「私、あの赤い娘きらい」
夕食後、部屋で本を読んでいてふと目を上げたとき、綿を敷き詰めた籠の中で寝ていたイェッタが急に言った。
「――ああ?」
ちょうど今日の決闘観戦の時のことを考えていたのがイェッタに読まれたと気づいて、ラルフは一気に不機嫌になる。赤い娘、というのはキュルケのことだ。目をこすりながら体を起こしたイェッタを睨みつけて、何が言いたい、と促す。
「ううん違った、赤い子は好き。私たちにちょっと似てるのよね。それにとっても優しいし」
「お前はもう少しバカを治してから喋れ。意味が分からん」
「あの赤い子といるときのあんたがきらいなの」
イェッタはぴっとラルフを指さしてそう言った。
「だってあんた、あの娘がいるとすごくドロドロした気持ちになるじゃない。好きなくせに、変なの」
「……もういい。寝てろ」
イェッタはあまり頭が良くないので、騙したりするのはわりと簡単だ。しかし、心が読める彼女には、特にこういった感情面では嘘をつくことは不可能である。そのためラルフはこういう反応しか出来なかった。しかしイェッタは聞かず、彼が聞きたくなかった言葉をはき出す。
「あの赤い子が他の人間の男と一緒にいたりするとすごいよね。なんでもないような顔しちゃって、あんたはあの娘がいると嘘ばっかり。気持ちと顔がぜんぜん違うの」
キュルケは基本的に来る者拒まずの態度なので、大概の男子生徒からのデートの申し出は受けている。ときどきラルフもそれを見かけていたし、行き会ったこともある。見ても別に何もしなかったし、連れ立って歩く彼女たちに会えばごく普通に挨拶をしたりしていた。そういう時の心情を見透かされているのだ。
「ばらばらにされたくなきゃ黙ってろ」
脅しの意味を込めて視線をかたわらの剣にちらりとやって言うが、イェッタはひるまない。
「ふふん。私はそんなの効かないもんね。あー今も、あんたの心はドロッドロよ」
くらーい、きもちわるーい、と言うだけ言って、もそもそとまた籠の中に戻る。籠ごと窓の外にたたき出そうかと考えたが、気が変わってラルフは剣を片手に部屋を出ることにした。言われるまでもなく、今の精神状態はドロドロだ。このところさぼりがちな剣でも振って、気持ちを切り替えたほうが良さそうだった。
けんをとるせんゆう/決闘は、スポーツだ!(2)
視線を床に落としたままばたんと勢い良く部屋を出ると、すぐそこに人が立っていてラルフはぎょっとした。相手も驚いたように向き直り、杖を構えて間合いを広げるように飛び下がったので慌てて剣を握る手に力を込める。
「……なんだこの部屋の奴か。なんか無駄にビビッちまった」
苦笑しながらそう言って姿勢を崩したのは、灰色の髪をした長身の生徒だった。手に持った銃剣ですぐに誰か分かる。昼間の決闘で見た同じ新入生、クラウスである。たしかキュルケのクラス。改めて近くで見ると、本当に野性味ある雰囲気をしている。顔立ち自体は美形中の美形と言ってもいいのだが、峻険な顔つきは他の新入生と比べると同学年だというのが信じられない。むしろ貴族に見えないほどだ。
おそらく先程の動きは、殺気立って部屋を出てきたラルフに反応したのだろう。馬鹿馬鹿しくなってラルフも緊張を解いた。
「あー、君は……ヴォルケンシュタイン?」
「クラウスでいい。お前は?」
いきなりお前呼ばわりされたことには驚いたが、なんとなく相手の人柄を把握できた気がしてラルフは特に気にしないことにした。
「ラルフ・フォン・マテウス。……ラルフでいい」
「うんお前だな。噂の悪霊憑き」
既に名前を知られていたのも驚きだが、いつの間にか肩書きが気狂いから悪霊憑きにランクアップしている。離れたところでひそひそと交わされる噂話にうんざりしていたのも事実だが、こうも直接言ってくるとは無礼なのか、よく分からない。少なくともありがたい話ではなかったが、ラルフは少々毒気を抜かれた。
「――一応聞くけど、なにそれ」
