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No.14793の一覧
[0] 【習作】根暗男とハルケギニア【転生物、ゼロの使い魔】[bb](2011/05/14 23:14)
[1] 根暗男の転生[bb](2010/05/02 13:17)
[2] 夢のような日々[bb](2010/05/02 13:17)
[3] 夢のような日々2[bb](2010/05/02 13:17)
[4] 夢のほころび[bb](2010/05/02 13:17)
[5] 夢の終り、物語の目覚め(前)[bb](2010/05/02 13:17)
[6] 夢の終り、物語の目覚め(後)[bb](2010/05/02 13:17)
[7] 新しい日常[bb](2010/05/02 13:17)
[8] ラルフとキュルケの冒険(1)[bb](2010/05/02 13:17)
[9] ラルフとキュルケの冒険(2)[bb](2010/05/02 13:04)
[10] ラルフとキュルケの冒険(3)[bb](2010/07/14 12:44)
[11] 微妙な日常[bb](2010/10/15 12:23)
[12] 風の剣士たち(前)[bb](2011/02/06 04:10)
[13] 風の剣士たち(後)[bb](2011/02/06 04:34)
[14] 魔法と成長[bb](2011/02/07 05:41)
[15] フォン・ツェルプストー嬢の観察[bb](2011/05/31 21:46)
[16] 移ろいゆく世界[bb](2011/05/23 20:13)
[17] 決闘は、スポーツだ!(1)[bb](2011/05/26 22:02)
[18] 決闘は、スポーツだ!(2)[bb](2011/05/29 15:31)
[19] 決闘は、スポーツだ!(3)[bb](2011/05/31 22:29)
[20] 傭兵の週末、週末の傭兵[bb](2011/06/03 20:13)
[21] 狩りと情熱[bb](2011/06/08 22:10)
[22] あなたの胸に情熱の火を(1)[bb](2011/06/16 22:30)
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[14793] 決闘は、スポーツだ!(1)
Name: bb◆145d5e40 ID:64cbef99 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/26 22:02
 ラルフとキュルケがヴィンドボナ魔法学院に入学してから、約一月。

 キュルケがその魅力を最大限活かして多くの生徒と交流を深める一方、ラルフは『魔法は結構すごいけど、ちょっと(頭が)おかしい奴』という評判を得ていた。


「くそ、またかよ」


 反射的に振り抜いた拳を下ろしてラルフは呻いた。ちょうど今日最後の授業が終わったところで、廊下にはまだ多くの生徒がいる。

 ひそひそと離れたところで交わされる噂話。トライアングルの風メイジの耳にはそれらがちゃんと聞こえている。視線をそちらへやるとささっと目を逸らされ、視界の端では頭の上で指をくるくる回すジェスチャーが見える。イライラするかといえばするのだが、理由は分かっているので無闇に腹をたてることもできない。


「ばっかねーあいつら。私はちゃんとここにいるのにー」


 耳元でけらけらと笑い声が響く。
 それもこれもこいつのせいなのだ――とラルフが睨みつけた先には、先ほど拳を振るった相手、身長十五サントほど、裸身の幼い少女の姿をした、妖精。

 そう、『妖精』である。小さな人型の背中に虫のような羽を生やした、いわゆる羽精(ピスキー、またはピクシー)。妖精は、ハルケギニアでは絶滅したとされる韻竜以上に伝説上の存在だ。おとぎ話の中にしか存在しない。

 トライアングルとなってから約一年が経った頃、ラルフは好奇心に負けて使い魔召喚を行った。それでやって来たのがこの羽精である。全く発音できない名前を名乗ったのでとりあえずイェッタという名前を与えたのだが……。


「黙ってろ。余計なことをするな。死なすぞ」

「ふっふーん。やってみなさい」


 関係は結構悪かった。そもそもこのイェッタ、かなり性格が悪い。召喚してすぐの頃、ラルフは妹のクラーラの相手をさせてみたことがあったのだが、それはもうひどい泣かせようだった。また、彼女のいたずらでラルフの長髪は切り落とされ、短くなった。

