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〈神様転生系のおはなし〉
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「誤解なきよう、一つだけ最初に言わせて貰えば、君は死んでいない」
「は?」
突然現れた男が、酷く事務的な口調でそんなことを言っていた。
少年というには育ちすぎ、中年というには若すぎる、至って普通の何処にでも居るあんちゃん。
そんな男がいきなり『君は死んでいない』なんて当たり前の事を口にした。
ただ、事務的な口調に反して、その表情は渋面に歪んでいる。
「……まぁ、訳がわからんってのは理解できる」
そう言いながら、男は手に下げた黒いビニル袋を掲げながら溜息を吐いた。
「状況が悪かったんだろうな。今日は、注文していた本が届く日だったんだ。前々から欲しくて欲しくて堪らなかったから、入荷の電話を貰って即書店にダッシュ」
「あー、あるある」
通販で頼めば取りに行く必要もないのに、何故か店頭で注文したりしちゃうんだよな。
ネットしてる最中とかじゃなくて、本屋でふと思いついて欲しくなった時とか、家に帰ってから通販サイトでも見ればいいのに、そのまま店員に有るかどうか聞いて。
「ご理解いただけて嬉しいよ。で、だ。目当てのブツを手に入れて意気揚々と帰る途中、信号待ちの最中に、車が行き交う道路をキョロキョロと見回している男が居た。見た目は中肉中背、顔つきに目立つ特徴なし、如何にも何処にでも居そうな……君と同じくらいの、高校生だったか」
男の言葉に、頭の中に一つの情景が浮かび上がる。
ああ、そうだ。
確か俺も、ジャンプを立ち読みしに、良く行く本屋に行こうとしてた。
道路の向かいには、この目の前の男が居た気がする。
「平日の昼間っからジャンプ立ち読みとは、不良だな」
「あ、いや、今日はテスト期間中で……?」
おかしい。
今、俺は、ジャンプを立ち読みしに行く、という部分を口に出しただろうか。
「いろいろと思うところはあるだろうけど、無視して話を進めようか。不良かそうではないかはともかく、その少年は信号が青になるのを待たずに道路を渡ろうとしたわけだ」
そうだ、あの信号、書店へと続く側の横断歩道は、県道を横切る形で設置されているから、少しだけ長めに信号の赤の時間が設定されている。
でも、この町は何だかんだで田舎だから、平日の昼間は多少車の通りが少なくなる。
あの時も、少し待てば車の列が途切れて、走り抜けられる程度の時間はできると思って、
「うん、そんなところなんだろう。少年の思った通り、少し待つと、信号が変わるよりも早く車は途切れた。遠くから走ってくるトラックも見えるが、健康体高校生男子の平均的な速度を出せれば、道路を渡り切るには十分な距離だった────そう、道路を横断する最中に、靴紐が切れて躓いたりしなければ」
「あ……」
思い出す。
道路の途中で、いきなり靴紐が切れて、走っている途中だから、そのまま靴が脱げたんだった。
カッコつけるために、あと背が伸びて足も大きくなる可能性も考えて、少し大きめの靴にしたから。
だから、その場で、滑って、尻餅を突いて。
クラクションの音が、
「あ、ああああ」
空を飛んだ。
体中からバキバキ音がして、頭から、くしゃって音がして、
「ああああああああ!!」
痛みが蘇る。
一周回って、痛みよりも衝撃の方が強く記憶に残っているけど、それでも、今まで感じたことのない痛み。
文字通り全身を砕かれる痛みだ。
そのまま、全身から血が抜けて、どんどん、冷たくなって、周りの光景もぼやけて、
どうして忘れて、俺は、俺はあの時、
死────
「まぁ、渡りはじめのところだったからな。少年はみっともなく慌てながら歩道に駆け戻って行ったよ。無傷ではあるけど、渡りかけて戻るのは恥ずかしい、後で思い出して微妙に嫌な気分になったろう」
「え」
ぱんっ、と、男が手を叩く。
するとどうだろう、寸前まで再生されていた死の寸前の感覚は消え失せ、混濁し始めていた意識は一瞬にして正常化されてしまった。
同時に、ようやく周りの情景が常軌を逸したモノである事に気が付く。
何処までも、何処までも続く、左右にドアのある廊下。
男も、『そこに居る』だけではなく、廊下のど真ん中に置かれた机に座り込んでいる。
こうして見れば、男がどんな風貌をしているかも認識できてきた。
格闘家の様なマッチョではないが、中々にがっしりした体つき。
目つきも鋭く、はっきり言ってしまえば、書類仕事をする様な机に座る姿は中々に似合っていない。
「さて、話を最初に戻そう。君には確かに死んだ記憶が有るだろうが、あの日あの時あの場面、誰一人として死んではいない」
「ま、待ってくれよ。じゃあ、俺のこの記憶は」
男は退屈そうに机に肘を付き、机の上の書類に乗せられた小さな玩具をいじっている。
最近、そこらのガチャポンでよく見る土下座フィギュアだ。
……ローブを着たひげふさふさの爺タイプなんてあったかな……。
「そういう設定だからだ。俺に聞かれても困る」
「設定?」
「そう、『よくわからない空間で目を覚ますといきなり目の前で土下座する偉そうな老人、事情を聞くとどうやらこのジジイは神様で、俺はこいつのミスによって死ぬはずが無かったのに殺されてしまったらしい!』ってやつだ」
お前は良く知っている筈だろう?
確認するように放たれた問いに、俺は頷く。
それは、良くネット掲示板で見かける『神様転生』と言われるジャンルのSSと同じ展開だ。
でもそれじゃ、やっぱり俺は死んでるってこと?
あ、違うか。
死んでいない、ってことは、『死んで生まれ変わる魂になったという設定』なのか?
「……物分かりが良すぎるな、君は」
「いや、正直何もわかっていないっていうか」
これが現実と仮定した場合、自分がいきなりああいう作品の主人公と同じ立場に立たされるとは思っていなかったから、イマイチ感情の方がついてこないっていうか。
夢だとしても、こんな恥ずかしい夢を見るとも想像していなかったから、どう反応していいかわからないっていうか。
だけど、男はそんな俺の考えを読んでいる様に首を横に振った。
「少なくとも、ここでぎゃあぎゃあ喚き始めない分だけ、君は十分に理性的だ」
「喚いたらどうなってた?」
「会話機能思考機能我慢機能没収の上で理性的になってくれるまでちょっと痛めのリフティング。俺が飽きるまでな」
「やだ怖い」
背筋に怖気が走り、身体の感覚を思い出す。
目の前の男には逆らわない方がよさそうなので、なんとなく突っ立っていた身体に正座をさせる。
組んだ足先の感覚がない。
振り返り確認すると、脛の途中から足元がぼやけているのが見えた。
さすが夢、分かり易い幽霊描写だ。
しかし、これなら少なくとも正座のし過ぎで足がしびれて動けなくなる、という事はないのかもしれない。
正座で男を見上げると、男は見下す事もなく、机の上に乗せられた資料を一枚捲る。
「ふむ……話を続けようか。ここまでの話だと『①君がいわゆる神転テンプレと似たような状況である』『②しかし君は死んでいない』という点しかわからないと思うが」
「あ、大丈夫です。『テンプレ通りに超パワーとか貰ってどこかの世界に転生させられる』って事でいいんですよね?」
そうなると、目の前で椅子に座っている男が神様とか天使様ポジなのだろうか。
確かに幼女とか老人はマンネリだけど、何の変哲もない男、ってのもそれなりの数が居そうな気がする。
ビジュアル的にどんな方向性を目指したチョイスなんだかわからないけど、性質的には間違いなく邪神とか荒ぶる神とかなんだろうな(小並感)。
「まぁ、概ね間違っちゃいるが、そんな認識でも問題はあるまい。正直、俺だって早く家に帰りたいからな。都合のいい事に転生先の肉体は決めてあるようだし、あとは適当に主役張れるだけの力をつけてやろう」
「ちょとちょっと」
嫌になげやりな男の言葉に俺は待ったを掛けた。
少し年上っぽい男にこういう口の聞き方をするのもどうかと思うけど、どうせ夢なら構いやしない。
「なんだ? 俺はさっさと帰って電ホビ読みたいから、さっさと済ませたいんだが」
面倒くさそうな表情の男。
だけど構うことはない。
この夢の中の設定では、俺は建前上被害者の側なんだ、少しくらい主張激しくてもいいだろう。
「こういう場面って、俺にどういう力が欲しいかーとか聞くべきじゃないですか? それを勝手に決められちゃ溜まったもんじゃないですよ」
「ふーん。じゃ、言ってみな。これでもほぼ全能の身だから、定番の剣畑でもジャイアン物置でも魔力SSSSSSだけど面倒だからBに擬装でもベクトルあっちむいてホイとかでも好きに付けてやれるから」
投げやりに、小指で耳をほじりながら言う男の態度に不快感を覚えながら、確認する。
うまい話には裏があるもので、特に最近のアンチ主人公以外の転生者だと、こういう能力にはたいてい罠があったりする。
「……剣は自分で登録しろとか、中身はお前持ちな、とか、制御能力は別とか、脳味噌の演算速度が足りない、とか?」
で、何故か主人公の転生者にだけ、罠が張れそうな部分をスルーしてまともに能力を与えたりするのだ。
だが俺の指摘に、男は如何にもなんだそりゃ、みたいな顔で手を振った。
「やらんやらん。パソコンやるけどOS抜いてあるぜ外部入力機器も全部潰してあるぜとか、PS3買ってやったけど本体だけなコード類は自力で買え通販も無いし近所に電気屋も無いけどとか、そういう類の詐欺だろそれは。必要な技能はセット扱いだよ」
男は袋から本を取り出し、ビニルを破って読み始める。
「お前が欲しい力を、デメリット無しで最強主人公っぽく思う存分に振るえるようにしてやると言っているんだ。シンキングタイムは……そうだな、今日は電車だから、二時間くれてやる。決まったら言え」
