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No.15007の一覧
[0] 【ゼロ魔習作】海を讃えよ、だがおまえは大地にしっかり立っていろ(現実→ゼロ魔)[カルロ・ゼン](2010/08/05 01:35)
[1] プロローグ1[カルロ・ゼン](2009/12/29 16:28)
[2] 第一話 漂流者ロバート・コクラン (旧第1~第4話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:49)
[3] 第二話 誤解とロバート・コクラン (旧第5話と断章1をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 22:55)
[4] 第三話 ロバート・コクランの俘虜日記 (旧第6話~第11話+断章2をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 23:29)
[5] 第四話 ロバート・コクランの出仕  (旧第12話~第16話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:47)
[6] 第五話 ロバート・コクランと流通改革 (旧第17話~第19話+断章3を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/25 01:53)
[7] 第六話 新領総督ロバート・コクラン (旧第20話~第24話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:14)
[8] 断章4 ゲルマニア改革案 廃棄済み提言第一号「国教会」[カルロ・ゼン](2009/12/30 15:29)
[9] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/25 23:08)
[10] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/27 23:55)
[11] 歴史事象1 第一次トリステイン膺懲戦[カルロ・ゼン](2010/01/08 16:30)
[12] 第九話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記1 (旧第36話~第39話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 00:18)
[13] 第十話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記2 (旧第40話~第43話+断章7を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 23:24)
[14] 第十一話 参事ロバート・コクラン (旧第44話~第49話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/09/17 21:15)
[15] 断章8 とある貴族の優雅な生活及びそれに付随する諸問題[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:30)
[16] 第五十話 参事ロバート・コクラン 謀略戦1[カルロ・ゼン](2010/03/28 19:58)
[17] 第五十一話 参事ロバート・コクラン 謀略戦2[カルロ・ゼン](2010/03/30 17:19)
[18] 第五十二話 参事ロバート・コクラン 謀略戦3[カルロ・ゼン](2010/04/02 14:34)
[19] 第五十三話 参事ロバート・コクラン 謀略戦4[カルロ・ゼン](2010/07/29 00:45)
[20] 第五十四話 参事ロバート・コクラン 謀略戦5[カルロ・ゼン](2010/07/29 13:00)
[21] 第五十五話 参事ロバート・コクラン 謀略戦6[カルロ・ゼン](2010/08/02 18:17)
[22] 第五十六話 参事ロバート・コクラン 謀略戦7[カルロ・ゼン](2010/08/03 18:40)
[23] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝 [カルロ・ゼン](2010/08/04 03:10)
[24] 第五十七話 会議は踊る、されど進まず1[カルロ・ゼン](2010/08/17 05:56)
[25] 第五十八話 会議は踊る、されど進まず2[カルロ・ゼン](2010/08/19 03:05)
[70] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3[カルロ・ゼン](2010/08/19 12:59)
[71] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝2(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/08/28 00:18)
