[カルロ・ゼン](2013/10/14 13:21)
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[15007] 第六十六話 平和と友情への道のり 1
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/02 07:17
敵が百人の賢者でもって、その知恵を振り絞り、悪意滴る策謀を練るよりも、味方の救い難い間抜け一人の方が、深刻な脅威である。

貴族の日記より



アルビオン・トリステインにとって、誤算は一つ。政略結婚のつもりが、当人達が熱烈に恋をしていたことである。年相応の微笑ましい感情は、周囲で権謀術策を張り巡らせている貴族達にとっては激烈な頭痛に種であった。ある貴族が漏らしたとされる言葉で、『むしろ、エルフの方が理解できる』とすら言われるほどに、恋は周囲からすれば非合理なものである。故に、アンリエッタ姫に関わった貴族達を徹底的に翻弄することとなる。

作者不詳 歴史の大恋愛



{ロバート視点}

トリスタニアで飲む午後の紅茶は、良い思い出は乏しいが、お茶が苦くなるような思い出はたくさんある。おそらく、今日の報告は、これもまた、優雅とは程遠い午後のティータームを約束してくれるだろう。まったく、実に不愉快にして、碌でもない地である。紅茶があれども、寛ぎとは程遠く、気を鎮めるためにお茶をする羽目になるとは。

「・・・失礼、今何と申された?」

そう言うわけで、一応、誤解を防止するために私は、調査の報告を再確認する。願わくばなどと祈る気はないが、しかし人間というものは、願望を抱きたくなるものだ。

「アルビオンとトリステインが王族の婚約を行うとの噂が。」

「この時期にだと?誤報では?」

アルビオンが、トリステイン旧領度を蚕食する名目として、婚姻による同君連合を組みたがっているということは、予想される範疇に留まるものである。だが、それは、公然の秘密というものだ。少なくとも、ゲルマニア・アルビオンの講和会議当事者にとっては。だが、ハルケギニア大陸においては、秘密に部類されるものである。それに、政略結婚の婚姻というものは、政治的に最も効果の大きい時に発表されてしかるべき性質のものだ。本来は、大々的に発表するか、電撃的に発表するかのどちらかになる。少なくとも、こうした形で漏れ聞こえてくるということは、通常ではありえない。

「いえ、それが、トリスタニアですら知らないものがないほど、広まっております。」

「まて、知らぬものがないだと?」

囁かれている、あるいは耳にした、程度であればなにがしかの情報保全の失策の可能性もあるが、大々的に民衆が耳にしているとなると、事態はややこしくなってくる。なにしろ、意図的に流している可能性が極めて高くなってくるのだ。

「はっ、新聞等大々的に報じられていますが。」

「ああ、すまないが、一部もらっておこう。」

こちらに、新聞を差し出すと、調査にあたっていた担当者が退出する。その後ろ背中が扉の向こうに消えた瞬間に、私は届けられた新聞に目を走らせ、思わず閉口する。これは、まずい。本格的に、火災に発展しかねない。なにしろ、通常、こういった婚姻による吸収合併を志向しているのであれば発表のタイミングには細心の注意が図られ、政治的な意図に糊塗されていなくてはならない。故に、通常、このタイミングで、この噂は流れる物ではない。

「アルビオンは正気か!?この状況下でそのブラフが持つ意味を知らぬわけもなかろうに!」

ところがだ、通常ではありえない速度で、噂は伝播し、もはやあたかも既定事項であるかのように語られる始末である。事態は、素晴らしく錯綜しはじめた。なにしろ、ありうべからざるべき事態が、あたかも既定の事項であるかのように語られるのだ。アルビオンが、発狂でもしていな限り、情勢はアルビオンの露骨なトリステイン支援の表明になる。この異常な情勢下では取次の係官が、まるでタイミングを見計らったように、メッセージを抱えて駆けこんでくるのも、ある意味では予定調和の範疇にはいる。