 召喚される前は森の中で人を迷わせたりしていたらしい。風の眷属を名乗り、風を操るだけでなく、幻を見せたり、心を覗いたり、あるいは操ったりと小規模ながら多彩で凶悪な力を持っているのだが、ラルフの指示にはいっさい従わずいたずら目的にしか使わないのでまったく役に立たない。むしろ害しかない。

 また、イェッタは普通の生き物ではなかった。先住の民やただの魔法生物とは隔絶した、二つの大きな特徴がある。

 まず、見えない。召喚者であるラルフ以外の者には見えないのだ。正確には認識できないというのが正しい。イェッタが人前で何かものを動かしたりしても、人の目にはラルフがやったように見えるらしい。これが現在、ラルフが周囲から頭がイカレた奴扱いされている主な原因である。「妖精さんが見える」などと言ってもより頭がおかしい奴扱いされるのは目に見えているので、キュルケくらいにしか説明していない。そのキュルケでさえ半信半疑というありさまである。

 そしてもう一つの特徴が、死なないこと。でこぴん一発で気絶し、ラルフが本気で殴るとばらばらになって霧散するくらいもろいのだが、しばらくすると何事もなかったかのように復活する。このため、使い魔の契約を解くことすらできない。感覚の共有などもできない。

 まさしく百害あって一利なしなのだが、ふらふらとどこかへ遊びに行って、いないことが多い。しかしやはり一応は使い魔であるらしく、ちゃんとラルフのところへ戻ってくる。そしてひとしきりちょっかいを掛けてまたどこかへ行く。このお陰で彼はいきなり誰もいない空間に向かって格闘したりする男となった。

 初めのうちはラルフもイェッタとまともな関係を結ぶべくコミュニケーションをとろうと努力したのだが、今ではほぼ諦めていた。死を恐れず理解せず、ただ遊び、いたずらで人を困らせるのが生きがい。人間とは価値観が違いすぎて話が通じない。これは絶対エルフよりひどいと彼は信じている。


「――部屋に戻ったらクッキーとお茶やるから。あと少しの間おとなしくしてろ」

「ほんと? じゃあちょっとだけ我慢したげようかな。さっすが私、最高の『つかいま』よねー」


 少々頭が弱いのであしらうのはそれなりに簡単なのが救いである。だからといって本当に従うとは限らないのだが。ラルフは深々と息を吐いて、寮の自分の部屋へと向かった。






きちがいらるふ






 キュルケは学院入学と共に『微熱』なる二つ名を名乗るようになった。二つ名というのは自然とそう呼ばれるようになったり、親や身分あるものから贈られたりといろいろあるが、彼女の場合は自らそう名乗った。キュルケの圧倒的な存在感に対して控えめと言っていい二つ名が女子生徒にはいい印象を与えるのか、意外に女友達も多い。入学前からそうだったように、男子生徒からはとにかくモテる。要するに人気者だ。

 対してラルフの敏感な耳に入ってくるひそひそ話のうちにしばしば含まれているのが『気狂いラルフ』である。さすがにこれは、人目や評価をあまり気にしないことにしている彼にとっても中々きついものがあった。

 本来、ラルフはそういった他人の評価を『気にする』タイプの人間である。それを、あえて気にしないことにしている。世の中誰も自分のことなんて気にしていない、とか、自分はそんな特別な人間ではない、などと自分に言い聞かせ、無視したり思考から追い出したりすることでそれらをシャットアウトするのだ。しかし、実際にここまで来るとそれは不可能だった。