[72] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝3(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/09/01 23:42)
[73] 第六十話 会議は踊る、されど進まず4[カルロ・ゼン](2010/09/04 12:52)
[74] 第六十一話 会議は踊る、されど進まず5[カルロ・ゼン](2010/09/08 00:06)
[75] 第六十二話 会議は踊る、されど進まず6[カルロ・ゼン](2010/09/13 07:03)
[76] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7[カルロ・ゼン](2010/09/14 16:19)
[77] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8[カルロ・ゼン](2010/09/18 03:13)
[78] 第六十五話 会議は踊る、されど進まず9[カルロ・ゼン](2010/09/23 06:43)
[79] 第六十六話 平和と友情への道のり 1[カルロ・ゼン](2010/10/02 07:17)
[80] 第六十七話 平和と友情への道のり 2[カルロ・ゼン](2010/10/03 21:09)
[81] 第六十八話 平和と友情への道のり 3[カルロ・ゼン](2010/10/14 01:29)
[82] 第六十九話 平和と友情への道のり 4[カルロ・ゼン](2010/10/17 23:50)
[83] 第七十話 平和と友情への道のり 5[カルロ・ゼン](2010/11/03 04:02)
[84] 第七十一話 平和と友情への道のり 6[カルロ・ゼン](2010/11/08 02:46)
[85] 第七十二話 平和と友情への道のり 7[カルロ・ゼン](2010/11/14 15:46)
[86] 第七十三話 平和と友情への道のり 8[カルロ・ゼン](2010/11/18 19:45)
[87] 第七十四話 美しき平和 1[カルロ・ゼン](2010/12/16 05:58)
[88] 第七十五話 美しき平和 2[カルロ・ゼン](2011/01/14 22:53)
[89] 第七十六話 美しき平和 3[カルロ・ゼン](2011/01/22 03:25)
[90] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝4(美しき平和 異聞)[カルロ・ゼン](2011/01/29 05:07)
[91] 第七十七話 美しき平和 4[カルロ・ゼン](2011/02/24 21:03)
[92] 第七十八話 美しき平和 5[カルロ・ゼン](2011/03/06 18:45)
[93] 第七十九話 美しき平和 6[カルロ・ゼン](2011/03/16 02:31)
[94] 外伝 とある幕開け前の時代1[カルロ・ゼン](2011/03/24 12:49)
[95] 第八十話 彼女たちの始まり[カルロ・ゼン](2011/04/06 01:43)
[96] 第八十一話 彼女たちの始まり2[カルロ・ゼン](2011/04/11 23:04)
[97] 第八十二話 彼女たちの始まり3[カルロ・ゼン](2011/04/17 23:55)
[98] 第八十三話 彼女たちの始まり4[カルロ・ゼン](2011/04/28 23:45)
[99] 第八十四話 彼女たちの始まり5[カルロ・ゼン](2011/05/08 07:23)
[100] 第八十五話 彼女たちの始まり6[カルロ・ゼン](2011/05/14 20:34)
[101] 第八十六話 彼女たちの始まり7[カルロ・ゼン](2011/05/27 20:39)
[102] 第八十七話 彼女たちの始まり8[カルロ・ゼン](2011/06/03 21:59)
[103] 断章9 レコンキスタ運動時代の考察-ヴァルネーグノートより。[カルロ・ゼン](2011/06/04 01:53)
[104] 第八十八話 宣戦布告なき大戦1[カルロ・ゼン](2011/06/19 12:17)
[105] 第八十九話 宣戦布告なき大戦2[カルロ・ゼン](2011/07/02 23:53)
[106] 第九〇話 宣戦布告なき大戦3[カルロ・ゼン](2011/07/06 20:24)
[107] 第九一話 宣戦布告なき大戦4[カルロ・ゼン](2011/10/17 23:41)
[108] 第九二話 宣戦布告なき大戦5[カルロ・ゼン](2011/11/21 00:18)
[109] 第九三話 宣戦布告なき大戦6[カルロ・ゼン](2013/10/14 17:15)
[110] 第九四話 宣戦布告なき大戦7[カルロ・ゼン](2013/10/17 01:32)
[111] 第九十五話 言葉のチカラ1[カルロ・ゼン](2013/12/12 07:14)
[112] 第九十六話 言葉のチカラ2[カルロ・ゼン](2013/12/17 22:00)
[113] おしらせ[カルロ・ゼン](2013/10/14 13:21)
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[15007] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/19 12:59
{ロバート視点}

