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No.15007の一覧
[0] 【ゼロ魔習作】海を讃えよ、だがおまえは大地にしっかり立っていろ(現実→ゼロ魔)[カルロ・ゼン](2010/08/05 01:35)
[1] プロローグ1[カルロ・ゼン](2009/12/29 16:28)
[2] 第一話 漂流者ロバート・コクラン (旧第1~第4話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:49)
[3] 第二話 誤解とロバート・コクラン (旧第5話と断章1をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 22:55)
[4] 第三話 ロバート・コクランの俘虜日記 (旧第6話~第11話+断章2をまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/01/30 23:29)
[5] 第四話 ロバート・コクランの出仕  (旧第12話~第16話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/21 20:47)
[6] 第五話 ロバート・コクランと流通改革 (旧第17話~第19話+断章3を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/02/25 01:53)
[7] 第六話 新領総督ロバート・コクラン (旧第20話~第24話を編集してまとめました)[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:14)
[8] 断章4 ゲルマニア改革案 廃棄済み提言第一号「国教会」[カルロ・ゼン](2009/12/30 15:29)
[9] 第七話 巡礼者ロバート・コクラン (旧第25話~第30話+断章5を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/25 23:08)
[10] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/27 23:55)
[11] 歴史事象1 第一次トリステイン膺懲戦[カルロ・ゼン](2010/01/08 16:30)
[12] 第九話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記1 (旧第36話~第39話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 00:18)
[13] 第十話 辺境伯ロバート・コクラン従軍記2 (旧第40話~第43話+断章7を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/07/28 23:24)
[14] 第十一話 参事ロバート・コクラン (旧第44話~第49話を編集してまとめました。)[カルロ・ゼン](2010/09/17 21:15)
[15] 断章8 とある貴族の優雅な生活及びそれに付随する諸問題[カルロ・ゼン](2010/03/28 00:30)
[16] 第五十話 参事ロバート・コクラン 謀略戦1[カルロ・ゼン](2010/03/28 19:58)
[17] 第五十一話 参事ロバート・コクラン 謀略戦2[カルロ・ゼン](2010/03/30 17:19)
[18] 第五十二話 参事ロバート・コクラン 謀略戦3[カルロ・ゼン](2010/04/02 14:34)
[19] 第五十三話 参事ロバート・コクラン 謀略戦4[カルロ・ゼン](2010/07/29 00:45)
[20] 第五十四話 参事ロバート・コクラン 謀略戦5[カルロ・ゼン](2010/07/29 13:00)
[21] 第五十五話 参事ロバート・コクラン 謀略戦6[カルロ・ゼン](2010/08/02 18:17)
[22] 第五十六話 参事ロバート・コクラン 謀略戦7[カルロ・ゼン](2010/08/03 18:40)
[23] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝 [カルロ・ゼン](2010/08/04 03:10)
[24] 第五十七話 会議は踊る、されど進まず1[カルロ・ゼン](2010/08/17 05:56)
[25] 第五十八話 会議は踊る、されど進まず2[カルロ・ゼン](2010/08/19 03:05)
[70] 第五十九話 会議は踊る、されど進まず3[カルロ・ゼン](2010/08/19 12:59)
[71] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝2(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/08/28 00:18)
[72] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝3(会議は踊る、されど進まず異聞)[カルロ・ゼン](2010/09/01 23:42)
[73] 第六十話 会議は踊る、されど進まず4[カルロ・ゼン](2010/09/04 12:52)
[74] 第六十一話 会議は踊る、されど進まず5[カルロ・ゼン](2010/09/08 00:06)
[75] 第六十二話 会議は踊る、されど進まず6[カルロ・ゼン](2010/09/13 07:03)
[76] 第六十三話 会議は踊る、されど進まず7[カルロ・ゼン](2010/09/14 16:19)
[77] 第六十四話 会議は踊る、されど進まず8[カルロ・ゼン](2010/09/18 03:13)
[78] 第六十五話 会議は踊る、されど進まず9[カルロ・ゼン](2010/09/23 06:43)
[79] 第六十六話 平和と友情への道のり 1[カルロ・ゼン](2010/10/02 07:17)
[80] 第六十七話 平和と友情への道のり 2[カルロ・ゼン](2010/10/03 21:09)
[81] 第六十八話 平和と友情への道のり 3[カルロ・ゼン](2010/10/14 01:29)
[82] 第六十九話 平和と友情への道のり 4[カルロ・ゼン](2010/10/17 23:50)
[83] 第七十話 平和と友情への道のり 5[カルロ・ゼン](2010/11/03 04:02)
[84] 第七十一話 平和と友情への道のり 6[カルロ・ゼン](2010/11/08 02:46)
[85] 第七十二話 平和と友情への道のり 7[カルロ・ゼン](2010/11/14 15:46)
[86] 第七十三話 平和と友情への道のり 8[カルロ・ゼン](2010/11/18 19:45)
[87] 第七十四話 美しき平和 1[カルロ・ゼン](2010/12/16 05:58)
[88] 第七十五話 美しき平和 2[カルロ・ゼン](2011/01/14 22:53)
[89] 第七十六話 美しき平和 3[カルロ・ゼン](2011/01/22 03:25)
[90] 外伝? ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド伝4(美しき平和 異聞)[カルロ・ゼン](2011/01/29 05:07)
[91] 第七十七話 美しき平和 4[カルロ・ゼン](2011/02/24 21:03)
[92] 第七十八話 美しき平和 5[カルロ・ゼン](2011/03/06 18:45)
[93] 第七十九話 美しき平和 6[カルロ・ゼン](2011/03/16 02:31)
[94] 外伝 とある幕開け前の時代1[カルロ・ゼン](2011/03/24 12:49)
[95] 第八十話 彼女たちの始まり[カルロ・ゼン](2011/04/06 01:43)
[96] 第八十一話 彼女たちの始まり2[カルロ・ゼン](2011/04/11 23:04)
[97] 第八十二話 彼女たちの始まり3[カルロ・ゼン](2011/04/17 23:55)
[98] 第八十三話 彼女たちの始まり4[カルロ・ゼン](2011/04/28 23:45)
[99] 第八十四話 彼女たちの始まり5[カルロ・ゼン](2011/05/08 07:23)
[100] 第八十五話 彼女たちの始まり6[カルロ・ゼン](2011/05/14 20:34)
[101] 第八十六話 彼女たちの始まり7[カルロ・ゼン](2011/05/27 20:39)
[102] 第八十七話 彼女たちの始まり8[カルロ・ゼン](2011/06/03 21:59)
[103] 断章9 レコンキスタ運動時代の考察-ヴァルネーグノートより。[カルロ・ゼン](2011/06/04 01:53)
[104] 第八十八話 宣戦布告なき大戦1[カルロ・ゼン](2011/06/19 12:17)
[105] 第八十九話 宣戦布告なき大戦2[カルロ・ゼン](2011/07/02 23:53)
[106] 第九〇話 宣戦布告なき大戦3[カルロ・ゼン](2011/07/06 20:24)
[107] 第九一話 宣戦布告なき大戦4[カルロ・ゼン](2011/10/17 23:41)
[108] 第九二話 宣戦布告なき大戦5[カルロ・ゼン](2011/11/21 00:18)
[109] 第九三話 宣戦布告なき大戦6[カルロ・ゼン](2013/10/14 17:15)
[110] 第九四話 宣戦布告なき大戦7[カルロ・ゼン](2013/10/17 01:32)
[111] 第九十五話 言葉のチカラ1[カルロ・ゼン](2013/12/12 07:14)
[112] 第九十六話 言葉のチカラ2[カルロ・ゼン](2013/12/17 22:00)
[113] おしらせ[カルロ・ゼン](2013/10/14 13:21)
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[15007] 第八話 辺境伯ロバート・コクラン (旧第31話~第35話+断章6を編集してまとめました。)
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 23:55
{ロバート視点}
貴族としてこの世界を眺めるならば、それは黄金の自由を享受することに等しい。貴族は、貴族であるがゆえに上下があるにしても自由で平等なのだから。

ゲルマニアにおいて貴族たちは皇帝に対して忠誠心が乏しいのも本質をたどれば都市国家に由来するものだからであろう。貴族民主主義が各地で勢いを伸ばしているとの風聞も別段驚くには値しない。
むしろ、王家に忠誠を誓わせることのできる実力が過去にあったことが驚きというべきかもしれない。だからこそ、ゲルマニアにおいては実力が重視されるのかもしれない。
とりあえず、今の自分はゲルマニア辺境伯コクラン卿である。公職から追放されたものが罪を贖うために金を積むという形で辺境開発に再度取り組むように命じられたと外向きには伝えられることとなっている。

貴族として任じられ、旧ゲルマニア新領を領地として与えられたということに対する内外の反発を避けるために、領地として与えられるのは子爵領程度の面積となる。残りの領土は信託統治という形式によってあくまでも形式上は直轄領となる。
まあ、微妙に官吏の運用上の制約等があるため子爵領程度でないと官吏不足するということを考慮すると、さほど深刻な問題でもない。
正直なところとしては、この地域の動植物やメイジの研究さえ行えれば私自身の好奇心は満足するのでそこまで形式ばったことはお断りしたかったのだが、諸般の事情からそれはできないらしい。まったくもって不本意ながらも、ヴィンドボナに参上し、仰々しく任命されなくてはならないというのだから自由のないことこの上ない。

