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No.14793の一覧
[0] 【習作】根暗男とハルケギニア【転生物、ゼロの使い魔】[bb](2011/05/14 23:14)
[1] 根暗男の転生[bb](2010/05/02 13:17)
[2] 夢のような日々[bb](2010/05/02 13:17)
[3] 夢のような日々2[bb](2010/05/02 13:17)
[4] 夢のほころび[bb](2010/05/02 13:17)
[5] 夢の終り、物語の目覚め(前)[bb](2010/05/02 13:17)
[6] 夢の終り、物語の目覚め(後)[bb](2010/05/02 13:17)
[7] 新しい日常[bb](2010/05/02 13:17)
[8] ラルフとキュルケの冒険(1)[bb](2010/05/02 13:17)
[9] ラルフとキュルケの冒険(2)[bb](2010/05/02 13:04)
[10] ラルフとキュルケの冒険(3)[bb](2010/07/14 12:44)
[11] 微妙な日常[bb](2010/10/15 12:23)
[12] 風の剣士たち(前)[bb](2011/02/06 04:10)
[13] 風の剣士たち(後)[bb](2011/02/06 04:34)
[14] 魔法と成長[bb](2011/02/07 05:41)
[15] フォン・ツェルプストー嬢の観察[bb](2011/05/31 21:46)
[16] 移ろいゆく世界[bb](2011/05/23 20:13)
[17] 決闘は、スポーツだ!(1)[bb](2011/05/26 22:02)
[18] 決闘は、スポーツだ!(2)[bb](2011/05/29 15:31)
[19] 決闘は、スポーツだ!(3)[bb](2011/05/31 22:29)
[20] 傭兵の週末、週末の傭兵[bb](2011/06/03 20:13)
[21] 狩りと情熱[bb](2011/06/08 22:10)
[22] あなたの胸に情熱の火を(1)[bb](2011/06/16 22:30)
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[14793] 魔法と成長
Name: bb◆145d5e40 ID:64cbef99 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/07 05:41
 気に入っていた剣杖は《固定化》や《硬化》のかかっていたであろう鎧を斬ったせいで刃が完全にダメになっていた。こちらの剣にも同様の処理は施されていたのだが、こればかりは仕方がない……がやっぱり残念でならない。どうやら自分にはコレクターの素質があるらしい。相手が受けの剣で相性は良かったとはいえ、完全に実力で負けている相手を下せたのだ。本来これくらいで済んでよかったというところなのだろうが。
 アルビオンから逃げるように帰ることになり、フェリクスには厳重な口止めをしようとしたが、さすがにこれは不可能だった。不可解な探索行と合わせ報告され、父から大いに呆れられることとなった。
 ますます見放されつつあるかもしれないと思っていたのだが、昨日になって自分がトライアングルとして目覚めたことに気付いた。思っていたよりもだいぶ早い。しかしこのおかげで少しばかり父からの目が和らいだ気がした。数日後の13の誕生日にあわせ、家族でささやかなパーティのようなものも開いてもらうこととなっている。

 ラインとなったのがあまりに前なためにろくに覚えていなかったのだが、魔法的なクラスの成長とは不思議なものだ。精神力(使える魔法の弾数、いわばマジックポイント)の成長は、筋肉の成長や剣の腕と同じで日々くりかえすことでしか成長せず、実感も薄い。だが、ある日魔法を唱えようとしたらいつもとは明らかに違うレベルで「力が入る」感覚はなんともいえないものがある。自分の成長をはっきりと自覚できる。昨日までの自分とは違う。それは不思議な感覚としか言いようがない。ベッドで目覚めたら三年分くらい成長していて、筋力も身長も伸びていた、とかそんなものに近いかもしれない。
 何が言いたいかというと、魔法の制御が明らかに下手になった。「全力」が上がると、今までと同じ力加減ができない。感覚的に力を込めると、明らかに効果が跳ね上がっているのだ。そんなわけで、結局今まで通りではあるのだが、魔法の訓練をやっている。

