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No.14793の一覧
[0] 【習作】根暗男とハルケギニア【転生物、ゼロの使い魔】[bb](2011/05/14 23:14)
[1] 根暗男の転生[bb](2010/05/02 13:17)
[2] 夢のような日々[bb](2010/05/02 13:17)
[3] 夢のような日々2[bb](2010/05/02 13:17)
[4] 夢のほころび[bb](2010/05/02 13:17)
[5] 夢の終り、物語の目覚め(前)[bb](2010/05/02 13:17)
[6] 夢の終り、物語の目覚め(後)[bb](2010/05/02 13:17)
[7] 新しい日常[bb](2010/05/02 13:17)
[8] ラルフとキュルケの冒険(1)[bb](2010/05/02 13:17)
[9] ラルフとキュルケの冒険(2)[bb](2010/05/02 13:04)
[10] ラルフとキュルケの冒険(3)[bb](2010/07/14 12:44)
[11] 微妙な日常[bb](2010/10/15 12:23)
[12] 風の剣士たち(前)[bb](2011/02/06 04:10)
[13] 風の剣士たち(後)[bb](2011/02/06 04:34)
[14] 魔法と成長[bb](2011/02/07 05:41)
[15] フォン・ツェルプストー嬢の観察[bb](2011/05/31 21:46)
[16] 移ろいゆく世界[bb](2011/05/23 20:13)
[17] 決闘は、スポーツだ!(1)[bb](2011/05/26 22:02)
[18] 決闘は、スポーツだ!(2)[bb](2011/05/29 15:31)
[19] 決闘は、スポーツだ!(3)[bb](2011/05/31 22:29)
[20] 傭兵の週末、週末の傭兵[bb](2011/06/03 20:13)
[21] 狩りと情熱[bb](2011/06/08 22:10)
[22] あなたの胸に情熱の火を(1)[bb](2011/06/16 22:30)
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[14793] 夢の終り、物語の目覚め(後)
Name: bb◆145d5e40 ID:1ea3af11 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/02 13:17
頭上から緩やかなメロディが流れてくる。
『フライ』を唱え、出てきたところと思しきバルコニーを目指した。
バルコニーから覗く広間では、予想通り、紳士と貴婦人たちの華やかな舞踏。そろそろお開きだ。

「そろそろパーティも終わりね。ダンスには間に合わなかったけど、楽しかったわ」

横に追いついてきたキュルケが言う。

「ん……そうだね」

そろそろ終わりか。こんなに時間が経つのが惜しかったのは久しぶりだった。
窓の向こうで舞踏は続く。楽士たちは穏やかなメロディを紡いでいく。キュルケの横顔をちらりと覗いてみると、ちょうど目が合った。
なんとなく、同じことを考えていることがわかる。思わずふ、と小さな笑いが漏れた。
一応、こちらからがスマート、か。
精一杯の笑顔を作り、胸に軽く手を当て、一礼する。

「私と一曲踊っていただけませんか、フロイライン?」

キュルケは、少しばかり恥ずかしそうにしながらも『ええ、喜んで』と応え、差し出した手をとってくれた。



足場の無い空中で、手応えの無いステップを踏む。どうも難しいが、キュルケの方は安定してステップを踏んでいる。
一つ一つの動きがなかなか洗練されている。家柄による場慣れというものか、それともセンスの問題なのか。

「ねえ、ラルフ」

「うん?」

「遊びにいらっしゃいよ、今度。私も行くから」

顔を赤らめながら言うキュルケの表情が、やたらと可愛らしい。ああクソ、俺は今、絶対調子に乗ってる。乗ってるのはわかるのだが、どうにも止まらない。
ああ、ぜひ、と答えてキュルケに笑いかける。作った笑顔か、自然に浮かんだ笑顔か、もう自分でも分からない。

「遊びに来たら、私のハープを聴かせてあげるわ」

へえ、それは楽しみだ。そんな特技があったとはね。お転婆だけではないのか。
ホールから漏れるメロディは、変調してテンポアップ。慣れも手伝って、空中に刻むステップは次第に軽やかになっていく。
今夜の双月は重なって蒼い。月光に照らされた黒い森、灰色の城壁の上のダンスは、どこまでも幻想的に思えた。







夢の終り、物語の目覚め







「あー……何をやってんだか……」

昨夜のパーティについて、朝っぱらから絶賛後悔中である。何が『私と一曲踊っていただけませんかフロイライン』だ。死ね。恥ずかしすぎる。
何が『ああ、是非』だ。11歳のガキが気取ってどうする。せっかく友人ができたというのに、なんなの。何意識してるの。ほんと死ね。

