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No.14793の一覧
[0] 【習作】根暗男とハルケギニア【転生物、ゼロの使い魔】[bb](2011/05/14 23:14)
[1] 根暗男の転生[bb](2010/05/02 13:17)
[2] 夢のような日々[bb](2010/05/02 13:17)
[3] 夢のような日々2[bb](2010/05/02 13:17)
[4] 夢のほころび[bb](2010/05/02 13:17)
[5] 夢の終り、物語の目覚め(前)[bb](2010/05/02 13:17)
[6] 夢の終り、物語の目覚め(後)[bb](2010/05/02 13:17)
[7] 新しい日常[bb](2010/05/02 13:17)
[8] ラルフとキュルケの冒険(1)[bb](2010/05/02 13:17)
[9] ラルフとキュルケの冒険(2)[bb](2010/05/02 13:04)
[10] ラルフとキュルケの冒険(3)[bb](2010/07/14 12:44)
[11] 微妙な日常[bb](2010/10/15 12:23)
[12] 風の剣士たち(前)[bb](2011/02/06 04:10)
[13] 風の剣士たち(後)[bb](2011/02/06 04:34)
[14] 魔法と成長[bb](2011/02/07 05:41)
[15] フォン・ツェルプストー嬢の観察[bb](2011/05/31 21:46)
[16] 移ろいゆく世界[bb](2011/05/23 20:13)
[17] 決闘は、スポーツだ!(1)[bb](2011/05/26 22:02)
[18] 決闘は、スポーツだ!(2)[bb](2011/05/29 15:31)
[19] 決闘は、スポーツだ!(3)[bb](2011/05/31 22:29)
[20] 傭兵の週末、週末の傭兵[bb](2011/06/03 20:13)
[21] 狩りと情熱[bb](2011/06/08 22:10)
[22] あなたの胸に情熱の火を(1)[bb](2011/06/16 22:30)
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[14793] ラルフとキュルケの冒険(1)
Name: bb◆145d5e40 ID:1ea3af11 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/02 13:17
 フォン・ツェルプストー領国境にある黒い森のほど近くにある村で、キュルケは通りがかった農夫を呼び止めた。

「ねえ、このあたりの森の中になんだか変な建物があるって聞いたんだけど、あなた、知らないかしら?」
「おお、キュルケ様でございますか? お美しくなられましたなあ。いや、ほんとに、女神さまのようにじゃございませんか」

 ありがたやありがたや、といった雰囲気の漂いだした初老の男を早めに制してラルフが質問を続けた。

「それで、このあたりに何か妙な建物があるっていう話を聞いたことはあるかな」
「こりゃ失礼しました。この森にですか……。聞いたことはございませんなあ。いや? 子供らが何か遊びで言っておったこともありましたが、ええ、まあ与太話で」
「そうか。ありがとう」

 礼を言って老人が立ち去るのを待ってから、ラルフは微妙な視線をキュルケに投げる。

「……その子どもの遊びの話を真に受けてやってきたとはさすがに言えないよね、キュルケ」

 この皮肉にはさすがのキュルケも冷や汗の垂れそうな強張った笑いで誤魔化すしかなかったが、すぐに、

「ま、まーいいじゃない! せっかく来たんだし! 行ってみましょう!」

 と気を取り直し、森に向けてずんずん歩き始める。一つ小さくため息をついて、ラルフも後を追った。








ラルフとキュルケの冒険








 近ごろのキュルケの探検のテーマは「噂の場所に行ってみよう」である。
 もともと、フォン・ツェルプストーもフォン・マテウスも治安は良い。代々国境を守る精強の伯爵軍が守るツェルプストー領と、そのツェルプストーと関係があり、小さな領地には見合わないほどの警邏兵を置いているマテウス領。どちらも内政的に安定しており、領地経営も順調。危険な幻獣などが現れても速やかに対処される。二つの領地はどちらも十分に管理されており、宝探しに行くようなおかしな場所というのは少ないのである。
 そのため、キュルケは宝探しという理由をあっさり放棄した。もともと彼女にとって「宝探し」は単なる言い訳で、要するに退屈なので冒険がしたいのだ。今度はちょっとしたうわさ話の真偽を確かめに行くというのが主になった。ラルフは最初のうちこそ面倒がったり引き止めたりしたが、今は黙ってついてくる。