 力の制御が主な目的なのだが……やはり今まで使えなかった魔法が使えるというのは面白く、どうしてもそちらに興味が行く。
 例えば『風』『風』『風』《ライトニング・クラウド》。超高速かつ高威力(対生物)だが、風の利点である「見えない」という部分を捨てているため、ものすごく使える魔法というわけでもない。だが、なんといっても派手さ、華がある。要するにかっこいい。
 『風』『火』『火』で《炎の舌》。自在に動く炎の蛇……いや、舌。魔法書にそんな魔法は載ってないのだが、例の《炎蛇》から(もちろんそんな魔法もない)連想して自分で作ってみた。詠唱はやたらと長く扱いも異常に難しく、それでいて動きはのろい……とはっきり言ってまったく使えない。
 ただ、なんといっても新しい魔法を使えるというのは面白いのだ。やるべき事は分かっているのだが、ついついその場の思いつきで色々と試してみたくなる。
 そうして炎をぐねぐねと操っていると後ろから「ほう」という声が聞こえた。
 父が立っていた。






 おやこのまほうひろば






「うん、まあお前もトライアングルまでなったわけだし、もう私ぐらいしか教えられんだろうと思ってな。今日は時間をとった。
 しかしもう自分で魔法を編み出すまでになっているとは知らなかったな。クラーラが生まれてから少し、お前を見ていな過ぎた。お前は昔から安心してみていられたから、私も気を抜きすぎていたようだ」

 一息つきにいつも休んでいるテーブルまで戻ると、父はそう言った。

「まー、お仕事があるのも、クラーラが手がかかっているのも分かってますから……あれはほんとに遊びで作った魔法ですし」

 妹は可愛いざかりだ。手がかかるというか、かけたくなる気持ちもわかる。済まなそうな顔をされるとこちらが恐縮する。妹に比べればあまり……かなりいい子どもではないのは確かだと思う。

「遊び? そんなに簡単に新しい魔法を作っているのか?」
「え? いやまあ、適当ですけど」

 新しい魔法を作るというのは、無茶苦茶に難しいものではない。起こしたい現象、それが発生するための条件にあった系統、現象のもととなる部分からのイメージ、それに必要なルーンの組み合わせ。帰納的に考えていけばできる。重要なのは理解と想像力。俺は現象の理解という点では他のものより一歩先んじているかもしれないが、やはり何よりも重要なのはイメージ、想像力だ。
 それに本当に難しいのは『使える』魔法を作ることだ。未だに自分が作った魔法で「コレは使える!」と言えるようなのはほとんどない。どれも微妙だ。ああ、《防音結界》があったか……。

「昔作ったのなら、少しは使えるかも、っていうのはありますよ」

 適当に《防音結界》を発生させる。とたんにシンと静まる空間。この呪文、実はラインスペルである。ただし固定型の魔法で、大きさや込めた魔力にもよるが頑張れば一時間程度維持される。魔力的な効率はあまりよくないが、意識を張り続ける必要がないので便利なのだ。ただし、杖や術者を中心としないので移動しながらは使えない。

「父さんはちょっとそのまま座っててください」

 杖を置いて席を立ち、『結界』を抜けると、ざわっと風の音がする。

「エリカー! お茶くれー!」

 叫んだ上で席に戻る。

「聞こえました?」
「いや……どういうことだ、《サイレント》のようなものか? ルーンは似ていたが」
「簡単にいえば、内と外の音を切り離す魔法ですね。今ここで話しているのも、あのへんまで行くと聞こえなくなります。多分密談に便利」

 あなたのお蔭でできた魔法です。とは言わなかった。

「ほお……これはすごいな。風のラインスペルで新しいものを作るとは」

 感心されました。
 まあ実際、二つのかけ合わせではできることが限られてしまうのだ。だからラインスペルというのは結構取り尽くされている。
 異世界の知識や科学知識というハルケギニアの常識にない視点を持つ俺も、ラインスペルでは大したものはできなかった。俺の頭が悪いという可能性も大いにあるのだろうが、基本的に攻撃的な属性である風や火のメイジであるというのも大きいと思う。創造性の高い土の魔法が絡められたらもっといろいろできそうだが、残念ながら土の魔法はもっとも苦手としている。

