学園都市最強の超能力者(レベル5)が敗北した。
そんな噂が流れている。
どうでもいい、と思いながらも白髪赤目の少年――――ではなく『少女』はコンビニでコーヒーを購入していた。
少女は『一方通行(アクセラレータ)』である。
元々、望んで最強であったわけではない。
最強だったからこそ無敵を望んだだけだ。
「あァ?」
ふと、気付けば。
男が倒れている。金属バットが地面に転がっている。複数の男共に囲まれている。どうやらケンカを売られているようだ。気がつかなかった。
「うぜェよ」
そのまま、直進。大量にブラックの缶コーヒーが入ったビニール袋をしっかり持って、男達を無視する。
何かを叫んでいるが聞こえない。『空気の振動』を反射して消音(ミュート)だ。
キンッ。
何かを『反射』した。たぶん男の攻撃を跳ね返し、その腕を折ったのだ。
赤い炎が視界の隅に入る。能力者だ。当然、『反射』した。
それで、終了。
愚か者は戦闘不能になった。
相も変わらず自分は最強(レベル5)なのだ。
そんな襲撃を気にせず、目的地に到着する。
ホテル。『外』の住人向けの、ハイテクではない『普通』のビジネスホテルだ。外見から内装、機能まで全てが『外』の科学技術(テクノロジー)に合わせてあるのが特徴で、学園都市の住人としては少々不便が目立つ。『外』の人間はあまりにも発達した機械は馴染めない者もいるので、意外と人気があるらしい。
学園都市の人間は使わない、ホテル。
そこに居を構える人物こそが、つい先日『最強』を倒した『無敵』だ。
「おい。なンだ、この『ゴミ』はよォ」
一方通行は壊されたドアを通り、部屋の主に声をかける。
「おー、百合子ちゃん。ちょっと襲撃されちゃってさー」
言いながら、男は『ゴミ』を蹴飛ばす。
その『ゴミ』は生首であった。
床は血で汚れ、窓のガラスが散乱している。武装した死体がいくつも転がっている。軍人のような格好だ。
「はっ。オマエもかよ。どこで恨みなンか買ったんだ?」
「知らねー。俺様も、いや、吾輩も一々そんな細かい事情は興味ないしなー」
一人称を変えよう。なんて、阿呆なことを言い出したの一昨日だ。
何でも、個性を出したいらしい。
「やっぱ『吾輩』は駄目だな、言いにくい」
「どうでもいいだろ、そンなの」
言って、缶コーヒーを投げ渡す。キャッチしようとして男は失敗。コーヒーは血で汚れた。しかも、飲み口が。
「あー。ま、いっか」
男はコーヒーを拾って、躊躇なく飲んだ。血液感染の病気を恐れる様子はない。
「オマエは運動神経は良くないンだな」
「人並みだよ、ひーとーなーみー」
「教えろよ、無敵(レベル6)の秘密ってヤツをよォ」
ベッドに腰掛け、一方通行もコーヒーを飲む。
上条当麻。
三沢塾。
その情報を調査する依頼を受け、一方通行は報酬として目の前の人物――――『無敵(レベル6)』の情報を求めた。
「オッケー。ミーのシークレットを教えてやんよ」
ありゃ、『ミー』も違うな。などと未だ一人称に悩みながら男、絶対等速もベッドに座る。肩と肩が触れた。やはり、『反射』はできない。
『自称』学園都市番外位、絶対能力者(レベル6)絶対等速(イコールスピード)。
特徴らしい特徴もない、一方通行よりも年上で悪人っぽい男。
それが、絶対等速だ。正直、小物っぽい。
「ボクチンはー、一回死亡してー、絶対等速って脇役に憑依したー」
「………あァ? ふざけてンのか?」
「いやいや、大真面目だよん。おーおーまーじーめー。我は『前世』で二次元に行きたいという願望を胸に、とある宗教に入って殉教したご褒美としてこの世界に来たんだよん」
「マジで言ってンのかァ?」
「マジ。真実はいつも残酷なんだよ」
「………………」
缶コーヒーを飲み終え、黙考する。
そもそも二次元とは何だ? 線の世界? 意味が分からない。そもそも別の世界? それにヒョウイって憑依、だよな?