「至急お目にかかりたいと、ラムド伯が。」

当然ながら、この事態は異常だ。アルビオンの意図は不明であるにしても、対処が必要であることは紛れもない事実。否応なしに、行動が求められる。

「分かっている。ああ、ヴィンドボナに急使を派遣し、事態を報告するように。」



{ホーキンス視点}

軍人という生き物は、実に難儀な生き物だ。軍人は政治家に、つまるところ国権に忠実であるべしと信じているが、一方で貴族らの陰謀劇は苦々しく思わざるを得ない。なにしろ、貴族の陰謀劇ときたら、正視に絶えず、名誉も誇りも投げ打ってしまわなければ思いつかないような代物ばかりなのだ。

「だから、というわけでもないのだがね。」

お二人には、周りの喧騒を余所に静かな環境で穏やかに、と願っていた。政略婚姻であるとしても、両者が好きあっているのであれば、と。故に、本来の任務に忠実かつ誠実に勤務した結果、両者の面会を遮る警備という名目の隔離は、穏やかに解除されていた。

「今にして思えば、少々軽率に過ぎた。」

後悔しているとまでは言わないが、少々軽率に過ぎたという反省の念はある。曲がりなりにも、警護の任にある以上、余計な風説の流布を防ぐか、もしくは王太子殿下に忠告をなすべきであった。確かに、王太子殿下は、アンリエッタ王女に恋されているであろうし、おそらくは、婚姻にも前向きであらせられるだろう。だが、さすがに王太子殿下は、物事の道理を把握されてもいる。さすがに、時期の問題は重要であると察しておられただろう。

「卿の責任ではあるまい。むしろ、今はどう対応するかだ。」

急遽、事実確認と、関係者の聴取に当たっているアルビオン外務省の官吏が疲れ果てたように呟く。数カ月もすれば、既定事項になることであり、旗幟を鮮明にするという意味合いが無ければ、ここまで災いにもならぬことであるのに、と言いたげな表情には同意する。

「現在は、王太子殿下に事情を説明致し、トリステイン関係者との接触を自粛願っておる。」

「問題は、アンリエッタ王女殿下の恋文か。」

思いの程を書き綴った手紙が一度奪取されかけている。公にはされていないが、手紙の配達人を襲撃し、婚約の日程について問いかける無邪気に書かれた手紙が奪取されかけた。事実は、ともかくとして、どのようにでも曲解できる情勢下で、そういった物証と見なされる手紙が発見されることは実に危うい。奪取未遂の報を聞いた時、アルビオン外務省は、思わず倒れかける担当者の姿があったとも聞く。

「姫殿下もお年頃。とは言え、さすがに、部下をそのために危険にさらすのは避けたい。」

そもそも、我々にしてみれば、アルビオンのために行動しているのであって、自由に王女殿下を動き回らせること自体、あまり乗り気ではない。正確には、王女殿下個人ではなく、それに付随して行動してくるメールボワ侯爵のような、厄介な面々のことを意図するものだが。なにしろ、アルビオン内部を事細かに観察しようとしている。内部には、外部から、伺い知られるとまずいものもあるというのにだ。

「では、いっそ、王宮でご一緒に?」

「論外だ。警備の問題以上に、政治的にまずかろう。」

婚約の噂が大々的に流され、その当事者達が王宮で共に過ごす。まさしく、風聞は事実な知りやと、勘ぐられるに十分すぎる物証になる。確かに、動き回らなくなるとはいえ、それはだめだ。さすがに、軍人ですらこの程度の思慮が回るところに、頭が追い付かないとは、アルビオン外務省はよほど追い詰められているのだろうか?