船上で爆発に巻き込まれた後の記憶は、見覚えのあるヴィンドボナ宮廷の一角で横臥しているところからだ。武装解除しようとし、抵抗されただけだが、降伏を潔しとせずに徹底して抗戦するとは。事前の分析と全く異なる。貴族子弟らが、あれほど戦意旺盛ということならば戦後の抵抗も激甚を極めかねない。民衆と貴族の分離は容易だろうが、それにしてもメイジの戦術的な脅威はやはり侮れないものがある。そう考えていると、見舞いがてら、ハルデンベルグ侯爵が訪れてきた。従兵によれば、ある程度の頻度で様子をうかがいに来ていたらしい。すでにある程度の情勢は耳にしているが、最新のそれが聞けるのは、やはりありがたい。

「コクラン卿、今回はしてやられたな。」

私が負傷退場している間の軍務は、ハルデンベルグ侯爵が担われていた。軍の代表として、前線全般の統括を行う地位にあられたのだから、分遣部隊指揮官が負傷退場した際の代理は義務ではあっても、その厚意には感謝せざるを得ない。唐突な指揮系統の切り替えに伴う諸混乱もあったのだろうが、恨み事一つはかないのは尊敬に値する。

「ハルデンベルグ侯爵には、ご迷惑をおかけしました。申し訳ない。」

「よい。戦場の習いだ。しかし、卿も油断したのか?」

「左様ですな。トリステインの女性は慎み深いと、自称しているようですが、どうしてなかなかゲルマニア並みに情熱的な炎をお持ちだ。」

しかし、実際にあの爆炎はきつかった。痛みを感じる前に、意識が飛んでからこそ、直後は痛みがなかった。しかし、水の秘薬を大量に使用する治療を受けた今ですら、微妙に腕から先にかけて痺れが残り、全身が軋むように痛みを訴えている。常にユーモアを。とりわけ、海軍士官でユーモアもないような人間は、戦場で自己を落ち着かせることもできないのだから。

「はっはっは。おおかた、ツェルプストー辺境伯に対抗したのだろう。」

「ああ、なるほど。そう言えば、そういう御家柄でしたな。」

まあ、冗談の種にはなるという程度のことであるが、あの小公女のご一家は、辺境伯の一家と並々ならぬ関係にあるらしい。なんでも、恋人をたびたび奪われ、思い人をかっさらわれたということがあったということだ。そういうわけで、あの小公女のご一家は、辺境伯に対抗して情熱の炎を高らかに燃やしているのだろうと。そう笑うしかないのが、今の自分の状態だ。

「それで、肝心のご用件は?」

「卿は北部の防衛に自信があるか?」

笑いをひっこめたハルデンベルグ侯爵は、唐突に軍務に関する話題を切り出してくる。北部、つまりこの場においては私の管轄下にあることにされている北部新領一帯はこれといった脅威は亜人程度だが。無論、一定数の戦力は残してある。メイジはアルビオンからの亡命組を組み込む形で増強されているし、歩兵隊にしても練度向上に余念がない。

「亜人の南下程度でありましたら、即座に対応可能です。さすがに、エルフでも来れば別でしょうが。」

幸いかな、あるいは不幸かな。エルフは砂漠越しに探しに行かねば纏まっては存在していないのだ。故に、私の防衛義務は実に容易なものとなっているが、それだけに知識欲は満たされない。

「うむ、その北部だが、トリステインの遊撃部隊に荒らされている。」

「トリステインの!?」

はっきりと言って、戦線のはるか後方。そこに、トリステインの遊撃部隊?何より理解に苦しむのは、荒らされているということだ。少ない戦力でならば、あるいは前線を突破して後方に浸透することも、可能やもしれない。或いは、海路もしくは空路を使用することで、警戒線を突破も可能だ。しかし、その程度の戦力ならば、守備に当たっている残存部隊で容易に対処可能なはずなのだ。

「まさか、アルビオンの支援が?」

可能性として考えられるのは、亡命先のアルビオンからなにがしかの支援を受けていること。しかし、これほど露骨に肩入れしてくるとも思えないのだが・・・。

「情勢はどの程度理解しているのかね?」

「アルビオンが仲介。大陸領有には意欲的。なれどもこちらとの友好関係を損なうことまでは望んでいないと。」

そこに大公国とトリステイン亡命王族とその一派、通称王党派が口を突っ込み、ロマリアがそれを外から眺めているというところが、現在のトリステイン戦後処理問題の構図だ。戦場では、依然として戦闘が継続しているものの、それらは基本的にはトリステイン軍主力の包囲せん滅と、戦後処理での発言権確保の一環としての攻勢である。

「そのはずなのだが。しかし、少数精鋭のトリステイン部隊が北部を荒らしているのも事実なのだ。」

「私の留守部隊はそれほど、無能ではないはずなのでありますが。」

練度は最高とまでは言い難いにしても、編成直後の部隊としては高い士気と練度を誇っている。メイジは寄せ集めに近い形となってはいるが、それにしても一定数を確保していることもあり、相応の戦力として見なせるはずだ。その防備を掻い潜って荒らすとなれば、相当の戦力のはずだが。

