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No.15007の一覧
[0] 【ゼロ魔習作】海を讃えよ、だがおまえは大地にしっかり立っていろ(現実→ゼロ魔)[カルロ・ゼン](2010/08/05 01:35)
[1] プロローグ1[カルロ・ゼン](2009/12/29 16:28)
[2] 第一話 漂流者ロバート・コクラン (旧第1~第4話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:49)
[3] 第二話 誤解とロバート・コクラン (旧第5話と断章1をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 22:55)
[4] 第三話 ロバート・コクランの俘虜日記 (旧第6話~第11話+断章2をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 23:29)
[5] 第四話 ロバート・コクランの出仕  (旧第12話~第16話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:47)
[6] 第五話 ロバート・コクランと流通改革 (旧第17話~第19話+断章3を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/25 01:53)
[7] 第六話 新領総督ロバート・コクラン (旧第20話~第24話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:14)
[8] 断章4 ゲルマニア改革案 廃棄済み提言第一号「国教会」[カルロ・ゼン](2009/12/30 15:29)
[9] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/25 23:08)
[10] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/27 23:55)
[11] 歴史事象1 第一次トリステイン膺懲戦[カルロ・ゼン](2010/01/08 16:30)
[12] 第九話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記1 (旧第36話~第39話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 00:18)
[13] 第十話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記2 (旧第40話~第43話+断章7を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 23:24)
[14] 第十一話 参事ロバート・コクラン (旧第44話~第49話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/09/17 21:15)
[15] 断章8 とある貴族の優雅な生活及びそれに付随する諸問題[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:30)
[16] 第五十話 参事ロバート・コクラン 謀略戦1[カルロ・ゼン](2010/03/28 19:58)
[17] 第五十一話 参事ロバート・コクラン 謀略戦2[カルロ・ゼン](2010/03/30 17:19)
[18] 第五十二話 参事ロバート・コクラン 謀略戦3[カルロ・ゼン](2010/04/02 14:34)
[19] 第五十三話 参事ロバート・コクラン 謀略戦4[カルロ・ゼン](2010/07/29 00:45)
[20] 第五十四話 参事ロバート・コクラン 謀略戦5[カルロ・ゼン](2010/07/29 13:00)
[21] 第五十五話 参事ロバート・コクラン 謀略戦6[カルロ・ゼン](2010/08/02 18:17)
[22] 第五十六話 参事ロバート・コクラン 謀略戦7[カルロ・ゼン](2010/08/03 18:40)
[23] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝 [カルロ・ゼン](2010/08/04 03:10)
[24] 第五十七話 会議は踊る、されど進まず1[カルロ・ゼン](2010/08/17 05:56)
[25] 第五十八話 会議は踊る、されど進まず2[カルロ・ゼン](2010/08/19 03:05)
[70] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3[カルロ・ゼン](2010/08/19 12:59)
[71] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝2(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/08/28 00:18)
[72] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝3(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/09/01 23:42)
[73] 第六十話 会議は踊る、されど進まず4[カルロ・ゼン](2010/09/04 12:52)
[74] 第六十一話 会議は踊る、されど進まず5[カルロ・ゼン](2010/09/08 00:06)
[75] 第六十二話 会議は踊る、されど進まず6[カルロ・ゼン](2010/09/13 07:03)
[76] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7[カルロ・ゼン](2010/09/14 16:19)
[77] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8[カルロ・ゼン](2010/09/18 03:13)
[78] 第六十五話 会議は踊る、されど進まず9[カルロ・ゼン](2010/09/23 06:43)
[79] 第六十六話 平和と友情への道のり 1[カルロ・ゼン](2010/10/02 07:17)
[80] 第六十七話 平和と友情への道のり 2[カルロ・ゼン](2010/10/03 21:09)
[81] 第六十八話 平和と友情への道のり 3[カルロ・ゼン](2010/10/14 01:29)
[82] 第六十九話 平和と友情への道のり 4[カルロ・ゼン](2010/10/17 23:50)
[83] 第七十話 平和と友情への道のり 5[カルロ・ゼン](2010/11/03 04:02)
[84] 第七十一話 平和と友情への道のり 6[カルロ・ゼン](2010/11/08 02:46)
[85] 第七十二話 平和と友情への道のり 7[カルロ・ゼン](2010/11/14 15:46)
[86] 第七十三話 平和と友情への道のり 8[カルロ・ゼン](2010/11/18 19:45)
[87] 第七十四話 美しき平和 1[カルロ・ゼン](2010/12/16 05:58)
[88] 第七十五話 美しき平和 2[カルロ・ゼン](2011/01/14 22:53)
[89] 第七十六話 美しき平和 3[カルロ・ゼン](2011/01/22 03:25)
[90] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝4(美しき平和 異聞)[カルロ・ゼン](2011/01/29 05:07)
[91] 第七十七話 美しき平和 4[カルロ・ゼン](2011/02/24 21:03)
[92] 第七十八話 美しき平和 5[カルロ・ゼン](2011/03/06 18:45)
[93] 第七十九話 美しき平和 6[カルロ・ゼン](2011/03/16 02:31)
[94] 外伝 とある幕開け前の時代1[カルロ・ゼン](2011/03/24 12:49)
[95] 第八十話 彼女たちの始まり[カルロ・ゼン](2011/04/06 01:43)
[96] 第八十一話 彼女たちの始まり2[カルロ・ゼン](2011/04/11 23:04)
[97] 第八十二話 彼女たちの始まり3[カルロ・ゼン](2011/04/17 23:55)
[98] 第八十三話 彼女たちの始まり4[カルロ・ゼン](2011/04/28 23:45)
[99] 第八十四話 彼女たちの始まり5[カルロ・ゼン](2011/05/08 07:23)
[100] 第八十五話 彼女たちの始まり6[カルロ・ゼン](2011/05/14 20:34)
[101] 第八十六話 彼女たちの始まり7[カルロ・ゼン](2011/05/27 20:39)
[102] 第八十七話 彼女たちの始まり8[カルロ・ゼン](2011/06/03 21:59)
[103] 断章9 レコンキスタ運動時代の考察-ヴァルネーグノートより。[カルロ・ゼン](2011/06/04 01:53)
[104] 第八十八話 宣戦布告なき大戦1[カルロ・ゼン](2011/06/19 12:17)
[105] 第八十九話 宣戦布告なき大戦2[カルロ・ゼン](2011/07/02 23:53)
[106] 第九〇話 宣戦布告なき大戦3[カルロ・ゼン](2011/07/06 20:24)
[107] 第九一話 宣戦布告なき大戦4[カルロ・ゼン](2011/10/17 23:41)
[108] 第九二話 宣戦布告なき大戦5[カルロ・ゼン](2011/11/21 00:18)
[109] 第九三話 宣戦布告なき大戦6[カルロ・ゼン](2013/10/14 17:15)
[110] 第九四話 宣戦布告なき大戦7[カルロ・ゼン](2013/10/17 01:32)
[111] 第九十五話 言葉のチカラ1[カルロ・ゼン](2013/12/12 07:14)
[112] 第九十六話 言葉のチカラ2[カルロ・ゼン](2013/12/17 22:00)
[113] おしらせ[カルロ・ゼン](2013/10/14 13:21)
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[15007] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/18 03:13
国際会議に必要な物は、実のところペンと紙で足りる。究極的には、条約にサインさせれば良いからである。