そう言って、大きめの砂時計を逆さにすると、男は読書に没頭し始めてしまう。
不思議な事に、本に何が書いてあるかは読めなかった。
だけど、うん、いい夢だ。
どこまで続く夢かは知らないが、それならそれで、好きな力を選ばせてもらおう。
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……………………
…………
……
ぱたん、と、本を閉じる音。
俺はハッとして、男の方に視線を戻した。
机の上には、砂の落ちきった砂時計。
いつの間にか二時間が経過してしまっていたらしい。
「で、何にするか決まったか?」
「まだ……、いやでも、もうちょい待ってくれれば決まるから!」
まいったな、二時間も貰ったのに何にするか決められないなんて。
まぁどうせ夢だし、なんだかんだ言って時間も融通してくれ、
「はい、じゃあ時間切れって事で、お前の能力は『なんか太刀打ちできるやつが居ないすごい超能力全般』に決定しましたー。ぱちぱちぱち。────ほれ」
無いらしい。
「うわっ!」
抵抗する間もなく、男の放った光が俺に吸い込まれ、途端に、自分が恐ろしく強い超能力者になった事を自覚した。
「もうちょっと待ってくれてもいいだろ! 大体、SHINPIとか使う連中が出てきたらどうするつもりだよ!」
思わず微妙な丁寧語を忘れて怒鳴りつける。
「何が欲しいか決められないのが君の不足していた部分らしいぞ。それに常識でものを考えろ。最強の魔眼だのなんだのをぽんと与える存在がくれた超能力だぞ? よっぽどのハズレ世界にいかない限り格負けは無いに決まってんだろ」
シッシッ、と、じゃれる犬を追い払う様な手付きで俺の抗議を一蹴する男。
酷く御座成りな扱いに、目の前の男に怒りを覚える。
大体なんだ、決められないのが欠点って。
俺はそこまで優柔不断な生き方をした記憶はない。あと二時間もあればきっと決められるにきまっているのに、酷い言いがかりだ。
そういえば、前に読んだSSじゃ、貰った力で神を速攻で殺していた気がする。
そこまで行かなくても、意趣返しくらいはしてやるべきじゃないだろうか。
悪戯心がむくむくと湧き上がり、手に入れた超能力で目の前の男に干渉──
「そういえば最近の流行りだと、貰った力で反逆した相手には自分のうんこを食わせなきゃならんらしいな」
干渉──
「よくよく考えると凄い趣味だよな。俺にはスカトロ趣味無いから理解し難いんだが、相手の口から自分のうんこがハミ出してる映像とか、見て面白いもんなんだろうか」
干し──
「ちょっと知ってる美少女とか、逆にむかつく顔の奴で脳内シミュレートしてみたんだが、イマイチ興奮どころがわからないというか」
か──
「ああ、せっかくだから能力も変更するか。魔王の力とかどうだ? 悪霊の王とも呼ばれる悪魔の力を再現したもので、秘密を暴いたり相手を無力化したり、応用力高いぞー? 副作用で少し食べ物の好みが模倣元の魔王に似るけど」
「スカトロとかアブノーマルなのはいけませんよね! はい!」
おれはなんておろかなんだ!
こんないかしたぱわーをくれたあいてにはんぎゃくだなんて!
かみしゃまばんじゃい!
「うん、お利口さん……。それじゃ、適当なドアを開けてさっさと生まれてしまえ」
顎でしゃくって示すのは、一歩間違えると第六天魔王とか妖怪首おいてけとの共闘ルートに突入しそうなデザインの扉の数々。
強制的に送られないのはまだ善良なのかもしれないけど、こう、踏ん切りが付き難くもある。
「あのぉ、適当って」
「数が多いのはインテリアの一種、出る先はどれも同じ世界の同じ女の股だ」
品のない物言いだ。
ああでも、いざ転生する、となると、緊張する。
転生先の世界はどんなものだろうか。
何しろこれから新たな一生を生きて行かなければならない世界なわけで。
ちらり、と、男に視線を向ける。
男は意を察してくれたのか、鷹揚に頷いた。
「君は健康体で生まれるし、それなり以上にリア充人生を送っていける。ハーレムも頑張れば作れるかもしれん。……固定ヒロインも複雑な設定もついてないようだしな」
「リア充、ハーレム……」
下を向き、告げられた言葉をオウム返しに呟きながら、喉がべとりと乾くのを感じる。
妬む程のものでは無かったけど、一度はなってみたかった状況だ。
だけど、これから自分がそんな状況に置かれるのだと考えると、不安になる。
俺は、上手くやれるのだろうか。
数多くの物語に登場する、主人公達のように。
「安心しろ。君は、別に主人公である必要はない」
「え?」
顔を上げると、男はさっきと同じく、億劫そうな顔。
少なくとも、俺に何かを期待しているようにはとても見えない。
「お前にあるのは人並みの出生、人並みの家庭、そしてTUEEEEだけではなく日常全般ですらSUGEEEEできるの万能な超能力だけだ。トラブルを解決する義務なんぞくれてやった覚えはない」
「いや、でも……神転なんでしょう?」
「輪廻転生なんぞそこらの犬猫でもやっているだろう」
身も蓋もない。
明らかに仏教系には見えないのに輪廻とか持ち出してるし。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、男は何かの期待を向けるでもなく、ただただ事務的に告げる。
「それに、強い力を持つ者の義務とか……」
「できることをやらないのも権利の一つだ」
机の上に置いてある本を掲げる。
教養書でも宗教関連の本でもない、極々普通の娯楽誌。
「今さっき欲しい本のついでに買った、役に立つのかどうかもわからん微妙な本。これを買う金、募金すればワクチンにでもなって何十人、何百人の生命を救ったろう。つまり今日の俺は、遠くの子供の生命を見捨てて自分の娯楽を取った事になる。救える生命を見捨てたが、俺は責められるか?」
「いえ……」
「そうだ。力を誰か、何かの役に立てるのは尊い行いだろう。しかし、俺達は生きていく上で、余剰分を全て尊い行いに費やす義務なぞ持っていない。それは君も同じ事だ」
なんというか、酷く身勝手で、聞いていて不快になる。
不快になるのは、たぶん、否定することができないからだ。
単純な、感情や道徳論の絡みにくい、単純明快な利己の為の正論。
何よりも、納得して、少し心が軽くなった自分が気持ち悪い。
「俺はお前に力を与えた。そして、転生後、その力で解決できるだろうトラブルに出くわす事もあるだろう。誰かが誘拐される現場を目撃したり、怪物に襲われそうになっていたり、単純に階段から落ちそうになったりでもいいか」
「……その場面で、俺は『力を使って助けてもいい』し、『無視して家に帰って録画したドラマを見ながらカウチポテトしてもいい』って事か」
アメコミだかハリウッドの映画だかで、そんなテーマの話があった気もする。
メンタルが一般人なら、一般人らしい振る舞いをするのが一番自然なのかもしれない。
神転だの超パワーだのに気を取られて、大事なところを見落としてしまうところだった。
「そう。どんな思惑で生み出されようが、生まれたのなら、その人生は君のものだ。心の許す限り、自由に生きていくことができるだろう。……というか、生まれた後にまで干渉してやるほど俺は暇じゃあない。勝手に生まれて勝手に生きて、そして勝手に死ぬといい」
「台無しにしないと気が済まないんですか?」
途中まではいい話っぽかったのに……。
「君のせいで、俺は既に二時間分の人生を無駄にしてしまっているんだ。悪態くらい出る。ほら、もう聞く事はないだろう」
さっさと行け、と、猫でも追い払うような手付きで急かされる。
雑な導入、雑な送り出し。これが夢ならもう少し気の利いた演出なりなんなりが欲しい。
仮にSSならこの場面は全カットでいいんじゃないだろうか。
とまれ、気分は軽くなった。
ここに長居したい理由も無いので、これで心置きなく転生することができる。
これが夢かどうかはそのうちわかるだろう。
もしかしたら、扉を開いて、さぁ転生するぞ! という場面で目が覚めるかもしれない。
とにもかくにも、この扉を開かなければ話は始まらないのだ。
「ああ、忘れていた」
ドアノブに手をかけ、ドアの向こうの白い光に半身を突っ込んだ所で、背後から男が声を掛けた。
振り向くも、視界を眩い光が遮り男の姿をはっきりと視認することができない。
「事前情報やったんだから『おぎゃぁぁぁぁぁ!(なんじゃこりゃぁぁぁぁ!)』とかやったら鼻で嗤うのでそのつもりで。せめて10回華麗にステップ踏んでから『天上天下唯我独尊』とか青ひげ生やして『リィィィダァァァァァァ!』くらいは言ってみせるように」
忘れるなよ。
そんな言葉を最後に、光に輪郭を暈された男の姿が見えなくなる。
光に包まれ、急激に身体の感覚がはっきりとし始める。
どんな世界に転生するのか、それともベッドの上で目覚めるのか。
どちらになるかは判らない。
判らないが、俺は何故か、あの不躾で皮肉げな受付の男に対し、こう思っていた。
『送り出してくれて、ありがとう』
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……………………
…………
……
フワフワした人型っぽい物が扉の向こうに吸い込まれるのを確認し、数十秒。
「……大丈夫、かな?」
とりあえず、俺があのフワッとしたものが主人公として当てられる物語に呼ばれる、という線は無いようだ。
少なくとも、手元の資料には『転生者を利用した自己強化プラン』だの『転生者の生き様をプロデュース』だのといった内容は見受けられない。
更に数十秒だけ待って、丁度一分が経過した所で、俺は安堵の溜息を吐いた。
「合計三人、初めてにしちゃ、まぁ、上手く処理できたよな」
特に、最後の一人は上々だったと思う。