「まあ、良くはやっているのだろう。」

「と、申しますと?」

「相手は魔法衛士隊の一隊だ。さすがに、辺境防衛の部隊だけでは、荷が重いだろう。」

「魔法衛士隊!それは、相手にとって不足はありませんな。」

しかし、トリステインにそれほど残存の余剰戦力はあるのだろうか?投入して規模いかんによっては、こちらの前線を押し返しうるだけの技能をもつ部隊をそこに投入し得るだけの余剰戦力が捻出できるとは考えにくいのだが。可能性としては、前線に埋め合わせとして傭兵等を急募し、それによって余剰戦力を捻出することはありえる。しかし、現実にそれほどの戦力をもつ傭兵となると容易に雇用できるとも思えない。

「アルビオンに、つまり卿が取り逃がした王族の護衛についていたらしき部隊だ。」

「晴れがましくもお会いできるとは。」

「トリスタニア派遣艦隊の龍騎士が、かなり手酷く叩かれている。練度はあの不抜けた国の軍とは思えないほど高い。」

なんともはや。国家という規模でみれば、碌でもない国家であるにもかかわらず、崩壊間際になって、国家という束縛から解放された瞬間に、活力ある抵抗を行ってくるとは。この様子では、戦後の統治如何では、さらに赤字を垂れ流すことになりかねない。ある意味で、それを示唆するための抵抗であるようにも思えて仕方がないが。

「つまり、私は療養を兼ねて帰還し、講和会議の足を引っ張るような抵抗を排除せよということでしょうか?」

「しかり。アルビオンからの特使もこちらに向かいつつある。講和会議をどこで開催するかの下準備だが、あまり時間がないと思ってほしい。」

講和会議をどこでおこなうか。それすらも、交渉においては重要な意味づけを持ってくる。このことを考えるならば、交渉はある程度の時間を必要とすることになるだろう。だが、逆に言えばある程度の時間しか捻出できないともいう。速やかに帰還し、できるだけ早めに敵戦力の排除を行うべきだ。

「了解です。すぐに行動に取り掛かりましょう。」

「よろしく頼む。」

まだ仕事があるのだろう。侯爵はそれを機にすぐに立ち去ってゆく。仕事が多いのはどこも同じらしい。それにしても頭が痛い。現在の北部は、政治的にある種の火薬庫なのだ。アルビオンからの亡命貴族達に、各種利権をめぐって暗闘が各勢力の中でひそかに繰り広げられようとしている。無論、あくまでも北部ゲルマニア新領という枠組みにおいてであるが。しかし、だからこそそのような枠組みを揺るがすような脅威は、排除しなくてはならない。そのことを視野に入れあえて、それなりの戦力を北部に残していたのだが。

「戦闘規範が異なることを視野に入れておくべきなのだろうな。」

少数の後方錯乱は、危険性が高い。さらに付け加えれば、敵後方地域で警戒厳重な拠点を錯乱するのは、支援があっても不可能に等しい。兵站一つとっても補給が容易ではなく、戦力としてもせいぜい重火器は軽機関銃が限界だ。さすがに、潜水艦のように通商破壊作戦を行うならば、かなり深入りも可能だろうが、それにしても限界があるはず。まして、陸戦ならば、戦力としては脆弱すぎる。そう判断したつもりだった。陸戦については専門ではないとはいえ、ある程度は判断に自信があったが、魔法についての理解が不十分であったらしい。メイジならば、少数でも戦術的な脅威足りえる。そして、状況によっては、戦略にすら悪影響を及ぼす可能性があるということだ。投入方法にもよるが、大局に影響を与えないとはいえ、揺さぶることはできるという潜在的脅威だけで十分すぎる。



{ミミ視点}

「だめです。突破されました!」

これで何度目になるかわからない部下の報告に思わず、苦虫を噛み潰した表情を浮かべてしまう。ごく少数の、そうそれこそ分隊か、小隊規模の部隊に良いように錯乱されているのだ。

