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No.15007の一覧
[0] 【ゼロ魔習作】海を讃えよ、だがおまえは大地にしっかり立っていろ(現実→ゼロ魔)[カルロ・ゼン](2010/08/05 01:35)
[1] プロローグ1[カルロ・ゼン](2009/12/29 16:28)
[2] 第一話 漂流者ロバート・コクラン (旧第1~第4話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:49)
[3] 第二話 誤解とロバート・コクラン (旧第5話と断章1をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 22:55)
[4] 第三話 ロバート・コクランの俘虜日記 (旧第6話~第11話+断章2をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 23:29)
[5] 第四話 ロバート・コクランの出仕  (旧第12話~第16話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:47)
[6] 第五話 ロバート・コクランと流通改革 (旧第17話~第19話+断章3を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/25 01:53)
[7] 第六話 新領総督ロバート・コクラン (旧第20話~第24話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:14)
[8] 断章4 ゲルマニア改革案 廃棄済み提言第一号「国教会」[カルロ・ゼン](2009/12/30 15:29)
[9] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/25 23:08)
[10] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/27 23:55)
[11] 歴史事象1 第一次トリステイン膺懲戦[カルロ・ゼン](2010/01/08 16:30)
[12] 第九話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記1 (旧第36話~第39話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 00:18)
[13] 第十話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記2 (旧第40話~第43話+断章7を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 23:24)
[14] 第十一話 参事ロバート・コクラン (旧第44話~第49話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/09/17 21:15)
[15] 断章8 とある貴族の優雅な生活及びそれに付随する諸問題[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:30)
[16] 第五十話 参事ロバート・コクラン 謀略戦1[カルロ・ゼン](2010/03/28 19:58)
[17] 第五十一話 参事ロバート・コクラン 謀略戦2[カルロ・ゼン](2010/03/30 17:19)
[18] 第五十二話 参事ロバート・コクラン 謀略戦3[カルロ・ゼン](2010/04/02 14:34)
[19] 第五十三話 参事ロバート・コクラン 謀略戦4[カルロ・ゼン](2010/07/29 00:45)
[20] 第五十四話 参事ロバート・コクラン 謀略戦5[カルロ・ゼン](2010/07/29 13:00)
[21] 第五十五話 参事ロバート・コクラン 謀略戦6[カルロ・ゼン](2010/08/02 18:17)
[22] 第五十六話 参事ロバート・コクラン 謀略戦7[カルロ・ゼン](2010/08/03 18:40)
[23] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝 [カルロ・ゼン](2010/08/04 03:10)
[24] 第五十七話 会議は踊る、されど進まず1[カルロ・ゼン](2010/08/17 05:56)
[25] 第五十八話 会議は踊る、されど進まず2[カルロ・ゼン](2010/08/19 03:05)
[70] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3[カルロ・ゼン](2010/08/19 12:59)
[71] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝2(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/08/28 00:18)
[72] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝3(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/09/01 23:42)
[73] 第六十話 会議は踊る、されど進まず4[カルロ・ゼン](2010/09/04 12:52)
[74] 第六十一話 会議は踊る、されど進まず5[カルロ・ゼン](2010/09/08 00:06)
[75] 第六十二話 会議は踊る、されど進まず6[カルロ・ゼン](2010/09/13 07:03)
[76] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7[カルロ・ゼン](2010/09/14 16:19)
[77] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8[カルロ・ゼン](2010/09/18 03:13)
[78] 第六十五話 会議は踊る、されど進まず9[カルロ・ゼン](2010/09/23 06:43)
[79] 第六十六話 平和と友情への道のり 1[カルロ・ゼン](2010/10/02 07:17)
[80] 第六十七話 平和と友情への道のり 2[カルロ・ゼン](2010/10/03 21:09)
[81] 第六十八話 平和と友情への道のり 3[カルロ・ゼン](2010/10/14 01:29)
[82] 第六十九話 平和と友情への道のり 4[カルロ・ゼン](2010/10/17 23:50)
[83] 第七十話 平和と友情への道のり 5[カルロ・ゼン](2010/11/03 04:02)
[84] 第七十一話 平和と友情への道のり 6[カルロ・ゼン](2010/11/08 02:46)
[85] 第七十二話 平和と友情への道のり 7[カルロ・ゼン](2010/11/14 15:46)
[86] 第七十三話 平和と友情への道のり 8[カルロ・ゼン](2010/11/18 19:45)
[87] 第七十四話 美しき平和 1[カルロ・ゼン](2010/12/16 05:58)
[88] 第七十五話 美しき平和 2[カルロ・ゼン](2011/01/14 22:53)
[89] 第七十六話 美しき平和 3[カルロ・ゼン](2011/01/22 03:25)
[90] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝4(美しき平和 異聞)[カルロ・ゼン](2011/01/29 05:07)
[91] 第七十七話 美しき平和 4[カルロ・ゼン](2011/02/24 21:03)
[92] 第七十八話 美しき平和 5[カルロ・ゼン](2011/03/06 18:45)
[93] 第七十九話 美しき平和 6[カルロ・ゼン](2011/03/16 02:31)
[94] 外伝 とある幕開け前の時代1[カルロ・ゼン](2011/03/24 12:49)
[95] 第八十話 彼女たちの始まり[カルロ・ゼン](2011/04/06 01:43)
[96] 第八十一話 彼女たちの始まり2[カルロ・ゼン](2011/04/11 23:04)
[97] 第八十二話 彼女たちの始まり3[カルロ・ゼン](2011/04/17 23:55)
[98] 第八十三話 彼女たちの始まり4[カルロ・ゼン](2011/04/28 23:45)
[99] 第八十四話 彼女たちの始まり5[カルロ・ゼン](2011/05/08 07:23)
[100] 第八十五話 彼女たちの始まり6[カルロ・ゼン](2011/05/14 20:34)
[101] 第八十六話 彼女たちの始まり7[カルロ・ゼン](2011/05/27 20:39)
[102] 第八十七話 彼女たちの始まり8[カルロ・ゼン](2011/06/03 21:59)
[103] 断章9 レコンキスタ運動時代の考察-ヴァルネーグノートより。[カルロ・ゼン](2011/06/04 01:53)
[104] 第八十八話 宣戦布告なき大戦1[カルロ・ゼン](2011/06/19 12:17)
[105] 第八十九話 宣戦布告なき大戦2[カルロ・ゼン](2011/07/02 23:53)
[106] 第九〇話 宣戦布告なき大戦3[カルロ・ゼン](2011/07/06 20:24)
[107] 第九一話 宣戦布告なき大戦4[カルロ・ゼン](2011/10/17 23:41)
[108] 第九二話 宣戦布告なき大戦5[カルロ・ゼン](2011/11/21 00:18)
[109] 第九三話 宣戦布告なき大戦6[カルロ・ゼン](2013/10/14 17:15)
[110] 第九四話 宣戦布告なき大戦7[カルロ・ゼン](2013/10/17 01:32)
[111] 第九十五話 言葉のチカラ1[カルロ・ゼン](2013/12/12 07:14)
[112] 第九十六話 言葉のチカラ2[カルロ・ゼン](2013/12/17 22:00)
[113] おしらせ[カルロ・ゼン](2013/10/14 13:21)
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[15007] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/14 16:19
{アルブレヒト3世視点}