「うあーうーがーあー……!! なーにを調子にのってんだ俺は!」

恥ずかしさと後悔のあまり奇声を上げてベッドをばんばん叩いてみる。ぼふっという感触とともに、最近ひどくなってきた成長痛で肘が痛んだ。
と、そこでドアがノックされ、名前が呼ばれる。

「どーぞー入ってー」

やる気の無い声でメイドを招き入れる。……手紙か。ひょっとして、いやひょっとしなくてもキュルケか。他に俺に手紙をくれる人間の心当たりなんぞない。
あちらへのお誘いか、もしくは遊びに来るという話かと、きちんとツェルプストーの赤い封蝋のされた手紙を開く。
果たして手紙はキュルケからのもので、内容は今度の虚無の曜日に遊びに来るというものだった。その日別段なにか予定があるでも無い。
ならばとペンを取り、歓迎の意を込めて返事をしたためる。手紙の返事を書いているだけのに、気分が昂揚しているのがわかる。
駄目だな、どうにも、浮き足立っているようだ。そう思って、ペンを放り出した。



少し冷静になって彼女のことを考えてみる。

キュルケはツェルプストーであり、ツェルプストーはゲルマニアでも随一の武人の一族だ。
しかるに、俺の両親が戦わない貴族であるというのはとちらかというと侮蔑の対象であるはず。
もしくは『守ってやっている』という意識で、どちらにせよやや見下す視線になるだろうと思われる。
それがないということは、キュルケにはまだ、ツェルプストーの一族としての強い自負や自覚がないのだろう。

物語としての『キュルケ』のほうの行動を思い出してみる。
アルビオン・トリステイン戦争ではトリステインの同盟軍であるゲルマニアも参戦した。
そんな中で彼女がトリステインの学院に残っていたのは、確か女性だから、だった。
彼女自身は参戦するつもりだったわけだが、まあ、このハルケギニアの戦争で前線に女をおくというのは、ちょっとありえないことだ。
いかに素晴らしい戦力であろうとも、もしも敗走して一般兵や傭兵に捕まりでもすれば徹底的に蹂躙されることになる、もちろん性的な意味で。
だから参戦できなかった。

そんなわけで、戦わずに学院に残っていると、同じく学院に残っていたコルベール教諭の意外な強さに彼に対する見方が180度変わって……というわけだったと思う。
つまり、当初はあまりよく思っていなかった。

うん、やはり、『キュルケ』は勇ましい女性であり、戦うことを渋るタイプに対し、いい目で見ない人物であるはずなのだ。
けらけら笑って『変わってるのね』なんていうのは彼女が彼女だからであり、キュルケが『キュルケ』ではないからなのだ。少なくとも今はまだ。
それは、俺にとってはとても大きなことだった。何もかもが『彼』の知っていた通りであるなどというのは、実に気持ちの悪いことだ。


ぱらぱらと『物語』や過去の知識の記されたノートをめくりながら考える。
きっちりと時期がわかっている出来事なんてのはほとんどないが、使い魔召喚の日にはルイズ・フランソワーズが平賀才人を召喚する。
『あんた誰?』が最初のセリフ。

これが目の前で繰り広げられる光景だったら、どうだろうか。
『彼』が一度か二度通して読んだ程度の小説に書かれていたとおりの出来事が起こり、そのとおりにルイズ・フランソワーズが喋る。
そんなのは、馬鹿馬鹿しいではないか。ルイズ・フランソワーズは、自由意志を持っているのか? まるで記号か人形のようではないか。

そういった意味で、彼女、キュルケが『彼』の知識を裏切ってくれたのは、俺にとってとても大きなことだった。
この世界は、『彼』の知識通りのものではないし、また、きっと変わってゆく。そう信じられるだけの何かが、初めてあらわれたような気がしたのだ。
俺は、誰かの書いた物語の一部ではない。『彼』の物語ではない。俺が生きているのは、これから生きて行くのは、他ならぬ『俺の』生なのだと。





キュルケへ返事を出したあとは、今日も今日とて魔法の練習。
五歳にしてラインとなったが、今は十一歳。もはや、俺はラインメイジとしてはほぼ完成している。才能の限界という感じはない。
トライアングルになれないのは、多分やる気と気持ちの問題である。アルベールも最近は俺の魔法の練習につかなくなった。
棒術の訓練に付き合った方がましだと判断したのだろう。
だが、一人でも、なんとなく日常の一部だった物を変えられず、相変わらず一日の半分近くを魔法の練習に当てている。
だいたい、これがなかったら他に何をしていいのか分からない。