「ここの森ってトリステインにつながってるだろ。あまり深入りしない方が良いんじゃない?」
「まあそういう風に言われてはいるけどね。気にしちゃ負けよ」

 何に負けるというのか分からないが、その一言でラルフは文句を言うのをやめた。もはや言うだけ無駄というものである。そんなことは初めからわかっていたのだ。
 獣道なのか人が通った道なのか分からない半端な道を二人は歩いていく。しかしすぐに道は途切れた。

「……終わってるな」
「終わってるわね」

 無論、道が、である。
 もともと人が入る道なのかすら微妙な道ではあったが、森の入口から数百メイルほど歩いたところで完全に途切れている。

「どうする?」
「そりゃ、進むわよ? どっちに、って問題はあるけど」

 そう言うと、キュルケは手馴れた様子で目印となりそうな枝を見繕って『着火』のスペルで燃やし始めた。ラルフもまた、地面に杖を垂直に立て、目を閉じて手を離す。杖が倒れた方向は、左。

「それじゃ、こっちだな」
「それでいいわ」

 実に適当なものだが、彼らの冒険はいつもこんな調子で進行していた。野獣などと出くわしてキュルケが満足するまで、この冒険は続くのだ。
 キュルケとラルフは交互に着火の呪文を唱え、下草を踏みしだきながら道なき道を進んで行く。この森は密林なような下草があるわけではない、だからそれなりに普通に歩けてしまう。それが良くない。どうにかしてキュルケが入り込めないような森にしなくてはならない――そんなことを半ば本気でぼんやりと考えていたラルフは、急に目の前が開けたことに驚いた。

「……あれ?」

 道から外れてそう歩かないうちに、再び道らしいところへ出た。しかも、左を見ればそう離れていないところで切れている。

「おかしいな、これ」

 道が続いている右は、大雑把に見てトリステインに向かう方角。しかしトリステインとの国境は何リーグあるか知れないが、とにかくずっと向こうである。そんなところまでこの道が通じているはずはない。ならば、この道は一体どこへ向かっているというのか?

「変ね。これは、怪しいわ」

 怪しいと言いつつ、キュルケの目は好奇心に燃え立っている。

「ま、行ってみようじゃない。たしかに変なことは変だ」

 ラルフも同意し、歩を進めはじめる。と、しかしラルフの足はすぐに止まった。

「どうしたのよ?」
「……何か獣の声が聞こえた気がした」

 森の探検など、どこから危険なものが現れるかしれない場合の接敵探知は、風のメイジであるラルフの役目だ。しばらくの間キュルケも声をひそめ、ラルフは耳を澄ましたが、結局それらしい音は聞き取れず、再び進み始める。
 新たにあらわれた道を行くにつれて、今度の道は明らかに人の歩いたものらしき雰囲気があることに二人は気付いた。それでいて、狩人の道とも違う。

「これは、いよいよ怪しいわ」
「そうだな」

 後ろから聞こえるキュルケの楽しげな声に、先を行くラルフもまた少し楽しげに首肯した。腰の重い性質ではあるが、ラルフも人並みの好奇心は持っている。道なき道を行くという不毛にも感じる道程ではなく、“少なくともこの先に何かあるらしい”というのは彼の気持ちを上向けていた。
 歩みを進めるごとに、次第に森は明るくなっていく。この先で森が切れているのだ。半リーグばかり歩いたかというところで、二人は森の中にぽっかりと空いた広場のような場所に出た。広場と言っても、5メイル四方程度の広さしかない。火竜で上空から下見した際には確認できなかったとしても仕方ないだろう。そして、その広場の向こうには明らかに人の手によって作られたと思しき土壁があった。

「これは……土のメイジが作ったものか。人が住んでいるのか?」

 平らなところに無理やり土を盛って作り上げた、人工の洞穴といった具合のものである。きちんとした建物の形を全くとってはいないが、窓や扉がいくつかあり、大きさ自体はかなりのものがある。ラルフ達の側からは向こう側が見えないが、少なくともこちら側の壁の幅は15メイル程度はあった。土の盛られた高さから、恐らく内部は半地下のような状態だろうと想像される。屋根の部分には雑草が茂っていて、作られてからそれなりの時間が経ったことをうかがわせた。

