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No.14793の一覧
[0] 【習作】根暗男とハルケギニア【転生物、ゼロの使い魔】[bb](2011/05/14 23:14)
[1] 根暗男の転生[bb](2010/05/02 13:17)
[2] 夢のような日々[bb](2010/05/02 13:17)
[3] 夢のような日々2[bb](2010/05/02 13:17)
[4] 夢のほころび[bb](2010/05/02 13:17)
[5] 夢の終り、物語の目覚め(前)[bb](2010/05/02 13:17)
[6] 夢の終り、物語の目覚め(後)[bb](2010/05/02 13:17)
[7] 新しい日常[bb](2010/05/02 13:17)
[8] ラルフとキュルケの冒険(1)[bb](2010/05/02 13:17)
[9] ラルフとキュルケの冒険(2)[bb](2010/05/02 13:04)
[10] ラルフとキュルケの冒険(3)[bb](2010/07/14 12:44)
[11] 微妙な日常[bb](2010/10/15 12:23)
[12] 風の剣士たち(前)[bb](2011/02/06 04:10)
[13] 風の剣士たち(後)[bb](2011/02/06 04:34)
[14] 魔法と成長[bb](2011/02/07 05:41)
[15] フォン・ツェルプストー嬢の観察[bb](2011/05/31 21:46)
[16] 移ろいゆく世界[bb](2011/05/23 20:13)
[17] 決闘は、スポーツだ!(1)[bb](2011/05/26 22:02)
[18] 決闘は、スポーツだ!(2)[bb](2011/05/29 15:31)
[19] 決闘は、スポーツだ!(3)[bb](2011/05/31 22:29)
[20] 傭兵の週末、週末の傭兵[bb](2011/06/03 20:13)
[21] 狩りと情熱[bb](2011/06/08 22:10)
[22] あなたの胸に情熱の火を(1)[bb](2011/06/16 22:30)
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[14793] 夢の終り、物語の目覚め(前)
Name: bb◆145d5e40 ID:5ca4e63a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/02 13:17
キュルケ・~(不明)~・ツェルプストー


【概略】
 火の色の髪、瞳、褐色の肌。長身、グラマラスな体型。ゲルマニアからの留学生※1。   『火』のトライアングルメイジ。二つ名『微熱』。ガリアからの留学生『雪風』のタバサとは、一年生の始めに決闘騒ぎを起こして以来親しい。ルイズ・ラ・ヴァリエールとは寮で部屋が隣同士。ルイズからはトリステイン・ゲルマニア国境をはさむ両家の関係※2から敵視されているが、本人はルイズを敵視してはいない。むしろ、やたらと突っかかる彼女をからかって楽しむ、かわいがるといった風に扱っている。


【能力】
 軍人の家系で、本人も強力なメイジ。詠唱が速いといった描写もあった。物語中ではあまり戦闘を描かれることは少ないが、戦力はトライアングルメイジとしても比較的上位に入ると思われる。実戦経験などの面ではやや乏しくうつるものの、戦略的には誤った判断を下すことは少なそうである。魔法は主に『ファイアー・ボール』、『フレイム・ボール』などを使用。


【性格】
 情熱的な性格? で、夜な夜な学院の生徒を自室に連れ込むなど、男遊びが盛ん。少しばかり良い男と見るとすぐに手を出す傾向がある。ルイズの使い魔、サイトがいいところを見せるとすぐに『ダーリン』などと呼び始めるなど※3。その後アルビオン・トリステイン間の戦争中、学院に残っている際にジャン・コルベール教諭の勇姿に惚れる。こちらは他の例と違い、一途に思いを寄せているようである。また、その後彼に対し家の財力で積極的に援助を行っている。
 面倒見が良いほうらしく、タバサ・ルイズ・サイトに対してはよく世話を焼くようなところがある。

 総じて、ゲルマニア女性の『らしさ』を良い方向へ強めたような性格であり、また陽性・善良なタイプ。




※1 ヴィンドボナ魔法学院で何か問題を起こし、中退の後にトリステイン魔法学院へ入学。
※2 両国間での戦争時は、国境をはさむ両家がぶつかり合う。またツェルプストー家の女性が、ラ・ヴァリエール家の男性を寝取ったり、婚約者を奪ったりといった過去があった。
※3 ただしこれは他の男子生徒との関係を切っているわけではないので、ルイズへのあてつけ、からかいといった側面もあったかもしれない。