「なんか良くわからんが、訳の解らんことをするとか。あとこの辺がおかしいって話だな」
そう言ってクラウスは周囲を手で指す。
「ん? この辺?」
「このフロアでは妙なことが起こるらしい。特にお前の部屋の近くで。なんか幽霊がいるって話だぜ? で、お前が憑かれてるとか」
間違いなくイェッタの仕業である。彼女のいたずらは主にラルフのものとして認識されるが、彼が近くにいなければその限りではない。単純に自然現象などとして見られることもあるが、本当に幽霊の幻を見せたりもできるようなのでそちらかも知れない。
頭に来た時にイェッタを部屋からたたき出したりしているのが原因だろう。それしか考えられない。「おばけだぞー!」などと言いながら通りがかった生徒に妙な幻を見せるイェッタを想像して、ラルフは頭を抱えたくなった。ありえる。
「ちっ……」
「なんだ心あたりがあるのか」
思わず舌打ちしたラルフに、クラウスは面白そうに言う。
「いや、別にない」そう言って、出てくるんじゃねえぞと心の中で言いながらラルフは自室の扉に『ロック』をかけた。「で? あんたは何をやってんの」
その質問に、クラウスは微妙に照れくさそうな顔をした。
「いや、幽霊出ねえかと思ってな」
「出ねえよ」
思わず勢いで突っ込んでから、何をやってるんだ俺は、とラルフは急激に冷静になった。クラウスが本当に幽霊が出るのを見たいのだったら今日は『外れ』だ。イェッタが出てくることはもうないと思うが、別に自分には関係ない。まあ本気で張り込めばそのうち見れるかも知れない。退治などは不可能だが、できるものならやって欲しい。
「ま、頑張って」
ひらりと手を振ってその場を後にするが、クラウスはラルフについてきた。
「剣の稽古か。付き合うぜ?」
「いや、――ん……まあいいか。じゃあ一つ頼む」
「おう」
断りかけて昼間に見たクラウスの銃剣さばきを思い出し、ラルフは軽く手合わせを頼むことにした。彼の腕は恐らく自分よりも上だ。出来れば一人でやりたい気分だったが、そういう相手がいるなら付き合ってもらって損はない。「幽霊はいいのか」と聞こうかとも一瞬考えたが、この男がもともと幽霊など本気で信じていたとも思えなかった。
「剣……」
かつかつと階段を並んで降りながら、ふと思い出したように、クラウスはラルフの手の剣を指さして言った。
「悪霊の宿った魔剣とか?」
「あるわけないだろ」
ただの練習用の剣をさして言われた言葉にラルフは思わず苦笑する。だよな、とクラウスも笑った。
「まあマジで幽霊が出るとは思っちゃいなかったけどな。お前もどう見ても悪霊憑きには見えないし」
「そう見えると知って安心したよ」
そこからは黙って階段を降りる。きしむ扉を開けて寮塔から出ると、すっと夜気が広がった。裏に回ってこういう時に使える場所へと移動する。
「さて、やるか?」
獰猛な笑みを浮かべて銃剣の杖を掲げたクラウスに、ラルフはああやっぱりこいつはこういう男なのか、と納得しながらひきつりそうな半笑いで応えた。昼間の決闘の戦い方、さっきから横でうずうずしたような気配を出していたのと併せてなんとなく感じていたが、これはいわゆる戦闘狂というやつなのではないだろうか。初めて見る人種だが、相対してみるとかなり怖いものがある。
こいつと打ち合うのかと思うと冷や汗が出るような気がしながらも、とりあえず平常心を取り戻し、剣に集中するためいつも通りの行動を心がける。
「――まあ待て。準備運動とストレッチからだ」
「む? なんだそりゃ」
「お前も付き合え。まずは――」
□
とにかく疾い。靭い。剣戟を重ねて得たクラウスの印象はそんな感じだった。一撃一撃が速く重く、先手先手を行く。あっという間に押し込まれてしまう。動作の起こりを隠したりする武道的な思考を取り入れた理屈重視のラルフの剣とも、天性の閃きで意の外から繰り出すフェリクスの剣とも違う。いわゆる実戦派というところだ。寸止めとはいえ獰猛に繰り出す突きの一つ一つが必殺の気配を漂わせており、ラルフはかなりの緊張感を持ってやり合うことになった。