私自身は、叶うことならば魔法学校の蔵書を読み漁ってメイジをつぶさに研究したいのだが、それは幾度も申請しているのだが一度も通らない。
ならばと思い、ロマリアから魔法が使える可能性のある子供たちを孤児院ごと招聘し、魔法の素質がある子供たちを教育しつつ研究する計画を立案したのだがパウロス師は子供たちを実験台にするのには反対らしい。
実験台と言うよりも調査対象であり、人体を対象とした実験は行わないと主張したのだがそれでも受け入れてもらえなかったのは残念と言わざるを得ない。周りの人間からも理解を得られないとあれば本当にどうやって研究したものだろうか?むしろ、まずは諸々の科学的な知識を理解し、協力してくれる助手を探すことから始めるべきなのだろうか?
結局、私にしてみれば不本意ながらも辺境伯として軍務に従事するという形をとりアルビオン方面への旅行を計画するぐらいしか自由がなかった。
自由、まったくもって我らにとって不可欠であり、渇望の対象であることだ。
以前、王立協会かどこかの講演でシュラフタについて極めて高く評価されていた老教授がおられたが、できるならばその見解に不同意である旨を今度お送りしたいものだ。
なるほど、権限があり、政治上の権限もある。だが、貴族による選挙など極論を言えば混乱の原因でしかないのだ。
まあ、シュタラフのもとで貴族が比較的自由であったというのは認めるが、それはそれとしてもだ。さしあたっては、アルビオンとの合同の艦隊訓練を見分しアルビオン散策を楽しむとしよう。

「ハルデンベルグ侯爵、このたび北部を代表しアルビオンとの合同訓練に参加いたします、ロバート・コクラン辺境伯であります。」

軍務といえども、貴族の礼がこの世界ではまだついて回る。そのため、爵位の上位に対する敬意を表し挨拶を交わす必要がある。これは、例え北部方面からの代表であろうとも例外ではない。とはいえ、実質的に北部を代表するとはいえ、派遣されるのは委託されている軽装備のフネ二隻で指揮をとるのはギュンターだ。私自身は精々が観戦武官といったところだろう。面倒な礼節に悩まされる機会は、そこまで多くはないだろうと期待したい。

「御苦労、コクラン卿。いろいろと、面倒事も多いかと思われるが、卿には軍人として期待している。」

気楽にして良いと、手を振りつつハルデンベルク侯爵は一応礼節を維持した程度に答礼する。

「ありがとうございます。ご期待に添えるよう微力を尽くす所存であります。」

「何、以前卿の発案した案によって軍も大いに潤った。卿には感謝している。」

「光栄の極みであります。」

ハルデンベルク侯爵は、私自身について多少知っている上で好意的な部類だ。理由として彼は、私の発案した拿捕賞金で相応の収入があったとも聞いている。まあ、軍務で潤いを与えつつ評価を得られるというのだから不満もでてくるものではないが。
上司としても、割合物事に道理的であり、選帝侯寄りでもない軍人としての思考を維持している人材だ。それであるだけに今回の演習はおおむね楽しめるだろう。
ただ、私の乗艦が旗艦が違うために移動のたびに龍騎士の背中に乗らなくてならないことが気に入らない。あの龍騎士の背中に搭乗し、移動するのだけは好きになれない。
知識としては、空を飛ぶことに納得していてもあまり下を見たくはないものだ。航空支援のありがたみは理解しているが、だからといって空を飛びたいかといえば微妙なのだ。船と運命を共にするという意味なら、フネだろうと対して軍艦と異なるわけではないのだが。

{ギュンター視点}

「前方に艦影を確認!」

「艦隊旗艦より、信号を認む!“予定通りアルビオン艦隊と会合セリ。礼砲用意!”」

「礼砲用意!」

「アイ・サー、礼砲用意!」

部下の見張り員達からの報告に即応する形で、争うようにデッキへ飛び出す。かなり早く飛び出したつもりだったが、どうやら上司には一歩遅れたらしい。既に到着しているコクラン卿がデッキでアルビオン艦隊を油断なく注視していた。
形式だけとはいえ、北部派遣艦隊の指揮官であるコクラン卿は熟練の空軍士官並みに空軍の作法に通じておられる。というか、信号に即応できるだけの軍務を積んだ軍人である以上、生粋の軍人のはずなのだが。どうも、このボスは生粋の軍人というよりも、権謀術策に長けた策略かの側面も持ち合わせている。まあ、ボスであるから何があっても多少のことではボスだからでかたづいてしまうのかもしれないが。

「旗艦に従い礼砲を撃つ。間違っても実包で行うなよ!?」

「アイ・サー!ですが、アルビオン艦隊が臆病風に吹かれて事故を起こしても小官の責任でないと認めていただきたいものであります。」

名にし負うアルビオン艦隊相手にいささか気を張りすぎている部下を和ませるために上司に提言をしてみる。

「構わん、強装で肝を冷やすくらいはやってやろう。」

わずかに笑い声が艦橋をにぎやかにさせるが、まあボスを始めすべてのクルーが冗談だとわかっているからこそこういう笑い話もできる。
トリステイン艦隊ならば、あるいは本当に実包と混乱して、応戦してきかねないくらいにゲルマニアとアルビオンの艦隊は大きな礼砲を鳴らすのだから。

「よし、アルビオン連中の度肝を抜いて見せろ!礼砲撃ち方始め!」

指示を出しつつ艦隊行動に乗っ取りゆっくりとフネを隊列に従わせる。今回の演習はゲルマニア側7隻、アルビオン側9隻が参加する大規模なものになる。
目的は、この周辺に猛威をふるっていた空賊対策に近隣諸国が一致団結するためのものというのが建前であるが、内実はお互いの実力を誇示する場でもある。
率直に言うと、アルビオンがその練度を見せつけて、ゲルマニアがその実力が侮れないものであると知らしめるだけだ。なるほど、確かにアルビオンのフネは優秀だろう。
だが、質で数を圧倒できるほどには我がゲルマニアの練度が劣っているわけではないのだというお互いの実力誇示だろう。まあ、艦隊行動をみる限りではやはりアルビオン側に一日の長があるのは認めなければならないだろうが、それでもこちらの練度もかなり伸びているのは間違いない。艦隊行動とは言え、勇名をとどろかせているアルビオン空軍に及ばんとするならば、まずまずの評価をして良いだろう。
肝心の演習であるが、この場では精々が艦隊行動を見せ合い、標的射撃といったところで終わる予定だ。うちのボスは一応この演習に観戦武官と称して参加している。だが、まあ実際の目的はこの後の相互表敬訪問でアルビオン側に行くことだろう。そんな考え事をしていると、こちらの礼砲が終わりアルビオン側からの答礼が返され始める。

「アルビオン側からの答礼です。」

「御苦労。艦隊旗艦に出頭する用意を整えてくれ。」

無事艦隊が会合に成功し、旗艦よりも指揮官召集の信号旗が掲げられた。それを確認し気乗りしない表情で龍騎士の後ろに乗るボスは、空が苦手らしい。
これほどまでに、空軍のやり方に慣れていながら、空を苦手としているのでは空軍の軍人としてどうかと思わざるを得ない。まあ、あの人は直接戦うよりは指揮を執る側の人間ではあるのだが。

「さて、今のうちに標的をならべておけよ!」

手際良く演習を行い、練度を誇示するという以上、ここで手間取っては仕方がない。さっさとやることをやってしまおう。


{ロバート視点}

「いや、見事です。正直に言って、これほどとは思わなかった。」

アルビオン側の練度はこちらの想像を遥かに上回るものであった。砲撃精度、速射能力、いずれも良く訓練されたそれである。空中を飛びながら標的に砲撃をあてられる能力は、対空防御力が乏しい木製の装甲では大きな脅威だろう。
名目では友好であるが、ある一面の真実としてはアルビオン空軍の精強具合を誇示することでゲルマニアに対抗しようという性格も持っているだろう。練度の誇示を通じてそれらは完全に成し遂げられたと言ってよい。

「悔しいが、我がゲルマニアはまだまだ向上の余地がある。今後も精進に努めるしかあるまい。」

「まあ、いつまでも彼らの空でないと示してやれるように部下を鍛えるとしましょう。」

ハルデンベルグ侯爵が、忌々しげに髭を撫で始めたので話題転換の必要性を思い立ち、気になっていた本題に話題を変えることにする。旗艦への出頭に龍騎士を使わなくてはならないことで一瞬、気づくのが遅れたが、礼砲の変更は急なものであり不可解なところがあった。