だが、会議は踊る。

故に、演奏家と、音楽隊と聖歌隊、加えてミサを行う司祭に、諸々の手はずを整える侍従が不可欠と見なされる。当然のことであるが、ミサを行う以上、礼拝堂が無くては話にならないし、礼拝堂が必要である以上、司祭の格は司教以上である必要がある。

さて、司教となると司教領が望ましく、そうでない場合は寄進で代替する必要が出てくる。司教の威厳や格式を維持するためには、いくつかの装飾品に加えて、つき従う聖歌隊の格も高くなくてはならず、結果的に相応の衣装を必要とする。

また、ミサを行うということは、晩餐会がつきものでなくてはならない。料理人と、良質なワインを提供するための手配を行う商人が必要となる。当然、ワインは多種多様でなくてはならず、同時に取扱いに細心の配慮を行える執事が不可欠だ。

執事にも、当然ながら格式が不可欠であり、理想としては、貴族出身の次男が望ましい。私生児はその次点であるが、王家に連なる者は例外として良い。これに並行して、晩餐会で演奏を行うために、演奏家や音楽隊の楽器は豪華絢爛であるべきだとの無条件の前提がある。そう言った晩餐会にでは、食器一つとっても伝統と格式という問題が発生する。故に典籍に詳しい人材が必要だ。

