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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第六十三話「二刀流と恥女」
Name: ここち◆92520f4f ID:81c89851 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/08 21:41
自分の身の上を人に話した事は何度も無いと思うが、改めて思い返すに、私こと大十字九郎は平凡な家庭で生まれた、極平凡な女である。
父親は家族ごと海外に移住してしまうような国際的な仕事をしていたけれど、それはイコールで経済的な余裕に繋がる訳でも無い。
その証拠に、父親が死んだ時に、私と母親の手元には碌に遺産の一つも残らなかった。
オカルト趣味が祟ったのかどうなのかは知らないが、少なくとも今現在の私の手元にはそれらしきものは何一つ残っていない。
仮にも私がハイスクールを終えるまで生きて働いていたのだから遺産の一つも残っていてよさそうなものだけど、無い物に文句を言っても仕方が無い。
貧乏暇なし余裕なし、親の金でハイスクールまで上がれただけでも感謝していいレベルだ。
それは奨学金含む最低限の金で生活していた時期があるからよっく理解できる。
私自身は学業、というか魔術の修業に力を入れていたのでアルバイトの類はほとんどした事が無いのだが、それだけお金を稼ぐのは大変な事なのだ。

私は思考に没入するのを止め、瞼を開けて改めて目の前の巨大な門を見上げる。
見上げるだけで首が痛くなるほど巨大で、その造形はこれまた高級感溢れる、良く分からないけど城の様なデザインで。

「何すればこんなもん作れるんだろうなぁ……」

多分、この門だけで一等地に一軒家の一つ二つ建つんじゃないか。
絶望的な経済格差に溜息を吐きながら、更に周囲を見渡す。
街の2、3ブロック程の広さはあるか、そんな広さの敷地を、門を挟み、高い塀がぐるりと覆っている。
ここに来るまでに延々見続けた塀だ。長さにして数キロはあるだろうか。
英国や日本は貧富の差が激しいなんて評価を思い出したが、結局のところ社会が存在すれば自然と貧富の差は産まれてしまう、ということなのだろう。

今の私は、少し前の私とは比較にならない程経済的に安定している。
アルの断片探索やらなにやらで給料を貰っているからなのだが、その給料を払っているのはこの屋敷の主だ。
いや、この屋敷の主に直接貰っている訳では無いけれど、給料をくれる人の遥か上の立場に居るのがここの主である事は間違い用が無い。
以前の私が貧民に見える様な真っ当な給料すら、たぶんここの主にとっては端金に過ぎないのである。
きっと食玩を大人買いする時、一度の大人買いで私の給料の倍の金額が動いたりしているのだ。
流石大富豪、半端なものじゃあない。

「きっと飯とか残しても、余りは冷蔵庫に入れて次の日に食べたりしないんだぜ。余ったらゴミ箱ぽいって感じで……すげぇよなぁ」

そして米を一度に大量に炊いて冷凍保存する事で電気代を浮かしたりもする必要が無いのだ。
無論、冷蔵庫内部の食材の配置とかを完全に記憶して、一度に冷蔵庫の扉を開ける時間は何秒まで、みたいな縛りも無いに違いない。
エコロジーという言葉は金持ちとは無縁である。
きっと一月当たりの電気代で高級車がぽんぽん買えたりしてしまうに違いない。

「いや、それはまぁまぁ余裕のある所なら一般家庭でもやっていそうな事ではあるが、もしかしてそんなのが富豪の基準だったりするのか」

呆れ声のアル。
ふと、こいつは何処で一般家庭の平均的な台所事情などの情報を得ているのか気になったが、今はあまり関係無いので頭の隅に押し込めておく。
何しろ、大学生の私が主になれるのだ、何代目かの主がそこら辺に詳しい庶民的な人間だったなんて事も十分にあり得るだろう。

「自慢じゃないが、私は余所様の家の余り物だって勝手にリサイクルしてしまう女だ。どうやってリサイクルするかわかるか? 例えばごみ箱の中の揚げ物は衣を外すと途端に清潔に──」

「いや良い、すまん。妾が悪かったからもう黙れ」

門の脇の警備員室に立ち寄り、警備員さんに用件を伝える、特に待たされることも無く門の中に招き入れられた。
以前も一度来ているし、要件の内容が内容なだけに疑われる事も無い。
が、門から敷地内に入ってからが更に広大なのだ。とてもではないが、生身の徒歩で邸宅まで歩いて行く気にはなれない。
私は卓也や美鳥の様に、腕を組んだまま上半身をぶれさせずに車と並走出来る様な変態的な特技は持ち合わせていないのだ。
しかしそこは流石の覇道財閥、正門を通す段階で既に手配されていたらしく、数分と待たずに迎えの車がやってきた。

当然車だって高級車だ。
運転手さんの話によれば、この車は覇道財閥の元で有名な車会社が一丸になって開発した超高級な一品ものの車で、名をベーポルンツマーゲー最終型と呼ぶらしい。
昔は警護の意味も兼ねてゴリアテなる装甲の分厚い車が使用されていた時期もあるらしいが、今は乗り心地とデザイン性が優先されているのだとか。
車内部のシートもふかふかで、汚したらクリーニング代だけで給料が吹き飛ぶんじゃないかとひやひやしてしまう。

内心で肝を冷やしながら運転手さんと談笑を続け、十分程の時間で邸宅の前に到着。
正門から屋敷の玄関まで、それなりの速度を出してこれだけ掛かるんだから、冗談抜きで町の一つや二つ収まってもおかしくない広さがあった事になる。
この広さは一体何の役に立つのだろうか。
金持のやる事はわからない、なんて皮肉を頭に浮かべても拭いきれない敗北感。

「お待ちしておりました。大十字様にアル・アジフ様。応接間までご案内いたします」

車から降りた私とアルを玄関で出迎えたのは、深々と腰を折って頭を下げるメイド長のウィンフィールドさん。
覇道財閥の現総帥が小さな頃から覇道財閥に仕えているという年齢不詳の大ベテランだ。
折り目正しい態度と、こちらを萎縮させない気さくさを併せ持つ完璧超人染みた淑女である。
四角いフレームの眼鏡がクールではあるが、その顔に浮かぶ人の良い笑顔は柔和そのもの。
メイドの、いや女性の鑑とはこういう人の事を言うのだろう。
私は案内されながら、そんな事を考えていた。

―――――――――――――――――――

一人で歩いたら、目的地にたどり着く為にダウジングが必要になりそうな長い長い廊下を歩き、私達は応接室へと辿り着いた。
派手過ぎず、しかし嫌味にならない程度に高級な調度品で飾られた室内に通され、腰に刀を下げた執事さんが入れてくれたお茶を飲む。
美味しい……。
私もお茶やコーヒーを入れる時は手順の一つ二つ程度に拘りを入れる時もあるけれど、これは根本的に使っている葉っぱからして違うのだろう。
万が一この味に慣れてしまったなら、徹夜でレポートなどを纏める時に眠気覚ましに飲む煮詰まったコーヒーなど飲めなくなってしまうかもしれない。

紅茶を飲みながら、茶受けとして用意されていた高級そうなクッキーをどうにかして持ち帰れないか思案していると、ノックの音が数回部屋に響いた。
クッキーをがめようとしたのを悟られたかと思いびくりと肩が震える。
だがここで慌ててはいけない。常に自らの魂の手綱を握る魔術師は、決して容易くうろたえてはいけないのだ。
こういう時は、堂々としてればばれやしない。
手の震えを抑え、可能な限り優雅な仕草でティーカップに口を付け、中身を口の中に運ぶ。
普段通りの、不自然でない態度を取り繕い終えた所で、ゆっくりと扉が開かれ──

「瀟洒で拳闘士なメイドさんが出てくるとでも思ったか? 残念、俺だよ!」

してやったりというか、それ見た事かというか、まぁそんな顔の卓也が入室してきた。
口の中に紅茶を含んでいるが、これくらいの登場ならまだまだまともな部類なので噴き出す事も無い。

「お前はいったい何処に向けて喧嘩を売っているんだ」

溜息を吐きつつ、ティーカップをソーサーの上に戻す。

「いやま、何処へ向けてってものでもないんですが。……しかし、先輩がお呼ばれしたのはわかるんですが、なんだって俺まで呼ばれてるんですかねぇ」

ちょうどテーブルを挟んで反対側の椅子に腰を降ろしながらぼやく。
今この応接室に入ってきた卓也の分の茶は無かった筈なのだが、その手には当たり前の様に湯気を立てる湯呑が握られていた。

「そりゃお前、デモンベインに関する話なんじゃないのか? 部外者の癖に一番デモンベインに詳しい訳だし」

「覇道財閥が把握している中では、という条件が付きますけどね。俺の他にデモンベインの存在と起動方法を把握してる部外者、どれくらい居ると思います?」

「怖い事言うなぁ」

「あんな適当な警備体制の場所に秘密兵器を隠す覇道の方がよっぽどおっかないですよ」

そう言いながら湯呑に口を付け、ず、と小さく音を立ててお茶を啜る。
このデモンベインに関する話は何度かした覚えがあるが、最終的には覇道財閥の兵器管理の杜撰さが怖い、という結論に至るだけなので、なんら実りは得られない。

「だが、そのお陰で我等は新たな鬼械神を手に入れる事ができたのだ。そこは素直に喜んでも良いところだろう」

今の今まで両頬をげっ歯類の如く膨らませてクッキーを頬張っていたアルが決め顔で口を開いた。

「アルアジフさん、口元に食べカスが」

「む、すまん」

卓也が手渡したチリ紙で口元を拭うアル。
こうしてみると兄弟に、は決して見えないか。似て無いし。
兄弟といえば、

「なぁ、美鳥は今日来てないのか?」

何時もならば金魚の糞かSTGのオプション武装(卓也や美鳥が言っていた。魔術師の使い魔の様なものらしい)ばりに背中にひっついて歩いている黒髪の少女が居ない。

「今日は女の子の日だから休むー、とか言ってましたけど。なんでも生理が重いから町中の化学薬品たっぷりなジャンクフードを食い歩くとかどうとか」

「いやそれ絶対サボりだろ」

何処の世界に生理が重いのを紛らわすために食い歩きをする女が居るというのか。
私のツッコミに、卓也は手をはたはたと左右に振ってみせた。

「いいんですよ、どうせ大した要件でも無いでしょうし、全員集まる必要ありませんて。先輩は金持ち相手になると気負い過ぎです。悪い癖ですよ。ねぇアルアジフさん」

「確かに。九郎、我等は仮にも奴らに乞われてデモンベインでもって戦っているのだ。大学中退プー太郎寸前の貧乏探偵を仕方なく雇っているとか、そういうみっともない状況では無いのだから、もっと堂々と振る舞え」

卓也とアルに二人がかりで諭される。
何故だかアルの口にした例え話の貧乏探偵の下りで心が酷く傷ついた気がするけど、確かに二人の言葉は一理ある。
でも結局のところ、私がこういう場所で気負ってしまうのは相手が世界有数の権力者であるという部分に起因している訳で、そんな理屈ではどうにも解決しようが無い。

「ん、まぁ、善処してみるよ」

しかし、そういった庶民的な理屈をわざわざ口に出して言うのは恥ずかしいので、私は幅広く使える万能な返答を返すだけに留めておく事にした。
その後、だらだらと雑談をしたり、机の上の茶菓子をめぐって小競り合いをしたりしながら時間を潰す。
こうして招かれたはいいが、そもそも何故招かれたかを聞いていない為、向こうの方からアクションが無いと何もできないのだ。

―――――――――――――――――――

「……駄目ですね、これ以上は物理的に不可能な領域ですよ」

「まぁ、支柱になってる部分しかないしな」

「いいや、まだアトラック=ナチャで補強すれば、あ、ああ~」

時間つぶしの為に何となく始めたジェンガが、螺子くれながらも天に直線を描く、縦の斜め積みで理論上は最高の高さの塔を形成し終えた所で、再び部屋の中にノックの音が響く。
今にも倒れそうだったジェンガタワーを、勝負の決着を惜しむ私を気にする事も無く一息に崩して箱の中に戻した卓也が扉に視線を向けた。

「ウィンフィールドさんですね」

「分かるのか?」

「ノック音の反響の仕方から戸を叩いてる人の骨格を推測すればいいんです。理屈は足音当てと同じですから、簡単でしょう?」

「限りなく無駄な技術だな」

気楽そうな、何の気負いも無く自然体の二人。
先ほどまでのジェンガをしていた時と何一つ変わる事の無い態度だ。
私も、今度は意識して気負わない様に身体を楽にしておく。
それでいて失礼にならない程度に姿勢を正して、椅子に座り直す。
何故だろうか、気負わない様にと意識したせいで余計に気負ってしまっている様な。

「お待たせしました。大十字様、鳴無様」

入ってきたのは、卓也の予測通りメイド長のウィンフィールドさん。
ただし、誰かと連れ添って、という訳でも、何かを携えて、という訳でもなさそうだ。
無手のウィンフィールドさんは、形の良い眉をハの字にし、申し訳なさそうな表情で頭を下げた。