「誰が住んでるのか知らないけど 、随分隠れていたいみたいじゃない」

 誰にともなく挑発的な口調で言うキュルケの言葉が終わらないうちに、土壁に備え付けられた小さな扉が開き、一人の男が現れた。




 その男を見たとき、ラルフはすぐに嫌悪感を懐いた。
 一目見れば、その手に握った小さなワンドから男がメイジであると知れる。身を包むのは質素な平民風の衣服。そのなりだけ見れば、ごく普通の野に下ったメイジである。一言で言い表すならば、隠者。しかしそれらのものより、ラルフにはその顔つきが先に印象づいた。やつれているというわけではなく、別に疲れているようにも見えないのだが……、表情が、ではなく顔つきが、精根尽き果てた人間のような顔をしている。
“こんな人間がいるのか”
 不思議に思いながらも、その外見はどうにも嫌悪感をもよおす。
 その上男はこちらを排斥しようとするような剣呑な空気を漂わせており、一瞬の間ぼうっとした後にラルフは警戒心を最大にした。

「……なんですかあなたたちは? な、何をしに来たのですか」

 微妙にどもりながらも口調は丁寧だった。しかし声音は男がこちらにいい感情を持っていないという確信を深めさせる。ラルフはすでに構えていた杖を握り直し、いざという場合にはどの呪文で自分たちの身を守るかを頭の中で選択した。

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。ここがどこの領地かはご存知よね? 
 ――それで、あなたは誰で、ここで何をしているのかしら」

 内心で殺気立ったラルフとは違い、キュルケは微塵も躊躇せずに堂々とツェルプストーの紋章を示して名乗り、誰何した。明らかに剣呑な空気を放っているメイジを前にしてのこの豪胆さは、さすがと言うべきなのか、それとも未熟さのゆえか。
 しかし、その一言は男の態度を一変させた。

「……ああ、ツェルプストー伯爵家のお方ですか? これは、まことに失礼を致しました。どうかご容赦をお願いいたします」

 未だあまり好意的ではないものの、敵意は完全に消えうせ、地に片膝をついて礼をする。あまりさまになっていない礼ではあったが、紛れもなく貴族が取る態度だった。杖を振り上げかねない態度から一転した男にキュルケは一瞬あっけに取られたが、再びさきほどの質問を繰り返す。

「……それはもういいわ。立ってちょうだい。
 ――それでもう一度聞くけど、あなたは誰で、ここで何をしてるの? こんなところにメイジが住んでいるなんてのは、うちの方でも知られてないと思うんだけど。それにあなた、ゲルマニアの人間ではないわね?」
「それは……その、申し訳ございません。見ての通り隠者のように暮らしておりますので。
 私は、元はガリアのものです。以前はガリアのアカデミーに務めていたのですが、今は名を捨てております」

 キュルケは『アカデミー』という言葉にいったん下火になっていた好奇心をおおいに煽られた。
 ハルケギニアの各国はそれぞれ王立の魔法研究機関(アカデミー)を持ち、そこでは6000年のうちに散逸した歴史や魔法の研究、新しいマジックアイテムの開発などが行われている。魔法大国と呼ばれるガリアのそれがキュルケの興味をひかないわけがない。

「アカデミー? へえ、あなた、ガリアで何かの研究をしていたわけ?」
「ええ、今はもうそれも止めてしまいましたが」

 にべもなく男は話を切ったが、その程度ではキュルケの好奇心は止まらないことをラルフは知っている。

「……あなたの名前は? 研究の内容は?」

 キュルケが次の質問をする前にラルフは口を挟んだ。
 この男は未だに名乗っていない。その顔を見れば、口には出していないもののはっきりと“帰ってほしい、早く”と書いてある。こんなところに暮らしているくらいなのだから人嫌いなのは想像がつくが、ラルフはこの男の肝心なことを話さずにいる態度が気になった。

「ああ、申し遅れました。わたくしはギヨームと申します。かつてはギヨーム・ド・ブラントームと名乗っておりました。ガリアでは、魔法生物の研究を」
「魔法生物ねえ。どんなものの研究だったのかしら」