まずは普通に『風』を重ねて『エア・ハンマー』を地面に叩きつけてみる。
強烈な風の槌がぶつかり、何度も放った『エア・ハンマー』で硬くなった地面を更に凹ませる。ラインの魔法としては、なかなかの威力だと思われる。
昔に比べればかなり上達した。
再び『風』を集め、今度は『火』を二つ重ねる。自在に操れる炎の塊を作る……ところで精神力の流れが途切れ、魔力が霧散する。
失敗。トライアングルスペルは未だ失敗続きだ。


精神力。強い気持ちとか、意志力とか、そういったものがあればいい、というのはなんとなく自分でも感じている。
だが、それは強い気持ちを持とう、なんて考えてやれるもんじゃない。きっと自分の中から湧き上がるものでなければならないのだ。
確固たる強い意志や気持ちを持つというのも、一つの能力だ。俺にはそれがないし、今のところそこまでこだわることもない。
一年前、二年前と比べれば次第に手応えは感じているし、ずっと練習を続けていれば、きっとトライアングルスペルくらい使えるようになるだろう。
以前はスペルが失敗する感触や、スペルに干渉する精神力が途切れて失敗した、などといったことはわからず、ただ失敗しているだけだったのだ。

あるいは時間をかけなくても、ひょっとすればだが、命の危機だとか、そういったものにでも追い込まれればそんな気持ちにでもなるかもしれない。
ならないかもしれないが。どちらかというと、自分では後者にベットする。まあ、考えても仕方のないことだ。そもそも俺はそんな状況に自分を置かない。

お前は死病で、一年後には死ぬと言われたって、『ああ、そうか』と思うだけだ。俺はそういう人間だ。


もう一度『風』。『フライ』を唱え、10メイルほど飛び上がる。そのままゆっくりと『フライ』をコントロール。
なるべく頭の中から『フライ』のコントロールを追い出す。意識的に風を操らず、半ば無意識的に。そのまま飛行を続けながら、『ウィンド・ブレイク』。
人が吹き飛ぶ位の突風が吹き起こる。少しばかり『フライ』の体勢を崩したかもしれない。

そのまま池の方に向かって『フライ』のスピードを上げながら、次のルーンを唱える。今度は『火』を重ね、ラインの『フレイム・ボール』。
棒杖の先に炎の球体が生まれ、それを池に向かって解き放つ。
炎の球体は狙いをたがわず水面に向かって飛び、……こちらは杖を振った拍子に大きく体勢を崩した。
くそ、落ちる。『レビテーション』で浮遊を……「レ、レビテーション!」……え?

声に視線を奪われた次の瞬間、ごしゃ、という嫌な感触が頭から伝わり、意識が飛んだ。





意識を取り戻すまでに、丸一日以上かかったらしい。
約10メイルの高さから、『フライ』の勢いもつけて地面に突っ込んだのだ。首の骨を折って死亡、と行かなかっただけ運が良かったという。
幸いにして、今回は前々世を思い出すといったことにはならなかった。

頭の傷はすでに水のメイジによる治療でふさがっている、母がかなり心配していた。
そんな話を、そばについていてくれたらしい父から聞いた。たしかに、首や肩が痛い以外はだいたい体に異常はない。

「『フライ』の失敗で落ちたと聞いたが?」

「あ、うん。そう……」

言いかけて気づく。俺は魔法の練習をしていたはずだ。ということは一人だったはず。誰が見ていた? 誰かいたのか? 
というか、どんな状況で落ちたのかよく覚えてない。

「あの、僕って誰が見つけてくれたんです? 一人で練習していたはずなんですが」

「ん? なんだ、『フライ』の練習をしていたのか。てっきり遊んでいたのかと思っていたが」

遊んでいた? めっちゃ魔法の練習してたんですけど。

「ツェルプストーのお嬢さんが血相変えて運び込んできたと聞いたぞ。なんだ、一緒に遊んでいたんじゃないのか?」

ツェルプストーのお嬢さんって、キュルケか。いつ来た。なんかどうも話が噛みあわん。伝言ゲーム状態だな。

「……彼女は?」

直接聞いた方が早い。

「泣きつかれて寝ていたから、隣の部屋で休ませたが……」

今はそこにいる、と顎で扉を示す。廊下にいるということか。

「ちょっと話を聞きたいんですが。僕自身、ちょっとどうやって落ちたのかよく分からない」

うん、と父は席を立ちながら、

「外すか?」

にやりと笑った。なんか誤解があるようだな。この年で逢引でもしてたと思ってるのか? まあいい、お願いします、と答えておく。
ときどきいるタイプで、父は理性的ではあるが、どうも勘が悪い。気の遣い方がおかしい時があるのだ。
なにやら父が勝手にニヤニヤしながら扉を開けると、そこに泣き顔のキュルケが立っていた。
『良く状況を覚えていないようだから、教えてあげてくれ』と言いながら父が出て行くと、おずおずと入ってくる。

