ブリミル教の教義についてロバートが理解していることは、『ある種の宗教的な権威』という事実のみだ。というか、ロバートにとってそれ以上のことは理解できなかった。なにしろブリミル教徒の経典ひとつとってもまともに統合されていないのだ。始祖の祈祷書なる偉業と教えを記したとされる書物は、一応のところ存在する。存在するのだが…ロバートの見るところ微妙な差異が多すぎるために教義としては酷くあいまいだと認識せざるをえないほどだ。おかげでこっけいな内容を堂々と本物だと強弁する輩もあとを絶たないらしい。だから、というべきだろうか。トリステイン王室が古いだけで内容は白紙であると広く伝えられる秘蔵の『始祖の祈祷書』を有していると耳にしたときは思わず笑ってしまったものだった。おおかた、昔のトリステイン王室にはウィットにとんだ皮肉屋が居たのだろう。白紙の祈祷書よりも新しい祈祷書など、どう考えても偽書も良いところだ。始祖の祈祷書など存在しないというある意味この上ない痛烈な皮肉に違いない。つまるところ、『本物など存在しない』という警句でも昔はついていたのだろうとロバートとしては興味深く考えている。ともかく、そんな経緯があるだけに系統的な教義と言う点では最大公約数的な要素が強く割合に教義の中では柔軟性があるとロバートは認識した。そして、政治的人間としてのロバートは敬虔なブリミル教徒のフリをする程度のことは造作もない。だから比較的、ロマリアとの関係も悪くはないし…狂った連中に聖戦モドキを仕掛けられても公的にはなんら差しさわりなし。ならば、そのロマリア経由で善良なブリミル教徒の受難を救ってもらうべきだろうとロバートは決断する。よきブリミル教徒として、信仰を同じくする同胞が直面した試練が忍びなくと強弁すればゲルマニアの顔もある程度は立てられる。「さて、公爵閣下。閣下のご厚意であまりにも我が家のごとく感じてしまい気がつけばこのように長く過ごしてしまいました」「なんの。遠路より来る客人をもてなすは我が家の伝統ですぞ。気になされますな」ラムド伯経由でもたらされたヴィンドボナからの権限によれば、ロバートは総督として『全権』を委託されている。実際のところ、白紙委任という形に近く現場で最善と思われる裁量を取れうる措置らしい。とはいえ、さすがに幾つか譲れない基本的なラインは事前にヴィンドボナで念押しされている。…占領地の放棄は、名目上は認められず、最大限譲歩しても『ゲルマニアの宗主権と領有権を認める』自治政策。ロバートにしてみれば、なんのことはない。祖国の藩王国制度。ある意味では使い古されたそのシステムを、トリステインに導入してインド大反乱のような政治的カオスを断固として粉砕せよということだ。だが、インド大反乱の鎮圧には大英帝国の宝冠を死守すると言う国益の必然性がそれを欲したという事情がある。旧トリステイン王国領土の鎮圧に、費用は一切掛けられないという条件の違いがロバートをいまだに悩ませるのだ。当初の予定では、軍事的に速戦で早期終結を図りその後に藩王国制度モドキの分割統治を予定していた。が、気がつけばインド大反乱ならぬオーク大反乱に宗教狂いが加わった状態での移行という悪夢だ。ゆっくりと紅茶をロバートが飲み干している間にも、最前線ではオーク鬼とゲルマニア諸軍が消耗戦を繰り広げている。ツェルプストー辺境伯のご令嬢が杖を振るいながら前線を見に来いと後ろで会議をしている連中にお誘いの手紙を出すわけだ。…いや、ミス・カラムもそうだしゲルマニアの女性が概して強烈な個性を発揮するだけからかもしれないが。とまれ、ロバートは穏やかな冬の景色を遠望しつつヴィンドボナから与えられた権限と条件を再度脳裏で確認する。宗教を名目としての救済。ある種の奇策だが…与えられた権限の範囲内で、かつ、最低限度の条件は満たしうるだろう。「いえ、私も帝政ゲルマニアより公職を預かる身です。時には、公務を優先せざるを得ません」「貴族たるものの義務を果たされるのですな」「しかり。