「確かに、政治的にみた場合はまずい。だが、ミスタ・ホーキンス、未確認情報だが、アンリエッタ王女の暗殺計画があればどうだ。」

トリステイン王国は、名目上未だに健在である。故に、講和会議は成立し得るし、おそらく講和文章も発行されるだろう。忌々しいリッシュモンのような輩も未だに、堂々と王政府の役人であると称し、正式には停戦交渉そのものが、アルビオンが仲介し、トリステインとゲルマニアの二国間交渉ということになっている。実態はともかくだ。そう言う虚構を打ち壊すには確かに、アンリエッタ王女の存在は弱点部分となりえる。だから、名目上の王女と王太子の婚姻による自発的な連合王国案は、それを克服しない限り、成立し得ない。

「・・・トリステインは、アルビオンに併合できない、と。しかし、どこがそのような計画を?」

だが、どこがそのような事を望むのか?ゲルマニアにしても、あるいは大公国でも、この講和を望むだろう。ガリアにしてみれば、妨害の意図はあるだろうが、あの無能王の思考は今一つ読めん。

「ロマリアだ。あの坊主どもめ、始祖の血脈を貶めたという名分で、狂信者を送ってきこねん!」

「ロマリア?で、襲撃してくれば、殺して構わなないのだろうな?」

「可能であれば、捕えてほしいが。」



{リッシュモン視点}

自身の価値というものを、正しく理解する程度の知恵は、貴族ならずともあってしかるべきだ。高等法院の長に上り詰めるまでの道のりで、競争相手の大半は、そのことを理解せずに自滅してきた。ここまで、上り詰めるに際して、最大の懸念であったのは王家の力と、藩屏どもの脅威くらいであったといってよい。そして、その王家の力は、実に弱体である。そもそも外来であるか、現在のように有能な代理を忌避して、は政治のことを理解しようとし得ない小娘。詰めさえ誤らなければ、危険な橋も渡ろうという気になるものだ。だから、というわけではないが、引き際を見極めることにも自身があるつもりである。

「講和を結ぶほかありますまい。」

「リッシュモン卿!ご自身の発言を理解しておいでか!」

怒りとも、我慢の限界とも、どちらともとれる激情を目の前のラムド伯の表情はぶちまけんとする内部の意志に半分降伏寸前である。まあ、そういう風に装っているというよりも、政治的に怒鳴らざるを得ないというゲルマニアの立場を踏まえてのものなのだろうが。ここしばらく、声をからすような大声を発することを強制される立場にあったためか、少々疲労の色も見える。因果な仕事だ。

「無論ですとも。ゲルマニアの方々には、このままでは良くない。ならば、今講和条約を結ぶほかに無い。」

アルビオンは、ゲルマニアと親愛なる大公国の提案をのまざるを得ないだろう。少々、アルビオンに肩入れして保身を図るつもりであったが、ゲルマニアは予想以上に激烈な対応でこちらに決断を迫ってきた。さすがに、暗殺者まで向けられると、次は無いという警告だと理解できるというものだ。だが、ゲルマニアは優秀であるが、いかんせん、彼らの視座から自由に慣れていない。アルビオンは、時間をかけると提案が飲めなくなる理由があるのだが、それに気が付いていない。要は、搦め手の策に対する防御に不慣れだ。

「アルビオンが、飲むと思うのかね?」

「無論ですとも。まさか、本気でアルビオンがこのような時期に旗幟を一転させる必要がありましょうか。」

誰もかれもが、合理的であるというゲルマニアの成り上がり根性は、一つの欠点がある。古い貴族内部の激烈な暗闘を、能力が劣るもの同士の足の引っ張り合いと見なしつつ、自分達の実力を誇ってしまうところだ。誇りが高いだけの傲慢な連中と見下す。まあ、成り上がりという連中は、自身をそうして差異化しようとするが、良くも悪くもそれもまた、傲慢さだ。それ故に、この手の搦め手は、攻めるのはお上手でも、防御は下手もよいところである。

「ならば、この情勢をどうとらえておられるのか?」

興味深そうに、こちらへ観察眼を向けてくるのは、ゲルマニアの有力な新興軍事貴族である、ロバート・コクラン辺境伯だ。あの者は、どうも血統的に古い貴族の一派に似た匂いがする。メイジですらないので、平民の上がりなのだろうが、ああいったものがいることそのものも驚きというほかに無い。権益を侵さないことを期待できない相手であるのが、間違いないからこそ、私は笑みを浮かべて、抱擁しようとせざるを得ないだろう。