「しかし、気になっていたことが一つ。アルビオン側の参加者に王族が入っていないのはなぜでしょうか?」

「ふむ、トリステイン王国を誘う際に、メンツの問題もあって王族が参加すると称すればかの国も参加すると見なしたからではないか?」

事前の予定では明言こそされなかったものの、実質的に礼砲や儀礼等の観点からアルビオン側の指揮官格には王族が参加するとみなされていた。だが、実際の様子ではその気配がみられていない。

「確かに、トリステイン側は拒否しています。それでも、ゲルマニアとの演習を希望したのはアルビオン側です。」

つまり、王族を参加させるかどうかの有無を決定したのはアルビオン側だ。こちらとしてはそれに釣り合う人材として、ハルデンベルグ侯爵が選別されたというのが背景にある。王族に対しては格がやや劣るにしても、軍務を司る長を派遣しているのだ。
まがりなりにも、形式上の問題がないにもかかわらずアルビオン側は予定にない行動を取っている。

「こちら側に合わせたということは考えにくいか?」

「つまり、ゲルマニア単独では逆に格が劣るために出せないと?」

それは、妙な話だ。確かに、トリステイン王国を勧誘する際にアルビオンの王族が参加しているというのは大きな利点だが、ゲルマニア単独での参加に王族を出さないというのはアルビオン側らしくもない外交的な失策だ。
こちらが、先に通達したのならばともかく、アルビオン側が先に通達した上で変更するというのはやはり納得がいかない。通常、対外的に発表した予定を王家が変更するということは政治的な意図か事情が変化しない限りありえないと言ってよい。
アルビオン側は、内々であれども当初の予定では礼砲を21発要請してきた。だが、土壇場で変更があり19発に変えられている。これが、意味するところは少しばかり気になる。アルビオン側がゲルマニアとの関係を軽視する理由は現状では思いつかない。

「それは、確かに考えにくいな。なんぞ、変事でもあったのだろうか?」

不審に思ったのだろ。ハルデンベルグ侯爵の声にも格下に見られたという不快感よりも不可解な事象を怪しむような声になっている。軍人というものは、とにかく予定にない行動や不審な点を見たら疑う方が無難なのだ。
無論、猜疑心にとらわれて自身の行動を束縛してはいけない。だが、生き残れるのは臆病ものだ。

「分かりませんが、お許しを得られれば少々探ってみようと思います。」

常に、注意深く物事を観察せよ。違和感は、原因を突き詰めれば解答に結びついている。ゆえに、如何なる事情も見落とすことなく見張りを行うことが士官には求められる。
総員が、右に関心をひかれているならば左側を注視するほどの用心深さが海軍士官には求められるのだ。故に海軍軍人は、徹底して警戒を怠ることなく軍務に従事するのだ。

「あまり、問題にならない範疇であるならば許可しよう。卿個人の裁量で行うがよい。」

「感謝致します。」

さて、許可は出た。どうやって事態を探るかだが、ことがことであるから簡単にはつつくこともできない。王族がらみの問題に不用意に干渉すると好奇心が猫を殺すことになりかねない。
さらに、微妙なことはこの変事がどのような意味をもっているかどうかだ。人員を即応要員のみ配置するべきだろうか?いや、過敏な対応は不信感をお互いに惹き起こし不用意な事態になりかねない。ということは、警戒を緩めないぐらいしか現状でできる対応はない。まあ、事態が政治的なものであるというのならばアルビオン側の事情を調べてみる必要がある。
だが。アルビオンに滞在できるのは長くても一月だろう。その間に嗅ぎまわれるところを部下と手分けして調べるべきだろうが、どうにも時間が足りない。正直なところ、政治的な問題とアルビオン大陸という不可思議な存在のどちらも疎かにしたくはないのだが。できることならばアルビオン大陸を貫通する井戸か穴を掘ってアルビオン大陸の浮遊する原因を突き詰めてみたい。
せめて、その植生と動物等について調査し高度の高い地域での植物研究の新分野に貢献したいのだが。


{ギュンター視点}

「ギュンター、話がある。」

そう言うと、ボスは艦長室にもぐりこむようにして人払いを行う。機密の含まれた話だろうと察して私も従者をつけずにボスに続く。

「何でしょうか、コクラン卿」

神妙な表情を作り、厄介事を持ち込むであろう上司に尋ねることにする。大抵の場合、上司の持ち込む問題は愉快であるか、厄介極まりないが大きな成果が期待できるだけに安易に引けないシロモノであるかのどちらかである。

「礼砲は19発だった。貴官らには明かされていないが、当初の予定では21発だったのだ。私も確認して初めて分かったのだが、アルビオン側に急な予定の変更がみられた。」

周囲をはばかるように声を落としてボスが告げた内容は、空軍の伝統に通じる人間には一発で理解できる代物であった。格が落とされた。それも王族を使う予定がありながら。
事前の通達も無くに土壇場に変更というのは手落ちというべき事態だろうか?それ以上だろう。だが、それだけにさまざまな解釈が成立し得る。
さすがに、旗艦から迎撃指示が出ていない以上、こちらに直接攻撃等してくるわけではないのだろうが・・・。

「恐らく、アルビオンで大規模な変事が水面下で進展している。」

「まさか!ジェームズ王の統治はこれと言った災禍に直面せず、後継者もウェールズ皇太子に決まっています。王家にも貴族にもさしたる火種はないはずです!」

アルビオンの王家は他の始祖に連なる王家と異なり安定している。後継者問題を抱えることなく、貴族の忠誠もおおむね王家に対して向けられている安定した王国と言える。
火種となりえるような問題を抱えているのだろうか?大抵あり得るお家騒動の要素となるような問題もなく、むしろ当分は安定が約束されているはず。
多少貴族に不審な動向が見られるという程度で、これはむしろ他の王国に比べれば平均的な水準だ。

「分からん。だが、変事もなく王族の予定を変更するとは思えない。」

「急病の可能性等は?」

「それならば、むしろ隠す可能性が乏しい。まあ可能性としては排除できないにしても、アルビオン王家の人間はこちらの使者が拝謁した時は健康そのものだったという。」

確かにそうだ。仮にウェールズ皇太子かジェームズ王が急折したとしてもそれならばその旨を告知し、演習そのものを延期すべきだ。このようなところで演習に興じている余裕などない。
そうでないならば、向こうにとって公表できず、かつ隠しておきたい事情があるのだろう。状況はまあ、何かあるだろうということだ。

「つまり、余程の変事が内々で処理しなくてはならない問題として発生したと?」

対外的にはあまり変事であると察してほしくはない。だから、可能な限り平時を装う。むしろ、内部に対しても平時であると錯覚させたいからこその演習か?
だとすれば、ことは本格的な問題であると言わざるを得ないのも納得できる。どういった問題なのか?それを考えるべきか。

「可能性の問題だが、ありえるだろう。」

「それを、内々に調査するのですね?」

「その通り。我々はよそ者であるために現地で行動する際には慎重であることを求められるが、できる限り情報を収集する。」

アルビオンのように閉鎖的な領域では、外部の人間ほど目立つものはない。何しろ、空中に浮いているのだから湾岸隣接部でもないかぎり外部からの流入は稀としか言えない。
今回の演習で相互に表敬訪問するとはいえ、ゲルマニア艦隊に属する人間が現地で情報を集めるのは厄介だろう。ことが王家に関わることであるならば難易度は跳ね上がると言ってよい。

「この件に関して、参考になるかどうかは不明だが、以前ロマリアからアルビオンに対して大量の物資が輸送されたことを確認している。」

「ロマリアから物資でありますか?」

普通は、ロマリアが何かを輸入するか、高位の聖職者が移動に使う程度で通常は考えにくいルートだ。まして、大量の物資となると輸入するにも相応の資金が必要となる。簡単に出せるものではないはずだ。

「調べてみると、ガリアからロマリア経由で大量の火薬に武器弾薬だ。仕入れ元は、なんとアルビオン王家。それも他国を介して秘密裏に輸入とあるので軍事活動かとも思ったが遠征に回すには種類と量が微妙だ。」

遠征に回すには種類も量も微妙だろう。確かに、火薬に武器弾薬だけでは遠征は行えない。アルビオンは食糧の一部を輸入に依存している。対外戦争を行うならば、食料をあらかじめ備蓄しておく必要があるだろう。
さらに、アルビオンがしばらく戦争を行うことを想定すれば、食料以上に、燃料などの炭や各種魔法具の輸入も行うはずだ。そもそも、アルビオンが戦争を決意する理由が見当たらない。秘密裏に行っている可能性は排除できないにしてもそうであるならば、火薬などの購入ももう少し慎重に行い気づかれないように行えるだろう。
それに、火薬自体も、補給の困難さを考えるならば備蓄を切り崩す必要のないように大量に手当てすべきだ。それほどとなれば、逆に隠しておくこと自体が困難だ。調べるまでもなく、軍人ならば気が付いていなくてはならない。

「つまり、何らかの軍事行動を国内で起こす可能性があると?」

「貴族の反乱の可能性を第一に念頭に置くべきだろうが、王家内部の事情も今回はきな臭い。内部を主眼とするにしては王族の動向が不可解だ。」

王家が貴族の反乱を察知しているかのようにふるまうのは確かに賢明ではないはずだ。となると、王家内部の問題か?しかし、確証はない。他国の情報は伝達手段が限られるうえにその精度も疑わしい。