「ラルフ、私、あの、遊びに来たら、ラルフが落ちるとこ見て、血だらけで、誰も見つからなくて。
 『レビテーション』が間に合わなかったから、ラルフだったら間に合ったのに、ラルフ運んで、私『治癒』使えないから」

落ち着け。泣くな。何を言ってるのかわからん。女の子はこれだから。少し笑いそうになる。

「ちょっと待って」

ぐすぐす泣いているキュルケを一旦止める。んー、要するに俺が『フライ』で落下するところを見て慌てて屋敷に運び込んだってところか?
それにしてもなぜいる。今日は虚無の曜日ではない。遊びに来ると言っていた日ではない……あれ? 
手紙を受け取ってからもう一日経ってしまっているから、ってそれでも虚無の曜日はまだだ。
……駄目だ、俺の頭も混乱してるな。状況がわからん。キュルケが落ち着くのを待って言葉を継ぐ。

「えーと、ごめんキュルケ。僕って、どうやって落ちた?」

「……え?……覚えてないの? 頭、大丈夫なの?」

頭大丈夫なのと来たもんだ。そのセリフにはものすごく突っ込みを入れてやりたいが、相手は真面目に心配そうな顔をしているので何も言えない。
ここは我慢だ。

「覚えてない。それに、キュルケは僕といっしょにいたっけ?」

「あ、えっとね、それは……」

キュルケの話によれば、昨日の午前中に僕の手紙を受け取ってすぐ、竜に乗ってうちへ来たのだという。
そして、使用人に尋ねたところ、俺が魔法の練習をしていると聞き、場所だけ確認して飛んできたらしい。

「それで見てたら、あなたが『フライ』を使いながら他の魔法を使ってるのを見て、びっくりしちゃって。
 そのまま見てたら、バランスを崩して落ちそうになったから……」

『レビテーション』を唱えたが間に合わなかった、とうつむく。


なんかだんだん思い出してきた。そう、最後はラインスペルを使って、使ったのは良いがバランスを大きく崩したのだ。
そして、レビテーションを使おうと思った瞬間に誰か、話からしてキュルケが『レビテーション』を唱えるのが聞こえ、驚いて気をそらした。
そしてキュルケの『レビテーション』は間に合わず、哀れラルフは頭から落っこちましたと。ゴシャッとな。
すごく嫌な感触がぶり返してきて、思わず右手を後頭部にやる。

……うん、まあある意味キュルケのせいだな。
キュルケは自分が間に合わなかったことを悔いているのだろうが、俺が自分で『レビテーション』を使っていれば間に合っていただろう。
『フライ』と他の魔法の併用の練習で落っこちかけるのは、最近の練習ではほぼ恒例のことだ。
当然失敗時のリカバリーは自分でやっているわけで、いつもなら『レビテーション』で軟着陸したあと、首を捻りながらもう一度『フライ』、となっていただろう。
しかし、こんなところでキュルケを責める気もない。俺がもう少し高く飛んでいればよかっただけの話だ。
あまり高いところを飛びすぎて屋敷の誰かに見られ、『フライ』と他の魔法を併用できることを知られるのも面倒だと、割と低い高さを飛ぶようにしていたのがいけなかった。
小さなリスクを避けるために無駄に大きななリスクを犯していたということだ。

結果、大きなリスクはみごと俺に返って来て、同時に小さい方も……って。

「ごめんなさい、わたしが……」
「あー、僕が『フライ』で飛びながら他の魔法を使ったこと、誰かに言った?」

五歳で杖を握り、ほとんど同時にラインとなって天才と騒がれた。
あれから六年が経ち、ずっと変わらずラインのままである俺のメイジとしての扱いは、今は『秀才』レベルに落ち着いている。
ここでまた飛行魔法と他の魔法を併用できるなんてことを知られると、またしても妙な期待が高まることになる。

「え? ……っと? 言ったかしら……?」

キュルケは首を傾げる。

「たぶん、言ってない……と思うわ」

しっかりしてくれ。ってまあ、慌てていたなら、何を言ったか憶えてないかもしれんな。
そう考えれば、そんな状態でうまく説明できたとは思えん。つまり、多分だが、誰にも伝わってはいない。