「慶事を、たまたま先走って勘違いされた方々がいた。そういう、善意の誤解でありましょう。」

ロマリアが、この問題に口を突っ込み始めている。実のところ、この問題に関して、ロマリアの介入は避けたい。奴らと手を結ぶことそのものは、問題ではないが、マザリーニの一派がどのように蠢動しているか不明な情勢下では、ロマリアという要素は極力排除してしまうに限る。それが、限定的なゲルマニアとの共通利害である以上、ここで共闘をもちかけるべきであり、それを避ける理由はない。ついでに、最終的にアルビオンに多少恩を売っておけば、関係改善の糸口にもなりえる。

「ほう!つまり、誤解が原因と仰るわけですな。」

「左様に。コクラン卿、偶然の誤解かと私は思っているところですよ。」

偶然、仲の良い従兄妹の仲を、誤解した教会関係者がいたとしても別段何ら不思議なことはないではないか。それが、噂を招いたとしても、なんら不可思議ではなく、悪意はなかった。したり顔で言ってしまえばそれまでだ。今は、それで押し通せばよい。

「事態を、正しく把握されているようですな。」

これが、既定路線であることに同意しよう。つまりはそういうことを、ラムド伯は表明してくる。おそらく、この直後から、そのように周囲へ告知していく手はずを整えることだろう。その方面に関しては、ゲルマニアは得意としているはずだ。

「よく、光り輝く国の方々が、ものごとをどのように運ぶか、間近でみる機会に恵まれました故に。」

「なるほど、実にお羨ましい。私にもそのような機会があればよいのですが。」

皮肉、というわけでもないのだろうが、コクラン卿の言葉が含む政治的な意味合いは微妙に厄介だ。マザリーニというカードは依然としてロマリアにある。もしも、彼のものと接触し、なにがしかの対応を取られたらと思うとよろしくないのだが。まあ、理論的な脅威でしかないとはいえ、揺さぶりとしては、優秀だ。


{ロマリア・某所視点}

「対アルビオン工作は?」

アルビオン内部で、陰謀が漏れ聞こえる形を採用し、流す。現在のところ、採用しているプランは、アルビオン王家が、トリステインを吸収合併しようと画策しているというものだ。だが、これを発展させれば、アルビオンは、トリステインの味方を装って、ゲルマニアと対立する態で、最終的にゲルマニアに妥協するのだと、いう噂を流せばよい。とにかく、アルビオン王家の求心力を削ぐこと。これが望まれている。

「順調だろう。これで、トリステイン貴族のアルビオンに対する反感に火が付きつつある。」

アルビオンの仲介は、王家を実質的な人質としたうえで、予めゲルマニアと示し合わして、トリステインの分割交渉ではないか?こういった、示唆は非常にすばやくトリステイン貴族に広がっている。表面上は、お互いにアルビオンとゲルマニアの分離を図っているように見せかけられるが、実態は、アルビオンとトリステインの離間策でもある。

「将来的な分離独立の芽は育っている。」

統合に手間取れば、分離独立は容易になる。当然、この不和の種をばら撒き、水を用意して、最終的に刈り取るのはロマリアでなくてはならないだろう。

「だが、決定打足りえていないのも事実。ところで、聞くところによれば、どなたか独走されましたかな?」

「独走とは?」

「アンリエッタ排除計画なるものに心当たりは?」

司祭が掴んできた情報だが、アルビオンは本気でアンリエッタ王女暗殺を恐れている。確かに、婚姻による同君連合は頓挫し、トリステイン王家傍流が、トリステインを存続させうる計画である。だが、いくつかの要素から、あまりにも冒険が過ぎる。暗殺者の身元が割れること自体が厄介な政治的課題になる上に、アルビオンがそれを懸念している状況下で、暗殺を遂行することの政治的意味合いが厄介極まりない。

