{ロバート視点}「メイジというのは、恐ろしいものだな。」報告書を見るなり、私はそう呟かざるを得なかった。艦隊で、トリスタニアを白昼堂々襲撃することに比べれば地味かもしれないが、分隊で白昼堂々船着き場を吹き飛ばすのも派手だろう。おかげで、我々は絶望的なまでに高騰した風石の調達費用と、壊された施設の復旧作業を速やかに完遂して、影響がないことを対外的に示さなくてはゲームに負けるということになる。だが、それよりも報告書を呼んで驚愕したのは個人が、文字通り戦力として異常に脅威足りえる世界だ。「スクウェア・メイジ。まさにメイジの中のメイジです。」「で、どうすれば倒せるのかね?」スクウェアといえども、メイジだ。エルフではない。個人的には、エルフの精霊魔法といいもので戦艦の主砲でもはじき返せるかどうか試してみたいが、ビスマルク級よりも頑丈なのだろうか。いや、それはいい。ともかく、メイジは防御能力があるとはいえ、決してエルフほどには倒せない相手ではない。少なくとも、戦争でスクウェア・メイジといえども戦死しないわけがないのだ。「弓矢や銃でとにかく四方八方から撃つほかないのでは?」ギュンターの提案してくる案は、無難な物ではあるが、しかし、それに残留部隊はことごとく失敗している。接敵しても、足が速い上に、突破力が優れている部隊らしく、まともに拘束することすらできていない。講和会議は確かに、開催までに時間がかかるが、その事前交渉において足を引っ張られるのは望ましくないだろう。特に、大公国はしたり顔で出てくるし、アルビオンも利益代表国としては、プロイセン並みに平和を愛する善意の仲介者だ。「それは、狩りだな。となると、久々に狩りを楽しむことにしよう。」根本は、石器時代の勇者と同じだ。なるほど、さすがに魔法を手にしている点は、まさしくおとぎ話の世界から出てきた英雄かもしれない。だが、個人の力量に依存した戦争がいつまでも戦え抜けるとは思わないことだ。ハンニバルですら、ローマを打ち破ることはできなかった。とにかく、煩わしいができる限りのことを尽くして、外交に専念したいところなのだが。{アルビオン一般視点}講和会議をどこで開くべきか?実のところ、それが微妙にして、講和会議最大の課題である。ゲルマニアにしてみれば、トリスタニアという征服したばかりの敵国の首都か、ヴィンドボナで開くことを希望している。だが、アルビオンにしてみれば、それでは得る物がないのだ。いくばくかの土地は得られよう。運が良ければ、いくつかの停泊地の使用権も得られるだろう。だが、大陸への渇望がいやされることはない。「同君連合ではなく、実質的な吸収合併。大公国は、自国の独立性が維持されるならば、同意すると。」カードが一枚大きなものが転がり込んできた。大公国がトリステインの貴族から買い取ってきたカードは、いくばくかの利潤を上乗せされて、アルビオンの手元に届けられることとなっていた。まっとうな商取引として、当事者はすべからく満足するという実にすばらしい商取引であった。「大変結構。だが、連中のことだ。抜け目なく、経済的な独立性も主張していよう。」旧トリステイン領処遇に関する会議。すでに、過去の存在としてのみ語られ始めた王国の領地に関する経済的な権益を依然としてかの国は求めている。いささか大きな要求ではあるものの、こちらは失うものよりも得る物が多いことを考慮すると、よい一つの取引である。大公国が、金融という力で持ってロマリアにも一定の影響力を行使できるのも大きい。「ゲルマニアの占領地は?」「ゲルマニアに帰属だ。幸い、王室領は乏しい。」対ゲルマニアの前線警戒。ごくまっとうな感覚で、トリステインのゲルマニア国境付近はすべからく有力な貴族や、軍人上がりの貴族らが配置されていた。故に、暴走を招いたとはいえ、それは、我らの完治するところではない。問題は、依然として防衛を継続している有力貴族らの領地だが、その帰属に関してはさほど重要ではない。ゲルマニアが血で買い取った大地は、さすがにゲルマニアのものだ。取り上げれば、纏まるものも纏まらないだろう。当然、抗戦中の領地についても譲歩する必要がある。「では、重点は分割で良いのか?」「構わないだろう。」重要なのは、双方が、妥協できる程度の水準までこちらの要求を付きとおせるかにかかっている。