個性と自己主張が薄めだったから、というのもあるが、危うげなく能力付きに加工する事が出来た。
ぶっちゃけ、海賊版作成とか倉庫とか注文されても、見た目と効果が一致する良く似た能力しか付けられんからな……オリジナル生で見たこと無いし。
あっちむいてホイは超能力の範囲で収まるから再現楽だけど、それなら普通にさっきの凄い超能力全般に含まれちゃってるし、メリットが無いからなぁ。
「姉さんの言う通り、ちょっと強めにこっちが出れば主張を引っ込めた」
これは記憶しておこう。
一人目二人目はこっちが少し控えめに出たら超調子に乗って使わないだろう能力まで望んできたし。強気で接することが時間短縮の鍵になると見て間違いないだろう。
最終的に『なんか強くて負けない系の強さ(あやふや)』と『魔力とか気とか必要な分だけ出そう(希望)』で済ませたのも良い点だろう。作るのが簡単だ。
これで矛盾都市の能力全部くれ、とか言われたらどうなっていたか。
まぁ、連中だけなら、結局能力を何にするかも決められずにこの場から動けなかったろうけども。
「卓也ちゃーん、そっち終わったー?」
脳内反省会を行っていると、俺の座る執務机の直ぐ右後ろのドアが開き、姉さんが顔を出した。
「一応ね。……事前にどういう形式になるかは説明貰ってたし、失敗のしようも無いんだけど」
「卓也ちゃんなら事前説明無くてもきっと上手くやれてたよ?」
「理由は?」
扉の向こうから隣にまで歩み寄り、机の上で転がされて練られた消しゴムのカスの様に伸びていた老人土下座人形を爪で弾いてゴミ箱にシュート。
「お姉ちゃんの弟だから、ってのが最初に来るけど、ほら、ナイアルラトホテップ属性あるし、お手の物って感じじゃない?」
「あー……うん、そういえば、似たような事、原始人類とかでやった記憶が……」
──さて、俺と姉さんがこんな戦闘訓練にも使えないような微妙な不思議空間で何をしていたかと言えば、神様転生の真似事である。
姉さんの知る範囲内では、トリップと転生は似ているようで全く違うものとして扱われているらしい。
俺達トリッパーは作品世界に取り込まれる際、どれだけ足掻いても最終的には取り込まれてトリップする羽目になる。
これはどれだけ強力な能力を持つトリッパーでも同じであり、それだけ不完全な世界の持つトリッパー吸引能力が高い証明になるだろう。
だが不思議な事に、全てのトリッパーはどんな条件のトリップであろうとも、肉体を維持したまま、転生などを行わずにそのまま作品世界へと移行する。
不自然にトラックが目の前を通り過ぎる事はあっても、本当にトラックに跳ねられて死に、転生したトリッパーは存在を確認できていないのだ。
全能を越えて全能殺しを超越し、最強スレトップランカーを指先ひとつでダウンさせる超トリッパーが強制的に引き摺り込まれるというのに、成り立てのトリッパーなどが神様転生二次創作世界に殺された、という話は一つとして存在しないらしい。
いわゆる、神様転生系の手順を踏んだオリ主のなりそこないも見つかることはあるが、それもあくまでもそういう設定がついている、というだけで、現実の人間の生まれ変わりではないらしい。
これには諸説あり、『単純に我々に観測されていないだけで、現実世界で死んでしまい、魂として転生という形でトリップしている者は存在する』説や、
『トリップ先の世界はその攻撃力、殺傷力を現実における創作物と同じくしている為、現実の存在であるトリッパーを物語に取り込む(話に没頭させる)ことはできても、実際に殺害する(話だけで読者の生命を奪う)事は出来ない』説、などがある。
因みに後者の説はあくまでも現実世界において物語自体に殺傷能力が無いというだけの話であり、その話を読んだショックで自害したりするのは勘定に入れていないのだとか。
それに三国志とかの時代だと転生系のトリッパーが普通に存在した可能性はありそうだ。あの時代の武将や軍師連中、手紙一通で憤死とか悶死とか怒死とかしたりするし。
と、まぁ、事実や実際の原因がどうあれ、姉さんが知りうる範囲では、トリッパーは転生系二次創作世界にオリ主の代役として取り込まれる事はない。
では、神様転生系の二次創作世界、それも、転生させる段階で躓いた世界は、どのようにして自らの欠損を埋めようとするか。
それは、他の世界と何一つ変わらない。
神様転生系のお話に必要な要素を埋めるために、適当なトリッパーをその世界に取り込む。
『転生させるために殺す必要がなく、不足しているパーツを補うのに最適な存在の代打』として。
──そう、神様転生系二次創作プロローグ世界におけるトリッパーの役目は主人公そのものの代役ではなく、主人公をその世界に転生させる神様の代役なのだ。
「でもあれぶっちゃけた話、時間が腐るほどあるから出来た娯楽だしさ、こっちの世界でまでやりたい遊びじゃないよ」
よく神様転生系SSをどうすれば面白くできるか、なんて話をしているところでは、
『与えられた力で得意絶頂、周囲からの期待も最高潮に達した所で、唐突に能力を没収し、落ちぶれたり、そこから自力で這い上がる姿を楽しむ』
なんて話を聞く。
が、しかし。
そんなのは神様が与えた力に限らず、現実社会にも腐るほど存在している話だ。
転生特典ではないにしろ、会社などで与えられる力、権力はある程度まで上り詰めないと、結局は更に上位の役職の連中から与えられた借り物の力でしかないとも言える。
社会人でなくても、親の車、親の金で豪遊していた連中が唐突に支援を打ち切られた時などがこれに該当するだろう。
この辺りの理屈に関しては、オーズのガタキリバが初登場するエピソードとか参照してもいいかもしれない。
ことにあの元ボンボンの女性は上手くやれている方だし。
転生オリ主アンチ救済という方向性で、改心した噛ませ系転生オリ主が平穏にパン屋を始める短編とか誰か書かないだろうか。
「うーん、まぁ、この形式だと、卓也ちゃんなんかは得るものは無いに等しいもんね」
首を僅かに傾け、困ったように眉根を下げ、人差し指で自らの頬を抑える姉さん。
「姉さんは、なんか手に入ったの?」
「お姉ちゃんも大した収入は無かったけどね。一応、魂どもに与える事ができる能力は全部手に入ったけど……一般的な神様転生で与えられる付属品とか、全部ダブリ多めで持ってるし」
姉さんはこんなトリッパー的ブルジョワ発現をかましているが、この神様転生系トリップ、俺にとっては旨みが非常に少ない。
姉さんの様に、超存在(笑)に力を与えられたり、むしろ力を簒奪したり、もしくはイヤボーンとかオデキ六つハゲの事かとか眠っていた真の力とか仲間の死を乗り越えることで魂の位階がとか、そんな理屈でポポポポーンと成長できる一般的なトリッパーなら、この神様転生系トリップにも少なからぬ旨みがある。
神様としての活動を体験することによりゴッドパワーだの神力だの信仰だの諸々の超パワーが身についたり、一般的なチート能力を軽く凌駕する神能力に目覚める事ができるのだ。
単純に潜在能力が上がるとか、『最早魂のレベルが人のものを越えてしま云々』とかでも構わないが、まぁそんな感じなのである。
「あのオリ主のなりそこない共の元を食っても良かったんだけど……ぶっちゃけあれ、スカスカして何の足しにもなりそうにないし」
三人とも能力を与えてから齧ってみた(当然、その工程の記憶は削ってある)のだが、なんといえばいいのだろうか、新品の台所用スポンジを口に含んだような感触というか。
まあ、備わった能力も殆ど完全に俺が継ぎ足したものだから能力が手に入らないのは仕方がないにしても、あまりにもスカスカし過ぎている。
「んー、そこら辺は、まぁ、転生断念系だと仕方が無いのよ。だってほら、転生させる前に考えるのを止めちゃってる訳だし」
「ああ、デモベ世界のクロスっぽい連中とかと同じ扱いな訳ね」
つまり、本来ならトリッパーが成り代わらなければ成らない位置の存在であるため、恐ろしく不安定な存在なのだ。
これらの『薄い』存在である転生オリ主(の、なりそこない)に対して、トリッパーは神様的立ち位置から能力を付与し、転生する前の幾らかの会話によって性格、人格などの濃度を上げ、オリ主として活動できるレベルにまで存在を安定させなければならない。
ここが曲者なのだが、存在が本来のオリ主レベルまで安定するのはあくまでも能力とキャラ付けによって生まれた、『転生後のオリ主(仮)』なのだ。
お陰で、送り出す場所から動けない場合、俺は安定した後のオリ主を取り込む事ができない。
よしんば神様が後々ストーリーに絡むお話だったとして、オリ主として安定した存在が取り込んで能力を得られる程度の濃度を持っているかは別問題となる。
良くオリ主ありの二次創作に対する批評で『上っ面だけ』とか『キャラが薄い』とか『ありがち過ぎる』などという言葉を見かける。
安定した後の転生オリ主(仮)が、そういった批評を受けても仕方が無い個性を獲得していた場合、転生オリ主(仮)は、その批評の通りの『表面上しか人間性が存在せず』『自我が薄い』『オリ主としての役目を全うするためにテンプレート通りの動きをする』存在と化していると見ていい。
これは、トリップ先の人間と比べてもなお劣る存在だろう。何しろ、トリップ先の人間は曲がりなりにも元の世界の人間と同じ構造をしている。
人間と同じ動きをして、しかし自我も欲も無く、役目を全うするためにだけ生き続ける存在は、とてもではないが人間とは言えない。
そして、人間を逸脱した、一種のシステムと化した転生オリ主(仮)の力もまた、世界を回すためのシステムの一部に組み込まれる。
物語の中で人間関係を回すための歯車としての『オリ主』と、物語を都合よく力技で進めるための動力としての『オリ主パワー』は、同じ価値を持つ同列の要素として扱われる。