「またか?実に面倒なことだ。」

講和会議に際して、帝政ゲルマニアは要求する領土と、その分割予定に関して貴族達からの要望を内々に募っている。実に単純な要求として、その選好に際して、自らの戦績と貢献度を主張してくる貴族の使者や、意向を上奏してくる選帝侯の使者との面会が実に億劫である。なんなれば、連中ほど強欲な請願者もいないからだ。いや、厳密に定義すればロマリアの坊主どもと良い勝負かもしれないが。さりとて、それを疎かにするわけにもいかない以上、機嫌とは裏腹に極めて真摯な表情を作ると、謁見を求めてくる使者に相対する。

「で、ありますので、閣下、我らの戦功を勘案していただき、ぜひ彼の地を我が主に賜りたいのであります。」

「うむ、卿の主は実に忠勇な士である。余としてもその忠義には、応えたいと思う。」

忠勇であるというのは、言葉だけに関しては間違いない。言葉の上では、我が帝政ゲルマニアは万全の統治機構を誇る。実態に関しては、余のことを侮るものや、自尊心の高すぎる貴族も少なからずいるが、強欲さと抜け目なく領土要求するところは、共通している。故に、手玉に取りやすくもあるが、誰かに踊らされることもある連中であるだけに気が抜けぬ。