極めて簡単にして重要なポイントは、欲張らないこと。全てを取って滅ぶよりは、長く人生を楽しめるようにする必要がある。だが、そのためには、人生において多少の苦労を厭うことができない場合がある。例えば、旧首都。「問題は、トリスタニアだ。帰属は?」併合ではなく、婚姻による共同統治ということを考慮するならば、完全に敗北したトリステイン王都といえども、完全な割譲は政治的には受け入れがたい。少なくとも、旧トリステインは、講和文章にサインすると同時に、アルビオンとの連合にもサインしてもらうまでは存在しなくてはならない。当然、場所はトリスタニアでなくてはならない。名目上の対等性。実質は一切伴わないといえども、その程度はやらねばまずい。「ゲルマニア・アルビオンの共同統治しかあるまい。」「サインさせるまでは、押さえておきたい。できないだろうか?」トリスタニアの規模は確かに、経済的にも政治的にも魅力的でないとは言えない。だが、それを取りに行って、ゲルマニアとの、最後の一線を踏み越えるのは断固として回避せねばならない。大公国との合意では、平和が大前提なのだ。サインさえさせれば、トリスタニアはガリアに帰属しようが、ロマリアに帰属しようが、ゲルマニアが焼け野原にしようが一切我々としては関知するところではない。「実質的な対トリステイン戦勝記念碑に等しい。譲らせられるのか。」「戦費支援はいかがでしょうか?」「連中が、満足する額を払ってみたまえ。破産する。」ゲルマニアはトリステイン戦で領土を分捕っても赤字である。で、あるならばその分の穴埋めを申し入れれば可能性はあるのではないだろうか?もちろん、イエスである。ただし、払えるかどうかという問題は深刻であるが。「たしか、大公国から買い付けたアレの対象は資金に余裕がありましたな。」「絞り上げると?ですが、ロマリアが横やりを入れてきませんか?」対ガリアという点からして、ゲルマニアの弱体化はロマリアにとっては望ましいものではない。しかし、飼いならされていない猛犬よりは、訓練された狗の方が使いやすい。ロマリアにとって散々恩を売りつけ、ゲルマニアに影響力を行使するべく暗躍している情勢下で、アルビオンとゲルマニアが円満に解決できることを妨害してくることが予想されてならない。例えば、反アルビオン叛乱や宗教上の介入などいくらでもやりようがある。「むしろ、ガリアだ。我々は、国内にも多くの不安要素を抱えているのだぞ。下手に動けば大惨事に発展しかねん。」国内は政争の傷痕が残り、貴族達は不安と不信を王家に抱きつつある。事情を知る人間が少ないが、その一件は政治的には致命的な宗教問題にも発展しかねない火種だ。誰が火種に油を注ぎこむのかさえ、わからない状況では下手な行動は爆炎を招きかねない。「いっそ、大公国が出してきた例の提案に乗りますか?」「トリステイン4分割構想かね?論外だ。」「ですが、検討の余地はある。」{ロマリア、某枢機卿団視点}光あれば、影がある。彼らは信じていた。自らの影が、その光を生み出す真の要因であると。歪んでいようと、それは確かな信仰心であり、利権が複雑に絡み合ったキメラのような精神であったが、それだけにここにいる人間は強力な団結力を誇っている。「で?トリステインはどう処理されるのかね?」「分割でしょう。2か3か4かは知りませんが。」ゲルマニア、アルビオンによる分割は確定だが、大公国と、防戦に成功している公爵家を入れるか、いれないかとい問題がある。2はアルビオン、ゲルマニア両国の望みだろうが、それは受け入れがたい。理想は、各勢力が混在することだ。できないならば、せめてトリステイン旧領分割に際して、大公国の独立を認めつつ、旧トリステイン領をゲルマニア・アルビオンに加えて、公爵家で割るのが次善の策となる。「我々としては、4が望ましい。だが、3が最も現実的な選択ではないだろうか。」「公爵家を残す理由は?教会の統制にも伏さない上に、さしたる権益ももたらさない以上、影響力を積極的に行使する理由は乏しいのですが。」教会にとって、飼いならせない猛獣など危険な存在でしかない。そういう視点から見た場合、優秀なメイジと諸候軍を備えて、求心力のある大貴族ほど始末に負えない存在はないといってよい。「猫には鈴が必要だと思わないかね?」