そうなると、今さっき与えた凄い超能力の数々も、転生オリ主(仮)の中ではなく、世界の基幹部分へと移動してしまう。
そうして、転生オリ主(仮)の中に残るのは力ではなく、世界に組み込まれた、『オリ主の操る超パワー』へのリンクのみ。
アイコンがパッと見で同じでも、オリ主の中に残っているのは『超能力.exe』ではなく『超能力へのショートカット』でしかない。
転生する前はそもそも不安定で取り込んでもスカになる。
転生後も能力が安定状態で本人の中に残るとは限らない。
転生オリ主(仮)にとってはそれでもいいのだろうが、こちらとしては美味しくないにも程があるのだ。
「……って言っても、トリップしないに越したことはない訳だし」
そう、散々言っておいてなんだが、これはあくまでも転生オリ主を取り込む事を前提とした話だ。
総合的に見れば、神様転生系のトリップほどトリッパーに優しいトリップは存在しないと言ってもいいだろう。
何しろオリ主のなりそこないの魂を改造して力と個性を与えるだけでいいのだ。
トリップして、原作が何かを考えて、どういうイベントが起こるかを思い出して、それを解決するために奔走することと比べれば、掛かる労力は桁違いに低い。
メリットはそれだけではない。
神様転生系トリップの最大のメリット、それは……
「ほら、そろそろ帰れるみたいだし、夕ごはんはお家で食べられるよ?」
「ん、おお、これは確かに早い」
懐かしの帰還の兆しに包まれる。
そう、神様転生系トリップの最大のメリットは、『元の世界へと即座に帰還できる』という点だ。
何しろ神様転生系SSのプロローグと同じやりとりを行うだけでいいので、そのやり取りに掛かった時間だけしか元の世界では時間が進まない。
いや、場合によっては数分で元の世界に帰れる場合すらあるらしい。
この速度を通常のトリップで真似しようと思ったら、それこそ事件の元凶を第一話のアバンが終わる前に一人残らずMassacrしなければならないだろう。
つまりここ数年の姉さんな訳だが……。ある程度時間が進まないと事件の元凶が存在すらしていない系の世界とか、これだ! という元凶が存在しない世界ではそもそもこの手すら使えない。
しかしそもそも、それでも数時間とか普通に取られてしまった訳で。
交通事故に遭いかけた少年を見て、一瞬だけ、
『ああ、あんな感じで事故死して、そこから異世界に転生してチートな人生を……いかんいかん、人身事故になりかけてるのに不謹慎な』
とか考えた人々の捨てた世界だと思えば、文句の付けようも無いというか。
「そういえば、今日は何かいいのあった?」
「んふふー、今日はねぇ、ちょっと高めのホッケ! あとはねぇ……」
姉さんの買い物自慢を聞いていると、周囲のドアの並ぶ転生部屋の光景が薄れ、塗りつぶすように元の世界の人気のない路地裏の光景が広がり始める。
……まぁ、元の世界の貴重な数時間を失ってしまったのは惜しいが、普通にトリップするのに比べればまだ時間的には救いがある。
毒にも薬にもならない転生トリップのことなどさっさと忘れて、今日の残りの時間でできることを考える方が余程有意義だろう。
そんな事を考えながら、俺と姉さんは無事に神様転生プロローグの世界から帰還を果たしたのであった。
〈神様転生のおはなし・おわり〉
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〈二重の意味でケモ属性モンクというおはなし〉
―――――――――――――――――――
獣を心に感じ、獣の力を手にする拳法、“獣拳”。獣拳に、相対する二つの流派あり。
一つ、正義の獣拳『激獣拳ビーストアーツ』
一つ、邪悪な獣拳『臨獣拳アクガタ』
戦う宿命の拳士たちは、日々、高みを目指して、学び────変わった!
「ので、帰ろう」
荷物をいつもの鞄に仕舞い込み、階段を降りる。
時刻は丑三つ時。
普段ならば昼夜問わず修行に明け暮れているリンシー達も眠りに付き、臨獣殿は夜相応の静けさを保っている。
無理もない。
幻獣拳との決戦では、少数精鋭の激獣拳の連中よりも、兵の多い臨獣殿に負担が多くかかったのだ。
全十三の流派を持つ、幻獣拳との決戦は熾烈を極めた。
どれくらい熾烈を極めたかと言えば、いやぁ、幻獣拳の頭目は強敵でしたね……という程に辛く厳しい戦いだった。
みんなの手前、魔術とか科学とか基本的に禁止だったし、かといって力を強く込め過ぎると地球そのものが砕け散るし。
だがその甲斐あって、武術サイドの修行にはとても身が入った。
何時か蘊奥の爺さんに言われた一撃がどうたら、という境地には達せなかったまでも、俺に相応しい戦闘法を手に入れる事ができたと言っていいだろう。
「……」
ふと、振り返る。
半ば程を降りた階段から見えるのは、深い霧に覆われた、断崖に聳え立つおどろおどろしい外観の臨獣殿。
空には臨獣殿の霧と繋がる雲が掛かり、街の灯りが届かないこの場所を照らすのは、臨獣殿内に僅かに立てられた松明などの灯りのみ。
「意外と、愛着が湧いたか」
呟く。
これまでのトリップの中ではそれほど長いとも言えない、僅か四クール程の滞在だったが、ここには多くの思い出がある。
激獣拳を学びにスクラッチに向かった美鳥と別れ、この臨獣殿に訪れたはいいものの、入門の要項を何処で手に入れれば良いか分からなかった第一話辺り……。
結局、リオメレ以外の全てのリンシーとリンリンシーをこれまで学習した武術を無駄に駆使し、丸々一話分の時間を使って全員再起可能なレベルで叩きのめし、
『今日からこの場において臨獣拳を学ばせて貰う! 我が入門を挟む者は更なる地獄を見る事になるだろう!』
と、中学生時代に引っ込み思案だったソバカス三つ編みメガネ図書委員女子の高校生金髪ピアス黒ギャルデビューの如く鮮烈なデビューを果たしたのも、今は昔。
とりあえず、見よう見まねで臨気を出す所までは上手く行ったのだが、獣の心をどう感じれば良いか分からず、色々と工夫した一クール目。
二クール目には、スパロボ世界の終盤で使用した顔に掛ける影を使って度々顔が出ない程度に激獣拳の連中の前に姿を表し、
全員が復活した三拳魔に頼み込み説得(物理)して修行を付けて貰い、ようやく俺の運命の獣拳を習得、数日に渡るチャットでの打ち合わせを元に『敵味方に別れた兄と妹の悲しき激突(笑)』のエピソードに丸々四話分の時間を割かせ……、
まぁ、なんやかんやあって幻獣拳との決戦を前倒しにしたんだったか。
「色々あったけど、いい修行の日々だった」
今後、ここで学んだ獣拳を単体で使用することはまず無いだろうけど、一度本格的に武術家に指南して貰ったのは、間違いなく良い経験になる。
美鳥と融合して激獣拳側の技術を統合すれば、格闘戦においてはかなりの向上が見込めるだろう。
……まぁ、ぶっちゃけ修行方法に関してはスクラッチよりも臨獣殿の方が時間単位での効率は格段に良いから、美鳥から得られるのは純粋にあっちで培った技術だけだろうけど。
だが、そう考えると、
「出来ればもう少し、拳魔様達に修行を付けて貰えば良かったかな」
贅沢な悩みだろうけど。
「そう思うのなら」
名残を惜しむ俺に、暗がりから声が掛けられる。
ねっとりとした粘性の色気が感じられる、妙齢の女性の声。
「修行を続けていきなさいな……貴方が本当に、納得できるまで」
ドレスの様な意匠が彼方此方に見える、クラゲに似た、女性的なシルエットの異形。
『海の拳魔・ラゲク』が、ゆっくりと、濃い影の中から姿を表した。
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
臨獣殿における鳴無卓也という拳士は、如何なる存在であったか。
現代の臨獣殿で、現当主である臨獣ライオン拳の使い手、レオ以外で唯一の生きた人間の拳士。
更に、修行を始める前から並のリンシーやリンリンシーが束になっても敵わない強さを誇っているとなれば、その扱いは特別なものになると思われるだろう。
だが、現実は違った。
当主であるレオの意向を気にも留めず、独自行動を行うという一点を除き、彼は他のリンリンシー達に混じり、日々の修行に明け暮れる。
その実力や、当主の意志に沿わない自由さ。
本来ならば多くの反感や嫉妬を買うだろう卓也は、しかしそれらの感情を生み出させること無く、まるで最初からそうある事が当然であるかの様に受け入れられた。
他のリンリンシーとの組手を日常とし、臨獣殿に訪れた初日に戦わなかったリオとメレに勝負を挑むでもなく、一拳士として修行に明け暮れる……。
そんな状況に最初に気が付いたのが、海の拳魔、ラゲク。
きっかけは、卓也の臨獣拳士としての目覚めの波動。
卓也の目覚めた獣の力は、奇しくも復活したばかりのラゲクのそれと非常に似通っていたのだ。
始めこそ、リオとメレの修行の為、嫉妬心を煽るための材料として目を付けただけだった。
だが僅か半年程の修行で、ラゲクにとって卓也は、リオやメレにも劣らない愛弟子として認識されるに至った。
何故か、と問われれば、それは、卓也が常に胸に秘めていた感情が原因だろう。
「修行し足りないのなら、無理に此処を出ていく必要はないでしょう?」
薄暗がりの中、ラゲクは窘めるように卓也に告げる。
弟子に対し師匠が抱く愛情からの言葉だ。
『この弟子は、自分の元でまだ強くなる事ができる』
そんな確信めいた思いがあればこそ、ラゲクは一人臨獣殿を去ろうとする卓也を引き止めている。
フリル付きドレスにも似た籠手に纏われた腕を伸ばし、ダンスに誘うように手を差し伸べる。
この手を掴み、私の元に戻ってこい、と。
「タクちゃん、あなたの中の、熱い、身を焦がし続ける思いは、まだ晴れていないのよ」
後に力付くで修行に付き合わされた空の拳魔カタや陸の拳魔マクでは気付くことの出来なかった、卓也の胸の奥底にひっそりと巣食う思い。