 魔法生物。幻獣とも呼ばれるそれは、数多くの種類が存在する。人の身近には各国の魔法衛士隊が騎乗用に使役するドラゴン、グリフォン、ヒポグリフ、マンティコアが、野生にはサラマンダーやヒッポカンポスなどが、火竜山脈や海中などといった環境を問わずハルケギニアのあらゆる場所に生息している。

「キメラ、つまり合成獣です。様々な動物や幻獣の特徴を併せ持つ、新しい魔法生物を生み出すことを目的とした研究でした。こちらに来てからも少しばかり続けていたのですが、もうやめております」
「合成獣……?」

 キュルケはよく分からないという表情になる。
 それはラルフが『彼』と呼んでいる前世において「タバサの冒険」という外伝として語られた内容ではあるのだが、それほど熱心な読者ではなかった『彼』はその物語を知らなかった。当然ながらラルフもまたその知識を持たない。しかし「キメラ」と聞けば内容は自ずと知れた。

「つまり、グリフォンやマンティコアみたいなものを人工的に作り出す、ってことですか」
「ええ、まさしくその通りです。私の目指していたものはまさにそれだったのですがね。ガリアの研究所ではそれがきちんと認められませんでした。結局、実験体が暴走して研究所のある森もろともに閉鎖される自体になったと聞き及んでおります」

 ざまを見ろ、という思いがはっきりと見て取れる薄笑いを浮かべ、ギヨームと名乗った男は肯定する。おそらくは何かの確執があったのだろうが、その表情はさすがにキュルケの眉をもひそめさせた。

「ねえあなた、その研究をここでもやっていたって言ってたわね。どういうことをやっていたのか見てみたいんだけど、構わないわよね」

 もっともな要求である。そんなバイオハザードを起こすような研究を自領でやっていたというのでは不安にもなる。ラルフとは違いバイオハザードなどという概念をキュルケは持たないが、その危険性は十分に理解していた。

「構いませんが……もうほとんどの実験体は処分しております。ガリアで起こったことと同じことがここでも起こるという心配は御無用ですよ。中はちょっと散らかっておりますし……」
「それはこちらが判断することでしょう。心配無用だというなら、きちんと見せるものを見せて安心させてほしいな」

 渋る様子のギヨームをラルフは理屈で黙らせ、土の建物へ促した。




「すごいじゃない……」

 生活感のある部屋を抜けて研究室のような空間に案内され、二人が見せられたキメラの実験体は非常に完成度が高いものだった。
 何の変哲もないように見えて、足裏に備えた吸盤で壁面でも逆さまでも自在に走りまわるネズミ。ギヨームの説明によればコウモリのように音を聞きとって完全な闇の中でも行動できるという。
 大きめな目を細めた隼は、ふくろうの目と羽毛を持つ。夜目が利き闇夜を見通して空を飛ぶことができ、隼の速度を持ちながらふくろうの静かさで空を駆けるという。
 極めつけは鱗を持つイタチ。尾にサラマンダーのような火を灯し、小さいながらも炎のブレスを吐いてみせる。サラマンダーの頑丈な鱗を持ちながらも動きはイタチのそれで、敏捷性はまったく損なわれていない。
 二人が見せられた三体の小さなキメラは、いずれも別々の生物の特徴を併せ持ちながらもちぐはぐな印象を持たず、それぞれが一個の生物として完成していた。

「なんとも完成度が高いな……」

 さすがにラルフも感心してケージに入った実験体を眺める。

「どうしてガリアではこれが失敗したの?」

 キュルケが疑問を呈する。ラルフもこれは不思議に思った。

「私はこのキメラの開発をはじめに提唱した人間なのですがね、その内容というのは『それぞれの生物の長所を併せ持つ、よりよい魔法生物を生み出す』ということを目標としていたのです。
 しかし、ガリアのアカデミーではそれがきちんと理解されませんでした。とにかくたくさん合成して、より大きく、より強くと言った具合に随分適当なかたちで勝手に研究を進められましてね。そういったのが嫌で私はあそこを辞めたのですが、恐らくあの後そのまま研究を続け、竜の合成獣でも作って御せなくなったのではないかと思っています」