夢の終わり・物語の目覚め











 以上のようなものが、極秘資料・ラルフの物語ノートの登場人物・『キュルケ』に関する情報である。主要な人物のひとりである割には、情報は少なめ。その理由は、このゲルマニアという国が始祖に連なる国ではないからだ。即ちこのハルケギニアで虚無と、虚無に関わるものたちから、最も遠い。

 何の因果かこの『物語』の登場人物たちと同年代に生まれてしまったようだが、はっきり言って俺はトリステイン魔法学院へは行きたくない。更に言えば、このまま普通にいけば行くこともない。ヴィンドボナの魔法学院に入学するのが妥当だろう。それどころか、今のところ父から魔法学院という言葉が出たことすらない。
 だが――それはなんとなく、気に入らないのである。
 実際、トリステインへ行きたいという気持ちもないわけではない。
 それは野次馬根性のようなものかも知れないし、自分には届かないと知っているはずの英雄願望のようなものかも知れない。
 しかし、なによりも。
 自分の知らないところでこの世界の趨勢が左右され、しかもそれを自分があらかじめ知っているというのが、気に入らない。かなり重要な事情をいくつか知っているからこそ、それが起これば確実に精神を揺すぶられる事になるだろう。ならば、手の届く範囲でそれが起こった方が都合がいい。自分が関わるかどうかは、その時選べばよい。何もしないということもできる。
 もちろん、何も起こりはしないという可能性だって十分にある。あるのだが、この足元のおぼつかない世界で、俺にとってあの『物語』はもう既にほぼ確実な未来として実在感を持ちつつある。

 ――同時に、ならばますます行きたくない、絶対に関わってなどやるものかと気持ちもむくむくと大きくなる――。

 そんな『物語』の主要な人物たちの中で一人だけ、俺がトリステインに行こうがヴィンドボナに行こうが、『物語』に関わろうが関わるまいが、どちらにせよ関係を切る事ができない人物が一人だけいる。それがこの『キュルケ』である。なにせお隣の領地だ。
 フォン・マテウス領内直轄地の治安管理や人手出しなど、父の仕事に手伝いで参加するようになってから気付いたことだが、結構ツェルプストー家からの依頼は多い。
 我がフォン・マテウス領はトリステインとは国境を接しないが、その国境からフォン・ツェルプストー領に守られるような形で国内側にある。事実上、というか父の代に至っては完全に守ってもらう形となっているため、ツェルプストー家には頭が上がない。そのため、ほとんどお使いのような形でツェルプストー領の用を片付けるようなことがあるのだ。この程度で済ませてもらえているだけ、ありがたいというものかもしれない。
 そこツェルプストー領でも、フォン・マテウスに近い場所なら何かあったときに出張るのはうちというわけだ。そんな風に、ツェルプストー家から依頼という名の指示が、しばしばあったりする。
 三代か四代前には血も入っているという。ツェルプストーという巨星に対し、こちらはいわば衛星貴族とでもいったところ。ひとことで言えば、ツェルプストー家が上、我が家が下ということである。この関係は将来的に自分と『キュルケ』およびその兄に対しても当てはまりかねない構図であり、こればかりは他人事では絶対にすまされない。即ち『キュルケ』に対しては、彼女がどこか他の貴族の下へ嫁ぐまで、彼女が上、俺が下となってしまう可能性があるのだ。


 近く、ツェルプストー伯の誕生日を祝うパーティーがあるのだという。
 先にあげたような背景があるため、この数日は特にテーブルマナーにうるさい食事をとっていた。おまけに平時の所作まで細かく指示される始末。とどめに王子様のようなシャツを仕立てられ、もう閉口ものである。王子様フリルのシャツで鏡に映った自分には、正直引いた。
 しかし、ツェルプストー家へ行くということは、あの『キュルケ』とも顔を合わす可能性がきわめて高い。遅かれ早かれそういう機会はあると思っていたが、案外遅かったというべきか。作法云々のことを考えれば、ある程度の年齢は必要なのだろう。母が身重であるため、今回は父と二人での訪問となる。
 これが、『物語』との、初めての接触だ。特別緊張することもないはずだが、ちょっとした感慨を抱いて父と馬車へ乗り込んだ。