「旦那様が急の仕事で時間を空ける事が出来ず……。こちらからお呼び立てしておいて申し訳ないのですが、もう少々お待ちいただけますでしょうか」

急の仕事、というのは、先日のロイガーとツァールの記述の時の事件の件だろう。
何しろ派手に市街地のビルを破壊してしまったし、探索中に見つけた白骨死体にはブラックロッジかそうでないかは分からないが、確実に魔術師が手を下した痕跡が見つけられてしまったのだ。
ビル破壊は、破壊ロボが現れた以上仕方が無いにしても、魔術によって殺害されたと思しき白骨死体の方はそうはいかない。
何しろ、ブラックロッジ以外の魔術師の手によるものであったのならば、この街にブラックロッジとは別の第三勢力が生まれたか流れ着いたかしたという事になってしまう。
故に、事実関係を洗い出す為に詳しい死因と身元の特定を急いでいるらしい。
因みに、現時点で分かっているのは、遺体の遺留品から分かったエドウィン・M・リリブリッジという名前のみだという。
そんな状況だ。調査が急に進展でもすれば、嫌でも事務処理をしなければいけない覇道の総帥の仕事は増えてしまうに違いない。

そう、これは何も私がデモンベインで大暴れした事だけが原因という訳では無い。
今回の件に関しては別に私が緊張したりかしこまったりする必要はない。

「そ、そうですか。は、はふぅぅぅぅ~~……」

なので、これは別に覇道の総帥が来れないなら怒られる事は無いだろうとか、そんな安心感から吐き出した溜息ではない。
長いことジェンガに集中して凝り固まった身体を脱力でほぐしているだけなのである。

「まぁ、天下の覇道財閥の総帥ともなれば時間が取れないのも仕方がありませんよね。あ、帰る時にクッキー包んでくれません? 土産として」

「こっちにはおかわりだ」

「お前らホントマイペースな」

まだ用件も済んでいないのに帰る時の土産物を自分から注文するのもおかしいし、アルに至ってはまだここで菓子を食べるつもりらしい。
まぁ、魔術結社に勤めてるわけでも無いのに権威主義者な魔術師なんて聞いた事も無いし、アルに至っては権威に縛られたら世界が危ないレベルの魔導書だから、あのリアクションもあながち間違いではないのかもしれないが。

「かしこまりました。……ところでどうでしょう皆様、お待ちいただいている間、僭越ながら私めが昔話の一つでも」

笑顔で土産とおかわりを快諾し、更に自らお持て成ししてくれるウィンフィールドさんマジ淑女の鑑。
なんだか私は何も要求してない筈なのに申し訳ない気分になってきた。
ここは一つ、卓也の先輩としてアルの主として、二人がこれ以上何か粗相をしたら、直ぐにでも頭を下げさせなければ……!

「いいですねぇ。覇道財閥のメイド長から聞く昔話!」

予想外に昔話という言葉に食い付く卓也。
少なくとも、話を聞いている間は失礼な事はしでかさないだろうが。油断は禁物。

「茶菓子を食べながらでいいなら聞いてやろう」

昔話に興味は無いとばかりのリアクションのアル。
こいつはまた失礼な態度を、と思わないでも無いが、よくよく考えたらこいつが礼節を持って誰かに接する所を見た事が無いので、この程度は諦めるしかない。

なんだ、意外と普通のノリじゃないか。
これなら私が気を揉む必要も無い。
私はほっとした心地でウィンフィールドさんに視線を戻す。

「大十字様は如何ですか? お茶のおかわりもご用意しておりますが」

「えっと、じゃあ、お願いします」

卓也がこちら側の椅子に座りなおし、次いでウィンフィールドさんが椅子に腰を降ろす。

「そうですね。では瑠璃お坊ちゃま……旦那様のことについてお話します。ただの思い出話になってしまうのですが……」

―――――――――――――――――――

覇道財閥の先々代総帥、覇道鋼造は一代にして事業を興し、瞬く間に世界に名を轟かせる大財閥を築き上げた偉人である。
彼の立志伝は様々なエピソードを有し、またそれに尾ひれ背びれのついた伝説とも言うべき噂が幾つも付きまとった。

曰く、覇道鋼造が興した事業の資金源は、彼が名も無き青年冒険家から譲り受けた地図から発見した金の鉱脈であり、その採掘は今なお秘密裏に続けられている。
曰く、覇道鋼造は魔術に深く精通しており、そのお陰で未来を見渡す様な投資が行えている。
曰く、覇道鋼造は未来人であり、全ては後に産まれてくる自分自身を導くために財閥を築き上げた。
曰く、悪の魔術結社ブラックロッジの大首領とは薔薇の花咲き乱れる関係である。

根も葉もない噂に、荒唐無稽な話、やっかみを含んだ下世話な妄想まで飛び交っているが、そんな噂を民衆に信じさせてしまう程のモノが、覇道鋼造には確かにあった。
それほどまでに覇道鋼造は超人染みていた。
時代を読む力が人の一歩も二歩も、十歩も二十歩も先を行っていた。
愚行とも思える投資を繰り返し、それらを次々と全て成功させ、彼の人生の内に幾度かあった経済恐慌をも尽く回避してみせたのだ。
そして、彼と彼の財閥、覇道財閥に守られ恐慌を乗り切ったアーカムシティは、世界中が景気の低迷を続ける中一度たりとも衰える事なく繁栄を続け、それに縋って人脈は次々とアーカムに流れ着き、更なるアーカムの発展を促した。
預言者、予知能力者染みた覇道鋼造の手引きにより、覇道財閥は急激に巨大化を進めていった。

巷に溢れる噂の、どれだけが真実であったか。
それを今を生きる人間はもう確かめる術すら持たないが、これだけは言える。
覇道鋼造は死の寸前まで、世界の王として君臨し続けていたのだ。

そんな偉大なる世界の覇王を祖父に持つのが、現覇道財閥総帥、覇道瑠璃だ。
総帥の座を娘に譲ってから、覇道鋼造は孫の養育に力を注いだ。
その力の注ぎ方は、まるで自分の総てを託そうとしているかの様な熱心さだった。
覇道鋼造の教育は厳しかったが、そこには間違いなく、孫の瑠璃に対する愛情が存在した。
そして、覇道鋼造の教える全ての知識は瑠璃にとって、何もかもが非常に新鮮なものであった。
だからだろうか、瑠璃にとって祖父の教えは苦痛では無く、自ら意欲的に学ぶ姿勢であった為に、砂地が水を吸い込む様にそれらの知識を吸収していった。

一度教育を離れれば、覇道鋼造は無類の孫馬鹿の好々爺でもあった。
瑠璃の両親が呆れるほどに、彼を連れて遊び歩いた。

それだけ長い時間を共にしたからだろうか。
何時しか瑠璃は、祖父が精悍な王としての顔と、穏やかな好々爺としての顔の更に裏に、深い苦悩を隠している事に気が付いた。

例えばそれは、アーカムシティを荒らす『ブラックロッジ』の起こした凄惨な事件をニュースで見る時の祖父の険しい顔。
最初は、この正義感の強い祖父がテロリズムに対して怒りを覚えているのだと思った。
しかし、それだけではない。
祖父の中には怒りだけでは無い別の……悲壮な何かが感じられた。
ただ、その悲壮ゆえか祖父は『ブラックロッジ』とずっと、瑠璃が生まれる前から戦い続けていた。
それは決して、このアーカムシティを守る為だけではなかったのだろう。

例えば、それは母と接するときの祖父の顔。
祖父が我が子──母を愛していた事に間違いは無い。
母もまた祖父を尊敬し、共に覇道財閥を支えていた。
母にとって祖父は良き理解者であり、最高の教師であり、そして何より愛すべき父親であった。
祖父にとって母は善きパートナーであり、最高の後継者であり、そして何よりも愛すべき娘であった。
其処に何も嘘は無い。何の問題も無い。その筈なのに。
祖父の母を見つめるその顔に、時折後ろめたさのような、懺悔する罪人のような悲哀を浮かべるのは何故なのか。

そして、その悲哀が母のスカート姿に向けられる度、より一層哀愁と複雑さを増していたのは何故なのか。
父のスラックス姿を見ても同じく悲哀が増すのは何故なのか。

それらの理由もやはり、ついぞ瑠璃には理解できなかった。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

「そしてこれが瑠璃お坊ちゃまが六歳の頃のお写真です。これは丁度お忙しい仕事の合間を縫ってお遊びになられた先代のご夫妻に頼まれ瑠璃様に奥様の古いドレスを拝着させて頂いたもので、もちろんこれは半ズボンではありませんし男子にスカートというのは些か普通の事ではないかと思われるかもしれませんが、やはりこの頃から──」

ウィンフィールドさんが満面の笑顔のまま新たに開いたアルバムのページを見ながら、私は乾いた笑いを浮かべる事しか出来ずにいた。
覇道財閥のメイド長が語る昔話というからには、近代史や雑誌のコラムに載っていない様な、覇道鋼造の真の姿とか、そこまで行かなくても現総帥に移ってからの苦労とか。
それこそ、偉大な超人である覇道鋼造を祖父に持つ現総帥が密かにプレッシャーを抱えているとか、そういう裏話をしてくれると思っていたのだ。
何しろ私達はデモンベインを預かっているとはいえ、所属はあくまでもミスカトニック大学陰秘学科。
いざという時に少なからず覇道側に沿った判断を下させる為に、こう、
『総帥もあれで苦労なされているので、いざという時は力になって上げて頂けませんでしょうか』
みたいな事を暗に言い含めるとか。

「ああいけない、私とした事がこの写真を見るならやはり直前の五歳の頃のこの写真もお見せしなければなりません。例えばこの半ズボンのスーツなのですが、大旦那様が職人にオーダーを出す際に一つ事件が──」

そう言いながら、今さっき漸く説明が終わった五歳の頃のアルバムの内一冊を取り出し開くウィンフィールドさん。
……何故私は、はるばる覇道財閥の邸宅まで来て、覇道財閥現総帥の子供の頃の記念写真を延々見せられているのだろうか。
しかも、付随する覇道鋼造とか覇道財閥の面白そうなエピソードは徹底的に簡略化されて、メイドさんの濃厚な肉体描写による少年の膝小僧と半ズボントーク付きで。
普段は完璧ながらもどこか事務的な部分のあるウィンフィールドさんが、本心から嬉しそうに喋っているから、中断して貰うのも申し訳なくて延々聞き続けるしか無いし。

「おや、これは他の写真に比べてきっちりと撮影していますね。何の記念写真でしょうか」

ふと、ウィンフィールドさんが積み重ねていたアルバムを手に取っていた卓也が、開いたページの中から一つの写真を指差す。
やはりというか当然というか、そこにある写真に写っているのも、私の雇い主である覇道瑠璃の幼少の頃の姿。
何かの記念写真だろうか、これまでの写真とは背景も、取られている状況も違う。
年齢も違う様で、これまでの年齢一桁の幼児の写真ではなく、この写真では十代半ばといったところだろうか。
が、それよりも何よりも『違う』と感じたのは、写真に写っている彼の表情だ。
これまでの写真でも何かの節目に撮影したらしい物は凛々しい表情をしていた。
しかしこの写真の彼の表情には、凛々しさだけでは無く、何か激しい感情が含まれている気がするのだ。

「お気づきになられましたか」

先ほどまでは、写真の説明に一つツッコミを貰う度に嬉々として注釈を加えていたウィンフィールドさんが、僅かにその表情を曇らせる。

「それは数年前、瑠璃坊ちゃまが総帥になられた時のものなのです」

「あ」

脇から聞いていただけの私だが、思わず声を上げてしまった。
覇道財閥総帥、覇道瑠璃があの若さで総帥の座に収まっているのには理由がある。
先代の総帥……つまり、覇道瑠璃の母親だが、この人は数年前に入り婿の夫、つまり父親共々既に他界しているのだ。
大々的な事件で、ラジオでも新聞でもこの話題で持ちきりだったので覚えている。
覇道財閥総帥と夫人は、ブラックロッジのテロによって殺害された。
これはブラックロッジの悪名を世間に一気に轟かせた大事件でもあり、この際にブラックロッジの幹部である魔術師達が初めて動いたというのは、魔術に関わるものであれば知らない者はいないだろう。

「やはり、ウィンフィールドさんがこれまで幼少時の写真ばかりをお出ししていたのは……」

「えぇ」

流石に空気を読んだ卓也が沈痛な面持ちで、言葉を言い切らずに途切れさせ、ウィンフィールドさんが頷く。
私にも何となくわかった。
恐らく覇道瑠璃が屈託の無い笑顔で写っている写真というのは、この総帥への就任前、つまり両親が健在であった頃にしか存在しないのだろう。
客を持て成す上で、あくまでも相手を楽しませる為に、そういった悲しい話は避けできる限り明るい部分だけを選んで説明してくれていたのだ。

「これから先、瑠璃坊ちゃまは笑顔の代わりとでも言う様に険しい表情がお増えになり……凛々しいお姿に、半ズボンがますますお似合いになられて」

「おい」

頭を傾け、紅潮した頬に手を当て、『ほう』と悩ましげな溜息を吐くウィンフィールドさんに突っ込む。

「なるほど、凛々しい雰囲気の少年の膝小僧は初心なネンネの先輩に初めから見せるには刺激が強すぎて奇妙な性癖を付与させかねない、と」

「おい!」

続く卓也の言動に耐えきれず、私は目の前の机に両掌を叩き付け──

―――――――――――――――――――

……るで本当に空が血を啜っているみたいじゃないか。
逢魔ヶ時と人は呼ぶ。
確かにこの空は、魔性の存在にこそ相応し……。

「な、何、何事……!?」

はっ、と顔を上げ、きょろきょろと周囲を見回す。
来客の時刻までに片付け切れなかった書類の山を切り崩しつつ行われていた覇道瑠璃のセルフ回想シーンは、突然の邸全体を揺るがす衝撃によって強制的に中断させられた。
瑠璃は自体を把握する為に、執務机の上に備え付けられた受話器に手を伸ばし……、邸全体の電気が落ちた。
受話器に耳を当ててみるが、電話の回線も途切れている。