 二人の感嘆でギヨームは饒舌になったらしかった。先程までの“さっさと帰ってほしい”という表情はどこへやら、得意げな顔で持論を展開する。

「私の作るキメラにも欠点というか……足りない点はあります。いかに強力なキメラを作ろうとも、知能は元の獣のままです。また、作ったキメラを慣らし、御すのは別にやらなければならいというのも忘れてはならない。
 例えば、火竜をもとにキメラを作ったとすれば、火竜よりも強力なキメラを作ることができるかも知れない。しかし、そのキメラに言う事を聞かせるには、その強力なキメラをどうにかして力で御すことができなければならない」

 つまりそういうことです、とギヨームは締めた。

「ガリアではそういう理由で失敗した、と」
「おそらくは」

 ラルフは素直に感心していた。彼は基本的に「それはそれ、これはこれ」という区別をはっきりする人間であり、最初にギヨームに感じた嫌悪感とは全く別のものとして彼の研究を評価している。
 この男は自分の生み出すものの欠点を自分で把握しており、その分を守っている。理論は正しく、その実践も確かな結果を出している。それは賞賛に値することだ、というのがラルフの考えだった。

「なるほど。……すごいですね、あなたは」
「ありがとうございます。……まあ、この研究も今は完全に止めてしまいましたが」

 室内を見わたせば、なるほどケージの周囲をのぞき、室内のほとんどは埃をかぶってしまっていた。キメラの研究はすでに終えて長いことが伺える。
 キュルケはしばらくの間火を吐くサラマンダーもどきのイタチに見入っていたが、やがてこれらのキメラの本来の用途を思い出してたずねた。

「ねえ、そういえば最初に言ってた、グリフォンやマンティコアは作らないの? そういう合成獣を作って納めれば、うちのお父様はあなたのこと取り立ててくださると思うけど」

 その言葉にギヨームは少しばかり逡巡した様子だったが、やがて首を横に振る。

「私は今の生活が気に入っております。そういった道には興味がありません」
「そう、まあそれはあなたが選ぶことだから別に構わないけど。でももし……そうねえ、例えばお父様にキメラのグリフォンが欲しいと言われたらどうするの?」

 薄く笑いながらキュルケは意地の悪い質問をくり出した。普段から脇で見ているラルフは“ああ、またか”という微妙な気持ちで眺める。要するに、欲しくなったのだ、また。
 しかしギヨームはその言葉を額面通りに受け取ったようだった。苦笑いのようなものを浮かべて答える。

「ツェルプストー伯爵にですか……。もしそうなったら、従うしかありませんね。幸いキメラ・グリフォンは一頭おりますので、まずはそれを納めることになるでしょう」
「あら、グリフォンもいるの? ぜひ見てみたいわ!」

 興奮するキュルケとは違い、ラルフはおや、と思う。この男は世に出ることを嫌っているように見えたが、案外そうでもないらしい。本気で生涯隠者を決め込むつもりなら、伯爵から命令なんぞされたら行方をくらますだろう。むしろこの男は、「強く求められて」世に出たいのではないのか。そう考えると、何度も研究をやめたと強調するのも、賞賛され惜しまれることを期待したもののように感じる。
 そもそも始めから、ガリアのアカデミーに務めていたなどと言い出さなければ自分たちもそれほど気にかけなかった。アカデミーという場所は大抵の人の興味を惹くものだ。ただの流れ者の隠者だと思わせていれば、変わっているとは思いこそすれ、ここまで関わろうとしなかったはずだ。
 しかし同時にここまで辺鄙な場所に住まい、彼が人目を避けて生活をしていたのは確かなことである。立身出世に興味がないというのもあながち嘘とも思えない。してみると、惜しまれ、賞賛され、強く求められたいというのは彼の押し殺した本音といったところか。
 押し殺したはずの本音を漏らしてしまうのを無様とは思う。だがそれも人間というものだ。誰だって人の事は言えない。
 そのように結論し、ラルフはこれから見られるだろうグリフォンに期待しながら二人の後に続いた。




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 適当な登場人物としてガリアからの流れ者、キメラ研究の生き残りを捏造しています。サンプルの小キメラがしょぼい。もっとスゴそうなのを思いついたら入れ替えようと思います。




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