「この魔法を、杖や物を中心に発生させられたらもっといいんですけどね。《ロック》をかけた箱を持ち歩けるように」

 絶対座標でなく、相対座標に。そういう魔法は作れた試しがない。と思ったのだが、父は意外にあっさりと言った。

「ここまで出来ているのなら、できるのではないのか?」
「できます?」
「できると思うが……」
「お願いします、教えてください」

 この魔法の基本を伝え、それぞれのイメージの齟齬のすり合わせに苦労しつつも、二人して杖を振りルーンを並べ、それから三時間ほどで《防音結界》は移動可能な《遮音》の魔法へと進化を遂げた。これでいつでも俺は暗殺者になれるだろう。夫婦の寝室からもきっと声が漏れなくなるはずだ。すばらしい。


 □


「なかなか素晴らしい出来だな。家伝の魔法にでもするか」

 ひと通りまとめ終わり、二度目のお茶を飲みながら父はそんなことを言った。ひょっとするとマテウス家は音無しの暗殺者の一族になるかもしれない。

「いいですね……そうなったら光栄という感じですけど。理想を言うなら外の音は聞こえるという所までやりたいですね。あと限りなく悪用できそうなのであまり子供には教えたくない魔法ですよ、これ。
 そういえば、うちにはあるんですか? そういう家伝の魔法」
「あるな……私は使えないが。お前もどうかな。ミンナなら使えるだろうが」

 ツェルプストーから伝わった、火のトライアングル、スクウェアスペルがそれぞれ一つ。マテウス家の先祖が作った水のスクウェアスペルが二つあるらしい。

「水のスクウェアって……。誰も使えないじゃないですか。なんでそんなことに」
「うちは元々は水の家系だったのだぞ。まあ何度かツェルプストーの血も入っているし、だんだんバラバラになっていったらしいが」

 なんと。それは驚きだ……が、ぶっちゃけどうでもいいな。

「では、父さんの魔法は?」
「いくつかあることはあるが……」

 父は微妙な顔になった。微妙な魔法しか出来なかったといったところか。あさってのほうを見ながら「見てみたいなあ」などと言ってみる。

「う、む……まあいいだろう。ルーンはこうだ……」

 父はルーンを諳んじながらいくつかのスペルを書いてみせた。どれもオリジナルスペルとしてはかなり短い。先ほど完成した《遮音》と大して変わらない。

「短いですね」
「だいぶ研究したからな」と父は苦笑した。

 呪文、ルーンにはそれぞれ意味がある。オリジナルスペルを作る場合には、当たり前だがそのルーンも自分で組み合わせなければならない。これが意外と難しく、何かと冗長になりがちなのだ。無駄のない長さのスペルとするには、ルーンの働きをきちんと理解しなくてはならない。これはあちらで言うなら大学の専門教育レベル以上、つまりアカデミーレベルの知識が必要であり、本ばかりが情報源の俺は半ば勘というレベルでやっている。やはりどうも冗長なものしかできないのだが。
 今、父が書いたスペルはどれも十分な実用性を備えたレベルの短さだ。父にもルーン学の知識はそれほどあるわけではないはずなので、おそらくは実用のうちにこれらのスペルを研究し尽くしたのだろう。知識的に突き詰めていなくとも、実用と改良を重ねることでまとめていくことはできる。

「これは風と火のトライアングルスペルだ。私自身、多少の無駄はあると感じているが……どちらか半分ならラインでもできないことはない。まあ、実際にやって見せる。
 うん……そうだな、お前は剣術でもやるつもりで構えていなさい」
「半分? ……はあ、わかりました」

 とりあえず、立って父に向かって杖を構えてみた。すたすたと歩いて十メイルほど距離をとった父はステッキ位の長さの杖を抜く。

「では行くぞ」

 その言葉とともに父はこちらへと一気に間合いを詰めてくる。若干驚いたが、剣術のつもりというのに納得した。
 間合いが半分に縮まったところで、ゆらりと父の姿が揺らいだかと思うと、四メイルほど開けてもう一人、父の偏在があらわれた。

「うっそ!」

 そのまま二人から間合いを詰められ、偏在と合わせて同時に突きを入れられる。と、払おうとした杖が通り抜けた?