邸には自家発電所が複数存在する為、何らかのショックで停電を起こしてもすぐに復旧する仕組みになっているのだが、一向に復旧する気配は無い。
覇道瑠璃はこの執務室が孤立したという事実と、そこから導き出される結論に愕然とした。

──覇道邸は今、何者かの襲撃を受けている。

―――――――――――――――――――

「どうしました! 何があったのです!?」

ウィンフィールドさんが受話器に向かって叫んでいる。
アルは険しい表情でこちらを見つめ、卓也は僅かに顔を顰めて虚空を見つめている。
厭な予感、いや、既にあちこちから爆音と悲鳴が聞こえているこの状況で嫌な予感も何も無いとは思うのだが、それだけではない。
空気がざらついている。酷い悪意の気配。
そして、強いプレッシャー。
魔術師、そう、どこか高位の魔術師が放つプレッシャーにも似た威圧感。
シュリュズベリィ先生が戦っている時のそれに似ているが、今感じているこれは酷く不快感を誘う。

「分かりました、私が向かいます! チアキ、あなたはマコト、ソーニャと一緒に司令室へ! ええ、警備兵の指揮は任せます!」

ウィンフィールドさんが受話器を置き、こちらに振り向く。
何時も冷静なウィンフィールドさんらしくない、明らかな焦りの表情を浮かべている。

「由々しき事態です。どうやって警備体制を突破したのか分かりませんが……敵襲です」

ウィンフィールドさんの言葉に頷く。

「分かってる、しかもかなりヤバそうな相手だ」

「敵の数や正体はまだ不明ですが……」

「こんな真似が出来るのは、おそらくブラックロッジだろう。……どうだ?」

アルに促された卓也が苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた。

「襲撃者の反応は二つ。しかも両方とも間違いなく達人級(アデプトクラス)の魔術師……おそらく、『逆十字(アンチクロス)』でしょう」

「なっ……!」

ここに来て、いきなりブラックロッジの大幹部!?
そんな連中が覇道邸を直接襲撃に、しかも、二人がかりだって!?

「いけません、回線と電線が寸断されたのか、坊ちゃまとの連絡が付きません……急がなくては!」

ウィンフィールドさんの表情からは先ほどまでのおふざけの様子が完全に消え去り、悲痛にすら見える焦躁が浮かんでいた。
考えるよりも早くマギウススタイルに変身、戸を蹴破り廊下に出た。

―――――――――――――――――――

窓から差し込む真紅の明かり。
昼でも無く、夜でも無い、逢魔ヶ刻の彩。
血に染まり煉獄を生きる魔性どもが蠢く刻の彩。
魔性の紅の元、爆炎が噴き上がり、血の彩の世界をなお紅蓮に染める。
いや、血の彩をなお濃密にするそれは、はたして炎によるものだけなのか。

「っ、あ、はぁあ、いいわぁ」

ぐじゅり、ぐじゅりと、肉が肉を呑みこむ音。
阿鼻叫喚の地獄絵図に似つかわしくない『色』が、燃え盛る邸の中に充満している。
紅蓮が生み出す濃い輪郭の陰影が、激しく身を撥ねさせる一人の少女の姿を形作っていた。

透き通るような薄い金の髪、不健康な程に白い肌。
口の両端から後頭部、そして左頬から額への接合痕。
そして、頭部の左右を貫く巨大な電極。
ブラックロッジが擁する大魔術師、『逆十字(アンチクロス)』が一人、ティベリウス。

「はぁん、やっぱり仕事中のつまみ食いは堪らないわねぇ」

上気し、ほのかに色づいた顔に厭らしい笑みを湛えながら立ち上がる。
白衣を肌蹴、接ぎ目に目を瞑れば美しいと言って差し支えの無い裸身を惜しげも無く晒すティベリウスの足元には、かつて警備兵だったと思しき男の身体が横たわっている。
だが、その原型を留めていない肉塊から、彼が警備兵であったという事実を察する事は不可能に近いだろう。
周囲に散らばる彼以外の警備兵の破片、そこに埋もれた銃器の残骸だけが、辛うじて彼がティベリウスを押し止め様とした形跡を残している。

「ごちそうさま。割と良い具合だったわよ」

ティベリウスの素足が、先ほどまでティベリウスに貪られていた男の頭部に乗せられ、水溜りの薄氷を踏み抜く気軽さで押しつぶされた。
遅れて、更に時間稼ぎの為の警備兵たちが現れ、金髪の少女の姿を確認するや否や、躊躇なく発砲する。
その外見に惑わされる事が無いのは、事前に通信で外見の情報を得ていたというのもあるが、覇道に関わる者の優秀さこそが根底に存在した。

「あぁら、いいオトコじゃない?」

が、その『優秀さ』は魔術師の、アンチクロスの『異常』には届き得ない。
弾丸を避ける事も無く全て受けきり、しかし痛痒を感じている素振りも見せずに警備兵の一人に接近するティベリウス。
息が掛かる程の距離で、ティベリウスの仄かに甘い香りの吐息を嗅ぎ、思わず息を呑む警備兵。
無数に放たれた銃弾は確実にティベリウスの身体を貫き、頭部にも間違いなく命中している。
脳は破壊されている筈なのだ。動ける筈が無い。

そんな常識に縛られ、次の動きが遅れた警備兵たちのその身体が、ぶつん、と音を立てて寸断された。
見れば、振りきったティベリウスの腕、白衣の袖からは一メートルはあるかという長大なギロチンの刃が覗いている。
全ての警備兵が一息で殲滅され、ティベリウスはその死体の内、一番顔の造形が整っている死体に振り返り、ニコリと定型的な笑みを向けた。

「ごめんなさねぇ、今日のメインディッシュは決まっちゃってるのよぉ。気が向いたら、帰りに拾ってってア・ゲ・ル」

遅れて、くず折れる様に倒れこむ警備兵たちの残された下半身。
撒き散らされる臓と糞尿に目もくれず、ティベリウスは楽しげに歩き始める。

「さぁ~ん、待っててねぇ瑠璃お坊ちゃん☆お姉ちゃんとイイコト、しましょぉねぇぇ」

―――――――――――――――――――

先を急ぐ私達の前に、その影は現れた。
黒い装束に身を包み、円筒形の被り物(深編笠だったか?)を頭に被り、その隙間からは雑に束ねられた長い黒髪が覗いている。
そして、一際目につくのは、腰に差された二本の刀。
時代劇で見た事のある様な姿、現代では絶滅している筈の『サムライ』を彷彿とさせる。
が、しかし。
その時代錯誤な恰好が伊達とは感じられなくなるオーラを感じる。
シュリュズベリィ先生にも匹敵するかの様な圧倒的なプレッシャー。

「お主が『死霊秘法』に選ばれた妖術師か」

「そういうテメェは、糞ブラックロッジのアンチクロスだな?」

「ほう、知っていたか。……いや、成程な」

笠の奥、ぎらりと眼光が煌めく。

「如何にも、拙者はティトゥス。『黒き聖域』の信徒にして『逆十字』の末席に名を連ねている者なり」

名乗りながらも、ティトゥスと名乗る魔術師は依然として何処を見ているか分からない。
分からないはずなのだが、たった一つの事だけは理解できた。
コイツは今私を見ていない。
ブラックロッジの大幹部である魔術師の注意が自分に向いていない事に、私は怒りや屈辱よりも安堵を覚える。

「なるほど、あの陰鬱で忌まわしい臭い、とびきりの魔術師で間違いない」

アルの言葉が卓也の推測と相手の名乗りを裏付けた。
滲み出る冷や汗を拭う事なく、私は注意深く目の前の侍を見据え、身構える。
先の卓也の言葉が正しければ、自体は最悪の状況に向かっている。
部下も連れずに、大幹部が単騎で襲撃を掛ける。
これは通常の戦闘であれば下策中の下策だが、こと魔術を扱う者達にとってはそうではない。
大概の場合において、下手な雑兵は高位の魔術師の戦闘では薄い肉の壁程度の役割しか果たす事は出来ない。
それすら連れずに来たという事は、相手の魔術師はそういった弾避けを必要としない程の戦闘能力を保持しているという事だ。

「『アンチクロス』ともなればこの程度の事、一人でも十分ってか。……もう一人は何処行った」

達人級(アデプトクラス)の魔術師が本格的に出張ってきたのであれば、この程度の損害は当たり前。
むしろ手加減して態と襲撃を察知させたとも取る事ができる。
では何故長引かせ、自分の存在を誇示しているのか。
そう、陽動だ。
いや、言う程陽動という意識は無いのだろう。
精々が覇道の戦力を削りつつ、ついでに僅かながら自分達に対抗できる可能性のある戦力を、本命を狙う側から引き離せればいいか、程度の考え。
本命は覇道の現総帥である覇道瑠璃か、それとも人造鬼械神であるデモンベインか。
しかし、それが分かっていても、私達はこいつを見逃す事ができない。
……どちらにしろ、どちらか片方を逃してしまえば、最終的に目的は達成されてしまうのだ。
それほどまでに高位の魔術師とは規格外の力を持つ。

「そうだな、寄り道をしていなければ、今頃は覇道瑠璃を迎えているだろう。……急げば間に合うかもしれぬぞ」

腰の二刀の柄に手を掛ける。
変則的な居合いの体勢。
急げばと言ったが、それは目の前に逆十字の一人が居る時点で不可能に近い。
なまじ、人よりも魔術に対して優れた素養を持っているお陰で、目の前の魔術師が如何に自分とは隔絶した存在であるかが理解出来てしまう。

だが、ここで諦める訳にはいかない。
さしもの覇道財閥の総帥といえども、逆十字相手に身を守る手段など持ち合わせては無いだろう。
突破するしか、無い!

「生憎と、人に急かされるのは趣味ではないんですよ」

覚悟を決めた私を手で制し、卓也が俺の前に歩み出る。
先ほどまでは完全な非武装だった筈なのだが、その手には何時の間にかバルザイの偃月刀が握られていた。

「ここは俺が。先輩達はお先にどうぞ」

「やれるのか? いくらお前でも、逆十字の相手は」

「少なくとも」

私の言葉を遮り、卓也が偃月刀を構えなおす。
その刃の先に、先ほどよりもはっきりと殺気を向ける先を定めた侍の姿。

「相手さんは俺の相手をしてくれるそうです」

「では、せめて私も」

ウィンフィールドさんが名乗り出る。
そういえば聞いた事がある。
ウィンフィールドさんは古代ローマにおいて奴隷階級の拳闘士達が編み出した幻の殺人拳『撲針愚』の使い手であり、その類稀なる才能でストリートファイターとして名を馳せていた頃があると。
かつて戦った相手として、魔術師でないにも関わらず人を超える超人へと至る中国拳法『臨獣拳』の戦士などが挙げられ、その実力は技の相性さえ噛み合えば達人級(アデプトクラス)の魔術師をも凌駕するという。
そうだ、そんなウィンフィールドさんと二人掛かりで行けば……!

「こんなジョークがあるのを知っていますか? 『一人なら掘るのに六十秒かかる穴は、六十人掛かりなら一秒で掘れる』……残念ですが、俺とウィンフィールドさんの闘法は、共闘するには致命的に相性が悪い」

言いながら、僅かに偃月刀を掲げる。
そうだった、卓也は小器用なところもあるが、その攻撃は基本的に周囲への余波が大きい。
長年の付き合いであり、同じ様な闘法の美鳥とでなければ、強敵との戦いでは連携を取る事が難しいのだ。
拳で相手を殴りつけるという過程が必要なウィンフィールドさんの撲針愚とは相性が悪く、下手をすれば脚を引っ張り合う形になってしまうだろう。

「それに、邸のあちこちに不自然に魔力が存在しています。恐らくはもう一人の使い魔か何かでしょう。ウィンフィールドさんはそちらをお願いできますか?」

「ご期待に応えてみせましょう。さぁ、大十字様、急ぎましょう」

「で、でもよ」

ウィンフィールドさんに促され、尚も私は後ろ髪を引かれていた。
ここに卓也だけを残して行って大丈夫なのか。
三人で役割を決めてあの逆十字の相手をした方が……

「先輩、映画の約束覚えてます? あれ、こないだ上映開始したんで、今度一緒に行きましょうね」

「またお前はこういうタイミングでシャレにならん事を……!」

ここぞとばかりに死亡フラグを立てに行く卓也。
その表情は獰猛な笑み。
卓也がこういう事を言うのがどんな時か、前に美鳥に聞いた事がある。
負けるつもりが無い戦いの時にこそ、卓也は『折る為に』死亡フラグを立てるのだと。
つまりこれは、必勝の誓いだ。
小さく溜息を吐く。心配は無用、という事らしい。

「九郎、行くぞ。あ奴の小狡さとしぶとさは我等が一番良く知っておろう」

「だな。……ウィンフィールドさん!」

「かしこまりました!」

頷き合い、向かい合うティトゥスと卓也の脇を駆け抜ける。
ティトゥスは私達を呼びとめもしない。
ただ一途に、対敵だけに視線──殺気を向けている。
ここにきて気付く、ティトゥスの狙いは、あいつだ。

