{トリステイン貴族視点}我々は、現在有志による国境の警備強化を行っている。成り上がり共の国から賊が複数侵入してくるおかげで麗しきトリステインの栄光をこれ以上にない形で貶められる日々は王家の無為無策で長らく続けられてきた。だが、我々心ある者たちの行動によって、トリステインは貴族とは何かという答えを内外に見せつけることができるだろう。ラ・ヴァリエール公爵領の一角に陣取り賊の侵攻に備えていた我々に、その一方が飛び込んできたのはかなり日が沈み始めたころ合いであった。「賊だ!越境してきたぞ!」「よし、貴族に逆らうことの愚かさを教えてやろう!」忌々しことに、これまでと同様に賊が越境してくるのは視界が限られる夜分に限られている。おおよその国境沿いに配置してある見張りからの警告が届くころには暗くて見過ごしてしまうことが多かった。だが、今ならばまだ日の光もあり見つけることも可能だろう。「難しいな。時間が過ぎれば日が暮れてしまうぞ。」「ウィンプフェン卿は慎重にすぎますぞ!賊ごときに後れを取る我らではないということを今こそ示すべきではありませぬか!」杖を取り、威勢よく幾人かが出撃を唱和する。確かに、時間がかかれば日は暮れるかもしれない。だが、現状で手を拱くよりは行動すべき時期に来ている。「備えを怠る訳にも行きますまい。ウィンプフェン卿は、事態をラ・ヴァリエール公爵に急報するとともにこの地で賊に備えていただこう。そうすれば、我らも心おきなく賊を討伐できよう!」「その通りだ!」「メイジの力を示す時が来ているのだ!」大勢は、出戦に傾いている。だが、王都より派遣されてきたグリフォン隊の若い衛士が慎重論を投げかける。「しかし、慎重を期すべきではないでしょうか?夜間の戦闘は多くの障害が予期されます。」「だが、やらねばならない時があるということだ!」まったく、栄光ある魔法衛士隊の精鋭がこのように及び腰になるとは、情けない限りだ。王家の唾棄すべき脆弱さはここまで伝染してしまっているようだ。メイジの誇りである彼らがこのように堕落してしまうほど今の王家は混迷を極めていると言わざるを得ないのか。まあ、良い。この危機にあってこそ貴族としてのあるべき姿を見せつけることでハルケギニアに対してトリステイン貴族の誇りを見せるときだろう。一人、また一人と杖を手に立ち上がり、出戦を主張する。今こそ、立ち上がりゲルマニアの成り上がり共とその賊に鉄槌を下すのだ!{アルブレヒト三世視点}「トリステイン軍がわが軍に対し攻撃を行っただと!?」息も絶え絶えに駆けつけた急使がもたらした一報はウィンドボナの中枢に重大な驚きをもたらした。居並ぶ貴族達の顔にも驚きの表情が並んでいる。「ラムド卿、これはどういうことだ。トリステイン王国はゲルマニアとの関係改善を望んでいるのではなかったのか?」「確かに、マザリーニ枢機卿からはそのように。」動揺を隠せずにラムド伯が、弁解を行う。トリステイン側と交渉を行ってきた彼からの報告によれば、トリステイン側も国内でも反ゲルマニアから関係の改善を希望しているとのことである。彼としても、この一報で揺らがざるを得ないだろう。「連中に一杯食わされたということか?」「だが、状況はどうなっている?全面的にトリステインが宣戦も布告せずに侵攻してきたというのか?」「ガリアはどうだ!?側面を衝かれと、ただでは済まない!」貴族たちは混乱もあらわに議論を行っている。現状では、分かっていることがあまりにも少なすぎる。突然の、急な攻撃を受けたとの報告。それが、過去に何度かぶつかっている相手であるために再度の戦争を予期するものは早くも軍備の懸念に掛っている。「諸卿よ!落ちつくのだ!カビの生えた連中が攻めてきたというなら焼き払えば済むまでのことではないか!」ハルデンベルグ侯爵が一喝し、ある程度混乱が収まる。状況は不明であるが、そうであるだけに無為に騒ぐのも無益と悟れるだけの武人が存在したことに余は感謝したくなる。貴族達を一喝するのは厄介な問題を巻き起こしかねないために余としては必要以上に面倒事を起こしたくはない。「ハイデンベルグ侯爵の言やよし!トリステインがその気であるというならこちらも思い知らせてやればよい!」幾人かの大貴族達が不快そうな表情を浮かべつつも沈黙を守る。