「索敵急げ!」

指示を出しつつも、この損害に思いをはせると頭が重くなる。少数の敵戦力出現と聞いた時、鬱憤を纏めてぶつけられるかと思いきや、この様。思わず自分自身を嘲笑したくなるほどだ。貴女はそれほど無能なのかと、自分自身に問いかけたいほどだ。

「損害報告。」

「やられました。南東区画の風石集積場は全壊。船着き場の損害は軽いものの、これでは運行に支障が。」

トリスタニアの残存部隊?どこに隠していたのかと問いかけたいほどの精鋭よ!思わず、叫びたくなる衝動に耐えつつ彼女は、自分の思考を冷却するように努める。敵の遊撃部隊はすでに散々こちらの重要な施設を破壊しているものの、決してそこに留まろうとはしない。おかげで、こちらは兵の大半を遊兵とさせてしまっている上に、捕捉してもすぐに包囲を突破されてしまう。メイジの質がほとんど信じられない水準だ。包囲し、せん滅するという基本的な作戦が有効に機能しない。

「北西区画のものを切り崩して運用。何とか、調達し確保を。」

ムーダの船団は、大量の運送により物流と人的移動を容易にする。だが、それは根幹となる船団が移動できることによって成り立っている。そう。船団なのだ。確かに、リスクは激減する。船団を組み、護衛がつくことによって安全性は確実なものとなる。だが、そのためにはそれ相応の風石を必要とするのだ。このままでは、北部での物流に深刻な影響が出かねない。このまま風石の備蓄場を痛打されると、フネが飛べなくなるのだ。

「すでに、調達額が高騰しております!すぐには困難です!」

「国外向けの切り崩しは、認められておりません!」

忌々しいことに。そう、誠に遺憾ながら南東区画の備蓄分はゲルマニア国内航路用の風石であり、北西区画のそれはアルビオン航路の物なのだ。戦時中であり、対外的に弱みを見せられない。とはいえ、この状況はいかんともしがたいものがある。このままでは、北部開発の遅延は深刻な段階までに悪化する上に、費用が高騰し、おまけで書類が信じられないような水準にまで増大し、官吏はすでに超過労働も良いところだ。人手がいくらあっても足りない状況で、討伐任務などこれでは、何から手をつけていいのかすら分からなくなる。

「ミス・カラム、複数の商会から面会の申し入れが。」

「思ったよりも速いわね。仕方ないわ。一段落ついたら予定に入れて。」

実に面倒というほかないが、商会からの苦情申し入れにも対応しなくてはいけない。なにしろ、私はこの地における最高位の現地責任者なのだ。遺憾ながら。コクラン卿が帰還されるまでの辛抱と自分を宥めるが、実際にこの面会の処理をしなくてはいけないのは自分なのだ。ロマリアから上司が引っ張ってきた、ロマリアからの干渉を極力排除してくれる善良な司祭さまという奇跡に習って、自分も面倒事を処理してくれる代理人を見つけるべきかもしれない。いや、そうすべきなのだろう。

「とにかく、捜索線の再構築と捕捉を急ぐこと。」

突破されねば、戦力差で圧倒できる自信がある。だが、そこまで包囲するのが困難なのだ。全力で追いかけて、ようやく捕捉したかと一度は思ったものの、それが遍在であったというのが現在の最大の成果なのだ。本隊を完全に捕捉するに至ってはいない。敵はかなり有力なメイジであるというほかないが、だからと言ってこれほどまでにかき乱されてよいものではない。重要なのは、私たちが後手に回っているということと、それによって無様な姿をアルビオン・ゲルマニアの商会が噂として運んで行くということだ。そう、後手に回るのを何とかすればよい、それができていないのだ。

「再度、おとり作戦でも考えるべきかしら。」

「上手くかかると思われますか?」

「厳しいと思うわ。」

すでに何度か実行はしているが、成果が出ていない。出ていれば、これほどまでに討伐作戦に追い回されてはいないのだから。状況は、依然として相手に主導権を握られたままである。囮にした物資も、そこから自然に出てくるわけではないので、成果に見合った結果とは言い難いのが実態である。主導権の奪還。それができなければ、このまま翻弄されてしまう。それこそが、課題なのだ。コクラン卿が帰還されるまで、手をこまねいているという印象は、面子以前に、対外的にもよろしくない。ゲルマニア北部の防衛能力に疑問符が、露骨に付けられるのは避けなければならないのだ。