「で。何故、わたくしが無敵(レベル6)に成れたか、は。正直に言うと、正確には『能力』ではない」
「『能力』ではないィ?」
「おう。アッシの『力』は超能力と言うよりも魔法魔術に近い」
「また、オカルトな単語が出たなァ」
「つーまーり。某(それがし)は勝手に無敵(レベル6)を名乗っているだけって事だ」
それは知っている。学園都市の頂点である自分が知らないのだから、非公式なのは当然だ。上条当麻と三沢塾を調べるついでに、絶対等速の調査も一方通行は行っている。精々が大能力(レベル4)止まりの能力者が、ある日突然強くなった。幻想御手(レベルアッパー)とかいう正体不明のモノに手を出したとか噂されている。犯罪組織を壊滅させたり大した意味もなく一般人を皆殺しにしたり、風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)から指名手配されていたりと結構な有名人だった。犯罪者も彼の首を求め賞金まで出している。レベル6を自称する、狂気の自由人。
「だからよォ、どうして強くなれたかが知りたいンだよ」
「さっきも言ったけど、それは憑依したからだ」
「意味が分からねェな」
「たとえば。ミサカクローンは何故レベル5ではない?」
「そりゃあ、素質は同じでも環境が違うからじゃねェのか?」
「それもある。しかし、それだけではない。それは『魂』だ」
「たましいィ?」
またオカルトだ。
「絶対等速の『魂』とアタイの『魂』が合成された事により、その『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が『他人』と共有されたのだ。そして共有された瞬間に、能力の垣根を越えて能力は能力でなくなった。この絶対等速は能力を超えた能力、『超・超能力』を手にしたのだ」
「………………」
超・超能力。
だ、だせぇ。格好悪いにも程がある。
「クローンには『魂』がない。だからレベル5には成れない」
「魂、ねェ。非科学的だなァ、おい」
「百合子ちゃんは科学を愛しているのか?」
「百合子って言うなァ」
「科学なんてまだまだ不完全だよ、百合子ちゃん」
「知ってンよ。そして百合子って呼ぶな」
「それで、拙者の能力は絶対等速(イコールスピード)と言う」
二本目のコーヒーも飲み干し、三本目に突入する。
「元々は投げた物体が、『能力を解除するか投げた物が壊れるまで、前に何があろうと同じ速度で進み続ける』能力だったんだよ」
「あァン? 随分と弱そうな能力だなァ」
「まぁまぁの力だと思うぞ。スピードはなかったけど破壊力はあるし。で、今は『速度』を等しくする力だ」
「速度を等しくするゥ?」
「速度とは、時間みたいなモンだ。それを制御するのがオイラの力だ。たとえば、投げた物体の速度を一定にする。それはつまり、他の条件・環境から影響を受けないって意味だ。レベルが低い時はレールガンとかで破壊できたけど、今のレベルなら破壊不能だ。絶対に止まらない、破壊もできない無敵の力。それを自分自身に掛ければ、絶対に死なない傷つかない無敵の人間に成れるって訳だ」
「つまり、影響を受けずに進み続ける能力が進化して、何者にも干渉されない能力に成ったって訳かァ」
「そうだ。絶対等速とは現状維持という意味だ。『呼吸をしている』状態を維持すれば『呼吸できない』状態でも関係なく生存可能だし、食事も必要ない。もちろん、睡眠だってワシには無用だ」
「確かに、無敵だなァ」
「ただし、欠点がある」
「欠点? そンなのを俺に言ってもいいのかよォ?」
「別に知られたって問題ない。百合子ちゃんだって自分の超能力が誰かに知られても何の問題もないだろ? それと一緒だよ」
「百合子って言ったらコロス」
確かに、『あらゆるベクトルを操作する』なんて知ったところで何の問題もない。
「弱点ではなく欠点。自分はあらゆる干渉を受けない。影響を寄せ付けない。物理現象だけではなく、精神でも、な」
精神。
先程も、血の付いた缶コーヒーに平然と口を付けていた。
「殺人に対する嫌悪感もなければ罪悪感も感じない。心に何も、響かない。このまま行けば、小生は遠くない未来に廃人と成るだろう」
それは、そうだろう。
喜怒哀楽は無から生まれない。外部からの刺激があって初めて反応する。反応を学習してより高度な精神活動が可能となる。
「だからオイドンは刺激を求める。最強の百合子ちゃんを倒してみたり、少しでも興味が持てたら即実行。心に響くように、行動する。でなければ、死ぬ。それが欠点であり無敵の代償だ。死ぬのは怖くない。何も怖くない。それが、『変』だと思えているうちに、心から満たされる『何か』を探さなければ。死ぬんだよ、精神(こころ)がな」