「死ぬなよ……」

「そう簡単に死ぬタマか、あれが」

暫くウィンフィールドさんと並走し続けていると、炎に包まれた廊下に奇妙な一群が現れる。
身体の一部がこそげ落ちた、警備兵の一団。
リビングデッドだ。
恐らく卓也の言っていた不自然な魔力の元はこれだろう。

「趣味の悪ぃ真似しやがって……!」

覇道の警備兵がそのまま材料に使われているのか、装備品は僅かながら耐魔術装備で固められている。
私が咄嗟に偃月刀を鍛造するよりも早く、ゾンビの一体をウィンフィールドさんが殴りつけた。
炎に巻かれ、触れるだけで火傷をしかねない元警備兵のゾンビを殴り飛ばし、ウィンフィールドさんは如何程にも痛痒を感じていない涼しげな顔。

「大十字様、ここは私めに任せてお急ぎ下さい。瑠璃お坊ちゃまのお部屋はこの先です」

手には何時の間にか、ボクサーが使用する様なグローブの薄い物を嵌めていた。
あくまでもボクシングに使用されるもので、撲針愚に使う棘の付いたナックルガードではない。
殺し合いを目的とした撲針愚と異なり、ボクシングはあくまでもスポーツ。
そんなスポーツに用いられる、とても凶器にには成り得ないものだ。本来ならば。

「撲針愚という殺人拳が時の流れを経てボクシングというスポーツに変わり、しかし、生まれた物は何も安全性を守るルールだけではありません」

だが、ウィンフィールドさんは笑う。
ウィンフィールドさんが笑みを溢すと同時、殴られたゾンビの打点がぶるりと震え、爆散した。
破裂したゾンビのパーツは、まるで高熱を浴びたかの様にぶくぶくと泡立ち沸騰している。
ばんなそかな。

「試合中の撲殺を防ぐために生み出されたボクシンググローブは、拳の打撃力を拡散し、余すところなく『震動』へと変換するのです」

へーなるほどなー。
つまり近いうちにボクシングも行政の手が入るのかーすごいなー。
そんな現実逃避をしながら、私はウィンフィールドさんに促されるままに先へと足を進めた。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

向かい合い、俺はこの周に入ってから初めて言葉を交わすティトゥスに対し、ブラックロッジの社員として挨拶をした。

「はじめまして、で宜しいですか? ティトゥス様」

「…………」

ちき、と音を立てるティトゥスの刀。
構えを解く気配は無い。当然と言えば当然だ。
逆十字にとって下部構成員は塵芥も同然、例え任務中に出会ったとして、それが相手をスパイする為の事だったとして、刃を治める必要はない。
何しろ、ゲテモノ揃いの逆十字の中ではかなりの癒し度を誇るかぜぽですら、使えない、群に適応できない部下を気まぐれに始末する事があるのだ。
同じ組織の人間だから、などという理由で見逃される訳が無い。

「一つお聞きしたいのですが…………、俺、何かティトゥス様の気に障る様な事、しましたか?」

今、俺がティトゥスに向けられている殺気は、とてもではないが気まぐれに切り捨てる相手に向ける物では無い。
親の敵に向ける視線だってもう少し穏やかだろうと思える程の熱気を帯びた殺意。
明らかの目の前の虚無僧ティトゥスは、最初から俺をターゲットに絞っている。

先の大十字らが居る時の言葉もそうだ。
ティトゥスはここのTSウィンフィールドさんが撲針愚の使い手である事を知らない。
つまり、あの場において魔術師と対抗しうる戦力として計算できるのは、大十字と俺のみ。
そして、ティトゥスは大十字を引き留める素振りすら見せなかった。
最初から、大十字を足止めするつもりが無かったのだ。

「言っては何ですが、俺はここ数年誰かに恨みを買う様な仕事は一切行っていな」

一閃。
有無を言わせぬ抜き打ち。
二刀による変則的な抜刀術、通常ならば意表を突かれるだろう。
だが、俺の脳内には蘊・奥の爺さんから回収したティトゥスとの戦闘のログが残っている。
この一撃はスウェーで避けても、天駆ける龍のひらめきの如き神足の踏み込みにより追撃を受ける羽目になる。
が、素直に偃月刀で受けるにも、あの一撃は威力も並ではない。
受けた偃月刀は真っ二つに切断されてしまうだろう。
この場における刀剣の切断力は武装の素材では無く、如何に技の担い手が優れた術理を持つかに依存しているのだ。

とするとこの場での最良の行動は、一撃を受けきらず、刃筋を乱して相手の剣閃の軌道を逸らす事。
一歩だけ下がり、しかし踏み込まれないように、抜き放たれた二刀の軌道が重なる瞬間を狙い偃月刀を振り上げる。

右手で振り上げた偃月刀がティトゥスの二刀を纏めてかち上げる。
全体的に人間の優れた魔術師の平均値を取った身体能力に抑えているとはいえ、偃月刀の一撃は二刀と真っ向から衝突した訳では無く、横合いから力を加えてベクトルを歪めただけ。この程度の事は造作も無い。

だが、仮にこのティトゥスが俺を殺すつもりであるのならば、躊躇う事なく隠し腕による一撃で挟み込むように俺の胴を斬りにかかってくるだろう。
俺はそれに対し、左手にグランドスラムレプリカを複製、更に隠し腕から放たれる一撃の軌道を予測し、ディストーションフィールドの技術を応用した歪曲空間を配置しておく。
打ち合いになれば大業物と言ってもおかしくないグランドスラムレプリカで隠し腕から放たれる不安定な一撃は楽に迎撃できるし、むしろ刀ごと断ち切れる。
仮にグランドスラムで迎撃できない位置に刀が来ても、その場合は歪曲空間が刀を捻子切ってくれる。
獲物の半分を失えば、ティトゥスは間を開けて予備の刀を呼び出さざるを得なくなるだろう。
基本的に、ティトゥスは複数の刀剣で戦う事を念頭に置いた闘法を取り易く、新たな刀を取り出すまでは攻めてくる事も少ない。

これを繰り返していけば、ティトゥスを殺害せずに時間を稼ぐ事ができる。
流石にこのタイミングで逆十字を殺害なんてしたら、あっち側から積極的に俺の正体バレをされる可能性があるし、仕方無いね。

「────、しっ!」

が、ティトゥスは隠し腕を使う事なく、振りあげた二刀を振り下ろし斬りかかる。
流石に左手が明らかに奥の手を警戒し過ぎていたか。空気の流れから歪曲場に気が付いた可能性も捨てきれない。

「喝っ!」

徐に口からプラズマ火球。
火力を上げ過ぎると余波で覇道邸が焼失してしまうので、ある程度まで火力を落とす。
それでもラミネート装甲展開済みのアークエンジェル程度ならシールドを構えたエールストライク(@エンデュミオンの鷹)毎軽々貫通可能な不可能を可能にさせない程度の火力。
なのだが、当然の様にティトゥスはそれを刀で切り落とし、切断されたプラズマ火球は何故か推力を失い消滅する。
相変わらずこの世界の魔術師は物理法則も糞もあったものではない。
が、流石に使い捨ての刀自体には大した力が無かったのか、火球を切り落とした刀は真っ赤に赤熱し、ティトゥスが軽く振るうと半ばから焼き切れてしまった。
すかさず氣を練り込んだグランドスラムレプリカでティトゥスに突きを放つ。
ティトゥスは音も無く背後に跳び距離を開け、手を軽く振り掌から予備の刀を取り出し、再び構えなおす。
一刀足程の距離が空いた時点で、俺は偃月刀を武者用の直刀に鍛造し直し、構える。

これで、表面上は二刀流対二刀流。
偃月刀でも二刀流だったが、相手も刀を使うのならこちらの方が具合がいい。

「……」

無言のまま向かい合う。
ティトゥスはどちらかと言えば静の属性に分類される剣士であり、相手の一瞬の隙を突く一閃が本命となる。
つまるところ、隙を見せなければ積極的に攻勢に出てくる事は無い。
こちらも先の攻防で既に獲物を整えている。少なくとも、データ上のティトゥスの戦闘データと照らし合わせて考えるに、今の俺に攻め込む隙を見出す事は無いだろう。
時間を稼ぐだけなら、俺はこの場で警戒を解かずにティトゥスとにらめっこをしているだけで、大十字達に仕事をこなしたと認識される訳だ。
……目の前のティトゥスが、積極的に俺の事を殺したいと思っていなければ、の話だが。

改めて、目の前のティトゥスを観察する。
まず、特徴的なのは虚無僧が被る様な深編笠で素顔を頑なに隠し続けているということ。
これは別におかしな事では無い。魔術による肉体改造の結果、人様に見られない顔面造形になるなんて事も十分にあり得る。
そんな事態になれば、如何に女侍といえども顔を隠したくなるのは仕方の無い事だろう。

次に衣装だ。
全身黒づくめの和装、と言えばTSしていないティトゥスと同じ装いに見えるだろう。
が、和装は和装でも、元のティトゥスの様に黒い着流しを着ている訳でも無い。
襦袢に袴、胸帯が組み合わさった割ときっちりしたタイプの和装で、流しの用心棒といった雰囲気の元のティトゥスと比べると、色合いはともかくとして、良いとこの剣術道場で師範でもやっている方が似合いそうなデザイン。

よくよく見ると気が付くのだが、あの和装、上下ともに元から黒かった訳では無いようだ。
黒の染まり方に斑があり、視力をかなり強化した状態なら、僅かながら元の生地の色が見えそうな部分もある。
黒自体も実はそれほど濃い訳でも無い。
どちらかと言えば、極限まで濁った、黒ずんだ赤。
返り血、浴び過ぎた返り血が落ちなくなり、重なって付着し続ける事で、元の色が分からなくなる程の黒ずみになっている。
何らかの魔術の一種かと思っていたが、微かな異臭はそれが原因か。

和装の元の生地の色にも原因があるのかもしれない。
恐らく、上下ともに赤系統の色の着物。
袴は赤、襦袢はピンク、か?
帯は現状だと他の部分よりもやや紫がかっているから、元の色は藍か紫。
だが、それらの彩が全て、染みつき変色した血の彩で持って塗りつぶされてしまっている。
一体何人の返り血を浴びれば、何年それを続ければこんな気狂い染みた衣装が出来上がるというのか。

「はっ!」

ティトゥスの観察に集中しているのを隙と見たか、ティトゥスが、失礼ながら少しキャラに合わない、爽やかな掛け声とともに斬りかかってくる。
ティトゥスは戦闘において、殆ど駆け引きをしない。
蘊・奥と対峙した際にも、隠し腕を出すタイミングを除けば、その太刀筋には一切の迷いも無く、唯正面から相手を斬り伏せる事だけを考えた戦いをしていた。
ただ只管に強さを求め続ける為だけに人を斬り続けた悪鬼ではあるが、その迷いの無い、洗練された太刀筋は蘊・奥も実力を認める程のもの。
俺は気を引き締め直し、ティトゥスの一撃を受け流す事が可能な型を頭の中に羅列した。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

停電、いや、襲撃の始まりからどれほどの時間が経過しただろうか。
数分か、十数分か、数十分かもしれないし、数時間も経過しているかもしれない。
少なくとも、執務室から動けずにいる瑠璃にはそう感じられた。
如何に英才教育を受け、帝王学を学ぼうとも、覇道瑠璃はその心身において常人の域を出る事の無い青年だ。
いや、そもそもの問題として、誰がこの状況を予見しうるのだろうか。
予見し得たとして、未だ成人を迎えすらしない青年に、帝王学や経済学などを学ばせ、なおかつ自らの命の危機において平静で居られるように鍛える事など、かの超人、覇道鋼造ですら不可能。

何時鳴り止むとも知れぬ爆音と銃声、怒号に悲鳴。
部屋の通信機器は完全に遮断され、現状を確認する事すら不可能。
まともな護身の手段など殆ど待たない身の瑠璃にとって、唯部下を信じて待つだけの時間は拷問にも等しい。
自衛の手段は、机の裏に張り付けた拳銃が一丁あるだけ。
その拳銃にしても、この邸の厳重な警備を踏み越えてやってくる侵入者にどれほど意味があるかと言われれば、首を捻らざるを得ない豆鉄砲に過ぎない。

待つだけの時間、不安に押しつぶされそうな時間は、瑠璃に無為な思索を繰り返させる。
警備体制は本当にあれで万全だっただろうか。
魔術師の侵入を警戒するのであれば、せめて父の作った電動装甲服の研究を続けさせていれば良かったのではないか。
せめて、こんな簡単に外部と断絶させられる執務室で仕事をするべきでは無かったのではないか。
地下司令室への入り口も、電源が落ちた状態でも非常口として機能させる作りにするべきでは無かったか。
仕事を無理にでも切り上げ、協力者であるミスカトニックの学生達の元で今日呼び出した用件を話して居ればよかったのではないか。

一つ所に纏まる事の無い思考を繰り返している内に、瑠璃は一つの事に気が付く。
────銃声が、止んでいる。
警備兵達の怒号や悲鳴も無く、あれだけ騒がしかった邸内は、一瞬で水を打ったかの様に静まり返っていた。