「とにかく、戦力を出せるだけ出すしかないわ。予備としていた歩兵隊に、アルビオン亡命貴族達も出せる?」

練度、規律、さまざまな課題があるとはいえ、メイジは戦力としてはずば抜けている。アルビオンからの亡命貴族達の中でもましなものを選んで運用すれば、ある程度の戦力足り得るに違いないだろう。運用を考えると、実に頭が痛い限りだが。



{クルデンホルフ大公国視点}

良い顧客とは、ひたすら利息を支払ってくれる顧客のことを意味している。逆に言うならば、どれだけ借りてくれようとも、貸し倒れになるようなお客はお断りということである。普通、傾きすぎた国家に融資をすることは、善意ではありえない。そこにはたいていなにがしかの理由があるが、大公国の場合は外交上の独立を維持するためであった。

「貸し倒れは確実でしょうな。」

会議に参列する人物達は実に不愉快と言わんばかりの表情を浮かべつつも、冷静に事態を捉えている。少なくとも、金を貸す人間というものは情と理性をどこかで分離しなければ、失敗しかねないのだ。情を完全に排除しても、なお躓くこともある世界で、甘いことは言ってはいられない。

「ゲルマニアにつくか?」

「今さら遅きに過ぎよう。我々の金は微々たる額しか戻ってこんよ。」

「では、今更トリステインに味方して立ち上がるかね?それこそ論外だ。」

選択肢は概ね3つである。ゲルマニアにつくか、トリステインにつくか、アルビオンと協力しての中立かだ。だが、トリステインに付くのは自殺行為だ。なるほど、確かに大公国の戦力はそろっている。だが、得る物がない戦争に積極的に参加し、物量が圧倒的なゲルマニア相手に摩耗するならば、国家としての独自性は危ういだろうし、自殺行為に等しい。かといって、ゲルマニアについても得られるところは乏しい。政治的自立性を支えるためには、一定以上の経済的な基盤が必要になる。だが、それは利権だ。それは容易には譲渡されないことは間違いない。

「かといって、中立ではむざむざと金が捨てられるのを見過ごすのみですぞ。」

アルビオンと合同でゲルマニアを牽制すれば交渉力は付く。それは間違いないが、それにしても得られるものは微々たるものに留まるだろう。なにしろ、分配するパイは小さく、ゲルマニアはたくさん食べなくては飢えてしまうのだから。そして、我々はパイに多くの投資をしているのだ。食べなければ飢えるのはこちらも同じようなものだ。すぐに、飢え死にする心配こそなくても、将来は楽しくないことになるとわかっていれば状況は別だ。

「諸君、実はトリスタニアの大使より第四の道が提示された。」

「ほう、第四の道とは?」

「ゲルマニアとアルビオンに恩を売る方向だ。詳細は伏せるが、有望な方策である。」

有望な方策?参加者の顔に想像もできないというような色が、軒並み浮かぶ。この情勢下でアルビオンとゲルマニアに恩を売る方策がないわけではないだろう。それこそ、我々が、握っているトリステインの利権を放棄すると宣言するだけでも感謝はされるに違いない。だが、はたして恩を売りつつこちらに利益がある方策など有るのだろうか?

「なに、戦後交渉のことを見据えての方策だ。私も同意する良い策だ。」

「秘密にされるには理由があるのでしょうな。」

「肯定する。実に、興味深い事象である。ことが上手く行けば、諸君にも披露するだろう。」

そう言われると、もはやここで論ずべき事象は別のものとなる。なにしろ、秘密とされる方策だ。ここでこのように明言されている以上、方策を予想して賭けを行うくらいしかやることが一般にはないのだ。まあ、大公国の処理すべき案件は多いのでそれは私的な場でワインを嗜みながらなされるべきだろう。