「マジで二つ名が『気狂い』とかになったら、間違い無くお前のせいだな」


 テーブルの上であぐらをかき、クッキーを抱えてぽりぽりとほおばるイェッタに向かって愚痴を吐く。脇にはおもちゃの小さなティーカップ。イェッタのものだが、これが他人から見ればおもちゃのティーカップからお茶を飲む男に見えるらしいのだ。少々イカレてると思われるのも無理はない。

 きゃは、と笑うイェッタ。


「いいじゃない。私は楽しいよ?」

「俺は楽しくねえよ」とラルフは真面目に突っ込みを返して片肘をつく。


 学院生活というのは、当たり前だが他の学生といる時間が長い。ラルフは実家にいた頃は魔法の練習や読書など一人で過ごす時間が長かったので、イェッタの相手をすることによる奇行はそう目立たなかった。

 ところがここでは、自室にいる時以外はほとんど常に人目がある。だからイェッタがラルフの周囲でいたずらをする限り、ラルフの奇行(に見える)は避けようがない。羽精(ピスキー)がいたずらをするのは生きている限り当たり前のことらしいので、これも避けようがない。使い魔である限り、イェッタは唯一の話し相手であるラルフから離れない。イェッタは死なないので、ラルフが死なない限り離れない。

 どうしようもなかった。


「そんなに嫌なの?」

「一生気狂い呼ばわりだぞ。やってられるか」

「うん、ほんとに嫌そうねー」


 ラルフの顔をうかがい、にやにやと笑う。彼女は、大雑把だが人間の心が覗ける。彼が本当に嫌がっているのがわかったのだろう。この恐ろしく凶悪な力も、イェッタはほぼラルフにしか向けない。それもまた非常に嫌な話である。心を読まれるというのは、聖人でもないかぎり誰だって嫌なことだ。ラルフはぎりぎりと歯噛みする。


「……『悪戯妖精の呪い』とでも名付けよう。後世の人のために。迂闊に『契約(コントラクト)』しないように」

「うふふ、あはは!」イェッタは面白そうにテーブルの上をころころと転げて笑う。「気狂いの言うこと、信じてくれる人がいればいいね!」


 渋面のラルフは手元に転がってきたイェッタの頭を軽く指で弾いた。


「いたっ」

「どうすんだよほんと」そのままぴしぴしと弾きながら言う。「とんでもないすごい使い魔かと思ったらこれだもんな。害虫」

「ちょ、いた、いたい、痛いってば、やめなさいよー!」


 イェッタが涙目になったのを確認して、やれやれ、と満足してラルフは手を引っ込めた。イェッタはこの程度ではめげない。また、こうして戯れている間は悪さはしないので、暇つぶしの話し相手としてはそう悪くない。 ただし、他人からは普通に変なことをしているように見えるので、一人でいるときに限る。


「そうだ、何かすごいことすればいいじゃない!」すぐに起き上がり、バッと両手を広げてイェッタは言った。「どーん! って」

「ああ?」

「だーかーらぁ」わけがわからないと片眉をひそめたラルフに、イェッタは偉そうに胸をはって指を立て、教えるように言う。「みんなの前でなにかすごいことをやれば、イメージが変わるんじゃないの?」

「ふーん……」


 正しいといえば正しい。つまり、より強い印象で塗りつぶせという話だ。しかし、とラルフは考え込んだ。メイジとして印象を変えるというからには魔法で何かやって見せるというのが必要なのだが、これには問題がある。


「俺は風と火のメイジだぞ。基本的に戦う魔法しか使えん」


 風の魔法は速さと対人戦、索敵などに優れ、火の魔法は破壊力や広範囲攻撃、対軍戦に優れる。いずれも戦いに向いた系統である。逆に言えば、そればっかりだということでもある。そんな魔法ばかりを練習し、剣術の腕もある。おまけに、この年にして実戦まで経験している。ラルフはそこらの学生とは比較にならない戦力の持ち主だと言っていい。傭兵メイジや下っぱ騎士くらいは軽く吹っ飛ばせるだろう。