 ツェルプストー『城』。うちのような要塞的な守りも出来る屋敷というわけではなく、文字通り“城”である。ごてごてとした外観は、砦という言葉のほうがイメージが近い。がたごとと馬車が門をくぐると、執事姿の男がお出迎え。細かく見てみれば、その執事の着ているものの品質からしてうちとは違う。金というものはあるところにはあるんだな、と思わずにはいられない。
 屋敷に入ったところでツェルプストー伯一家のお出迎えだった。伯爵夫妻、かなり歳の離れた長男らしき青年、そして『キュルケ』。
 おお、子爵! などとお約束を熱くやっているのを横目に、あまりやる気がなさそうに突っ立っている『キュルケ』を密かに観察する。

 話では1つ年上。だが、背では10サント以上違う。結構な長身の少女だ。
 褐色の肌、火のような赤毛に、赤い瞳。自分や父の髪の色からして赤紫だし、もういい加減慣れたが、このハルキゲニアでは実にカラフルな毛色、眼色であふれている。金髪が最も一般的だが、赤毛もそう珍しくはない。そして、地球人の赤毛のように、肌が弱くてそばかすだらけなんてこともない。本当に炎が燃え立つような色をしている。
 体型はノートに書かれていたようなグラマラスというほどのものではない。むしろ少女らしいつつましい凹凸だった。結構な身長があるが、ここからまだ伸びるのか。体型も今後変わっていくのだろう。
 しかし、まだ『可憐』という言葉が似合う年齢と容姿なのに、どこか大人の魅力のようなものを漂わせつつある。こういうのをロリータ、ニンフェットと言うのだろうか。未だ妖精のような可憐さを持ちながら、妖しい魅力で翻弄する。そんな雰囲気がある――。


「子爵の息子も大きくなったな。キュルケ、パーティーの間は、お前が一緒にいてあげるといい。子供には退屈なものだからな」

 観察していたら、伯爵が余計なことを言いだした。一つ年下だから、面倒を見てあげなさいってか。まあ、確かに明らかに向こうのほうが大きい。キュルケは確か面倒見の良い子だったはずだが、こちとら中身はとっくに30越えている。あれこれ構われても面倒である。
 それに多分、キュルケのようなタイプと自分は、きっと、合わない。それどころか彼女の興味を引かないだろう。こちらとしても、情熱的な性格で~なんていうのは、苦手だ。

「今日はどうかよろしくお願いします」

 と定型のご挨拶とともに彼女にも頭を下げ、その場を辞した。



 しかし、あれが『キュルケ』か。
 『物語』の主要な登場人物であるキュルケだが、その中で彼女は最も中心から遠い主要人物である。だから、彼女に対してのアクションはとりたてて考えてはいない。まあせいぜい、嫌われないようにしたい。うまく行けば、よき友人となって欲しい。その程度だ。

 これまで、俺には俺としての友達というものがいなかった。
 屋敷の使用人の子達などの相手をすることも少しはあったが、あまりの精神年齢の違いからついつい面倒を見る保護者と子供という構図になってしまい、親である使用人から恐縮されることしきりだった。同年代の友人というものはない。かといって大人は相手をしてくれない。平民や衛士たちは『ラルフ・フォン・マテウス』である自分にかしこまるし、たまに訪問がある貴族たちは子供の相手などしない。俺には、自分を隠さずに普通に口を利くことができ、普通に口を利いてくれる人間がいない。今のところ両親だけだ。

 貴族であるということは、立場に縛られるということだ。この五年でよくわかった。このゲルマニアにおいても、その事実ははっきりとしている。父などはそれを可能な限り避けているが、やはり本質的に貴族だ。そして、この自分もしかりなのである。
 平民に生まれればよかったとは思わないが、それでもその貴族らしい縛りが鬱陶しく感じることは多い。

 要するに、自分は寂しいのだと思う。

 『彼』の記憶を持ち、自分が誰なのかも今ひとつ納得できない。『彼』であったこと、そして『彼』であったときのことは、決して誰にも話さないと決めている。それはこの世界に生きる者たちに対する、そして何よりもこの世界に死んでいったすべての者たちに侮辱であると思う。
 自分のようなものは、決して他にいまい。いったいどれだけ奇跡的に頭の打ち所が悪ければ自分のような状態になるというのだ?
 だから、自分は、この世界で本当に一人きりなのだと、ときどき思う。
 家族はいる。自分を愛し、守り、育ててくれた。感謝しているし、尊敬もする。自分が歩く道先を整えてくれた使用人達もいる。だが、肩を並べて歩くような友人はいない。
 ――きょうだいが出来れば、そうなるだろうか? そうは、ならないような気がする。
 だから出来れば、『キュルケ』、彼女は、たとえ物語の人物だろうがそうでなかろうが、対等に、普通に話が出来る関係が作れたらと思っていた。