「だが、何らかの変事があるならばそれを把握しておくべきだ。今後は、もう少し早く事態に気づくことができるように情報網を整備しておくべきだな。」

「今後の課題ですな。それらも合わせて、閣下にこの件について報告しておくべきかと思いますが。」

アルビオン側の情報が途絶しているのは望ましくない。一応、大使や領事館がアルビオンにあるとはいえ、それらとの連絡は取れていないのだから急場の用には立っていない。

「だろうな。伝令を飛ばす。最低でも三騎だ。龍騎士で伝令を送れ。内容は暗号化してしまう。万が一、アルビオン側に漏れるとことは厄介だ。この件に携わる人員を選別しておけ。」

ことがことであるだけに、慎重にならなくては。クルーを信頼しないわけではないが意図せずにことが漏れる可能性も排除しなくてはならないのだ。

「了解致しました。」

「私は、艦隊司令と共に、アルビオン側の旗艦に表敬訪問する予定だ。気のきいた者を従者として選別してくれ。案外、向こうの乗員も異常に感づいているかもしれない。」

確かに、直接相手側の旗艦に乗り込む機会を逃すべきではないな。しかし、ボスといると本当に厄介事に首を突っ込むことになるものだ。
厄介事であるけれどもその先に得るものが大きそうであるだけにボスはこれに喰らいついていくだろう。望ましくないかもしれないが、このボスについていくと退屈だけはしなくて済む。


{ロバート視点}

「ジェームズ陛下、初めてお目にかかります。ゲルマニア艦隊司令長官を拝命しております、フォン・ハルデンベルグ侯爵にございます。」

「同じく、初めて御意を得ますゲルマニア艦隊次席指揮官、フォン・コクラン辺境伯にございます。」

アルビオン王室の不穏な動向を探るべく部下たちは既に王都に散らばらさせてあるが、随行してきている人数の関係上もあってそう大勢で情報収集に勤しむわけにもいかない。
王都の領事館要員との接触も微妙な手掛かりしか得られていない。領事館の報告では、これといった異常が見られずに我々の一報からでようやく疑い始めたという。
人員がある程度借りられるのは助かるが、顔が見知られていることを配慮するとあまり過度に期待するのもどうかと思う。
私自身は、ゲルマアニ貴族として今回の演習に参加するアルビオン側の貴族たちや歓迎式典に参加している。
この手の行事は光栄と受け取るか決められた役割に乗っ取って行動する予定調和の一つとして億劫に思うかだが、どこか心あらずと言った参加者達の表情を見つけられたのでやはり何がしかの異変があったとみるべきだろう。

「大義である。今後は両国で共に事に当たり、もって安寧を保つことを望もう。」

だが、その前にこのことを持って対外的に同盟と見なされることを防いでおかなくては。同盟とは、ある意味で運命共同体足ることの宣言だ。運命共同体が本当であるかどうかは知らないが。
良好な両国の関係は望むところであるが、弱小な他国に運命共同体に引きずり込まれるのは外交政策上度し難い失策である。

「陛下のお言葉に感謝いたします。」

「ただ今のお言葉、大変光栄極まるものであります。今後も、両国が協力して空賊を討伐するなどし、秩序を回復していけるようにゲルマニアと致しましても隣国の一員として努力する所存にございます。」

ハルデンベルグ侯爵は、おおむね外交というよりは武を専門とされる御仁だ。いささか、外交交渉は荷が重いのではないかとも懸念されているため次席指揮官に私が任用された。とはいえ、侯爵とてゲルマニア貴族。
最低限の保身技術くらいは持ち合わせているので、さほどの欠点でもない。私の仕事は他人の心配ではなく、それよりは、無礼にならない程度に外交上の距離を保つことだ。
外交交渉は訓練された専門家に一任すべきなのだ。後ほど、ラムド伯等の専門家が束縛されないように基盤を作っておければよい。

「両国の、関係を今後も良好にするためにも、引き続き緊密な関係を構築できるようゲルマニア側より後ほど使節を派遣しようと考えております。御承諾いただけることを切に望むものであります。」

「あいわかった。今後も良好な関係を望むのはこちらとしても同じところだ。」

そう言い放つと、しばしの歓談を楽しむとよいと称し王が下がっていく。残された貴族たちとしばしの会話を交わすが、気になるのはここにいる貴族達の領地が北部に限定されていることだ。
艦隊構成上、一つの地域に偏ることは珍しくもないので当然の結果ではあるのかもしれない。それ自体はゲルマニアでも一般的であり、私自身ゲルマニアが新規に開拓した方面の部隊を統括しているのだから不審ではないかもしれない。
だが、アルビオンの艦隊構成上、ありえるのだろうか?王族を派遣するとあればその人物が管轄する艦隊を派遣するのが一番自然であり、北部に王族は存在しない。
遠縁の大貴族ならば存在しないわけでもないが、彼らが今回の演習に指揮官として参加しているわけでもない。まして、大貴族で王家に連なるという意味では適任というべき人材がほかにいくらでもいるはずだ。
メイジ達の中でも優秀な部類でもある彼らは、概して王国の騎士団かそれに類する類に属しているはずだ。そうなると、やはり違和感があると言わざるを得ない。何故、北部から貴族たちが出張ってきているのだろうか?
それとなく、会話に事かけて探りを入れてはみる。けれども、あまり露骨にやる訳にもいかないのだ。曲がりなりにも親善と友好をうたっている手前、専門家の足を引っ張るような、独断専行は望ましくない。
しかし、それが義務への怠慢でないか常に自省する必要もある。会場を見渡すと、どうしても違和感が付きまとい、判断に迷いが生じてしまう。
行動すべきか?すべきでないのか?つまるところ、本格的に探りを入れるべきだろうか?
どうも、北部の貴族というのは、誇りが高く家系自慢に興じる余裕がある。だが、正直に言って彼らの家系自慢は少々長すぎる。
貴族の礼節からいえば、お互いに自家紹介をしているときに話を遮るのは最悪のマナーの一つかもしれない。だが、つまりは、長すぎるとそれそのものが別の意味を伺わせてくるのだ。
自慢しかできないでいるおろか者を演じているようで、ゲルマニアからの客というものに対してはやや距離を置こうとしている。会話そのものが、情報の流出を恐れて防衛的なのが原因だ。
つまりは、礼節を守っているとはいえ、終始典礼の範疇で終わらせようとする姿勢が垣間見られる。
一応、隣り合わせとなる貴族達と、簡単に挨拶を交わしてはみるが、どうにも、口を割らせることができないでいる。
ここは一度、アプローチの方向を変えてみるべきか?貴族ではなく、王族についての反応を見るべきか。

「いや、それにしてもウェールズ皇太子殿下は御聡明であらせられる。モード大公殿下もウェールズ皇太子殿下をご支持されていると仄聞します。アルビオンは安泰でうらやましい限りですな。」

「いや、まったくもってその通りであります。」

見事なまでに、公式見解をなぞり、それに応じている。アルビオンが安泰であるということに、少しばかり疑問を彼らが呈するときは、逆に余裕がある時が多い。つまりは、謙遜で危機を語れるほどの安定がないのだろう。
それは、ここの奇妙な違和感とも一致している。では、何が原因か?

「アルビオンに比べ、我がゲルマニアはどうしても、問題やごたごた多くて。安定の秘訣をお教え願いたいものです。」

「これというものはないのですが、平穏で波風が立たねば、おのずと安定しましょう。」

平穏か。つまりは、なにかそうでないことが起きているという仮説が間違いなければ彼らは、この現状に対してなにがしかの状況を抱え込んでいるということか。

「それにしても、モード大公殿下がおうらやましい。私など、後継者に恵まれないでいるのに、殿下は後継ぎどころか優秀な甥にさえ恵まれておられる。」

「いや、私もモード大公殿下にあやかりたいものです。」

「なにをおっしゃいますか。卿とてまだまだお若い。」

「いやいや、お上手ですな。」

やはり、奇妙だ。こちらが触れていることは失礼にならないように言葉を選んでいるにしてもあまりほめられた会話ではない。モード大公は南部に主軸を置く大貴族だ。
これに対して、北部貴族は敵対とまではいかずとも、親愛の情をもつ理由がない。もちろん、口では何とでもいえるが、まるで、そういってほしいかのようにふるまっているのは何故だ?
北部貴族たちが反発を覚えてもしかるべき内容だ。しかし、彼らはニコニコとこの会話を楽しんでいるように見せたがっている。普通は、言葉に出さずとも、不快感を表明してしかるべきにもかかわらずだ。