ですが、これは義務であると同時によきブリミル教徒としての同胞への愛でもあります」宗教というのは、かき乱すには最高の要素だ。バルフォア卿、サイクス卿、マクマホン卿の英知に習うは今。三協定の英知に学ぶのだ。ゲルマニア支配という現実。ブリミル教徒の救済という名目。トリステイン『藩王国』という負担軽減策。この三つを、同時に成し遂げるのは決して不可能ではない。「なるほど、いや、ご立派な志ですな」「ええ、博愛の観点から"オーク鬼"の災厄によって家を追われた"ブリミル教徒"の救済についてヴァリエール公爵閣下とご相談できればと」ブリミル教徒の救済は、その理念からしてトリステイン・アルビオン・ガリアの各王室から一番批判されえないカードだ。唯一の難題であるロマリアの介入も、こちらがある程度先制する事で事態は制御できる。なにしろ、目下未開拓地に大量の聖職ポストを生み出していえるゲルマニアは彼らにとっての牝牛なのだ。自分のものにしようと考える人間は居ても、賢明な人間は『牝牛』を絞め殺して利益を失いたくないと考えることだろう。「失礼ながら、私は自領より外には干渉し得ない立場ですぞ?トリスタニアでの救済をお考えであれば…それこそ、ロマリア宗教庁とも」「その通りです。ですが、恥ずかしいのですが私はこの地で活動されていた高名なロマリアの聖職者を存じ上げていないのです」帝政ゲルマニアが公式にロマリア宗教庁へ救済を依頼すれば、それはゲルマニア当局に事態を制御する能力がないという批判を招く。その点、総督であるロバートが現地での施策の一環として救済活動を『自発的に申し出てくれた』ロマリア聖職者と共同で行えば問題は回避可能。なにより重要なのは、ロマリア宗教庁を経由せずに現地の聖職者を活用すると言う点だ。形式的なものに過ぎないがゲルマニアという国家主導ではなくロバート・コクランという現地の総督と、現地のロマリアに縁ある聖職者の慈善事業という形式が取りえる。そして、この点において名目上とはいえ仲介する役割をヴァリエール家が引き受けるかどうかが決定的な点だ。ゲルマニアの当局者である総督。その総督の諮問に応じるという意味は、小さな一言であろうとも旗幟を示すには十分すぎる。一方で、名目上は『ブリミル教徒』同士の救済に関する相談だ。歩み寄る第一歩としては、おそらくこれ以上に探しようのない完璧な名目だろう。「…つまり、コクラン卿はどなたか心当たりがある方をご紹介いただきたい、ということですかな?」「この地では新参ですので、できましたらばヴァリエール公爵家のご縁をお借りできればと思いまして」「ううむ、難しいですな。こう申し上げることをご理解いただきたいのですが」『難しい?』何故、ここで…迷いがでてくるのだろうか?それは、最も予想しなかった公爵の一言だった。有能な貴族の思考というのは本来『家』を生き延びさせるという一点を決して疎かにしないもの。だからこそ、最もヴァリエール家が存続の手段を欠かない様に配慮したつもりだった。名目上は、宗教の道徳。内実は、どちらにもある程度顔が立つように配慮。そして実務に際してはこれまでのトリステインで実績を残しているマザリーニ枢機卿を想定。ロマリアに事実上隠棲している枢機卿だが、呆けたという話は耳にしていない。というか、日々ロマリアの新ゲルマニア派に監視させているとヴィンドボナでは耳にしている。彼に何か変事が起きていればラムド伯から急報が入るはずだが、数日前の定時連絡では何も告げられていない。なにより老練なアルブレヒト3世が、そのような重大情報を見過ごすとも思えないが…何か新事態が起きたのだろうか?だがそこまで考えてロバートはその線は少ないな、と否定する。仮に、そうであるならば迷いではなく穏当なお悔やみの言葉でも目の前の公爵は吐くだろう。それは、情報の手が長いことを示す上で格好の機会だ。つまり問題はマザリーニ枢機卿ではなくヴァリエール家内部の都合。…まさか、マザリーニ枢機卿を吹き飛ばした例の末娘の件で枢機卿と手打ちできていない…ということだろうか?そこまで想定したとき、ロバートは咄嗟に圧力をかけること決断していた。