「だが、事は公平を期さねばならぬことでもある故、大臣たちとも諮り、その功に応じた処置を行うつもりである。」

なにしろ、まだ講和会議そのものすら予備交渉の段階だ。下手に空手形など出せば、代用地を見つくろうべし!などと叫び出しかねない連中に、付け入らせることになる。こういう輩から、壁となるべく大臣や諸官が任命されているのだ。余としては、実に遺憾であるという姿勢を保てばよい。

「引き続き、卿らの忠義に期待する。」

「ははっ、我らこの杖に賭けまして。」

なら、今すぐにその杖をよこせ。この死肉すら漁るハイエナどもが!余とて言えた身ではないが、貴様らに比べば遥かに始祖に愛されるほど清らかであろう。

「うむ、余としても忠勇なる卿らに期待するや大である。その働きに見合った地を、用意するように諸官らに必ずや、諮っておこう。」



{ロバート視点}

「ラムド伯、久しいですな。」

「おお、コクラン卿!傷は癒えましたかな?」

外交の最前線とは、胃がやられるか酒毒で倒れかねない危険な前線であるともいうだけに、外交官は体調にことのほか敏感である。まあ、種類が違うといえども厳しい戦いを行う外交官というものは、そういうものだ。まあ、忌々しい鉤十字の跳躍跋扈を許した祖国の外務省には、うっかり主砲弾の誤射を行いたくもなるが。

「いや、ご心配をおかけした。すでに、水のメイジからも前線に出ても問題ないと言ってもらえていますぞ。」

「それは良かった。少しばかり難しい交渉となるだけに、体調が万全であるにこしたことはない。」

やはり、難航しているというのは間違いないか。前線で圧倒しつつあるといえども、所詮それらは東部に布陣した貴族らの軍であってトリステインの全力ではない以上、交渉のために敵戦力を全て撃滅するか、或いは交渉で解決するかを図るほかない。そうである以上、相手はこちらに譲歩を求めてくる。

「実際にどの程度、アルビオンは求めてきますかな?」

「いや、かなり強欲だ。国境線に関してもかなり譲歩を求めてきている。」

「トリステイン王党派の影響ですか?」

亡命を受け入れ、ついでに併合の手順を整えているならば、そこで条件闘争に持ち込まれたということだろうか?予想では、トリステイン王党派にそれほどの影響力は無く、名目的な存在としてアルビオンにあると思ったのだが。いや、考えすぎか。

「それは、考えにくい。むしろ、国内のアルビオン貴族らがパイを求めているような印象もあったが、大公国と分割する気だろう。」

本気でアルビオンに侵攻することを計画すると、国力の大半を注いで整備された艦隊に対抗する必要があり、得る物が全く乏しいため、浮遊大陸はこれまで安寧に包まれてきた。だが、アルビオン貴族らが大陸を求めることは、伝統的な矛盾である。曰く、浮遊大陸は攻めるに難しく、守るに容易い。だが、地上との交易は利益が大きく、浮遊大陸は土地も痩せている。故に貴族らは、常に土地の豊かな大陸を求めてやまない。それが、厄介な地上のもめ事に巻き込まれるとわかっていても葛藤があるのだろう。

「ほう!彼の大公国は債権の回収を諦めて、土地を分捕る気ですか?いや、しかし・・・」

大公国が債権の回収を諦めるものだろうか?フッガーらの話によれば、商会は投資が帰ってこないことを最も恐れるという。で、あるならば、彼の国も同じはず。そして、トリステイン全土の貴族や王族に貸し付けてある資金は莫大な額になる。まあ、貴族からは取り立てることも可能であるだろうが、王国という主体からは難しくなるはずだ。土地で補てんできる額なのだろうか?