「いや、本心なのですが・・・。失礼、少しはずします。」

礼を述べて少し距離を取り、給仕からワインを受け取るふりをしてテラスへと向かう。テラスから式典の会場を眺めてみると、どうしてもアルビオン側の貴族たちが何かを隠している様が気になって仕方がない。少なくとも、ゲルマニアとの友好を望んでいるということだけは確実なので遠征の可能性は乏しい。となるとやはり、内乱か?王家の中で叛意を抱いた人間の可能性を想定にすべきかもしれない。だが、それにしては日常といったものが落ちつきすぎている。それこそ、平穏なのだ。
やはり、この手のことに長けた人間を見つけ出して採用しておくべきだった。アルビオン側の腹を探ることが出来て、忠誠心に問題がない人間の発見は難しいかもしれないが。
最近では、ガリアの密偵共の優秀さがうらやましくて仕方がない。メイジでありながら魔法を過信せずに最善を尽くすところなど、よほどの訓練を積んでいるとしか考えられない。
忌々しいが、恐らくガリアはアルビオンにおけるこの問題も既に把握している可能性が高い。情報の不足というつけは、あまりにも高くつくだろう。
隣国に先んじられるということは大いなる失策だ。たまたま気がついたから良いものの、祖国のように他国へとしっかりと関心を払うようにしておかなくては大きな損失と脅威に直面せざるを得なくなる。


{ロバート視点}

事態が急変したのは、一人の密偵からいろいろと役に立つことを親密な友人達が聞き出してからであった。
ギュンターの船室で、周りに誰も近づけないように人を配置した上で私は、集まった情報を整理しため息をつきたくなるのを、辛うじて堪える。

「モード大公は政治感覚が幼児並みだな。」

月並みな表現で、我ながら情けない限りだ。それでも、私としてはそう言わざるを得ないような状況が脳裏に描き出される。
せめて、大公がウィンザー公爵並みに潔く地位を放棄し、その後に引退なり亡命なりを行えば王家の損害はともかくとしてある程度の個人としての幸福も追求できるだろうに。
公的な地位に恋恋としているつもりが本人にないのかもしれないが、現状では問題の悪化を座して見ているとしか思えない。
生まれながらの王族とて、最良の環境に置かれて教育された個人と、このぬるま湯のような義務と権利意識しか発生していない世界では質が違うのもやむを得ないことかもしれないが。

「これらが事実であれば、です。実際のところどうなのでしょうか?」

ギュンターが慎重な意見を述べてくれるが、それは空軍士官としての彼の経験が為したものであろう。彼自身も、私の見解にほぼ同意しているようだ。事実は、よっぽど小説やおとぎ話よりも怪奇きわまる。
とあるきっかけで出会った情報源は大変有意義な情報を残してくれた。その入手方法については単純で偶然によるところが大きく、かなり無粋な方法であったが、情報は情報だ。選り好みをできる立場ではないだろう。

「エルフを匿っているというだけでも宗教上、致命的な失点だ。ところがよりにもよって王族が相思相愛とくれば、王家の一大事だ。風評で流すにしては具体的すぎる。」

「だとすれば、これは大きな外交上のカードになりませんか?」

確かに、大きなカードではあるが大きすぎる。なまじ、小規模な問題であれば干渉しても相互に受ける傷は小さくて済むがこの規模の問題に下手を打つと火傷では済まない。
燃え盛る何かを掴もうとするのは異端査問にかけられた哀れな犠牲者でなければ、ただの愚者か狂人だろう。火に油を注ぐような真似を好んでする気にはなれない。
物事には、知られていても、知っていると名乗りを上げられると都合の悪ことがあり、なかったことにするために事態がさらに悪化することもよくある。

「無理だろうな。この手の問題は王家の威信が絡んでいる。下手な譲歩は望めない。全面対決を覚悟で対峙するにしては得るものが乏しい。」

「となると、今回の一件は秘密裏に処理されるということになるのでしょうか?」

他国が、これを名分としてアルビオンに介入したり宣戦布告するにはやや弱いが、異端であると火種として焚きつけるのにはほどよい問題だ。ロマリアの宗教庁が介入してきて事態をかき回すことはアルビオン貴族たちの望むところでもないだろう。
モード大公と王家の内密の問題とするには厄介な問題である。さらに頭が痛いのはエルフがどこから来たのか?という問題だろう。エルフの居住地域とアルビオンは重ならない。
それどころか、浮遊大陸に対して迷い込むとするにはあまりにも無理があるだろう。下手をすれば、アルビオン内部に意図的にエルフを匿っているという“誤解”が真実として流布されかねない。そうなれば、エルフを目の敵にしているロマリアの坊主たちはアルビオンを討伐することも目に入れかねないのだ。ロマリアの坊主以外誰も望まない戦争だ。
まあ、アルビオン出身系の枢機卿やその派閥以外にとっては、利権獲得という尊い聖戦なのだ。嬉々として邁進しかねない。

「少なくとも、アルビオン貴族ならばそう考えるだろう。彼らにしてみれば、火種が他国に飛び火する前に消し去ってしまいたいだろうからな。」

「では、この事態が収束すると?」

「それが、微妙だ。モード大公はジェームズ一世の実弟で有力な王族だ。彼の下にある貴族たちも南部で大きな力を持っている。有力すぎるといってもよい。」

「容易には処断しかねる、そういうわけですか。」

最悪内戦だ。エルフのために内戦を起すというのは名分としてはこれほど適さないものもないだろうが、政治というものは如何様にでも取り繕うことも可能だ。事実無根の口実によって粛清されようとしたとモード大公が主張すれば、エルフを匿う王族がいるものかという一般的な平民の思考に迎合するものとなり予断を許さない。
モード大公がエルフと心中する気になれば、それこそ面倒事が加速度的に拡散される。
アルビオン王家も警戒を強めており、それなりの戦備が整えられているのは間違いがないだろう。恐らく、内乱になっても南部の貴族全てがモード大公に与するとも思えない。だが、それでも内乱は確実にアルビオンに傷跡を残すであろう。

「では、この状況下での最善手はどのようなものだと思いますか?」

「現状で最適なのはモード大公の地位を保証する代わりに、問題となっているエルフを追放することだ。」

エルフの問題を除けば、モード大公は王弟として問題となるべき人物ではない。人格は比較的穏やかであるとされるし、王位を望んでもいない。皇太子との関係は、未知数であるものの険悪でない以上主たる障害要因とは現状ではならないだろう。南部の統治に関しても、有力であることは懸念材料になるとしても、行政官としては少なくとも腐敗した部類ではない。

「では、そのことをアルビオン側が何故行わないのでしょうか?彼らならばその程度のことはすぐに思いつくはずですが。」

「だから、モード大公の政治感覚が幼児並みなのだ。大方、公がそれに同意しないのだろう。」

モード大公がどのような判断をしたかは情報源も知らないようであった。だが、彼の口を割らせることができた範疇でも、状況証拠と組み合わせればある程度の想像はつく。
王家内部の問題として発覚次第迅速に処理されていないことを考慮すると、何かが問題の解決を妨げているのだろう。当然、それは当事者のどちらかに起因するものだ。
ジェームズ一世としては波風を立てたくないであろうから、問題の解決策は可能な限り穏便にとどめるのが、最も合理的な選択肢となる。それは、当然のことながら、妥協の模索となる。
では、それをモード大公が飲むか飲まないかで考えてみれば事態の理解も容易だ。国王にとって妥協可能なライン。それは、エルフの追放を含めた最低限の要求に留まるはずだ。
おそらく、ジェームズ一世個人の意向としては、事を荒立てたくないからと処罰さえ行われずに、奇妙な噂が流れて調べたけれども何も出てこなかったというところで落とし所を見つけるつもりだろう。
だが、最低限、エルフがいるのは飲めない。個人としての意向ではなく、政治的な意味合いが大きすぎるのだ。すでに、我々のような外部の人間が嗅ぎつけている以上、機密保持もあったものではないのだ。
物証が残されていては、良いのがれすらままならない。だから、最低限の要請としてエルフの追放要求は最大限の譲歩と共に突き付けられる。
恐らく、大公はそれに同意していないのだろう。だから、事態が難航している。

「では、王家はやはり処断するのでしょうか?」

「せざるをえなくなるか、それともロマリアになかったことにしてくれと頭を下げるかだろう。」

「ロマリアに頭を下げられるでしょうか?」

「そして、貴族達をどうやってか抑えられる目処がつくならば、一つの可能性としてはあるがね。」

難しい問いかけだ。王家内部の不和をなかったことにするためにロマリアに事態に目をつぶらせる。あるいは、発覚した時に穏便に済ませるためには相応の代価が必要となる。
そして、それ以上にエルフのためにロマリアに頭を下げたという事実は王家の権威に重大な危機をもたらしかねない。ゲルマニアほどでないにしてもアルビオンとて貴族と王家の関係はある面で牽制しあうものがある。
当然のことながら、ロマリア枢機卿団は、干渉してくるだろうし、利権にも貪欲に介入してくることとなるだろう。国家の趨勢を他国に影響されることを認めるかといわれると、それは認め得ても、統治者としては自殺に等しい。肉親の情として、最大限かばうという選択肢すら、政治家としては時と場合によっては致命的になるのだ。