それはラゲクの最も得意とする『嫉妬』の感情だ。
内容を詳しく見たことはない。
過去を覗き見る時裂斬ですら、この弟子の過去を見通す事は出来なかったのだ。
だが、ラゲクには理解できた。
この弟子の中には、決して衰えることのない嫉妬の炎が宿り続けている。
そしてそれは、この瞬間にも間違いなく卓也の力に変わり続けている。
それを鍛え育むことこそ、師匠としての自分の役目であると、ラゲクは確信している。
だが、卓也は差し出された手を取ること無く頭を振る。
「それは何時か、俺自身の力で晴らさなければならないものです。師父、貴女からは既に、多くの事を学ばせて貰いました」
卓也もまた、ラゲクの元で修行を重ね、自らの中に潜む嫉妬の心を自覚し、直視するに至っている。
トリップをする事無く、平和に元の世界で生活を続ける事のできる他人への嫉妬。
何の変哲もない、生まれたままの生身の肉体を持つ人間への嫉妬。
いざという時に常に自分よりも冷静に、一歩引いた視点で動ける美鳥への嫉妬。
力を付けた自分でも足元にも及ばない強さを持ち続ける姉への、愛情にまぎれても時折顔を出す嫉妬。
姉と同じ位階にある、未だ見ぬトリッパーへの嫉妬。
幾度の自己進化を繰り返し、それでも未だ届かない高みにある、各種最強スレ上位陣への嫉妬……。
それは、直ぐに晴らす事ができないまでも、誰かに解消して貰うのではなく、自分の中で昇華するべき感情だ。
誰かに煽られて嫉妬を燃え上がらせるのではなく、妬みを感じることがない程に、自らを高める事で解消していくべきなのだ。
例え幻の続編である五クール目や、ゴーオンジャーとのクロスオーバーが始まって時間的余裕ができたとしても、ラゲクの元で修行を続ける事はありえない。
それを理解して、それでもなお、拳魔達の修行を惜しむ心がある。
だからこそ、心残りを振り切り、元の世界へ帰ろうとしている。
「……」
しばし、卓也の瞳を見詰めるラゲク。
瞳に映る決心が硬いと見るや、いつの間にか手にしていた錫杖で、神速の突きを放つ。
不意打つ訳でなく、正面から放つ最大速の一撃。
顔面を砕かんと迫る錫杖の切っ先。
首を反らすだけでは回避できないだろう一撃は、頭蓋骨の形を無視した頭部の変形により回避される。
ラゲク直々に合気の技を仕込まれ、臨獣ジェリー拳の特性を自らのものにしたからこその回避。
ラゲクもこの一撃が当たるとは思っていない。
あくまでも錫杖の一撃は見せ技。本命は地を這う触手による羅封掌握(らぶうしょうあく)。
既に一角の臨獣拳士となった卓也にとって、臨気に反応して侵食するこの毒は一定の効果がある。
音もなく地面を滑る触手が卓也の背面に回り、しかし、その背に針を突き立てられない。
ラゲクの触手が、地面から生えた新たな触手に絡み取られている。
卓也の足元から生えた触手が地中を掘り進み、背後からの不意打ちを迎え撃ったのだ。
不意を打ち損ねたとみるや、ラゲクはその場から小さく飛び退き距離を開ける。
卓也もまた鏡写しの様に背後に跳ぶ。
足元から切り離された触手は未だラゲクの触手に絡み続け、羅封掌握を封じ続ける。
ラゲクと卓也がまったく同時に背後、絶壁の僅かな引っ掛かりに着地。
そして開けた距離を詰めるように、二人は互いに向かって再び跳躍する。
常人の目では二人の通った空間に掠れた残像しか見えない程の超高速の一撃離脱の繰り返し。
互いの身体が交差する度に、互いの触手が絡みあう度に激突する純粋な殺意と殺意。
相手を騙す為の虚実を含めて互角。
勝者も敗者も無い、まるで演舞の様な師弟の死合。
だが、それもまた終わりを迎える。
一際大きな打音が響き、跳躍が止まった。
互いに背を向け、隻腕と化した卓也が苦しげに呻きながら片膝を付き、ラゲクが楽しげな笑みを漏らしながら、その場に両膝から崩れ落ちる。
卓也は右肩に羅封掌握を受け、毒が広がるよりも先に肩から先を左手刀で切断。
ラゲクは鎧の隙間を突くようにして差し込まれた卓也の触手に、臍から下にある内蔵へと続く孔を全て貫かれている。
かろうじて起き上がり、振り返り、向き合った瞬間、ラゲクは勝敗が決した事を理解した。
つい一瞬前まで隻腕だったはずが、既に右腕が再生している。
切り落とした肩口から無数の細い触手を生やして、新たな腕を形成したのだ。
それ自体は卓也の臨獣拳士としての特性だが、羅封掌握の毒を排除した卓也と、未だ急所である内蔵に刃を突き付けられたままの自分。
どちらがこの死合の勝者であるかは、火を見るよりも明らかだった。
そして、その事実を不思議と受け入れている事に気がつく。
嫉妬もなく、しかし、未だ伸びしろのある弟子が巣立っていく寂しさだけが心の中にある。
そんな、らしくない自分を嗤いながら、ラゲクはゆっくりと口を開いた。
「……臨獣拳士にとって、人々の嘆きや憎悪は強い糧になる。そして、焦がれるような、胸の中の思い、嫉妬も」
卓也はラゲクの言葉に、再生した右手で平手を作り、左手で作った拳をまっすぐに当て背筋を伸ばし頷く。
「嫉妬の心は父心、押せば生命の泉沸く……この教え、生涯忘れません」
「そう……なら、良いわ」
そんなニュアンスで教えただろうかと内心で首を捻りながら、ラゲクは卓也に背を向け、臨獣殿に向けて歩き始める。
弟子を一人、完全に仕上げて送り出す。
幾度と無く体験して、それでもなお弟子が巣立つ度にラゲクは一抹の寂しさを覚える。
「師父!」
そんなラゲクの背に、卓也が声を掛けた。
「名を……名を与えていただけませんか。我が獣拳の名を」
言われ、ラゲクはようやく、卓也の獣拳には名前が無かった事を思い出した。
臨気を操り、獣の力を借り受けて放つ技であるから臨獣拳として扱われてはいるが、その特異性──生物そのものではなく、生物の持つ器官から力を借り受けるその獣拳には、明確なモチーフとなる生物が存在しない。
故に、ただ獣拳として扱われ続けてきた。
名など意味のないものだ、それが力になるか否かだけが重要ではないか、と、そんな事を言い続けていた卓也が、自らの獣拳に名を欲している。
自らの教えを全て学び、技量でも越えてみせた弟子。
力を求めることを至上とする臨獣殿においては、もはや繋がりを保つ必要のない相手。
だが、自らが教え導いた弟子に、別れの選別代わりに銘を与えてやりたいと思うのは、武術家として、武術の師として当たり前の欲求だ。
その欲求に素直に従い、振り返る。
階段を数段挟み、ラゲクと卓也、師と弟子の間は意外な程に離れていた。
臨獣殿の拳士であれば、互いに大きく踏み込めば届く距離。
互いが武を振るえば届く距離。
互いが武を振るわなければ届かない距離。
段を登る師と、段を下る弟子。
臨獣殿に戻るラゲクと、臨獣殿から出る卓也。
離れた距離は、そのまま互いの関係性を表していた。
次に互いの手が届くのは教え、学ぶ時ではなく、拳士として殺し合う時。
師と弟子という関係は、これで終わる。
「その触手は、もはやそれだけで一つの獣。臨獣テンタクルス拳──いえ、もう、あなたは臨獣殿の拳士では無いから……」
ラゲクは段上から錫杖を下ろし、告げる。
「陰獣テンタクルス拳」
闇の底である臨獣殿から抜け、しかし、光の元では振るわれる事のない、陰の獣拳。
それが、ラゲクから卓也の獣拳に与えられた名。
ラゲクは、その名を告げ直ぐに振り返り、階段を登っていく。
今度こそ、振り返る事はない。
「テンタクルス拳……」
口の中で転がすようにその名を数度呟き、去っていくラゲクの背に向けて、卓也は深々と頭を下げた。
―――――――――――――――――――
○月×日(俺だけ深夜31時30分)
『三クールも師事した師匠に淫獣認定された』
『ちょっと死にたくなったが、これは言わばお墨付きというものではなかろうか』
『最初に狙うべきは、32時30分からの五人組かな』
『チャンネルはそのまま、テレ朝snegタイムで!』
〈二重の意味でケモ属性モンクというおはなし・おわり〉
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〈武装紳士のおはなし〉
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全国の武装紳士の皆様、または、アニメ見て武装紳士になりたくなったけどどこにも売ってねぇよクソァ! という哀れな紳士予備軍の皆様、ごきげんよう。
本日はコンマイの経営戦略の犠牲となった方々の為に、武装神姫の入門法をフューチャーしてみようと思う。
まずは、そう、二千四十年前後、武装神姫が一般に広く普及した時代にトリップしよう。
ここで注意しなければならないのは、素直に二十数年後にタイムスリップしても、武装神姫が実用化されていない可能性があるという事だ。
まずはトリッパーになること、これが最低条件。
次に、狙った世界にトリップすることのできる素敵な最強系トリッパーの姉の弟として生まれてくる事。
そして先日放映が開始された武装神姫のTVアニメを共に視聴し、リアル武装神姫欲しいなぁ! と、姉に思ってもらう事。
恐らくはこの段階でアニメ版の戦闘シーンのかっこ良さにキュンキュンして挙動不審になってしまうと思うがここは一つ我慢の子だ。
この紳士ゲージが破裂寸前までチャージされた時、きっと新しい価値観に開眼することができる。
とりあえずは手元の適当なジールベルンを恥じらいフェイスに換装した上で股クールして適度な落ち着きを取り戻そう。
そもそも神姫を持っていない?
安心して欲しい。俺は持っている。
翌日、通販で見つからないから、地方都市特有のレアアイテムが置いてある玩具屋に脚を運び、おもむろに神姫を探す。
探しても探しても見つからないぜ……あぁ! あった! ……ってこれスカイガールズじゃねぇか!