典籍を専門とする役人は、出席者に合わせて、それぞれの格と伝統的な権威を鑑み、古典と伝統に背かない形で席を整える必要がある。当然ながら、こちらが決定した席を一方的に告知するのではなく、相手方の意向を確認する必要があり、このための使節がいなくてはならない。

言うまでもなく、使節には相手の格式を鑑みて、最低でも相手より格があまりにも下の人間を派遣するべきではない。そのために、使節の威容を整えるためには幾人かの従者が不可欠であり、相応の格式を維持しなくてはならない。同時に、相手方からの使節を饗応するための手配も必要である。

饗応係は、交渉の一環であるために気の利いたものであると同時に、相手に対して誠実かつ粘り強い交渉を行えるものが望ましい。当然、相手の使節と同格かやや上の人物でなくてはならない。

また、饗応係の経費を鑑みるに、そのための出費は不可欠であり、出納長が万事に手配を行う必要がある。しかし、饗応の規模が相手方に勝るとも劣らぬ水準を保つためには、万事情報を把握する必要があり、密偵頭や公文書配達人らへの支払いにも出納長は配慮する必要があるのは言うまでもない。

出納長は当然ながら、資金管理を行うために、信頼のおけるものでなければならない。だが、それだけでは手落ちとなるので、出納長を監視する人物も不可欠である。こういった出納長が関与すべきでない、いわゆる裏方の元締めには身内を充てるのが望ましい。つまり、後継者にやらせるべきなのである。

だが、一門の後継者である以上さまざまな義務がある。それらを行うためには、股肱の部下が必要であるだろうし、後継者にふさわしい貴族の友人も不可欠となってくる。当然、贈答品は欠かせない。

故に、ペンと紙があれば、インクを垂らして紙にサインさせるだけの話をするためには、意味のわからないような規模にまで膨れ上がった国際会議を開かなくてはならないのが、いわゆる貴族社会というものである。

はっきり言えば、万事彼らはこういう無駄に耽溺している。
意味がないわけではないが、テーブルの下で蹴り合える化け物は少ない。
むしろ、大半はそれが貴族だと誤解している。
だから、経済的に余裕がなくなり、破産するのである。
愚者を見て、それを戒めとするように。

ゲルマニア、平民で商人出身の貴族が、年頃の息子に与える訓示。



{ロバート視点}

決定的な切欠となったのは、リッシュモンによる公文書偽造である。アルビオンが、我らを錯乱するというのであるならば、ゲームのやり方を変えればよい。リッシュモンを、トリステイン過激派の仕業に見せかけて、襲撃。無論、暗殺未遂であるが、これでリッシュモンは自分の立ち位置を悟ったようだ。もう、十分に儲けたこともあり、背後にいる大公国と相談し、大公国経由でこちらに正規の書類を持ってきた。大公国にしてみれば、我らに恩を売るつもりであったのだろうが、纏まった額の資金で取引を提案すると、アルビオンの背中を刺すことをあっさりと了承した。

「ヴィンドボナの意向とは言え、少々拙速でしたな。」

気がつけば、こうして、トリスタニアで講和会議が開催できるというものだ。万事神速を尊べば、講和会議というものは容易に開催を宣言できるという好例だろう。旧王都というものは、喰いつめた饗応係や典籍に詳しい人材を抱えており、格式だけは無駄にあるために手配には困らない。統治の一環として、示威行為を行うようなものだと思えば、植民地統治の手法をまねるだけで良い。他国への配慮は、あくまでも、自主的なもの。誰が、どこで、一番、権力とパワーを有するか?ゲームのルールを御存じで有れば、無理が通る。

「しかし、良くアルビオンが席に着いたものですね。」

ゲルマニア代表団にとって、アルビオンがトリスタニアまで足を運ぶか?これが一つの分水嶺であった。何しろ、公式にトリステイン王家が、停戦監視の任を委ねると共に、交渉の善意の利益代表国に任命した国家だ。まあ、出てこなければトリステインの併合を宣言すると、水面下で脅したのが有効だったのだろう。我々が、トリステインの併合を宣言すれば、実態はどうあれ、交渉対象からトリステイン王家は排除され、アルビオンの介入は困難になる。我らとてアルビオンが、面倒事を処理するように仕向けたいがために、介入そのものを排除する意思はないが、ここで譲歩する意思がないことを示し、アルビオンはそれに抵抗できなかった。その脅迫まがいの水面下での交渉を行っていたラムド伯が、素知らぬ態で談笑してくる。