「最終的にはジェームズ一世の性格次第だろう。王の性格はどのようなものだ?」

ギュンターは、ここしばらくのアルビオン滞在でアルビオンの世情に通じている。本人の語るところによれば、酒場での会話ほど有意義な情報はないとのことだ。
まあ、公開されている情報も大半がある面では真実なのだから、彼の主張も一理あるのだろう。むしろ、学ぶべきところも多いと捉える必要がある。

「良くも悪くも、王たらんとある御仁です。頭は耄碌していないようですから事態を理解した上で、王としての責務を果たそうとするでしょう。」

「この場合、王としての責務が何を指すかを理解すべきだな。王として、国を乱すわけにもいかないだろう。当然、この問題を何としてでも解決したいはずだ。」

「では、やはりモード大公を粛正する方向で動いていると見るべきでしょうか?」

モード大公の粛清。それは、当然の帰結としてアルビオン南部地域の動向が不安定化する。のみならず、アルビオンとの通商関係を強化しているゲルマニアの流通や貿易関係の商人達にも影響が出てくることが避けられない。
なにしろ、風石の使用量を抑えて、寄港するためには距離が短い飛行のほうが望ましく、さらに言うならばアルビオン南部は伝統的にフネの湾口を多く有してきた物流の拠点が多い。純粋な他国の問題であっても、こちらにも影響するのだ。

「そう判断させるのが、例の密偵の目的かもしれない。最後の最後で情報を操作された可能性が排除できない以上、慎重に探る必要もある。」

情報源の口を割らせるのは困難であった。まあ、以前新領でガリアから来た商人の中にいた不審な連中が、アルビオンでギュンターの部下に見つけられたのが運のつきだったのだろう。
比較的早めに啼いてくれたので、聞きたいことがそれなりに聴けた。それそのものはありがたかったが、彼はどうやら啼くには、いささか脆すぎたようだ。
私の好みの手法ではないが、時間がなかったために水のメイジ達による尋問、言葉を選ばないで言うならば自白剤に近いものを使った拷問だろう。これは、それなりに効果があるという。ただ、注意しなくてならないのは自白したことが真実であるとは限らないのだ。彼が、自白したことは彼が真実であると思っていることであるのだから、その事実確認を怠る訳にはいかないだろう。真実だと思いこませた情報を与え、敵に捕らえさせるという選択は、必ずしも珍しくないのだ。

「分かりました。こちらでもできる限り事態を把握できるように再度。事実確認に努めてきます。」

「よろしく頼む。だが、こちらの防諜を優先しろ。情報の確実性を求めるあまり、こちらの動きを掴まれては逆効果だ。」

そう付け加えると、ギュンターを退室させ、私なりに考えをまとめる。現状では、自白が正しいかどうかをまだ判断していない。だが、仮にだ。彼の言が正しかったと仮定して事態を考えてみよう。
ゲルマニア側のプレイヤーとしてこのゲームを把握するならば、何が得られるだろうか?まず、内密理に粛清された場合はその証拠を拾い、後ほどアルビオンかロマリアに恩を売りつけることができるだろう。
ロマリア枢機卿団との腹の探り合いは、腐臭がするので望むとするところではないが、選択肢としては何事も等しく検討される価値がある。
また、粛清の度合いによっては一部の人材が亡命しやすいよう、ゲルマニア側の受け入れ態勢を整備しておけばアルビオン側の内情を掴めるうえに、人口の増加と知識層の流入が期待できる。メイジ層の流入も期待可能だ。
次に、モード大公がおとなしくエルフの処分に同意した場合も同様だ。この場合は、個人的な関心としてはエルフがどうやってアルビオンに入ってきたのかという経路と、エルフたちの情報を得ることが可能だろう。
モード大公と取引することはリスクも大きいが、個人的にはやる価値が皆無ではないはずだ。選択肢の一つとしてエルフの追放先にゲルマニアの広大な森林地帯を提供することもありだろう。あとは、亜人討伐と称して適度に茶番を繰り広げておけばアルビオンに恩を売ることが可能だ。だが、この選択肢は、限りなくありえない選択肢だ。
むしろ、それよりは、内戦の公算が高い。可能性の問題に過ぎないが、内戦に発達した場合は望ましくないと言わざるを得ない。
隣国としては、適度にこちらを脅かさない程度の国力を持って安定した隣国であることが理想であるが、アルビオンはまあ安定していたし、こちらにとって深刻な問題では無かった。だが、内戦となれば当然治安は崩壊せざるを得ないだろうし、市場としての価値も暴落とせざるを得ない。まずもって、この内戦から得るところはないどころか早期の終結を望む立場にならざるを得ない。
それに、空賊を抑え込んでいるのはゲルマアニの艦隊によるところが大きいが、一方でアルビオン艦隊の役割も無視できないのだ。空域の安全を考えるならば、このことはあまり望ましくない。
国外の市場が喪失され、国内の物流が厄介事にさらされるのは正直に言って耐えがたい損失でしかない。浮遊大陸への干渉は、総合的にみても得るところが乏しい。
しかも派兵するならば、空軍に相応の被害を覚悟しなくてはならないところも厄介だ。補給線一つとっても広大な上に、脆弱なのだ。望ましいかどうかで言えば、距離の壁はあまりにも望ましくない。恐らく、アルビオンにもゲルマニアは勝てるだろう。得るもののない戦争を行う覚悟があればだが。占領地は経済的な負担でしかない。事態が加速度的に悪化する前に、介入してみることは可能だろうか?
選択肢として、モード大公の亡命先としてゲルマニアが受け入れるというものは伝統的な選択肢かもしれない。だが、それはエルフの処断が完了していなくては、公式には受け入れかねる。厄介事を抱えたまま来られても困るだけなのだ。何より、王位継承権を持っている王族の亡命を許すかといわれると、アルビオン王家は乗り気ではないだろう。何代にもわたって禍根を残しかねないのだ。
内乱は、避けなくてはならない。この情報を掴んだのだから活かせるものは活用したい。消極的に受け身で事態に対応するべきか?内乱にならないならば痛むものはあまりこちらとしてはないのだから。
さしあたっては、万一のモード大公派の貴族たちが、亡命しやすいように環境を整備する。さしあたっては、ムーダの船団を定期的に南部に寄港させるように手筈を整える程度にとどめるべきだろうか。次の定期報告書と、新領の行政府への指示書にこの旨を記載しておくべきだろう。あまり時間に余裕がないので早めに取り掛かることにしよう。


{ミミ視点}

「強制徴募してきた面々で、公務に志願したものはそちらに回しなさい。それ以外は、開発区画の整備に回し、適性に合わせて再配置するように。」

自業自得というべきかもしれないが、メイジ達も酒に酔えば当然、酔態を晒すことがある。その酔態が多少高くついたと彼らは学習し、メイジとしての誇りを学んでくれるであろうと、私は期待しています。高貴な精神と、高貴な能力をもったものを、教育する。まさしく、始祖ブリミルも我らが行いを賞賛しこそすれども、批判することはまずないという完璧極まりないことです。

「しかし、ミスタ・ネポスの提案がなければ今頃行き詰るところでした。彼には、功に見合った褒賞を用意すべきですね。」

そう部下に指示し、彼に休暇と褒美の手続きを取ろうと考えていたところにネポスが、上からの指示を持って駆け込んでくる。何にしても、行動が素早いというべきか、的を射ているというべきか。

「どうしました、ミスタ・ネポス?」

「コクラン卿より、急な御指示が。他国からの貴族を受け入れる用意を行っておけと。」

“貴族の受け入れですって!?”“他国から、受入!?って、それは!?”

思わず、叫びそうになるのをこらえネポスから差し出されたコクラン卿の指示書なる厄介物に目を通す。思えば、碌でもないことばかり、この封書から差し出される指示書には書かれている気がする。

「・・・つまり、貴族たちが亡命しやすいように整備しておけと卿はおっしゃる訳か。これはまた厄介な問題ですね。」

貴族とは誇りが高い生き物だ。高すぎるために、目線があまりにも高みに向けられすぎているといってもよい。おかげでメイジでない平民も、決して『使えないこともない』と悟るまでに多くの苦難がなければ、平民の価値を理解し得ない存在でもある。
亡命してくる貴族たちを受け入れるということは、彼らを受け入れるための人員の手当てや設備の用意も必要ということだ。それも至急に。しかし、この手の問題に関わるのは厄介事に関わるのと同義だろう。
そして、貴族位を持っている人材の大半は抱えている仕事が多すぎる。貴族以外に、貴族の相手をさせるのはお断り。自分から仕事を無駄に増やす趣味は、今のところないし、属僚にもそういう趣味は存在しない。
だから、仕事のできる貴族は慢性的に、各所との交渉等があり、簡単には新しい仕事に就けないのが実態。ただし、目の前のこの善良なメイジは別だ。彼は、今回の功績で叙勲されるのだから。
いささか彼には申し訳ないとは思いますが、尊い犠牲になっていただきましょう。