「ああ、もちろん公爵閣下のご心配は理解しておるつもりであります。ですが、どうかご理解いただきたいのです」この家は、何かがあるのだろうか?確かに…後継者の問題を抱えてはいるがそれはゲルマニアにとって介入の余地があるだけだ。貴族の家が、実子に適切な後継者がないというだけでこれほど躊躇するとも思えない。「餓えた人々に糧を与えうる善き導き手を欠いては、恐るべき悲劇を我々は目撃することになりかねないのですから」「いや、お言葉ごもっとも。よろしい、私の旧知のマザリーニ枢機卿をご紹介いたしましょう」自分の懇願とも脅迫とも取れる一言を引き出したかったのだろうか?だが、何かが不自然だ。この家は、何か、変な要素がある。…いや、そう。これが、外交交渉というならば実務者協議だろう。だが、客人の歓迎と言うことならば本来『家』でやるべきものだ。社交と考えれば、家族という枠組みがでないのは違和感があった。アカデミーで公職を有し、なおかつ婚約者がアルビオンに亡命したが故に謹慎しているであろう長女が出てこないのは分かる。臥せているという次女を引き出すつもりは、誰にない。トリステイン王室に着き従って出奔した末娘は出てくるはずもないだろう。…何故、ご夫妻でお出ましではないのか?確かに、社交に熱心な一族とは耳にしないが…健康状態を害しているともまた耳にしないのだ。「お申し出に感謝を。ながらく、お時間を頂戴してしまって申し訳ありません」苦労して、ゲルマニア宮廷でも恥をかかない程度に現地化させた礼法どおりに一礼。典雅な儀礼というのは、誰でもなれるまで酷く億劫なものだ。だが、だからこそ学べば学ぶほど一つ一つの動作に意味を持たせることもまた可能である。深々と、それこそ通例よりも少し深くロバートが下げた頭。その一礼に込める意味は、深い敬意の表明としての儀礼以上の歩み寄る意志の示唆。迂遠なようで、そこにあるのは今後とも誼を通じていこうと言明するも同然のメッセージだ。「いやいや、よいご縁でした。敬虔なブリミル教徒への手向けを惜しむほど無粋ではありませぬからな。一筆認めておきましょう」そして、表面上の仲介を快諾してみせるヴァリエール公爵も朗らかに笑うことで暗黙裡の同意を示してみせる。爵位上の上級者として返礼するのではなく、善きブリミル教徒としての返礼と言う形で差し出すのは手だ。その手を硬く握り締める両者は、少なくとも政治的には上手くやっていけるだろうというある程度の実感。少なくとも、お互いに話ができる相手だと見極めることができたという意思表明。「感謝を。…では、お暇する前に皆様にご挨拶を。長らく、家の主をお借りしてしまったご婦人方にはお詫び申し上げねば」だからこそ、少しばかり関係を公的な義務ではなく親密な個人としてのそれという形でロバートは一歩だけ踏み込んでみる。ご夫妻に対する訪問客として払うべき敬意の申し出。それは、ごくごく社交には当然払うべきと見なされる家への敬意としての表敬だ。「ああ、折角のご丁寧な申し出ですが…妻は少々臥せっておりまして。いや、まことに、本当に申し訳ない」「なんと、いや、失礼いたしました。確かに、ミス・カトレアもご病気がちとか。存じぬこととはいえ、ご無礼をご容赦ください」謝絶の裏にあるのは、うかがい知れない感情。強いて表現するならばなんだろうか?困惑?安堵?畏怖?わけが分からない感情が込められた一言に、さすがにロバートは一瞬だけ言葉を紡ぎ損ねかねる。咄嗟に、ご心労も積もり積もっておられるのでしょうと慰める風を装うもののロバートにしては珍しく困っていた。「ご存じなかったのは無理もないこと。つい、数日前でして」「では、またいずれ快癒いたされた折にはご挨拶とお詫びに参らねばなりませんな」「ああ、では、ぜひ折々の機会にでも」ロバートは、ただ知らないのだ。恐妻家のヴァリエール公爵が、なんとか妻を宥めているということを。彼は、ただ、知らないのだ。カリーヌ夫人が、末娘の件でぐちぐち周囲から言われることで爆発寸前だということを。