「左様ですな。まあ、議長は格式の点から、ロマリアの司教様ですが。」

中立的であり、公平であり、信徒を善導するとして、派遣されてくるロマリアの司教選定が一番難物であった。理想としては、トリステイン王家やロマリア宗教庁の意向に反発したがる新教徒寄りの、人材が望ましかったが、それは露骨すぎるので、ゲルマニア出身の司教を据えることで代替している。

「まあ、問題のある布陣ではありません。午後から本格的な交渉ですな。お互い、万全の態勢で臨みましょう。」

ラムド伯の言う万全とは、一方的な通知ではないだろうかと思うのだが。リッシュモンといい、ヴァリエール公爵といい、トリステイン貴族にとっては毒を無理やり飲まされるような条項の塊だ。まあ、ポーランド分割の事例を鑑みても、重要なのは列強か、それに準じる国家であり、狩り場の意向はさほど重要でもないのやもしれないが。とは言え、鉤十字に少々妥協しすぎた経緯も考えると、我らの意向を明確にしておくのが最善だろう。

「一介の武官には、複雑怪奇な世界でありますが、微力を尽くすほかないのでしょうな。」

海軍は、士官に万能であることを求める。パブリックスクールでの教育は、謙虚かつ万能人の育成が主眼に置かれていた。そうでもなければ、一介の善良なキリスト教徒である英国人らが、偉業をこれまでに成し遂げられるはずもなかった。その先人達に習い、能力はともかくとして、自身も最善を尽くすほかないのだろう。



{ラムド伯視点}

「議長、発言を許可していただき感謝いたします。」

ゲルマニア代表団の代表は、不在である。あくまでも、代表の代理として外務担当の自分と、軍部代表の代理である、コクラン卿をトップとしているが、公式にはアルビオンやトリステインに比べて帝政ゲルマニアの格式が劣ることを考慮してのことだ。高位の人間が、敗者よりも下位の座席に割り当てられるわけにはいかない。故に、代理の人間であるという建前が必要となるのだ。ゆえに、今発言しているコクラン卿は、公式には参事というゲルマニアの官職が、アルビオンやトリステインの貴族らの官職に劣るという建前で下位の座席に座ることを了承しているということになっている。まあ、誰が勝者かは明白で、真の実力者でもあるのだが。

「我々の要求は、実に単純であります。まず、即時停戦。そして、現有占領地のゲルマニアへの割譲であります。」

リッシュモン?大公国?王家直轄領?確かに難題であるが、逆に言えば、配慮しなければ問題ではない。配慮せねば暴動や、叛乱、抵抗運動が起きるだろうが、交渉に際してはある程度のブラフは有効だ。まあ、責任をリッシュモンに押し付けて粛清するなり、なんなりするのは大公国とアルビオンの仕事であり、トリステイン領主らの恨みを上手く誘導できれば、良い。まあ、これに関しては、すでに良い祭壇用の羊を見つけてある。まあ、大公国は、アルビオンに押し付ける気であるらしいが。それは、人の事情であり、我らの関与することではないだろう。余計な、口を挟む気はない。

「次に、賠償金。これらは、二千五百万という数字を事前に提示させていただいておりますが、変更はありません。支払いは、一括で旧金貨にてお支払いいただきたい。」

ゲルマニアの戦費は、トリステインの比ではない。優秀な、財務卿や財務官吏を備えてなお、トリステイン側は戦費の調達にもがいていたことを考慮すれば、払える額ではない。支払おうと思えば、国土を売り払う必要があるだろう。買い手がつくかどうかは、不明であるが。

「そして、この戦争を惹き起こした責任者の処罰。」

純粋に、責任の押し付け合いによる不和を期待しているが、基本的にはゲルマニア内部向けの条項である。我らに大義があり、信仰を同じくする同胞が争う羽目になったという悲劇的な戦争の、責任者を生み出しておけば、統治にしても外交にしても有利になるという配慮もあるが。理想を言えば、北部を荒らした実力者のように、有能な人間が粛清されれば、我が国の幸いだが、さすがに王党派と現トリステイン在地貴族らの力関係からして期待はできないだろう。揺さぶる程度でもよい、そう割り切っている。