「お、終わった、のか……?」

震える声で呟く。
当然、無人の室内で答える者は無く、響く静寂がより不安を煽る。
未だ恐怖に竦み続けている脚を叱咤し、ドアに向けて歩き出そうとしたところで、ゆっくりと目標のドアが開く。
瑠璃はぎくり、と身を強張らせる。
侵入者か? 警備兵か?
机の下に張り付けた拳銃に手を掛け、なるべく音を立てずに手の中に収める。
……入ってきたのが警備兵の一人である事に気が付き、瑠璃は緊張を解いた。

「一体何が起こっている? 報告を──あ、いや、先にウィンフィールドに連絡を付けろ」

安堵を押し隠し、威厳を取り繕うも、警備兵は答えない。
ただ呆けた顔で立ちつくすのみで、そもそも瑠璃の言葉に反応しているかすら怪しかった。
精気の無い瞳が、虚ろに虚空を見つめ続ける。
苛立つよりも先に、瑠璃の中で警戒心が生まれた。
覇道瑠璃は、命の危機などの極限状態で平静を保って居られる程、精神的に強い訳では無い。
だが、日常の中で危険を避ける為の最低限の心構えは、祖父の教えてくれた数多くの知識の中に存在していた。

「聞いているのか? 返事をしろ」

苛立ち、部下を叱責するふりをしつつ、警戒する。
何処を警戒すればいいのか、それすらも分からない、先ほどとは別の種類の極限状態。
命が賭かっているかどうかすら分からないこの状況において、初めて瑠璃の危機回避能力はフルに稼働し始める。
ここに来て、極限の緊張は安堵による弛緩を経て、最高水準の集中力、洞察力へと変貌したのだ。
この状況を何処からか見ているかもしれない侵入者に気取られぬよう、瑠璃は視線をあまり動かさず焦点の合わない部分にまで意識を向ける。

「いい加減にしないか。まったく、上司への報告一つもできないとは……」

溜息を吐く素振りで、警備兵の全身をじっくりと観察する。
警備兵の身体は、表情と同じく、完全に弛緩している。
そう、その脚までもが、まるで何かで宙吊りにされた人形の如くだらりとだらしなく垂れ下がっているのだ。

「あらあら、男の身体をそんな必死に見つめちゃって。そっちの趣味でもあるのかしら」

「!?」

正体不明の声に、瑠璃は咄嗟にその場から飛び退く。
同時、警備兵の顔がぶくりと風船の如く膨らみ、いびつに顔面のパーツを歪め、破裂した。
首から上だけが綺麗に吹き飛び、執務室の中に肉片と臓物が四散する。
何処か海産物を思わせる生臭さと共に撒き散らされた部下の肉片に心を惑わされる事なく、瑠璃は咄嗟に手にしていた拳銃を構え、破裂した警備兵の背後へと銃口を向け発砲。
解き放たれた銃弾はしかし、かん、と間抜けな金属音と共に弾かれてしまった。

「うふ、意外に元気がいいのねぇ」

警備兵が破裂したドアには、別の人影が立っている。
頭の左右に巨大な電極を刺し、血塗れの白衣を纏った金髪の少女だ。
ふんわりとした印象を受ける幼さを残した美しい顔に似合わない、好色そうな愉悦の色を浮かべて、少女は部屋の中に踏み込まんと足を運ぶ。

少女の姿に対し、瑠璃は動揺すら見せずに拳銃を発砲する。
いや、動揺しているからこそ、一度銃弾を弾かれたにも関わらず拳銃を手放さないのか。
それとも、動揺せず、現状を理解しながら、しかし今取れる自衛手段がこれしかないのか。

瑠璃は思考する。
この場に辿り着き、今まさに警備員が理解しがたい方法で殺害された。
目の前の少女は侵入者、しかも、おそらくは魔術師。
そこまでは瑠璃にも理解できる。
だが、だから?
それで、今、自分には何が出来る?
間違いなく、この侵入者は自分を殺しに来たのだろう。
母を殺した様に、父を殺した様に。
しかし、自分はそれに憤る事は出来ても、魔術師を相手に出来るだけの力を持ち合わせていない。
この世ならざる怪異を向かい合うには、何もかもが不足している。
父がかつて言った様に、科学の力で持って照らし克服し得る未知という名の恐怖。
目の前のこれは、そんな生易しいものでは無いと、理解できてしまっているのだ。
未知なる領域へと踏み込む事の出来ない凡人故の、理解できない存在に対する強い隔絶感。
それが、覇道財閥三代目当主にして、歴代総帥の中で一番長生きできる可能性を持つ瑠璃の、唯一と言っても良い武器であった。

照らしだし、尚その恐ろしさ、対処法の無さに嘆くしかない不条理な恐怖。
それに対して、自分が出来る事など、数える程しかない。
とにかく、時間を稼がなくては。

装填された弾丸を使い切らず、残弾を残した状態で突き付ける。
銃口を真っ直ぐに向けたまま、目の前の少女を睨みつける。
瑠璃の視線を真っ向から受けた少女は、一瞬きょとんとして、次いでけらけらと笑い始めた。

「イイわねイイわね凄くイイわよぉ瑠璃お坊ちゃぁん? その諦めていない凛々しい表情、シビレる、もうお姉さんビショビショになっちゃったわあ!」

瞳を潤ませ頬を染め、熱い吐息を吐きながら白衣の袖で自らの股間を抑える少女。
少女の吐息に混じる僅かに甘い匂いに、瑠璃は場違いながら、ごくりと生唾を飲み込んだ。
が、すぐさま正気に戻り、弾切れの拳銃を向けながら問い詰める。

「何者だ! 名を名乗れ!」

「んふ、威勢がいいのねぇ。それじゃあ、特別に教えてあげる。 ──アタシの名前はティベリウス、『ブラックロッジ』の大幹部、アンチクロスが1、ティベリウスちゃん、でーっす☆」

ウインクと共に、白衣の袖から僅かに出した手を顔の脇に持って行き、横に倒したピースサイン。
場にそぐわないティベリウスのキュートなポーズに僅かに胸を高鳴らせながら、しかし瑠璃は驚愕に目を見開く。

「アンチクロス……!」

「今日はねぇ、大導師サマのご命令で瑠璃ちゃんの事を始末しに来たワケなんだけど……」

ティベリウスの言葉に、瑠璃は僅かながらの抵抗として拳銃を手に構えなおす。
正しくは、構えなおそうとした、というのが正確か。
どういう訳か、瑠璃は自分から拳銃を取り落としてしまう。
手に力が入らない。

「やっぱり、大導師サマって懐の深いお方だわぁ。天然でお胸が大きいだけの事はあるわよねぇ。……瑠璃ちゃんの始末は、ワタシが飽きるまで玩具にすれば、それで完了した、って事にしてくれるらしいのよぉ」

瑠璃の警戒心に反し、瑠璃の脚は千鳥足でふらふらとティベリウスの方へと吸い寄せられていく。
夢遊病患者の様な、はっきりとした意思の感じられない動き。
はたして現時点で瑠璃にまともな判断力が残っているのかと言われれば、間違いなくNOだろう。

最初から、ティベリウスは罠を張っていたのだ。
魔術師の知識は、何もその全てを魔導書に依存している訳では無い。
勿論、魔導書を深く理解するための研究もしていた。
が、ティベリウスは自らの欲望を叶えるため、積極的に外の情報も取り入れ続けていたのだ。
ティベリウスが今、ブラックロッジ内部でロールプレイしているキャラクターは、医者としての属性を持つ。
医学、そして薬学は、自らの美貌を磨き男を捉え貪るティベリウスにとって、実に興味深い内容ばかりだった。
死体と精神を弄繰り回す自らの魔導書の知識とも相性がいいそれに、ティベリウスはのめり込んでいく事となる。
そうして出来上がった幾多の薬品は、そのどれもが淫らな方面の補助に利用できるものばかり。
今、瑠璃を半催眠状態にしているのも、その研究の成果の一つだ。

「だから、ねぇ」

大気中に散布された薬品は、呼吸器から瑠璃の血中に侵入し、脳の理性的な働きを阻害する。
ふらふらと近付いてきた瑠璃の首に正面から腕を廻し、耳元に囁きかけるティベリウス。

「きもちいぃ事を、しましょ?」

蟲惑的な声に、朦朧とした瑠璃が答える。

「何、を」

それは僅かながらの抵抗だったのだろうか。
瑠璃はすぐさまにティベリウスに手を付ける事なく、惚けてみせる。
が、ティベリウスは一向に気にした風も無く、頬を染め、僅かに俯き視線を瑠璃の胸元にやりながら答えた。

「やぁね」

ぷち、ぷち、と、白衣のボタンを外していくティベリウス。
白衣の下から、ティベリウスの病的なまでに白く、しかし、男の劣情を煽る、透き通るような肌が露わになる。

「女に恥を、掻かせないで……」

耳に届くティベリウスの声は、瑠璃の頭蓋の中で僅かに反響し、意識を侵食する。
肉体から断絶した瑠璃の理性が、この相手に手を出してはいけないと叫び、しかし肉体は本能の導くままに目の前の獲物を貪らんと手を伸ばし──

「えぶ」

目の前で、ティベリウスの首が勢いよく刎ねられる瞬間を、被り付きで目撃する事になった。
蛙が潰される瞬間の断末魔にも似た汚らしい音の出所は刎ねられた首の口からか、それとも切断面が露出する気道と食道か。
不思議と、ティベリウスの首の断面からは激しい出血は無い。
だが、粘性の強い酷く薬品臭い赤い液体が、絞り出される様にしてこぼれ出した。
身体を制御する脳と切り離され、少し遅れてティベリウスの肉体が後ろに倒れ込む。

「おいアル、これ本当に斬って良かったんだよな。実は御曹司が部屋に呼んだデリヘルだったとかそういうオチはいやだぞ?」

「安心しろ、ここまで腐り濁った魔導の気配を発する娼婦なぞ居らん。仮に居たら居たで斬っておいた方が世の為というものだ」

倒れ込んだティベリウスの死体の向こう、特徴的な形状の刀剣を手にした女性が、肩の上に浮かぶ小さな人形の様な何かに話しかけている。
女性は幾度か人形に話しかけると、ティベリウスの死体を避けて瑠璃に歩み寄り、魔術文字の輝く指先で瑠璃の頭を軽く小突く。
途端、瑠璃の思考が鮮明になり、肉体の制御も元に戻る。
そして、思考力が戻った事で、瑠璃は目の前の女性が何者であるかをはっきりと思い出した。

「大十字、九郎、さん」

―――――――――――――――――――

「どうも」

呆けた表情で立ちつくす覇道の現総帥に、私は軽く手を挙げて応えた。
雇い主相手に失礼な態度だとは思うが、何も私と覇道財閥の契約は完全な主従関係という訳でも無い。
契約とかの話の場でもなく、こういう緊急事態でせっぱつまってる時にまで礼儀を求められても困るのだ。

「万が一、という事もあると思うので聞いておきますが、もしかしてお楽しみの邪魔でした?」

……可愛い後輩と何時も親切なメイド長を置いてまで駆け付けたのに、いざ到着してみれば金髪美少女とお楽しみの時間を始めようとしていたのだ。
それは、俺だって踵を返してウィンフィールドさんや卓也の助太刀に向かいたくなる。
アルがあの少女こそが魔術師だと教えてくれなければ、そのままこの場から立ち去っていた所だ。

「え、あ、いや、違、そうじゃなくて」

薬物か、もしくは魔術による洗脳か催眠を受けていたのを解除した直後だからだろうか、御曹司は私の嫌味に僅かな時間差を持ってしどろもどろになりながらも、どうにか弁解しようと言葉を探している。

「冗談だってば。でも、無事でよかった」

正直な話、さっきの状況から考えてもう少し遅れてきても命に別状はなかっただろう。
けど、男からしても薬や魔術で心を操られて、良く知りもしない女に犯されるのはトラウマになりかねない、と、心理学科の連中の話を小耳に挟んだ事がある様な気がする。
……ふと思い出すのは、少し前に遭遇したアトラック=ナチャのページモンスター。
そう、だよな。
無理矢理されそうになるとか、男でも女でも、嫌なものは嫌に決まってるんだ。
私はまだ脅威に対抗できるだけの力があったから良かったけど、もしかしたら、この年端もいかなそうなお坊ちゃんが、あの時のOLと同じ目に会ってたかもしれないんだ。

よくよく周囲を見回すと、部屋の中には警備兵のものだろうか、人間の破片が至る所に散乱し、脚元には弾の切れた拳銃が落ちている。
そうだよ、このお坊ちゃんだって、必死に抵抗して、私が来るまでの時間を稼いだんじゃないか。
なんだ、意外と、金持ちのトップもやるもんじゃないか。
あんな、力仕事とは無縁そうなひょろい体で、頑張ったんだな。
いきなり親しくも無い、親交も無い異性の身体を触るのは失礼に値するのだろうけど、今の正直な気持ちを言えば、頭を撫でて『頑張ったな』と褒めてあげたいくらいだ。

「あ……」

小さな驚きの声。
慌てるのも忘れ、私を見つめ返す。
なんと表現するべきか、向けられたのは酷く真摯な視線だった。
余り触れた事の無い感情を向けられ、私は少し落ち着かなくなってしまう。
ここは『私に惚れると火傷するぜ?』的にふざけて場の空気を破壊するべきなのだろうか。