「まあ、こういう魔法だ」

 目の前に立っている二人の父はゆらゆらと姿が安定しない。偏在は……これは。

「実体がない?」
「そういうことだ」

 偏在が消え、父も何か焦点の合わないような状態から普通に戻る。

「実態は、偏在ではなく空気の鏡を作る魔法だな。それと合わせて、こちらの姿を捉えづらくする。実際、二つの魔法を組み合わせたものだ。どちらも元々は私の作ったスペルだが」

 空気の鏡……。そしてあの焦点のあわないような状態は。

「蜃気楼? そして陽炎?」
「理解が早いな……。そういう事だ。種が割れればなんということはないが」

 父はつまらなそうな顔をしているが、これは使い方次第ではかなり使えるのではなかろうか。組み合わせない個々の魔法としても、使いどころさえ合えばなかなかの効果を発揮しそうな気がする。
 ただ、蜃気楼は使いこなすのにとんでもないセンスを必要としそうな気もするが……。相手からの見え方を完全にコントロールする必要があるのだ。これは相当に難しいはず。

「だがな、陽炎の魔法は騎士や剣士相手などでは意外に役に立つのだ。間合いを掴みにくくできる。鏡の魔法もちょっとした幻影を見せるようなことができるから、まあ座興にも使えるしひょっとすれば戦いにも活かせるかもしれんし」

 なんとなく父から照れと恥ずかしさを隠すような雰囲気が漂う。それと何かの売り込みのような必死さが。

「クク、座興って。使えないでしょう。というか使ったらいけませんよね? ……いや、でもこれは結構実用性がある魔法ですね」

 こんな家伝、秘伝の魔法は基本的によそで見せるものではあるまい。

「うん、……そうだな。座興はないな」

 そう言いつつも少し嬉しそうだ。

「まあ鏡写しだと気づかれるとつまらん。そのあたりをうまくやらなければ使えん」
「なるほど」

 確かに偏在と思って驚き、仕掛けられている最中はまったく気付かなかった。陽炎によって幻影との区別がつかなかったも大きい。あの幻影はトライアングルスペルとして使って初めて効果があるのだろう。
 だが……。思わずにやついてしまう。

「しかし……父さん、《偏在》が使いたかったんでしょう」くくく、と笑いが漏れる。
「う、まあな。お前も風のメイジならわかるだろう」
「わかります」

 うんうん、と思わず頷く。
 色々と本などで《偏在》の不完全さや欠点も知っているが、それでもやはりあれは風の上級呪文としては強力極まりない魔法なのだ。格段に跳ね上がる殲滅力のみならず、撹乱からアリバイ作りまでできる。水のメイジならばやはり水のスクウェアスペル《フェイス・チェンジ》で美形に化けたり他人に変装したりといったことを考えるように、まあそれぞれ色々な理由で身につけたくなる魔法だ。

「あれも欠点はあるがな。喜劇のような馬鹿をやった者も見たことがある」

 思い出し笑いを浮かべた父が皮肉げな口調になった。

「へえ。どんなことが?」
「うん……うーん、まあ、お前ならいいか。
 私の学院生時代、人気の女教師がいてな。同級生が猛烈に求愛して、どうにかデートの約束を取り付けたんだ。それでいざ当日、私や悪友たちで後をつけたんだが……二人が歩いて行く先に、もう一人その女教師がいたわけだ、学院の同僚の教師と仲睦まじい様子の」
「うわあ……」

 その年でそれは女性不信になりそうだ。というか、この年でそんな話を聞いたら普通の子どもは女性不信になるかもしれん。

「同級生のほうはてんで気づいていなくてな。必死に別の方へ連れていこうとする女に『今日は僕のエスコートで』などと……くっく、もう隠れて見ている方は《サイレント》まで使ってゲラゲラ笑っていたが。
 いよいよとなったら偏在は男に見つかる前に消えて逃げて、奴はしばらくきょろきょろしていたが『本物』の方を見つけてしまって。あとは……痴話喧嘩だな」
「その人は、やっぱり名門の?」
「ああ。侯爵家の長男だった。そういうわけだから、お前はそういう心配は少ないだろうが」

 そんな保証をされても仕方ないが、要するにツバを付けられていたわけだ。……哀れだが聞いている分には笑ってしまう。

「痴話喧嘩の中で教師が……ああ、教師の方は二人とも気づいていなかったんだ。もっとも女のほうは分かっただろうが、男のほうがな。頭に来たらしく処分をするなどと言い出したあたりでこっちもぞろぞろ出ていって、結局あとで逆に女の方へ処分が下った。あれは傑作だったな」
「悪の魔女は倒され、大団円か。ハハ、確かに喜劇」