「それで補てんできるほどの額ではない、ということなのですが、どうも損を埋めるためになりふり構っていないようだ。」

「現実的な連中だと思っておりましたが。」

目先の利益を追い求めているように見える行動。どうも、釈然としないものを感じるのだが。トリステインという餌でアルビオンとゲルマニアを手玉に取るくらいのことは覚悟していたが、拍子抜けですらある。いや、楽ならば、楽に越したことは無いのだが。

「十分に抜け目ない連中ですよ!すでに、リッシュモン、あの蜂起した忌々しいハイエナに貴族録や領地に関する法文書を偽造させて、トリステイン貴族に売り払っています。」

「なんですと?」

法文書の偽造?っ、そう言えば、リッシュモンは、高等法院の長。その権限はある。まさに、偽造された本物が氾濫することになる。実に忌々しい。それを思えば、その偽造した書類をアルビオンに売り払い、トリステインに売り払うことで二重取りだろう。リッシュモンと山分けしても相当な額が回収できるうえに、土地の配分を巡ってトリステイン貴族に大きな影響力も及ぼせる。

「おかげで、トリステイン領土の正確な帰属があまりにも曖昧になっており、交渉に取り掛かることすら至難です。」

「強硬策はできないのでありますか?」

相手の戦場に引きずり込まれかけているのは実によろしくない。しかも、大半が虚構とブラフなのだ。それを打破し、突破し、ひれ伏せさせることこそが求められている。外交は紳士的なゲームであるが、机の下は蹴り合いである。

「一部は、すでに、アルビオン領や、大公国領に偽装されています。下手をすれば開戦の口実にされかねません。」

「いっそ、ブラフというならば、乗ってみませんか?連中も開戦を望んではいないのであれば、どこかで引くかと思いますが。」

本気で開戦を望むのはどちらでもない。せいぜい、トリステイン王党派はアルビオンで主戦論を唱えるだろうが、実質的な影響力は無いに等しいだろう。影響力を持ち始める事態があるとすれば、それはアルビオン王家とトリステイン王家が一体化し、両家直系の王子が立った時に、外戚として権を振るうことだろう。だが、アルビオンでそれが可能とも思えない。連中が、外来の外戚に大きな権威と権力を持たせるほど穏便な貴族らだとは到底思えないのだ。まあ、どちらにしても、ブラフの張り合いならば最終的に相手が引くのではないか?可能性の問題だが。どの程度強硬に出てくるかが分かれば、一つの手だ。

「ご冗談でしょう!アルビオン領に偽装されている地一つとっても、下手をすれば本当に戦争になりかねません!」

なんとも。それほどやる気があるとは。勝算は全くと言っていいほどないはずだが、ガリアの援軍のあてでもあるのだろうか?そうでも思わないと、理解しがたい態度である。それらがブラフである可能性が高いと思うが、かといって確証もなく行動はできない。

「少なくとも、そう見えるほどやる気だと?そうなると、まずは真偽の確定から始めなくてはいけない。面倒ですな。」

「まったく、理解しがたいのですが、トリステイン王党派がリッシュモンの解任を忘れていたとか。」

何が、災いし、何が幸いするかわからないとはまさしくこのことだ。ゲルマニアにとって、リッシュモンの存在は実にうっとおしい災いであるが、幸か不幸かアルビオンや大公国にとっては都合の良い手札だ。良い手札である以上、それをゲームに参加するプレイヤーが有効活用するのはむしろ自明の義務だろう。となれば、如何に相手の有効な手札をつぶすかだ。

「混乱していた、そういうことでしょうな。だが、おかげでアルビオンと大公国が喜び、圧力をかけてリッシュモンの地位を今は守っていると。」

「そうなります。」

いやはや、ポーカーはそれほど得意ではなく、士官室で先任達にはそれほど敵わなかったが、やるほかないのだろうか。私は、どうもこういったことに関しては得意ではなく、狐を追いかけている方が気は楽なのだが。ゲームのルールが決まっている以上、その中で最善を尽くすほかない。

「いや、実に世渡りが上手だ。剣の上を歩けるのではありませんかな。」

「本当に、歩かせてみたいものですよ。」

ラムド伯が忌々しげに同意する。だが、案外トリステイン貴族ならば本当に、剣の上を悠々と歩いて世渡りをすることくらい可能なのかもしれない。腐ってはいるのだろうが、生存本能とその能力に関しては、認めざるを得ないものが間違いなく存在している。剣どころか炎の上さえ平然と歩けるかもしれない。杖を取り上げてやらせてみるべきだろうか?メイジは杖なしでもそういうことができないものだろうか?