選帝侯らにしてみれば、戦費の負担は気乗りする所ではないにしてもトリステイン側からの侵攻に対してはさすがに無視もできないだけに苦虫をかみつぶしたような心境であるだろう。幸か不幸か、彼らは近年新規に領地を開発することに失敗しておりトリステイン側に対して領土的な要求を突き付けることに意欲的な面々が含まれている。恐らく、この報が誤報でなければ間違いなく戦争だ。そして、やや困ったことに余の兵力は2000ほど北方に留まっている。ロバートによると増派が必要とのことで急に引き抜くわけにもいかないだろう。手元に兵を集めるのは時間がかかりそうだ。「諸卿よ!余は、トリステインの攻撃が事実であるならば、帝政ゲルマニア皇帝としてこれを見過ごすことはできない!」だが、対外的に弱腰であると内側から批判されることも厄介だ。政治闘争を辛うじて勝ち抜き親族を幽閉してまで得た地位には相応の威厳や役割が求められるものだ。「ただちに真偽を確かめよ。事実であればトリステインに自らの行いに対して相応の結果をもたらしてやろう。」~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~解説(N○Kのその時歴史が・・風)トリステイン王国は何故、ゲルマニアに対して攻撃を行ったのでしょうか?当時の反ゲルマニア感情は極めて高く、偶発的に戦闘行為がエスカレートしてしまったというのが判明している事実です。今回資料をあらためて検証したところ、奇妙な点が明らかになってきました。これまでの定説と異なり、資料によれば、当時の王国首脳部はゲルマニアに対して宥和的な政策を望んでいました。さらに、一部の貴族達はアルビオンを交えた三国での同盟を模索していた動きも見られます。トリステインは必ずしも、ゲルマニアとの衝突を望んでいたわけではなかったのです。ですが、現実はそうはいきませんでした。山賊を討伐するとの名目で出陣していた諸侯軍がゲルマニアに越境し付近に駐在していたツェルプストー辺境伯軍の一部を攻撃してしまいます。この原因については諸説あるものの、夜間での追跡中に誤って越境し付近にいたツェルプストー辺境伯軍を賊だと誤認したというのが有力な定説です。ここで、大きな悲劇が誤解によって引き起こされてしまいます。トリステイン側と異なり、ゲルマニア側は越境してきた謎の軍隊がトリステイン所属の軍であるとこの段階で把握しており、これをトリステイン王国による軍事行動であると認識していました。彼らからしてみれば不法に越境し攻撃を加えてきたトリステインの意図は明白でした。敵わぬながらも全力で応戦するとともに、事態を告げる使者を各地へと派遣したのです。この事態に真っ先に対応したのは友軍を攻撃されたツェルプストー辺境伯軍でした。寄港中であった空軍のフネに乗船した彼らは、トリステイン諸侯軍に対し空からの襲撃を敢行します。この段階で、トリステイン諸侯軍の認識は空賊と遭遇したというものに留まっていました。当時は地図が整っておらず、夜間であることも災いします。彼らは、トリステイン領を出たことに気が付いていませんでした。トリステイン諸侯軍はこれを空賊を討伐する好機であると錯覚してしまいます。その結果、一撃を当てて帰還するフネを追跡し、救援に来たツェルプストー辺境伯軍と衝突することとなります。この衝突は双方が誤解したまま行われた遭遇戦でした。しかし、これによって双方の誤解はこの段階で極めて深刻なものとなってしまいます。ゲルマニア側はトリステイン王国が本格的な侵攻を行うものであると錯覚し、トリステイン側は帝政ゲルマニアによる不法侵略と遭遇したとの錯覚にとらわれてしまいました。これが、戦争の始まりになってしまいます。この一報はウィンドボナが届くと同時にゲルマニアは大規模な軍事行動を決意します。一方、トリステイン側は首脳陣が事態の把握に混乱し、状況が把握できていませんでした。今日でも議論の対象となるのがゲルマニアの即断です。宣戦布告の有無にもかかわらず報復行動に出たことに対してはいくつかの問題が指摘されています。この件については、○○学院の××教授に・・・================================あとがきこんな感じでちょっと両国にぶつかってもらいます。どっちかといえばゲルマニア側が事態を深刻に受け止め、トリステイン側が勢いに任せている感じです。