だが、それは同時に規模の問題を伴う。それが、ゲルマニアの規模であれば何があっても排除すべき対象だが、弱小国の、一角を占める程度の規模であれば毒薬とて、薬足りえるのだ。量が問題であり、毒薬としての量に達していないならばこれを処方することにためらいはないといってよい。「空の国ではいけませんか?」「甘いな司教。君は、優秀だが鈴の数がいくつあっても困らないということを知らないようだ。」選択肢は多いほうがよい。とてつもなく、選択肢の多寡は全てに影響してくる。で、あるならば、必然的に鈴は多いほうが安全であるのだ。「相互に牽制させれば、よろしい。元々一つにして力を合わされるよりは、ばらばらにしておく方が操るのも容易でしょう。」{フッガー視点}「講和会議は?」「前哨戦、どこにするかといったところで未だに揉めておるよ。」状況は常に把握している。しかし、火種が大きすぎて下手に探りを入れると、こちらも大やけどでは済まない。近づいて確認するのは良いが、近づきすぎては危険な領域がある。それは、交渉の秘密事項というやつであり、情報という商品の独占をはかろうとする当事者達の駆け引きでもある。だが、商人という者は、落とし所を見つけることにかけてはずば抜けた才覚を発揮する。「トリスタニアで確定でしょう。アルビオンもゲルマニアも我慢できるところはそこしかない。」「だが、貴族がそう判断するか?」合理的な人間の、最も不合理な失敗は、誰もかれもが合理的であると仮定し、信じて疑わないことだ。火に触れれば火傷する。ならば、誰も火に触れないであろう。これは、合理主義者にとっては自明の理だが、火に触れて火傷する人間は後を絶たない程度には、不確実である。「メンツ、プライド、意地。まったく、厄介な子供に危険物を与えたようなものだ。連中がどうするかわからん。」「アルビオンもゲルマニアも現実的だ。今回は、安全だろう。」まあ、さすがにというべきか。アルビオン王家は、堅実だ。政変があった時はさすがに揺らいだといえるが、その判断力は健在だろう。対して、ゲルマニアは政治に長けた皇帝なのでここでしくじることは考えにくい。両者ともお互いを嫌い抜きつつも、最低限の落とし所を見つけるためににこやかに握手することは可能であるし、あり得る。「では、例の分割構想案について何かつかめたか?」「無理だ。そもそも、口頭で行われた可能性が高い。」「文章としては残っていない?」情報の信ぴょう性、あるいは単純な情報の精度でもいい。とにかく、把握できなければ予想は予想にすぎないのだ。誰が、どこを斬りとるのかさえ分かれば、個別交渉に持ち込みいくらでも損害は抑えられる。重要なのは、損害の最小化と利益の最大化だ。そこには決断のための、なにかカギが欲しい。{ラムド視点}「では、講和会議の場所はともかくとしまして、当該会議の参加国について、アルビオンはどのような形が適切であるとお考えかおうかがいさせていただきたく思います。」外交官の本分とは、こういった外交交渉である。時間がかかり、無駄な当てこすりと、言葉に毒を混ぜたやりとり。悠長であるように見えて、気を抜けば一歩で転落が確定するために神経を使わされる仕事だ。まるで、メイジ同士の決闘に近い感覚を抱かされる。いつも、杖を握りしめて油断なくあたりを見渡さねば、一撃で叩きのめされるのではないかという危機感すら覚えるのだ。「はい、アルビオンといたしましては、その議論は火急に解決すべき問題の解決を遅くさせるために、当事者間、つまりトリステイン及びゲルマニア双方から関係者を選出していただき、その上で申し出があった各国を招き入れることを検討しております。」「ゲルマニアは、主として事態の重要性を鑑み、アルビオン提案を真摯に検討するものであります。ゲルマニアとしては、議長国として参加国をただちに招聘する手続きに入りたいと思っております。」正直、アルビオンがここで譲歩してくるはずがないというのは、参加者全員が共通了解として有しているが、ある程度の予定調和は不可欠な一部である。これを欠いては、こちらにその意思なしと見なされるのだから。言っておくことに意味がある場合もかなり多い。どれほど馬鹿げた提案であろうともだ。「アルビオンといたしましては、事態の重要性を鑑みて、ゲルマニアが当方の提案を真摯に検討される旨、歓迎いたします。」