「では、そうしてみますか。少々手荒ですが、策があります。すでにヴィンドボナからの承諾は取り付けてありますが、現場のご意見をお伺いしたい。」

「ほう、どのようなものでしょうか?」

「ああ、単純にトリスタニアで講和会議を行うと宣言を行い、講和会議を開催します。」

今、トリスタニアで最も高位の貴族は誰か。トリステイン側は、蜂起したとはいえ、高等法院の長であるリッシュモン卿である。さて、問題だが、誰にとっても降伏文章へのサインは拒みたいものである。だが、明確な高位者がいる場合はどうだろうか?これ幸いと同意するだろう。そうなれば、リッシュモン卿は売国奴という批判以上に、とりつぶされる貴族らからの恨みを恐れなくてはならない。なにしろ、割譲を求められている領地の貴族らに諸寮安堵の公文書を売りつけておいて、取りつぶす降伏文章にサインしようという風聞一つとっても、裏切りだと感じられることは間違いない。

「有無を言わさぬおつもりですな。」

ラムド伯もこれには同意を示してくれる。まあ、外交官というものは、この手の手法に熟達しているというほかないので、これも選択肢の一つとして持っていたのだろう。驚きはさほどなく、むしろ待ち望んでいたという色すら浮かべている。やはり、鬱憤は溜まっていたのだろうと察せられる。

「さよう。ついでに、リッシュモン卿を軽く脅しておきますか。」

「脅すとは?」

「なに、軽く暗殺まがいのことをやらせてみようかと。」

暗殺される可能性がある。そう怯えるところに、ちょっと怯えを増幅させるだけでよい。あとは、疑心暗鬼がおのずと育ってくれるだろう。そうなれば、彼も少しはおとなしくなるはずだ。おとなしくならないならば、彼もそれまでだ。放置しておいても、本当に暗殺されかねない。その時は、手が汚れないことを喜べばいいだろう。

「それと、大公国に顔つなぎをできますかな。」

そのために、わざわざヴィンドボナの商会から資金協力の確約を取り付けてある。さすがに、トリステインの債権を全て補填する額には及ばないにしても、かなりの額が見込めるとあれば彼の国と交渉するには十分だろう。

「構いませんがどうされるおつもりですか。」

「いえ、買い物をしようかと思いまして。」



{トリステイン一般貴族視点}

ゲルマニアの下に屈するのは実に気に入らないが、同時にゲルマニアに味方して莫大な利益を得る存在は妬ましい。例えば、ヴァリエール家は、前線でありながらゲルマニアと密約でも結んだのだろうか。耳にする限り、ゲルマニアはこの家には少しも攻め込んでおらず、前線は極めて平穏であるという。

「王家の血を引きながら、救国の意思が無いのではないか?」

口が緩い雀どもが囀り始めているが、まあ、誰だって自家の温存が第一なのは同じである。とは言え、東部の大貴族として権威と権限を持った有力な貴族であるだけに、口だけかと思いたくもなるし、ゲルマニアに尻尾を振っているのではないかと疑念の一つも抱きたくなる。なにしろ、最前線が軒並み押されている中で、そこだけ平穏であるのだ。疑うなという方がおかしな話である。

「出し抜かれましたな。」

だが、今一番の話題筆頭はリッシュモン卿だ。当初は、忌々しい戦役を集結させると共に、貴族らの自治権強化が期待できたために、少なからずの貴族が、その蜂起に同調するか、少なくとも暗黙の同意を示してきた。やがて、リッシュモン卿は高等法院の長という権限で、直轄領を味方する諸候らに配分する動きを見せ始め、期待にこたえるかに思えた。ここまでは、歓迎できた。だが、事態は急変する。