「これらが、ゲルマニアの基本的な要求であり、同時に最低限度まで絞った要求であります。」

平然と、トリステインにとっては到底のみえない条件を読み上げるコクラン卿は、よくもまあ、微力を尽くすなどと、言うものだ。楽しがっているようにしか思えない。無論、表情は謹厳実直そのものであるし、貴族としての礼節を完璧に保持しているために、如何にも譲歩し、最低限度の基本的な要求を読み上げているようにしか見えないが。そこはさすがというべきだろう。

「一方、我が、ゲルマニアは交渉締結後に以下を提供する用意があります。」

喜ばしい事を伝えたい。全身で、そう言った表現を行い、朗々と条文を読み上げる姿からは、その条項に猛毒を仕込んであるようには到底見えないだろう。分割し、統治しましょう。提案し、私に案を取りまとめさせていた一介の武官とやらは、実に誠実な嘘つきだ。彼がまとめたわけではないが、毒を作った責任を分かち合うべきだと思うのだが。

「まず、こちら側で拘束している全ての捕虜は身代金交渉がまとまり次第、解放いたします。」

なまじ矜持が高い貴族にとって身代金は、頭痛の種である。下手に低い金額に設定されるわけにはいかない。なにしろ、自らの格を低くするような交渉はできない。だが、一方で経済的に苦しい貴族らにとってみれば、高額の身代金を払うのは困難だ。一番理想的なのは、相手の貴族を捕虜として交換することだが、いかんせん交換用の捕虜は不足する一方だ。そして、他の貴族らが解放されるなかで、身代金をはらえないという一事が社交界での失脚の一歩であることを思えば、実に容赦がない。

「ただし、講和会議妥結を願うと同時に、両国間の関係改善を希求するために、講和妥結と同時に、無条件で一部の捕虜を解放いたします。」

そこで、この毒が効いてくる。つまり、ゲルマニアと裏取引したのではないかと思わせることができる。例えば、コクラン卿を枢機卿もろとも爆殺しようとした公爵家の令嬢が、無条件で解放されることを疑わない貴族は、せいぜい裏事情を知っている我らくらいだ。当事者とて、これらを理解するには、しばらくの時間が必要であるか、或いは理解しても拒否できないだろう。子弟を解放しますと言われては、受け入れるほかない。何しろ、我らは解放するだけなのだ。これは、興味深い計略だろう。コクラン卿の提案だが、実に手の込んだ趣味のよい復讐の方法だ。

「同時に、関係国との外交関係を交渉したいと思います。具体的には、いくつかの国家を完全に独立させたい。」

クルデンホルフ大公国との取引は、シンプルだ。独立をゲルマニアは支持する。身代金交渉や、賠償金支払い能力がアルビオンだけでは肩代わりできないだろうから、アルビオンは大公国に譲歩せざるを得ないだろうが、その金額も馬鹿にならない。で、ゲルマニアの商会からタダでばら撒ける利権と引きあけに集めた金額を、ゲルマニアが秘密裏に立て替えている。ちなみに、その額を要求する賠償金に上乗せすべきでないかとの議論があったが、もとから吹っかけてある数字なので、変更なしとしても痛手がないために保留としてある。実際の戦費は、1200万程度だ。大公国に秘密裏に支払われるのは650万程度。実に愉快な利益が見込める。支払いは、実質的にはアルビオンになるのだろう。モード大公という財務責任者が粛清されたアルビオンにとっては、少々きついかもしれないが、逆に粛清に際していくばくかの国庫への収入が、乏しいとはいえあっただろう。それを思えば、臨時収入を没収するようなものだ。まあ、それだけでは足りないだろうが、そこは大公国がいかにして付け込むかだ。

「次に、安全保障に関する会談と通商協定を提案いたします。」

ゲルマニア軍部は、トリステインとの安全保障に関する会談を希求している。両国間の平和を希求している。本音であるだろうが、それは、トリステインにとって望ましくない形での平和を希求しているということでしかない。実に、愉快なことであるが、通商協定は、講和会議でトリステインにのませることで、トリステインを継承するアルビオンにも及ぼされる毒素である。トリステインに対して、ゲルマニアが有せる経済的な特権は、アルビオンがトリステインを継承するならば、継承国家として引き続き保証し、尊重する必要がある。それを、悟ったのだろう。アルビオン代表団が表情にこそ変化を見せていないものの、形容しがたい雰囲気を漂わせ始めている。