そして、爆発の被害がいつも彼女の夫に向かっているという事実を。だからこそ、ゲルマニアの使節にどのような暴威が向かうか分からないと公爵が懸命に身を挺していることを。身なりのよい端正な表情のメイジというのは、ロマリアにあっても比較的優遇される。厳密に言うならば、優遇されると言うよりも敬意をもって会話してもらえるだけともいうが。「失礼。マザリーニ枢機卿に告解をお願いしたいのですが」マザリーニ枢機卿の『隠遁』している教会。そこに詰めるロマリア宗教庁の人間は胡散臭げに訪問者を見やるも、物腰の穏やかな貴族然とした彼の容貌で少し態度を和らげる。なれたことだが、此れが光輝あふれるロマリアだ。なるほど、新教徒が出てくるわけだと誰でも理解できることだろう。いや、案外、理解できない人間も多いのかもしれないが。「失礼ですが、お約束は?」「昨晩、使いの者にお時間を伺わせておりました、ジャン・ド・フランシスと申します。」彼、ジャン・ド・フランシスと名乗るメイジはゆっくりと一礼しつつよろしくと杖をしまい差し出す手。微笑みと共に、握り返してくる相手に幾らか握らせると分かりやすく相手の態度が変わっていた。「ミスタ・フランシスですね、少々お待ちいただけますか」ドと杖。そして、何よりエキュー金貨が光の国で一番ものをいうという現実。嫌になるが、これがどうしようもない世の中というものだとジャン・ド・フランシスは学んでいる。その点では理に通じたマチルダに世話になったものだ、と内心で彼は苦笑しないでもない。没落して故国から逃げ出すという点では先輩と称するだけあって、確かに彼女は自分よりもよほど世慣れた部分があると男は認めていた。程なくして、訳知り顔で恩着せがましく通行を許可された彼は大げさに礼を述べつつ教会の中へ足を踏み入れる。「マザリーニ枢機卿、ジャン・ド・フランシスです」「ジャン・ド・フランシス…?」「おや、いかがされましたか、猊下」待ち人が来たる。にも関わらず、彼を呼び出したはずのマザリーニ枢機卿はいぶかしげな表情で彼を見つめ返していた。凝視されるのが面映い年頃でもないのだが、些か苦笑せざるをえないのも事実ではある。なにしろ、自分でも、随分と印象が変わったと認めるには吝かでない。「マジックアイテムかね?」訝しげに問いかけられたとき、それでもふと気がつけば愉快気に彼は笑ってしまっていた。そう。最初は彼も、マジックアイテムでも使ったのかと本気でたずねて笑われたものなのだ。マチルダのあの笑いを堪えられずに涙までこぼした大爆笑ぶりを思い出すし、あんまりだと思ったが案外無理もないのだろう。「ああ、いや、失礼いたしました。髭を剃って髪型を変えただけですぞ」若造と侮られないために口元と顎に蓄えていた豊な髭をばっさりと。そして、長髪が私と被って微妙ねの一言でばっさりと切られた。おかげで、彼の外見は威厳を蓄えようと勤めた魔法衛士隊時代の面影が完全に消えうせていたのだ。正直に言って、当人でさえ困惑するほどの変わりようである。「…随分と印象が変わるものだな」「ええ、ミス・マチルダのおかげです。猊下程の方でさえ見間違えるとあれば、たいていは誤魔化せるかと」だが、おかげで自分を見覚えていたはずである外に居る門番にも初見の人間として通された。できれば、秘密裏に話したいと相談された彼としてはなかなか上手く化けた物だと自画自賛したいところである。実際、上手く印象を変えている。「それで、猊下。私に何かご用命との事ですが」「ああ、そうだな、君は…」「ああ、ジャンとでもフランシスとでもお呼びください」偽名と人から罵られる不安はない。なにしろ、彼は、確かにジャン・ド・フランシスでもあるのだ。身を偽るということは、貴族としての名を汚すことかもしれない。だが、彼は特に偽っていない。ただ、誰もが勘違いするだけなのだ。「ミスタ・ジャン。君に頼みたいのは、護衛と情報収集なのだ」「猊下のご命令とあらば。トリステインですか?」「ああ、その通り。聞いての通り、オーク鬼と策動で相当に荒れているとのことだ。