「ミスタ・ネポス。貴方には二つのことを伝えなくてはなりません。」

「私にですか?」

「ええ、まずはおめでとうを言わせてください。貴方のこれまでの。貢献を讃えて、シュヴァリエの地位が与えられることとなるでしょう。」

善良な、彼が喜びを満面に浮かべているうちにもう一つの厄介事を押し付けることにします。まあ、さすがに良心が痛むので、一日くらいは喜びを味わいさせてあげたいとも思いますが。

「そして、その地位にふさわしい仕事が貴方に与えられることになります。詳細は後ほど伝えるので、明日受け取りに来てください。」


{アルブレヒト三世視点}

アルビオンより戻ってきた演習艦隊から報告を聞き終えると、余は別室でつい先ほどまで随員の一員としてかしこまっていた男と話を交わしていた。

「結局、アルビオンに関しては放置か。」

「介入するにはあまりにも事態が中途半端でありました。」

確かに。もう少し、他国の情報を緊密に収集するべきかもしれない。現状では噂に頼る部分がかなり大きいのが問題であるとは思っていたがこれほどとは。

「最低限の利益は期待できるかと思われます。むしろ、問題はガリアでありましょう。あの国の情報収集はこちらを隔絶した水準にあると思われます。」

「あの無能王のやることだ。何を考えているのやら。」

ヤツが無能かどうかということに関して、余は大きな疑義を抱いていたがこの件で完全に認識を固めることができている。粛清の手際は問題を抱えているにしても効果的であったし、ジョゼフは想像以上の手腕と先を見通す目を持っているのかもしれない。

「好奇心で噂を集めるのと、賢明さで情報を収集するのでは事態が全く異なります。完全な憶測にならざるを得ないのですがガリア王が事態の背後にいるのではありませんか?」

それは、さすがに考えすぎだろう。だが、その用に思えるほどガリアの密偵が暗躍しているのは事実なのだ。もう少し、警戒を行うとともに、対抗策を検討しなくてはならないというべきだろう。
この男、ロバートはあまりにも、便利に使えるので多方面に活用してしまうが、そのために本来の目的であった国力増強が遅れているのは少しばかり本末転倒かもしれない。
余が対応策を練っている間に国力増強に勤しませるべきだろう。ともかく、新領は課題が少なくはないのだ。

「それは、いささか買い被りであるにしても警戒を要することは間違いあるまい。今後はその件についてこちらで検討してみよう。卿は、当分統治に勤しみ国力の発展に傾注してほしい。」

「分かりました。」

{ロバート視点}

アルビオンを去った私は、新しく設けられたコクラン辺境伯領の内政に取り掛かっていた。結局、アルビオンに対しては消極的に関わっていき、事態が致命的に悪化した際にのみ介入することをゲルマニアとしては決定している。
忌々しいことではあるが、過去の祖国の薔薇戦争のように泥沼化した内戦にならない限りにおいて、アルビオンはゲルマニアにとってよい穀物の輸出先であり、市場たりえるだろう。
私の直轄領と信託統治領は広大であるために、否応なしに役人の人手不足に直面している。このことを考えると、専門的な教育を受けた人材が不安を感じてアルビオンから亡命してきてくれることはある程度歓迎したい。厄介事を持ち込んでくるような大物については多少考えるべきかもしれないが、カラム嬢とその件に関しては打ち合わせを終わらせている。今後は、熟した果実が地面に落ちるのを眺めておくことが主たるものとなるだろう。
種をまいたならばそれを刈り取らねばならないだろうが、今回の件については私達は種まきを見学した程度にすぎない。貴族の責務として、領地の統治と領民を庇護することは、欠かせない義務である。
私自身としては、新しく設けた孤児院の子供たちの中からメイジなる素質のありそうな子供たちについての調査結果を耳にして、で少しばかり調査してみたい事項が増えたのだが、まずもって取り掛からなくてはならない責務が多すぎる。
個人的な好奇心を充足させうるためにもまずは統治機構の整備と内政の充実を図り、時間に余裕が出来次第に好奇心の赴くままに物事を楽しむことにしよう。残念極まりないにしても、今できる最善を尽くすのみだ。盲目的な快楽の追及は、度が過ぎると身を滅ぼす。
さて、私の職責は新領の信託統治を兼ねつつ、自らの領地を発展させることとなっている。実際には、新領の行政府が私の領地の中に置かれることとなっている等、実質的には自らの領地として扱って構わないとされている。カラム嬢が新領の監督官という役職で名目上の現地の責任者とされているが、辺境伯に従うものとされているために実質はさして変わっていない。
いろいろと、問題が山積している領地の現状であるが、最大の問題は人口の過剰流入だ。ある程度はトリステイン・ロマリアの外部からとゲルマニア内部からの人口の流入を想定し拡張の余地がある制度設計を行っていたにも関わらず、ダンドナルド・シティと命名された都市は既に人口が推定で2万人に匹敵しようという拡大具合だ。
頭痛の種であるのは、ムーダ経由で農民を辺境開発部に送り込む一定数だけを確保する予定だったにもかかわらず、ロマリアを経由しないルートでトリステイン王国からの流入者が都市部に流れ込んできていることである。これでは、都市計画そのものが見直しを必要とする。
ヴィンドボナのような、自然発生的な都市ではなく、明確な都市計画に基づいて効率的な開発拠点としてダンドナルド・シティを開発したいが、現状では都市の設計を行っているうちに、大量のスラム街が自然発生している。
自由農民ならば歓迎すること限りないが、逃亡者を匿うという対外的な印象はまずもってよろしくない。まして、スラム街の形成が急速に進展しかねないのは治安上も衛生上も許容しかねる問題である。国境を越境する際に様々な問題を隣接する領地でも引き起こしており、同格の辺境伯より苦言が呈されている。
その件については、ヴィンドボナ経由でのいくばくかの損害補填と謝罪によってことを鎮静化することに成功しているのもの、トリステイン王国からの流入は想像以上に数が多かった。貧困が一般的な中世とはいえ、多すぎやしないだろうか。
私個人としては、ある程度の貧しくも優秀な農業従事者と、専門的に教育された技術者を受け入れることで段階的に発展させていくつもりであっただけに現状には著しく困惑している。まず、食料流通の確保が頭痛の種だ。私の管轄権が及ぶ地域にどの程度の人口が存在しているかさえ、不明な現状で、都市部に合わせて周辺の人口も組み合わせると最低でも3万人以上の人口を養うだけの食料を確保しなくてはならない。
スラム街が形成されつつあることを考えると、暴動を抑えるためにもパンとサーカスは不可欠であるが、そのパンをどうやって確保するかで頭が痛い。パンを買う資金の工面も問題であるが、肝心のパンをどこから買えばいいのかすら、疑問である。食料は、収穫するまでにしばらくの時間を必要とする。
集団離村で、村がまとまって移住してきたケースは、彼らに自治を行わせる形で土地を与え、一任すれば問題はない。一応は、支援を行わなくてはならないだろう。最初に何を土地で育てるかや、農作の道具など多くの助言や協力が必要となるのは間違いない。
だが、人的なつながりがあり互助意識が高いために翌年からは収穫が十分とはいえずとも期待できる。彼らの食いぶち以上の余剰を買い上げる契約は早めに成立しており輸送コストが極めて安価に獲得できる見通しだ。
問題は、スラム街を形成しつつある面々だ。税がないという一面だけが強調された風説が意図的に流されているような印象を受けるが、課税能力がないような貧困層が急激に肥大化しつつある。当然、生きるためには何でもやらかしかねない。
これは、開発を進めていく上で極めて厄介な重荷と言わざるを得ないだろう。将来的には、豊富な人口を背景として発展する余地が大きいのだろうが現状では治安が悪化するきっかけになりかねない。行きつく先は、武装蜂起か暴動だ。
ロマリアから引き取る厄介者程度の扱いである貧困階級に関しては、ロマリアである程度の教育が施されているものが多かった。まあ、単純な日曜学校水準ではあるが、ある程度容易に仕事を割り振ることができた。この点に関しては、ロマリア内部での腐敗の是非はともかくとして教会での教育に感謝したいところだ。それでも今後はロマリア経由でムーダが搬送してくる人的資源のうちの何割かが教育を受けておらず、特に専門分野を持たない都市住人である可能性が懸念されている。
農民はいくらでも受け入れる余地がある。なぜならば、広大な土地が余っているのだから。技能者も歓迎する余地がある。彼らはその技能でもって富をもたらすのだから。問題は、都市にスラムを形成する面々だ。
労働意欲があるならばまだ鉱山労働や、街道整備等での需要がある。しかしながら、スラムには、どちらが先かわからないにしても大量の犯罪者が潜んでいるために問題が厄介になっている。犯罪者を鉱山や街道におけるか?鉱山で強制労働に使うならばともかくだ。
歩兵隊は、亜人対策の関係上と絶対数の不足から治安を十分に維持するには不足している。慢性的に治安機構が人員不足であることに加えて、犯罪者の多くがメイジである。
大半が傭兵崩れで、何故かここまでの旅費を篤志家によって支援されているようだ。トリステイン貴族たちがここまで慈悲深くも貧しい人々を旅に送り出すべく手を差し伸べていると知らなかった私の責任というべきだろうか。
とにかく治安機構の強化は急務の課題だ。それと並行して、税収が当面は期待できないために物産の開発等によって利益を得ることを考えなくてはならないだろう。予算がなくては、なにもできない。
山岳部の物産は多くの利益をもたらすことが期待されているものの、現状では効率的な収益源にする多面開発が不足している。北部の鉄鉱山は幸か不幸か人手が有り余っていることを背景としてかなりのペースで開発が進められている。
とはいうものの、メイジの不足という問題から加工に関しては手探りの状況だ。転炉でも作成できないかとブリタニカ百科事典を参考にある程度の概念設計図を試作しているが、効率は魔法の方が優れそうだ。蒸気機関も現状では必要かどうか微妙に疑問であるので、最も効果的に活用できるのはメイジ達であるというのが現状での私の結論だ。
メイジ達の固定化の魔法は物産の劣化を完全に防止できるという点において最大の価値を持っている。喜ばしいことに、ある程度の固定化ならば大半のメイジ達がこの作業に従事できる。このことを活用し、高価な山の物産を即座に固定化で鮮度を保ったまま消費地へ送り込めることが可能となっているのだ。
それらを活用し、今後はこれらの物産をアルビオンに輸出しようかと考えている。そこで得た資金で、ガリアから小麦を輸入することを現在検討している。だが、小麦を輸入したとしてもそれを買うことのできない貧民の問題が解決できない。
ともかく救貧策を検討しなくてならない。ギルバート法およびスピーナムランド制度を部分的に導入するべきだろうか?忌々しい共産主義者どもの口車に乗るようでまったく気乗りしないが、貧民問題を軽視すると暴動が続発した社会の経験を積むことになってしまう。
教会が役に立つならば彼らに問題を部分的に任せてしまうところだがこの世界の教会は面倒事があまりにも多すぎる。ロマリアから孤児院を丸ごと引き抜いたおかげで、その系統の比較的まともな聖職者が多数引きぬけたにしても、だ。
教会にあまり大きな財源を与えるとそれだけでロマリア本国の蛆虫が集る誘蛾灯になりかねない。ともかく、貧民対策についてはパウロス師の見解を伺うべきだろう。救済に関して熱心に活動されていると聞く。この件に関してはそれまで保留だ。
破壊工作というか、足を引っ張っている傭兵崩れ共に関しては討伐するしかないだろう。この件に関してはカラム嬢に一任する。悉く火刑に処してかまわないだろう。衛生上磔刑にして放置するのも好ましくないために早めに処理するように要望しておこう。
奇特なトリステイン貴族の面々に関しては、ヴィンドボナのラムド伯経由でマザリーニ枢機卿に話を通すことである程度の解決を図りたい。海に出ていた頃が恋しくなるような毎日だ。