 しばらくして始まったパーティーはつつがなく進行した。
 伯爵が集まったみなに礼を言い、ワインを振舞う。会場の貴族達は思い思いの相手と会話を楽しむ。父はツェルプストー伯爵と話しこんでいた。
 伯爵ととりわけ仲がよいというわけではなく、会場に集まった他の貴族達と馴れ合いをするつもりがないだけだろう。かったるい馴れ合いなどは嫌いなのだ。
 伯爵位や侯爵位の貴族も参加しているが、自分より爵位が上だからと言って別におべんちゃらを使う必要もない。軽く挨拶だけしておけば、別ににらまれることもないだろう。
ツェルプストー伯爵だけは、知らない仲でもない、同時に親戚でもあるということで普通に話をしているだけだ。
 父の事は、どうもよくわかってしまう。自分のように後ろ向きな性格をしているというわけでもないようだが、どうもものの考え方が似ていると思う。


 対してこちらは、ぼおっとすることしきりだ。
 父の傍で一通り広間を見渡しても、自分と同年代の子供はいなかったし、誰かが相手をしてくれるということもあまりなさそうに思える。唯一の同年代である例のキュルケ嬢は最初のご挨拶で伯爵がなにやら言っていたが、別に声をかけて来るでもない。会場を見渡しても、どこにいるのかわからなかった。
 わざわざ探すのも面倒だ。そのまま一人でいることにした。そうしたら、今までまったく誰とも話もしないままとなってしまっている。バルコニーの脇、会場の隅に一人で移動して、誰も席についていないテーブルででムシャムシャと生ハムとはしばみ草をほおばる。生ハム・はしばみ草のコンビネーションは最強とはいえ、さすがに腹も膨れてきた。はっきり言って、退屈である。


 と、そんなところへ赤毛の少女が歩いて来るのが視界に入った。件のお嬢様だ。テーブルのそばまでやってきた彼女は、片手でその燃えるような髪をかきあげ、半目で見下ろしながら投げやりな調子で一言を放った。

「退屈なの?」

 うわあ……。という気持ちになる。
 向こうもさしてこちらに興味があるわけでもないのだろう。伯爵から言われていたから一応声をかけた、といったところか。
 自分はハルケギニアの人間らしくけっこう顔立ちは整っているほうだとは思うが、当たり前ながら一目で魅了するような『いい男』ではない。当然彼女の興味も湧かないわけだ。 自分の身長145サント。おそらくこの会場で一番小さい。160サントくらいもある彼女からしてみれば、年下の、幼い少年、としか映らないのだろう。
 精神年齢的には彼女の3倍以上になるのだがな。そんなところで比べても仕方がない。

「うん、まあね。こういう場はあまり慣れなくて。やっぱり、外で体を動かしてるほうが好きだよ」
「あら? そうなの、あたしも外に行きたいと思ってたのよ。一緒に行きましょ、『フライ』は使える?」

 突如変調して明るい調子になったキュルケは、返事も確認せずに踵を返し、バルコニーから飛び立つ。

「おいおい……」

 すばらしいマイペースぶりである。慌てて懐から予備の杖を取り出し、『フライ』を唱えてバルコニーから飛び出すが、視界にキュルケがいない。

「こっちよ!」

 後ろ上方から声。
 振り返って見れば、既に随分離れた場所を飛ぶキュルケの姿がある。風をコントロールしてそちらへ向かい始めると、すぐにキュルケは背を向けて進み始めた。
 追うが、なかなか追いつかない。向こうはかなり飛ばしていると見える。風メイジの自分が、全力を出しているわけではないとはいえ中々追いつけない。大したものだと思う。