実情を知らねば」だが、次の瞬間には鋭敏な表情を浮かべつつも彼は顔を顰めてマザリーニ枢機卿に警告する。「ですが、猊下。猊下の身柄を秘密裏に移すとなると、相当の抵抗を排除せねばなりませんが」それは、戦争で学んだ彼の義務だった。無理なことは、幾らメイジの誇りと杖があろうとも不可能と言上する義務。誇り高き貴族であれども、だからこそ彼は誇りと共に自らの信ずるところを口にせざるを得ない。「言葉が足りなかったな。その点は、問題がない」「伺っても宜しいでしょうか?」だが、それは意外にも問題が解決していたらしい。「かまわんよ。何しろ、君の力を借りるのもこれが大きな理由だからな。」「…ほう、ゲルマニアの総督によるブリミル教徒救済!」手渡された羊皮紙に押されたのは見覚えのあるヴァリエール家の紋章。そして、書き記された内容はゲルマニアのロバート・コクラン総督からマザリーニ枢機卿への相談事の案内だ。曰く、『ブリミル教徒』を亜人の被害から救済することについてトリステインの情勢に詳しい枢機卿のお力を借りたい、と。そして、ゲルマニア・ロマリア間の書簡の往復が行われつつありマザリーニ枢機卿さえかまわなければぜひともご好意を期待させていただけないかというもの。つまるところ、『隠遁』から『復帰』することに異議は申し立てられないということになる。トリステインの地へ戻るのも、時間の問題と言うことになるのだろう。その意志が、あれば、という但し書きがつくにしてもマザリーニ枢機卿がどれほどあの国を憂いているか彼は知っている。だから、彼は杖を捧げたのだ。少なくとも、後悔はしていない。「そういう次第だ。すまないが、先に現地の情勢を知りたい」「では、タルブへ向かおうかと思います。ちょうど、現地の情報が集まっていることかと」それに、ゲルマニアが整備した港湾施設とフネの通商網からタルブへのフネを探すのは容易だ。ロマリアからガリアを経由し、ゲルマニアへと向かえば時間はかかるがさしたる手間もなくたどり着けるだろう。ゲルマニアに自分の顔を見知っている人間が居るとも思えない以上、タルブで情勢を探るのが一番早そうだった。「ぜひそうしてもらいたい。それと、可能であれば私の返書をラ・ヴァリエール公爵家に届けて欲しいのだが」「旧領のことも気がかりであります。足を運ぶ折にでも」形だけとはいえ、婚約者の実家だ。使者としては、なるほど、自分は最適だろう。「よろしい。それと、できれば…無理な注文だとは思うのだがゲルマニア側の腹を探り情勢を見極めて欲しいのだ」「そちらについても、微力を尽くします。ですが…アンリエッタ王女の動向はいかがされるのですか?」だが、与えられる依頼を聞いていた彼はひとつだけ尋ねなければならなかった。彼が杖を捧げて忠誠を誓った祖国はいまや分断され、占領されてしまっている。その王家にしても、杖を捧げるべき玉座は未だ正式に継承されたわけではないのだ。だからこそ、アルビオンに他ならぬ彼と魔法衛士で逃したアンリエッタ王女について彼は尋ねる。王女殿下は、どのようなご意向であらせられるのですか、と。「・・・姫様のお考えが、私には分からない」だが、予想とは裏腹に彼が得たのは無力さをにじませる呟きだった。「猊下?」「私は、姫様のお考えが分からないのだ。あのようなお方ではなかった筈なのだが…」そこにあるのは、言葉の無力さをかみ締めるような悔悟。親代わりともいえるほど、身近に観てきたはずの人間が変わっていくことへの苦悩。そう、マザリーニ枢機卿には理解ができないのだ。何故、姫様は、と。あとがきジャン・ド・フランシス、一体、何者なんだ(; ・`ω・´)!?いえ、原作キャラですしお名前が出たこともあるんですよ?本当ですよ?ただ、あなた、お髭剃ってさっぱりしたら誰かわから…ZAPZAPZAPとりあえず、微速更新。ついでに、そろそろゼロ魔板に移動するか、100話ぐらいで新しく分けるかとかいろいろと検討中。いえ、未定なことばっかりですが(;・∀・)最近は、twitterで遊んでたりもしますので更新が遅れたらばご容赦を。