「悪いけど、それは誰にも言わないでくれないかな」

「どうして? すごいことでしょ?」

まあねー。
まぐれでつかんだ感触だったとはいえ、物にしつつあるのは俺の努力の成果だ。

「ええっと、なんて言ったらいいかな、そんなことができるって知られたら、また魔法の練習がうるさくなるから、かな」

「あー、そういうことかぁ。うん、わかった、秘密にするわ」

おお、あっさり納得した。

「私もね、最近魔法の練習が大変なの。今までは魔法で遊ぶくらいだったのに、もうすっっっごく厳しくなって。
 ラルフから手紙の返事が来たから、それで早く城を出たくって遊びに来たの」

まあ、俺に逢いたくて仕方がなかった、なんてのは期待してはいなかった。軍隊式の訓練がきつくて近所に逃げ出してきたか。

「ああ、なるほど。ツェルプストー家だと、うちよりも確実に厳しそうだね」

厳しそう、ではなく厳しいに違いない。
お気楽お転婆で、見るからに才能だけでラインになったような今のキュルケが、魔法学院に入学するまでにトライアングルとなり、高速詠唱を物にし、軍の戦い方と心構えを身につけるくらいには。考えてみるとツェルプストーすごいな。そして俺はキュルケに追い抜かれそうだ。

「そうなのよ。この前なんかね……」

ツェルプストー家の魔法訓練について語りだすキュルケ。
うん、聞けば聞くほど、マジでツェルプストーすげえ。杖の振り方一つで鞭が飛ぶって何よ。厳しすぎるだろ。俺なんて剣杖はともかく、杖術なんか我流だぞ。

「はあ……ほんとに厳しいな。俺なんて半分我流だよ? それに、魔法を放つときの杖の振り方まで指導されたことはないし」

つーかそんな型のようなものがあることさえ知らなかったよ。
「こんな感じ」とキュルケがワンドを取り出して振ってみせるが、なるほどどこか洗練された動きに見えなくもない。

「まあ、逃げ出してくるならうちはいつでも歓迎するよ」と、笑って言ってみるが、

「うん。でも、これからは少し真面目にやるわ」

そう言って、キュルケは初めて見る、少し硬い顔つきになった。

「うん? どうして」

「あのね、ラルフ、あなた、私が『レビテーション』を唱えなかったら、落ちなかったんじゃない?」

「……ああ、まあ、たぶん」

気づくか。確かに、少なくとも今は、彼女の魔法は俺より『遅い』。

「私が余計なことをしなければ、それか、私の魔法が間に合えば、落ちなかったのよね」

「いや、別にキュルケは何も悪くないよ。俺がもう少し高く飛んでれば良かったと思う。結果的に大したことはなかったわけだし」

というか、何も予期していない状態からとっさに魔法を唱えられた機転がすごいと思う。俺なら無理かも。

「大したことないことないわよ! あなた、ボールみたいに跳ねてって、血まみれだったのよ!? 
 今は治療が済んでるけど、すごい血まみれで、もう、こっちが死ぬかと思ったのよ!」

あなたは死にません。落ち着け、言葉が変になってる。

「だから、もう少し真面目に魔法の練習もするわ。水の魔法も、私には向いてないだろうけど、少しは覚える」

決然と拳を握るキュルケ。なにやら彼女の目に火が灯っているような錯覚を覚える。
そんなに魔法訓練に一生懸命になることもないと思う。たまには逃げ出しても良いと思う。

「あー、でも、遊びに来てくれたのは嬉しいからさ、魔法の練習を抜け出すなら、また遊びに来て欲しいな、僕は」

「あら、それはもちろん」

サラリと答えて笑顔になる。切り替えの早さがすごい。こっちがついていけなくなりそうだ。

「別に訓練に飽きた時じゃなくても、遊びに来るわ。あなたもよ、ラルフ」

あっさりと言われたその言葉に、ちょっとぽかんとしてしまう。
なんというか……彼女は、ほんとうに、とても魅力的だと思う。俺が密かに期待した言葉を、さらりと言ってのける。

「……うん、行くよ。ハープを聴かせてくれるんだろ?」

ハープを奏でるキュルケを想像して、きっと女神みたいに綺麗だろう、と思った。





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キュルケをなるべくキャラ崩壊を防ぎつつ魅力的に描くべく苦心惨憺しました。どうでしょう?

キュルケにとってはラルフ君は多少フラグを立てられたとはいえ、友達の一人です。
ラルフ君にとっては女神になりつつあるかも。



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