ほとんど機械的な礼儀の応酬すら、一個抜けると政治的な意味合いを持ちかねない。魔法は詠唱だが、言葉というものには魔力が何かあるように思えてならない。外交という仕事はこれほどまでに、言葉が大きな事態を惹き起こしかねない力を持っている。これは、メイジにとっての本分であると言ってもよいのではないだろうか。「ですが、利益代表国としてトリステイン及びゲルマニアの仲介を行う我が国としたしましては、交戦国の当事者であるゲルマニアが議長国を占めるのは、講和会議の正当性に関する無用な疑義を招きかねないという点から、反対の旨、表明させていただきます。」「ゲルマニアとしては、アルビオンの友情ある忠告に感謝したいと思います。しかし、講和会議の性質上、被害者である我が国に過度に同情的であるとトリステインに見なされうる議長国の任は、我が国自身が引き受けることで後日の禍根を、少なくとも他国におよぼさないようにする道義的な義務があると、私たちは確信しております。」誰がやっても問題ないだろう?実質的にトリステインという国家の存続が許されるのはこの講和会議の講和文章にサインするまでなのだから。叛乱や、抵抗運動など面倒な事象が山積することになるよりは、一部をアルビオンに押し付けて苦労を分かち合う程度の忍耐力は我々も持ち合わせているのだから。「アルビオンといたしましては、その議論は、ともかくとして、ゲルマニアが適切と思われる参加国についてのお話をまずは伺うべきかと考えております。」「はい、基本的に関係国が納得し、全員にとって公正かつ納得いくものにしたいと考えております。」基本的に、だ。極論を言えば、我が国とまあ大公国あたりが納得できればそれでよい。一応、ロマリアの坊主どもにも多少の甘い汁を用意しておかねば後が厄介なことになりかねないだろうが。だが、それらを差し置いても、我々としても多国間の関係を重視しておきたいのは間違いない。我らの主敵はガリアであり、一に対ガリア、二に対ガリアである。ガリアを挟撃できるというならば、エルフとでも抱擁して見せる自信が外交官としてはある。ならばだ、どうでもよいような領地などアルビオンにくれてやってもよい。だが、譲歩はできる限り最小限でなくてはならないのも当然だ。{トリステイン‐ゲルマニア第一戦線、ゲルマニア視点}「攻撃開始!」指揮官の怒号と同時に、大砲、銃、クロスボウ、弓、魔法。ありとあらゆるものが目の前の抵抗を粉砕しようと放たれる。もっとも、これは敵からも放たれるので、攻撃の応酬は過激な形で返されるとも言う。なにしろ、相手は規格外のメイジをそろえているのだから。「側面を突くぞ!騎兵を出せ!」本来、戦術的にみれば力攻めは得策ではないのかもしれない。じりじりと圧力をかけて包囲していくことが理想だ。だが、事情が変化した。いつになるのか不明な講和会議が開かれている以上、時間をかけて領地を斬りとるよりも、とにかく現時点での占領地拡張が最大の戦果になりえる。「くそ!穴を広げろ!兵を突撃させろ!」当然、犠牲が大きかろうと短期的な損害で回復が見込めるとなれば、講和会議に圧力がかけられるとなれば、上が求めてくるのは大規模な全線での攻勢である。曰く、戦後を見据えた占領政策。曰く、講和会議に影響を与える必要がある。とはいえ、要はたくさん兵の死体を積み上げろということでしかない。「第三中隊長がやられた!後退だ!後退しろ!」「追撃を叩き返せ!」「砲兵!敵集団にお見舞いしてやれ!」「畜生!また、あの風メイジだ!クソッたれ!!」結局のところ、得るところがなくとも、外交的には猛攻をかけているという事実が重要であるというならば、死体の量産を躊躇なく上は要求し、指揮官も前線に出ないものは一瞬の躊躇いもなく肯定し、前線の兵が突撃させられることとなる。かくして、小競り合いは双方の外交上のカードとしてのみ認識され、その陰惨な実態は当事者の悪夢として残されることとなる。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~あとがき頑張ってそろそろ講和会議の席順を決めたい・・・。ウエストファリア条約は席順決めるだけで半年かかったらしいですね。何とか、ペース上げていきたいと思っております。