という不毛な一人ボケツッコミを姉さんと美鳥の三人でシンクロし、肩を落としながら帰宅。
仕方が無いので、部屋に置いてあるジールベルンの股を開いたり閉じたりして落ち着こう。
そう思い顔を上げると、いつの間にか何処かの世界にトリップしているのがわかる筈だ。
「なるほど、やはりそういう事ね」
顎に手を当て頷く姉さん。
「どういう事だネエサン!」
ところで話は変わるが、陰謀の匂いが武装神姫には良く似合う。
伊達や酔狂で殺人事件が多発したり、バトロン時代では人工衛星がハッキングされたり、メディアミックスでは死の商人が関わったりして居ない。
キバヤシコピペなど不要なレベルだ。軍産複合体くらいなら余裕で登場できる世界観だろう。リアル幽霊だって存在するから余裕である。
毎度毎度、他所のダンボール使ってない戦記などを見ていても思うのだが、どうしてこう戦わせる系のホビーは世界征服とか軍事方面に応用させたがる奴が多いのか。
最強の神姫ブラックドラゴン型かっこ笑いとか、レギュレーション違いすぎて商売的にも成り立たないし絶対速攻で公式大会では出場禁止機体に登録されてしまうだろなどと思いながら姉さんの答えを待っていると、
「お兄さんお姉さん! こんな所にお誂え向きの神姫センターが!」
いつの間にか横断歩道を渡っていた美鳥が、外から見てドン引きするほどに神姫関連商品しか売っていない店を指さしていた。
周囲の通行人の怪訝な表情が実に印象的だ。いつもならもう少し放置して晒し者にしてやってもいいのだが、今はそうもいかない。
「つまり、お姉ちゃん達と同じく玩具屋に訪れて、新しく武装神姫欲しいなぁ……あぁ、あった! ……ってこれマジアカMMSじゃねぇか! という一人ボケツッコミを近所でしていた人が、あまりに神姫欲し過ぎて妄想した神姫世界へのトリップ妄想に巻き込まれて、実際に武装神姫が存在する世界にトリップさせられてしまったのよ!」
「なんだって、それは本当かい!」
即座にネットに接続し、今居る世界の世界観を調べる。
……間違いない、ここは、武装神姫とかが普通に実用化されている世界!
年代的には、PSP版の主人公が神姫とのラブラブちゅっちゅとバトルの合間に、ツンデレライバルとか子犬系むしろ噛ませ犬系旧ラスボスを言葉攻めでビクンビクンさせる少し前辺りだろうか。
流通に関しては普通に日本円が使えないでもないらしい。
「いやー辛いわーお姉ちゃんも神姫欲しいけど、今、アタッシュケースに詰め込まれた高純度の金塊しか持ってないわーこれだけで買えちゃうか微妙だわー」
「くっ……俺も今用意したボストンバック一杯の通し番号バラバラの札束の山しか無い……これで、本当にリアル神姫が手に入るのか……?」
なお、どちらも元の世界では使えない不正な金である。
これで足りなければ、次はドル札の束を作るしか無い。
不安に包まれながら、俺と姉さんは既に美鳥が意気揚々と入店していった神姫センターへと足を踏み入れるのであった。
―――――――――――――――――――
レッスン2・実際に神姫を購入してみよう。
これは実に簡単。
店舗に入ったら、
「すみません! クワガタムシ型エスパディアください!」
と言いながら、
①利き足から一歩前に踏み出し
②懐に手を突っ込み
③おもむろに取り出した札束で、店員の頬を強かに殴打
の三つの手順を踏めば大体は購入することができる。
そうすると、店員は至福の表情で『お買い上げありがとうございます!』
と言いながらトルネードスピンで応対してくれるので、お釣りをチップとして渡し、治療費に当てるようにして貰おう。
ここでは個人的なロシア娘萌え嗜好からエスパディアを買ったが、やっぱり初心者が最初に買うなら、
「やっぱり、天使型じゃないけどマジ天使なストラーフがいいと思うの」
さすが姉さん、そんなちょっとひねくれたところも大しゅきだ。
なお、アーンヴァルはAIに不備がある初期ロットばかりなので購入を見合わせる模様。
因みに、姉さんの様にレジの上に金塊満載のアタッシュケースをドンと置いて、満面の笑顔で先のようなセリフを口にするのは選ばれし者にのみ許される特別な買い方なので、あまり参考にしてはいけない。
「お兄さんもお姉さんも落ち着いて買い物できないわけ? さて……おい店員、アルトアイネスを寄越せ。それも一つや二つではない、全部だ」
あ、武装は2セットでいいから、無理なら武装だけ下取りしてくんね? と続ける美鳥は、もうこの時点で狙いが見え見えである。
山積みされていくアルトアイネス型を見ながら店内を物色し、ふと目についた幾つかの単品売り装備を購入。
よくよく考えるとトリップの終了条件がいまいちわからないので、不動産会社のページにアクセスして、暫くの仮の宿を手配しておく。
―――――――――――――――――――
レッスン3・愛でる。
武装紳士は武装神姫に引き寄せられる。まるで重力の様に。
そう、武装神姫は重力、そして重力=愛、つまりは神姫=愛なのだ。
精密機械でもあるためか少し厳重かつ頑丈なブリスターだが、開ける時のワクワク感は元の世界となんら変わらない。
思い出すのは、初めて買った武装神姫、悪魔型ストラーフを取り出した時の事だ。
あの時とはまた違った感動がある。
機神招喚の応用で武装神姫っぽいものを作れはするが、今俺達の手の中にあるのは、紛れもなく本物の武装神姫なのだ。
「なんだか、ドキドキするね」
そう言う姉さんも心なしかそわそわしている。
「ん……。とりあえず、CSCをセットしないと」
最近武装神姫に興味を持った人達の中では忘れられがちな設定だが、このCSC(Core Setup Chip)は、神姫を語る上で欠かしてはいけない重要なパーツである。
多くの種類が存在するこの宝石の様なチップを組み込む事で神姫はオーナーの登録をし、このチップの組み合わせによって人格や能力に違いが現れるのだ。
この世界のメーカー公式サイトへアクセスすれば、使用用途に沿った推奨CSCセットが公開されているため、それを参考に組み合わせるのが妥当だろう。
ここで変にバトル方面での性能ばかり追い求めると、PSP版主人公の元に居る奇矯な性格の神姫達のようになってしまうので注意が必要である。
因みに、アニメ7話でギュウドンが言っていた大事な所、というのはこの部分を指していると見て間違いないだろう。
決していやらしい意味では無いので勘違いしてはいけない。そう、いやらしい意味ではないので勘違いしてはいけない。
「正直、CSCのセットと名前つけるところが一番時間を食う気がするのよねぇ」
「とか言いつつソッコでダイヤ三つ積む姉さんマジ淑女」
CSCダイヤは、神姫の能力の伸びを小さくする代わりに、成長限界を伸ばす働きをする高級CSCだ。
バトロン時代はダイヤ三つ積んでプレミアムチケット買って、成長限界がちゃんと300になっているかを確認する地獄の厳選作業を平然とこなす連中が腐るほど居た。
が、この世界はどちらかと言えばバトマスとTVアニメ版を基本にした世界観であるため、そこまで性能に明確な差が出るわけではない。
出るわけではないが……、姉さん、能力的にジュンイチローと卓を囲んでコンスタントに勝ちをもぎ取れるだけの豪運を持っていたりするので、能力に影響がでる筈だ。
しかも、試すまでもなく300が限界値に設定されるだろう。
さすが姉さん、バトらせる予定が無くても、神姫のセッティングに関してはバトロン時代から容赦が無い。
「はいはいせいれーつ、じゃ、右から順に名前つけてくぜー」
美鳥は何も考えず、手元にある一番安いCSCを手当たり次第に搭載し、ほぼテンプレート通りの性格なアルトアイネスを量産し、既に名前をつける作業に入り始めている。
流石は俺のサポートを務めているだけあって、やることを決めてからの行動に一切の無駄がない。
名前もシンプルに一号二号三号と続いている。
それでもツンデレしながら喜んでいるアルトアイネス達の笑顔が痛々しい。
ああ、俺と姉さんがバトマスを美鳥にプレイさせたりしなければ、これから起こる惨劇は回避できただろうに……。
まぁ過ぎ去った過去を嘆いても仕方が無い、人は未来に生きるものなのだ。
……さて、姉さんと美鳥がCSCのセットに時間を掛けなかったからというわけでもないが、俺も特に拘るつもりはない。
仮にバトルさせるにしても、既にこの世界観では神姫ライドシステムが実用化されているらしい。
そして、ライドして俺が動かせるとなれば、CSCによる有利不利など無いも同然だ。
ステゴロで強化ミミックだろうとドラゴン型だろうと捻り潰す自信がある。
それになにより、これから起動するのはあくまでも愛玩を前提とした個体なのだ。
変に戦闘偏重の組み合わせにする必要はないし、専門職向けの組み合わせにする必要も無い。
……でも、個人的なちょっとした拘りから、とりあえず一つはキャッツアイ。速さは何事においても力となるからな。
で、残り二つでAI傾向をロシアン系に整える。
札束ビンタ購入してお釣りをチップにしたら何故か沢山CSCをくれたので、せっかくだから等級の高いもので決めて……。
CSCをセットし、胸部装甲を閉じる。
ここらへんは元の世界、実物の神姫とほぼ同じ。
せいぜい、耐久性が軍事規格をギリギリで通りかねないほどだとか、その程度の違いしか無い。防水性もバッチリ。
さて、愛でる愛でると言いながらセットアップに随分と時間が掛かってしまったが、ここからが本番だ。
胸部装甲を閉じると同時に、僅かに機械の駆動音が聞こえてくる。
人間とスムーズにストレス無くコミュニケーションを取る事を前提としているため人の耳には聞こえないレベルの駆動音だが、これが中々に耳に心地よい。
少々SF過ぎる未来素材を使っている為か、CSCをセットして起動準備を始めると、先までは元の世界の神姫と同じ硬度だった神姫のボディが、僅かに柔らかさを持ち始めているのが確認できる。
駆動音は小さいだけで明らかに機械のそれなのだが、ボディの柔軟さを合わせると、人間の鼓動と錯覚してしまうかもしれない。
「INNSECT ARMS製、MMS-Automaton 神姫
クワガタ型エスパディア、IAL01
セットアップ完了、起動します」
機械的なシステムメッセージ、此処らはバトロン準拠なのだろうか。
アニメ版のストラーフの様に、起動したてから個性丸出しというのも困惑するので、この方式なのはありがたい。
やがて、エスパディアはゆっくりと瞼を開き、その鈍い赤の瞳でこちらを見上げてくる。
その瞳にはまだ人格のようなものは見えず、高級で特殊な素材を使っているにも関わらずガラス玉の様な安っぽい無機質さ。
「オーナーの事は、なん、な、なな、nananana…」
新品のPCを初めて起動した時の様なワクワク感を味わっていると、唐突に誤作動を始めた。
赤い瞳にはノイズが走り、最早人間の耳でも聞こえるほどの激しい異音が響いている。
古くなったPCから聞こえる『カリカリカリ』という音を少しスケールダウンして高音にした様な音と言えば分かるだろうか、実に不安を煽られる。
不良品を掴まされたのだろうか、あの店員、後でケツにカラーコーン指して川に放流しておこう。
異音の出処は胸部装甲の下CSC周辺と、ヘッドパーツから。
だが慌てる必要はない。このサイズに人間と同じ情動を再現する科学力は素晴らしいが、まだ俺が直せないレベルではない。