銃剣という武器は、基本的に間合いが一歩開いたときに銃口をこちらに向けさせてはならない筈だ。それを併せて考えると、本気で剣を振るいどうにか凌げたように見えるやりとりは、実は全て一本取られていることになる。しかも、それでもクラウスはそれなりに加減をしてくれているようだった。後半は一本取らせてくれた、というようなのが多かった。
「今日はこれで終わりにさせてくれ。……いや、強い。かなわないな。疲れた」
体力的にはまだ十分余裕があるが、なんというかプレッシャーが強い。受けに回ってしまうため精神的に疲れるのだ。ラルフが音を上げて膝を折ると、クラウスもにっと笑って壁際へ移動してどかっと座り込んだ。
「お前も中々面白かったぜ。妙な感じだ。お上品な剣士とは少し違うな。これにも対応してたし」
銃剣を軽く持ち上げてみせながらクラウスは言う。それを見て、そういえば本来なら『銃剣』という武器はハルケギニアの人間にとって未知の武器だったはずだなとラルフはようやく思い出した。
「それ、自分で考えて作ったのか?」
「そうだ。強そうだろ?」
なんとも単純な回答にラルフは思わず笑いながら、まあな、と応える。
「しかし、強い。というか強すぎる。どうしたらそこまでなる?」
「あー? ああ俺のことか。まー色々遊んでたからな」
破天荒な男だというのは分かるが、基本的に暇さえあれば剣を振っていたラルフから見ても、クラウスは凄腕といっていい。稽古をつけてもらっていたフェリクスのような天才型とも思えないのに、同年代がここまでの腕を持つのはなんとなく納得がいかない。遊んでいたでは済まないだろう。
「遊んでたで済むわけないだろ? 一体どんなことをしたんだ」
「色々だよ……傭兵とか」
「……は?」
「あー、まー、なんだ。むかし家を出て、傭兵とか色々な」
目が点になったラルフに、クラウスは言いにくそうにごにょごにょと適当にごまかした。さすがに唖然とする。侯爵家を出奔して傭兵になるなど、型破りにもほどがある。色々、の方も聞きたいような聞きたくないような微妙な気がしてくる。まさか盗賊や殺し屋をやっていたとは言わないだろうが。
「――いや、そもそもお前、確か跡取りじゃなかったか? それが家を出た?」
「そーだよ。つーか聞くなよ。今じゃちょっと恥ずかしいんだよ」
「……はあん」
クラウスの態度を見て、親に対する反発心から出奔――というより家出したというストーリーを頭の中で思い描き、ラルフはにやついた。別にそうとは限らないが、なんとなく大きくは外れていない気がする。
「おい笑うなよ。当時の俺は真剣だったの」
「ああうんわかるわかる。こう――あれだな、家族と連れ立って出かけたりするのが恥ずかしい。親や周りの大人が、嘘とか偽善ばかり並べるつまらない人間に見える。そういう時期ってあるよな」
「な、てめ、こっの」
思ったよりも早く飛んできた拳を受け止めると、ぱしんと乾いたいい音がした。やっぱり当たりかとラルフは笑う。つまり、いわゆる第二次反抗期である。しかしクラウスのそれはずいぶんと強烈なものだったようだ。名家の息子が出奔して傭兵とは思い切ったものである。しかもすっかり染まってしまっている。態度といい言動といい、貴族というより傭兵といったほうがしっくり来るほどだ。
「まあ落ち着けよ。別に悪いなんて言ってないぜ」
「その薄笑いを止めてから言えよ」
「そう言われてもなあ」
ニヤニヤ笑いが止まらない。クラウスはしばらく獣のように唸っていたが、諦めたらしく「だから学院なんて嫌だったんだ」と言ってすとんと手を下ろした。
「そうか? 楽しんでるみたいじゃないか。昼間も広場で暴れてるのを見た」
「ん? あああれか。見てたのか」
「途中までね。結局どうなったんだ?」
見ごたえのある勝負ではあったのだが、イェッタに気を取られているうちに終わってしまっていた。結局ラルフはあの決闘の結果を見ていない。クラウスはふん、と息を吐くと別に面白くもなさそうに「勝った」と言った。