 確かにそういう『場』は、ある。ちょうどあつらえ向きに。しかし、そんな実力を見せびらかすようなのは、浅ましいようで恥ずかしい。あまり目立つのも嫌だ。ならば他の方法で――となると、全く思いつかなかった。


「戦えばいいじゃん?」


 あっさりと言ったイェッタに、思わず首を傾げる。


「何とだよ」

「そんなの私が知るわけないでしょ――あいたっ! もう!」


 お前に聞いたのが間違いだった、とラルフはでこぴんを飛ばし、何か他の方法は、と考え込む。

 自分が得意なのは風の魔法。特に『フライ』。次いで火の魔法。それから剣術。あと、趣味で杖の蒐集。主に刀剣系だが、他にも様々な杖を集め、それぞれ契約している。そのため杖の契約も得意。普通なら三日はかかる杖の契約を、わずか数時間で終える。実際には一本しか使わないので結局役に立たない無駄なスキルである。


「やっぱあれかあ。あまり見せたくないんだけどな」


 今なら風のスクウェアにも迫るだろう飛翔魔法『フライ』。また、いくつかの魔法を並列させて使えること。自分の持つ技術をおさらいして、結局ラルフがこれはと言えるのはこれらの技術だけだった。特に魔法の並列は対メイジにおけるラルフの切り札であり、不意を打てばどんなメイジでも倒せる必殺でもある。


「でもインパクトを取るならな……って。なんでこんな事考えてんだ俺」


 考え込んでいたのが、急速に冷める。これは割とよくあることで、ラルフは一瞬で冷静になる癖のようなものがあった。すると、そんな事でわざわざ自分のエースを切るなど馬鹿げていると思えてくる。


「なんでだっけ?」

「お前は黙ってろよ。はあ。どうでもいいやもう」


 すでに話のスタート地点を忘れたらしく、可愛らしく首を傾げるイェッタを放っておいて、ごろりとベッドに寝転がる。あまり人前に出たくないので、もう夕食以外で部屋の外に出る気はない。

 こんなのが、ラルフのここ最近の日常だった。――ひきこもりとも言う。


 □


 さて、ヴィンドボナ魔法学院では、新歓行事が終わった頃から流行りだしたものがある。

 何かと言うと――。


「諸君ッ! 決闘だァッ!」


 広場に響き渡る声。うおおー! やれやれー! と歓声を上げる生徒たち。
 そう、流行っているのは『決闘』である。


「面白いでしょ?」


 得意げな顔でキュルケが言う。まあな、とラルフは苦笑して応えた。授業の後久しぶりにキュルケと会って誘われ、ちょうどイェッタもいなかったので出てきたのだ。クラスが別になったし、寮は男女別棟。さらにラルフがひきこもりがちなので、このところ二人はあまり顔を合わせていなかった。

 キュルケが得意げな顔をするのには理由があって、この決闘ブームの端緒をつけたのが彼女だからである。
 ラルフからすれば信じられない思いなのだが、魔法学院の新入生たちときたら、ほんの僅かな流し目、ちょいと意味ありげな視線、目の前で足を組み替えた。たったそれだけで恋に堕ちるらしい。さらに理解出来ないことには、どっちが先にデートに誘うかで喧嘩になるらしい。
 そこで当の原因となったキュルケがどうしたかというと、『やめて! あたしのために争わないで!』とはならないわけで、彼女らしくおおいに決闘を煽った。一、二年前にラルフがやらされていたことの焼き直しである。

 それが数回に渡って行われるうちにギャラリーが増え、なにやら熱く戦う少年たちに黄色い声援を飛ばす少女たちが現れ――、ゲルマニア貴族たちは変な方向へ熱狂し、とうとう上級生まで巻き込んで一つの流行になった。