緊急停止するまでもないだろうと思い、そのまま修理しようと手を伸ばし、
「トィ、は」
指先を掴まれた。
しかし、それは機械の無機質な動きではない。
攻撃を受け止める硬質なものではなく、大事なものを抱きとめるような、やわらかな抱擁だ。
みれば、ノイズの走っていたガラス玉の様な瞳は、まるで生き物の様な質感を得ている。
起動に成功したのだ。
だが何故だろう。
既にその瞳は潤みきっていて、見上げる視線には期待の感情が込められているように見える。
「ヤーの……ドルーク?」
………………はて、バトルロンドを最後にプレイしたのは何時だったか。
そう昔の事ではない筈だが、記憶と不一致がある。
エスパディアは、これほど情熱的な性質を持っていただろうか。
PSP版の鳥子じゃあるまいに。
だが、不思議と不快感は無い。
これがエロゲ・ギャルゲに良く出てくる等身大ダッチワイフなら頬を平手の甲で張って『自惚れるなよ、木偶が』と言い捨てるところだが。
この小ささで言われると、なんだろう、『わたしパパのお嫁さんになるー』と言っている様にしか見えない。
腰を擦りつけてくる犬猫でも可。
つまり、可愛い。
姉さんに向ける可愛いとは勿論違う。
例えば、犬猫が好きだからといって、犬猫にちんこ突っ込みたくなるか、と言えば違うだろう。
これはそういう感情だ。
なるほど、愛玩用、という言葉が実にしっくり来るではないか。
犬も猫も家族の一員とか、神姫はあなたのパートナーですとか、そういう注意書きをよく見るがそれが大きな間違いなのだとよくわかる。
「ピェールヴァヤ……リュボーフィ……」
それにしても、素晴らしい。
この情感あふれる振る舞いはどうだ!
あのドクターですら、大概の周でエルザのAI作成に苦労していたというのに、このサイズでこの性能!
見よ! この、期待と不安の綯い交ぜになった上目遣い!
このサイズの軟質素材でありながら、決定的なセリフを口にしてしまった事に対する恥じらいからきゅっと唇を噛む仕草!
指を掴む腕はかすかに震え、抱きつき縋っているようではないか!
「……うっ! ふぅ……(ダメだよ卓也ちゃん! 初回起動時から好感度限界突破とか、神姫の寿命を縮めるに等しいんだかんね!)」
姉さんが起動したてのストラーフにうっかりニコポをかまして俺と全く同じ状況になっているにも関わらず、テレパシーで注意を飛ばしてきた。
流石姉さん、一度ある程度高い位置に到達する事で、賢者モードへのショートカットを行うとは。
なんて的確で冷静な判断力なんだ……!
具体的にはペンキの中身を目で確認した上で、読者にも分かりやすく持ち主にペンキの色が黒かどうかを確認するほどに冷静で的確だ……!
「ごめんな。俺は君の……」
なんだろう。
主、というのなら、もう少し出来のいい下僕はいくらでも製造可能だから、必要性が薄い。
かといって親、父親かと言われると、俺は天馬博士ではなくお茶の水ポジションに当たるだろうから妥当ではない。
兄、なんて呼ばせた日には美鳥の手によって、向こうで二人組作って戦わせて負けた方のアルトアイネス達の様にみぎぃされてしまう。
さっきからこっちが起動一つで感動している間に『生き残ったアイネスだけ愛させてやるよ』という、どこぞのラスボスビッチかテロリストメーカーの様な事を嬉々として口にしていたから、みぎぃの回数が一度増える程度どうとも思わないだろう。
「そうだな、同志(タヴァーリシシ)とでも呼んでくれればいい」
ロシアと言えば、呼び名は同志○○だ。
ロシア版ルー語とはいえ、呼称一つで他との差別化を図り、よりロシアっ娘っぽさを強調することができる。
「同志……タクヤは、ヤーの、同志……うん」
人間の可聴範囲外の電子音が響く。
恐らく、メカポのお陰で好感度MAXでエロスあり状態だったのが、今の言葉で再定義されたのだろう。
エスパディアは少しだけ名残を惜しむようにゆっくりと手を離し、ビシ、と敬礼した。
「同志タクヤ、ヤー、いっぱい頑張るから、よろしく」
「エスパディア可愛い。クワガタなのに天使か」
エスパディア可愛い。クワガタなのに天使か。
その凛々しい敬礼と、微かなロシア訛りのある日本語での舌っ足らずな宣言に、俺は思わず思考と反射を融合させてしまうのであった。
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レッスン……もうなんでもいいや、とりあえず、バトル。
愛でる愛でないと言いつつも、ついついバトらせてしまうのがこういうホビーの面白いところだと思う。
この神姫世界にトリップしてから数日が経過した、ある日の事。
姉さんと美鳥と、三人で自分の神姫の可愛さを自慢していたら何故か、
『誰の神姫が一番可愛いか……それは、これから実際に戦って決めるとしよう!』
みたいな展開になってしまった。
何故可愛さと神姫バトルの勝敗が関係するのか。
それは、武装神姫が『武装』神姫であるが故だ。
武装神姫の素体であるMMSと情動を司るAIは、この世界の超科学も相まって恐ろしいまでによく出来ている。
だが、神姫は神姫だけで完結する存在ではない。
PSP版では何故か別売りだったが、基本的に神姫センターで『○○型○○ください』と注文すれば、神姫と武装一式がセットで運ばれてくる。
如何に、三体も居れば一人暮らしの思春期男子の荷物を一日で整理整頓できるほどの高性能であっても、介護福祉、キャビンアテンダント、自衛隊に傭兵など、多方面に渡る活躍をしていたとしても……。
いや、ほんとになんでかは知らないが、『武装や装甲を身にまとって戦うパートナー(という建前のホビー)』というのが、とりあえずの武装神姫のコンセプトなのである。
実はそれぞれの職の専門店に行けば、その職業を補助するための神姫への追加アタッチメントなどが多数発売されていたりもするけど、『武装し、戦う』のが大前提。
高級PC一台分の価格を誇っておきながら、その本分はゲーセンやアミューズメント施設でバトらせる事なのだ。
そうなると、彼女たちが一番自らを輝かせる場面はどこか。
当然、神姫同士が鎬を削る神姫バトル、という事になる。というか、なった。
姉さんも美鳥も俺もイマイチ納得出来なかったが、ネットで調べた、着飾らせる事以外での可愛さの追求となると、どうしてもそういう方向にいってしまうらしいので仕方が無い。
さっそく、初日に起動と命名が終わった後に再び神姫センターに赴き購入した仮想空間展開用のデバイスをを使用し、誰の神姫が一番可愛いかを決める総当り戦を開始。
当初は、トリッパーとしてはこういう世界征服とか軍事企業が絡むホビー作品にも数多くトリップした姉さんの薫陶を受けたストラーフが完勝するものと思われた。
しかし、蓋を開けてみれば意外や意外、勝利を手にしたのは、美鳥の神姫であるアルトアイネス。
……実に鬼気迫る戦いぶりだった。
死も生も無い人形が、こんなにも『死にものぐるい』な表情を浮かべることができるのかと、LPを0にされたエスパディアを回収しつつも関心してしまった程だ。
こちらはLPを0にされつつも武装にもボディにもほぼダメージがないにも関わらず、LPを残して二戦を勝利したアルトアイネスが、勝利を告げられると同時に全身から焦げ臭い匂いのする煙を吐き出したのは印象深い。
過剰駆動で関節が悲鳴を上げる、なんてものではない。
戦闘後、せっかく最後の一体としてみぎぃを免れたボディは、重要なCSC周りを除いて全てスクラップ同然になってしまっていた。
ここ数日の間、そこまで戦闘に関わる話はしていなかった筈なのだが、何故あそこまでの無茶をしようと思ったのか……。
「おー、まさかお姉さんの300ストラーフにまで勝っちまうとはなー」
「こ、このくらい、当然だよ。だって、ボクはマスターの神姫なんだもん」
美鳥とアルトアイネスの笑顔が眩しい。
輝き方が明らかに違うが、あれらは間違いなく輝く笑顔と言って差し支えないだろう。
なんだかアルトアイネスを見ていると、俺の中の臨気がゆっくりと増幅していくのがわかるが、少なくとも表面上は八割笑顔だ。何一つ問題はない。
美鳥は美鳥で蝶の名を持つテロリストメーカーの様な笑顔を浮かべているが、これ意外と日常生活の中でも良く見かける気がするので当然問題ない。
アルトアイネスの笑顔が『他の全てのアイネスの残骸の様にみぎぃされないよう、必死で有用性をアピールする奥に怯えを押し込みながらの媚び媚びの笑顔』の様に見えるが……。
まぁ、見間違いでないとしても、あれは美鳥とアイネスの問題なので俺が触れる必要はないだろう。
《ふふ、ウチのアイネス嗜虐心を擽るぜ……鎖に繋がれた翼の折れた堕天使か》
堕天使……天使じゃ属性的に不利っぽいから俺と姉さんの神姫が負けるのも頷けるな。
鎖による退廃属性と翼の折れたという描写によるビジュアル系属性で更に勝率は倍々だ。
邪悪属性に手を染めた初戦は補正掛かってイベント敗北になるもんだし。
さて、先の敗戦をバネに早速特訓に向かった姉さんとストラーフは置いておくとして、俺の神姫であるエスパディアの様子なのだが。
「負けちゃった……」
と、微妙に破損した武装パーツ(シミュレーターの演出的な部分もあるので割と簡単に直せる)を装備したまま、その場で体育座りするウチのエスパディア可愛い妖精か。
「そう落ち込むなエスパディア……いや、同志カガーミン。俺は、別に神姫バトルを行うために君を起動させたわけじゃあない」
エスパディア、個体識別名『カガーミン』の頭部から角にヒビが入ったヘッドアーマーを外してやりながら、少しだけ煤けた銀の髪を指先で拭う。
「同志タクヤ……でも、ヤーは……」
情けない、でも、俺に面目が立たない、でもない。
その表情には確かに『悔しい』という感情が浮かんでいる。
……まぁ、首から下のボディの性能からして速度に◎付いてる上に、キャッツアイまで積んで、それでもアイネスに追い込まれて負けてしまったわけだから、その気持も分からないではない。
それに、他のどんな用途に特化させたとしても、武装させての神姫バトルが根本にある訳で、余程特異なAIを組まない限り、勝負に負けたら悔しく思うものなのだろう。
生き残る為に勝ち、取り込む俺とは、少しだけ方向性の異なる欲求。
「……強くなりたいかい?」
「え……?」
意外そうにカガーミンが見上げた。
起動してから数日、俺も姉さんも美鳥も神姫バトルには積極的ではなかった。
だが、美鳥のアイネスは主に愛されようとその身を削って健闘したし、姉さんはストラーフを鍛えるためにインド奥地へと修行に旅立った。
ここで、俺だけ何もしない、というのは、武装神姫の主、武装紳士として有るまじき怠慢だろう。
「カガーミン、君が強さを欲するなら、俺はそれに答えるだけの準備がある。どうだい、強くなって、美鳥の28号を見返したいかい?」
見返す……つまり、俺と姉さんが勝った時点で28号はみぎぃされる可能性が超高くなるのだが、それは美鳥と28号の問題なので知らん。
カガーミンは、手の中に握っていた柄の長い剣を少しだけ見詰め、再び顔を上げた。
「……ヤーは、強くなりたい。強くなって、同志タクヤに相応しい神姫になりたい……!」
決意の色が見える瞳を見ながら、俺はしっかりと、カガーミンに頷きを返した。
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簡単! すぐできる! 武装神姫強化プラン!