 メイジには偏在がどこで何をやっているのか分からず、記憶の共有も不可能だからそういう事が起こる。消えたことも分からない。指示を与えてあとは完全に自律行動なのだ。偏在はメイジの指示に従うし、思考はメイジ本人とほぼ同じロボットのようなものらしいので命令系統での問題は起こりにくいのだが、どうしてもアクシデント、想定外に対する弱さのようなものがある。

「まあそんなわけで《偏在》も万能ではないがな。便利なのは確かだ。お前が羨ましい。きっとスクウェアまで届くだろう」
「どうなんでしょーねえ……」

 ラインのときにあった「トライアングルにはいずれなれるだろう」といった漠然とした感覚がない。別に頭打ち、という感じでもないが。それを言ってみた。

「なにかきっかけがあれば、といったところか? ――まあ、お前はまだまだ若い。あんまり普通に話ができるものだから時々私も忘れそうになるが、幼いと言っていい。成長せざるを得ない場面というのも、この先必ずあるだろう。その時まで、努力を怠らないことだな」

 私など、ミンナに求愛するのを決心した日にトライアングルになった……などという判断しづらい話をされた。それはなにか違う気がする。

「きっかけ、成長せざるを得ない場面、ね……」

 そういうとき、というのは……。俺には未だないように思う。
 この前の騎士との斬り合いは少し違うだろう。あれは、なんというか追い込まれた偶然と一種の熱狂状態の産物だ。剣の腕は多少伸びたような気がするがそれもわからん。肋骨にひびでも入ったらしいのを見栄で黙っていたため、このところ剣を振れていないのだ。
 前世の『彼』であったときはどうだっただろうか? 
 ――考えるまでもない。彼はそういうシーンに出会わないように生きていた。最後まで何とも向き合わなかった。ああ、たぶん今の俺もそうだな……。諦めが先に立つのだ。騒がしい友達の姿が見えなくなったとたん、以前に戻りつつある。何よりも価値を見いだせない、誰よりも嫌いな自分に。

「お前は時々そういう顔をするな」

 はっとして見ると、父がこちらを観察するようにじっと見ていた。

「あまり自分を卑下しないことだ。そういう考え方は魔法の力も落としてしまう。分かっていると思うが、人としての力もだ。己を信じるというのは色々な場面で重要になる」

 ――自分ほど信じられないものがあるものか。
 俺と父はかなり価値観が似ているタイプだと思うが、決定的に違うのはここだと思う。この人は真の困難がやって来たとき、おそらく自分を信じて向かっていくことができる。俺は困難を避ける。立ち向かう力がないからだ。いや、立ち向かう事ができないと思っているから、ということになるのだろうが……。実際、例えばこの前の騎士との一戦だって、あれほどの実力を持つ騎士だと分かっていたのなら、あの二人に助け舟など出さなかったと断言できる。
 成長しなくてはならないような場面、そんなものによりによって自分が正面からぶち当たるくらいなら、別に成長なんてしなくてもいい。自分にそれができなかったらどうする。そういうのは、誰かもっと信頼できる人間に任せておけばいい。世の中それで回っていくのだ。――ああ畜生、これは、『彼』の考え方じゃないか。なんて事だ。

「もしそれが難しいと思うのなら、なにか依って立つものを持てばいいのではないか」

 俺が黙っていると、父はそう言い足した。ある意味もっともな話だ。
 やれやれだ。始祖様でも本気で信じてみようかしら。皮肉気味にそんなことを考えていると、思い出したように笑みを浮かべて、さらに父は言った。

「それは家族でも、友人たちでもいいだろう。家族はそう簡単にはなくさんが、友人は簡単に失うことがある。大切にした方がいい」

 うまい落とし所に誘導された。このところ姿を見せない友達とのことを心配してくれているのだろう。
 確かに、始祖よりは赤毛の女の子のほうがよっぽど魅力的に違いない。俺も、まずはそこから始めてみることにした。




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 目の前で錯覚するレベルの蜃気楼なんてねーよ。でもそこは魔法なんだよ。
「ほら、そこは魔法だし」
 これこそが真の魔法の言葉。





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