「大体、俺はあいつに負けたことはあんまりないんだ」
「へえ……何回もやってるのか」
「一応は小さい頃からの付き合いだな」
そういえば二人ともわりと似たような出であったな、とラルフは思い出す。どちらも侯爵家の嫡男、領地も近かったはずだ。育ちの良さはずいぶんと違うようだが。そう思うとまた笑いが浮かんでくる。くくくと声が漏れて、今度こそばしんと頭を叩かれた。
「もういいだろ。お前は? なんで悪霊憑きとかいう話になってんだ」
「あー……」
どうするか、とラルフは一瞬だけ考えたが、自分がこの荒っぽい同級生にすでに結構好感を持っていることを自覚して素直に話してみることにした。彼ならば、興味は示すだろうが端から頭がおかしいという話になりそうにはない。
「まあ、似たようなものがいることはいるんだよな――」
□
「にわかには信じがたいな……」
意外にクラウスは落ち着いた反応で話を聞いた。こういう冷めた判断をするあたり、さすがにただ荒っぽいだけの男ではないらしい。
「まあそうだろうさ。言っとくけど部屋とかは見せない。あれを見ると、自分でも他人の目にどう映るか分かってちょっとゾッとするからな」
小人のために用意したようなティーセットや、綿が敷き詰められた空の籠。それを使う妖精は見えず、妖精がいると主張する人間がそれを使っているように見える。想像すると恐ろしいものがある。イェッタが居ないときに自分の部屋を見渡してみたときの正直な感想だった。
「ふうん。まあでも、お前の部屋のある階で変なことが多いのは本当らしいからな。なんかいるのは確かなんだろうな」
そう言ってクラウスは「おお禍歌うたう麗しの乙女……」などと傭兵たちが歌いそうな妖精の歌を口ずさむ。
「それは川の妖精だろうが。悪戯ばかりする小さな羽精(ピスキー)とは違う」
「いや、あれもほとんど悪戯で船を沈めたりするじゃねーか。割と近いんじゃねえの」
「ん……ふむ。それもそうか」
妖精といえば美の化身のように語られることが多いが、伝承などに現れる妖精はどれも割と残忍なところがある。気まぐれに人間を助けることもあるが、ほとんどいいがかりとしか思えないような理由で人間を殺したりもする。もともと人間の理屈が通じる相手ではない。
「まあ、俺はまたあのへんをうろうろしてみるかな。何か変なことがあったら信じてやるよ」クラウスはにやっと笑って「幽霊も出るかも知れないしな」と付け足す。
「ふん……すぐには信じないか。まあそんなもんだろうな。けど」ラルフはクラウスの顔を指さして言った。「お前はきっと信じるよ」
「ん? なんでだ」
「あー、最近あいつの好みみたいなのが多少分かってきたというか……。そろそろ半年くらい経つしな」
イェッタは素直に生きる人間を……というか、素直に生きる心を好む。そして、好きなタイプには笑えるいたずらを。嫌いなタイプにはあまり手を出さないが、笑えない悪戯を仕掛ける。あくまで傾向の話だが。ついでに言えば、される側からすればどちらもそんなに笑えない。基本的に人間とは相容れないのだ。
「お前は男版キュルケというか、……いやあんまり似てないな。けど、まっすぐな感じがするからな。多分、好かれる。すぐに何かしてくるだろうよ」
「ほー。面白い話だな。ちなみにお前は? 仲が悪いらしいけど」
「両方。本来なら嫌いなタイプのはずだ。けど、あれでも一応俺の使い魔やってるからな。羽精は羽精なりに慕ってんだよ。気持ちはさっぱり理解出来ないけど、多分そう」
それに、イェッタはラルフの心の動きを最優先するところがある。例えば彼女自身はキュルケのことは好きだが、キュルケといるときの彼の心がドロドロしているからキュルケも嫌い、と言った具合に。彼にはさっぱり理解できないが、イェッタは彼女なりに使い魔としての気持ちのようなものを持っているのだ。別に嬉しくはない。