「並行して、ゲルマニアへの割譲予定地であるラグドリアン湖一帯の水利権に関して、交渉し、譲歩する用意があります。」

割譲を既定路線としての提案である。速い話が、水を抑えたものの勝ちであるという、コクラン卿の提案に従う形で発展的に盛り込まれた条項であるが、確かにトリステインに水を安定的に供給している湖の水利権をゲルマニアが完全に抑えるということを明確化するのは大きい。第二戦線の形成に際しても、こういった事情が念頭にあったと私は勘ぐっている。

「同時に、これらの講和条約が遵守され、両国関係が平常に回復するように尽力していただく、アルビオンの友情と正義に感謝します。」

最終的には、アルビオンにとって不利な通商条約や、水利権を巡る諸権利を自らの国家の威信にかけて誓約させることを、綺麗に表現すればこのようになる。実のところ、トリステインの抱えている諸問題は、全てアルビオンに継承させ、ゲルマニアは良いところを総取りするように配慮された条約が、ゲルマニア提案である。その代替として、アルビオンは血を流すことなく、大陸に足場を得る。要は、そういう取引だ。後は、大公国が、大公国から単にクルデンホルフと呼ばれるようになるか、クルデンホルフ王国に昇格するのだろう。そこは、アルビオンの自由裁量だ。厄介事について、ゲルマニアは今回手を引くことにした。速い話が、ゲームのプレイヤーとして扱わない。ゲームをしているのは、ゲルマニアとトリステインなのだ。非公式のプレイヤーは、公式の場にしゃしゃり出てくるべきではない。だから、我らはそうした。無論、関係者としての参加を促してはいるが、積極的に関与されることは極力排除だ。こういう態を装っているために、大公国はアルビオンにメンツを公的には保てるという。



{アルビオン視点}

策を弄しすぎた。大陸利権に目が眩んでいた。早急に、手を引くべきだ。これが、アルビオン外務省内部で急速に叫ばれ始めているトリステイン放棄論である。ゲルマニアとトリステインの血みどろの戦争から、クルデンホルフ・アルビオンの両国が利益を総取りするという発想がそもそも甘かった。

「大公国に担がれた!」

これが、共通認識として、外務省にある。連中が売りつけてきた案は、大公国にとっては利益がもたらされる提案であり、すでに相応の利益を出している。例えば、リッシュモン高等法院長が発行している偽造された本物の公文書の販売代金で、かなりの資金をトリステイン貴族から絞り上げている。我らに有利な文章を、売ってきたが、ゲルマニアが強硬策に出てくれば、紙切れになると悟るのが遅すぎた。偽造の証拠とやらが見つかっているのだ。文書で、錯乱を図ろうにも、効果が乏しい。

「2500万?むちゃくちゃな数字だ!」

国庫への収入は、確かに大規模な南部の粛清であった。数字だけ見れば、2500万はそのほんの一部だろう。だが、先祖代々の城館や土地の金額なのだ。現金や、宝石といったたぐいのものはそう多くない。美術品や、王家の価値あるとみなす物品を売り払うのはメンツに関わる問題であり、論外。そうなると、粛清時に生まれた現金程度では到底足りない。国庫とてそう余裕があるわけでもない。当然、大規模な赤字を覚悟するほかに、道はない。そうでもしなければ、トリステイン領土は賠償の一環としてさらに斬りとられるだろう。だが、そのためには大公国に妥協しなくてはならない。

「水利権が抑えられれば、領土としての魅力が乏しい。」

豊かな大地。それは確かに魅力的であったが、首根っこを押さえられていては、魅力も半減だ。それに、軍事的にみれば、ガリアに隣接する魅力の乏しい地域を防衛させられるようなものだ。経済的な負担も小さくはない。空軍の戦力を分散配置するのは望ましくない結果をもたらす。