 ここ最近、このヴィンドボナ魔法学院ユミル広場では、別に何か賭けているわけでもないのに決闘が行われる。それも日に数回という頻度でだ。我こそはと思うものが名乗りを上げ、それに誰かが応える形で成り立つ『決闘』。貴族のある種神聖なものであるはずの戦いが、もはやスポーツと化している。男子生徒はスポーツ観戦のように楽しめるし、女子生徒はめぼしい男子生徒を見極め、応援する男の勝敗に一喜一憂。

 いつまでも続くものではない。ヴィンドボナ魔法学院の校風は自由であり、悪く言えば少々荒れ気味ではあるものの、誰かまともに負傷する者が出ようものなら即座に取り止めにされるだろう。しかし、今の段階では特に学院からの干渉はないらしかった。


「あれは――」

「ああクラウスね。うちのクラス。好きねえ彼も」


 最初に出てきたのは、同じ新入生。クラスは違うが、ラルフも男女別の授業で数度見たことがあって覚えていた。キュルケの言葉で名前を思い出す。クラウス・ガーブリエル・フォン・ヴォルケンシュタイン。ヴィンドボナ近郊の名門侯爵家の跡取りだ。くすんだグレーの髪に鋭いアイスブルーの瞳、 野生の狼のような印象の男で、かなりキツめの顔立ちをしている。拍手を浴びながら広場の中心に出てきた顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 手には自作か特注らしい銃剣。杖が『銃剣』だ。誰もそんなふざけたものは使っていない。学校内で平気でそれを杖として使い持ち歩いているのを見て、ラルフはこいつは奇人変人のたぐいだと確信した。しかし、このハルケギニアには現在、銃はあっても銃剣はない。クラウスは一つ時代を先取りしているのだ。時代を切り開くのはやはりああいう変人なのだろうなとラルフは妙に納得したのを覚えている。


「よく出るの?」

「ええ。強いわよー彼は。あたしやあなたと同じくらいに」

「へえ」


 既に確信したようにキュルケが言う。基本的に魔法で強さを測る彼女がそう言うということは、トライアングル級の力の持ち主ということになる。一年生にスクウェアはいないので最上位の使い手ということだ。携えた銃剣の腕によっては相当なものになるだろう。そして、見たところ腕はありそうだった。


「……ところであれ、大丈夫なのか。ぶっぱなしたりしないよな」


 銃剣術というのは基本的に槍術に近いが、大きな違いは引き金を引くのも一連の動作に含まれるということだ。銃というものに前世の情報から来る苦手意識を持っているラルフとしては不安になる。


「んー……? 別に禁止はされてないと思うけど。さすがに撃ったところは見たことないわね」


 腕を組んで少し考えてから、なんでもないようにキュルケは言った。実際、貴族にとって銃というのはそれほど脅威ではない。

 ハルケギニアの銃は、いわゆるマスケット銃である。単発、前装式でいちいち銃口から弾込めが必要だし、射程も短ければ精度も悪い、威力は低いといいところがない。ラルフのように『銃は危険』という思い込みでもなければ、弩と同じくらいな危険度の認識なのが当たり前だ。

 まあ、この決闘は遊びのようなものなので、本気で銃撃をするとはラルフも思わなかった。実際、クラウスの銃剣には剣先に革の鞘が付いたままになっている。剣を使う生徒もいるし、そのあたりは各自でちゃんと自重しているのだろう。


「……相手は上級生か」


 続いて名乗りを上げて出てきた相手を見て、おおっとどよめく観衆。キュルケも少し驚いたように声を上げた。


「ダールベルクの……ユーリウスじゃないの。三年生よ」


 長身でがっしりとした体躯、銀の短髪と浅黒い肌に男臭いがハンサムな顔立ち。まっすぐな性格がなんとなく透けて見え、好漢といった感じが漂う。周りに推されて仕方なく出てきたようで、あまり気が進まないというのが顔に出ていた。