「な、何かな?」

だが、私の口から出てきたのは酷く凡庸な言葉だけ。
いや、だって、この状況で『惚れるなよ』なんてやったら何かの間違いが起こりかねないし。
そうなったらウィンフィールドさんマジ怖いし。
玉の輿になったとして、お金はあっても困らないだろうけど、私ってば庶民派だし……。

「あ……い、いや、別に」

御曹司も平凡な答えを返す。
こういう場面でアドリブが効かないのは、まだ私が緊張しているという理由もあるのだろう。
今回は油断しているところを背後から不意打ちできたからいいような物を、本来であれば、あのティトゥスとかいう侍と同レベルの魔術師と、たった一人で真っ向から戦わなければならなかったのだから、緊張するな、という方が難しい。
そういった意味で考えれば、この御曹司があの逆十字の女が思わず周囲の警戒も忘れる程のストライクゾーンに入っていたという事実は、私にとっては幸運だったのかもしれない。

「じゃあ、急いで安全な場所に避難しよう」

「とりあえずは、メイドと卓也を回収して離脱、が一番安全だろう。急ぐぞ」

「ああ、分かっ────大十字さんっ!」

突然、御曹司が焦りの表情で叫ぶ。
同時に、背後から悪寒。
これまで幾度となく感じてきたその感覚を回避する為、私はウィングを盾にしながら身を捻り、飛び退こうとする──が、ここで思い出す。
幾度となく感じた死の気配。
私ははたして、その内の何回、対面した危機を回避する事ができただろうか。
案の定、回避は間に合わない。
背中を冷たい何かが貫き、灼ける様な衝撃。

「ガ────ッ!」

「──九郎ッ!?」

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

いや、はたしてこれを言って良いものかどうか。判断に迷う。
ティトゥスの剣閃を、直刀の切っ先で受け流しやり過ごす。
左手のグランドスラムは出待ち中。
只管に右の直刀で受け流す。
右へ左へ上へ下へ。
毒や呪詛の一つも込められていない鉄と鋼の刃が俺の衣服の端と皮膚の幾らかを切り裂く。
静とは真逆の躍動的な、野生の獣じみたがむしゃらな連戟。
が、どうしてか直刀一本で捌けてしまう。
残した左がやけに寒いぜ。

「っ!?」

空いていた左のグランドスラムで一閃。
ティトゥスは二刀の連戟を中断し、身を仰け反らせ回避。
データ通りの実力を持っているのであれば、十分に二刀で受けきれる一撃を、ギリギリの所で回避するだけにとどめた。
ティトゥス本人には当たっていないが、深編笠に深々と切れ目が走る。
炎に照らされ、亀裂の奥からティトゥスの素顔が僅かに覗く。
様々な感情が混ざり、ぎらぎらと耀くティトゥスの黒い瞳。

「なるほど」

ここまでのやり取りでわかったのだが、このティトゥスの戦い方には違和感がある。
確かに二刀流の剣士としてもそれなりの腕前を持っているのだが、身体の重心の置き方、体捌きが純粋な二刀流剣士のモノとは大分異なるのだ。
そして、笠の隙間から見えたTSティトゥスの素顔で納得がいった。

右の直刀を投げ捨て消滅させ、左のグランドスラムレプリカを正眼に構えなおす。
流派東方不敗の刀剣を扱う為の構えでもない。
京都神鳴流の構えでもなく、劒冑を纏う武者の剣術とも違う。
俺が知る中では限りなく真っ当な、それこそ元の世界にも存在する流派の構えだ。
現代では剣道にすら通じる、この流派での基本的な型。
名を『鶺鴒の構え』という。

「っ……」

打ち込む隙を探し、ゆらゆら、ゆらゆらと、鶺鴒(セキレイ)の尾の如く揺れる切っ先。
基礎の基礎にしか過ぎないその動きを見たティトゥスが一瞬身を撥ね、動揺する。

「正直に言いますと、この剣術は余り実戦で使用した事が無いもので」

精々が動作の確認として美鳥と幾度か模擬戦をしてみた程度。
だが、俺や美鳥の肉体で運用する為の調節自体は完了している。
データの提供元と比べても遜色の無い仕上がりになっている筈。
少なくとも、挑発するのには十分使えるだろう。

「折角の機会なので、一手ご指導願えますか? ……お遊びの我流二刀ではなく、お得意の『北辰一刀流』で、ね」

可能な限り慇懃な口調、更に誠意を欠片も感じられない形だけの誠実そうな笑みで告げる。
流派の名前を口にした瞬間、目の前に刀の切っ先。
首を傾け避けると、頭の脇を刀だけが通り過ぎて行った。
ティトゥスが刀を投げ捨てたのだ。

「……抜かせるか」

地の底から響く様な声。
構えるでもなく手に握られていた残りの一刀が、震える。

「抜かせるのか、拙者に」

ティトゥスの刀が、振動に耐えかねたかの様に砕け散った。
いや違う。これは物理的な作用がそうさせた訳では無い。
魔力か、気か、妖力だろうか、異常な圧力のそれが刀に流れ込み、内部からその存在を否定したのだ。
まるで『そこに居るべきはお前では無い』とでも言うかの様な、否定の意思を備えた霊的暴力。
刀身を失い、自らも汚らしい汚泥と化した刀の柄を持つ手を、ティトゥスは自らの眼前に掲げ、ぎりぎりと音を立てる程に握りしめる。

「やはり、やはりお主が、お前が、拙者に、私に抜かせるのか」

ぎし、と、歯が割れて軋む音。
ティトゥスの身体から、常人ならば近づいただけで狂死しかねない程の瘴気が噴出する。
全身から湧き出していた瘴気は、握りしめられたティトゥスの手の中に収束し、遂には質量を手に入れ、一つの形へと結実した。

「この、霊剣を!」

長さにして二尺三寸の打刀。
だが、その何の変哲も無さそうな鎬造りの一振りは、一言に刀というには、余りにも禍々し過ぎる霊気を漂わせている。
そう、霊気なのだ。
魔力でも妖気でも瘴気でもない、紛れも無い霊気。
どんな理由であのような姿になったかは想像もできない。
だが、あの姿になる前はそれこそ神仏に通ずるような、さぞ霊験あらたかな剣だったに違いない。

……ふと思い出すのは、武者番長風雲録。
あれ、ライバルキャラが同名の刀を使って無かったっけ?
完全に記憶から情報を引き出せる筈なのに、何故かその部分だけ記憶が曖昧だ。
元の世界に帰った時に確認しよう。

ともあれ、遂に本来の闘法である一刀流に切り替え、魔術師として振舞う上での縛りか何かから解放されたのか、荒々しくも見事に完成された構えを見せるTSティトゥス。
先ほどまでの、蘊・奥のデータとは比べ物にならない無様な不安定さはなりを潜め、むしろ本来のティトゥスよりも隙が無くなった。

刀を正眼に、鏡合わせの如く全く同じ鶺鴒の構え。
どうしてか俺に殺気を向け続けるティトゥスがこの構えに入った以上、ティトゥスにとってはここからが本番だ。
先ほどまでの片腕一本で相手をするような舐めプはもう不可能だろう。

後は大十字のピンチに大導師が帰還命令を出すのを、ティトゥスと真剣に真剣で戯れながら待てば、今日の俺のお仕事は終了だ。
前々から気になっていたTSティトゥスの正体にも近づけたし、偶には金持の家に招かれるのも悪くは無いかもしれない。
殺意にぎらつくティトゥスの視線を浴びながら、俺はそんな事を考えるのであった。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

「ごぶ……お、げ……」

瑠璃の目の前で、九郎は口から大量の血液を吐き出しながら、その場にうつぶせに倒れ伏した。
倒れた九郎の背中には、雑多に束ねられた刀剣類が突き刺さっている。
背に負った傷は深く、絨毯を染め上げてなお血溜まりを作る出血は、素人が一目見て致命傷と分かる程のものだ。

「九郎! 九郎! しっかりしろ九郎!…………!?」

それでもなお九郎の意識を取り戻そうと九郎の頬をぺちぺちと叩き続けるアルは、自らの小さな体を覆い隠す影に気付く。
見上げ、影の作り手に気付いたアルは驚愕する。
そして、怒りの宿った瞳でその相手を睨みつけた。

「汝ぇ……!」

「おほほほほ。勝ったと思った? 不意を突いて運良く殺せたと思えた? ざぁんねんねぇ」

ギロチンを出していたのとは反対側の腕から様々な刀剣を飛びださせた『ティベリウスの首から下』が、斬り落とされた自分の首を手に持ち、そこに立っていたのだ。
考えるまでも無く、異常だ。
何しろ首が切り離されている。
だというのに、ティベリウスの首から下はまるで何事も無かったかのように動き回り、首も繋がっていないのに喋っている。

「そうか、汝……」

「ふふっ、そうね、ま、今更説明が必要って訳じゃないでしょうけど、教えてあげる」

手にしていた自らの生首、その切断面を、胴体側の切断面と擦り合わせ接着する。
傷口を縫合する必要はない。
接着面の周辺に、まるで早回しの映像の如く蛆や糸蚯蚓に似た虫が湧き、傷口を塞いで元通りにしてしまったのだ。
完全に斬られる前の姿を取り戻したティベリウスの瞼が開き、瞳に輝きが戻る。

「御覧の通り、アタシってば一応不死身なのよ。この『妖蛆の秘密』の力でね」

鉄の表装に、びっしりと蛆虫を集らせた黒の大冊。
逆十字としてのティベリウスの力を支える魔導書。
ティベリウスは九郎の背中から刃物を引き抜き、袖に収める。
乱暴に引き抜かれたからだろうか、九郎の身体が大きく跳ね、出血の勢いが先ほどよりも強くなった。

「九郎!」

アルが、慌てて九郎の出血を止める様に傷口に近づいて行く。
もはやティベリウスの事も、覇道瑠璃の事も頭の中から抜け落ちてしまっているかの様な行動。
その健気な姿に僅かに好感を覚え、しかしティベリウスは同時に情けない話だとも考えていた。
如何に優れた魔導書とはいえ、主が未熟な魔術師見習いでは、直ぐに調子に乗って何もかもを台無しにしてしまう。
もはやマスターオブネクロノミコンは死に体だと判断し、再び瑠璃に歩み寄る。

「さぁ、瑠璃お坊ちゃまぁ」

甘ったるい声と表情でもって、瑠璃にしな垂れかかるティベリウス。
体重をかけ、倒れ込むようにして瑠璃を押し倒し、警備兵の破片が染み込んだ毛の長い絨毯の上に寝かしつける。

「お洋服をぉ、脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」

指先の動きが見えない早業でベルトを外し、するするとズボンとパンツを脱がしていく。

「や、やめろぉ!」

瑠璃も抵抗していない訳では無い。
だが、先ほど吸い込まされていた薬物と、更にティベリウスの呼気に含まれる霊薬の混じったアロマの効能で、思う様に身体を動かす事すらできない。
あっけなく下着から取り出され、外気にさらされる瑠璃のモノ。
大きく無く小さくなく、年頃の青年にしては酷く汚れの少ない、少年のそれとみまごう程にピュアな肉の色。
薬の効能か瑠璃の興奮か、それは半ば屹立し始め、硬さを持ち始めていた。

「あぁん、可愛いぃわぁ……」

ティベリウスの手が、赤子を撫でる手つきでソレに添えられる。
白魚の様な指が茎を軽く握り、しゅに、しゅに、と、優しく撫でさする。
その度に、堅さと熱を増していくのを、ティベリウスは掌でしっかりと感じ取っていた。

「あ、あ、あぅ」

局部への柔らかな刺激に、思春期の欲が抗える訳もなく、まるで少女の様に甲高く喉を鳴らす瑠璃。
身をよじり逃げるそぶりは完全に消え、無意識の内にではあるが、ティベリウスの手に擦りつける様に腰を押し付け始めてすらいる。

「もう、食べちゃいたいっ」

何時の間にか、男の象徴を慰撫しているのとは反対側の手で上着を首元まで広げられ、瑠璃は胸元を肌蹴させられていた。
ティベリウスは剥き出しの瑠璃の胸板に顔を寄せ、赤い舌を小さく突き出し、チロチロと瑠璃の乳首を舐め始める。
男性としては中々意識し辛い性感帯。

「ひぅ、は、は、は……~~!」

瑠璃の息が荒くなり、ティベリウスの手の中のモノが脈動する。

「さっすが、覇道財閥のお坊ちゃま、良い声で鳴いてくれちゃって」

ティベリウスは責めの勢いを決して緩めない。
口が胸を責めている間、片手は瑠璃のそれを握り上下し続け、もう片方の手は縦横無尽に瑠璃の肌の上を撫でまわし、あちこちの性感帯を開発し続けている。
執拗なティベリウスの責めに、瑠璃のモノはパンパンに腫れあがり、解き放たれる瞬間を今か今かと待ち続けるように脈動の感覚を短くしていく。

「ね、出したいの? 部下を一杯殺されちゃったのに、その相手にちょっと撫でられただけで、どびゅ、どぴゅぴゅって、出したくなっちゃうの?」

胸元から顔を除け、瑠璃の耳元に口を寄せたティベリウスが囁きかける。

「いいの、我慢しないで、いいっぱい出して。アタシの、女の子の綺麗な手に、瑠璃ちゃんのくっさぁいのでべちょべちょにしちゃいたいんでしょぉ」

甘い香りと、誘う様な囁き声。
既に理性的な部分の大半が活動を止めてしまった瑠璃の脳髄はしかし、僅かな帝王の矜持をもって、首を縦に振る事を許さなかった。
快楽に緩みそうになる顔を引き締め、キッ、とティベリウスを睨みつける瑠璃。