「追いつけないの―――!?」

 ……なかなかナメたお嬢さんである。本気で追う。
 魔力を思い切り使い、風を集めて、スピードを上げる。
 一気に距離を縮めて―――あと少し―――。

「捕まえた」

 後ろから抱きしめてやる。うん、やわらかい。気持ちいい。手間かけさせやがって、これくらいは役得というものだ。

「…っちょ、ちょっと、恥ずかしいじゃない」
「え、うん、今放す。下に降りよう」

 ……しまった。変なフラグを立てることになったか? ちらりと横顔を見ると、ものすごい恥じらいの表情になっている。

 あれ。

 いかん。本気でかわいい。こっちまで少し顔が熱くなる。今、キュルケは人生で一番美しい時期だったりしないよな?
 可憐な少女から『女性』へと成長し始める時期に差し掛かりつつあり、同時に年相応の恥じらいとやんちゃ振りを発揮するこのキュルケは、ちょっと反則過ぎる気がする。
 ナボコフもびっくりのロリータぶりだ。ロ、リー、タ。わが肉のほむら。キュ、ル、ケ。

 ……アア、思考が拙い方向へ行っている。

 そのまま、二人して顔を赤くして下に降りることになった。





 少し熱くなった頬を冷ましながら話す。

「あたし、キュルケよ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。あなたの名前、なんていうんだっけ? そういえば、聞いてなかったわ」
「ラルフだよ。ラルフ・フォン・マテウス。お隣の領地の小貴族の家だよ。さっきは声をかけてくれてありがとう。本当に、何もすることがなくて退屈するところだったよ」

 ほんとにな。あのままじゃはしばみ草で腹を壊しそうだった。うまいことはうまいのだが……。苦味の強いサラダを延々と食べ続ければどうなるか、結果は見えている。

「ラルフね。あなた、風のメイジなの? すごい速さだったわ。あたし、結構本気で『フライ』を使ったのよ」
「そうだよ。火も結構得意だけどね。大体同じくらいで。でも、最近はやっぱり風のほうが得意かな?」
「へえ。あたし、火のラインよ。それにしても、すごいじゃない。あなたも『ライン』でしょう? 二つの系統を同じくらい得意にしてるなんて! きっと、ラルフのご両親は優秀なのね?」

 朗らかに聞いてくるキュルケ。両親ね……。才能(血)自体は優秀なんだとは思う、二人とも。しかし、貴族としてどうかといわれると若干疑問だ。

「立派……なんだと思うよ、たぶん」

 正直、貴族的な意味では立派じゃあなかろう。領民からすれば立派な領主様なのだが、戦場に立つツェルプストーの一族からすれば、とても立派とは言えない両親だ。自分は尊敬してるが。
 そんな俺の躊躇にすぐに気づいて、キュルケは軽くまゆを寄せた。

「どうしたの、その歯切れの悪い答えは?」

 俺は両親のことを説明してみた。
 クラス、血統的には優れているが、出世や金銭に非常に消極的で、戦場に立たない、一般的視点から見て、ゲルマニア貴族としてはとても『立派なかた』ではない父。
 そんな父に魔法学院卒業と同時に攫われるように結婚し、社交界にも出ずに満足している母。そして、もうじき生まれる下の子供。
 うちは、上昇志向の強いゲルマニア人においては、非常に珍しい貴族家庭である。
 話が進むにつれて、相づちを打つキュルケの顔は険しさが抜けていく。

「あっはっは! 変わってるのね、あなたのご両親って!」

 キュルケは、意外にも笑った。軍人として固まった頭をしている一族なら、蔑みの対象となることも考えたのだが、そうではなかったようだ。なんだか安心して、それからしばらくの間他愛のない日常や、今日のパーティに参加していた貴族たちの話が続いた。彼女とは案外、つまらない話でも結構話が合う。話す前に考えていた先入観は、本当に勘違いだったようだ。
 彼女はまだ無邪気なところを残す明るく朗らかな子供で、まだ、あの物語の『キュルケ』では、ない。面倒見がよく、優しく、男遊びが盛んで、いざとなれば烈火のごとく戦う『キュルケ』では、ないのか。それは、俺にとっては、とてもとても大きなことで。
 なんだか感動して、少しだけ目が潤んだ。

「……ねえ、キュルケ。良かったら、僕と友達になって欲しいんだけど」

 なるべく真剣であることが伝わるように、普段は見ないで話す相手の目を見つめて言う。捨てられた子犬のような気持ちで、断られるのが不安な気持ちを隠さずそのまま視線に乗せてみる。
 そんな打算を吹っ飛ばすように、キュルケはどきりとするような花咲く笑顔をこちらに向けた。

「あら、もう友達でしょう、あたしたち?」

 俺は、ハルケギニアに初めて友を得た。





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