「・・・一部の聖堂騎士団過激派の監視にあたっている部下から報告が上がっている。まさか、事実であったとは。」

「いかがしますか?」

「処理せよ。カバー工作が無意味に終わってしまうではないか!」

下部組織の救い難い愚行だ。我々は、ロマリアの長い手を意識させること無く事を成し遂げたいにもかかわらず、信じられない愚策だ。我々が、隠れて事を進めようとするそばで、堂々と行軍する愚者がいたとは!頭が、足りない連中に、始祖の呪いあれ!計画は、修正を必要とするやもしれん。いや、不可欠か。手を一時引くことにする。

「では、今後の方策は?」

「一時的に、行動をひそめる。各自、内部の引き締めを徹底せよ。」

下手を打つよりは、忍耐することが不可欠である。始祖以来、6000年。我らは、ひたすら悲願である聖地奪還を志しつつ、待ち、そして、今もまた待ち続けている。我らの悲願に比べれば、いささか待つことはどうということでもない。今は、足元を徹底的に固める必要がある。

「反ゲルマニアの感情はどうなっている?」

「やや、反アルビオン感情を上回る。ここはさじ加減が難しいところじゃろう。」

アルビオンは、早期講和締結を迫られる。時間がたてばたつほど、アルビオンへの反感と不信感な高まる以上、否応なしに、講和を結び、ほとぼりを冷ますための時間が不可欠だ。アルビオンのもくろみである、トリステイン獲得、すなわち大陸進出を実現するためには、まちがいなく同君連合以外に選択肢はないが、本来はトリステインを助けるという体裁を取る予定であった。それが、乗っ取りと噂されては、当分行動に出にくいはずである。理想は、形式的な同君連合。だが、反ゲルマニアで旧トリステイン地域がアルビオン王家になびいては意味がない。現状では、これで満足するほかない。むしろ、アンリエッタの暗殺が回避されたとして、安堵してくれれば、多少の目くらましにはなるだろう。当分は、それで次の策につなげるように努めるほかに無い。

「ゲルマニアを支持する教説でも?」

「論外だ。その介入方式は露骨に過ぎる。やはり、水面下での反アルビオン扇動の強化では?」

「どちらも、強すぎる。なにより、そこまでする必要もないはずだ。」

陰謀好きのトリステイン貴族は、放置しておいても、勝手にあること無いことを自分達の妄想でアルビオンの陰謀と断定することだろう。そうなれば、大局を見ることのできない連中だ。ある程度の良識な意見は、無視されて怒涛の勢いで、アルビオンとの対立に向かうだろう。ある程度の不信感さえあれば、それが自己増殖するのは時間の問題だ。

「なにより、王弟すら粛清する陰謀好きの王家だとの風聞は大きな効果が期待できる。」

アルビオン内部ですら北部貴族らでさえ、王家に不信感を持ち、弱体化に弾みをかけようと試みている。粛清された南部貴族らは、もはや忠誠心を期待できないだろう。そういった国内事情に、トリステインを抱え込むことになれば、アルビオン王家は、これを抱え込み続けることはできない。できたとしても、それは統一とは程遠く、始祖の加護したもうロマリアの一刺しによって、容易にあるべき姿に戻しうる。

「始祖の作りたもうた秩序に逆らうことは認められん。各々の最善を尽くすように。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき

おはようございます(二回目)

@ウィーン会議

魑魅魍魎の跳躍跋扈する議場→会議進まず
      ↓
ナポレオン脱出→即妥協

のように、何かがあれば、会議は纏まります。
うん、外交官って因果な職業だと一瞬思いました。

今回は
ロマリア:合併阻止or合併の実質的な無力化を希望!
→一部先走りが出たせいで、ちょっと態勢の整えなおしへ。
ゲルマニア:アルビオンどーする気なの?(⇔疑心暗鬼)
→取りあえず、サインする気はあるのだよね?
アルビオン:ロマリアが仕掛けてくる?マジやめろし。
→サインしたくないけど、さっさとするかなー

でお送りしております。

そろそろ、講和して、平和になって、愛と友情あふれるハートフルな世界に戻るといいなぁ・・・。


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