「んふ、良い顔ねぇ」

ちゅ、と瑠璃の頬についばむ様なキスをして、瑠璃を押し倒したまま僅かに立ちあがり、膝立ちになるティベリウス。
九郎が来る前に既に肌蹴られていたティベリウスの裸身。
抵抗すると決めた瑠璃の視線はしかし、自然とその全てを視界に収めようと眼球を動かし視線を滑らせる。
うっすらと生えた透き通るような黄金色の陰毛と、ここまでの好色なティベリウスの振る舞いからは考えられない、慎ましやかな陰部。
ごくり、と、瑠璃の喉が鳴るのを、片手で髪を掻き上げながら満足げに見下ろすティベリウス。
瑠璃の屹立した剛直を握ったままの手が握り方を変え、きゅむ、きゅむ、と、柔らかな皮の袋に包まれた二つの玉を掌で弄ぶ。

「うぁ……っ!」

僅かな痛みという刺激が加えられた新たな快感に、瑠璃は身を撥ねさせる。

「ね、瑠璃ちゃん。…………アタシのここに、入れたい?」

ココ、と言いながら、瑠璃の物を刺激し続けるのとは反対の手で、自らの其処を左右に開いてみせるティベリウス。
だが、今度は先程の様に返答を待たず、再び言葉を重ねる。

「さっき、『出したい』って言ってれば、死ぬまでここで出させてあげたんだけど……瑠璃ちゃんは反抗的だから」

くちゅり、という音と共に、ティベリウスは自らの陰部から、ファスナーの引き手の様な何かを摘まみ出す。
引き手の様な物ではなく、それは間違いなくファスナーの引き手だった。
ティベリウスがそれをじらす様な速度でゆっくりと上に引っ張ると、そのライン上の肌にうっすらと肌色のスライダー(開閉部分)と、それを構成するエレメント(務歯)が浮かび上がる。
金属製のファスナーと異なり、びち、びち、と、肉を引き離す音と共に開かれたティベリウスの下腹部、そこから──

「ひっ」

巨大な男性自身が、ぶるんっ、と勢いよく飛び出したのだ。
下腹部、いや、臍の上辺りまで広げられたファスナーから、かなりの柔軟性をもって撓る様にまろび出たそれは、ティベリウスの胸元を軽々と越えてそそり立っている。
形も尋常なものでは無い。
ギチギチと音を立てて柔らかい芋虫が縒り合されたかの様な、とても人と人の交わりに使用してはならない様な異形。
無数の蟲の頭の様な部分からは、絶えず黄色い半固形の汚物をひり出し続けている。

「これで、瑠璃ちゃんを後ろからしっかり躾けてあ・げ・る♪」

嗜虐に酔った表情のティベリウスが、瑠璃の脚の間に身体を割り込ませる。

「ひ、や、やめろ、嫌だ、嫌、嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁぁ!」

もはや、総帥としての仮面は剥ぎ取られ、反狂乱になって泣き叫ぶしかない。
身体を暴れさせようとする度に、手に掴まれた自らの物が強く、それこそ千切れんばかりに握りしめられて逃れる事すらできない。
そしてその抵抗は、ティベリウスの嗜虐心を半端に煽るだけで、瑠璃の意図するところとは逆の結果しかもたらさない。

「大丈夫よぉ。さっき貴方の部下のイケメンも捕まえたけど、最後には気持ち良くて声も出せなくなってたし。──カマ掘られて、ところてんみたいにみっともなくびゅるびゅる出しちゃいなさい」

「誰か! 誰か助、たしゅけ、助けてくれぇ!」

「大丈夫よぉ、これ、取り外しもできるんだから。後でちゃんと、お尻に入れたまま、アタシの中に入れさせてアゲル☆ そっちの方が起ちっ放しでいられてずぅっと気持ちくなれるのよぉ?」

瑠璃の恐怖を煽る様に、これから何を行うのかをじっくりと説明していくティベリウス。
その表情は、紛れもなく瑠璃への可虐を楽しんでいる真正のサディスト。
口調こそまだ造っているが、これこそがティベリウスの本性なのだ。
ことここにきて、ティベリウスのテンションは最高潮に達しようとしていた。

だからだろうか。

背後で九郎が幽鬼の如く立ち上がり、赤熱したバルザイの偃月刀を振りかぶったその事実に気が付く事が出来なかったのは。

──ひゆっ。

軽く、さしたる音も無く、しかし綺麗に空気を切り裂く鉄の速度は、ティベリウスの脳天から振り落とされ、頭蓋と脊椎を断ち割り、男性器を両断し、股の下まで綺麗に通り抜けた。
最初に状況の変化に気が付けたのは、一体誰だったのだろうか。
それとも、この時点では瑠璃もティベリウスも何が起きたか理解出来なかったか。
断面を焼き焦がし再生を阻害する熱刀は、ティベリウスを左右に両断し、僅かに地面をも焼いただけでは止まる事も無い。

──ちき。

振り下ろされた刃を上下逆さに反し、膝立ちしている片足を切断する。

──ず。

更に刃を返し、横からティベリウスの胴を叩き切る。
軌道上に存在した、瑠璃の弱点を握り揉みしだく腕をも立ち斬り、瑠璃を呪縛から解放する。
三太刀目で初めて、瑠璃とティベリウスが九郎の起こした行動の結果に気が付く。
早業だ。瑠璃もティベリウスもリアクションを取る暇が無い。
だが、瑠璃とティベリウスが気付いて何かをしようとするよりも早く、九郎は再び偃月刀をティベリウスの肉体目掛けて振り下ろす。
刃が通るたびにタンパク質が焦げる匂いが漂い、ティベリウスの肉体が細切れの肉片へと変化していく。

刃を振るう九郎の表情は、極めて冷静、冷徹とも取れる表情で、油断なくティベリウスの肉片を見つめ、間断なく刃を振るい続けている。
それは決して、雇い主を犯されそうになった事に対しての怒りだとか、人を弄ぶ事に喜びを感じるティベリウスへの怒りで立ち上がったというものではない。
背中の傷は深い。
出血も多い。
だというのに、激しい感情をよりどころにするでもなく、九郎はしっかりと二本の脚で立ちあがり、力強く刃を振るい続けている。
何故、何故そのような事が可能なのか。

……理由の程は至って簡単。
日々を『一日二乙三乙当たり前の修業』をこなしている九郎にとって、背中を刃物で突き刺されて出血多量、という状況は決して珍しくない。
この程度の事が出来なければ、逆十字が出てきた時に何をする暇もなくやられてしまう。
そう卓也に言われしごかれ続け、そんな卓也を見返す為にアルと共に造り上げていた魔術が存在する。
治癒魔術の応用による、一時的な肉体改造魔術だ。
これを施す事により一時的にではあるが、九郎は常人の数分の一程度の血液でも戦い続けられる身体を得る事ができる。
九郎は背中を刺された瞬間、反射的にこの卓也と美鳥を驚かせる為に組まれた魔術を自己防衛のために展開し、アルによる更なる肉体の細胞の賦活を待っていたのだ。
そして気が付くと、自分を刺した相手は間抜けにも此方に背を向け、非戦闘員に襲いかかろうとしている。
九郎にとって、これはまさに僥倖であった。

「っ、と。こんなもんでいいか。──アル」

攻撃回数、実に89回。
それだけの数の斬撃を浴び続けたティベリウスは、最早焼け焦げた肉の残骸だけを残すところとしていた。
タンパク質と様々な薬品が焼ける匂いだけが充満する室内で、九郎はようやっと偃月刀によるコンビネーションを停止する。

「おう! このまま外に放り出──跳べ!」

ティベリウスの残骸を邸の外に転送しようとしたアルが九郎に叫ぶ。
言われ、飛び退く九郎。
その次の瞬間、覇道邸の壁を粉砕し巨大な機械の手が侵入し、九郎達を握り潰さんと迫る。

「愚餓呼鳴呼ア!? 嘗ァメルナァァァァァァァァクソガキィィィィィィィィィッ!!」

無数の肉片が寄り集まり、無理矢理に人型にこじつけて再構成される。
そこに存在するのは金髪の美少女の姿ではなく、無数の肉片をより集めて造られた前衛芸術の如き屍肉の塊。
そして、その手の中には魔導書。
彼女の背後、機械の巨腕が空けた穴から垣間見えるのは、襤褸切れに身を包んだ鉄の巨人。

「まさか、これは!」

「鬼械神!?」

九郎とアルの目の前でティベリウスの死体が再びパーツ毎に分解し、一固まりの魚群の如く鬼械神の傍らに渦を巻く。
炭化した肉塊や未だ生の部分を残す肉塊、ティベリウスを構成するパーツが微粒子状に分解され、やがて再び人の形に収束を始める。
初めに幾つかの内蔵が構築され、それを特殊な形状の骨格が外枠を構築し、内蔵されていたと思しきギロチンや刀剣、人間には必要の無い生体器官などを組み込みながら筋肉を纏う。
剥き出しの筋肉を皮膚が覆い隠し、その裸身を覆い隠すかのように衣服が形成され、元の美少女の形へと再生された。
だが、先ほどまでとは異なり、ティベリウスはその美貌を怒りの感情に醜く歪めている。

「痛かった……痛かったわよぉ、大十字九郎! アンタには、とびきりキツイお灸を据えてあげる!」

ティベリウスが鬼械神の胸部コックピットに搭乗すると、鬼械神から放たれる気配が、より禍々しさを増す。

「暴食せよ! 『妖蛆の秘密』が鬼械神、ベルゼビュート!」

目の無い、乱喰い歯を剥き出しにした顔の鬼械神は、魔術師という自らの魂と合身することで命を吹き込まれ、重々しい駆動音と共に、再びその剛腕を振り上げた。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

逆十字が鬼械神の傍らで肉体を再構成する様を見届ける事なく、私は半裸の御曹司を肩に担ぎあげ、鋼鉄の指から逃れる様に部屋を飛び出した。
ウイングを翻し、そのまま元来たゾンビで溢れ返っていた廊下へと飛翔する。
外に出るかどうかで迷ったが、まずは御曹司を一旦安全な場所に預けなければ満足に戦う事も出来ない。
こちとらインスタントな魔術で血流量を調整し、傷口もアルの魔術で一応は塞いでいるとはいえ、背中から刃物で刺されている重症だ。
正直な話、周囲の被害を考えながら戦うなんて真似はしていられない。
私が真っ正直に背を向けて逃げ出すとは思っていなかったのか、逆十字の鬼械神は一瞬動き出すのが遅れている。
この隙に──

「! 大十字様、瑠璃お坊ちゃま!」

「ウィンフィールドさん、頼む!」

丁度最後のゾンビを撲殺し終えた所のウィンフィールドさんに向けて、私は減速する事なく御曹司をパス。
ウィンフィールドさんが御曹司をキャッチしたのを見届け即座に転身。

「GAAAAAAAAA!」

獣にも似た叫びと共に振るわれる鬼械神の拳が『私を』追いかけて屋敷を破壊する。
その拳を掻い潜り、再び壁と天井の破壊された執務室へと戻り、壊れた天井の隙間から空へと逃げる。
空高く飛翔し、逆十字の鬼械神の全身が見える高さまで。

「アル!」

血圧を上げる為に無駄に叫び、アルはそれに無言で頷く。
マギウススタイルに、機神招喚用の術式が展開された。
ここら辺はもうツーカーだ。

「憎悪の空より来たりて、正しき怒り胸に、我等は魔を断つ剣を執る!」

数度のページモンスターとの戦闘を経て、最適化された招喚用魔術。
周囲の魔術文字を手でなぞる事なく高速で読み取り、私は背後に虚数展開カタパルトによって転送されるデモンベインの気配を感じ取った。
コックピットへ入る手間も惜しみ、私は実体化中のデモンベインの中に飛び込み、コックピットの中であろう位置に身体を固定する。

「邪ッ!」

目の前に、ベルゼビュートの拳が迫った所で、デモンベインは完全のその姿を顕現した。
同時、魔術障壁の重ねられた両腕をクロスさせ、鋼の拳を受け止める。
衝撃。
魔導合金日緋色金製のデモンベインの装甲が、今まで聞いた事も無い、悲鳴の様な軋み声をあげる。
わかっていたつもりだったが、これが、本物の鬼械神の力か!

「インスタント魔術師風情が……生意気にも防いでんじゃねぇわよ!」

両腕をクロスさせたままの状態で後ろに弾き飛ばされるデモンベイン。
そのデモンベイン目掛け、ベルゼビュートはその口から何かの液体が発射される。

「ティマイオス! クリティアス!」

咄嗟に断鎖術式を起動し、吹き飛ばされた方向に大きく距離を取る。
かわし切れずに液体を浴びたデモンベインの装甲が煙を上げて腐食する。
酸か!
下手に正面から向かうのは危険だ。
ニトクリスの鏡を展開し、デモンベインの幻影でベルゼビュートを幻惑する。

「こんな小手先、通じる訳がないでしょうが! つまんないのよ! アンタ!」

が、ベルゼビュートから放たれた何かはデモンベインの姿を写した鏡を断ち割り、その背後で姿を消していたデモンベイン本体を正確に捉えた。
これは、ベルゼビュートの纏っているローブ!?