 フォン・ダールベルクといえば土の名門で通っている、同じくヴィンドボナ近郊に領地を持つ侯爵家だ。初めて見たが、名前はラルフも聞いたことはある。家格的にはキュルケも同等なので、彼女は会ったこともあるのだろう。これは楽しみだというのがニヤリと上がった口の端にあらわれている。

 おざなりに二人に注意をすると立会い役が離れてコインを投げた。きぃん、と澄んだ音を立てて硬貨が落ちる。

 試合開始だ。


 □


 クラウスが速攻をかけて『フレイムボール』を放つと、ユーリウスは即座に土の壁で受け止めた。その直後に五体の鋼のゴーレムまで生成して自分の傍に置いている。最初からやる気はあまりなさそうに見えたのだが、確かに土の名門にふさわしく腕は確からしい。

 その間にユーリウスに向かって間合いを詰めていくクラウスに対し、二体を自分の護衛に、三体を迎撃に差し向ける。足を止めないままクラウスがゴーレムへ次々と『炎球』を放ち、ゴーレムが燃え落ちる。ユーリウスがクラウスと自分の間に再び三体のゴーレムを生成し、そこでクラウスは一度足を止めて一歩下がった。

 一瞬で行われた攻防におおお、と観衆がどよめく中、二人はなにやら会話を交わしている。


「やるねえ。あの上級生の人もトライアングルか?」

「有名よ彼は。それくらい知っときなさいよ」


 思わずつぶやいたラルフに、キュルケは呆れたような表情で返して、大臣の家じゃないの、と付け足した。


「――ああ、そういえば。あれが」


 人望のありそうなユーリウスと政治家の息子というイメージが結びつかず気付かなかったが、そういうので有名な上級生がいるのはラルフも知っていた。

 広場中央では再びクラウスが特攻をかけ、ユーリウスが凌ぐというのが繰り返されている。銃剣一本でクラウスがゴーレムの攻撃を流して囲みを抜けるのを見て、ラルフは思わず目を剥いた。


「ヤバいなあいつ。相当な腕じゃないか」

「そんなに?」

「そんなにってお前、三人がかりで襲いかかられて凌げるかよ。普通は無理」

「ふうん。あたしはあんな泥臭い戦い方はしないもの」


 確かに、火のトライアングルメイジにしてはクラウスの戦い方は泥臭い。しかし、こういう人の多い場所ではそれも仕方がないだろう。――などと考えているうちに、「見つけた!」という聞きたくなかった声が聞こえてラルフは顔をしかめた。


「帰る。疫病神が来た」

「例の妖精さんね」

 くくっと笑うキュルケ。一体どこまで本気で信じているのやら、と思っていると目の前に両手で耳をふさいだイェッタが飛んでくる。


「人がぐちゃぐちゃでうるさい!」


 いつもと違う様子で本当に嫌そうな顔をしたイェッタを見て、お、とラルフは思う。こういう人が密集している場所はイェッタにとって不快らしい。それならばしばらくここにいるのもいいかも知れない。


「……もうしばらくここにいるから、お前はどっか行ってろ」

「なんでこんなうるさいとこにいるのよ? 帰ろうよ。おやつー」


 イェッタはぱたぱたと小さな手足を振り回し、駄々っ子のように全身でごねる。


「決闘の見物だ。これやるから先帰ってろ」


 ラルフがポケットから妖精対策非常用ビスケットを取り出して投げ渡すと、小さな羽精はすぐにかぶりついた。キュルケの目にはきっと、自分で投げ上げたビスケットを口でキャッチするラルフの姿が映っているのだろう。ニヤニヤしながら眺めている。顔が熱くなるのを感じて、彼は本格的に使い魔を追い払いにかかった。