「領有権を、アルビオンと、クルデンホルフが主張し、ゲルマニアはそれを受け入れつつある。根拠は、リッシュモン卿の名が入った公文書?」

「トリスタニアで講和会議。リッシュモン卿が、東部や中部まで売り渡し、自身が西部で独立国家を?」

「我々に売られた名目上の諸領は、ゲルマニアやアルビオンに引き渡される予定?」

「大公国とリッシュモン卿が組んでひと儲けしたとか。」

全て噂に過ぎなかった。だが、明確な反証のしるしもない上に、ゲルマニアもアルビオンも、大公国もこれに関しては何ら言っていない。ただ、一人噂だけが独り歩きしている。証拠など無い。だが、確かな筋から、ゲルマニアがトリスタニアで講和会議を行う用意をしているとは漏れ聞こえてくる。リッシュモン卿と大公国の親密さも目立っている。公式には、そう言ったことは一度も言われていないが、貴族社会で公的な発表を待っているのは、刑死をのんびりと気長に待つのと同義だ。誰もかれもが疑心暗鬼に駆られざるを得ない。

「皇帝が、西部の諸領を求めたゲルマニア貴族に、それはリッシュモンにすでに与えると決めていると漏らしたとか。」

「大公国は債権の回収のために領地に目をつけて、リッシュモン卿と山分けする意向?」

噂だ。証拠など何もない。そもそも、誰からそのような噂を耳に入れられたのかね?そのように笑い飛ばせるものではなかった。なにしろ、リッシュモン卿は練達のベテランであり、生き残りを図るために何を行うか誰にも予想がつかないように思われたし、自分達がいつの間にか引き渡されている可能性も一切否定できる要素が無い。

「考えすぎでは?ゲルマニアが我らを動揺させようと流した他愛もない流言でありましょう。」

笑いながら、何かの席では当然のようにそう主張する。だが、実際には、間抜けな誰かがこれを信じ込んで馬鹿を見ればいいと思いつつ、賢明に虚実を見極めようと耳に何もかも入れようと懸命に集中する。そう、噂に過ぎない。しかし、噂ではあるのだ。



{ガリア一般論}

ガリアにとって、対岸の火事は実のところ、民衆にとってはさしたる影響はなかった。大国であるガリアは産物も豊富であり、同時に交戦の当事国で無いだけに実のところ、戦争で設けている一部の商会や武器商からは、継続を望む声すらちらほらと流れている。

「王は無能でも、大国である。それに、トリステインとは良い勝負だ!」

これが、ガリア一般の感情であると言って良かった。実のところ、有能極まりない王を抱いているにしても、庶民まで行き渡っている魔法絶対思想はかなり強固であると言える。とはいえ、平民にしてみれば、生活が苦しくなければ、王は誰であってもさして重要ではない。なにしろ、ガリアは対アルビオンの想定を行い、国費の半分を駆けて両用艦隊の整備を行いながらも、国家が破たんしないどころか、余裕があるのだ。

「大国、ガリアに乾杯!」

ガリアの酒場では、戦乱に明け暮れる他国の様子を面白おかしく肴としながら、ワインを酌み交わし、エール酒を楽しむ人々の姿で満ち溢れている。皮肉なことに、最も恐るべきガリアとは、最も平民に無自覚に支持される国家ですらあった。貴族らにしてみれば、魔法も使えない無能な王に使えることに思うところもあるだろう。

「無能王、死すべし!オルレアン公万歳!」

こう叫ぶ若い貴族が王を打倒しても、おそらく平民らは貴族らの争いとして生活に影響がない限りは無視するだろう。逆に言えば、王族や貴族らの争いは基本的にガリアでは平民にまで深刻な影響を及ぼしていないのだ。識者は気がつくかもしれない。

「モード大公と、オルレアン公の違いはなにか?」と。

アルビオンは、モード大公の粛清一つとっても、これまで国内を盤石に固めていた王家が揺らぎ、アルビオンも不穏な空気に包まれざるを得なかった。一応、日々の暮らしに致命的な影響はなかったものの、緊迫した空気が流れたのは間違いない。これが、盤石の基盤を持った王による粛清である。

「あの無能が何故?」

こう、貴族どころか平民にすら王位継承が疑問視されたガリアのジョゼフ1世が、王位継承が確実視されたオルレアン公を殺し、なおかつ、オルレアン公派の諸候を粛清してなおガリアは安定している。少なくとも、平民らが日々実感する限りにおいては。それは、恐ろしく幸運であったのだろうと片付けられることが多い一つの、小話である。ジョゼフ一世は恐ろしく、幸運に恵まれた王であるという。



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あとがき

料理で言えば、肉や野菜をカットして、調味料で味付けしたところです。次回、焼きます。


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