「がああああああああああっ!」

同時、絡み付いた布を通じて、高圧電流を流されたかの様な衝撃がデモンベインを襲う。
生半可な電撃ではびくともしないデモンベインの魔術回路が一斉にエラーを吐き出し、デモンベインの動きを封じる。
これは、ウイルスか!

「バッドトリップワイン! ざまぁないわね、これで止めよ!」

ベルゼルートが両手を翳し、掌と掌の間に光球が発生する。
光球は瞬く間に輝きを増し、地上の太陽の如く周囲の大気を燃やし始める。

「まさか、あれは! クトゥグアの力か!?」

「なんだって!?」

てことは、まさか!
記述が連中の手に落ちてるってか!?

「なぁにを驚いてんのよ、こっちは魔術結社やってんのよ? こんなチリ紙集め、新人の下っ端魔術師だって簡単にこなしてるわ!」

一瞬、ベルゼビュートの掌の光球の中に、見覚えのある魔術の気配を感じ取る。
これまで相手にしてきたページモンスターや、アルに近いパターン。
そして、アルもそれを感じ取ったという事は、ほぼ間違いないとみても良いだろう。

「見習いの癖によくもまぁここまで仕出かしてくれたわね。ご褒美代りに、本体、喰らわせてあげるわ!」

掌の中で収束していた光球が輝きを増し、遂にはその形を崩し、裂光を放つ炎となる。
炎の周囲には無数の光球が産まれ、それらも纏めて炎の中に呑み込まれていく。

炎の神性、旧支配者クトゥグア、聞いた事がある。
フォマルハウト星に住まう炎の神性で、炎そのものという肉体を持つその性質から、俗に生ける太陽とも呼ばれているという。

「あの記述を用いて造られたという事は、あの炎はプラズマと化す程の高温の炎。いかんぞ九郎」

確かに、まともに食らえばひとたまりも無い。
いや、この場を離脱する術があっても無事では済まないだろう。

「何をしている!? 今の我々にあれをどうにかする力は無い! 逃げるのだ!」

逃げる? 馬鹿を言うな。
ここで逃げたとして、無事に済むという保証が何処にあるのか。逃げきれるという保証が何処にあるのか。
デモンベインはまだ本調子ではない。さっき喰らったウイルス攻撃がまだ尾を引いている
デモンベインの体内を流れる水銀が浄化し、僅かに動けるようにはなっているが、それでも本調子の真の鬼械神相手に逃げきれるような脚は出ない。

そしてさらに、私は背に負う覇道邸を意識する。
ここで私が逃げたら、覇道邸は消滅する。
ウィンフィールドさん、執事のみんな、御曹司。
知り合って間もない人達ばかりだけど、私はこのうちの誰にも死んでほしくない。

「卓也も戦ってるんだ。──私だけ逃げるなんて、してられるか!」

そして、私を通す為に一人逆十字相手に足止めを買って出た卓也。
ここで私が引いたら、卓也もクトゥグアに焼かれて死ぬ。
それだけは、先輩として、後輩を見捨てるなんてできる筈がない。
友達を見捨てるなんて、できる訳が無いんだ。

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふたぐん いあ! くとぅぐあ!」

解き放たれる必殺の閃光。
迫りくる超々高熱の顎を前に、私はデモンベイン用のバルザイの偃月刀を鍛造し、構える。

「馬鹿な真似はやめろ九郎! 無茶だ!」

なるほど、プラズマ体に、偃月刀一本で立ち向かうのは無茶だろう。
だが、魔術師はこの世の道理を暴論で押しのけて無茶を通す存在だ。

研ぎ澄ます。
研ぎ澄ます。
研ぎ澄ます。

そうだ、今までだってこの感覚はあった筈だ。
修行中に首を撥ねられそうになった時。
蜘蛛男の呪縛から逃れ反撃を始めた時。
修行中に全身を焼かれた時。
修行中にハチの巣にされかけた時。

世界の全てを把握する。
思考を疾走させ、魔術を、世界を、理論を、力を。
認識せよ。

魔術的な儀式が施された魔法の杖とはいえ、所詮は金属の塊でしか無いバルザイの偃月刀。
その偃月刀で、プラズマの塊を切り裂く事は出来るのか?
凄腕の魔術師が使用している記述を、発動中に再構成し直す事が出来るのか?

奔れ。
奔れ。
奔れ。

肉体を離れた魂で宇宙を疾走し、世界法則に脚を踏み入れれば。
視える。視える。視える。
私にはそれを視覚化する事が出来る。
迫るプラズマ体の内部に、魔術構成の中枢を。

故に、
金属の塊でしか無いバルザイの偃月刀で、プラズマの塊を切り裂く事が、
凄腕の魔術師が使用している記述を、発動中に再構成し直す事が、

出来る。
出来るのだ。

「斬れろ!」

思考すら超越し、私の偃月刀は疾走した。
瞬間、世界が凍結し──

「──────!?」

「ば、馬鹿な!」

風に舞う魔導書の紙片。
構成を断ち切られてあるべき姿に戻ったアルの断片。
敵は動揺している。
好機。いや、今こそが唯一と言ってもいい勝機!
偃月刀の返す刃で斬撃波を放つ。
プラズマ体を挟んで対面、ベルゼビュートへ!

「くぅぅぅぅぅぅ!」

ほんの僅かに、ベルゼビュートの動きが速かった。
ベルゼビュートは身を捻りこれを回避し、偃月刀の生み出した衝撃波はベルゼビュートの腕を一本斬り落とすに留まった。
しくじったか……。

「アル、回収できたか?」

「あ、ああ、だが、この戦闘中に使えるかどうかは……」

「いや、それはいい。あっても使えるかどうかわかんねぇし」

そもそも、今のだってベルゼビュートが十分なためを作って本体を撃ってきたからできた芸当だったのだ。
仮に記述を手放さずに、小さな光球だけを連続して撃たれていたら。
そして、彼我の戦力差は相手がクトゥグアを失った事を鑑みても圧倒的だ。
さっきの一撃で仕留められなかったのは痛いな……。

「餓嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼っっ!この糞アマっ! 一度ならず二度までも私に屈辱を!」

激昂している。
だが、例え相手が限界まで冷静さを失っていたとして、此方に勝ちの目は無いに等しい。
どうするべきか、そう考えていると、ベルゼビュートからティベリウスの叫び声が聞こえてきた。

「────の餓鬼はアタシがこの手で……! それに瑠璃ちゃんだってまだ」

この場に居ない何者かとの通信か?
私達がデモンベインで油断なく構えている間にも、どうやらあちらさんでは何やら話が進んでいるらしい。
攻め込めるなら攻め込むべきなのだろうが、言い争っているにも関わらずベルゼビュートには全くと言って良いほど隙が見当たらなかった。

……しばらくして、ベルゼビュートの足元に影が広がり、その中にゆっくりとベルゼビュートが身体を沈ませていく。

「覚えてなさい大十字九郎! 今度会ったら、アンタに生き地獄を味わわせてやるわ! いっそ殺してとお願いしたくなるくらいのをねぇ!」

もはや御曹司を嬲っていた時の女性らしさをかなぐり捨てた捨てゼリフ。
ベルゼビュートが陰に完全に沈みこみ、完全にこの場から消え失せた。
陽は完全に沈み、夜の藍に染まっていた。
逢魔ヶ時は、終わったのだ。

―――――――――――――――――――

デモンベインのコックピットから出て、外の空気を吸う。
近くで覇道邸がまだ燃え続けているのもあり、冷たい夜の空気とはいかないが、新鮮な空気を腹いっぱい吸い込むと、先までの緊張が解れていくのを感じる。
デモンベインの胸部から下を見下ろすと、丁度卓也が覇道邸から出てくるところだった。
私はウィングを展開し、大きく羽ばたきながら地面に降り立ち、卓也に駆け寄る。

「いや、どうにかこうにか乗り切りましたね」

軽く片手を上げて私に声をかける卓也は、少なくとも表面上大きな怪我をしている風では無い。
服のあちこちに裂傷が出来ているが、それも全て皮一枚とまでは言わないまでも、神経や筋、筋肉などに達するものでは無いのは見て直ぐにわかった。

「無事だったか、良かった……」

ほっと溜息を吐く。
卓也がここに来たという事は、もう一人の逆十字、ティトゥスもあの逆十字と同じく撤退したということなのだろう。
心配事がひと先ず無くなったからだろうか、どっと疲れが押し寄せてきた。
脚から力が抜け、ふらりとバランスを崩す。
意識が朦朧とし始めているという事だけが、嫌に重くなり始めた頭で理解できる唯一の事だ。
マギウススタイルが解除される。
魔術で一時的に改造されていた肉体が正常な活動を開始し、刺された痛みがぶり返してくる。
しかし今の私の身体には圧倒的に血液が足りず、もはや痛みだけでは意識を保つ事すら難しい。
視界が暗くなり、そのまま、ぐら、と倒れ込む。
が、私の身体は地面に激突する事も無く、ぼす、と卓也に受け止められた。
……年頃の女子として見たら酷く無防備な状態なんだけど、今はもう、どうでもいい。
卓也もこの状況で唐突に出来心を起こしたりはしない筈。
このまま何時も通り、身体の治療の方も任せてしまおう。
このくらいの傷、こいつなら痕も残さないだろうし、足りない血液を増やされた事もあった。
これで助からなかったら、本格的に運の問題だ。その後の人生を諦めるしかないレベルで。
頭に掌の温かい感触。
炎の熱でも鉄の冷たさでもない温度に、自然と頬が緩むのを感じる。

「今日は意外に頑張りましたね、先輩。お疲れ様でした。ゆっくりと休んでください」

何時になく優しいねぎらいの言葉。
──意外にってなんだ、意外にって。
そう思いつつも口には出さず、私は完全に意識を手放した。





続く
―――――――――――――――――――

覇道邸に行く→待合室で駄弁る→逆十字襲来→戦闘→ティベリウスさん絶好調→戦闘→撤退。
こんな簡単な流れなのに、無駄に容量がかさんでしまった第六十三話をお届けしました。

本当になんでこんな事になったのか……。
いや、マジで今回そんな感じの話でしか無いですよね。
これ言っちゃなんですけど、戦闘メイン過ぎて何時もより更にコメし辛い様な話でしょう?
戦闘シーンとシリアスは受けない、ってのはよくよく理解してるつもりではあるんですが、話の展開上中々省けないというか。
ぶっちゃけティベリウスちゃんを大活躍させる為に書いたってのもあるにはあるんですが。


そんなもやもやした感覚を残しつつ、多分だいぶ久しぶりな自問自答コーナー。

Q,大十字の貧乏レベルが下がってね?
A,定期収入で狩猟民族からは卒業できました。

Q,なんで瑠璃お坊ちゃまの回想シーンが盛大に省かれてんですかー。
A,過去にとらわれてはいけません。ていうか正直瑠璃お坊ちゃん、TSティベリウスに逆レされかかるシーンを書く為に出したようなものですので。

Q,ウィンフィールドさんを魔改造するとか絶対に許さないよ!
A,実はあまり魔改造している訳でも無いですよ。『撲針愚』の由来とか無茶苦茶だけど意味は通ってるっていうか。

Q,ボクシンググローブにそんな機能はねぇ!
A,秘拳伝キラというバトル漫画が存在していてですね……。

Q,ティトゥス……いったい何処のスタアなんだ……。
A,清純派の悪落ちって楽しいですよね! ちなみに浪漫の嵐の代わりに血風が巻き起こります。

Q,首から上が吹き飛んだ警備兵の死体ってもしかして。
A,ケツに突っ込まれる→ティベリウス発射→余りの勢いに大腸の上辺りから吹き飛ぶ→出来上がり。

Q,このティベリウスは流石にアウトだろ。
A,直接的な単語が無いので何時も通りセフセフ。しゅにしゅにとか可愛い擬音じゃないですか。

Q,たしゅけ!
A,精一杯のアヘ。因みにビジュアルは九朔と足利邦氏を足して可愛くない部分を差っ引いた感じでほぼ間違いなしです。どうせ今後描写ないし。

Q,ティベリウスさんの口調が安定してなくね?
A,瑠璃お坊ちゃまにイケナイイタヅラしてる時の口調はロールプレイ。そう、エロール。
【】の中は中の人会話専用って事で。
素の喋りは元のティベリウスとかわりありません。


年内にもう一本投稿できるかどうかってところですが、次は早めに出せると思います。
戦闘シーンとか無駄な部分は積極的に省きますし。
むしろ戦闘シーン以外がメインシナリオなんですよげっへっへ。

それでは、今回もここまで。
当SSでは、誤字脱字の指摘に即座にできる文章の改善案や矛盾している設定への突っ込みに諸々諸々のアドバイス、そしてなにより、このSSを読んでみての感想など、心からお待ちしております。







リゾート目的の開発により自然破壊が進むインスマンス。
この土地で起こっている連続失踪事件の謎を追い、大十字達は調査に乗り出した。
水着で。
球転自在の自動防御スイカに、遂にリューカとウィンフィールドの合体攻撃が炸裂する。

次回、第六十四話

『魔導大学生大十字九郎の事件簿・⑥ リゾート開発の進む港町で巻き起こる怪事
件。調査に乗り出した九郎が直面する海からの脅威。沈没した船から流れ着いた先
に待つ謎の古代遺跡で巻き起こるアクシデントとは』

お楽しみに。


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