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あとがきという名の言い訳編1

Q:礼砲の意味は?
A:1. 国旗、元首(天皇・国王・大統領など)、皇族 21発
2. 副大統領、首相、国賓 19発
3. 閣僚、特命全権大使、大将(統合・陸上・海上・航空幕僚長) 17発
4. 特命全権公使、中将(陸・海・空将) 15発
5. 臨時代理大使、少将(陸・海・空将補) 13発
6. 臨時代理公使、総領事、准将 11発
7. 領事 7発

※ウィキペディアより引用しました。


うん、イギリス海軍は予算にも厳しかったんだとご理解頂けるでしょうか?際限なく撃たれると予算が・・。

あと、礼砲で全部火薬使いましたと申請する艦長対策でもあったりします。訓練用の火薬も海軍の定数で行うのは厳しかったりするので、砲撃を重視した艦長なんかは私物の火薬を使った時代もあったりするそうです。(私物の火薬をつかってでも訓練し、巡航にでて拿捕できれば黒字です。すなわち、案外美味しかったりします。)
追伸
うっかり、入れるつもりだったエドワード8世の故事を入れ忘れていたので慌てて追記しました。

「王冠を賭けた恋」と言われるイギリスの王位を捨てて愛する女性と暮らした公爵は
「もし時計の針を元に戻せても、私は同じ道を選んだでしょう」
と言っていたそうです。

まあ、周りから誉められないにしてもこういう例もあるのだという感じでご参照ください。


福祉について。
一応、このロバートは一九四二年段階での救貧政策を念頭に置いて行動しているので今日のように充実した社会福祉という発想ではなく統治上の必要行為としてこれらを認識しています。

貴族の義務としての庇護も意識はしていますが、パトローネスとして貧民に接するかというと彼らをクリエンテスとは認識していないので弱いとお考えください。


{パウロス視点}

手元の予算と、来月から送られてくる子供たちの人数を考慮し、少しばかり余裕があると判断して、ささやかではあるけれども甘味を用意することにした。子供達の好きな果実の飲料と、少しばかりのパイを日曜日にでも出せるだろう。

「では、来月からはこのようにお願いします。」

「分かりました。」

出入りの商会の取り扱う商品は、ロマリアに比べるとやや劣るところがあるかもしれない。だが、もともと孤児院の予算では手が出せずに子供達には貧しい食事しか用意できなかった。それを思うと、予算が多少増額され、物価が少し下がっているということはかなり助かった。
それを考えると、安価な食糧が提供されているこの地でならば、子供たちの必要とするものもそこまで不足することがないことだろう。

「さて、お昼までにできるだけ早く仕事を終わらせなくては。」

ロマリアにいた頃は報告書を書いても、要望書を出してもそれが読まれているのかすら定かではなかったが、ゲルマニアに来てみれば提出を求められて係りの役人が回収のために飛び込んでくる有様だ。忙しさも、喜ばしい。
思っていた以上に、ゲルマニアは受け入れに際して最善を尽くしてくれている。要望した子供用の教育道具については、追加で20人分の筆記用具と初歩的なテキストが送られてきている。羽ペンにインクだけでも、昔はどうやって用意しようかと悩んだものだ。
いろいろと、考えなくてはいけませんが、不快ではないのでおもしろいものです。

「パウロス師、今よろしいでしょうか?」

物思いにふけりペンが止まっていたようだ。聞き覚えのある声に我に返ると、見覚えのある来訪客が扉からこちらの様子をうかがっている。どうやらノックを聞き逃すほど考え込んでいたらしい。慌てて、椅子を進めると共に、詫びることにする。

「失礼しました。なんの御用でしょうか?」

「教育についてご相談があります。コクラン卿よりパウロス師にダンドナルド・シティの初等教育をお願いしたいとの言伝が。」

「ですが、私は院を預かる身ですが・・・」

子供達とのことを考えつつも、教育に関わる時間はどれほど取れるだろうか?私一人で、院を運営するわけではないが、人手が余っているわけでもない。

「いえ、そのこの孤児院に付属の学舎を用意いたします。同時に、何人かのシスターやブラザーを募っていただき、貧しい子供達も教育を受けさせるために施設の外から少しばかり受け入れていただきたいのです。」

「お話しはごもっともです。ですが、急に人を集めるとなるとどうしても問題が出てきてしまいます。」

聖職者たちもそれぞれに仕事を抱えている。ゲルマニアやガリアといった大国ならば多くの聖職者が奉職しているのは間違いないが彼らを集めるとなるとどうしても時間がかかる。なにより、受け入れる人材はできる限り選びたいという本音もある。

「それよりは、読み書き程度を教える簡単な施設をコクラン卿がおつくりになる方が簡便ではないでしょうか?」

学舎はありがたいかもしれないが、少しばかり大きすぎて不便だろう。多くの子供達を学ばせるならば、出来る者たちから少しずつ協力を求めるのが最善だ。

「分かりました。こちらでも検討してみます。」

「よろしくお願いします。」

「いえ、助言を頂いているのはこちらですのでお気になさらないでください。それと、こちらは別件になりますがコクラン卿よりの私信になります。」

そういうと、若い役人は懐から書状を取り出すと私に手渡し、一礼すると立ち去っていく。若いながらも、優秀な彼らは、多忙なのだろう。

「なんとも、慌ただしいことです。子供達自慢の、ハーブティーをお出しする間もなかった」

ここでは、産物の開発が進められておりハーブや香草といったものが市中でも栽培するために売買されており、比較的安価に手に入るので子供達に手入れをお願いしてある。子供達の貴重なお小遣いになる、皆の自慢の一品だ。
お客に出すつもりで、子供たちが張り切っていたが、これは自分達で楽しむことになりそうだ。まあ、私は飲む専門ですね、と子どもたちに言われているのだが。私も、子供達に交じって土いじりをしているのだが、どうにも手際が悪いらしい。
子供達に先生は下手だと笑われてしまっている。こっそり、見ているとみんな毎日交代でやっているようなので、時たま混じる程度では一番下手になってしまうらしい。

「まあ、何はともあれ、お昼を皆と食べる前にやるべきことをやってしましょう。」

そう、独り言を呟くとパウロスは羽ペンを手に取り、手早く雑務に取り掛かった。


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