「ふーん。てことは、はっはあ。あれか、お前は心がねじ曲がってるわけか」
「……そうだな、そういうことでいいよ」
適当な答えにクラウスは「おーおーねじ曲がっちゃって」と囃すが、ラルフはそれを無視した。こんな態度がいよいよ根性がひん曲がってるという証明になってしまうが、別に否定するだけの要素もないし、その必要もない。
「……ところでツェルプストーの名前が出たけど、なんだ? お前ら仲いいのか?」
「え? ああ……」
いきなり話がそちらにふられたため一瞬なぜその話になったのかわからなかったが、自分がキュルケの名前を出したことを思い出す。それに、クラウスはキュルケと同じクラスの生徒だ。
「……なんだろうな。隣の領地だから」
ああ俺とユーリウスみたいなもんか、幼なじみだなとクラウスが納得したように言うのを聞いて、ラルフはなんとなく違和感を覚えた。自分たちはそんなに幼い頃からの付き合いではない。ならば何というべきなのだろうか。
「そう言うほど長くもないな。十の時に初めて会ったから、まだ四年前か。考えてみれば割と濃い四年間だったな……」
毎週毎週つるんで出かけ、森、洞窟、廃屋敷の探検。それに連れてこられる決闘相手。あのガリアのアカデミーから流れてきたという男。キュルケとは関係ないが、アルビオンでは騎士とバチバチやりあったりもしている。妹も生まれた。
「ん? なんだお前、まだ十四なのか」少し驚いたふうにクラウスはラルフを見る。「そういや小さいよな」
「最近よく言われるなそれ……。キュルケが誘ってきたからね。一緒に入学することにした」
「ふーん。仲がいいのは結構だな」
クラウスが適当そうな相槌を打つのを聞きながら、自分にとってキュルケとはなんだろうか、とふと先程の疑問をラルフは思い、ぼんやりと考え込んだ。
少なくとも最初は友達だった。幼なじみというほど長い付き合いというわけではない。もちろん恋人などでもない。想い人というには気持ちが入っていない。というより、入らないように気を付けている。相棒というのがこれまでの関係を最も正しく言い表している気がするが、今は違う。やはり友達だろうか。ただの友達だというのにも違和感を感じてしまうのは、きっと自分がそれ以上の関係でありたいと思ってしまっているせいだろう。
イェッタは彼女がいると自分の心がどろどろになると言った。それは、憧れだけでなく嫉妬の気持ちを含んでいるからだ。炎か太陽のように明るい彼女を見ていると、自分がそうではないことを思い知るからだ。
「――風呂入って寝るかあ」
話が途切れ、少しの間降りた沈黙を破ってクラウスが言う。そうだな、と同意してラルフも立ち上がった。いやーいつでもじっくり風呂に入れるのが貴族のいいとこだよな、と実感のこもったセリフを口にするのが面白かったが、部屋に帰るとまたあのいまいましい妖精の顔を見るのかと思うと嫌になる。
「――そうだ、風呂から上がったら俺の部屋の前に来てみたらどうだ。イェッタをつまみ出しとく。まあ何かして来るかどうかはわからないけど。俺がやれと言っても絶対やらないからな、あいつ」
「ん? そうか、そんなら行ってみようかな……」
それが、珍しく防音の魔法を切っていたラルフの耳に、ドアの外からぎゃあ、という悲鳴が聞こえる一時間前の事だった。さらに後から分かったことだが、クラウスは意外にも幽霊がダメらしかった。
怖いなら見に来るなとも思うが、怪談が嫌いなものほど喜んで聞く。人間とは得てしてそういうものである。
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さらにキャラクタ追加。銃剣使いクラウス。かなりの強キャラです。あと前回から登場したイェッタは、今後も基本的にこういう役割にのみ登場の予定。
それにしても益体もない会話だらけで話があまり進んでなくね、という。次話で一気に今回の決闘シリーズは終了予定です。
空行の入れ方に悩む……。多すぎるようなら減らします。