「では、関連して次の案件を処理しよう。ゲルマニア北部の開発に参入すべきか?」

「すべきでしょう。将来性が高い。」

「賛成します。ですが、ヴィンドボナの商会らとは協調すべきです。」

北部の開発は魅力的だ。未開発の鉱山や、木材。さらに山岳地帯の開発。大きな見返りが予想できる。だが、一方でそれだけ大きな泉には多くの利権を見込んで現地の商会が介入している。そこに、割り込むようなことは外国勢としては得策でない場合も多々ある。協調できるならば、それによって無用な対立を避けられる。

「だが、それは無理とまではいかずとも、困難極まりない。」

「介入への反発は相当なものがある。」

すでに、少数のアルビオン系の商会が進出しているが、かなりの妨害を受けているという。目に見える形での実力行使は受けていないが、いくつかのゲルマニア系商会は団結して対抗する意思を示し始めている。そこに、大規模な割り込みを平和裏に行うのはかなり難しいといわざるを得ない。なにしろ、大規模な北方開発は、莫大な利権が見込める。ゲルマニアの選帝侯らも乗り遅れないよう、密かに開発に参入するか、開拓に乗り出しているという北部はかなり活性化しているのだ。

「見過ごしては、地盤沈下につながります。」

「しかし、その分はロマリア市場へのてこ入れで代替可能では?」

「ガリア市場も依然として有望ではありますが。」

金の集まる、ロマリア。最大の大国であるガリア。どちらも市場としては有望で大きいが、すでに成熟してしまっているという欠点がある。急激な成長が見込めないのだ。だが、一方で、依然として新規開拓の余地があり、安定しているため収益源としては一つの形として期待できるというのも事実ではある。どちらにしても、現在においてはかなり有望な市場であり、なおかつゲルマニア北部が急激成長しているとはいえ、これらには及ばないのだ。

「だが、ムーダ絡みの利権に手をつけたい。あれは、大きいぞ。」

「国営で運送業を始めるとは盲点であった。確かに、あれは将来の交易に影響する。」

ゲルマニア北部はムーダと連中が称している大規模船団の拠点の一つであり、アルビオンとの交易拠点でもある。国内の拠点網としては、ヴィンドボナに次ぐ規模を誇り、なおかつ対外交易拠点としての発展しつつあるのだ。金融業が盛んといえども、大公国も交易には力を注いでいるのは間違いない。なにしろ、交易によって大規模な利益を上げて、それを原資に金融を行うのだから。

「では、北部に干渉すると?」

「するほかにない。さすがに、ムーダに対抗する規模の船団をそろえるのは手間だ。」

「他に反論は?では、程度の打ち合わせは必要にしても介入する方向で動くことにしよう。」

その彼らからして、ムーダというのは魅力的な交易手段なのだ。大規模船団は、これまでにない安全な輸送を可能とする。当然、商品の積み荷にかける保険一つとっても随分と楽になる。それらの意味において、交易国としてはなにがしかの行動を起こさなくては大公国の独自性はすぐに消失してしまうのだ。

大公国。

それは、独立性を認められているということであるが、その基盤は経済力だ。人口にしても、軍事力にしても、諸候としてはずば抜けている。軍事力は、人口や領地に比較すれば強大な方だろう。だが、それでもガリアやゲルマニアといった強国からすればすりつぶし得る範疇だ。大きな、損害を与えることはできる。だが、勝利は望めないだろう。そして、その力を維持する経済力なくしては、即座にどこかに併合されてしまうのだ。

「力なきものは、喰われる世界だ。」

誰ともなしに呟かれたその言葉が、大公国の置かれたハルケギニアという世界の現実を物語っている。法は、強制的にそれを執行する機関があって初めて有効なのだ。世界にいては、国力と実力のみが雄弁にものを主張し、自らの欲するところを追求し得る。大公国とてその中で生き延びてきたプレイヤーなのだ。ゲームのルールは、嫌というほどに熟知している。


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あとがき

ワルド無双?そういう方向でやろうとおもっております。
りっしゅもんがうるのはなんだろう。
と、ご期待ください。
彼は、生き残ることにかけては天才だと思います。(うっかり、アニエスにでも会わなければ。)

でも、一週間から二週間にかけて更新が滞るかもしれません(-_-;)


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