「決闘って? 戦うの?」

「俺は戦わねーよ。ほら行け」


 そら行けやれ行け、とせっつくとイェッタはふーんと言って羽を翻して去っていった。やれやれと一息ついたところでキュルケが不思議そうな顔をして口を開く。


「珍しいわね。もう済んだの?」

「人が多いところは苦手らしい。いいことを知った」

「へえー」


 そういえば、イェッタは教室などにも姿を見せない。つまらないからだろうとラルフは思っていたが、あの程度でも人が密集した空間は苦手だったのかもしれない。心を覗けるというのが逆に悪い方向に働くのだろうか。


「それにしても。あなたもやればいいじゃない?」

「あん? 何を」

「あれよ」


 キュルケが指したほうへ目を上げると、ちょうど決着が付いたらしい二人が手を取り合っている。ぱちぱちと拍手がなっていた。


「うーん……」


 昨日のイェッタとの話でも出たことだ。ラルフはあそこで活躍するだけの実力はあるだろう。しかし、彼にとってそういうのは、主義に反する。そういうのもありだと思いながらも、彼自身の妙な美意識がそれを許さない。気にしない気にしないと言いながら、何かと見栄っ張りなのだ。

 見栄っ張りだというなら実力を見せればいいのだが、むしろそれが恥ずかしいことだと彼には感じられる。元日本人らしく、彼にとって『恥』とは『名誉を汚す物』ではないのだ。このあたりが少々周囲の感覚からズレているところでもあった。普通のゲルマニア人なら、むしろこうして促されて決闘に出ないほうが誉れを汚すという意味で恥である。だがラルフは高い実力を持っていることを周囲に示すことのほうが恥と感じてしまう。


「やめとく。負けたくないし」


 というわけで、彼は適当にごまかした。自分が少しズレているという自覚もあるのでこういう言い方になる。


「ふうん」


 少し不満そうに目を細めたキュルケを見て、なんとなくラルフは言い訳を続ける。


「それにさあ。昔うちでふっ飛ばしたのが何人か上級生にいるんだ。相手してたらキリがないだろ。目立ちたくないの、俺は」

「そういえばいたわねそういうのも」


 そのほとんどは自分がけしかけたくせに、本当に忘れていたらしく驚いたように言うキュルケにラルフは呆れ返った。


「忘れるなよ。さすがに可哀想すぎるだろ」


 結構いるのだ。少なくともラルフが知っているだけで三人いる。そういう彼自身もあまり相手の顔と名前を覚えていないので、実際はもっといるかも知れない。それに今現在も、イェッタのいたずらがラルフの行動として認識されるせいで着々と彼の敵は増えているのだ。


「またやってみる? 私と付き合うならラルフ・フォン・マテウスを倒すのが条件だー、とか。いつでもできるわよ」

「やめて」


 楽しげな表情でなされた提案を、懇願するように却下。けらけらと笑うキュルケを見て、もし見えたらイェッタと気が合うのじゃなかろうかとラルフは苦笑した。


「ま、あなたもなんだか変な使い魔のおかげで大変そうだし。今は勘弁してあげる」

「そうしてくれると嬉しい。――ああもう次か。ほんとに何回もやってるんだな」


 急に静かになった広場に澄んだ音が響いて、再びわあっと歓声が上がる。この盛り上がりなら、しばらくは羽が伸ばせそうだった。




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 なにやら凄そうな使い魔イェッタ登場。行動原理はトリック・オア・トリート。でもお菓子を貰ってもいたずらします。
 読み返してみると割とかわいい感じになってしまった気がします。この三倍は嫌な性格にしようとしていたのに残念。まあこれからもっと主人公をいじめる役を果たしてもらおうと思います。冷静に考えれば既に結構追い詰めてる気もしますが。
 彼女は精神構造が根本的に普通の生き物と違うので、分かり合うことや協力しあうことは不可能です。そういう設定の人外ヒロインとか好きです。
 名前はファティマ一覧から適当にとったわけじゃなくて、たぶん筆者が小惑星の名前とかドイツの伝説とか知ってる知識人だからです。
 なお副題はGoogleかなんかのキャンペーンで見かけた「検索は、スポーツだ!」から。





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