「今さら、引けるものか!いくら投じたというのだ!」

トリステイン王党派の受入に、ゲルマニア北部での秘密裏侵入を支援。まあ、いくらでも尻尾を切り捨てられるように配慮してはあるが、投資した額は小さくない。しかも、アルビオン王家ではなく、各貴族達がアンリエッタ王女とウェールズ王太子の婚姻を前提として、当然のごとく、トリステインを併合するという条件で動いているのだ。すでに、多額の資金が投じられている既定路線と、そう見なされているものを変更するのは至難の業である。

「王家の出費?弱体化?大歓迎である!」

これが、偽りなき大貴族、有力貴族の意向であるだろう。特に北部の有力貴族らは、人目がなければ、本気でそう叫びかねない。少なくとも、有力な面々にしてみれば、トリステイン併合に利益があり、併合しなければ損をする。一方で、アルビオン王家にしてみれば、負債の塊を引き受けるようなものだ。王家が相対的に、弱体化することは避けられない。そのような、状況であるならば、有力貴族らの動向は簡単に確定する。併合論を前提としての、講和会議へ参加すべしという意見が盛り上がってくる。

「まさか、クルデンホルフ王国でも作る見返りに、大公国はゲルマニアから最初から同盟していたのでは?」

「考えすぎだ。そう言いたいが、難しい。しかし、事態は連中の手を借りねば解決できないのだ。」

モード大公粛清という事態は、王家の力に若干以上の影響を与えたのは間違いない。少なくとも、王家に付け入らせる隙を生み出すと同時に、各貴族らに王家に粛清されたくないがために、王家の弱体化を積極的に図らせる動機を呼び起こしたのだ。アルビオンの外務官吏らは、そこはかとなく、このような事態を招いたモード大公粛清を呪った。事態の裏を知る者たちは、軽率なモード大公を呪うと同時に、エルフと、ロマリアに災いあれと願うほかなかった。

「で、毒を食らうほかないのか?」

ゲルマニアの提案は、実に毒素に満ち溢れた碌でもない提案であり、こちらが断りにくいという一事をもって最悪の提案である。無論、トリステイン放棄を含めて、複数の選択肢はまだ理論上は選択可能である。

「他の選択肢を取ると?毒ではなく、杖で殺されるぞ。」

だが、理論上、可能であるということは、あくまでも可能であるということに過ぎない。例えば、フネから飛び降りることは、理論上は可能だ。フネから飛び降りるなど、論外であると主張することは可能だが、実際には飛び降りることはできる。よほど、窮したか間抜けでもない限り死ぬとわかっていることを実行する者がいないので、不可能だといわれているにすぎず、理論上は可能なのだ。だが、愚か者でもなければそういう選択をすることは無い。

「死ぬのが確実な案よりは、毒を飲んでのたうち回れと?」

「それしかないと思うが。」

結局、選択肢は実に乏しい。死ぬか、のたうち回るかの選択肢が提示され、我々はそれを選ぶ自由が提示されているということに過ぎないのだ。死にたくないと思えば、選択肢はもう片方に傾かざるを得ない。如何に、不本意な結果であるとしても、だ。

「まあ、決断は王家がするものだ。一介の官吏のみで決められるものでもない。」

「確かに。しかし、奏上するのも、気が重いですな。」

不愉快な決断を迫る上奏。如何に、王が傑物であろうとも、そう言った危険極まりない上奏を行う羽目になるのは実に不愉快な経験だろう。とはいえ、これを避けるわけにもいかないし、先延ばしにするわけにもいかない。決断を先延ばしにすることは、事態を悪化させるだけだろう。少なくとも、事態が改善する見込みは一切ない。むしろ、ゲルマニアがトリステイン領を蚕食するだけだ。

「とはいえ、急がねばならぬのも事実。上奏し、早めに決断をしていただくほかに無い。」


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あとがき

味方も敵もくるくる変わるのが欧州政治の怪奇。
欧州情勢は複雑怪奇と叫びたくなるのもわかる気がします。
個人的には、国際的な会議で、貴族らがよく半年とかで席順とかを決められたものだと感心したくなります。

さりげなく改訂したりしていますが、ご意見・ご指摘があれば是非。

次回、『アルビオン、決断の時』・『さらば、トリスタニア』でお送りする予定です。


(予定していた、『復活・綺麗なワルド』は都合により再検討することとなっております。原作並みに放置すべきかどうか、悩ましいところです・・・。)


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