「はっ。だから妙にハイテンションなのか、オマエはよォ」
「泳ぎ続けなければ死ぬマグロのように。テンション下げたらそのまま何もしない何も考えない石にでも成っちまうぜ」
「難儀だなァ、オマエも」
「いえいえ。心が死ぬのも問題なんだけど、もっと問題があるんだ」
「なンだよ?」
「あらゆる刺激を感じないがゆえに、拙僧は『インポ』に成ってしまったんだ」
「そうか………インポにィっておォおいィ! なンだそりゃあ! シリアスな雰囲気で何を言ってやがりますかァ!?」
「勃起しないんだ………スクール水着を見ても、小学生を見ても、何をしても、もう勃たないんだ」
「いや。小学生を見て勃起するのは駄目だろォよ」
「だから朕(ちん)は、勃起するために手段を選ばない!」
「やっぱりオマエは死ねよ、マジでよォ」
………………
三沢塾。
緑の髪をオールバックにした、長身の男がその建物に居た。
彼の名をアウレオウス=イザードという。錬金術師にして隠秘記録官。元ローマ正教であり『黄金錬成(アルス=マグナ)』という頭の中で思い描いたことを現実に引っ張り出す魔術を使う男だ。
全ては禁書目録(インデックス)という少女を救うために。
今日も『吸血鬼』を誘き出すために、
と。
「本邦初公開! 時間の流れという影響さえもスルーしちゃう絶対等速! 時を超えてオレ見参!」
侵入者が二人、眼前へと現れた。虚空より、前触れもなく。
瞬時に針を首に刺し、精神を落ち着かせる。そして。
「憤然。何者だ、貴様ら」
「さあ! バトルしようぜ!」
「いや、意味分からねェよ。何がしたいンだ?」
白髪赤目の者と、個性の少ない男。魔術師特有の雰囲気がしない。不可解な侵入者であった。
「説明しよう。我々は時間移動をして、えーと、名前は忘れたけど錬金術師のいる時間軸までワープしたのだ。絶対等速の力ならば、時間の影響・干渉すら無視して好きな時間帯に存在できるのだ!」
「あァ? ホントに何でもありだな、オマエ」
「と、言う訳で。錬金術師には絶対服従に成ってもらうぜ! インポを治すために!」
「錬金術師、かァ。本物かよ?」
「唖然。意味が分か………」
「ザ・ワールド! 時よ止まれ! そして時は動き出す!」
衝撃。アウレオウス=イザードの意識は、そこで途切れた。
………………
学園都市は『外』と比べて、何代も技術が進んでいる。
洗脳技術も、進んでいるのだ。
精神を安定させる薬物も、ある。
中には、全能感を強制的に彷彿させハッピーに成るドラッグもある。
「目覚めよ! 錬金術師改め魔法少女・三沢ミドリ!」
そう、私は魔法少女。
名前は三沢ミドリ10歳。緑色の髪だから名前はミドリだ。
妄想を具現化する魔法を使って『お兄ちゃん』の願いを叶えるのが私の役目だ!
「うん、お兄ちゃん!」
「よーし。ミドリちゃん、お兄ちゃんの病気を治しておくれ!」
「分かったよ、お兄ちゃん! 変身!
軽快な音楽が流れ、光が私の体を包む。肌を露出させ、衣装が変わる。ロリロリでフリフリな、緑色のコスチューム。
「魔法少女アルケミーグリーン参上!」
三沢塾の一室。呆れた顔をした白髪赤目の少女が居たとか居なかったとか。
「お兄ちゃんの病気が治れ!」
しーん。変化は特にないようだ。
「あれ? おかしいな。私の妄想具現化(アルス=マグナ)は全能なはずなのに」
薬物やら洗脳やらで想像できない事象を想像できないままに脳内補完して実現させる『原作』を超えたアウレオウス=イザード………ではなく三沢ミドリ(アルケミーグリーン)の魔術でも、お兄ちゃんの病気(インポ)は治せなかった。
「NO! まさか、ミドリちゃんでも駄目だったのか!」
「ごめんね、お兄ちゃん。私、役立たずで」
「いいんだよミドリちゃん! 女子小学生の妹をゲットできただけで僕は満足さぁ!」
「お兄ちゃーん!」
「ミドリちゃーん!」
がしっ。抱擁。
もはや錬金術師の原形は皆無だった。性別も年齢も性格も。何もかもが変わった。洗脳薬物で精神は10歳の女の子ブラコン。妄想具現化で肉体は美幼女に。
「なンだか、疲れたな。帰って寝るか」
超展開に付いて行けず、一方通行は帰宅した。
………続く?
………………
あとがき
感想は賛否両論というか『否』が多かったけど、とりあえず無視されるよりはいいので批判も全然OKです。むしろクレーマーを大事にしてこそ、みたいな。
ドンドンご意見待っています。よろしくお願いします。