①まず、潤沢な資金を用意します。小国の軍隊を十年維持できる程度の資金があればまずは大丈夫。
②次に、武装神姫のハードとソフト両方に、自分の内側に存在するスパロボ世界のシステムを適用させます。
③問答無用の20段フル改造を施します。フル改造ボーナスはお好みで。違法改造に見えますがチェックには何故か引っかかりません。
④ゲーセンに乗り込み、これでもかという程に柴田くんのプルミエを撫で斬りにします。
⑤ゲーセン(隔離病棟)の紳士淑女(重篤人)を踏んだりこかしたりします。
⑥Fバトルとかにも出ます。出たら勝ちます。
⑦何度か続編のラストバトル直前で海燕のジョー的立場になる女が出てくるので問答無用で『やめてよね。ボクが本気になったら(ry』します。
⑧ハーフタイムに入ります。自発的に股クールをしてもらう事で精神の休養としましょう。恥じらいを感じている姿がポイントです。
⑨常にカッコいいポーズをとっている謎のチャンピョンが出てくるので勝ちます。
⑩クラブヴァルハラです。フリーオプションバトルなので、思い切ってカガーミンを武士子インパクトに乗せます。
⑪追い出されそうになったので普通に戦います。途中でこちらが無改造と勘違いして商談を持ち掛けてくる馬鹿なメカニックが出てくるので勝ちます。
⑫カッコイイポーズの犬っぽい娘とか目に見えるほど体臭が凄い大地さんとか出てくるので、倒します。
⑬なんか顔無し神姫ばらまこうとしてる社長っぽい人が出てくるので、事を始める前に記憶消去であーうーあーうー言う感じに脳改造し、妻の遺作らしいTUEEEE用神姫に介護用プログラムをインスコして放置します。
⑭F1で勝ちます。
⑮カッコイイポーズの人が一撃だけカガーミンのボディ塗装を剥がす程の有効打を入れていたので、ヌメヌメする塗料を細い毛の筆で焦らすように塗ります。平筆だと直ぐに終わるので、なるべく細いものにしましょう。
⑯塗装中、乾かすためにフーフー息を吹きかけると、何かを堪えるように身体を跳ねさせるので、気づかないふりをして何度か繰り返します。
⑰筆を離す時に尻が筆を追う姿を見て、やっぱり自分の神姫が一番だと悟ります。
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……………………
…………
……
「俺達は……勝った!」
「やったね、同志タクヤ。これで神姫業界も平和になる」
結局、全17工程を終わらせるのに一週間も掛かってしまったが、これで間違いなく俺とカガーミンは強くなったと言えるだろう。
なんだか原作主人公が見当たらなかったり、色々なフラグを粉砕してしまった気もするが、そんなのは些細な事だ。
だが、まだこの世界でやることが終わったわけではない。
インドの奥地に修行に行った姉さんは、83の必殺技を備えた曼荼羅ストラーフを引っさげて来週には戻ってくるらしい。
美鳥は28号改めアイネス37564号を従えて世界中の紛争地帯を渡り歩いているとも聞く。
日本の神姫バトルを極めた程度じゃあ、まだまだ最強の神姫などと名乗る事はできない。
来る姉さん、美鳥との決戦の日目指して、修行あるのみ。
────世界の人型ホビー人口は数億人を越え、俺達の生活の一部として、当たり前のようになっていた。
────武装神姫、俺達の中で、今一番注目を集めている人型ホビーだ。
────その中の一つの強化計画は、俺と様々な神姫を、運命的に出会わせてくれたんだ。
俺達の神姫バトルは、始まったばかりだ!
〈武装紳士のおはなし・おわり〉
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原作なし神様転生の話と淫獣拳言いたかっただけの話と神姫の話したかっただけの四方山話でした。
元々は一話にならない程度の話をつなげて再構成みたいな感じだったんですが、あまりにもあまりな内容なので、話数にはカウントせず四方山話、という事で。
一応時系列的には次の章までの間の期間に起こった出来事だよー、ということで、大幅なパワーアップとかは無し。
あとこれから現実世界との時間軸リンクとかも無しになるです。
しかし自問自答はある。
Q,毎度思うけど、神様転生の転生部分だけネタにするのって揶揄でしかないよね……?
A,だって、設定作ったからには晒したいですし……。
因みにこれは転生する場面から詰まってる、神様の性格が決まらないとか何の能力持たせるかとか考えてる内にどうでも良くなった系の世界のみのルール。
で、転生の導入部ショートカットとか能力は決まってるとかまで行くと、ネギまへの二度目のトリップみたいな転生オリ主なりそこないが産まれます。
どちらにせよ、転生という段階を踏んで生まれる魂は、その世界が作られた時にセットで生まれた『転生前の記憶を持っているという設定の生まれた事のない魂』でしかないわけです。死んでいない、っていうのはそういう意味。
そんな訳でトリッパーの間では、現実世界の人間が本当に作品世界に転生する事はありえない、という見解に。
仮に元の世界から本当に魂が転生していたとしても、元の世界では死んでいるんだから、トリップ先の存在と同じに扱われるのがオチなのですが。
これは勿論ウチのSSの中でのみ通じるルールなんで、他所様を貶める意図は一切無いです。
今後章の間の四方山話ではこういう原作無しの当SS世界観独自ルールの説明とかやったりするかも。
トリッパーは基本リア充しかなれないとか。
Q,獣拳?
A,さぁ、今直ぐレンタルショップに行ってゲキレンジャーを借りてくるのです!
因みにトリップ内容は捻り無く俺TUEEEするだけの話なのでカット。
リオメレ相手には限りなく存在感を希薄化していたとかそんな設定無しで張り倒して、臨獣殿の頭目の座は面倒なので渡していたとかそんな本来の実力はSクラスだけど面倒だからBクラス的な古典TUEEEE。
触手グネグネ系の臨気凱装とか使えるけど間違いなく生身の方が強い。
臨獣殿超無事。カタとラゲクは生存、多分マクとかは時間巻き戻されて綺麗なマクになってる。臨獣拳と激獣拳の兄妹涙の必殺拳とかやったので和解フラグを頑張れば立てれるかも。
バッドエナジーとかそういうのを集めてパワーアップする小ネタが欲しいのと淫獣言わせたかっただけ。ラスボスは腹の中。
Q,なぜ姉属性持ちのレーネやBBA人魚を選ばないんだ……。
A,神姫に求めるものって、そうじゃないだろ! 何処までも熱い鼓動とか、忘れないようにしている涙の意味とか、そんな諸々を胸に刻むように今を駆け抜けたい感じで! という主人公の熱いときめき。
あと、ぶっちゃけ今でもレーネの性格設定に納得行ってないっていうか……。
あれ、パケの凛々しい表情と金髪ロングと姉設定から想定できる性格じゃないですよね……。
まぁそんな話だったわけですよ。
新章投稿されたかと期待した人がいたらごめんなさい。
次は間違いなくプロローグ投稿なんでご勘弁を。
では今回もここまで。
誤字脱字の指摘、文章の簡単な改善方法、矛盾している設定への突っ込み、その他諸々のアドバイス、そしてなにより、このSSを読んでみての感想、心よりお待ちしております。